ハディエ

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ハディエ - (2019/01/23 (水) 19:49:59) の編集履歴(バックアップ)


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▼もしかして هَدیه(ハディエ)



+ SS①『ノーブルソード』
「アトがおしえてやる! おまえの こころの ありか!」

案内された部屋の席へ着く間もなく、眼前の化生はそのように述べた。
入学の際、この学園では必ずある幻想種から「組み分け」をしてもらうのが洗礼と聞いている。
つまりは…目の前に浮かぶ者がアト・ランダムであるに相違ない。

学内を少し歩き疲れたから、出来ることならば早く座って休みたかったが
席に掛けろと言われる前に座るのはやはり無礼というやつなのだろう。
ハナさんが教えてくれた日本の礼儀は此方でも通用するはずだ。我慢して立つことにした。


しかし。
心の在り処。改まってそう問われるとはてと困る。一体、心とは頭と心臓とどちらに宿るのだろう?


心。心の在り処とは、感情の在り処だろうか。
少し想いを馳せて、昔日の曾祖父や父のことを想う。せつなく、キリキリと心臓が痛むようだった。
彼らの無念を想えばこそ、私はマビノギオンに来たんだ。改めて確認する。

私はここで名を上げる。
こうして意を再度決してみれば、成程心とはやはり心臓にあるのだと思えた。


「わたしの心の在り処は……ここだと思う」

胸元を押さえて、アト・ランダムへと返す。しかし私の回答は気に入らないのか、変な顔をされた。
……間違ってしまったのだろうか?入学早々、落第とは情けない。とても気落ちする。
そう考えていると今度は頭が痛くなってきた。本当は、心は頭にあるのだろうか。


「ア アトがおしえてやる!おまえの こころの ありか!」

同じ設問を2度も出されてしまった。どうも私は質問を理解していないと捉えられたらしい。
聞かなかったことにしてやる。そういった気遣いをされたのは正直言って嬉しかった。
今度こそは、次はちゃんと答えよう。両方のこめかみに手を当てて、大きく返答する。頭だ!





暫く黙っていたアト・ランダムがずるずると鏡を持ち出してきた。
「組み分け」はまだ終わっていないらしい。私はどこへ行くのだろう。
疲れた足の疲労を誤魔化すよう、ぺたぺたとその場で足踏みをする。

そうしている内に、鏡に波紋が伝わり表面が綺麗な黄色と化していく。
なんだろうとぽかんと見つめたままでいると、傍に浮いているアト・ランダムが口を開いた。


「おまえは ゆずれない 正義を持つものか?」「無窮の 浪漫を 追い求めるものか?」
「守るべき 幸福を 称えるものか?」「はっきりとした 決意を 秘めているものか?」

一度にそう多く問われても返答に困る。頭の回転は鈍い方だと自覚している。
目顔でそう問うが、ぷいと顔をそらされてしまった。さきの回答からどうも目を合わせてくれない。
少し考えて……いや。考える必要もないように思えた。はっきりと前を見据えて述べる。

「わたしは―――――」








緑剣寮、ノーブルソードの自室は先輩との相室になる。そう受付から聞かされた。
見知らぬ人と一つ屋根の下で暮らす経験はあるといえばある。だが……。

思えば、はじめて国を出てホームステイした際も不安が大きかったように思う。
怒られて追い出されたらどうしようとばかり考えていた。結局、ハナさんが優しい人であったからその懸念は杞憂であったが。
だが、だからといって他者との共同生活に抵抗がないといえばウソだろう。何せ今回は一軒家どころか一部屋での共同生活だ。

そもそも男性と一緒であったならどうしようかと思う。それは初の経験になる。
緊張して夜寝れるかどうかも怪しい。かといって女性だったらいいのか、とはなるけれど
同衾であるのなら互いに比較的小柄であろう女性の方が融通が利くだろう。

それに私の寝相は悪いと、ハナさんはよく言っていた。
事実、ハナさんの家で朝起きたら顔やおへそに落書きをしていることが何度かあった。

日本の寝具に慣れないとよくあることだよと、笑ってハナさんは落書きを消すのを手伝ってくれたが、
自分の顔や体に書くならまだしも、他の人に書いてしまったら申し訳ない。

ハナさんの言では、私は顔にヒゲを書くのが趣味なようで、それはもう立派なカイゼル髭を描いてしまうそうだ。
貫禄がある人にならさぞや似合うだろうが、貧層な顔つきの私に到底似合ってるとは思えなかった。
ハナさんの家でも部屋に出来る限り筆記用具は置かないようにしたのだけれど、私は何処からか調達してしまうそうなのだ。
夢遊病の卦があるんじゃないかと、ハナさんに弱音を漏らしてしまったこともあったなと思い出す。そういえばあれ以降落書きが出たことはない。


クスクスとどこからか笑い声がする。案内役の女性が此方をみて笑っていた。
どうにもよほど不安に駆られたと取られたようで、安心させるために笑いかけてきてくれるらしい。
少し違うのだが、その気遣いは嬉しかった。優しさに応えて、私も精一杯笑い返してみる。

