紅玉いづき

雪蟷螂


 胸が一杯になった。綺麗で激しくて切ないお話。あーもう私この人の話好きだ、三作読んで確信する。大好きだ。
 題名は「ゆきかまきり」と読む。少しずつ読もうと思っていたけど、やめられなくて結局一気に読んでしまった。でも読み飛ばしたわけじゃなく、私にしては丁寧に読んだと思う。「面白い」とかじゃなくて、「好き」だ。この本が、絵も文も作者さんも含めて丸ごと好き。
 冬が厳しい山脈に住み、戦いを好むフェルビエ族とミルデ族。長年の争いに終止符を打つべく、族長同士の婚姻が予定されている。敵対していた部族同士、感情はそうすんなり受け入れられるはずもなく、影武者兼侍女のルイと近衛兵トーチカを伴ってミルデへ来たフェルビエ族長アルテシアに、ミルデ族長オウガは敵意丸出しだ。幼い頃から婚姻を言い含められてきたアルテシアにはその覚悟はあるが、オウガはいっそ婚姻がなくなっても良いとすら思われるような行動を取る。
 登場人物は皆どこか偏っている。アルテシアは感情の起伏が薄い。ルイとトーチカは盲目とも言える程のアルテシアへ傾倒。オウガの暴力的な敵意(まー理由はあるんだけど)。魔女の得体の知れなさ。不完全な人達の、不器用なお話。
 この本はライトノベルで挿絵が入ってます。カラーのイラストもあってそれも美麗です。今回は特に、神がかり的な場所に神がかり的な挿絵が入って、脱帽、敬服。私は表現媒体としては漫画が一歩抜きん出ている思ってた。勿論小説も映画もそれでしかできないことがあるけど、ある程度の映像を絵で、言葉を字で表現できる漫画は、今のところ一番だと思っている。
 で も 。で!も!。
 話に夢中になっている時の私は挿絵が目に入らない(実際二回目読んだら意外とイラストが多く入っていることに驚いた)。そんな時唐突に見開きの挿絵がどーんと出てくる。その挿絵が見事に脳内映像と読んでいた物語とがマッチして、相乗効果というか、補足説明というか、なんかもうね、挿絵と活字レイアウトの調整がややこしかったとしても、絶対その価値はあったよ少なくとも私には!っていろんなこと考えた。挿絵ってこんな風に本編に影響するんか!って衝撃だった。
 他にも好きな点はたくさんあるけど、その挿絵の印象が一番大きい。紅玉いづきが好きな人は、躊躇せず読んだら良いと思う。
 この本は「人喰い」シリーズの三作目で「食べたい」という表現がよく出てくる。でも、他の二作とはちょっと毛色が違う気がした。大好きなのは変わらないけど。ミミズクとかは「食う」とあってもあまり直接的でないというか、一番とっつきやすいかなぁと思う。雪蟷螂は感情表現も含めて「激しい」気がする。どっちかって言うと、女性の方が共感を得そう。
 後で書くけど、ストーリーとしては疑問に思うところがないでもない。でもそれも飲み込んで、なんかものすごく好きなのだ。あー好きな作者見つけた!って本当に嬉しい。

 ここから先はネタバレです。
 恋愛物としては、ルイはそれでいいの?と思うし、アルテシアとトーチカは結局どうなんだ、とか納得しづらいところもある。確かにオウガは誠実なのだろうし、どちらかといえばルイの方があっているのだろう。ありがちな恋愛を描きたかったわけではないのかなーとも思うし、ルイは最初から一貫してアルテシアの幸せを祈っていたから、全くずれがなくそれと己の幸せが重なり合うのならそれでいいんだけど……。ちらっとでもルイがオウガに恋心を抱いた描写があれば納得いったかもしれないのに、それはそれでルイでないような気もするし。
 なので、「恋愛」という点ではロージアとガルヤが突き抜けていたと感じる。激しすぎる感情。たった一度の、しかも口付けとかならまだしも、ただ布越しの手が一瞬かすった位の接触。ページをめくった時の見開きの手だけの挿絵。やられました。この瞬間が二人が一番近づいた最初で最後の一瞬だった。そこから、ロージアは鍵を、ガルヤはロージアの腕を、後生大事にしていたのだろうと思うと泣けた。激しくて強すぎて、同情でも憧れでもない感情が湧いて出た。時が時なら、結ばれるのは娘と息子ではなく、ロージアとガルヤだったのにと魔女に話すロージアの兄が切ない。強く激しく誇り高く生きてきた人間の、不器用な表現。生のその最後位は共にと、ガルヤを盗み出したロージアの美しい最期(ここでもイラストが!)。
 そう考えると、アルテシアが一番共感を覚えられない主人公だった。分かり合えないってなんで剣を振るう!なぜぼろ雑巾のようだったトーチカに生涯に一度の想いを抱く?ルイの気持ちを本当に分かっている(ルイはそれを望まないだろうけど)?嫌いではないけど他のキャラに比べると、印象が薄い。
 あーでもそんなこんなをひっくるめても、大好き!と思えました。次回作も期待!
(2009/05/10)

