お城の中の図書館は、驚くほどに広かった。
8年なんて時間では、ここの本の全てを読むことは絶対に不可能だろう。
私は安心した。
夜明けの時代「大魔城学園」
Short story. Episode Hikari.
「18歳と7ヶ月」
部屋には8年生の先輩が1人いて、
「先月先輩が卒業してしまって、ちょうど寂しかった頃なんだ」
って言っていた。
一緒の部屋になった女の子は、お人形さんみたいに綺麗な子で戸惑った。
口数は少ないけど優しそうで、私と全然似てない感じだなと思った。
魔法は難しかった。
全然思うように上手くいかない。
いつも失敗している。
同い年の子たちは最初から魔法を使えるような人ばっかり。
私はいつ笑い者にされないか、ヒヤヒヤしていた。
図書塔で、魔法の指南書をたくさん読んだ。
人の手伝いをしながら、たくさん教えを乞いた。
成果は芳しくなかった。
魔法の授業で、2人で組を作るように言われた。
銀華ちゃんが取っていない科目で、ほとほと弱った。
お姫様のような可愛らしい子が組んでくれた。
彼女は私に興味が全然無さそうで、安堵できた。
私が魔法を失敗しても、笑わないでいてくれた。
知らない先輩に話しかけられた。
へらへらとしてるのに、言ってることは難しかった。
よくわからない人だったが、会う機会は何故か多かった。
図書塔の帰り道、実習室からいい香りがしてきて足を止めた。
部屋に向かっていたお姫様みたいな子とばったり会った。
暇ならケーキを食べないかと誘われた。
断った。
銀華ちゃんはすごく優しくていい子だ。
部屋の先輩もよく気にかけてくれた。
2人とも、私の魔法の勉強を見てくれた。
筆記試験の成績だけは悪くなかった。
今の私にはこれだけしか無かった。
ここで失敗をしたらもうおしまいだとまで思ってた。
でも、一番成績の良い生徒はあのお姫様みたいな子だった。
天は二物も三物も与えるんだと思った。
また別の先輩に話しかけられた。
もっと年上の人で、背も高くて少し怖かった。
私が魔法が上手く扱えないことを聞いて気にかけてくれた先輩だった。
たまに魔法のことを教わった。
以前会った実習室の前で、またリィンちゃんにお茶会のお誘いを受けた。
今度は断らなかった。
ルームメイトの先輩は、卒業後の進路を悩んでいるようだった。
気分転換に、と私と銀華ちゃんに楽しかった学園生活の話をたくさんしてくれた。
そういう日々を私も送れるのか、不安になった。
リィンちゃんとのお茶会で、初めて魔法を思った通りに扱えた。
基本中の基本の、障壁の魔法。
彼女が珍しくくれたアドバイスのおかげだった。
それよりケーキを食べましょう、と言われた。
先輩が卒業して、後輩ができた。
後輩はすぐに謝る癖がある子だった。
私も銀華ちゃんも「大丈夫だよ」ってとてもよく言うようになった。
私たちも先輩になったんだと実感した。
少しずつ魔法を扱えるようになってきた。
私は、魔法の素質はあってもセンスは無いみたいだった。
自分用に呪文を丁寧に組み上げた。
人より少し手間をかければ、ちゃんと魔法が扱えるようになった。
リィンちゃんのいる部活に入ることに決めた。
木原先輩はとてもいい人だった。
彼はよく私に美味しいお茶受けを作ってくれた。
実技演習学を取ってみることにした。
全然だめだった。
誰かの役に立つどころか、ただの足手まといだった。
惨めだった。
フロードウェル先輩は、相変わらず何を言ってるのかわからない。
いつも鬱陶しいと思ってたけど、だいぶ慣れてきた。
面倒見のいい人なのだと理解した。
なんとなく心配されてるんだと思った。
たまちゃんが最近楽しそうにしてる。
ちょっと聞いたら、お友達ができたらしい。
嬉しいそうに話す彼女を見て、私と銀華ちゃんは顔を合わせて笑った。
とても嬉しかった。
魔法で少しでも役に立ちたかった。
でもそれはできなかった。
だから銀華ちゃんから他にできることを教わって、たくさん真似をした。
魔法はだめだけど、それ以外のところで少し役に立てるようになった。
日和川くんという子に会った。
すごく暗くて、誰もかれも静かに睨んでいた。
ナミ先輩の事を少し思い出して、私にできることはなにかないかと思った。
でも、親切を自称する上級生に、烙印に深入りするなと言われた。
調べた。
なんだこれ。
初めてこの地とこの城に、生理的な気持ち悪さを覚えた。
綺麗な女性の先輩にセッションのお誘いを受けた。
私のアコギターの演奏をどこかで聞いたらしい。
人前で披露するようなものでは無いので、お断りした。
実技演習学のための特訓に、朝居先輩が付き合ってくれた。
私の機嫌が良くないことに関して、特になにも言わないでくれた。
大きな事件があった。
異界から大量の霊が雪崩れ込もうとしていた。
すぐに動ける人が居なくて、寄せ集めのようなチーム、陽一先輩と、文屋先輩、メテオライト先輩にレックスくんと、現場に向かった。
人死にが出る事件だった。
たまちゃんが大怪我をした。
こんなに悲しい思いをしたのは初めてだった。
ナミ先輩はずるい。
嫌いだ。
クリスマスに、銀華ちゃんを孤児院に連れて行った。
私のギターの伴奏に合わせて、歌を歌ってくれた。
