「ちょっとね、贔屓しちゃだめだって意識してつい冷たくあたっちゃったことがあって。
それが悪かったのかなぁなんて。」
それが悪かったのかなぁなんて。」
思い起こしているのだろうか、少し遠くを見つめながら里沙が言う。
そんなの衣梨奈がわからないはずないのに。
新垣さんは本当に誰にでも優しくて、平等だから。
差が出ないようにしてるんだって、わかってるのに。
新垣さんは本当に誰にでも優しくて、平等だから。
差が出ないようにしてるんだって、わかってるのに。
そう心でつぶやくと、涙がこみ上げてくる。
衣梨奈の記憶の中の里沙は、いつも後輩と楽しそうに笑ってる。
そんな里沙だからこそ好きなのだ。
衣梨奈の記憶の中の里沙は、いつも後輩と楽しそうに笑ってる。
そんな里沙だからこそ好きなのだ。
だって、知ってます?
グラスの中のお酒を飲み干そうとしている里沙に、衣梨奈は心の中で語りかける。
まだ入ったばっかのとき、衣梨奈の下らない話をちゃんと最後まで聞いてくれたの新垣さんだけなんですよ。
多分その頃からすでに好きだったんじゃないかなって、最近思うんです。
多分その頃からすでに好きだったんじゃないかなって、最近思うんです。
だからそんなことで衣梨奈が新垣さんを嫌いになるなんて、思われたくないです。
「ガキさ・・」
「でもね~!こっちだって大変なんだから!」
「でもね~!こっちだって大変なんだから!」
- え、新垣さん?
またフォローしようとするも、どん、と空になったグラスをテーブルに置いて急に何やら愚痴っぽくなる里沙に、衣梨奈はたじろぐ。
「無邪気に新垣さん新垣さんって寄って来るけど!本当は私だって生田がかわいくて仕方がないんだよ?
生田にずっと構ってあげてたいよそりゃ。だけど他の子だっているわけじゃん。
ほら、佐藤とかもさ、」
「・・・ふふ。」
「ちょっと、カメ~。笑い事じゃないんだからぁ!」
生田にずっと構ってあげてたいよそりゃ。だけど他の子だっているわけじゃん。
ほら、佐藤とかもさ、」
「・・・ふふ。」
「ちょっと、カメ~。笑い事じゃないんだからぁ!」
里沙の言葉に思わず笑みがこぼれてしまった。
複雑だと思ったけれど、案外いいかもしれない、これ。
こんな本音、シラフでは、まして生田衣梨奈の前では言ってくれないだろう。
亀井さんの前だからこんな姿も見せるのかな、なんて思うとやっぱり少し面白くないけれど。
複雑だと思ったけれど、案外いいかもしれない、これ。
こんな本音、シラフでは、まして生田衣梨奈の前では言ってくれないだろう。
亀井さんの前だからこんな姿も見せるのかな、なんて思うとやっぱり少し面白くないけれど。
「んふふ・・・だって新垣さんかわいい。」
つい、口に出して言ってしまった。「しまった」と思って慌てて口を押えてももう遅かった。
「なぁによ生田ぁ~。」
って、新垣さん結構酔ってる?
