この人の本にしては、暗めのお話でした。これはこれでいいかも。描き方によっちゃえらいホラーになりそうですが、そこは加納さんなのでかなりマイルドに。
あるお人形と、そのお人形にそっくりな小さな劇団の女優聖を取り巻くミステリです。語り手がころころ変わって、一体誰が誰のことを喋っているのか途中でわからなくなります。中盤は惰性で読んでいたように思いますが、最後まで読み通した後、もう一度読み返したくなりました。いわゆる叙述トリックです。
お人形を扱うせいか、全体的に暗いです。つたの絡まる古い洋館などを連想したりします。多分実際は洋館じゃないけど。でも人形師のまゆらがそういう雰囲気を醸し出してます。
面白かったか~と聞かれると返答に困ります。面白かったけど、めっちゃ面白いわけじゃなかったってとこかな。今風に言えば「普通に面白かった」です。(私はこの言葉便利だと思う)
(2009/02/13)
「ななつのこ」「魔法飛行」の続編でした。残念ながら前作、前々作に比べるとあまり面白くなかったです。最初に作者からの注釈が入っているように、シリーズを通して読むほうが面白いと思います。
前半は誰かが誰かに当てた一方通行の手紙の内容のみが、延々と綴られます。後半は、まぁいわばその手紙の謎解きといったところでしょうか。今回は短編ではありません。勿論レギュラーメンバーは出てきますが、何か言うとネタバレに繋がりそうなのでこのへんでやめておきます。
面白くない、と思ったのは何か釈然としないものを感じたからか。もしくは短編じゃなかったので読みづらかったのか、いつものようにしゅるしゅると謎が解けるような気持ちよさを味わえなかったからか、さてどれでしょう。って知りませんよね、うん。私にもよく分かりません。ほんわかした空気は今迄通りなんですけど、願わくば短編で日常に潜む謎を描き続けてもらいたかった、と思うのは贅沢なのかな。
ただ前作ファンは読んでもいいんじゃないかな、と思います。なんだかんだ言って、私は駒子ファンなので。
ここから先はネタバレです。
手紙は「駒子が書いたものではないか」とミスリードされていることに、割と早いうちに気づきます。だから白けてしまったのかもしれません。そもそも謎の本質はそんなところには無いのですけど、「双子」という結論をパッと出してしまう瀬尾さんにもちょっと違和感を覚えたし。
元々この作者さんのシリーズは「そんなにうまいこといくかぁ?」という猜疑心と常に戦いつつ読んでいるような気がします。「それでも面白いからいいの!」と自分を説得しているような。今回は「いくらファンでも流石にかばいきれないなぁ」といった、好きだけどこれは無理。という感想です。30分の深夜番組の時はコントも質が高くて面白かったのに、ゴールデンに行ったらコントが激減してトークばっかりになっちゃった哀しさを感じました。分かってもらえるでしょうか。
それでも瀬尾さんに一歩近づいた駒子に、にんまりしてしまう私でありました。
(2009/02/13)

心がぽかぽかするような本でした。短編集でどれも面白く、その内二本はとびきり面白いという、本読みとしては至上の喜びを感じます。珠玉の短編集です。どんな人にも超お勧め。
この本には「モノレールねこ」「パズルの中の犬」「マイ・フーリッシュ・アンクル」「シンデレラのお城」「セイムタイム・ネクストイヤー」「ちょうちょう」「ポトスの樹」「バルタン最期の日」が収録されています。私の一番は「マイ・フーリッシュ・アンクル」かな。次いで「バルタン最期の日」。「パズルの中の犬」「シンデレラのお城」「セイムタイム・ネクストイヤー」はホラー風味かと思いきや、じんわりよいお話でした。加納さんは人間の狂気を、丸く優しく描かれるように思います。「パズル~」「ポトス~」は描く人によっては、トラウマやアダルトチルドレン等に繋がって重たい話になると思うのですが、それがちゃんと心温まる場所に帰ってくる。人を見る目が優しいのだと思います。読んでいて安心する。
「モノレール猫」は普通に思えました。伝書鳩ならぬ伝書猫で知らない小学生と交信するお話です。最後はできすぎた偶然だと思いますが、うまいと思います。いや、普通に面白かったです。
「パズルの~」は待つのが苦手な専業主婦の主人公が、待つ時間をジグゾーパズルに熱中することで時間を忘れようとします。なんだかホラーっぽく感じましたが、暑苦しくなく終わって、後味もよかったです。
