久しぶりに福井作品を読みました。この人の本はとても面白いんだけど、集中して活字を追いかけないと着いていけないので、読んでいる間は肩に力が入るというか、疲れるんです。なので、しばらく読んでいませんでしたが。
久しぶりに読んで、やっぱりこの人は面白い!と思いました。中身がぎっしり詰まっている感じで、読み応えあったなぁと思えます。初めて「亡国のイージス」を読んで、まるで新しいジャンルに出会ったような感覚に陥り、勢いで出ている本を買い漁ってむさぼるように読み、友人に布教し、期せずして映画化の波に乗り、しばらく熱が引かなかったことを思い出しました。
この本は短編集で比較的読みやすいです。「いまできる最善のこと」「畳算」「サクラ」「媽媽」「断ち切る」「920を待ちながら」の計6編。ただ福井作品はある程度長さがないと、熱さが出てこないように思います。短編ゆえに今回は熱さ控えめに感じました。でも「920~」は良いです、熱いです。全編、一見無関係に見えますが、所々繋がっています。扱っている題材は相変わらず防衛庁情報局。でも私は好きだからいいのです。過去の福井作品を読んだことがある人のほうが面白いと思います。過去の作品に絡んでくるところもあるので。ちなみに私は、「これはまた布教せねば!」と思いました。
全体的に「諜報活動に携わっている人の、日常と任務の境目近辺」を描いているように思います。だから日常生活の描写があった後、いきなり非現実的な話になったりします。今までの本はどっぷりその世界に浸かっていたので、私からするとある意味ファンタジーだったのですが、これはその辺を歩いているおっちゃんが実は情報局員なんじゃないかって思えるようなリアリティを感じました。
お勧め度で言えば福井作品の中では低めです。ただ福井作品を読んだことない人に長編をお勧めし辛い場合は「920~」を読んでもらえば、空気はわかってもらえるんじゃないかな。
ここから先はネタバレです。
以下私の覚書用。
「いまできる~」市ヶ谷から足を洗いビジネスマンとして他人を蹴落としている男が、電車の中で市ヶ谷時代の敵が襲ってくるお話。小学生が生意気でむかついていたのに、結局小学生を助けちゃうお話。情報局へのホットラインにそっけない対応をされているところがお役所的で、別の意味で泣ける。
「畳算」ロシアの核をはるか昔に恋人から預かった元芸者の老女に「核返して~」って言いに行くお話。彼女は結局、その恋人と言いに行った男の人生を変える。ばあちゃん切ない。畳算とは簪を後ろに投げて、恋人が帰ってくる日を占う遊びだそうです。2000年問題が出て来て、結局あの騒動はなんだったんだろうと思っていた私にとっては、そんな世界にも2000年問題あるの?!と疑心暗鬼。
「サクラ」高校生にしか見えない19歳の少女とおっさんが任務にあたるお話。少女の方が手馴れている感じだが、おっさんは少女が娘と同じ年代なので、殺伐とした雰囲気の少女が気になってしょうがない。ハッピーエンドでよかった。
「媽媽」小学生の子供がいるワーキングマザー。ある日家に帰ると子供の悪戯か台所が油でべとべと。「片付けなさーい!」と怒っていると、職場からの電話がかかってくるようなありふれた家庭。ただ普通と違っているのは、お母さんが情報局員だったこと。全く別の顔をして職場に向かう母。そこにはずっと追っていた若い男が捕まっていた。囮だと分かっていても彼は母がいる病院を離れられなかった。。マザーは「母親は家に帰れ」という台詞に迷いを感じる。
「断ち切る」妻を亡くし息子夫婦と同居しているおじいちゃん。今では好々爺ですが昔は名の知れたスリだったじいちゃんはスリで捕まったのを切っ掛けに足を洗い、ごくごく普通に暮らしていました。ある日孫を連れて浅草寺に行くと、そこには昔自分を執拗に追いかけていた刑事が。「頼みたいことがある」と言われたじいちゃんは一旦は断りますが、傍で佇んでいた中年女性が、元スリの自分にどんな依頼なんだと気になってしょうがありません。「媽媽」から続くお話。
「920を待ちながら」上司の不正に気づいた正義感の強い同僚が、切羽詰って起こした脅迫事件に巻き込まれた主人公。何十年もその同僚が命を失った場所から心が離れず、タクシーの運転手となりながらも情報局の仕事を続けていたが、ある日任務を命じられて組んだ若い男は無愛想で、待ち時間に「しりとりしよう」と誘いをかけても、頑なに態度を崩さない。次の任務も彼と組むことになったのですが、ターゲットの様子がどうもおかしい。指令を無視してターゲットに近づくと、そこにはかつての上司が。主人公が起こした同僚の敵討ちは、若い男がいてこその作戦だった。しかもこいつ如月行なんですよ。きゃー。
やっぱり「920~」ダントツですね。おっさんが熱いですもん。他の本読み返したくなってきた。
(2007/07/14)
亡国のイージス
面白かった!映画化されましたが、原作をお薦めします。超!お勧めします。男の生き様話が好きな人にはたまらん物語です。
