一瞬、時が止まった気がした。
目の前にいる愛佳の質問の意味が分からなかった。
目の前にいる愛佳の質問の意味が分からなかった。
「だれって……えりは…」
「亀井さんじゃ、ない、ですよね?」
「亀井さんじゃ、ない、ですよね?」
衣梨奈の心臓が高鳴る。
愛佳の瞳は真剣だった。なぜ、バレてしまったのか、考える。
なにが悪かったのだろう?話し方?方言?仕草?全部?え、え、えぇぇぇ?!
必死に整理しようとしても、なにもまとまらない。
あまり沈黙が長いと不自然だが、どう切り返すのが正しいかが分からない。どう答えるのが正解?
衣梨奈は背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
愛佳の瞳は真剣だった。なぜ、バレてしまったのか、考える。
なにが悪かったのだろう?話し方?方言?仕草?全部?え、え、えぇぇぇ?!
必死に整理しようとしても、なにもまとまらない。
あまり沈黙が長いと不自然だが、どう切り返すのが正しいかが分からない。どう答えるのが正解?
衣梨奈は背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
「田中さんからも、聞きましたよ」
「な…なにを?」
「いま、亀井さんが…いえ、あなたが言った話と同じことをこの前、田中さんにも質問されました」
「な…なにを?」
「いま、亀井さんが…いえ、あなたが言った話と同じことをこの前、田中さんにも質問されました」
愛佳の言葉に衣梨奈は息を呑む。
この行動そのものが、愛佳の質問への答えになっている気がしたが、それでもせずにはいられない。
れいなが同じ質問を愛佳にぶつけた。それが持つ意味なんてもう、ひとつしかない。衣梨奈にだって、それくらい分かる。
彼女が何処まで核心をついているかは分からないが、少なくとも疑っているのは事実だ。
そしていま、目の前にいる愛佳も、それは同じだった。
下手をすれば、れいなよりも、真実に近い場所にいるのは彼女かもしれない。
だとするならば、ここでもう、話してしまった方が良いのではないか。
この行動そのものが、愛佳の質問への答えになっている気がしたが、それでもせずにはいられない。
れいなが同じ質問を愛佳にぶつけた。それが持つ意味なんてもう、ひとつしかない。衣梨奈にだって、それくらい分かる。
彼女が何処まで核心をついているかは分からないが、少なくとも疑っているのは事実だ。
そしていま、目の前にいる愛佳も、それは同じだった。
下手をすれば、れいなよりも、真実に近い場所にいるのは彼女かもしれない。
だとするならば、ここでもう、話してしまった方が良いのではないか。
先日にきた、道重さゆみからのメール。「同期で飲みましょう」というあの内容だって、突きつめて考えれば、疑われているから以外の何物でもない。
絵里も少しだけ話していたが、9期の聖や里保、香音たちだって絵里と衣梨奈の変化に気付いていないわけではない。
そうなれば、恐らく里沙だって、なにかしらの疑念は抱いているはずだ。
もうだれもが、絵里と衣梨奈の微妙な関係性に気付いている。
そうなった以上、隠し通すことは出来るのか。誤魔化すことに意味はあるのか。
此処で素直に話してしまった方が良いんじゃないか?
絵里も少しだけ話していたが、9期の聖や里保、香音たちだって絵里と衣梨奈の変化に気付いていないわけではない。
そうなれば、恐らく里沙だって、なにかしらの疑念は抱いているはずだ。
もうだれもが、絵里と衣梨奈の微妙な関係性に気付いている。
そうなった以上、隠し通すことは出来るのか。誤魔化すことに意味はあるのか。
此処で素直に話してしまった方が良いんじゃないか?
