「新着メールはありません」という画面を認めた新垣里沙は、ふうと息を吐き、ベッドへと沈む。
別に気にするほどのことでもないのに、里沙はどうしても、頭の片隅に引っ掛かった“それ”に悩まされる。
どうしようかと悩んでも、どうしようもない事実だとも分かっているのに。
別に気にするほどのことでもないのに、里沙はどうしても、頭の片隅に引っ掛かった“それ”に悩まされる。
どうしようかと悩んでも、どうしようもない事実だとも分かっているのに。
里沙は「っしょ」と声を出して上体を起こし、棚からあるDVDを手に取り、レコーダーで再生させた。
『モーニング娘。コンサートツアー2010秋―ライバルサバイバル』は、まさに伝説になったライブだった。
このコンサートツアーの最終日をもって、ジュンジュン、リンリン、そして亀井絵里が卒業した。
当時リーダーであったの高橋愛は、「最高の8人」と自信を持っていったが、それはまさしくその通りだと里沙も思う。
いま改めて見返しても、このコンサートは良い意味で「異質」だった。
会場の熱気も、メンバーの意志も、すべてが卓越し、12月15日という師走の平日、横浜アリーナは「ひとつ」になっていた。
『モーニング娘。コンサートツアー2010秋―ライバルサバイバル』は、まさに伝説になったライブだった。
このコンサートツアーの最終日をもって、ジュンジュン、リンリン、そして亀井絵里が卒業した。
当時リーダーであったの高橋愛は、「最高の8人」と自信を持っていったが、それはまさしくその通りだと里沙も思う。
いま改めて見返しても、このコンサートは良い意味で「異質」だった。
会場の熱気も、メンバーの意志も、すべてが卓越し、12月15日という師走の平日、横浜アリーナは「ひとつ」になっていた。
里沙はベッドに体を預け、画面を見つめる。
いま、画面の中にいるのは、モーニング娘。の歴史に残る問題児たち3人だった。
あの日、横浜アリーナがいちばん盛り上がった瞬間とも言える「大きい瞳」。
涙をこらえながらも、最後まで笑顔で歌い、踊った彼女の姿を、里沙はじっと追いかける。
いま、画面の中にいるのは、モーニング娘。の歴史に残る問題児たち3人だった。
あの日、横浜アリーナがいちばん盛り上がった瞬間とも言える「大きい瞳」。
涙をこらえながらも、最後まで笑顔で歌い、踊った彼女の姿を、里沙はじっと追いかける。
―行き詰ったらいつでもメールしてください
ふと、彼女の声が聞こえてきた。
いつだったか、そう、彼女の卒業メモリアルDVD撮影で、彼女が里沙に最後に贈った言葉だった。
彼女はそのとき、涙を抑え、やはり笑ったのだ。
いつだったか、そう、彼女の卒業メモリアルDVD撮影で、彼女が里沙に最後に贈った言葉だった。
彼女はそのとき、涙を抑え、やはり笑ったのだ。
そう、きっかけは、メールだった。
里沙はメンバーともよくメールのやり取りをするのだが、頻繁に交わす相手は9期メンバーの生田衣梨奈だった。
内容はといえば、里沙の写真集を買っただとか、新曲の歌い方がカッコいいだとか、学校で先生に褒められただとか、
くだらないようなことばかりだが、そういう中身のない話が時に救われることもあった。
里沙はメンバーともよくメールのやり取りをするのだが、頻繁に交わす相手は9期メンバーの生田衣梨奈だった。
内容はといえば、里沙の写真集を買っただとか、新曲の歌い方がカッコいいだとか、学校で先生に褒められただとか、
くだらないようなことばかりだが、そういう中身のない話が時に救われることもあった。
しかし、ここ1週間、彼女からのメールは激減した。
激減したというよりも、ほぼなくなったといっても過言ではない。
激減したというよりも、ほぼなくなったといっても過言ではない。
メールの内容はくだらないものが多いのだし、別になくなったからと言って困ることはない。
そうなのだけれど、あれほど頻繁に受信していたメールがぴたりとなくなると、それは気になる。
そうなのだけれど、あれほど頻繁に受信していたメールがぴたりとなくなると、それは気になる。
別に寂しいわけじゃないのだ、と呟いてみたが、実際、寂しいのだと思う。
「生田衣梨奈」を考えるとき、里沙の頭には7期メンバーの久住小春と6期メンバーの亀井絵里が浮かぶ。
久住小春は、唯一の7期メンバーとしてモーニング娘。に加入した。
おっとりした外見だが、中身はなかなか曲者だった。良くも悪くも。
天然といえば聞こえは良いが、計算しなすぎる危うい素直さが彼女にはあった。
だが、天真爛漫で、真っ直ぐな笑顔は人を集め、メンバーをよく笑わせてくれた。
里沙も、小言を言いながらも、なんだかんだで彼女に世話を焼き、彼女の素直さに助けられた。
久住小春は、唯一の7期メンバーとしてモーニング娘。に加入した。
おっとりした外見だが、中身はなかなか曲者だった。良くも悪くも。
天然といえば聞こえは良いが、計算しなすぎる危うい素直さが彼女にはあった。
だが、天真爛漫で、真っ直ぐな笑顔は人を集め、メンバーをよく笑わせてくれた。
里沙も、小言を言いながらも、なんだかんだで彼女に世話を焼き、彼女の素直さに助けられた。
亀井絵里とは同い年ということもあり、よく仕事を一緒にこなすことが多かった。