舞台は海上自衛隊艦で繰り広げられます。銃火器類が沢山でてきますが、全くそういうのに興味がない私でも読めました。読み飛ばしました。そんなんどっちでもいいんじゃーい。
それぞれの思惑、主義、主張がぶつかり合い交錯しあい、ある人は志半ばに折れ、ある人は収め、ある人は見失い。とにかく後悔はさせません!読んでみて下さい。
何が良いって、仙石が人間っぽいところが好き。「俺はお前を信じてる」とか言いながらスーパーマンみたいな活躍をして「俺も案外やるだろ?(ニヤリ」」みたいなハリウッド的ストーリーにならないところが好き。悩んでちょっと怖じ気づいて、信じ切れなくてでももう無骨な自分を受け容れて、やりたいことやるんだ!ってところが。福井作品はどれも同じ様な話になってしまってるけれど、これが私の初福井作品だった為、もうほんとに面白かった。
それからどんでん返しがいくつも用意されている所。実は宮津艦長敵?!溝口ヨンファ?グソー持ってたのジョンヒなの?!最後の最後まで翻弄され続けました。おおーい!そう来る?!って。
宮津にも行にもヨンファにも勿論仙石にも、名前忘れたけど陸で戦っていた人も皆それぞれに信条があって、それを一つ一つ丁寧に描いていて、人間味のあるストーリーができあがったような感じです。
この人はどういう風に話を作るのかとても興味がある。先に話ができてそれに人を配置するのか、人物があって話が組み立てられるのか。勿論同時進行的な所もあるんだろうけど、それにしてもどちらもとても面白い。どちらかに頼っているような話を読むことが多いので、それはとてもすごいことだと思う。
アメリカやら北朝鮮やらばんばん出てきてたけど。クライマックスで結局アメリカが一番腹黒いじゃんっていう結末にしちゃって、「いいのかな」って思ったけど。大丈夫、なんですよね…?
(2006/03/21)
終戦のローレライ
これまた映画化されました。絶対原作を先に読む事をお勧めします。映画の情報はちょびっとでも仕入れない方がいいです。痛い目見ました。ネタバレにも程があるわ!
舞台は第二次世界大戦時という、亡国のイージス一連のシリーズとは少し違います。元々映画化を念頭に描かれたお話らしいです。ただ福井節は全開です。
イージスに比べると少し落ちるかな、と思うのですが、それもやはり好みの問題のようです。友人は大絶賛していました。「ローレライ」という題名が示す通り音楽が時々出てきますが、小説の唯一の難点は無音なところですね。「やしの実」という童謡が繰り返し出てきて、つい口ずさみたくなります。
他の作品の方が好きなのは、やはりその少女の特殊能力にあると思います。そういうことってあり得るの?とどっかで引っかかってしまう。
その他全てがリアルに描かれているのに、そこだけ色が違うというか。私には上手く馴染ませることができませんでした。ソ連の実験とか納得させられるエピソードは随所に挟まれていましたけれど。
非常に残念なのは映画の宣伝を見てしまったことです。原作では最初少女はあたかも機械であるような描き方をされています。しばらくは少女のモノローグは、誰のものなのかぼかして描かれているんですね。それで、実は最終兵器は少女で「えー!人間の女の子?!」みたいな反応がある。筈なんですよ。私もそこでびっくりする筈だったんですよ。
なのにあの映画会社のあほ、最初っから少女前面に押し出してきくさってほんま。
ちょっと察しの良い人ならすぐ分かるじゃないですか。もうね。台無し。本読んでても全く驚きませんでした。ああこのモノローグ、あの少女のね。ってなもんですよ。
映画の出来ははっきり言って満足できるレベルじゃなかったんですけど、こういうネタバレは極力避けて欲しいなぁと思いました。キャスティングする時点で難しいでしょうし、それが主題じゃないからしょうがないかもしれませんが。しかも映画、フリッツ出てませんしね。なんじゃそれ。映画館行ったら予告見ないようにするの辛いですよね。あぁ見るんじゃなかったなぁ。
原作の話に戻りますが、少年と少女のその後まできっちり描かれていましたね。私は脱出してからの話はなくてもよかったかなぁと思います。少なくともあんなに細かく描かなくてもよかった。潜水艦の中、という非日常な世界でのお話は面白かったんですけど、現実に戻ると冷めるというか。所々良い所はありましたが、あんな大冒険をくぐり抜けた後、普通の生活を営むのに苦労する主人公はあまり見たくない。物語はめでたしめでたしでは終わらないんだ、と言われればお終いですが。
と言う訳で多分あまり読み返さない、福井作品の中では今のところ一番下です。
でもその他大勢の本の中では上位ランキングですけどね。フォローちゃいますよ。
(2006/07/29)
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最終更新:2009年06月07日 17:12