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"キャバリエ"

「何も映らないね」

 風のない湖を思わせる鏡面を覗き込み、帽子の羽飾りが揺れる。

「おまえのこころ まっくらくらやみ。やみがふかい」
「まさか。やろうと思えば出来なくもないが」
「じょうだんだ。とおくのひと なりきり屋 これは かげ だな」

 遠くの人と呼ばれた異邦人は少し俯いて細い顎に手をやり、考え込む仕草をする。
 一拍、二拍。計算づくのテンポで間を取り次のステップ。
 肩口に垂らしていた細く結われた金髪を払うと、胸に手を当て肺に八分ほどの息を吸う。

「人生は歩きまわる影法師、哀れな役者!」
「なんだ それ」

 劇がかった調子の言葉は大ホール中に響いたが、反してアト・ランダムは冷ややかに返した。

「『マクベス』さ。こう続く。舞台で大げさに騒いでも、劇が終われば消えてしまう。阿呆どもの語る物語!」

 意味の大半は伝わらなかっただろう。

「では おまえは あほうか?」
「利口ではないけれど、否定しておこうかな」

 単刀直入すぎる問いかけに、苦笑しながら首を振る。

「では あわれな やくしゃか?」
「哀れな役は居ても哀れな役者は居ない、みんなで舞台だ。それも否定しよう」

 青い瞳に一転して強い意志が篭る。

「なら おまえは かげだ。なににでも なれる」
「となると僕は配役を自分で決められるのかい?」

 アト・ランダムは首を振った。

「わるいやつになったら こまる。だから せいぎの赤になれ」
「良いね。正義は物語を突き動かす」

 にこやかに頷くと、異邦人は腰のサーベルを抜いて宣言した。

「では、これより正義の騎士を演じるとしよう!」

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最終更新:2018年12月29日 22:01