大和和紀

紅匂ふ





 「はいからさんが通る」「あさきゆめみし」を描かれた漫画家さんです。この人の本はほとんど読んでいるんじゃないかな。どれも外れがなく面白いです。
 主人公は京都生まれの咲子。子沢山の家庭に生まれ、幼い頃に置屋の跡取りとして養女になります。舞妓及び芸妓、咲也(さくや)としての半生を綴ったお話です。これは原作があり、元舞妓芸妓の女性が描かれた本らしいです。なので大和和紀の他の本とは、ちょっと違ったような感じがします。他の本は割とほんわかしてるのですが、これはそうでもないというか。「あさきゆめみし」に近いかな。
 「玄椿」(河惣益巳)と「紅匂ふ」を同時期に読んでいた頃があって、その時は「着物好き好き病」になっていました。「玄椿」は現代の祇園が舞台で読むと舞妓になりたいような感じがするのですが、「紅匂ふ」は少し前の時代で、かつ現実的に描かれているので「舞妓さんも大変やな」と思ったり。どっちが良いとかではなく、どっちも好きで、色んな側面から祇園という世界を見られてラッキーだったなと思います。それにしても両作ともよく調べられていて、読んだだけでいっぱしの祇園通になったような気がしました。やっぱり着物好きです。着付けできないけど。
 咲也は意地っ張りで、実は人嫌い。舞妓の仕事は人と接する仕事なのであまり向いてはいないようです。それでも舞が好きなこと、「やる」と決めたからにはとことんやりぬく性格により、超売れっ子になります。兄のように慕うお医者さんとの出会いや、大好きなお姐さんの恋愛を横から見て「恋ってなんやろ」と考えたり、先輩芸妓に意地悪をされたり。
 いろいろなエピソードがある中とりわけ大きく扱われていたのが、妻子持ちの俳優中川竜吾との恋。竜吾に迫られた咲也は「3年間毎日会いに来たら考える」と伝えます。そう言えば諦めるだろうと思ったのですが、意外に本気な竜吾はその言葉通り、毎日祇園に通ってくるのです。二人の行方はいかに…?という点も見所の一つかな。
 ただ漫画として面白いか?と問うと、夢中になりきれない何かはありました。自伝が原作なせいか、結局何を訴えたかったのか焦点がぼけていたような気がします。そんなに長いお話ではないんですけどね。「私の恋愛を見て!」でも「祇園の文化は世界一ィ!」でも「伝説の舞妓が語る」でもなんでもよかったんですけど、どれもヒットしない。ノンフィクションならそんなドラマティックではないからしょうがないのかな。
 また咲也の語り口調だったのも鼻につくような感じがしました。だって咲也ってば自称完璧主義で努力家の超優等生。「舞妓として人の相手をするのは嫌いだけど売れっ子」「お客様をよく見て気配りをする努力家のワタクシ」「でも自分の駄目なところは謙虚に受け止める」。まーやっかみが入ってるのでしょうが、感情移入し辛いキャラではありました。舞妓としては後ろ盾もあり、恵まれた環境にいたことは確かでしょうし、若さゆえの傲慢な面もあったように思います。これが語り口調ではなく誰かの目を通してならすんなり受け止められたのでしょうが、終始自画自賛を聞かされているようにも聞こえました。そのあたり、大和和紀の描くいつものキャラとは違っていたので、これは原作通りなのかもしれません。
 妻子ある男性とどうこうとか、伝統に則っているとはいえ水商売の一種であるとか、舞妓芸妓の過酷なスケジュールとか、そういうのは生まれも育ちも祇園ならそれが常識なのだろうと思います。なのでその辺は嫌悪感は感じませんでした。私からしたら皇室と同じくらい別世界なので、そう受け止めるしかありません。祇園に興味がない人が読んだら、このお話はどんな風に見えるんだろう。
(2007/07/22)

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最終更新:2007年07月22日 22:45
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