映画にもなった作品。映画は見る予定はないけれど、本は読めて嬉しい。短編集なので読みやすかった。
「千葉」という名前を名乗る死神が主人公の、連作短編集だった。彼の仕事は標的が死ぬに値する人物かどうかを判断すること。その人物に接触を試み、「可」か「見送り」かを報告する。「可」の場合、彼は手を下さないが標的はなんらかの原因で死ぬことになる。対象者に特別な感情は持たず、ほとんどの場合を「可」とする。死神業界もかなりビジネスライクだ。
死神の立ち位置がぶれず、回を重ねても対象者に肩入れすることもない。感情を見せるのはミュージックに関することだけだ。なんで「音楽」ではなく「ミュージック」と言うのか分からないが、多くの死神は「ミュージック」が好きらしい。「死神」という非現実的な存在がCDショップの視聴を延々と続けているところで、現実世界と融合しているような気がした。
面白かったけど、映画になるほどかなぁと正直疑問に思う。伊坂作品の中でなぜこれを選んだんだろう。
伊坂幸太郎は私からすると癖が強いように思うんだけど、これはあまり癖や毒の無い、万人受けするような描き方に思えた。軽い読み物を拵えてみました、って感じで、それはそれで良いと思う。重たいのやスピードがあるのばっかだと気が滅入るし。雨の日はちょっと家でゆっくりしたいな、とそんな時に読みたい。べらぼうに面白いとか、号泣です!とかそんなことは言えないけど。
ここから先はネタバレです。
死神が終始クールなところが良かった。どんどん人間味に溢れてくる、とかそんなんはよくあるように思うので。死神がクールなだけに、人間の感情が際立ってとても大切なものに感じる。ちっぽけで右往左往しているけど、愛しいなぁと思った。
重力ピエロの春が出てきたのが面白かったけど、この作者さんはよくこういうことをするのかな?前もそんなんあったような気が。
この本での仕掛けって、最初「見送り」とした女が歌手として大成したことと、途中で出てきたストーカーに悩まされた女がラストの主役であること、この二つ以外になんかあるのかな。ラストはさらっと読んだけど、後からなんだかじんわり来た。腹を括った老女に弱いのです。音信普通だった孫に会うのが怖いから、同じ年代の男女を集めちゃうなんて、可愛くてかっこいい。なんで雨が上がったのかわからないけど、いろんな意味があったのかな。
(2009/12/07)

前半はじれったくてなかなかページを繰る手が進まなかったのに、中盤に来て一気に加速した。あれよあれよと言う間に終わり、読後感はかなりの満足具合。いやー面白かった。途中胸がキリキリして、私はそういうのは本来苦手なんだけど、今回はそれを含めて「良かった!」と思えた。ザッツエンターテイメント!って感じ。
主人公の青柳は仙台に住む宅配ドライバー。どこにでもいそうな平凡な男。地元出身の首相が凱旋パレードのため、仙台を訪れたあたりからお話は始まる。凱旋パレードで事故が起こり、青柳はそれの犯人だという濡れ衣を着せられる。ケネディを暗殺したオズワルドのように。彼は逃げ切れるのか?というお話。
権力を前に一般人は無力だ。水戸黄門の印籠のような裏技は出てこず、青柳は宅配ドライバーで培った人脈とかを使って逃げるんだけど、大人と子供のような戦いだ。ラストには満足!あーもうほんと満足!って話でした。これ映画化されるないかな。というか、こういうのを映画化して欲しいと思う。
余談だけどこのお話の中では、過去起こった事故のためセキュリティポッドという監視カメラがいたるところに設置されている。青柳はこのセキュリティポッドによって、逃亡を阻止される。現実世界でも街中にはいたるところに監視カメラがあり、政府主導で導入されるのも時間の問題だと思う。ただ悪いことに流用される可能性があるものが、政府主導で動くことが恐ろしい。「やましいところがなければ、問題は無いはず」という詭弁とは、もはや別問題だ。
伊坂作品は何も考えなくて済むような小気味良いお話もあるけど、こういった政治に無関心な市民への警鐘を鳴らそうとしているんじゃないか?と思う話がちらほらある。娯楽小説の皮をかぶっているけど、「気付け」というメッセージを常に発信している。この話もそうだ。大きな流れにそのまま乗っている自分には、耳が痛い。
考えろ考えろ。監視社会はもう目前だ。
(2009/05/06)

最近伊坂作品が続いているお話。「魔王」が毛色の違うお話だったので、少々身構えて読む。普通(?)のお話だった。よかった。
三つくらいのお話が同時進行している。時系列が一緒なのかも定かではない。「どこで騙されるんだろう」と深く考えることもせず、ネタをばらしてくれるのをただひたすら待っていた。「魔王」読んで全く学習していない私。
リストラにあって再就職もままならない中年男。愛人の野球選手と結婚するため、お互いの伴侶の殺人を企む精神科医。下調べは怠らないシニカルでプロフェッショナルな空き巣。神である教祖を解体しようというもちかけにのる新興宗教の信者。「金で買えない幸せはない」と豪語する男に、金のために付き従う画家の女。それぞれのストーリーが別のところで始まり、絡み合ったり離れたり、というお話。こういう描き方のこと、なんていうんだろう?
