「かめぇ~!久しぶり!」
新垣さんだ。本物の新垣さんだ。
遠目からでもはっきりとわかる、神様みたいな人。
衣梨奈が待ち合わせ場所に行くと、里沙はすでに到着していた。
目の前に新垣さんがいる、それだけで衣梨奈は泣きそうになった。
目の前にいるのに、自分を呼ぶ声は「生田ぁ~!」ではないけれど。
目の前に新垣さんがいる、それだけで衣梨奈は泣きそうになった。
目の前にいるのに、自分を呼ぶ声は「生田ぁ~!」ではないけれど。
「お久しぶりです。」
衣梨奈はできるだけ、笑顔を作ってそう返した。
自分でもびっくりするぐらい弱々しい声しか出なかった。
「だめだだめだだめだー!」と、心の中で自分にダメ出しをする。
しかし里沙は特に気に留めなかったらしく、言葉を続けた。
自分でもびっくりするぐらい弱々しい声しか出なかった。
「だめだだめだだめだー!」と、心の中で自分にダメ出しをする。
しかし里沙は特に気に留めなかったらしく、言葉を続けた。
「いやぁ~、急に誘ったのにありがとうね。じゃあ行こっか。」
里沙がそう言って、二人並んで街を歩き始めた。
なんだろうこれ、ドキドキする。
今日も寒いね、という何でもない言葉にも上手く返事ができない。
会わなかった日数のせいなのか、衣梨奈はいつもよりも自分が緊張しているように思えた。
新しく出たじゃがりこの話を楽しそうにする里沙を、人の気も知らないで、と衣梨奈は少し恨めしく感じた。
なんだろうこれ、ドキドキする。
今日も寒いね、という何でもない言葉にも上手く返事ができない。
会わなかった日数のせいなのか、衣梨奈はいつもよりも自分が緊張しているように思えた。
新しく出たじゃがりこの話を楽しそうにする里沙を、人の気も知らないで、と衣梨奈は少し恨めしく感じた。
目的の店に入って、向かい合わせに座る。
中学生にはあまり馴染みのない洒落たレストランだ。
普段行きなれているファストフード店やファミリーレストランとは違って、客は静かに談笑しながら食事を楽しんでいる。
ちょっと薄暗い照明や流れているクラシック音楽なんかも大人の気分にさせてくれる。
中学生にはあまり馴染みのない洒落たレストランだ。
普段行きなれているファストフード店やファミリーレストランとは違って、客は静かに談笑しながら食事を楽しんでいる。
ちょっと薄暗い照明や流れているクラシック音楽なんかも大人の気分にさせてくれる。
なんて贅沢な時間なんだろう、と衣梨奈は思う。
もう自分は喋らずに里沙が話すのをただひたすら聞いていたい、そう思った。
もう自分は喋らずに里沙が話すのをただひたすら聞いていたい、そう思った。
新垣さんの声は優しい。何だか特に、今日は。
その声を聞ける幸福と、相手が亀井さんだからなのかという悔しさが入り混じる。
「カメ、これ好きだったよね」と里沙がメニューを指さして注文したことすら面白くない。
衣梨奈はそんな幼稚な自分が少し嫌になった。
せっかくデートなのに、とまた自分にダメ出しをする。
「カメ、これ好きだったよね」と里沙がメニューを指さして注文したことすら面白くない。
衣梨奈はそんな幼稚な自分が少し嫌になった。
せっかくデートなのに、とまた自分にダメ出しをする。
料理が運ばれてくると、最近どう、という里沙の言葉を皮切りに、お互いの近況から最近あった出来事など、四方山話に花が咲いた。
しかし、里沙がメンバーの話をすると少し寂しい気分になる。なんせメンバーにもずっと会ってないのだ。
9期元気かなぁ、なんて思いながら衣梨奈は里沙の話に耳を傾ける。
しかし、里沙がメンバーの話をすると少し寂しい気分になる。なんせメンバーにもずっと会ってないのだ。
9期元気かなぁ、なんて思いながら衣梨奈は里沙の話に耳を傾ける。
「最近、9期の生田衣梨奈がさぁ~。」
グラスを揺らしながら、里沙が言った。
もちろん衣梨奈は飲んでいないのだが、里沙の顔はアルコールのせいで少し火照っていて、目もとろんとしている。
そんな里沙に不意に自分の名前を出されて衣梨奈はドキッとした。
