河惣益巳

サラディナーサ

 久しぶりに読み返しました。随分昔のお話で、めっちゃ長くもなくきっちりまとまって、一気読みに向いています。すごーく感動したりはしないのですが(泣くけど)、歴史物でスケールが大きくて「漫画って面白いなぁ」と思えました。
 舞台はヨーロッパのスペイン近海。ガレオン船が活躍していたこの時代はスペインが強く、この国が誇る海軍力を握るフロンテーラ一族。その長レオンにはこよなく愛するサラディナーサ(サーラ)という跡継ぎ娘が一人おり、この少女を巡って様々なことが起こります。サーラの母、マリア・ルイーサとレオン、そしてスペイン王フェリペ二世には因縁があり、彼はサーラを手元に置こうと執着。そしてマリア・ルイーサの面影をサーラに見て、彼女に求婚するフェリペ二世の弟ドン・ファン。幼い頃にサーラと出会い、強烈な印象を残されたマシュー・リカルド。
 ある意味サーラのハーレム話なのですが、何よりも彼女のキャラクターが普通の少女漫画と違いました。次期フロンテーラ一族の総領であるという自負と責任感、自らの指揮力へのプライド、レオンに対する愛情、まっすぐで曇りや迷いがない、烈しい気性。生命力に満ち溢れた彼女に、誰もが魅せられます。うじうじぐだぐだとイライラすることがなく、読んでいて気持ちがいい。誰もが信念に基づいて行動し、その結果が少しずつずれたことによって起こる悲劇。悪役の為に作られた悪役が嫌いなので、安心して物語世界に入り込めます。
 この作者さんは実在の人物や出来事にフィクションを混ぜることが多く、どっかで聞いた名前が出てくるのも嬉しいです。時代考証全く無視!な漫画とは一線を画し、しっかり下調べされているように思います。サーラや他の本でもそうですが、登場人物は作者さんの投影なんじゃないのかな。完璧主義で、自分の仕事にプライドを持っていて。
 「フロンテーラのサラディナーサ」「フロンテーラの姫提督」「黄金(きん)のサーラ」「ドナ・サーラ」と、サラディナーサを称えるキーワードが心に残ります。この作者さんは、複数人がある人間のことを語るシーンがとても印象深いのです。ジェニーシリーズでもそうなんですが、「ジェニー」「炎の月」「ユージェニー・ビクトリア・スミス」と、もう自分の表現力の無さに泣きたくなるのですが、なんせ主役の彼女の呼び名が沢山あり、それを人が口々に呼ぶのです。それを繰り返されることによって、彼女への印象が一層強くなるように思うのです。あ~絶対この表現では分からないと思うので、機会があれば見てください。
 女が強いので、なかなかラブラブ甘甘なお話にはなりません。ので、そういうのを期待されると肩透かしを食らいます。サーラは超ファザコンですし、戦いのような恋愛になることでしょう。そもそも男が女にベタボレなので、ありがちな恋愛ゲームにはなりません。それでも女性向けなお話だと思います。

 ここから先はネタバレです。
 ドン・ファン改めレーヴェの、盲目的なまでのサーラへの愛が好きです。ドン・ファンとレオン、レーヴェとリカルドの友情も。何故かサーラから他への愛は、そんなに心打たれないのですが、やっぱり見返りを求めない、かなり一方的な想いだからですかね。主役はサーラですが、それによって引き立つレオン、ドン・ファン、リカルド、フェリペ二世を描きたかったんだろうなぁ。それからフェリペ二世の愛人や黒姫も好きです。強い。フェリペ二世の愛人がサーラ達を逃がすときの「この想いは私だけのものですわ」とレオンへの密かな愛を語るシーンとかとても素敵。
 レオンが死んで船で弔いをする時のサーラも勢いがあって良いです。こういうのを見ると実写化してほしい!肉声で見たい!と思ってしまいます。実写化否定派なんですけどね。でも色々言いましたが一番好きなのはリカルドです。ひねくれてなくてまっすぐで、成長著しいところが見てて楽しくて。サーラは最初から完成されていたからなぁ。それじゃないと誰も惚れないだろうからしょうがないんだろうけど。
(2010/07/05)