「ぽけぽけぷぅ」という名付け親は里沙だが、まさに彼女はそれに当てはまる。
「テキトー」・「天然」・「PPP」という3つの言葉を使えば、亀井絵里のキャラクターは把握できる。
此処に「優しい」と入れるか迷ったが、入れてしまえば絵里が調子に乗るのは目に見えていたので、里沙はやめにした。
「ぽけぽけぷぅ」という名付け親は里沙だが、まさに彼女はそれに当てはまる。
「テキトー」・「天然」・「PPP」という3つの言葉を使えば、亀井絵里のキャラクターは把握できる。
此処に「優しい」と入れるか迷ったが、入れてしまえば絵里が調子に乗るのは目に見えていたので、里沙はやめにした。
小春と絵里、ふたりとも、里沙にとっては大切なメンバーのひとりだった。
そして、ふたりとも、里沙に特に近い人物でもあった。
そして、ふたりとも、里沙に特に近い人物でもあった。
自分が世話焼きだとは自覚している。
小姑だとか、ツッコミ役だとか、しっかり者だとか、最近リーダーになってからは余計にそう思う。
だからだろうか、どうも頼りなくて、少しだけ抜けていて、護ってあげたいような、そういうメンバーの世話焼きに回る。
それが、小春や絵里だった。
小姑だとか、ツッコミ役だとか、しっかり者だとか、最近リーダーになってからは余計にそう思う。
だからだろうか、どうも頼りなくて、少しだけ抜けていて、護ってあげたいような、そういうメンバーの世話焼きに回る。
それが、小春や絵里だった。
そして彼女たちは、里沙よりも先に卒業していった。
里沙はDVDを停め、取り出した。
代わりに、先日行われた高橋愛卒業コンサートを再生する。
まだ通常盤は発売されていないため、その日にもらった速攻DVDであるが、あの日の臨場感がひしひしと伝わる。
代わりに、先日行われた高橋愛卒業コンサートを再生する。
まだ通常盤は発売されていないため、その日にもらった速攻DVDであるが、あの日の臨場感がひしひしと伝わる。
9期メンバーが加入して2度目のコンサートツアー。
里沙はじっと画面を見つめ、彼女を追いかけた。
里沙はじっと画面を見つめ、彼女を追いかけた。
―「愛ください。あ、和風セットで」
ふと飛び出した彼女らしい答えに里沙は苦笑する。
どういう状況なんだよ、それと思った瞬間、頭の片隅にあった“それ”が明確な形を成して広がりを見せた。
里沙はリモコンを手に取り、一時停止を押すと、「あー」と声を出して天井を見上げる。
どういう状況なんだよ、それと思った瞬間、頭の片隅にあった“それ”が明確な形を成して広がりを見せた。
里沙はリモコンを手に取り、一時停止を押すと、「あー」と声を出して天井を見上げる。
どうしよう?
なによ、どうしようって。別に関係ないって。だいじょうぶ、なんでもないって。
なによ、どうしようって。別に関係ないって。だいじょうぶ、なんでもないって。
里沙は頭をかき、テーブルに伏す。
考えがまとまらないのは分かっている。それにしたって、良い状況じゃないことも分かっている。
考えがまとまらないのは分かっている。それにしたって、良い状況じゃないことも分かっている。
ちらりと壁に掛けてあるカレンダーを見る。
次のモーニング娘。としてのコンサートは2月の中旬。その前に、ハロープロジェクトの冬のコンサートがある。
1月2日に初日を迎えるコンサートだが、その日はちょうど、生田衣梨奈たち9期メンバーにとって1周年でもある。
次のモーニング娘。としてのコンサートは2月の中旬。その前に、ハロープロジェクトの冬のコンサートがある。
1月2日に初日を迎えるコンサートだが、その日はちょうど、生田衣梨奈たち9期メンバーにとって1周年でもある。
たぶん、その日は、里沙にとっても大きな1日となる。
いままで、だれにも言わないで内緒にしていたことを発表する日。
里沙にとって、そしてモーニング娘。にとっても、転機を迎えることになる。
時間はもう動きだし、止まることはない。なにがあろうとも、前に進む以外に道はない。
いままで、だれにも言わないで内緒にしていたことを発表する日。
里沙にとって、そしてモーニング娘。にとっても、転機を迎えることになる。
時間はもう動きだし、止まることはない。なにがあろうとも、前に進む以外に道はない。
だとしたら、やはり自分も動くしかないのかもしれない。
どう転んだとしても、結果が見えなくとも、いまはただ、がむしゃらに進むしかない。
どう転んだとしても、結果が見えなくとも、いまはただ、がむしゃらに進むしかない。
―ガキさんの笑顔が減っちゃってるから、それを見てるカメはホントに切なかったんです
絵里の言葉がぽつんと浮かんだ。
それはこっちのセリフだよと頭をかき、上体を起こした。
ベッドの上に放り出してあった携帯電話を手に取り、里沙はメールを作成し始めた。
ふと顔を上げると、テレビの中では生田衣梨奈が随分と間抜けな顔で停止されている。
それはこっちのセリフだよと頭をかき、上体を起こした。
ベッドの上に放り出してあった携帯電話を手に取り、里沙はメールを作成し始めた。
ふと顔を上げると、テレビの中では生田衣梨奈が随分と間抜けな顔で停止されている。
「ああ、ごめんごめん」
だれにともなく笑いながら呟き、里沙は再生ボタンを押した。