―いきなり行き詰ってんねー、絵里たち
そう、彼女はあの日、そう言った。
その言葉通り、絵里と衣梨奈は行き詰っていた。
自分たちで調べても、元に戻る方法は見つからず、それどころか、日々の仕事に追われ、絵里は衣梨奈として、衣梨奈は絵里として生きる日々が続いている。
その中で、衣梨奈は自分の故郷の言葉、福岡の博多弁を時折失っていることに気付いていた。
それがもし、入れ替わりによる副作用、つまり、魂が肉体へと同化していっている変化だとすれば、もう、戻れないかもしれないという不安も芽生える。
この現状を打破するには、やはり、別の視点、新しい風を入れる必要があるのではないかと考えていた。
当事者のふたりで考えるにはもう限界かもしれない。
だとすれば、ある程度近い場所にいて、それでいて当事者ではない愛佳は充分にその要件を満たしている。
その言葉通り、絵里と衣梨奈は行き詰っていた。
自分たちで調べても、元に戻る方法は見つからず、それどころか、日々の仕事に追われ、絵里は衣梨奈として、衣梨奈は絵里として生きる日々が続いている。
その中で、衣梨奈は自分の故郷の言葉、福岡の博多弁を時折失っていることに気付いていた。
それがもし、入れ替わりによる副作用、つまり、魂が肉体へと同化していっている変化だとすれば、もう、戻れないかもしれないという不安も芽生える。
この現状を打破するには、やはり、別の視点、新しい風を入れる必要があるのではないかと考えていた。
当事者のふたりで考えるにはもう限界かもしれない。
だとすれば、ある程度近い場所にいて、それでいて当事者ではない愛佳は充分にその要件を満たしている。
―言って、しまおうか……
そうやって衣梨奈の中の衣梨奈が囁く。
話してしまえ。もう良いじゃないか。たぶん愛佳にはもうバレている。
衣梨奈だということには気付いていないかもしれないが、絵里ではないことは明白だ。だったら、隠し通すことは出来ない。
それに、愛佳に問い詰められ、言葉を失ってもう数分経とうとしている。生放送だったらとっくに放送事故レベルだ。
衣梨奈はひとつ、息を吸う。もう誤魔化せないかと自嘲気味に笑った。
話してしまえ。もう良いじゃないか。たぶん愛佳にはもうバレている。
衣梨奈だということには気付いていないかもしれないが、絵里ではないことは明白だ。だったら、隠し通すことは出来ない。
それに、愛佳に問い詰められ、言葉を失ってもう数分経とうとしている。生放送だったらとっくに放送事故レベルだ。
衣梨奈はひとつ、息を吸う。もう誤魔化せないかと自嘲気味に笑った。
―心配、かけたくないんだぁ、みんなには
瞬間、絵里の言葉が頭をよぎった。
いつだったか、この入れ替わりをだれにも話さずにメンバーと接するのはツラくないかと訊ねたときのことだった。
本当の「亀井絵里」としての自分を隠し、「生田衣梨奈」として生きていくのは想像以上に厳しい。
衣梨奈だって、絵里として生き、家族と過ごすのは、騙している気がして、あまり嬉しくはない。
そんなとき、絵里は「しょうがないからさぁ」と笑った。
いつだったか、この入れ替わりをだれにも話さずにメンバーと接するのはツラくないかと訊ねたときのことだった。
本当の「亀井絵里」としての自分を隠し、「生田衣梨奈」として生きていくのは想像以上に厳しい。
衣梨奈だって、絵里として生き、家族と過ごすのは、騙している気がして、あまり嬉しくはない。
そんなとき、絵里は「しょうがないからさぁ」と笑った。
―よく言うじゃん、乗り越えられる壁しか与えないって。かみさまがくれるのは、必要なものなんだよ、自分に
そんなこと言われたって、衣梨奈には納得できなかった。
どう考えたって、理不尽な出来事でしかない。
かみさまの気まぐれとしか思えない事態なのに、絵里は悲観しながらも、膝を折ることはしなかった。
どう考えたって、理不尽な出来事でしかない。
かみさまの気まぐれとしか思えない事態なのに、絵里は悲観しながらも、膝を折ることはしなかった。
―まー、有難迷惑だけどさ。でもそれで、みんなに心配させたくないから
絵里のメンバーへの想い。
行き詰っていることは承知で、このままで良いわけないことも分かっている。
