TONO

チキタ★GUGU






 初めて読む人の本。人に借りたのだけど、どうにも心に残ってもう一度お願いして貸してもらった。可愛い、あっさりした四コマのような絵なのだけれど、すごく考えてしまうお話だった。まさか自分が号泣するとは思わなかった。
 人間の中には妖怪にとって猛毒である「まずい人間」がいる。チキタという少年はその性質のため、妖怪に襲われた家族の中でたった一人生き残ってしまった。腹いせにそのラー・ラム・デラルという妖怪は、チキタを育てることにする。「まずい人間」と100年一緒に過ごすと、大変美味になるのだそうだ。ラーは力はあるのにまるで赤ん坊のようで、チキタが健やかに成長するため(健全に育てないと100年生きないから)に、試行錯誤を繰り返す。チキタはチキタで、家族を殺されたのにラーを心底憎むことができず戸惑いながら生活していく。
 可愛い絵柄なのに描いてある絵はえぐく、リアル描写じゃないだけましなんだけど、ほんわかしたお話だと思って読みだしたので最初ちょっと嫌いになった。でも中盤から「すごく深いことを描いているんだけど、それがうまく読み出せなくてもどかしい」感覚をずっと味わっていて、そのままはっきりわからないままラスト泣けて泣けてしょうがなかった。今回再度借りて読んでもやっぱりはっきりとは分らない、もどかしいままで、それでも深く深く心を揺り動かしているような気がする。
 読むなら是非一気に読んで、そして自分がなんで泣いてるのか分らないのに、なぜか泣けるこの感覚を味わってほしいなぁと思う。

 ここから先はネタバレです。
 最初は登場人物がよく分らなくてイライラして嫌いだった。ラーなんてやたら見た目が変わっちゃうし。でも一回目借りたときの最終巻前半くらいからもう涙が止まらなくて、しゃくりあげながら読んだ。今読み返すと割と落ち着いては読めるけど、やっぱり同じ所で泣ける。
 ・鳥の妖怪が自分の子供を人間に殺された復讐に、自身も傷だらけになりながらも人間の赤ん坊をさらう。事情を聞いたチキタがぼろぼろの鳥を見て「いたましい」と思ったとき、鳥は「もう死んでもいい」と命を失った。
 ・人間のせいで体に毒が染み込み、周囲にまき散らしてしまう熊の妖怪シャルボンヌは、意気投合した陽気な家族も自分のせいで殺してしまい、「これからもずっとこうなんだ」と気づくと「もういいや」と言って死んでしまう。シャルボンヌは夫婦が自分を気に入ってくれたことが嬉しくて、ただ一緒にいただけなのに。「おまえのせいじゃないんだよ」と言ったチキタの声は届いていたのか。シャルボンヌが人間を憎かったのか恋しかったのか、もう誰にも分らない。切ない。こういう無垢な存在が傷ついちゃうのには弱い。

 と、この調子でいくともう一度全巻読み直さなきゃいけなくなってしまうので(あやうく読み出してしまった)、このへんでやめとく。あとはニッケルがラーを怖がらなくなったところとか、ラーは最初本当に赤ん坊のようで良心のかけらもなかったのに、チキタという大切なものができてから悪いことができなくなってしまっていくところとか、思いつめたクリップがオルグのために過ちに手を染めるところとか、ラーがチキタ以外にニッケル、そしてバランスやシャンシャンを大切に思いだしていく過程とか、ラーが今までの自分を振り返り静かな気持ちで最後の日を迎えるところとか、あぁたくさんになってしまったけど、本当に心を鷲掴みにされる。「俺はまだめをあけることができない」というページは最高潮で、思い出しただけも泣ける。
 やっぱり買おうかな。なんだかとても大切なことを描いているような気がする。未だに何が琴線に触れたのか、どこにこんな魅力を感じているのか分らないけど、買いであるような気がする。あまり本屋では見かけないので、誰か読んだ人がいたらぜひ感想を教えてほしいなぁ。
(2009/11/29)

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最終更新:2009年11月30日 01:35
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