京極夏彦2

百器徒然袋―雨


 大 満 足 。
 大文字フォントで語りたい位に大満足でした(でも面倒だからしない)。面白かったー!
 これは京極堂シリーズの登場人物、名探偵榎木津礼二郎のスピンオフ作品です。三作品入っておりまして、どれもたっぷり榎木津の魅力満載でございます。京極堂もちゃんと出てくるし、短編だから読みやすいし、もう言うことありません。ずーっとニヤニヤしながら読んでいました。読者に優しいつくりだなぁと思います。
 榎木津の登場シーンが終わると、「ふぅー」といつも大きく息を吐きます。もしかして榎木津が出ている間ずっと息を止めていたんじゃないかと思えるくらい。息を止めるは大げさだとしても、かなり集中して読んでたんでしょう。天衣無縫さ、豪快さ、荒唐無稽さ、全てが好きだー!
 「性悪金持ち坊がお手伝いの娘に集団で乱暴」した事件で犯人達を懲らしめるお話、「甕(カメ)と壺の違いって何なん?」ってお話と、「海原遊山の変わりにお坊さんが主催する美食倶楽部でヤマアラシを探す」お話の三篇が納められています。めっちゃ適当です。だってお話は二の次だから♪もちろん、いつものようにパズルが嵌るようにお話が帰結する気持ち良さはありますが、そんなことより榎木津楽しもうぜ、と思ってしまうのです。色々事情があって入り組んだ人間関係やらを、榎木津が豪快に破壊するところに意義があります。京極堂と榎木津が主で動くことが大変爽快でした。
 語り手は関口に近い位置付けの、ごくごく平凡な男性です。一話目で彼の用事は終わったのですが、得体の知れない魅力に抗えず、なんだかフラフラと薔薇十字探偵社に引き寄せられ、二話目、三話目の事件を目の当たりにします。彼は探偵社や京極堂に足を運ぶ以外は、全て受身の立場です。私達読者は彼と同じ立場で、榎木津達に翻弄されるのです。
 毎回彼に偽名が与えられるのですが、京極堂が「彼は私の助手で、河川敷砂利彦といいます(要約)」と言う場面では、冗談ではなく噴出してしまいました。今でも笑えます。なぜそんな地味でかつ奇抜な名前が思いつくのか、不思議でなりません。本当にツボでした。
 というわけで、京極堂シリーズが好きな人には力を抜いて読めるのでお勧め。榎木津好きな人には聖書としてお勧め、全く知らない人には、う~んどうだろう。今は榎木津に目が眩んでいるのでよくわかりません。でも普通に面白いと思います。
(2007/10/26)

百鬼夜行陰


 果てしなく暗く、読んでいると自分がどんどん地面にめり込んで行って、鼻とか耳にねっとりした土が詰まってその内身動きできなくなりそうな、そんな本でした。いや分かるよ?こういうの好きな人もいるんだよね!オカルトなの?ホラーなの?どっちが好きなの?って私は分類わかんないんですけど、そういうの作者も好きそうですもんね。妖怪好きらしいですし、「哂う伊衛門」なんてまんま怪談ですし、本来の属性はこっちなのかしらん、と思ったりもしますけど。でもそんなこと考えずに読み出したもんだから、ただ一言「暗いわー!」
 この本は京極堂シリーズ外伝といった位置付けでしょうか。今までの京極堂の事件の人物をメインに短編が描かれています。トリが関口君メインで、それ以外はレギュラーは出てきません。京極堂シリーズを読み込んでいる人なら面白いかもしれませんが、記憶が定かじゃないので「これ誰やったっけかなー」ということが多かったです。視線恐怖症の人とか、久遠寺涼子とか、売春婦が嫌いな刑事さんとか、お坊さんとか、お堅い女教師とか。またホラーとしても読めるので、京極堂未読の人でもいけるかもしれません。
 この作者は本来属性は陰で、でも出版する以上一般受けするものを描いているのかなぁと思いました。陰陰鬱々と思い詰める思考を、なんでこんなに掘り下げられるんじゃと不思議に思います。後味いい作品は一つもありません。京極堂シリーズは明るいとは言えないまでも、「謎を解く」という決めシーンがあって気持ちいいのですが、今回は事件前の登場人物の心の動きを描いているので、全然ハッピーエンドにはなりません。ああほんと、カビでも生えそうに暗い。
 この本は、ホラーが好きな人、及び京極堂マニアにはお勧めですが、それ以外の人はやめた方がいいんじゃないかなと思いました。
(2007/08/13)

陰摩羅鬼の瑕


 京極堂シリーズ第八弾です。またまたまた分厚い本でした。
 今回はあまりテンションがあがりませんでした。榎木津の出番は割とあったのに、な~んか不発。久しぶりに関口出番多しだったのですが、な~んかいまいち。早い段階でオチが読めて、「まさかこれがオチじゃないよね?ね?ね?」て思いながら読んでました。
 鳥の剥製の数が尋常じゃない館に住む元華族。この家の当主は過去四度花嫁を迎えたが、その全員が新婚初夜の翌朝に物言わぬ骸となっている。今回新たに花嫁を迎えるにあたり、この怪事件を防いで欲しいと依頼を受けた榎木津は一時的に眼が見えなくなり、なぜか関口が付き添うことに。かといって、ただでさえ物事を混乱させる榎木津と、うつ病の関口では話にならず、さぁ花嫁はどうなる?!というお話でした。
 この人のお話はトリック云々が見所ではなく、こんがらがった紐を解きほぐす過程が見ていて清清しいのがいいんだと思いますが、今回は不発でした。見えている真実を登場人物すべてが見ない振りをしているように思えました。なので読みながらずっとイライラ。
 ちょっと京極堂シリーズへのテンションが緩んできたような気がします。しばらく読むのやめようかなぁ。

