センターへの助走3 - ﾉﾉ*＾ｰ＾) えりがナマタでえりながカメで |||9|‘_ゝ‘) まとめwiki

翌日。早速亀井流センター講座のその一を実践する機会が訪れた。
バラエティー番組のリハーサルが始まろうかという時、やや緊張気味の香音に絵里がそっと耳打ちした。
「香音ちゃん。最初の自己紹介に昨日絵里が教えてあげたアレ、入れなよ」
「ええ？！アレやるんですか？」
びっくりして香音が絵里の方を振り向いた時、スタンバイの声がかかった。

今日はモーニング娘。だけでなく、"妖精"を意味する名前のアイドルグループとの共演。
そんな中でアレをやるのか…。下手をすればスタジオの空気が凍りつきかねない。
不安そうに振り向く香音に、絵里は「大丈夫」というように頷いている。
ええい、当たって砕けろだ！
香音は覚悟を決めた。

リハーサルが始まり、モーニング娘。の他のメンバーが順に自己紹介をしていき香音の番になった。

「チョヌン！モーニング娘。9期メンバーの鈴木香音です！」

瞬間、スタジオの空気が凍りついた。
ああ、やっぱり。どうするんですか、亀井さん。
何とか保っていた笑顔が引きつりそうになった時、ひとり拍手をしたのは番組のMCを務める男性タレントだった。
「鈴木、だっけ。お前、度胸あるな。収録の中で何かあったらお前に振るよ。でも、今の自己紹介のやつは今回はやめとこうか」
「はい！任せて下さい！でも、こういう空気も嫌いじゃないです」
このやりとりに張りつめていた空気が緩み、笑いが起こった。

その後再開されたリハーサルは滞りなく終わり、本番の収録が始まった。
それぞれのグループのいいところが随所に出た内容で、香音は集中しながらも本気で楽しんでいた。
収録は順調に進んでいたが、男性タレントが言っていた"何か"が番組中のゲームで起こった。

番組中、グループ対抗のゲームで対決をしていた時のことだった。ゲームで負けた絵里は罰ゲームとしてレモンの丸かじりをすることになった。
躊躇してなかなかレモンを丸かじりすることができない絵里。これ以上時間がかかると微妙な空気になるというところで、番組MCから声がかかった。
「鈴木！手伝ってやれよ」
香音はためらうことなく満面の笑みで絵里に近づき、「さあ一緒にかじろうじゃないか、生田！」と言うが早いがレモンにかじりついた。
香音の勢いに押されるように絵里もレモンをかじり、事なきを得た。

収録が終わった後、絵里はそっと香音に近づき「香音ちゃん、ありがとね」と礼を言った。
「あれくらい何でもないですよ。それより、亀井さんが教えて下さったことのおかげで番組で目立つことができました。さすが亀井さん！」
香音のまだ嬉しくてたまらないという様子に、絵里はちょっと苦笑いを浮かべながらぽりぽりと頬をかいていた。
「どうしたんですか？亀井さん」
香音が不思議そうな顔をして聞くと、絵里は「ごめん！アレ、ちょっとツカミのつもりで言ったネタだったんだけど、まさかほんとにやると思わなくて！」
絵里の言葉に香音は唖然とした。
「えええ！アレ、ネタだったんですか？」
「ほんとごめん！今度はちゃんと教えるから」
香音は必死に謝る絵里をしばらく見ていたが、そのうち笑い出してしまった。
「亀井さんってほんとに新垣さんや道重さんが言っていた通りの人なんですね。でも、あの凍った空気、割と嫌いじゃないかもしれないです。またチャレンジします！」
香音が怒っていないことにほっとしている絵里を見て、改めて亀井絵里という先輩について思う。
テキトーキャラだったり"ぽけぽけぷぅ"とか言われたりするけれど、実は周りのことをよく見ていて気遣いもできる人。
外見が生田衣梨奈だからまだ何か変だけど、こうして接するようになって絵里の魅力的な人柄は感じられる。
うん。やっぱりこの人についていってみよう。
香音はそんな思いを込めて、「これからもよろしくお願いします、師匠！」と絵里の肩をポンとたたいたのだった。