それでも絵里は、メンバーに迷惑をかけたくないと、衣梨奈に体を返すことを優先し、自分で背負いこんでいる。
行き詰っていることは承知で、このままで良いわけないことも分かっている。
それでも絵里は、メンバーに迷惑をかけたくないと、衣梨奈に体を返すことを優先し、自分で背負いこんでいる。
その姿は、「自分よりも人のために生きてきたから」と高橋愛が称したとおりだと、衣梨奈は思った。
現役のころの絵里を、衣梨奈はDVDでしか知らないけれど、分かる。
その優しさが、彼女の強さでもあり、痛みでもあるのだと―――
「っ……えり、は……」
現役のころの絵里を、衣梨奈はDVDでしか知らないけれど、分かる。
その優しさが、彼女の強さでもあり、痛みでもあるのだと―――
「っ……えり、は……」
衣梨奈はカラカラになった喉から音を絞り出すように震わせる。
絵里の想いは確かに感じていた。
自分で背負いこんで歩いていく強さも、人に心配をかけない優しさも、衣梨奈への心遣いも。
絵里の想いは確かに感じていた。
自分で背負いこんで歩いていく強さも、人に心配をかけない優しさも、衣梨奈への心遣いも。
それでも、それでも、それだからこそ、衣梨奈はぎゅうと拳を握り締めて、口を開いた。
「亀井さん、では、ないです」
初めて衣梨奈は、自分が亀井絵里という存在ではないことを認めた。
伝えられた愛佳はなにかを言おうと口を開くが、それに被せるようにして、衣梨奈は言葉を繋ぐ。
伝えられた愛佳はなにかを言おうと口を開くが、それに被せるようにして、衣梨奈は言葉を繋ぐ。
「でも、いまは、亀井絵里なんです」
そう答える以外に術はなかった。
ここで、自分が生田衣梨奈だと伝えることは、絵里のいままでの努力を無駄にしてしまう気がした。
もしだれかに真実を伝えるのなら、そのときは亀井さんと一緒に伝えたかった。
自分だけの感情や判断で、こんな大きな真実を、だれかに共有してはいけないと思った。
ここで、自分が生田衣梨奈だと伝えることは、絵里のいままでの努力を無駄にしてしまう気がした。
もしだれかに真実を伝えるのなら、そのときは亀井さんと一緒に伝えたかった。
自分だけの感情や判断で、こんな大きな真実を、だれかに共有してはいけないと思った。
だが、衣梨奈はひとつだけ、愛佳に伝えた。
いま、あなたの目の前にいるのは、亀井さんではないけれども、亀井さんなのだと。
どうか、どうか分かってほしかった。
逃げることはしない。絵里が託してきた想いを踏みにじることもしない。
だから、信じてほしかった。
いつか必ず、真実を伝えられる、その日まで―――
いま、あなたの目の前にいるのは、亀井さんではないけれども、亀井さんなのだと。
どうか、どうか分かってほしかった。
逃げることはしない。絵里が託してきた想いを踏みにじることもしない。
だから、信じてほしかった。
いつか必ず、真実を伝えられる、その日まで―――
「………そうですか」
愛佳は長い沈黙の後、紅茶を飲み干した。
目の前にいる彼女の瞳は、揺れていなかった。
今日此処に来た時よりもずっと輝いていて、なにかを決意したような、そんな瞳になっていた。
目の前にいる彼女の瞳は、揺れていなかった。
今日此処に来た時よりもずっと輝いていて、なにかを決意したような、そんな瞳になっていた。
問い質すことが正解だったのかもしれない。
彼女の言葉を信じるのならば、もう目の前にいるのは「亀井絵里」ではないことは明らかだった。
それでも彼女は、「いまは、亀井絵里なんです」と必死に伝えた。
言葉の裏には、微かな嘘と真実が入り混じり、ピリッとした切ない痛みを携えている。
それが彼女の信念であり、想いだとするならば、応えたかった。
彼女の言葉を信じるのならば、もう目の前にいるのは「亀井絵里」ではないことは明らかだった。
それでも彼女は、「いまは、亀井絵里なんです」と必死に伝えた。
言葉の裏には、微かな嘘と真実が入り混じり、ピリッとした切ない痛みを携えている。
それが彼女の信念であり、想いだとするならば、応えたかった。
哀しみも寂しさも、これからの不安もそこには混在している。
それでも、それでも彼女は、傘を手に取った。