ツーリング・エクスプレス



 何年も前から読んでいましたが、最近全巻読み直したので。
 このお話は作者さんのデビュー作でもあり、代表作でもあり、一旦完結した今も、外伝のような形で続いている。「ツーリング・エクスプレス」としては一旦完結はしますが、特別編として単行本が出ているようです。私は単行本派なので雑誌ではどのような扱いになっているか知りませんが、こうなったら主人公が死ぬまで描き続けてもらいたいですね。
 主人公はシャルルというICPO(インターポール)の刑事。女装させたら天下一品、女性的な美青年で頭はすこぶる良くて運動は苦手、無邪気で人懐こく、どんな人間でも仲良くなれるという天性の性格。そして準主役はディーン・リーガルという超A級の殺し屋。冷徹で非情、殺しの腕は一級、男前であらゆる知識/技術に長け、世界中に情人がいるが常に孤独。う~ん、こうやって並べると実はこのお話、少女漫画の王道を行ってるんだ、と意外に思う。性別を除けば少女漫画ヒロインの王道で、癖のある読者には逆に嫌われるんじゃね?って思うし、冷徹非道なディーンもシャルルには何故か心を惹かれちゃうの♪なんて、定番にしか思えない。まして、シャルルの養父のエドはICPOの警部で、叔父のリュシオンは一流ジャーナリスト、周囲の人間もいろんな分野の一流で、非日常設定では群を抜いている。こんな設定を用意しながらも、あまり違和感なく受け入れられるのは、扱う題材が大き過ぎて遠い世界だからだと思う。
 現実の世界情勢を下敷きにした事件でことごとく鉢合せするシャルルとディーン。舞台はヨーロッパを中心に仏英伊独露香港、その他諸々と幅広い。バチカンの秘密文書や、テロリスト暗殺、ICPOやらKGBにCIA、オリンピック、サミットとなんだか現実味のある、さりとて身近ではない題材が山盛りで、読後頭がよくなったような気がするおまけつき。私は「人生で必要な知識は全て漫画と小説から学んだ」と常々思っており、この漫画もそれを立派に後押ししてくれている。
 ジュリエットシャルルと、ロミオディーン、モンタギューとキャピュレットなお互いの背景(刑事と殺し屋)がありがちな少女漫画のように受け取らなかったのは、やはり「同性愛」をさも当然のように扱っているからだ。当初は男性には興味ない、いわゆるノンケであるシャルルが、徐々にディーンに惹かれていく。対するディーンは男も女もいける両刀。普通の少女漫画とするには少々無理があると思う。但しこのお話は「同性愛」がメインテーマではない。外国というくくりだからか、もしくは作者の趣味なのか、性が「タブーでない雰囲気」をかもし出していて、同性か異性かなんて大きな問題ではないようだ。殺し屋と刑事が惹かれ合った場合どうするか?そこに重点があたっている。(決して「出てくる男性みな同性愛者」な漫画ではない)
 とは言ったものの、受け入れ難い人もいると思うのであんまりお勧めはしない。「これ面白いよ!」と気軽に見せられる本ではないと、私は思う。殺し屋万歳なところもあり、勧善懲悪でもないので子供にもお勧めはしない。実際漫画には割と寛容だった母も、これはなかなか見せてくれなかった。他のジェニーシリーズは見せてくれたのに。しかももう少し大きくなって読んだ時も、「そういう」シーンが出てくる巻は意図的に抜かれていた。芸が細かい。
 普通の少女漫画は飽きたなぁ、スケールの大きいお話読みたいなぁという人は、お勧めする。また、同作者はジェニーシリーズも含め、舞台と時系列と登場人物が重複するお話が多いので、この作者の本が気に入った場合全て読んだ方が面白いと思う。私はシャルルにつかみ所が無く、今一つ感情移入できないので彼はあまり好きではない(というか分からない)けど、その他の登場人物はキャラがハッキリしていて面白い。華も毒もあるし、現実逃避にはぴったりだと思う。