 こっから先はネタばれです。
 今回、早い段階で「伯爵は形があるものは生きていると認識しているのでは?」と思いました。反面「まさかそんなオチはないよなぁ」と信じたい気持ちがあり、ずっと「そんな簡単な筈無い!早くそれがミスリードであると示してくれよ」と願いながら読んでいました。そういう気持ちがあるから、関口の動きがまどろっこしくて仕方ない。その上榎木津がそれを示唆したコメントをする。榎木津の言う言葉は意味不明だけど真実を突いていることは昔から知っているだろうに、なぜそれを考慮した聞き方をしないんだ!とイライラしました。伯爵と話しているときでもそうです。なぜ「伯爵にとって死とは?」と突っ込んで聞かないんだ!と思っていました。
 最後の最後でその予想が当たってしまった肩透かし感。なんだかどっと疲れました。
 わからないのは、なぜ私ですら予想できるように描いているくせに、それをオチに持ってくるのかということ。私は推理小説を読みながら、推理をめぐらせることはありません。何も考えずただひたすら先を読み続けるだけの、ある意味張り合いの無い読者です。そんな私がわかるくらい、ヒントがあからさまで、しかも何度も出てきていました。それが不可解です。例えるなら、テストを受けたら簡単すぎて「何か裏があるのでは?」と思ってしまうように、何か他に含んだものがあるのでは?という思いが消えません。
(2007/03/16)


塗仏の宴



 やっと読み終わりました。京極堂シリーズ第六弾「塗仏の宴 宴の支度」、第七弾「塗仏の宴 宴の始末」です。「絡新婦の理」で分厚さがピークに達したのか、今回は前後編みたいなもんですか。そんなに頑張らなくていいのに。重いわ。
 感想としてはですね、まず読んだ直後に書き留めたものを。<ぐっと胸ぐらを掴みもう片方の手で往復ビンタをしながら「長いわぁ!」と叫んだ後、ぎゅっと抱きしめて「でも好きぃっ」と顔をぐりぐりしたい、そんな気持ちであります。あああそれにしても 榎さん好き。何度本に頬ずりしたか。>テンション高いですが本当にそんな気持ちでした。興奮冷めやらぬうちに書いておかねば!と思ったのです。阿呆丸出し。
 すでに京極堂シリーズの楽しみ方は、「いろんなところで起こっている事件をちょっとずつ描く。→どういう風に絡んでくるのかわからない。→めげずにちょっとだけ事件が進む。→まだよくわかんない、ていうか難しい、覚えられない。→寝る時間が来る。→忘れてるけどとりあえず頑張って読む。→もう面白いのか面白くないのか分からなくなってくる。→京極堂登場!→事件がつながるよベイベ!→そういうことだったのか!→寝る時間が来ても寝られません。→解決。→力つきて眠る。」がパターン化しているのですが、今回もそれの通りでした。登場!までが長いですが。長いよ、ほんと。疲れたよ。
 んでまぁ、今までの事件はレギュラー陣が何らかの形で巻き込まれるのが多かったのですが、今回はほぼ全員巻き込まれかつ京極堂の事件というところがいつもと違いました。ただ何だかいつもほど面白くはなかったです。「やっと京極堂登場したぁ!」という感動は、それまでが長かった為すごいものでしたが。何となく風呂敷を広げすぎて、たたみきれなかった様な印象は受けました。長すぎたのと、登場人物が多いのと、複雑なのと、私の頭がよろしくないせいだと思います。
 京極堂は今まで自分の思いを語らないキャラだったのに、鳥口が京極堂の心情に想いを馳せるところとか、榎木津が「お前だけが辛いのか」とか言うあたりがツボでした。ああどうせキャラ好きさ!京極堂と榎木津と木場修の会話が好きなんです。なんかもう「分かってる」感があって好きなのです。あとバー猫目石の女主人も好きだなぁ。榎木津が「敦っちゃん」やら「雪ちゃん」やら呼んでいるのがどれだけ羨ましいか。私も「君はなんて愚かなんだ!」とか言われたい。
 とここまででストーリーについては、ほとんど触れてないことに気付きました。この本のテーマは「本末転倒」なのかな。騙している方が騙されているゲームなのです。新興宗教やら啓蒙の会やら予言者やらがたくさん出てきます。敦子も巻き込まれたり、軽く暴力を振るわれたりします。関口なんてひどい扱いです。京極堂はいつもより腰が重いのですが、なんだかんだでいつも以上に働いていました。
 それにしても事件後の関口フォローはどうなるんだろう…。なんか関口グラグラでしたけども。次作は関口から始まるのかなぁ。
(2007/03/13)

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最終更新:2007年10月27日 01:38
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