雨の降る夜の闇の中、傘を手にし、ドアノブに手をかけて前へ進もうとしていた。
それでも、それでも彼女は、傘を手に取った。
雨の降る夜の闇の中、傘を手にし、ドアノブに手をかけて前へ進もうとしていた。
そうだ、最初から彼女たちは、“家”を出る努力をしていたのだ。
雨がやむのを待っていたり、ただ無意味に怖がって出てこなかったわけではない。
外にいるみんなのために、みんなに心配をかけないために、躊躇していただけだったのだ。
それが、亀井さんの昔からの優しさなんやろうし、「彼女」もその優しさに応えたいんやろうなって、愛佳はふと思った。
雨がやむのを待っていたり、ただ無意味に怖がって出てこなかったわけではない。
外にいるみんなのために、みんなに心配をかけないために、躊躇していただけだったのだ。
それが、亀井さんの昔からの優しさなんやろうし、「彼女」もその優しさに応えたいんやろうなって、愛佳はふと思った。
愛佳は立ち上がり、ゆっくりと自室へと歩く。
歩けるようにはなったけど、未だに足の痛みは消えない。
治ると信じ、ゆっくりと療養すると決めた絵里と同じように、愛佳もまた、自分と闘っていこうと決めていた。
逃げないで向きあうことを教えてくれたのは、他ならぬ、亀井さんだったから―――
歩けるようにはなったけど、未だに足の痛みは消えない。
治ると信じ、ゆっくりと療養すると決めた絵里と同じように、愛佳もまた、自分と闘っていこうと決めていた。
逃げないで向きあうことを教えてくれたのは、他ならぬ、亀井さんだったから―――
「幽体離脱の科学的証明はされていませんけど、憑依って概念もあって興味深いです」
ノートを開きながらぽつんと言葉を残した愛佳に衣梨奈は顔を上げた。
片眉を下げて苦笑交じりに言う彼女は、紛れもなく、モーニング娘。8期の先輩だった。
片眉を下げて苦笑交じりに言う彼女は、紛れもなく、モーニング娘。8期の先輩だった。
「それはひとつの肉体にふたつの魂が入っている状態なんです。その場合、ひとつの魂は眠ったままの状態なんですけど」
ちらりと見たノートには丁寧な字で愛佳の調べたであろう実績がまとめられている。
幽体離脱・憑依・魂の緒・精神・混線・肉体への拒絶など、難しい言葉が並べられ、衣梨奈は一瞬あっけにとられる。
先ほど愛佳は、れいなからも話を聞いたと言っていた。
れいなになにかを相談されて以降、彼女は自分なりのアプローチをしていたのだと衣梨奈は知る。
幽体離脱・憑依・魂の緒・精神・混線・肉体への拒絶など、難しい言葉が並べられ、衣梨奈は一瞬あっけにとられる。
先ほど愛佳は、れいなからも話を聞いたと言っていた。
れいなになにかを相談されて以降、彼女は自分なりのアプローチをしていたのだと衣梨奈は知る。
「ひとつだけ、教えてもらっても良いですか?」
「え、あ、はい」
「亀井さんは……ちゃんと生きてるんですよね?」
「え、あ、はい」
「亀井さんは……ちゃんと生きてるんですよね?」
そう言われて衣梨奈は深く頷く。
愛佳はまだ、衣梨奈として生きている絵里に会っていない。
だから、衣梨奈が絵里に憑依したという可能性を捨てきれてはいなかったようだ。
今日、衣梨奈に会ってその可能性を排除した愛佳は、少しほっとしたまま話を続けた。
「入れ替わりって話は実は少なからずあるんですけど、おおむね共通しているのは、“肉体への大きな衝撃”ってことだけなんです」
愛佳はまだ、衣梨奈として生きている絵里に会っていない。
だから、衣梨奈が絵里に憑依したという可能性を捨てきれてはいなかったようだ。
今日、衣梨奈に会ってその可能性を排除した愛佳は、少しほっとしたまま話を続けた。
「入れ替わりって話は実は少なからずあるんですけど、おおむね共通しているのは、“肉体への大きな衝撃”ってことだけなんです」
肉体への大きな衝撃。
思い当たるのは、あの階段から落ちた出来事しかない。
やはりふたりの仮説通り、階段から落ちたことにより、魂が肉体から離れたと考えるのが自然かもしれない。
思い当たるのは、あの階段から落ちた出来事しかない。
やはりふたりの仮説通り、階段から落ちたことにより、魂が肉体から離れたと考えるのが自然かもしれない。
「此処からはもう、私の仮説なんですけど…」
