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辻村深月

凍りのくじら


 とても面白かった。名前は聞いたことあるような気がするけど、読むのは初めての作家さん。
 主人公の理帆子は高校生。藤子不二雄の、特にドラえもんが大好き。藤子先生(彼女はこう呼ぶ)が、「SFとは少し(Sukoshi)不思議(Fushigi)のことだ」と言ったのを真似して、自分も周囲の人間をこっそり「少しナントカ」と言い表す遊びをしている。進学校に通っていて、クラスの実力者女子や、軽いいじめられっこ女子にも好かれる理帆子。放課後は学力の落ちる別の高校の女の子と飲み会に勤しむ。どこでも溶け込める、そんな自分のことを「少し(Sukoshi)不在(Fuzai)」と言う。どこにでもいられるけど、どこにも居場所がないと感じている。
 お話の流れも面白かったが、何より理帆子が昔の自分にちょっとだけ似ていて、それが痛かった。私も本が好きだったし、そこそこ勉強もできた(中学までね)。本で得る物語、悩み、葛藤をさも自分が経験したかのような気分になっていた。全部そっくりとは言わない。少なくとも私は頭が悪くても可愛くて社交的な女の子を、最初から強烈に羨んでいた。どこにでも溶け込むことはできなかった。そして溶け込めない自分を「私は周囲とは違う」なんてなんの根拠もない優越感らしきもので守っていた。だけど、理帆子が感じていた疎外感は理解できるような気がする。私は一人の孤独より、大勢の中での疎外感の方が苦手だけど、その時は一人でいるのもやっぱり嫌だった。誰が読んでも面白いと思うけど、特に読書が好きな女性はどこかしら理帆子に共感するんじゃないだろうか。後半の怒濤の展開に、泣けてしょうがなかった。理帆子を通して、思春期の自分を思って泣けていたような気がする。
 題名のせいか、終始ひんやりとした感覚の文章だった。静かに潜っていくように物語は進む。ドラえもんの道具が随所に出て来て、その使い方が秀逸だと思う。誰もが知っているドラえもんをこんな風に使う人に初めて出会った。一歩間違えると狂気に振れそうなお話の中で、そこだけがほのぼのしていて暖かい。
 うまく言えないけど、物語を通して自分を省みてしまうお話だった。自分も浄化されたというか、救われたというか。
 面白かったので、他の本も読みたいと思う。とてもとてもお勧め。

 ここから先はネタバレです。
 最後、不思議な展開になって気になってもう一度読み返した。なるほど、父親(の若い頃)は確かに誰とも喋っていない。私はあまり考えずに読む方なので、郁也を理帆子がおんぶしたあたりまで何の疑問も抱かなかった。
 理帆子が若尾と縁を切れなかったところは、少しイライラした。もうやばさ満点なんだから、さっさと着信拒否でもなんでもすればいいやん!と。そうしたら話は終わってしまうけど。静かに人が狂って行く描写は怖い。
 最後の「少しなんとか」はなんだったんだろう。それが気になるな~。
(2010/02/20)

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最終更新:2010年02月21日 00:13
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