 ここから先はネタバレです。
 私はいわゆる「ドジっ子」が嫌いなので、シャルルが刑事にしては迂闊なところに少しイライラする。彼は語学が堪能で頭も良いんだけど、それとのギャップを「可愛い」とは思えず「胡散臭い」と受け取ってしまう。ランバート・カーディフの本を持ち出して、「そこで出さんでもええやろ」てところで出しちゃったり。ただ物語後半での彼は甘ったれたところがなくなってきて、長い期間描いているお話は色々変わるんだな、と感じる。それでも謎なところが多いんだけど。すぐ泣くところとか。ストーリーが思うところに帰結するように、その時々でうまく動かされてるんじゃないの?って邪推してしまう。殺人に対して妙に潔癖だったりそうでもなかったり、エドへの想いが一貫してないように見えたり、情に厚いところが魅力的とされているのに「え、そこは見逃すの?」って思うところがあったり。つかみ所がない。
 逆にエドに好意的な人物が多く集まることに関してはなんとも思わない。クレマンドもリーツェンベルガー一家もエリザベスもエドが大好き!って設定は、すんなり受け入れられる。これは何の差なんだろう。ただの好き嫌いか。
 エドとディーンは和解とは言えないまでも、共存することができた。ツーリングとしてはここでエンドマークがついたが、続編のようなもの(スピンオフも含めて)が続いている以上、今後きっちり終わるのは難しいように思う。読む側としてはいつ読み終わっても良く、一応1冊1冊が読みきりとなっているので、気が楽な作品だ。
(2009/10/13)

玄椿 1~7巻


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 「くろつばき」と読みます。河惣益巳(かわそうますみ)さんが、芸妓さんを題材に書いた漫画です。この人は色々なジャンルの漫画を書かれていて、その度「しっかり下調べしてるんやろなぁ」と思える人です。ほとんど読んでると思いますが、最近これの最新刊が出たので。
 祇園生まれの祇園育ちである結花は迷い無く舞妓に、そして芸妓になります。祇園での名前は胡蝶。天性の舞の才能があるという設定で、日常をつづります。
 読み切りというかエピソードが一冊いかない位で終わるので、読みやすいです。最新刊では胡蝶が子供の時のお話でした。舞妓/芸妓/もしくはそれに携わる仕事をしている女性は徹底的に京都弁、それ以外の女性や男性は標準語で話しています。ごくごく稀に「その京都弁はおかしいんじゃ」って思うことがありましたが、もしかしたら第二版以降では直ってるかもしれません。私は関西出身なので馴染みやすいですが、活字にするとなんのこっちゃ分からないのではと心配になるような台詞もありましたけど、こだわられているのか、そこは妥協してないように感じました。声に出して読みたくなる京都弁です。
 着物描いたり、唄調べたり、祇園のしきたり調べたり大変だろうなと思います。神様が出てきたり、ある意味ファンタジーな部分もありますが、実際の祇園を調べてその土台の上で作者なりの物語を紡いでいて、結構好きな漫画です。
 これ読んだあたりで祇園の漫画を立て続けに読んだので、着物に一瞬だけ目覚めました。着物買っちゃった。しかし着付けできないので着ていない。あほや。着付けを習いに行くパワーが出る前に、落ち着いてしまいました。
 少しやらしいというか、あまりお子様の教育にはよろしくない箇所がありますので、大人になってから読んだほうがいいかな。他の少年漫画や少女漫画にもっとどぎつい描写はありますが、そういうのではありません。モラルが確立した人じゃないと、流されちゃうんじゃないかなぁと思うわけです。

 最初の頃、胡蝶と恵慈のモラルが独自のもの(舞の才能を持った子供が欲しいから、そいつと子作り)で、まぁそれはそれでよかったんですけど、最近そういうのがなくなってきてますよね。新しく舞妓になった子達とかがそれを知ったらどうなるんだろう、とわくわくしてたんですけどね。「祇園」という特殊な世界の上に成り立ったモラルを描いていたのに、どんどん舞台が一般世界にシフトしてきているように思います。妖しい魅惑の女性が、普通の可愛らしい女になってきているというか。そのへんをこれからどうまとめるのかなぁと楽しみです。最初の雰囲気も、今のもどちらも好きなんですけどね。
(2006/12/04)

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最終更新:2010年07月06日 02:19
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