吉田秋生

BANANA FISH






 すごく泣きたい気がするのに泣けない状態になった。泣けるというのは、生まれた感情を吐き出せる出口があるということで、それができない時、胸の中で何かがうねうねしているような感情になるのだと思った。西加奈子や、清水玲子の「秘密」、そしてこの漫画の場合はそっちだった。泣けそうなものだったのに。重たい、でも良い漫画だった。
 この漫画はだいぶ古い。お勧め漫画とかの記事があると大抵出てくるけど、時期を逸した感じで今まで読んでなかった。思春期の多感な時期に読んでいたら、間違いなく影響されていただろうと思う。
 ぱっと見た時は古い漫画だという印象。コマが単調なことや、服装が古いこと。しょうがないのだけど、読んでいる間「ここは見せ方によってはもっとインパクトが大きいのに!」と何度思ったことか。でもそんなの関係なく、良い漫画は良いのだとも思うことができた。
 ニューヨークを舞台にしたこの漫画は、テーマとしてはきつい。ストリートギャングやマフィアの抗争、麻薬に児童の人身売買みたいなものも含まれる。主人公のアッシュは金髪碧眼の超美形、かつ天才。幼い頃マフィアのゴルツィネの男娼だったアッシュはその能力を見出され、十代にしてストリートギャングのボスにのし上がった。平和な日本から来た英二とアッシュが、偶然係わりあった「バナナフィッシュ」という謎に巻き込まれていく。バナナフィッシュとは何か。というお話。
 血生臭い周りの中で、アッシュは英二といるときだけ歳相応の少年に戻る。アッシュにとって宝物のような、唯一穢れの無いものが、英二への友情だったのだろう。住む世界が天と地ほど違い、あまり役にも立たない英二は、アッシュを恐れない。最後の巻ではちょっと感動した。
 絵は綺麗なのかどうなのかよく分からない。主人公のアッシュは美形設定で綺麗だとは思ったけど、右向きの構図ばっかりだったし。息を呑むほど綺麗な絵ではなかった。破れたジーンズにTシャツの裾を中に入れるスタイルや、英二の髪型は、昔だなぁと感じる。一昔前のアイドルみたい。モデルからしてそうらしいからしゃーないか。実写になるならリバー・フェニックスがいいなぁ。
 良い漫画だったし、ファンが未だ多いのも頷ける。万人にお勧めかと言うとやっぱりテーマがテーマなので、読む人を選ぶと思う。グロい表現はないけどロリホモの話は胸が痛い。勿論それも含めて、読んでよかったとは思う。無理強いはできないけど、お勧めはできる漫画だと思う。

 ここから先はネタバレです。
 最後の巻の英二の手紙の、「守りたい」というとこが胸に来た。アッシュはどんな風に思っただろう。ずっと自分が守ってきた英二に、そんな風に思われていたこと。死を目前にして、アッシュは満足したんだろうか。
 さっきも書いたけど古い漫画だからか、作者さんの意向なのか、この漫画は「見せ方」についてはあまりこだわっていないように感じた。12巻でアッシュがブランカに「俺は幸せだ」と言うシーンとか、最後の手紙のシーンとか、見せ方によってはもっと胸に迫るような描き方ができそうなのに、割とさらっと描かれている。ざっと読んでしまうと見落としそうだ(じっくり読みゃいいんですけど)。「そこが良い」という気持ちと、「もったいない~」という気持ちがせめぎあう。
 ところでこのお話を読んでいる間、要所要所で樹なつみの「パッション・パレード」が思い浮かんだ。全然違う話なのに、何か共通点を感じる。いや共通点というより、樹なつみはこれに影響されたのかな~っていう程度なんだけど。外国が舞台で日本人(霖)が現地のワル(キング、ジョーカー)と仲良くなるところとか、ワル(ジョーカー)が日本人(霖)にほだされるところとか、最終巻に収録されていた番外編のシンと暁が、ジョーカーとゆりに見えたりとか。特にジョーカーが無実の罪で連行された時に霖が警察にくってかかるところが、どこにも似たところがないのに思い浮かんだ。
 この作者さんの続編で「夜叉」というのがあるが、そこにもちょっとシンが出てくる。大人になったシンは結婚しているのだけど、日本人の年下の女性って暁なんじゃないかな。
(2010/03/13)

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最終更新:2010年03月14日 02:54
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