「はい」
「愛佳はかみさまって存在は信じていません。けど、なんらかの力っていうのは信じてます」
「はい」
「愛佳はかみさまって存在は信じていません。けど、なんらかの力っていうのは信じてます」
愛佳の言葉を噛み砕こうとしたが、衣梨奈は一瞬思考が止まり「ん?」と眉を顰める。
そんな彼女に優しく微笑みかけ、愛佳は言葉を繋げる。
そんな彼女に優しく微笑みかけ、愛佳は言葉を繋げる。
「人の願いとか、想いとか、祈りとか、そういう気持ちの強さは、時に大きな力になって働くこともあるんです」
「気持ちの……強さ?」
「愛佳はかみさまの気まぐれなんて信じません。そうやなくて、もし入れ替わったのなら、そこには意味があるんです。
たとえば…そう、たとえば、亀井さんとあなたの心の中に、無意識のうちに“自分”を離れたいという気持ちがあったとか」
「気持ちの……強さ?」
「愛佳はかみさまの気まぐれなんて信じません。そうやなくて、もし入れ替わったのなら、そこには意味があるんです。
たとえば…そう、たとえば、亀井さんとあなたの心の中に、無意識のうちに“自分”を離れたいという気持ちがあったとか」
そのふたつの想いがたまたま重なり、結果、階段から落ちたことを契機に、ふたりは入れ替わったのではないかと愛佳は続けた。
その仮説に衣梨奈はいよいよ眉を顰める。
入れ替わりたいと願ったのではなく、「“自分”を離れたい」という気持ちが少なからずあった?
生田衣梨奈として生きてきた14年間。その14年を捨てたいと思ったということだろうか?
「もっと簡単なことかもしれません」
「簡単なこと……」
「亀井さんになって、自分の中に起きた変化とか、そういうものがあったら書きだしてみると良いかもしれません。
前の自分と、いまの亀井絵里としての自分。そこにもしかしたらなにか……まあ、ないかもしれませんけど」
その仮説に衣梨奈はいよいよ眉を顰める。
入れ替わりたいと願ったのではなく、「“自分”を離れたい」という気持ちが少なからずあった?
生田衣梨奈として生きてきた14年間。その14年を捨てたいと思ったということだろうか?
「もっと簡単なことかもしれません」
「簡単なこと……」
「亀井さんになって、自分の中に起きた変化とか、そういうものがあったら書きだしてみると良いかもしれません。
前の自分と、いまの亀井絵里としての自分。そこにもしかしたらなにか……まあ、ないかもしれませんけど」
愛佳の言葉に衣梨奈はもう一度頷く。
自分の中での変化。
いままで衣梨奈は、博多弁を失ったり、笑い方が絵里に似てきてしまい、同化現象だと負の側面ばかり見て来た。
だが実際は、正の側面もあったのではないか?
亀井絵里として生きることで、生田衣梨奈としては分からなかったことや、知らなかった世界を見ることが出来ている。
そこになんらかの鍵があるのかもしれない。
自分の中での変化。
いままで衣梨奈は、博多弁を失ったり、笑い方が絵里に似てきてしまい、同化現象だと負の側面ばかり見て来た。
だが実際は、正の側面もあったのではないか?
亀井絵里として生きることで、生田衣梨奈としては分からなかったことや、知らなかった世界を見ることが出来ている。
そこになんらかの鍵があるのかもしれない。
もし同じことが、絵里にも言えたとすれば……
だとするならば、この入れ替わりは、かみさまの気まぐれではなく、絵里と衣梨奈のささやかな心の願いの反映なのだろうか。
「仮説です、すべては。あんまり考えすぎんで下さい」
愛佳の言葉に衣梨奈はふと我にかえった。
心配そうに瞳を見つめる彼女に、衣梨奈は優しく笑いかける。
心配そうに瞳を見つめる彼女に、衣梨奈は優しく笑いかける。
「だいじょうぶです。自分でも、もう少し考えてみます」
「はい。なにかありましたら、力になりますから」
「はい。なにかありましたら、力になりますから」
愛佳の言葉を受け、衣梨奈は深く頷いた。
もう少し、考える必要がある。
自分自身について、もっと深く、ちゃんと向き合おう。
きっとそこに、なにかあるはずだから―――
もう少し、考える必要がある。
自分自身について、もっと深く、ちゃんと向き合おう。
きっとそこに、なにかあるはずだから―――