"骨董屋"ベアトリス

+ 前話、あるいは余計な仕事への残響

 ……雨が降っている。
 あなたはその中を、傘を差して悠々と歩いている……もしくは、雨具も持たずに一心に走っている。
 そのどちらだろうと構わない。
 時刻は深夜の二時半。草木も眠る丑三つ時。
 雨音と、あなたの靴音以外は何も聞こえない。
 月明かりは厚い雲に覆われ、深夜であろうと輝くネオンは裏路地にまで届かない。

 ――そんな宵闇色の視界に。突如現れた紅い灯が、あなたの目を奪った。

「もし。少し時間を頂こうか、きみ」

 ……雨が降っている。
 だというのに、眼の前の少女は濡れてなどいないし、咥えた煙草には灯が点き続けている。
 この世のものでは、なかった。

「そう脅えるなよ、きみ」

 随分と背の低い少女の、灰と黄金の混じった瞳は。下から見上げるそれでありながら、あなたをただ、睥睨している。
 少女とあなたは――

+ A."メッセンジャー"
(少女とあなたは、同じ組織に属する同志だ。少なくとも、誰かはそう認識しているだろう)


「"黒"からの通達だ」

 平然と。雨の中でもくゆる紫煙を見つめて、幽体の少女は告げる。

「明日の14時、時城コンサートホールの前に立っていること。
 道を尋ねられれば、一人目には『商業地区の自然庭園の近くです』、二人目には『やけに急いだ様子で農業地区の方へ行くのを見かけました』、
 三人目には『行き違ったみたいです』と伝え給え。
 ――もしも四人目に道を聞かれれば、何も答えずに背を向けて逃げたまえ。でないと生命の保証はしない」

 不可解な命令。だがそれを、あなたが疑問に思うことはない……"黒"のギルド――ヴィルト商会の裏の姿を知る者であれば。
 いや。疑問を『抱いてはいけない』――その間違いかもしれない。
 あなたが頷いたのを確認すると、何の感慨もなく少女は背を向ける。

 撥ねた水滴に眼が眩めば、既にその場に少女はいなかった。




+ B."取り立て人"
(あなたは少女を知っている。だがそれは、知己や有名人に対してのソレというよりも――怪談に近かった)


「ウチから何を借りた? 金か? それともモノ? 人? あるいは――カタチのない、値の付けられないモノかな」

 紫煙を吐き出し、赤衣の少女はあなたを睨めつけた。
 "黒"――ヴィルト商会からの追手。『幽霊取り立て人』。

「まあ、どれであろうとあまり関係はないんだ」

 悠々と口上を述べる少女に、あなたは斬り掛かる。
 低い背を脳天から真っ二つにする筈だった刃は、しかし、少女の姿を、霞でも斬るかのようにすり抜けた。

「どれであろうと、『我々』は取り立てるし――私が来た以上、取り立て方も決まっている」

 灰に黄金が混じった瞳が、あなたを見つめる。
 突如、あなたは身体に熱を感じる。真夏のような、いや、それさえも通り越して、火山の火口に放り込まれたかのような。
 同時に、脚から力が抜ける。握っていた剣は地面に落ちて、冷たいはずのコンクリートでさえも、灼熱の鉄板のように感じられる。
 あなたは燃えている。

「……これか」

 あなたが懐に呑んでいたはずの魔法の品は、いつの間にか少女の掌の内にある。
 それきりあなたに興味を失くして去っていく少女の後ろ姿を見ながら、薄れる意識であなたは、少女の二つ名を思い出す。
 ――マジックアイテム狩りの、『骨董屋』。






+ 次元旅団に記録されている資料
"骨董屋"ベアトリス
種族 不死(霊体)
性別:女
身長:140cm 体重:存在しない
年齢:?
クラス構成 異能者-魔道博士+魔道士/時使い
マナカラー 占い死霊マフィア
特徴技能 氷の美貌、梟の目、専門知識<マジックアイテム>、趣味<占術>、二つ名《骨董屋》、経歴<幻想種>
所属 ヴィルト商会
出身次元 ガイア
アライメント 中立・悪
好きなもの 煙草、マジックアイテム、未知の知識
趣味 占い(だと思われている)
苦手なもの 「特に無いが、私を小さいと呼ぶな
キャラクターシート 墓はまだない。
IBGM 金色の血に染まる前に

来歴

 "黒"のギルドに所属する魔法使い。
 不死であり、実体を限定的な形でしか持たない浮遊霊。
 ヴィルト商会指折りの『取り立て人』であり、それが金銭に纏わる物体であれ、あるいはカタチのないモノであれ――ヴィルト商会への"借り"であれば、なんであろうと取り立てる。
 特にマジックアイテムを専門に"取り立て"る姿から、『骨董屋』と渾名される。

 容姿は少女だが、本来の年齢は不明。時城市に魔族が入植した当時から存在していた、とも噂される。

 その神出鬼没性から、"黒"のギルドのメッセンジャー、時にはギルドマスターの代行としても行動する。
 現在次元旅団に席を置いているのも、"黒"のギルドが次元旅団に目を光らせるためだと予想されている。



「――《黄金の魔術師》の名前に聞き覚えはないか」


「あるいは、その遺産に」



+ ...
 時城市ができる100年以上前から、近隣の山中に生息していた幻想種。
 輪廻の蛇。ウロボロスと呼ばれる竜。
 魔法が存在しない世界で、世界の裏側に入り込み冬眠状態に入ることで生き延びていた。
 しかし、魔法使いの帰還と時城市の発展によってその運命は変転する。
 彼女の塒に落ちてきた《黄金》との邂逅、そして彼の持つ技術に好奇心を抱き、彼と共に魔法研究を行うことになる。
 この経験は幻想種であった彼女に変化を与えたが、数年の時を経て突如来襲したグリーディ=ギォットによって《黄金》は殺害され、彼女も死の淵に追い込まれる。
 そこで肉体を捨て、霊体として活動することを選択。
 "黒"のギルドマスターと死霊として契約し、現在に至る。

 煙草は《黄金》の趣味。死に際の《黄金》から受け取った煙草の『灯』は、まだ消えていない。

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最終更新:2020年04月13日 03:44