衣梨奈は帰ってくるなり、絵里のベッドにダイブした。
まだ心臓の声はハッキリと聞こえている。あれから時間も経ってっているというのに、まだ収まらない。
ぎゅうと締め付けられるような痛みが胸に走る。
衣梨奈は体を丸め、自分を守るように両腕で抱きしめる。
まだ心臓の声はハッキリと聞こえている。あれから時間も経ってっているというのに、まだ収まらない。
ぎゅうと締め付けられるような痛みが胸に走る。
衣梨奈は体を丸め、自分を守るように両腕で抱きしめる。
そっと唇を指でなぞる。
「あひる口」と評される絵里の唇は柔らかかった。
この唇に、れいなのキスが落とされた数時間前のことを、衣梨奈はぼんやりと思い出す。
「あひる口」と評される絵里の唇は柔らかかった。
この唇に、れいなのキスが落とされた数時間前のことを、衣梨奈はぼんやりと思い出す。
キスされた瞬間、頭の中には聖が浮かんだ。
だけど、れいなの甘い唇を拒むことはできなかった。
だけど、れいなの甘い唇を拒むことはできなかった。
「っ……」
合わせるだけの口付けに、衣梨奈は顔を赤く染める。
れいなも自分から仕掛けておいて恥ずかしいのか、視線を外し、ココアを一口飲んだ。
鼓動が速くなる。呼吸が短くなる。顔が紅潮する。
一瞬だけ、衣梨奈の中に、絵里の寂しい笑顔がよぎった。
衣梨奈はぎゅうと胸が締め付けられ、勢いよく立ち上がった。
れいなも自分から仕掛けておいて恥ずかしいのか、視線を外し、ココアを一口飲んだ。
鼓動が速くなる。呼吸が短くなる。顔が紅潮する。
一瞬だけ、衣梨奈の中に、絵里の寂しい笑顔がよぎった。
衣梨奈はぎゅうと胸が締め付けられ、勢いよく立ち上がった。
「絵里……」
後方かられいなの声が追ってくる。
それと同時に、衣梨奈はふわりと温もりに包まれる。
背中越しにれいなの体温を感じ、再び鼓動が速くなる。
拒むことができない。聖が、絵里が、頭の中には彼女たちの笑顔が浮かぶのに、衣梨奈は、拒めない。
それと同時に、衣梨奈はふわりと温もりに包まれる。
背中越しにれいなの体温を感じ、再び鼓動が速くなる。
拒むことができない。聖が、絵里が、頭の中には彼女たちの笑顔が浮かぶのに、衣梨奈は、拒めない。
「肌…だいじょうぶやと?」
耳元で囁かれた甘い言葉に衣梨奈はドキッとする。
動揺を悟られないようにしながらも、「少しずつだけど……だいじょうぶ」と必死に返す。
その言葉にれいなは幾分か安心したのか「そっか」と呟き、衣梨奈から離れた。
傍にあった温もりがなくなり、衣梨奈は不意に寂しくなるが、そんな考えを打ち消すように頭を振る。
動揺を悟られないようにしながらも、「少しずつだけど……だいじょうぶ」と必死に返す。
その言葉にれいなは幾分か安心したのか「そっか」と呟き、衣梨奈から離れた。
傍にあった温もりがなくなり、衣梨奈は不意に寂しくなるが、そんな考えを打ち消すように頭を振る。
振り返ると、れいなの優しい表情がそこにあった。
れいなは大きい瞳で真っ直ぐに衣梨奈を見つめる。優しくて甘いその視線に、衣梨奈は捉えられる。
彼女が見ているのは絵里であるにもかかわらず、衣梨奈はその心までも、れいなに捉えられてしまいそうな気がする。
れいなは大きい瞳で真っ直ぐに衣梨奈を見つめる。優しくて甘いその視線に、衣梨奈は捉えられる。
彼女が見ているのは絵里であるにもかかわらず、衣梨奈はその心までも、れいなに捉えられてしまいそうな気がする。
「戻ろっか。みんな待っとぉし」
れいなはそうしてニシシと笑うと、衣梨奈の置いたコーンポタージュを彼女に渡す。
衣梨奈も素直にそれを受け取り、れいなの歩く背中を追いかける。
なにかをれいなに言うべきであったのに、衣梨奈はなにも言えそうになかった。
衣梨奈も素直にそれを受け取り、れいなの歩く背中を追いかける。
なにかをれいなに言うべきであったのに、衣梨奈はなにも言えそうになかった。
衣梨奈は事務所の部屋へ戻っても、真っ直ぐに絵里の顔を見ることはできなかった。
絵里には「先に帰ります」とメールを送信した後、逃げるようにその場から離れ、帰宅した。
ベッドの上で、衣梨奈は携帯電話を取り出して受信ボックスを確認するが、新着メールは届いていなかった。
なんとなく、もう、絵里にはバレているような気がした。
衣梨奈が、絵里の最愛の人であるれいなと、キスを交わしたこと―――
絵里には「先に帰ります」とメールを送信した後、逃げるようにその場から離れ、帰宅した。
ベッドの上で、衣梨奈は携帯電話を取り出して受信ボックスを確認するが、新着メールは届いていなかった。
なんとなく、もう、絵里にはバレているような気がした。
衣梨奈が、絵里の最愛の人であるれいなと、キスを交わしたこと―――
分かっている。
キスをしたのはれいなの方だった。
それは衣梨奈のせいではないことだし、もちろん絵里のせいでもない。