「年齢は離れてるけど、優しい女の子だから安心して」
「寮になかなか帰ってこないそうだから、部屋も比較的自由に使えるんじゃないかしら」
「研究連にいるようだから今日中にどのベッドで寝るか位は話しておくといいわ」

ありがちな麗句なのだろうが、ひとまずは同性ということで安心した。
口ぶりからするにベッドも複数あるらしい。とても助かることだった。
案内の後、部屋の鍵を渡し帰る彼女へと一礼をする。今日は少し疲れた。休みたい気持ちはあるが荷物を置いたら挨拶に行こう。

エリアス・プレッツェル。さて、一体どんな御仁なのだろう。













「わたしは―――――」
「わたしは、決意をしたい」
「この毒の異能を持って、異種並行世界との戦いへ赴くことを決意したい」

「毒を持って名を馳せたい」

そうだ。そのためにこの学園に来たのだから。


それを聞いたアト・ランダムは、ニヤつきながら楽しそうに緑の剣を掲げた。


+ SS②『gift』
殺した人が三桁を超えたと父が報告をしたのは十一の時だった。
私より幾分も寡黙な父が仕事の話をするのは珍しい。
何をどう返せばいいか迷った末に、そうかと一言ばかり返したの覚えている。


砂利の多い玄関先にしゃがむ父の背はどこか小さくみえて、最初は寂しそうだなと感じた。
少しでもそれが紛れば良いと、羽根を止め休む蝉のようにぴたりと背にくっついてみる。
体温と体温とが合わさる暖かな感覚が肌を覆う。鼓動の音がどこか安心をくれた。

肩へと寄せた頭へ大きな手が迫り、くしゃくしゃと髪を触られる。
初めから思い違いだった。寂しいと感じたのは父でなく、私自身だったのだ。
甘えるように鼻先を近づけて、ぐりぐりと押しつける。しばらくされるがままに髪を乱す。
一頻り撫でられた後、伸びる掌を両手で掴んで頬へと寄せた。節くれたこの手に撫でられるのが好きだった。


コーヒーに混ざっていくクリープのような、淡い雲が空に流れている。じきに夕暮れだ。
日が落ちて夜になり、そしてまた日が昇る。私は朝など来なければいいと常々思っていた。
朝になれば、父はまた仕事に出かけなければいけない。またいずれ人を殺さなくてはならない。
求められたことへと応えなければならない。父はそれに応え続けている。

人を殺すことは、どれだけ父の心に穴を開けていくのだろう。
その穴を埋めるのに、私は何を出来るのだろうといつも考える。
けれどいくら考えても、その穴を防ぐ方法など考えつきもしなかった。
人を殺す罪悪感と人を愛する心とは、相反している。同居したとてそれが打ち消しあうわけもない。
罪悪の穴は積もり、思い出は重なっていく。慕情はむしろ重荷になるようだと考えたけれど、とても明かせなかった。





今にして思えば、その想いは父も抱いていたのだろうと思う。
優しい笑顔の中に詰まっていたのは、娘を想う愛情。そしてどことなく困ったような苦い笑みだ。
鏡を見る度、年々あの笑顔へと私も近づいているような気がしていた。


父は医師だ。専門といえば内科であったがそれもどの科を専攻していたかは今でさえ解らない。
田舎で人出がない以上、頼られればなんでもやるよというのが父の言だった。
言に外科手術以外はなんでもかんでもやっていた気もする。看護師の母も似たようなものだった。
二人とも仕事柄家を開けている時間がとても多くて、そんな両親に負担をかけぬようにと精進を重ねていたが
やはりどうしても寂しいものは寂しくて。疲れているだろう彼らに、甘えて負荷をかけてしまうことがあった。
こうして十五で一角の人間になっても思うことは同じで、私は結局どこまでも子供なのだなと思う。


父は毒の異能を。一子相伝の異能を。毒を、人のために使うと決めた。
祖父の、私にとっての曾祖父の無念を晴らすために。
この毒の異能は呪いでなく、贈り物だと証明するために。人のために役立てていくと決めていた。

頼まれればなんでもやると。そう引きうけてたどり着いた先が終末医療。安楽死の現場に立つ、人の命を奪うことへ繋がるのはどんなに皮肉なのことなのだろう。
それを決意した父は。殺す相手に感謝を渡されながら人を殺していく。父の心の穴はきっと今も広がり続けている。
けっして殺すことに慣れてしまわないように。傷痕をつけて忘れることのないように。彼らの終わりを安寧にさせるために、父の現在は今でも乱れていく。



少し想いを馳せて、昔日の曾祖父や父のことを想う。せつなく、キリキリと心臓が痛むようだった。
彼らの無念を想えばこそ、私はマビノギオンに来たんだ。改めて確認する。


私はここで名を上げる。
毒でもって名を上げる。
戦いの場でこそ毒を活かして見せる。

この毒は一族への呪いなどでなく、贈り物であると私が証明してみせる。