「マイ・~」は読んだ後「実写で見たい!」と強く思いました。それも映画やアニメじゃなくて、舞台。舞台がいい!どっか上演してくれないかなぁ。短編だし、登場人物も少なくてすむし、すごくいいと思うんですけど。短い何ページかの間に余計なものは全く無く、笑えて、泣けて、後味良く終われるなんてすごい。私はこれが一押しです。
「シンデレラ~」はこれもちょっとファンタジーホラー風味。世間体のため偽装結婚する主人公ですが、夫となる人は人ならぬものが見えているという設定でした。これはあまり救いがなかったような気がします。
「セイムタイム~」も見ようによっちゃホラー。幼い娘を亡くした母親が、とあるホテルで「死んだ人に会える」と年一回の宿泊を繰り返すお話。これらのホラーっぽいお話は、主人公が狂気に傾いていくのではないかとハラハラしながら読むので、少し苦手かもしれません。でも結局はいい話で終わりましたので満足。逆にほろっときました。ありがちといえばありがちなお話です。
「ちょうちょう」これはあまり覚えていない。短編の中で更に短いお話でした。ラーメン屋を開業した若い店主の一人称で語られる、小洒落た雑誌のCMページに載ってそうなお話。なんで「ちょうちょう」なんやっけ?
「ポトスの樹」は、ろくでもない親父を持った息子のお話。下手すると児童虐待とか暗い話になりそうなのに、一向にならず、むしろちょっとほろっとくる良いお話でした。この作者さんは人間がすきなのだなぁと思います。ニートやらごくつぶしと呼ばれる人にでも暖かい目線を送ってる。このお話の主人公の奥さんとなる人も、人の善意を疑わない人で、それがもしかしたら作者を投影しているのかなと思いました。
「バルタン最期の日」は、これが本の題名でもいいんじゃない?と思える位気に入りました。この作者さんはあまりインパクトのある題名をつけないなぁと常々思っていたんです(偉そうですみません)。でも地味だと思うのです。「螺旋階段のアリス」「ささらさや」「ななつのこ」とか。「沙羅は和子の名を呼ぶ」は変わってるけど。まぁ題名がよけりゃいいのかって話になりますが。バルタンは小学生の男の子が取って来たザリガニの名前で、彼から見た小学生息子と父母の家族を描いています。ハードボイルド口調です。猫視点や犬視点のお話は数あれど、ザリガニて!犬や猫なら何かの役に立ちそうですが、ザリガニじゃねぇ。と思いながら読みました。出てくる人間が皆お人よしで、いい話でした。もう甲殻類に心が無いなんて思えない。
ここから先はネタバレです。
「パズルの~」は母娘のわだかまりをお互い溶かすことができたというお話でした。待つ時間が苦手なのは何故か、母親が娘に構うのは何故か。昨今精神的な傷を扱うお話が増えたように思います。外には出てこないけど、人格形成の際に大きく関わる家族との関係。それをどのように乗り越えるか、を描くお話は一度は見たことあるのではないでしょうか。ありがちな、感情をぶつけ合って本音を語り合って最期は和解するって話じゃなくて、さらっと終わったところが好きです。
「マイ~」を舞台にするならどんな風なのがいいだろう?登場人物は夏澄とテツハル叔父さんとお母さんかな。あと勝手に第三者的な視点として、夏澄の友達を捏造しちゃうとか。旅行に行くところから始まって、ここは夏澄とお母さんだけ。そんで部活してる時に友達から事故の話を聞いて急いで帰る。そこで初めて叔父さん登場、超情けなく。叔父さんの情けなさは友達と二人で会話しながら説明していく。叔父さんの手紙を読むところも夏澄と友達と二人で読んじゃう。舞台には一段高いところを作って、お母さんの回想シーンはそこで一人芝居、もしくはその場所は回想シーン専用にして叔父さんの独白シーンや二人のやりとり。夏澄が叔父さんの想いに気づくところでは友達と「叔父さんがおかしくなったのは?」「お母さんと同居しだしたとき…」といった会話形式にして。ラストの結婚式前夜では夏澄とお母さんが「ほんとに馬鹿なんだから」と声を揃えるとか(ベタすぎるか)。いっそのこと結婚式当日にして、最後ウェディングドレスとか。って妄想膨らみすぎだ。
「バルタン~」は漫画で見たいかな。「おす、おれバルタン」みたいなノリで。
最近気づいたんですが、私は「秘めた想いをずっと隠し続けて何気なく生活しているけど、ある日ぽろっとそれがばれる」というのが好きなようです。できれば読者にも秘めた想いは内緒にしておいて。この設定は個人的にストライクです。隠し続けていた日々が長いほど良く、またそれによって不名誉を被っていれば更に倍(クイズダービー風に)!
