
灰谷健次郎さんの作品です。名前は知っていますが、もしかして読むのは初めてかもしれません。
金銭的に恵まれない家庭で育った三人兄弟の長男が主人公で、彼の語り口調でお話は進みます。彼は自分を自分で名付けた「我利馬」(ガリバー)という名前で呼びます。私から見ると彼は、母親と兄弟を若干十代で養い、それを当然のことと受け止めており、よくある「愛情に恵まれなかったからひねくれた」不良少年とは違います。普通の言葉を話し、普通に優しそうに思えるのに、でもなんだか違うのです。わかりやすくぐれているのではなく淡々としているというか、例えば「慈善家に甘えて油断させ家に入り込み、お金を盗む。『あの子はいい子なんだけど手癖が悪い』と思わせればしめたものだ」といった趣旨のことを罪の意識無く語り、それを当たり前のこととして受け止めているのです。例えば、何かに対する報復のように、或いは罪悪感を感じつつもせずにはいられない、というのであれば何となく理解できそうな気がするのですが、我利馬にはありません。
弟や働けない母を大事に思っており、弟が自分を慕いながらも自分の財布からお金を盗むことも理解し(許すわけではなく)、それでもそこから離れようとする我利馬を、私は理解できませんでした。「その気が知れない」という嫌悪から来る「理解できない」ではなく、全く想像がつかない。私は明日のご飯に困ったことが無く、彼のように達観するには同じ経験をしないと無理なのかもしれないです。そういう考え方ってあるのだなぁと思いながら読んでいました。
一人称で語られているので読みやすくはありました。ただ彼が未練なく捨てる世界は、私のいる世界であるということが何だか悲しく、読み進む間ずっとその悲しさが消えなかったのが、「面白かった!」とは言えない理由だと思います。
それにしてもこのお話、現代日本の歪みみたいなものを描いているのかと思いきや、途中で冒険譚みたいなものになって、終いにはファンタジックな展開になり、なにが何だかわからない魅力があります。後半の展開は子供向けにも思えますが、主人公の置かれた環境は子供には向いていないのかなとも思いますし。あとがきで書かれている通り、シリーズ一作目のつもりらしいので続きが出たら読んでみようかなと思います。
途中に「人に寄せる思いが自己陶酔に終わったり、自らをなぐさめるためにあるなどということは許されることではない。」という記述があり、図星を指されたような気がしました。私に対する戒めのように聞こえます。こういう自分の心に響く一文を見つけると、本を読んで良かったなと思います。
(2006/11/23)
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最終更新:2007年04月02日 23:49