野沢尚

破線のマリス


 破線とはテレビ画面を構成する525本の走査線のこと、マリスとは報道の送り手側の意図的な作為、または悪意のことらしいです。その題名が示す通り、このお話はテレビ局に属する女性が主人公で、放送に携わる者の情報操作が主題になっています。
 ニュース番組の映像編集を担う瑤子は、万人に等しい真実なんてないと思っており、自分の印象で映像を操作します。ところがある一人の映像に関わったことで、瑤子自身の身の回りに影響を与え始めるお話です。
 テレビ局の映像編集という普段お目にかかれない業務内容について、かなり詳しく書かれており非常に興味深かったです。テレビ番組を裏から見ているようで、いつも見てるニュースはこんな風に作られているのかと感慨深い思いを抱きました。スムーズに読み始められたなという印象がありますが、それはストーリーもさることながらテレビ業界の仕事が面白そうだったからだと思います。
 反面、入りはすごくよかったのに、後半ちょっと失速気味かなという印象を受けました。この作品は江戸川乱歩賞を受けたとのことです。実はこの本を読みたかったのは福井晴敏の「川の深さは」を押さえてその賞を取ったと聞いたからです。「川の深さは」はすごく面白くて、これより上ってこと?って興味を持っていたのです。ただ読後もやはり「川の深さは」の方がよかったなと思いました。
 テーマは深くて、業種も特殊でそこだけとっても面白い、また考えさせられる作品でもあります。そんなに難しくもないし読み易かったので、お勧めです。ミステリ好きな人には特に。通勤時間に読んでいたのですが、先が気になってしょうがない数日間でした。

 このお話は事件が起こるというよりかは、事件に瑤子が関わりにいってるのですけど、いつも映像上で見ている事件がいきなり自分の目の前で実体化されちゃうわけです。瑤子はびびったんじゃないでしょうか。はっきり言って瑤子には全く共感できず、報道に意図的な操作を加える際には嫌悪感を抱きました。麻生の凶暴性はそれを緩和する為のものだったのかもしれませんね。麻生が普通の人なら瑤子はただの悪者になってしまうから。
 最後まで読んだあと、少し消化不良を起こしました。確かにオチはついたのでしょうけど、結局これは誰がどう仕組んだのか息子以外の謎がはっきりしなかった。しっかり読み進めないとわからなかった。後半少し主題がぶれたという感じがしました。入りがよかっただけに残念です。
 それでも瑤子の中盤少しずつ壊れているところは面白くもあり、読み進めるのが怖いときもありました。いつ瑤子が抜き差しならない立場になってしまうのだろうと。
 先が気になってかなり斜め読みになってしまったので、もう一度読み返したいと思います。
(2006/03/26)

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最終更新:2007年04月02日 23:48
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