大判で全十冊。身につまされるところが沢山あるお話。女の人向けだと思う。お話自体に感動するというより、共感するポイントがいくつもある感じ。
主人公の藤井ミナミは広告代理店で働いている。徹夜や休日出勤が当たり前の中、それでも恋愛はする訳で、簡単に言えば「仕事と恋愛」がテーマなお話。絵はとても綺麗。水の中にいるような描写が多い。見てて溜息が出るようなカットもあるし、心象風景の描写が独特で好き。これだけでポイント高し。
ミナミは働く。そりゃもう懸命に。広告代理店に知り合いがいないので、仕事風景にはただただ「こんなもんかー」という感想しかない。でも仕事する上でのつまづきとか嫌なこととか悩みはある程度共通点があって、その辺が解決するわけでもないところが、また「そうだよねぇ」と共感してしまう。お話自体より、これを読むことにより自分を再認識するきっかけになって、切ない気分になる。遠くで頑張る友達を見る感じ。
ミナミは真面目な優等生タイプで、周りにも色んなタイプの女性がいる。田中はフェロモンが溢れ出ているような仕事のできる営業。柚木はフリーのコピーライターでさばさば系。渡辺は事務員である意味現実的な感じ。タイプは違えど、どれも私は好きで、作者さんはよく人間観察をしているなぁと思う。
女だけが大変だ、と言いたいわけでは決してないことを念頭に置いた上で、次からの感想を読んでもらいたい。
女が働き続けるのは、色々面倒くさいと薄々感じている。今の時代あからさまではないにしろ、同世代からは「楽でいい」「どうせいつかは辞めるんでしょ」。親世代以上からは「女の子は早く結婚するのが一番の幸せ」「そんなに働かせるなんて」。もしくは同じ女から「結婚したら辞める」「そんなにしんどい仕事はしたくない」と、そりゃもういろんな価値観に触れられる。別にいーんですよ、どの価値観も否定したくはない。ただその価値観に「だからお前も」と私をはめ込もうとしないでいただけませんかね、と思うことはある。
「楽でいい」って言うけど、あなたが比べる対象があなたより楽そうな男性でなく、女なのは何故だ。体力はないですけど私だってぎっくり腰の男性は避けるし、でっかいプリンタを一人で持ち上げられないのは許してくださいよ。自分でやればできることを頼んではいないでしょ?やれる人がやればいいというのは逃げか?「いつかは辞める」って言われても、退職者に男性が一人もいないとでも?いつかは辞めるかもしれませんよ、そりゃそうですよ。でも辞める理由は性別含めた個人の事情なんじゃないですか?「女だから」を前面に出す女は、本当に「女だから」なのか、理由を全て「女」になすりつけてんのか、考えてくれ。
そして当の私自身、逃げ道として「女だから」を使ってしまいそうになる誘惑にかられる時がある。世間にそういうスタンダードがあるのだから、それに乗っかっちゃえばいいやん、と。働き方が割と画一化されている男性も辛いと想像するけど、選択肢がありすぎるのも悩ましい。だけどそれは逃げ出したいからの選択で、ポリシーを持ってその道を選んだ人に失礼ではないだろうか。
つきつめれば「理由」というのは、全て「個人」に帰るものだと私は思っているので、家庭の事情や性格ですらも含めて「~さんだから」という事情でいいんじゃないの?と思ってしまう。だから私が何かを言いだした時に「Mayは女だからそう言うけど」っていうのやめてくれ。仕事が辛いって性別関係あんのか?完全に公平に、対等にだなんて思ってない。その上で特権だなんて思っていないけど、体力や体格はどうやったって敵わない。生理痛だって重いし、睡眠時間少ないと疲れるんだよ。確かにそれは「女だから」なのかもしれないけど、それは最上位に来ないでしょう?「今日は体調悪いから」「睡眠時間が少ないとしんどいから」改善を図って、それでいいじゃないか。
何と戦っているかわからなくなってきた。フォローするようだけど、私は今、仕事も私生活もとても居心地が良い。間違いなく幸せだ。きっと、仕事や周囲に対して肩肘を張らないで行こう、起こることは一旦受け止める、その上でできないことはできない、無理して抱え込んだ方が迷惑がかかることが多い、とか10年余りの社会人生活で学習したからだと思う。ここでこうなら、外はどうなんだろう?とびびってるくらい。
女に産まれて良かったと思っているし、男性と同じようにできると主張したいわけではない。女らしさ、男らしさという感覚は大事だと思うし、性別はどうやっても越えられない壁だし、公平なら対等ではないのだし、ジェンダーフリーもちょっと違う。ただ違和感を覚える決め付けが少しずつ減っていけばいいと思う。これから先私がどんな人生を歩むとしても「私」という名において全責任を取れるようにしたいと思う。価値観は人さまざまでいい。ただ他の人とは違うということを受け入れたい、受け入れてほしい。もしかしたら私こそ人の価値観を受け入れない場面が来るかもしれないけど、そう心がけたいと思う。
長々と語ってしまったけど、まだ言いたいことは山程あるけど、この漫画を読むとそういう思いが一気にどばっと溢れてくる。ミナミの環境は私とは全く違うし、彼女達はその上綺麗でいなくてはならない。哀しい哉私には欠けている視点。こりゃー大変だと尊敬する。
身につまされたり、自分を律するきっかけになったり、共感したり、ちょうど私世代のドストライク漫画だと思う。若い時に見たら、きっと今のような感想は抱けない。
ネタバレにはならないと思うのでひとつ。「自分ひとりいなくても仕事は回るのよ 自分の代わりなんていくらでもいるわよ それが会社よ サラリーマンていうのはね 死なないためのシステムなのよ」これは田中のセリフ。田中は割り切っていてかっこいいです。
ここから先はネタバレです。
最終巻で佐原がオランダから戻ってくるシーン。ミナミと佐原が2年ぶりに会い、その後どうするのかを田中と柚木と渡辺が話しているところの、以下のセリフ。
「選択権は藤井にある もしかしたら 私たちはそのために働いているのかもしれないね」
ミナミは出産し、経済的には自立できている。その上で佐原とよりを戻すかどうかは藤井次第。そして三人とも「藤井が決めればいい」と思っている。
特に感動的なセリフではないし、この漫画にそんなに入れ込んでいたわけでもないけど、なぜか泣きそうになった。山ほどある答のうち、ひとつを見つけたような気がする。
(2010/05/03)
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最終更新:2010年05月06日 01:07