田辺聖子

ジョゼと虎と魚たち


 映画化されたのを覚えていて、ふと見つけたので手に取りました。田辺聖子さんは有名ですが、恐らく私は初めて。
 さて内容ですが、短編集でした。短編の方が映画にし易いのかなぁ。全編通して関西弁。そりゃもうコッテコテの関西弁。まぁ私は分かるからいいんですけど、ネイティブ関西人じゃない人は読みにくないんかなぁ。
 私が好んで読む本は、オチがあるものが多い。どんでん返しとか、オチとか、ひねったラストとか「してやられた」と思えるような細工がそりゃもう好きである。だからそうではない宮本輝や小川洋子「妊娠カレンダー」や内田康夫は、読むには読むけどそこまで熱狂はできなかった。それを踏まえて。
 この本は面白かった。前述と同じようにオチはない。オチの手前まで持って行ってるように思うのに、その高揚感のまま終わる。毎回「え、終わんの?」って思う。何かが起きるような予感がしているのに、肩透かしである。それでもなんだかワクワクした。
 とってもお勧めなのではあるが、これは女性限定かもしれない。なんとなーくだけど男性は、それも若い男性は受け付けない、もしくは受け付けて欲しくないような気がする。女が持っている本性のようなもの、決して男には見せないようなところ、狐と狸の化かし合いを片側の陣地から眺めているような、そんな感じ。敵に舞台裏は見て欲しくない、でも味方とはその共犯者気分を分かち合いたい。見て欲しくないっていうのは「騙されとけ」て意味じゃなくて、この本に描かれているのは舞台裏事情のほんの一部に過ぎないんだけれど、敵が見た場合それが全てだと思われちゃ困るから見て欲しくない。女なら「これが全てとちゃうけど、こういう気持ちもあるよね」って分かるけど、そうじゃない人に「女とはこういうものだ」って悟ったようなことを言われると「はぁん?」って思ってしまいそうだから。
 内容に戻りますが、短編は全部で八つ。以下私の覚書用に記述します。「お茶が熱くてのめません(昔の男が落ちぶれて尋ねてきた)」「うすうす知ってた(夢見がちな長女が次女の結婚話に浮き立つ)」「恋の棺(甥っ子が可愛い)」「それだけのこと(チキという人形を通してお話をする)」「荷造りはもうすませて(夫はバツイチ子持ち)」「いけどられて(離婚する夫にお弁当を作る)」「ジョゼと虎と魚たち(下半身が動かないジョゼの恋)」「男たちはマフィンが嫌い(仕事大好きな恋人を別荘で待つ)」「雪の降るまで(地味な中年女性が実は百戦錬磨)」
 どれが好きかって聞かれたら、どれも好きではない。でもどれが一番共感できたかって聞かれたら、「うすうす~」「恋の棺」「それだけ~」かな。とくに「うすうす~」はなんかもう痒くなりました。昔のポエムを目の前で朗読されている気分。いえ、そんな妹の彼氏にどうのこうのっていうシチュエーションがあったわけではないけれど、主人公のぼんやり感が身に覚えがあるだけに痛かった。他のも全部そう。似通ったシチュエーションなんて知らないのに、全部共感できる。私が理解できない女は、この本の中にはいませんでした。純粋でしたたかで薄情で情の強い夢見がちな可愛い女。その形容詞が矛盾なく受け入れられる。
 なんだか大絶賛しているような気になってきましたが、転げまわるほど面白いわけではないです。なんだろう、ニヤニヤしちゃうような、そんな本でした。
 「ジョゼ~」の映画は見てないけど、どんな映画だったのだろう。とても短いお話で、いろんなシーンを足さないといけないんじゃなかったのかな。
 全然関係ないけど、この本の解説は山田詠美でした。「風味絶佳」読んだ直後だったので、なんだかシンクロニシティ。
(2007/09/04)

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最終更新:2007年09月05日 00:00
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