京極夏彦

絡新婦の理


 京極堂シリーズ第五弾です。女学校で起こる怪事件と、巷で起こる目潰し魔の事件が同時進行で発生します。これも別々の事件に見えますが、というか別々としか考えられへんやろって感じなのですが、あら不思議どっかで繋がってるんですね~ってお話です。いつものことですが、妖怪の話は全然覚えていません。
 今回は織作家という旧家が関わってきます。この織作家には三姉妹なのですが、皆べっぴんさんらしいです。三人とも怪しいです(古今東西怪奇事件に関わる美人は怪しいのです)。
 次女の葵について一言。彼女は所謂ウーマンリブ運動をやっており、つまり男女平等を声高に叫ぶ才女なのですが、それに対する京極堂の意見が興味深かったです。どんな風に興味深かったのかは忘れましたが(忘れたんかい)、なんか目から鱗が落ちる感じでした。端から見たら葵側のその意見は非常にヒステリックなものだったので、読みながら女性なのにうんざりしてしまいましたから。京極堂は奥さんをまぁいわば養ってるわけですし、時代が時代ですし、葵の意見を論破するのかなと思ったのですが、肯定していたのが印象的でした。
 相も変わらず榎木津がおいしいところを取っていました。今回は関口の出番ちょっとだけでしたね。まぁいいけど。
 これは分冊文庫版を読んだのでそんなに手はしんどくありませんでした。四冊分の分厚さはちょっと想像したくないですね。分冊文庫には手を出すまいと(高いし)思っていましたが、通勤時間に読めるのは非常に魅力的でした。ただ三冊目の終わりで興に乗ってしまい、四冊目は帰ってから夜中まで一気に読んでしまいましたが。いつもの通り寝不足だー。

 ここから先はネタバレです。
 このお話は最初と最後が繋がっていましたね。京極堂と全てを成し終えた茜が庭で語っているところから始まり、同じシーンで終わりました。なんせ話が長いんで全然気付かなかったんですけど、たまたま読み終わった後最初の方をぺらぺらとしていて気付きました。もう一回読みそうになりましたよ。やめましたが。
 茜はなぜ全てを計画せねばならなかったんでしょうね。そのへんはよく分かりませんでした。殺さなくてもよかったんじゃないかって思います。てかそんなにうまく行くかな~。まぁ京極堂シリーズはトリックやら動機やらが魅力ではないのですが。
(2007/03/12)

鉄鼠の檻


 京極堂シリーズ第四弾。今回はお坊様がたくさん出てきます。もう誰がだれかさっぱりわかりません。お坊様と鼠にこだわったお話?
 「姑獲鳥の夏」に出ていた(筈)の久遠寺先生が出てきます。確か関口と色々あった娘達のお父様。あとはレギュラー陣に、新しい人今川という人が出てきます。この人は骨董屋さんです。今回は珍しく話のきっかけは京極堂から持ってきます。曰く、山奥に古い蔵が見つかったのでそれの査定に行く。何週間かかかりそうなので妻も連れて行きたいが、そんな所に一人でおいておかれてもしょうがないし、関口さんの奥さんと一緒なら行くと言うだろう。ついては関口君が一人で不便だろうから、もう一緒に来ないか、って感じ。んで行くと結局事件に巻き込まれる訳です。
 キーワードはお坊様と死体と正体不明のお寺に禅。読み終わった後禅に詳しくなったような気がします。多分真剣に読めば、すごい知識量になる筈。よくわからんから読み飛ばしたけど。
 今回はあまり関口君の不安定さは見られず、ぐるぐるした感じはありませんでした。逆に京極堂がいつもと違って、面白かったです。また京極堂の出番が多くて、私としては嬉しい限り。なんといっても今回の特筆すべき事項は、榎木津探偵!いやいつも破天荒な榎木津ですが、今回なんか格好よかったのですよ、いえ本当に!読みながら「うぉう榎木津格好良いんですけど!」と思いながら、読んでました。京極堂と関口と榎木津の三人の友情もどきみたいなものが好きなんですよね。だから今回は読んでて面白かったです。
 京極夏彦先生は雑誌とかで見る限り着物をお召しになっているので、私の中の京極堂はまんま京極先生なのです。だから映画の堤真一はちょっと違和感あるなぁ。関口の永瀬はありかな。でも榎木津の阿部寛は…、ううん。トリックの上田のイメージがあるからなぁ。でもありと言えばあり。訳分からんとことか。
 まぁ鉄鼠の檻は、榎木津好きな人は特にお勧め!ということで。

 シリーズのファンの人にとっては、この本は京極堂と榎木津の出番が割りと多いので、好きな人が多いのではないかなと思う。また京極堂がいつもと違いちょっと自信なさげなところも見られるので、その辺が面白いと思いました。
 ただトリックや謎解き部分に関しては、今ひとつというのが正直なところ。結局鈴は成長しない病だったの?とか、悟った順に殺害していきましたとか、謎らしき謎がないので(そこは京極堂もずっと言っていたけど)。でも「なるほど!」と思うことがなかったから消化不良かと言えばそうでもなく、前作よりは面白かったな~というのが感想です。
 結局好きなレギュラーが出てきてたからかしら。私はそういう傾向があるので、面白いと思えるポイントが人とは違うと思います。ただね、本当に榎木津格好よかったの。
(2006/04/17)