思わず「はい」と返事してしまいそうになった。
「亀井絵里」として聞く、里沙からみた衣梨奈の話。衣梨奈は里沙を直視できないほど緊張した。
もちろん衣梨奈は飲んでいないのだが、里沙の顔はアルコールのせいで少し火照っていて、目もとろんとしている。
そんな里沙に不意に自分の名前を出されて衣梨奈はドキッとした。
思わず「はい」と返事してしまいそうになった。
「亀井絵里」として聞く、里沙からみた衣梨奈の話。衣梨奈は里沙を直視できないほど緊張した。
「生田が・・・その、私のこと推してるとか言っててさ、すごいまとわりついてくるんだけど。」
正直うっとうしいとでも言われるのだろうか。
不安に駆られながら、衣梨奈は次の言葉を待つ。
不安に駆られながら、衣梨奈は次の言葉を待つ。
「最近ねぇ、全然なのよ。いや、普通に話したりはするんだけどさ。
グッズ買いました~とかってメールも来なくなったし、写真撮ってくださ~いとも言われなくなったわけ。」
グッズ買いました~とかってメールも来なくなったし、写真撮ってくださ~いとも言われなくなったわけ。」
少し不満そうにそう言う里沙に、衣梨奈は胸が締め付けられた。
6期メンバーや愛佳に必要以上に絡むとばれそうだから、と絵里は接触を控えているのだ。
6期メンバーや愛佳に必要以上に絡むとばれそうだから、と絵里は接触を控えているのだ。
全部言ってしまいたい。本当のことを、全部。
言いたいことが言えない歯がゆさから、衣梨奈は唇を噛みしめて俯く。
言いたいことが言えない歯がゆさから、衣梨奈は唇を噛みしめて俯く。
「もしかして飽きられちゃった?とか嫌われちゃった?とかすっごい悩んでさぁ。
まあ生田の自由だからそこはね、本人には言えないんだけど。」
まあ生田の自由だからそこはね、本人には言えないんだけど。」
そう言って寂しそうに里沙が笑った。
新垣さんの笑顔は日差しみたいだ、と衣梨奈は思っていた。春の日差し。
そう、例えるなら絶対春だ。あんなに自分を幸せにできる笑顔はないと思う。
でもこれは違う。人の笑顔を見てこんなに苦しくなるなんて知らなかった。
新垣さんの笑顔は日差しみたいだ、と衣梨奈は思っていた。春の日差し。
そう、例えるなら絶対春だ。あんなに自分を幸せにできる笑顔はないと思う。
でもこれは違う。人の笑顔を見てこんなに苦しくなるなんて知らなかった。
新垣さん、衣梨奈だって言いたいことたくさんあります。
本当はこの前発売した生写真に「ぽんへ」ってサインしてほしいです。
バトン上手くなったから褒めてほしいです。
好きです、新垣さん。
本当はこの前発売した生写真に「ぽんへ」ってサインしてほしいです。
バトン上手くなったから褒めてほしいです。
好きです、新垣さん。
でも、そんなこと言えない。
衣梨奈はそれらの言葉をぐっと飲み込んで、口を開いた。
衣梨奈はそれらの言葉をぐっと飲み込んで、口を開いた。
「あの、ガキさんが嫌われてるなんて絶対ないよ。
その子はウザがられるのが嫌でちょっと控えてるだけだよ、きっと。」
その子はウザがられるのが嫌でちょっと控えてるだけだよ、きっと。」
衣梨奈はなんとか泣かずにそう言い切ると、にかっと笑ってみせた。
これが「亀井絵里」でできる精一杯だった。
これが「亀井絵里」でできる精一杯だった。
「そっかなぁ~。ふふ、ごめんね、カメにこんな話して。」
里沙が衣梨奈に微笑み返す。さっきから笑っているんだけど、笑っていない。
衣梨奈はこんな表情の里沙を見たことがなかった。
こんな傷付いたような笑顔を見るぐらいなら、いっそ理不尽でも怒ってくれたほうがいい。
しかし里沙をこんなに悩ませている原因は自分だということは苦しくもあり、どこか嬉しかった。
衣梨奈はこんな表情の里沙を見たことがなかった。
こんな傷付いたような笑顔を見るぐらいなら、いっそ理不尽でも怒ってくれたほうがいい。
しかし里沙をこんなに悩ませている原因は自分だということは苦しくもあり、どこか嬉しかった。