とても楽しかった。
奏くんがいたずらを起こしたという話を聞いた。
耳を疑った。
陽一先輩と桜を見に行った。
信じられない言葉を聞いた。
ロザリオを握りしめた。
私も変われるかもしれないと思った。
リィンちゃんが監督生になった。
人のことなのに、まるで自分のことのように誇らしかった。
嬉しくて、しつこいと言われるまでおめでとうと言い続けてしまった。
彼女の友人として恥じない人間になりたいと思った。
たまちゃんに連れられて、イベントのお手伝いに行った。
挨拶回りをして、たまちゃんのお友達に会ってびっくりした。
その子は有名なおうちのすごいお嬢様だったから。
私は衣装を着ていたので、とても恥ずかしかった。
奏くんと話す機会があった。
悪戯っぽく良く笑う子になっていた。
どうしようもない気持ちになったけど、私が悲しそうな顔をしてはいけないと思った。
話せて良かった。
料理は苦手だったけどせめてこのくらいはと、木原先輩からコーヒーの淹れ方を教わった。
まだあまりうまくいかない。
普段は紅茶しか飲まないリィンちゃんが、私の淹れたコーヒーだけは飲んでくれた。
初めてキスをした。
顔から火が出そう。
いろんな人に、いろんな場所に連れ出してもらうようになった。
図書塔に行く機会は減った。
エレナちゃんと清良ちゃんの舞台を観た。
圧倒的で感動した。
泣きそうになったけど、泣かなかった。
五条先輩のお誘いを断り続けてたら、たまちゃんが口説き落とされていた。
ギター以外のメンバーは揃えたと言われ、私は初めてエレキギターに触ることになった。
美雲ちゃんは、明るくてとてもいい子だった。
陽一さんと夏祭りに行った。
騙された。
リィンちゃんも裏で噛んでた。
私は観念した。
アリバイは偽装できても、銀華ちゃんとたまちゃんは騙しきれなかった。
翌日、陽一さんとの交際を白状した。
五条先輩と、たまちゃんと美雲ちゃんと、文化祭のステージに立った。
人生で一番恥ずかしかった。
でも、楽しかった。
人前でなにかをしてこんな気待ちになるのは初めてだった。
デッカー先輩のお墓参りに行ったら、知った顔にいっぱい会った。
一緒に行ったたまちゃんと、お話をたくさんした。
奏くんの姿は見なかった。
陽一さんを孤児院に連れて行った。
帰りに、家族の墓参りもした。
陽一さんが吸う煙草の香りにも慣れたというのに、私たちはいつまで経っても先輩と後輩だった。
墓前で弟に問うてみても、答えは得られなかった。
クリスマス。
私は泣けなかった。
泣けなかったことが、輪をかけて悲しかった。
今更、銀華ちゃんとたまちゃんの居るあの部屋に戻ることもできない。
夜の街で途方に暮れていたらリィンちゃんが迎えに来てくれた。
私は彼女の部屋で、初めて泣いた。
マビノギオンに来て、最初に零した涙だった。
桜の季節。
卒業した陽一さんを見送った。
桜はまた一緒に見れたな、って言われた。
ちゃんと私は笑えてたなら良かったと思う。
寮議会に呼び出された。
混乱したまま会議室に出ると、私が監督生に推薦されたという話を聞いた。
まるでわけがわからなかった。
事情を聞いて、その会議室に居る全ての人が敵のように思えた。
だから私はムキになって、人生で一番お行儀よくその任命を受諾した。
また捕まったついでに、ナミ先輩に愚痴を零した。
彼は肩をすくめた後、要約すると眼鏡の先輩は絶対に保証するって感じのことを言った。
その言葉を信じることにした。
私は議会の中で、ジェンナー先輩だけを信頼することにした。
まさかここでプラムちゃんと再会するとは思わなかった。
でも思い返せば思い返すほど当然だと思った。
彼女はなにをしても圧倒的だった。
比べられることは多かったけど、全然気にならなかった。
私もそう思っていたから。
リィンちゃんは、相変わらずだった。
いつも通り優雅に紅茶を飲んでいた。
私はいつも忙しかったけど、頑張って時間を作って、彼女とのお茶会のひと時は確保するようにした。
プラムちゃんやジェンナー先輩の役に立つように動こうと思った。
彼らでも時間のかかる仕事、雑用ばかりを積極的にするようになった。
構内を動き回ることが多くなって、神出鬼没だって噂が出るようになった。
私にもできるようなことがあって、とても嬉しかった。
たまちゃんと、みくもちゃんと、ひなた先輩と、最後のライブをした。
もう去年ほど恥ずかしくはなかった。
ひなた先輩が卒業してしまうのは、やっぱり寂しい。
銀華ちゃんと一緒に後夜祭で一曲披露した。
素敵な思い出だ。
部活動で、なにか賞をもらった。
混乱している私に、木原先輩は次の部長を任命した。
断ったけど、リィンちゃんと一緒に丸め込まれてしまった。
図書塔には殆ど行かなくなっていた。
監督生の後輩ができた。
自信満々で強気な星花ちゃん。
私はすぐに彼女が好きになった。
頼ってもらえるようになりたいなって思った。
気が付いたら、もう7年生だった。
相応しくないなんて、私が一番わかってる。
仕事も好きだけど、実は未練も無い。
でも、託されたものがあるから。
それがある内は、まだ。
最終更新:2019年03月03日 20:04