問1
(ア)文脈把握を要求する問題。傍線部を含む文を分析すれば、「私はあの時、…もう一つの安易な声を聞いたことを…いつも恥ずかしく思っている」とあるので、「安易な声を聞」くという行為は、「あの時」私が行った「恥ずかし」い行為のはずである。さらに「もう一つの」という追加表現もある。これを直前の「生活のためにこの光への執着を少しずつ失ってしまった」「その代償として今、…余裕ある金を得ることができた」という内容とリンクさせれば、「この光への執着(=芸術作品を作りたいという思い)」を「失」い、「生活」の安定を目指して「金を得」るようになったというのが「安易な声を聞いた」ということであろう。ちなみに、こうした「生活←→この光への執着」という対比が把握出来ていれば、傍線部の直前の「片半分の囁き」が「この光への執着」のほうに対応することも分かるであろう。いずれにせよ、こうした理解を踏まえれば、④が答え。
(イ)「たむろする=寄り集まる」であるから、②が答え。
(ウ)「償う」という言葉は、基本的には「損失/罪などを補う」という意味である。つまり傍線部は「得失/罪などが補われなくても」と置き換えられる。それを踏まえて選択肢を見てみても、どれも方向性が大体同じであり、また、内容が辞書的な意味よりもいっそう具体的に書かれている。このことから「文脈把握」を要求する問題であることにまずは気付きたい。それを踏まえて文脈を確認すると、「生きることって結果ではないじゃないの」という表現が直前にあり、この発言をした人が「結果」というものを重視していないことが読み取れる。このことから、傍線部は(各選択肢に「~が得られなくても」という表現が共通しているのでこれに合わせると)「結果が得られなくても」といった意味になるだろう。以上を踏まえれば、「成果が得られなくても」と書かれた⑤が答え。
問2
出題者の意図をよく考えること。「『木彫の基督の死顔』を『喪った』」というのがかなりレトリカルな表現になっているのだから、これを「一般的」な説明に直してほしい、というのが設問の要求であろう。その上で根拠拾いに入る。そうすると、「喪った」という話題はこの傍線部で初めて出てきたのだから、傍線部の後方に説明が来ると予測して読んでいく。そうすると、次の段落の第2文で「失ってしまった」という、「喪った」との相同表現が見られるので、このあたりを精査すれば、「この光への執着(=この木彫のように眼を射る光の発するものを自分も創りたいという思い)を少しずつ失ってしまった」という内容が確認出来る。以上より、「木彫の基督の死顔」のような芸術作品を自分も「創りたい」という気持ちがあって、それを失った、という内容を踏まえた選択肢を探せば、④が答え。
問3
傍線部には「要するに」という直前内容の換言を導く接続語があり、しかも「こんな」という指示語があるのだから、直前を押さえていくことになる。そこで「妹の部屋は」の箇所から傍線部直前までを改めて読み、ポイントを抽出していく(具体例をカットすることがポイント)と、
「妹の部屋は暗く、寒く、小さかった」
=「これは巴里でもっとも貧しい人々が住む屋根裏部屋」
↓
「あわれだった」
という流れが確認出来る。心情説明問題では、心情が明示されおらず「発言」「行動」「情景」などから心情を読み取ることが多いのだが、今回は「あわれ」という心情が明示されているので確実に拾わねばならない。以上を踏まえ、「貧しい→あわれ」という内容を踏まえている選択肢を探せば、①が答え。
問4
「周囲をもう一度みまわした」という行動の理由を探る問題である。小説なので、「~ので」という形で直接理由が明示されることは少ないが、理由なき行動というのは存在しないのだから、そのことを念頭に根拠拾いをしていきたい。そうすると、この行動をとった「きっかけ」が直前にあるはずだから、そこを参照すると、妹が「レーベジェフさん」という「先生」のことを「私」に伝える中で、「日本で彼に教えて頂いているのは私一人よ」(ポイントa)と発言している。少なくともこの発言がきっかけとなって傍線部の行動がもたらされたことは間違いないので、まずはここを根拠として拾う。
そして、次にやるべき作業は、「周囲をみまわした」ことの意味の把握である。それが分かれば、「私」が「妹」の発言をどう受け取ったかも見えてくるのではないか。そこで傍線部の後方から(具体例を削って)ポイントを拾うと「どれもこれも巴里のなかで自分だけは才能があると思い、沈んでいく連中だ。妹も、この異国の都会でその一人になろうとしている」とある。ここで初めて完全な理解が出来る。すなわち、
「私」は、「妹」の発言から「妹」が自分の「才能」を誇っていることを感じた
↓
(周囲の人々も妹と同じなのか、という疑問に至る)
↓
周囲を見渡した
↓
予想通り、みな自分の「才能」に慢心している人たちばかりであったことが確認出来た
という流れだったのである。以上を踏まえて、「自分の才能に慢心する妹が、周囲の人々と同じであることを確認したかったから」という趣旨で書かれた選択肢を探せば、③が答え。
問5
なぜ「私」が「妹の言っていることは半分正しい」と考えているのか、という設問要求であるから、「妹の言い分に対して、こう反駁したくなる一方で、ここは認めざるを得ないから」という形で答えてあげれば良い。とすれば、「妹の言っていること」の内容を把握し、さらに、妹の言い分のうち「認めざるを得ない」点が何かを特定すれば良い。すると、「妹の言っていること」とは、当然「ボーちゃんはなにか報われなければ嫌だったんでしょう」(a)という内容である。これに対して私は、「いや、報われなくても良かった」と反論したい一方、「半分は正しい」と認めているわけである。ではその「半分」は何かと言えば、傍線部の直後を読めば、「それ(=「この街に一人で止まるべきだ」という囁き)に耳を塞いだ私はあの中世美術館の基督の死顔を喪い、そのかわりにこのトゥイードのコートをえた」(b)と述べられており、これは言わば、妹の主張への譲歩と言える内容であるから、「半分は正しい」の「半分」に相当する内容と言えるだろう。この方向性を踏まえているものを選択肢に求めれば、②が答え。
問6
「芸術の世界」に対する考え方は本文中に明示されており、その箇所は、
①「真剣だからといって【この残酷な世界】だけはどうにもなるものではない」
②懸命になったり誠実に生きても、【芸術の残酷な世界】では立派なものを生むとは限らない
の2箇所であり、どちらも同内容なのでポイントとしては1つしかない。このポイントを踏まえて選択肢をチェックすれば、④が答え。
最終更新:2023年11月27日 02:41