面白いんだけど、飛び飛びに読んだし、エピソードが多いのもあって、「強烈に面白い!」とはならなかった。「あーそうきたかー」と間延びした感じ。これは私の伊坂幸太郎に対するハードルが上がっているからだと思う。エピソードそれぞれの最初に書いてある絵が可愛かった。あと、中年男が途中から行動を共にする野良犬との会話が面白かった。
ここから先はネタバレです。
つながりが今イチ分からなかったけど、空き巣が会った旧友が精神科医の夫なんよね?んで空き巣と会ったことで、精神科医との離婚を決意したことで、結局殺されなくてすんだ、のかな?空き巣関連のところはちょっとややこしいと思った。読解力がないだけとも言うけど。
あとなんで精神科医の愛人は、精神科医を殺さなきゃならなかったのかしらん。自信満々な精神科医が実は愛人に裏切られていたってとこは、溜飲が下がった。良く考えたらこんだけのエピソードをところどころくっつけるのってすごいな。やっぱりすごく面白い話だったのかもしれない。もう一度読んだらもっと面白いかも。
(2008/08/16)

読んでいる間は胸が苦しくて、読み終わってからはものすごーく考えこんでしまう本だった。面白いといえば面白いのだが、娯楽として読むのは申し訳ないような気分になった。「早く読み終わらなきゃ」と何故だか焦ってしまい、一気に読みきった。
今まで私が読んだ伊坂作品とは違っていた。本から「考えろ。考えろ。」というメッセージが常に発せられているように思えた。息苦しいように思えたのは、きっとこの本のメッセージが私のような人間に向けられていたからだ。
お話は二つに分けられる。前半は兄が主役。兄はある日、自分の思った言葉を他人に喋らせることができるという能力に気づく。弟と弟の彼女とそれなりに幸せな日々を送っている兄なのに、犬養という主張の強い政治家の出現に考える。「考えろ、考えろ、マクガイバー」とつぶやきながら。犬養は国民を惹きつける。正か負か、どちらにしても大きなエネルギーを持つ人物だ。彼が国民を導く先は、楽園なのか。それは誰にとっての楽園なのか。考えて考えて考えすぎちゃった兄は、どうするのか。
後半は弟。彼女と二人でのんびり暮らす弟。鳥が飛んでくるのを6時間でも7時間でも待ち続ける仕事。のんびり、のんびり。これは彼女視点で、弟の考えてることは良く分からない。でも弟も動き出す。言っていることが兄と似てくる。彼は運が強い。じゃんけんでは負けない。それも弟の能力なのか。犬養は言う。「俺を信じるな。考えろ」考えて、そして弟はどうする?
すごく説明しにくい。一つ一つの文章が短くなってしまった。政治家は出てくるけど、マルクスかレーニンか忘れちゃったけど、政治家の名前や主張なんて出てくるし。でもこれは政治の本ではなく、考えないで流れに乗っちゃう民衆に向けて描かれた本だ。
犬養の主張は一見右のように見えるけど、読んでくとどっちからわからなくなる。アメリカを排除しようとしてるとこは左?でも左は中国を嫌っていないよね?憲法改正だから右?カテゴライズして安心したい自分がいる。私は考えていない。系統立てて、既にある流れにこの作者の主張を乗せたい。じゃないとお尻がむずむずする。前にもどっかで書いたけど、私のスタンスが分からなくなってしまう。座りの悪い気持ちで読み続けなくてはならないのは、しんどい。でも作者はそんなことはお見通しで「あなたが考えなさい」と問いかけられている。物語が進むにつれ「ほら、ほら!」と急き立てられる。挙句の果てに「信じるな」と言う。犬養や兄や弟、どれかの意見に乗りたいのに「考えないならお断り」と拒絶される。哀しいまでに私は一般庶民だ。頭の悪い方の。考えろ考えろマクガイバー。でも何を?