今回の本では、「マイ~」の叔父さんの義理姉に対する純愛。「シンデレラ~」で主人公がミノさんに対して抱き、そしてずっと隠してごまかしていた恋心、それから「バルタン~」のお母さんがいきなりオヤジギャグを言い出した背景。もうこの辺がツボでどうしようもないのです。わざと道化者になるとか、それだけで駄目。サーカスのピエロなんて、多分妄想が広がったら一人で泣けると思います。
話はそれましたけど、まぁこの本は久しぶりに当たりということで。
(2007/06/05)

久しぶりに加納朋子さんの本を読みました。この人はとてもほんわかした「ええもん読んだなぁ」と心が温まるお話を描かれます。また連作短編が多く読み易いです。
さてこの本は「ささらさや」という本の続編に当たります。前作はサヤという夫を亡くして乳児を抱えたお人よしの女性が主人公で、佐々良という町で不思議な出来事に出会うというお話でした。実はこの本とても読み易いのですが、このサヤという女性がうじうじしていて、読んでいてイライラしたというあまりよくない思い出があります。他の本は好きなんですけど、このお話のサヤはお人よしで世間知らずでそれでもいいところはたくさんあるんですけど、私の苦手なタイプなのです。だからあまり読み返した覚えがありません。
「てるてるあした」の主人公は照代という中学校を卒業したばかりの女の子でニューカマーです。両親が借金で夜逃げして、会ったこともない母親の遠い親戚だという人を頼って佐々良町へ来ます。この親戚というのが、「ささらさや」にも出ていた元教師の久代さんです。崖っぷちの照代に久代さんは「働け」「早く出て行ってもらわないと」等きつい物言いをします。高校にも行けず照代の今後はどうなるのか、というお話です。
さてこの照代という女の子、境遇は確かにかわいそうなのですが、すんげー嫌な子です。ええもうわざとやってるっしょ?って作者に言いたいくらい。根拠のない自信があって、周り全部を馬鹿にして、自分は悲劇のヒロインで。どこにでもいそうな、いけ好かない子供。誰もが子供時代の自分に、この照代のかけらを見つけそうな子供。典型的といえば典型的です。
でも不思議と「ささらさや」程はイライラしませんでした。さくさく読めましたし。後半俄然面白くなってきます。お勧めです。
ここから先はネタバレです。
子供時代の母親や、久代さんと照代の関係。なんとなくデジャヴを感じるのですが、似たようなお話あったかなぁ?どちらかというと絵が思い浮かびます。
照代がどんどん素直ないい子になっていくところ、そして久代さんの最後、お喋りな珠ちゃんが久代さんの病気については黙っていたこと、ホロリときました。嫌な奴が主役だ~と思っていたのに、いつの間にかええお話になっとるやないか!と嬉しい誤算です。
軽く読み始めたのに、照代母と久代さんとの関係や照代母のエピソードは、事情が分かってから再読したら、もっと面白そうな印象を受けました。私はいつも流し読みしちゃうので、そういうのが分かるとちゃんと読んどけばよかったって思います。もう一回読み返そうかしらん。
(2007/05/15)
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最終更新:2009年02月14日 00:16