MAMA

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 2作目。1作目が真正面から感動したので、今回も期待して読む。
 期待は裏切られず、やはり正面から感動した。なんか泣いたの久しぶりな気がするよ。泣かんとこと思ってたのに。
 魔力を持つ一族に生まれた少女トトは、その血筋にも関わらず学校では落ちこぼれ。ある日母親と衝突したトトは、封印されていた人喰いの魔物を解き放ってしまう。自らの耳と引き換えに魔物を使い魔としたトトは幼さからか、魔物の恐ろしさに震えるよりも、ホーイチと名づけた魔物を保護する存在、ママになろうとする。
 見た目には幼い二人がやがて愛し合う話かと思いきや、そうでもなかった。MAMAという題名の通り、二人の間に恋愛感情は存在しないみたい。だけど、だからこそもう少し純粋な結びつきを表すにはそちらの方良かったのだろうと思う。
 どんでん返しがあるんじゃないか、とかヒネた目で読まなくて済む。というか、ずっとそういう読み方をしていたのは他ならぬ私自身なのだけど、そんなことしなくても良かったんだ!という心地よい安心感。子供向けのお話を読むと「そんなうまいこといくかい」と思うことも多いのに、なぜかこの人のお話には素直に感動できる。自分が子供に戻ったように。
 これと、前作「ミミズク~」どっちがいいかといえば、ミミズクの方が好き。どっちが整っているか?って聞かれたらMAMAって答える。そういえば、昔氷室冴子の迷宮シリーズを読んだ時もこんな感覚だった気がする。何もかもが腑に落ちたような、でも言葉ではうまく説明できない。大人になったのだから、せめてうまいこと言いたいけど、やっぱり難しいなぁ。
 是非是非次の本も読みたいと思う作家さんです。

 ここから先はネタバレです。
 トトはあっさり大人になった。ホーイチは見た目は子供のままらしいので、確かにママって感じ。だけどどちらがどちらを頼っているかというと、あまりはっきりしない。力ではトトはホーイチを頼っているし、ホーイチはトトの言うことに従う。「共依存」という言葉が頭を掠めた。ママになろうと自分を奮い立たせるトトはとても哀しい。自分以外の人間がトトには必要だと理解していたホーイチと、ホーイチがいればそれでいいと周りを拒絶していたトトは、二人だけの世界に閉じこもっていた。それは良くないことだと外野は言えるけど、その時はそうするしか自分を守れなかったのだろう。
 ベタだけどトトの母親がトトを庇いに出てきたところで泣いた。ベタなんだけど!でも泣けるのだからしょうがない。思えばおかんはあまり悪いことしてない(最初にトトを傷つけたセリフもそれはしょーがないでしょと思う)のに、一方的に嫌われて可哀想だった。なんちゅーかトトにはあまり感情移入できない。
 最近本を読んで泣くことがあまりなかったので、この本読んでよかったと思う。
(2009/03/30)

