父親たちの星条旗

2006年11月映画館にて



 凹みました。っていうか重かった。見終わった後脱力していました。無言で帰る人が多かったように思います。エンドロール後に映像があるからかもしれませんが、途中で立つ人はほとんどいませんでした。でも私はどちらかというと立ち上がる気力がなかったから立てませんでした。
 誤解のないように言うと、これは「とても良質の映画」です。非常に真摯に作られていると思いました。「戦争」という側面を知るために、多くの人に見て貰いたいです。また、邦画でありがちな、お涙ちょうだいものでもありません。
 ただ、ただね…、真実すぎて直球過ぎて凹むのです。ハッピーエンドでないドキュメンタリーを見ている気分になりました。映画を「娯楽」と捕らえている私にとっては、重いのです。幸せな気分にはなれなかった。
 舞台は太平洋戦争のまっただ中、日本攻略に必要な硫黄島での戦いを描いています。この映画は「米国側」「日本側」から見た硫黄島の戦いを二部作って、日本側は「硫黄島からの手紙」として近々公開されるそうです。
 硫黄島で米国国旗を突き立てようとする一枚の写真、これが物語の核になります。当時戦局が思わしくなく資金不足にあえいでいた政府はこの写真で資金集めをしようと、旗を立てた兵士をヒーローに仕立て上げます。本国に呼び戻され、資金集めツアーに出されます3人。これはその3人にとっての戦争のお話です。
 少しグロいシーンもありますのでそういうのが苦手な人は気を付けてください。ただ唐突には出てこないので、目をつぶったりして回避することは可能です。ただ私が凹んだのはグロいからではありません。苦手ですが、そっちは割と平気でした。
 この映画には「安易な戦争ネガティブキャンペーン」「政治的な思惑」等は一切出てきていません。ですが「戦争はいけない」と素直に思えました。いえ「人間は愚かだ」かな。いろんな人に見て貰いたいような、でもお勧めはできないというか、複雑な感想です。きっと「硫黄島~」も見るんでしょうけど。

 兵士3人の苦悩は「戦争で死にたくない」という想いではなく、ヒーローに仕立て上げられた精神的な葛藤から来ています。ほんの何週間か前までは仲間と共に生死の境をさまよっていたのに、ヒーローに祭り上げられ毎日お祭り騒ぎ。性格は三人三様ですが、アイラの「ここにいるべきなのは俺ではない」という苦悩が痛ましかったです。全編通して彼は悲惨でしたね。幸せになって貰いたかったのに。彼の後日談は見ていて本当に凹みました。
 眉毛の濃い奴はなんか嫌な風に表現されていましたね。恋人もしかり。なんでだろ。もう一人はおいしい感じでしたが。
 凄惨な戦闘シーンが、おいしいものを食べてヒーローとして扱われ死ぬ心配もない本国と対比されて、かつ硫黄島の方がましに思えました。というかそれを狙っていたのでしょうね。悪気のない集団とはここまで無神経になれるものなのですか。硫黄島の山を模したオブジェに登り旗を立てるイベントは、本当に悪趣味だと思いました。
 一本目の旗、二本目の旗というくだりは、割とどうでもよかったです。そのエピソードがなくても、本国に帰る兵士は同じような想いを抱いたのではないかなと思います。
 衛生兵が日本軍に何をされたのか、映像でははっきり示されていませんでした。観ていた人はそれぞれ、思いつく最もひどいことを想像したのではないでしょうか。あそこは日本人としてはちょっと辛い場面でした。「そんなことする筈がない!」とは逆立ちしても思いませんが、自分の先祖の残虐非道振りを冷静に観ることはできませんでした。この映画が日本対米国でなければ、もう少し楽観的な感想を抱いたのかもしれません。何とも複雑な気持ちで映画を見終えました。
(2006/11/09)


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最終更新:2007年04月10日 02:20
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