吉村明美

悲劇の女王

 最初に申し上げますと、私この作者さん大好きです。「麒麟館グラフィティー」「薔薇のために」「海よりも深く」と、どれも地味なのにドラマティックで読み応えがあります。どちらかといえば長編の方が面白いと思いますが、短編もいけます。それを踏まえた上で。
 駄目。この本は駄目でした。後味が悪い。気持ちよくない。漫画としては面白いのかもしれないし、試みは面白いと思うのですが、駄目。読んでハッピーな気分にはなれませんでした。
 一冊のなかに短編が3本か4本(読み返す気になれん)。綺麗だけどプライドが高く、性格が超悪くて救いようのないある女性を、その周囲の人間が語る形で続きます。その人たちの回想から、主人公の女性の人生が浮かび上がります。最初から最後までそいつは嫌な奴で、潔いくらい嫌なままで終わりました。まぁ変に「こんな理由があったんだ!」的な展開になっても嫌ですが。でも読んでて空しくなりました。
 この作者らしいけなげな良い人はもちろん登場しますし、そんなに悪い扱いにはならないのですけど、なぁんか嫌な気分が抜け切らない読後感でした。次作に期待だ!
(2010/04/21)

海よりも深く





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 久しぶりに一気読み。大好きな漫画家さんです。
 主人公は千年眠子(せんねんねむこ)という札幌の女子大生。ある日占い師に「3年後に死ぬ」と予言されますが、同じことを言われた四方山十三(よもやまじゅうぞう)と出会います。「3年後に死ぬのは2人のうちどちらか」。成り行きから眠子は十三と、そして眠子の親族の巫女のばあちゃん2人を引き取って暮らし始めました。複雑な生い立ちを持っている眠子は、その共同生活を楽しみます。死ぬまでに果たしたい十三の望みは「子供を作ること」。片や眠子は「恋をすること」でした。さて彼女達の共同生活やいかに。3年後2人はどうなるのか。というお話。
 全十巻で、物語は色んな方向に飛びます。眠子の生い立ちを探ったり、十三に惚れる女性が出てきたり、眠子に付きまとう男性が出てきたり。眠子は小さい頃から「自分を殺す」ように育ってきており、彼女が自分を分析し、前向きになっていく過程がとても好ましいです。すごく深い台詞もあって、何度も泣いてしまいました。自分を深く見つめることと、人との関係性をしっかり描かれる漫画家さんで、肯いてしまうことも多いです。逆に自分に痛いことも。
 余程のことでは生きていくのに不自由しないこの時代になって、精神的な傷が注目されているように思います。アダルトチルドレンや、ネグレクト、言葉によるセクハラやモラル・ハラスメント、トラウマ、大きなくくりだと鬱病やADHDや嫁姑問題もそうじゃないかなと思います。肉体的な傷だと誰が見ても分かるけど、精神的なものは分かってもらいづらい。下手すると甘えだの根性が足りないだの心構えが悪いだの言われてしまう。ましてや生存すること、食べていくことが大事だった時代なら、そんなことは考えられなかったでしょう。心と体は繋がっている。肉体的に危害を加えなくても、精神的にダメージを負わせることは可能なのです。
 話がそれてしまいましたが、眠子は幼い頃から罪悪感を刺激されて育った人間でした。自己評価が低く、理不尽な仕打ちを受けても、自分が悪いんだと思ってしまうような。その彼女があと3年の命だと言われ、十三や福子と八重という優しい婆ちゃんと出会い、誰かを大切に思うことによって自分を育てなおす経過が描かれています。
 この本を自分を完全な傍観者の位置において読むのは難しかったです。私は、眠子の卑屈な部分であり、眠子を傷つける加害者でもありました。自分を裸にして見つめなおす眠子を応援しながらも、「私にはできない」と思ってしまう。自分の心にも闇があり、それと対峙するのは怖い、パンドラの箱を私は開けたくない、そう考えてしまいます。
 なんだか面倒くさいこと言ってますが、そんなこと考えなくても単純に面白いです。大人のほうが面白いと感じるかもしれません。お勧めです、特に一気読みするのが良いです。
(2007/06/30)

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最終更新:2016年08月15日 16:56
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