狂骨の夢


 京極堂シリーズ第三弾。今回は骨にこだわってます。骨に関する様々な思いを抱いた人達が出会い、複雑に絡み合い、一つに収束していくお話。骨の夢を見続ける男、自分ではない記憶を思い出す女、その夫、執拗に女を追いかける復員服の男。今回は釣り堀を営む太公望が京極堂側の人間として登場します。彼には骨に対するしがらみはありませんが、レギュラーになるのかなぁ。その他のレギュラーは特に深くは絡み合いません。巻き込まれるくらい?あと京極堂の出番も少ないです。ちと不満。でも榎木津大活躍です。相も変わらず雰囲気はおどろおどろしく、読む人を選びます。推理物でいう謎解き部分までがかなり長いです。でもその分とてもすっきり終わります。気持ちいいですよー。色んなエピソードに説明がついて、もう一度読み返したりしました。視点が変わって面白いです。

 女性としてちょっと引いた部分は多々ありました。想像するとおぞましい。なるべくそのことは考えないようにして読みました。あとエピソードが多くて、途中まではっきり言ってよくわからないとこもありました。京極堂がなかなか出てこなかったのもストレスが溜まったのかな。その代わり、皆を一同に集めて憑物落としをするところは怒濤の展開で本当に面白かった。うまいなぁと思います、本当に。ただこの事件に絡んでいる人が集まるのが、必然性を感じられなくて、そんなにうまいこと行くかなと思いました。まぁそれを差し引いても面白いんですけど。
(2006/03/28)

魍魎の匣


 京極堂シリーズ第二弾。箱にこだわった作品。前作で関口君がえらいことになっていたので、同じメンバーで続くのかなぁと思っていたら、続いていました。今回は木場修がメインみたいです。
 ストーリーは、ある女の子が大怪我を負いますが、その原因が自殺か事故か分かりません。一緒にいたその子の友達は「黒い男が突き飛ばした」と言うが今ひとつ信憑性がない。怪我の具合は悪く、奇妙な病院に入院するのですが意識は戻らず。実はその女の子はある権力者の落とし胤で変な脅迫状がきます。並列して起こるバラバラ殺人がいかにその女の子に絡んでくるのか、一体犯人は誰か、というのが適当なあらすじです。
 こう書くと一般的な推理小説のようですが、やはりおどろおどろしい雰囲気は変わりません。魍魎とはなんぞや、という蘊蓄からまた奇怪なお話に変わっていきます。「姑獲鳥の夏」同様、読む人を選ぶお話ですが、面白いです。

 猟奇的なお話で絵柄を想像すると、ちょっと「うっ」となるお話でした。箱ってそんなにいいもの?まぁ犯人の心中を想像してもしょうがないのですが。思春期の女の子の描き方は秀逸だなぁと思います。ちょっとだけでしたが、にきびに嫌悪感を抱くって分かるような気がする。同じ思春期を過ごした女の私でも分かりづらいのに、男の人なら理解しづらいだろうなぁと思う。
 今回は木場修が主役っぽくて、あの女の人とくっつけばいいなぁと思ったけど、京極堂シリーズはそういう話じゃないものね。でも榎木津のシリーズが出るのかな。楽しみだ。実際関口と京極堂は結婚している訳だけど、ロマンスが全く思い浮かばない。そいういうのも書いてみて欲しいもんだ。
 いつもながら分厚い本で読み応えがありました。京極堂は本当にいいとこどりするけど、彼が出てきてからの怒濤の展開が楽しみで、頑張って読んでしまう。今回の、体の殆どをなくしても人は生きられるのかというトリックが、果たして医学的にありえるのかどうかはわからないけど、京極作品ならそれもまたあるのだろうかという気にさせる。ちょっとだけ、ちょっとだけ疑問は残るけどね。あと、おとんを男性として見るのはわからん。私ではありえん。
(2006/03/23)

姑獲鳥の夏


 初京極作品。分厚さにちと怯みながらも(長編は平気だけど一冊が分厚すぎ。辞書?!重い!)、読みました。なんというか、初めてのテイストでした。他の誰が書く本とも似ていない、この人だけが描く世界というか。
 表紙からしてそうですが、妖怪とか超常現象を扱うお話なのかと思っていたけど、全然そうじゃありませんでした。むしろ決め科白「世の中には不思議なことなど何もないのだよ」の言葉通り、全て理路整然としている。それなのに、この全体に漂うおどろおどろしい感じは一体なんなのだろう。読んでいると、こうぐるぐると眩暈がするような感覚に陥りました。トリップしてしまいそうな、平衡感覚を失わせるような。
 言い回しとか漢字とかは難しく、普段あまり本を読まない人には、あまりお勧めできません。私は割と漢字は読める(書けないけど)と自負していましたが、主人公の関君のように自信がなくなってしまいました。よ、読めーん!
でもとても面白かったので、是非読んでみて欲しいです。映画にもなったみたいですが、それはまだ見てません。とりあえず原作はお勧め。
 内容は、京極堂シリーズの第一作目。鬱病気味の関口、神主兼古本屋店主という世捨て人のような京極堂、天衣無縫というか天真爛漫というか型破りの探偵榎木津という男性が登場します。これに今回のゲストキャラとして、何十ヶ月も妊娠している女性とその姉、というのが出てきます。何十ヶ月も妊娠しているというところが謎なのですが、そのへんがオカルトちっくに進んでいくようでいかないんですね。

 関口の心理描写が巧みで、読みながらすっかり私も心細くなってしまいました。関口の気弱さにいらいらしてしまうこともありますが、きっと読者は関口側に置かれているんだろうな。作者は京極堂側。結局理屈で説明がついてしまった謎なのに、読み終わってすら感じるこのおどろおどろ感はなんなんだろう。
 京極堂が登場してからの推理小説で言う謎解き部分は、それまでが長く、どう片付けるのか全くわからなかったのもあって、読んでいて爽快だった。
 通常の推理小説と違うのは、誰が/どうやって/なぜ、という謎ではないからだと思う。
 それにしてもこの人の文章は特徴がありますね。
(2006/03/21)

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最終更新:2009年06月07日 17:24
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