オペラ座の怪人(ブロードウェイ)

The Phantom of the Opera

 ニューヨークはブロードウェイで鑑賞。映画→劇団四季と見たのでもういいかなと思ってたんだけど、英語駄目な私があらすじを知っているものが他になかったので、これを選択。グッジョブだった!
 ブロードウェイの舞台の多さにも圧倒されたけど、今回入ったマジェスティック劇場の中にも圧倒された。最新設備ではないけど、なんか空気がいい。ずっとここでミュージカルやってたんかぁと感慨深いものがあった。劇場に入ってから出るまで、終始感動の嵐。疲れてたけどテンションだだ上がり。
 舞台を観て確認できたことは、私はこのお話がとても好きだということ。ファントムというキャラが、私の心を掴んで離さないこと。ラストシーンでは決まって涙が出てしまうこと。
 お話は、映画と劇団四季とでは変わらない。どちらもこの舞台を忠実に再現している。衣装も豪華で、ダンスも良く、何より歌が素晴らしかった。ミュージカルは少し苦手になっていた今日この頃だったのに、歌詞が分からないことが猛烈に悔しい。歌で話が進むことになんの違和感もない。あれは、あの空間が魅せる魔法だと思う。
 あらすじはオペラ座に住んでいるファントムが「俺の教え子クリスティーヌを主役にしろ」とごり押し、あと「クリスティーヌは俺のもんだ」って意外に単純。だけど、時代や劇場や雰囲気がそれをおどろおどろしいものとしている。
 劇団四季ももちろん素晴らしい。なんせ日本語で進むから話の流れが分かる。映画は舞台でできないことをやってのけていてそれも素晴らしい。オープニングCGは絶品。でも、ブロードウェイの舞台は周辺環境や自分の思い入れも含め、感動したのです、本当に。比べられない。もしもまたニューヨークへ行くことがあればまた見たい。おなじものを何度でも見たい。そんな気持ちです。
 以降はファントムについて語ってしまいますが、舞台も本当に素晴らしかった。役者さん最高です。なぜCDを買わなかったのか、物凄く悔やんでます。あの時は「ここでしか味わえない」と思ったんよなぁ。そうそう来られへん癖に!ばか!ばか!

 ここから先はネタバレです。
 ファントムの心情を知りたい、と強烈に思った。ファントムという人間がどんな想いで行動に出たのか、興味が尽きない。だって身も蓋もない言い方をすればファントムってば、
 ・一回り以上年下のクリスティーヌに片思い
 ・クリスティーヌの個人音楽教師に勝手に就任
 ・俺の教え子を主役にしろとごり押し
 ・クリスティーヌとお似合いのラウルに嫉妬、そして逆切れ
 ・ラウルの命を救いたければ俺と結婚しろと脅迫
と、なかなかに最悪なストーカーですよ。というかその行動の怪しさに、聡明なファントムが気付いていない訳が無い(と思いたい!)。だから「自分のやばさを自覚しつつも止められない、バーサク状態」なのか「おかしいことすら気付いていない、恋は盲目状態」なのか「分かっているけど、どうせ真実の愛を手に入れられないならいっそ滅茶苦茶にしてやる、自暴自棄状態」なのか、どれもありそうだけどしっくり来ないので、ぐるぐる考えてしまうのです。
 こんなストーカーなのに、ファントムに物悲しさを感じる。何よりラストシーンで「I…、I…」とベールを抱きしめて泣き崩れるファントムに、胸が痛くなる。正しいか正しくないかで聞かれたら、彼の行動は正しくない。だけどその人間らしさを、ばっさり切り捨てられない。だって泣くんですよ、いい歳こいた男が。そのアンバランスな危うさが、正しさは関係なく魅力的に思う。
 この言葉を使うのに躊躇するけど、私はファントムを「哀れな男」と思っているんだろう。同情ともまた違い、ただ「哀れだ」と思う。母親にも拒絶された子。そのありあまる才能を歪んだ方向にしか使えなかった人。屈折したプライドで、素直に愛を乞うことができなかった人。対人関係だけは大人になれなかった、大人になる機会を得られなかった子。望んだものはきっとそんな大それたものではなかった筈なのに。30幾年の人生の孤独を思うと、どうしようもなく哀れに思える。
 私は幼い頃はいつも主役が好きで、五人戦隊ならレッド、キャッツアイなら瞳、ルパン三世ならルパン、タッチなら達ちゃん。かっこよくて間違わなくて出番が多い主人公が好きだった。でも大人になると、屈折してたり、地味だけどいい味出してるとか、報われないとか、そっちの方が気になってきた。「オペラ座の怪人」はファントムが主役なんだけど、彼はアンチヒーローなのでそのセンサーに引っかかる。だからってクリスティーヌに「ファントム選べよ」とは思わない。美女と野獣のようにはいかない。自分だったら…って考えても、ファントムはやっぱり選ばれないので、報われないところがいいのかしらん。その辺もはっきり説明できない。
 私がファントムに並々ならぬ想いを抱くのも、「孤独」という言葉に物凄く弱いという理由があると思う。単語だけで妄想が発揮される。この前試しに「百年の孤独」という焼酎の名前に想いを馳せたら、ちょっと涙ぐんでしまったので、慌ててやめた。(でもそういうネーミング大好き)
 ファントムは孤独だった。彼がどうやってオペラ座に自分の居場所を作ったか、どんな想いでオペラ座の人々を見ていたか、クリスティーヌがどんな存在だったか、サルのオルゴールを見て何を想っていたのか、と思うとそれだけで涙腺が緩む。皆が仮面をつけた舞踏会なら、紛れ込めるファントム。マスカレードの歌をかすれた声で歌うファントムを観て、胸がきりきりしたのは私だけではない筈だ。
 あーもう一度観たい。観たいったら観たい。
(2008/11/2)

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最終更新:2009年06月07日 17:16
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