舞台設定が最近の日本で、怖かった。特に日本で反米感情が高まり、ケンタッキーおじさんの像を燃やそうとしたりするところは、どこかで見たことがあると思った。ごくごく最近中国で起こった反日活動だ。日本を大好きなアメリカ人の家が燃やされる。兄の主張は圧倒的多数の意見に飲み込まれる。一人、流れに逆らおうとした兄のように、私はなれるのか?
この本を読む時、私は傍観者でいられなかった。だけど兄にも弟にも自分を投影できなかった。私の立ち位置は、「考えろ」と矛を喉元に突きつけられている民衆の一人。ワン オブ ゼム。傍観者でいたいけれど、正義の味方でいたいけれど、善意の第三者でいたいけれど、あそこで糾弾されているのは私そっくりの別の人。「私は違う」なんて根拠のない自信は持てない。
支離滅裂な感想になったけど、読んだ後はもっとまとまってなかった。感情を揺さぶられるというより、根っこをなぎ払われた感じ。すごい本だけど、もう一度読むにはライフゲージが溜まらないと読めない気がする。読んだ後は疲労困憊。
(2008/08/14)

本を読み始めしばらくの間、「これはどんなお話なんだろう」と探りながら読み進めるのが好きだ。どういう傾向なのか、本と対話しているような気分になる。怖いのか?痛いのか?哀しいのか?面白いのか?美しいのか?切ないのか?笑えるのか?はたまた、軍事関係か?殺人事件なのか?ホラーなのか?人情話なのか?時代物なのか?ある程度読んでそれらの方向性を頭の中でまとめ、そしてやっと落ち着けて読める体勢が整う。状況説明を端的に速やかに、且つ説明と感じさせない作者さんだと、早いうちからワクワクできて好きだ。逆になかなか体勢が整わないお話だと、いつまでも座りの悪い気分が続いて入り込めない。多分私は予定調和が好きなのだと思う。安心して読みたいのだと思う。「こういう傾向のお話なんだな」と腰を落ち着けて読んだ上での意外性なら、大歓迎なんだけど。だからさわりのエピソードが上手いお話は好きだ。
このお話が突出してさわりが巧いのか、と聞かれると良く分からないけど、登場人物5人の性格や彼らの間に漂う空気にすんなり入り込めたので、冒頭のようなことを思った。語り手である北村も、どのような人物か良く分かる。西嶋はかなり変わった人物だけど、早い段階でそれを感じることができたので、本と探りあいのようなことをしないで済んだ。私にとってはとても面白いお話だった。
お話は、北村という大学生視点から語られる。彼は大学に入学して、鳥井というお調子者や、西嶋という超絶変わり者、誰もが振り返るような美人の東堂に、控えめだが独特の雰囲気を持った南と知り合う。彼らと麻雀したり、合コン行ったりして過ごす大学生活を描いた、爽やかな青春物語だ。ちょっとひねくれてるけど。でも私は爽やかだと思ったのだ。最近この作者さんの本を読んで、爽やかな気分になることが少なかったので、明るいネタばかりじゃないけどとても面白かった。そのうちドラマになりそうな感じ。
ここから先はネタバレです。
西嶋が中であがった時、不覚にも泣きそうになった。これで泣かされるなんて。読み返すと春と同じ台詞で、なんかじーんとした。登場人物はホスト礼一を除いて、全員面白い。実際にいるのかなーなんて思っちゃうけど、好きだ。一番変わり者な西嶋だけど、彼が一番現実にいそうな気がする。東堂のバイト先に行っちゃうところや、ビルに中を作っちゃうところがいい。
名前忘れちゃったけど、同級生のチャラい奴が「お前らの仲間になりたかった」ってとこは、頷きながら同意。私もこんな仲間が羨ましい。私がこのお話の中に入ったら、間違いなくそのチャラ男の位置だと思う。変に気負わない、肩肘張らない、常識ぶらない人間じゃないと無理だと思った。
お話が春夏秋冬に分かれていたから一年の話かと思っていたら、四年間の話だってことに最後の方に気づいた。相変わらず適当に読んでいるなぁ私。
「なんてことは、まるでない」で終わるような感想を書こうと思ったけど、思いつかなかったから終わり。
(2008/08/08)
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最終更新:2009年12月07日 22:56