緑川ゆき

夏目友人帳 1~6巻






 表紙で選んで大成功!よかった、最近外れが多かったの。美麗表紙に騙されてばかりだったの。「私の勘は当てにならん…」と落ち込んでいたところだったの。でもそれもこれも、次回の成功の礎となったなら悔いは無いわ!
 とテンション高く始まったけど、この本はこんな雰囲気ではありません。基本的に読みきり、連作短編でじんわりとしみじみとしたお話。手元に持っておきたいなぁと思える漫画。
 高校生の夏目は、妖怪が見える。顔も知らない亡き祖母の夏目レイコも妖怪が見えていたらしく、妖怪に勝負を挑んでは、名前を書かれた妖怪はそれを持つ者に逆らえない「友人帳」を作っていた。友人帳を形見分けで貰った夏目の元に、名前を返せと妖怪が集まってくる。「お前が死んだら友人帳は貰う」と招き猫に化けたニャンコ先生と共に、夏目は妖怪達に名を返そうとする。というお話。
 一話完結だけど、ちゃんと話が収まっていて、とても良い。夏目が静かな性格だからか、どたばたな展開になっても全体に静かさが漂う。あっさりした絵柄のせいかもしれない。
 一話目に妖怪が「寂しい」と言うシーンがあり、そのインパクトが強かったせいか、どのお話も寂しさを描いているように思えた。天涯孤独で親戚をたらい回しにされたことと妖怪が見えるせいで、夏目は随分悲しい境遇で育った。今は遠縁の優しい夫婦に引き取られ、友人もでき平穏に暮らしているが、他人と深く係わるのを躊躇っている。優しい人達に迷惑をかけたくないから、妖怪が見えることも誰にも内緒だ。その生い立ちでひねくれることもなく、自分に向けられた優しい想いを大切にする夏目も、とても寂しい。このお話に出てくる妖怪は、良い方向にも悪い方向にもとても純粋で、例えば少し優しくされた人間をいつまでもいつまでも待ち続けたりする。夏目は人間より妖怪に共感しているように見えるが、それは妖怪の想いが率直で夏目には真似できないからかもしれない。読んでいるとき、「寂しいという感情は、痛いとか憎いとかよりも、辛い感情かもしれない」と思った。
 さちみりほのお化けのお話や、川原泉や、紫堂恭子が好きな人へはお勧め。どのお話も泣きそうになるので、一人で静かなところでゆっくり読むのがいいです。読んでる間は寂しいんだけど、読後感は妙にすっきり。
 ニャンコ先生の元の姿は大神やもののけ姫のモロみたいになってなんか親近感が湧く。そのままでもいいのに…!話が進むにつれ先生の夏目への愛情が増えていくのが分かって、ジーンとくる。妖怪が寿命の短い人間を愛しく思う、つまりすぐに失うのを分かっていて「人間が好きだ」と言ってのけるところで、涙が出る。無償の愛や犠牲的精神とも違って、巧く言えないんだけど、そこに寂しさと背中合わせの愛情を感じる。一途で剥き出しでまっすぐで穏やかな。

 ここから先はネタバレです。
 どのお話も好きだけど、印象に残ったお話の感想を。
 人間の男と妖怪の蛍の話。蛍と男はお互い恋心を抱いていたが、ある日男の目に蛍は映らなくなってしまう。「出て来てくれ」と叫ぶ男にどれだけ近づいても、男には蛍が見えない。長い年月の後男の結婚を知った蛍は、自分が消えることを承知で「(虫の)蛍になればあの人に会える」と、止める夏目を振り払って男の元へ行く。もう自分がいなくても男は幸せだから、最後に会いたいと。いるのに見えないなんて、いるのに悲しまれる。切ない。
 一話目。レイコに名前を奪われた妖怪は、レイコに名前を呼んで欲しいと寂しい想いを募らせる。名前を返せと夏目を襲うが、返された後にレイコに「もう寂しくないか」と問いかける。自分も寂しかったのに、レイコを心配する?純真で無垢な妖怪。
 主様の話。人間に封じられた主様を解放しようと、森の妖怪達が人間を討とうと計画している。主様が夏目に名前を返させ封印を解いて彼らを止めたい理由は、昔人間に優しくされたから。自分を封じたのも人間なのに「それでも人間が好き」と言う。そして人間が好きだから自分はもう森から出ない、と言う。森の皆が人間に危害を加えるのを止めると。泣くわな、うん。
 恩人に一目会いたいと夏目にくっついてきた燕の妖怪。いた!と駆けていく燕だが、恩人には燕が見えない。見えないのが切ないのではなく、それでも物凄く嬉しそうな顔の燕が切なかった。見るだけで満足している燕が。
 川原泉の「美貌の果実」の「人々は愚かだけどどうか見捨てないで」のシーン、紫堂恭子の「グラン・ローヴァ物語」のラストでサイアムが大古の獣について想いを馳せるシーン。この漫画を読んで、連想されるのは、そんなお話だった。この妖怪の純粋な愛情って、自然に似ている。木とか山とか、人間に痛めつけられてもそこにずっとある感じ。それを人間への愛情だと捉える時点ですごく自分が傲慢だとは思うけど、胸が痛くなる。
(2008/11/04)

名前:
コメント:

[カウンタ: - ]
最終更新:2008年11月04日 22:43
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。