ミミズクと夜の王


 すごく読み易くてさらさら読めるのに、真正面から感動してしまった。奇をてらわない、どこかで読んだようなお話なのに最後収束していくところが心地よい。1時間ちょっと位で読めた。途中でやめるのがもったいなくって、一気に読み進めた。例えばあまり読書をしない人に勧めたい本で、色んな本を読み飽いている人にも勧めたい本だ。
 ある森にミミズクと自分のことを呼ぶ女の子が迷い込む。夜の森なのにへらへらと笑い、間延びした喋り方で自分は人間じゃない、誰か自分を食べてくれないかと魔物に向かって話しかける。綺麗な魔物はミミズクを食べはしなかったが、受け入れもしなかった。それがミミズクと夜の王との出会い。
 「ありがちだ」と思うのに、その雰囲気に惹かれる。辛いとか幸せとか嬉しいとかをあまり知らないミミズクは、食われることも怖くないので自分が傍にいたい夜の王へまっすぐ向かう。こういう、気難しい親父と純粋な子供みたいな話なんて腐るほどあると思う。あぁ、この気難しい親父は子供の純真さにほだされていくんだろうな、そして優しい人に戻るんだ、と思いながら読む。そんなことは今まで何度もあるのに。違うところは、ミミズクの過去があまりに痛々しいからなんだろうか。それとも中盤から話が大きく進むからだろうか。
 あとがきを読んで、いろんなものが腑に落ちた。
 「私安い話を書きたいの。歴史になんて絶対残りたくない。使い捨てでいい。通過点でいいんだよ。大人になれば忘れられてしまうお話で構わない。ただ、ただね。その一瞬だけ、心を動かすものが。光、みたいなものが。例えば本を読んだこともない誰かが、本なんてつまんない難しいって思ってる、子供の、世界が開けるみたいにして。」と思いながら、この作者さんはお話を描くらしい。
 だから私が残念に思うことは、これをもう少し若いときに読みたかったなぁという点。この本は色んなややこしいところを、割と飛ばしている。「そんなうまくいくはずないよ」とか「そんな綺麗なもんじゃないよ」って言いたくなるような単純さが、このお話にはある。だけどそこがとても気持ちがいい。子供の頃に私はきっとこういう本に何度か出会ったはずだ。きっととても大切なことを描いている。
 私は本というのは、その年代にあうものがあると思っている。その年代で理解すべきこと、それが成長するに従って少しずつ盛り込まれていくものだと思っている(勿論大人になってから始めても問題ないけど)。きっと子供の頃読むべき本は、今読んだら少し物足りない。だけど数学が足し算から始まるように、段階は踏むべきだ。足し算のドリルをくだらないとは思わないし、今それを見たら懐かしい。この本を読んで感じたのは、その懐かしさにすごく似ている。懐かしくて、初心に帰ったような気がする。そして、今だから理解できることもあった。
 なんだかとてもいい気分になれたので、今日はそのまま眠れたらいいなぁと思う。

 ここから先はちょっとだけネタバレです。
 ミミズクが記憶をなくして本当の意味で人間らしい感情を持てたとき、喋り方が変わっていた。なんかそれだけでちょっとじーんとしてしまった。色んな幸せを知って、経験して、大切な人も友人もできて、愛されて、それでもフクロウが良いというその潔さが好きだ。それが恋であるとはオリエッタが言うまで気付かなかったけれど、そうでなくちゃとは思う。ミミズクは人間になった上に、女にもなったんだ、と笑顔になった気がする。
 うまくいきすぎるハッピーエンドだし皆良い人だし、そんなうまいこといくかい、とひねくれた自分が少しだけ飛び出すけど、そんな部分がなくても良いお話は良いお話なんだよ、と諭す自分もいる。殺伐としたお話はニュースに任せて、ただ「良いお話を読んだ」と満足して寝ようと思う。
(2008/12/14)

  • 今までの自分を捨てて、泣いてしまいました。紅玉いづきさんの本を読むと、心が温かくなって、人に優しくしたくなります。 -- 一瀬 優美子 (2009-05-06 08:19:09)
  • こんな小説を書いてくださって、本当にありがとう!!! -- 名無しさん (2009-05-06 08:21:46)
  • >一瀬さん。私も、自分で言うのもなんですが、綺麗なな涙を流せたような気がします。 -- May (2009-05-06 22:08:21)
  • >名無しさん。本当に「こんな小説をありがとう!」ですよね。次回作も本当に良いです。 -- May (2009-05-06 22:09:19)
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最終更新:2009年06月07日 17:22
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