拒めないことも、拒むことができなかったことも、分かっている。
それは絵里だって、分かってくれるはずだと、衣梨奈は頭では理解していた。
キスをしたのはれいなの方だった。
それは衣梨奈のせいではないことだし、もちろん絵里のせいでもない。
拒めないことも、拒むことができなかったことも、分かっている。
それは絵里だって、分かってくれるはずだと、衣梨奈は頭では理解していた。
それでも、それでも衣梨奈の胸は締め付けられた。
静かな湖に、ひとつの石が放り投げられ、同心円上に波紋が広がる。
小さな波紋は確かな力を持って広がり続け、衣梨奈の心を支配し、揺るがす。
静かな湖に、ひとつの石が放り投げられ、同心円上に波紋が広がる。
小さな波紋は確かな力を持って広がり続け、衣梨奈の心を支配し、揺るがす。
そのとき、衣梨奈の頭に聖が浮かんだ。
れいなにキスされた瞬間にもそこにいた彼女は、相変わらず優しい笑顔を衣梨奈に向けていた。
聖は右手をこちらに差し出している。まるで、「行こうよ」と言っているようで、衣梨奈はその手を掴みたかった。
だが、衣梨奈はその手を伸ばすことができず、ただ心の中で、彼女の名を呼ぶだけだった。
れいなにキスされた瞬間にもそこにいた彼女は、相変わらず優しい笑顔を衣梨奈に向けていた。
聖は右手をこちらに差し出している。まるで、「行こうよ」と言っているようで、衣梨奈はその手を掴みたかった。
だが、衣梨奈はその手を伸ばすことができず、ただ心の中で、彼女の名を呼ぶだけだった。
ああ、そうか、と衣梨奈は唐突に想う。
この感情を、きっと、「好き」と呼ぶのかもしれない。
衣梨奈にとって、大切な人。
同期であるとか、年が近いとか、よく遊ぶとか、それだけでは足りない、この気持ち。
胸の中に確かに存在し、時折痛みを伴って主張したそれは、結局のところ、単純なるひとつの“想い”なのかもしれない。
同期であるとか、年が近いとか、よく遊ぶとか、それだけでは足りない、この気持ち。
胸の中に確かに存在し、時折痛みを伴って主張したそれは、結局のところ、単純なるひとつの“想い”なのかもしれない。
―えりぽんにも、そういう人、できるのかもしれないね
絵里にとって、れいなとはそういう存在なのだと、衣梨奈は理解した。
だから衣梨奈は、その瞳から流れた涙の理由を、ようやく知った。
だから衣梨奈は、その瞳から流れた涙の理由を、ようやく知った。
衣梨奈はそっと涙を拭いながら、絵里のことを考えた。
れいなに逢えない時間、絵里はどんな気持ちで此処に居たのだろう。
大切な人が前に進んでいくことを、絵里は寂しそうに見ていたのだろうか。
れいなに逢えない時間、絵里はどんな気持ちで此処に居たのだろう。
大切な人が前に進んでいくことを、絵里は寂しそうに見ていたのだろうか。
衣梨奈と入れ替わり、絵里は再びれいなと同じ場所に立っていた。
だけど、それはあくまでも「生田衣梨奈」としてであり、決して「亀井絵里」としてではなかった。
こんなに傍にいるのに、こんなに近くにいるのに、絵里は絵里であることをだれにも話すことは叶わなかった。
だけど、それはあくまでも「生田衣梨奈」としてであり、決して「亀井絵里」としてではなかった。
こんなに傍にいるのに、こんなに近くにいるのに、絵里は絵里であることをだれにも話すことは叶わなかった。
最愛の人であるれいなにさえ、絵里はずっと、嘘をつき続けていた。
絵里は、どんな気持ちで、あの場所にいるのだろうか。
衣梨奈はそっと上体を起こし、携帯電話を見つめた。
まだ返信はないが、衣梨奈はベッドから降り、シャワーを浴びようと思った。
まだ返信はないが、衣梨奈はベッドから降り、シャワーを浴びようと思った。
絵里と入れ替わったときに交わしたいくつかの約束。
必ずお風呂には日を跨ぐ前に入ること、というのもその約束のひとつだった。
必ずお風呂には日を跨ぐ前に入ること、というのもその約束のひとつだった。
―絵里の体、そんなに綺麗じゃないから、引かないでね
絵里と入れ替わって最初に迎えた朝、衣梨奈は絵里の声を聞いた。
どれほどの痛みを持ってその言葉を伝えたかくらい、衣梨奈にでも分かる。
だから、衣梨奈は約束を守ろうと思っていた。
いまもまだ、ずっと闘っている、絵里のために。
どれほどの痛みを持ってその言葉を伝えたかくらい、衣梨奈にでも分かる。
だから、衣梨奈は約束を守ろうと思っていた。
いまもまだ、ずっと闘っている、絵里のために。
衣梨奈は替えのシャツを持って、風呂場へと歩いた。
どうか、どうか、と、ただ意味もなく、衣梨奈はだれかに祈った。
この入れ替えを行ったのが「かみさま」であるのなら、こんな皮肉なことはないなと、苦笑した。
どうか、どうか、と、ただ意味もなく、衣梨奈はだれかに祈った。
この入れ替えを行ったのが「かみさま」であるのなら、こんな皮肉なことはないなと、苦笑した。