僕はラジオ

2006年7月DVD観賞


 すごくいい映画でした。演出は抑えめで派手なシーンなどありませんが、心温まる、考えさせられるお話です。派手な映画、暗い映画、過剰な演出の映画に食傷気味な人に是非見て貰いたいです。ニューシネマパラダイスみたいな、淡々とした映画が好きな人にはよいのではないでしょうか。良い映画を見たな~と素直に思えます。お勧めです。但し、派手ではないので、体調が万全な時な方がいいです。私は一瞬落ちかけました。上手い具合に復活しましたが。
 主人公の少年は、黒人で知的障害を抱えており、また母子家庭です。少し前のアメリカが舞台なようですが、その時代で彼の持つプロフィールは生きづらいものであったでしょう。この映画は彼に出会った、高校のアメフトのコーチ、そして彼等をとりまく周囲の感情の移り変わりを描いています。
 地味な映画でしたが、主人公ラジオを演じる俳優さんの演技がすごい。ギルバート・グレイプでレオナルド・ディカプリオが知的障害者を演じた時も、「すごい」と思いましたが、今回も同じように思いました。動きとか声とか、知的障害者にしか見えませんでした。またエド・ハリス演じるコーチもいぶし銀。おっちゃんなんですけど、頭部の毛髪が非常に寂しい方なんですけど、渋かっこいい…!もうそれすらも魅力の一部、ってくらいかっこよかったです。抑えめな演技なのに、すごく存在感がありました。オーバーアクションなだけが映画じゃないですね。
 見ようかなと思った人はあまり情報を仕入れずに、先入観無しで見た方がいいと思います。

 この映画は実話が元になっているお話だそうです。主人公の少年はアメフトコーチに出会った当初あまり言葉を喋らず、ラジオに興味を示したことから「ラジオ」という愛称を付けられます。アメフト部員がラジオに暴行したことをきっかけに、コーチはラジオを部活動の手伝いに招き入れ、やがて高校へ通わせます。徐々にラジオは人に、そして学校側はラジオに馴染んでいきますが、反発を感じる保護者や一部の生徒達がラジオが学校に来ることを阻止しようとします。次第に活き活きしてくるラジオを見て、コーチはそれに対抗しようとしますが、ラジオ自身の全く悪気のない行動によってそれも難しくなっていきます。彼等とラジオの落ち着く先はどこなのか。
 障害者を扱うのは、爺婆や子供や犬猫のように「ずるい」と感じてしまう私ですが、実話という後押しがあり素直に感動できました。でも本当は実話と聞かないで見ていた方が、最後もっとよかったかもしれません。

 ラジオの味方=善、ラジオの敵=悪という構図に、あまりなっていなくてよかったと思いました。嫌な奴ではありますが、保護者の気持ちもよく分かる。またラジオも(悪気無く)何かしでかしてもおかしくない奴ではあったので、その辺りが微妙なバランスでよかったです。ただ私は「予想された破滅に向かう物語」が苦手なので、ハラハラしながら見ていました。今回怖かったのはやはり「ラジオが何か致命的なことをしでかしてしまうのでは?」でした。結果的にはそういうことはなかったので良かった。
 「ラジオをことさら純真で天使のような少年、それを疎ましく思う奴は後で痛い目にあう」とか「ラジオを笑った奴は泣きながら悔い改める」とか「実はラジオには隠された才能があった」とか「ラジオが死んでしまう」とかそんなエピソードが入ると嫌だなぁと思っていました。幸いそれはなくごくごく普通なストーリーが好ましく思いました。
 それにしてもエド・ハリスかっこいい。娘に昔障害者に対して何もできなかったことを告白するシーンも、コーチは好きだが今はそれよりも大切なことがあると理髪店で言うところも、演出が過剰じゃなくてすごくいい。大きな感動の波は来ないけれど、じわじわとボディブローがきいてきます。娘も妻も出番は少ないながらもいいですよね。
 どうも私は「泣かそうと思えば盛り上げて泣かせられるけど、敢えてそれをしない」のがツボみたいで、ラジオがスクールバスに乗れなくて雨の中一人でフットボールごっこするところとか、若い悪い奴(名前忘れた)がラジオにジャンパーを渡すとことか、もう本当によかった。それとは別にベタですが、ラジオのお母さんが亡くなったところで、ラジオがぐちゃぐちゃの部屋の中で小さくなって泣いているところはやられました。ベタやーと思いながらホロリ。
 最高潮はエンディングで本物のラジオが出てきたとこです。「あれ?違う人?」と思いきや「本物や!」。驚く程さっきまで見てたラジオに似ていたこと。あきらかに年を取っているのに映画のワンシーンと同じように幕を破って飛び跳ねながら出てきたこと。そういえば実話だったと頭の中で反芻しながら、ずっと同じように受け入れられていたのだと胸が熱くなりました。いいもん見たなぁと。実話に優るものはないなぁと。
 それ故、これから見るかもしれない人にはできるだけ予備知識無しで見て欲しいです。私はそうやって見て、感動しました。まぁオープニングに「これは実話です」って出てくるんですけど、見ているうちに忘れてましたね。本当のハッピーエンドだったんだ、って嬉しくなります。是非どうぞ。
(2006/07/27)

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最終更新:2007年04月03日 00:12
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