衣梨奈が里沙の顔を覗き込もうとすると、発言したあとで我に返ったのか、
虚ろな視線をテーブルに移していた里沙がゆっくり顔を上げて衣梨奈を見た。
虚ろな視線をテーブルに移していた里沙がゆっくり顔を上げて衣梨奈を見た。
「・・・じゃない、カメ。あれ、おかしいな、ごめん・・・。」
眉間に手をあてて、申し訳なさそうに里沙が言った。
なのにこんなに嬉しいのは、失礼だろうか。
新垣さんは姿が違っても声が違っても衣梨奈だってわかるんだって、そう思うのは自惚れすぎだろうか。
なのにこんなに嬉しいのは、失礼だろうか。
新垣さんは姿が違っても声が違っても衣梨奈だってわかるんだって、そう思うのは自惚れすぎだろうか。
「・・・生田でいいです、新垣さん。生田だと思って聞いてください。」
心底愛おしそうに衣梨奈が言う。
一瞬目を見開いた後、なになに~とおどけて言った里沙だったが、目の前の「亀井絵里」の真っ直ぐな瞳に口を閉ざした。
一瞬目を見開いた後、なになに~とおどけて言った里沙だったが、目の前の「亀井絵里」の真っ直ぐな瞳に口を閉ざした。
動悸が全身に伝わってくる。
これは音漏れを注意されるレベルだ、と思いながら衣梨奈は里沙を見つめる。
これは音漏れを注意されるレベルだ、と思いながら衣梨奈は里沙を見つめる。
「衣梨奈は、新垣さんが世界で一番大好きです。」
止められなかった。あんな表情で生田なんて呼ばれては、もう限界だった。
「推し」という言葉で誤魔化していたけれど、自分ではとっくにわかっていた。
これは恋愛感情だ。
願わくば、明日になって新垣さんが覚えてなかったらいいんだけど。
一向に収まらない心臓の音をうるさく感じながら、衣梨奈はそう思った。
「推し」という言葉で誤魔化していたけれど、自分ではとっくにわかっていた。
これは恋愛感情だ。
願わくば、明日になって新垣さんが覚えてなかったらいいんだけど。
一向に収まらない心臓の音をうるさく感じながら、衣梨奈はそう思った。
しばらく見つめあったまま沈黙が続いた後、里沙がおもむろに口を開いた。
「・・・あはは、何言ってんのさ。・・・うん、ありがとうね。」
「・・・。」
「・・・生田。」
「・・・。」
「・・・生田。」
またそうやって、とろけちゃいそうな声で呼ぶなんて。
新垣さんが言う「生田」は特別だ、と衣梨奈は思う。
その響きの懐かしさと信じられないほどの甘さに、泣きそうになってしまう。
他の誰が言ってもこんなに切なくならない。
その響きの懐かしさと信じられないほどの甘さに、泣きそうになってしまう。
他の誰が言ってもこんなに切なくならない。
「私もね、生田が好きだよ。いっちばん。」
少し伏し目がちに、それでいて目尻を下げて里沙が言う。
「新垣さ・・・」
衣梨奈が言い終わらないうちに、パン、と突然里沙が手を叩いた。
驚いた衣梨奈は口をつぐんでしまう。
驚いた衣梨奈は口をつぐんでしまう。
「はい!まあこの話は置いといて!昨日ね、田中っちがさ~。」
里沙は強引に話を切り替えて、必要以上に明るく話し始めた。
え、え、終わりなん?うそ?
衣梨奈が目をぱちくりさせて里沙を見るが、里沙はお構いなしに「田中っち」の話を続ける。
照れくさかった反動からか、随分と声高に話す。これはもう雰囲気を戻すのは無理そうだ。
話が終わると「あ、そうだ。何か追加する?」なんて無邪気な笑顔で聞いてくる。
照れくさかった反動からか、随分と声高に話す。これはもう雰囲気を戻すのは無理そうだ。
話が終わると「あ、そうだ。何か追加する?」なんて無邪気な笑顔で聞いてくる。
新垣さんはすぐ、そうやって照れるっちゃけん・・・。
どっちがKYなんだか、と衣梨奈は若干呆れつつも、さっきの里沙の言葉が頭から離れなかった。
あの大好きな笑顔で、大好きな声で言われては、しばらくは他のことを考えられそうにない。
あの大好きな笑顔で、大好きな声で言われては、しばらくは他のことを考えられそうにない。
- 新垣さんも衣梨奈のこと好きやったったい。んふふ。しかも、一番って、んふふふふふ。
本当はもう少し気持ちを聞きたかったけれど、十分だと思うことにしよう。
あの里沙の口からあんな言葉が聞けたのだから。
あの里沙の口からあんな言葉が聞けたのだから。
次は生田衣梨奈として聞きたいなぁ。
楽しそうに料理を選んでいる里沙を見つめながら、衣梨奈はそんな風に思った。