『センターへの助走』
「はぁ…」
モーニング娘。9期メンバー・鈴木香音はこの日通算何十回目かになるため息をついた。
モーニング娘。9期メンバー・鈴木香音はこの日通算何十回目かになるため息をついた。
夜の社員食堂。
ダンスレッスンを終えて一人会社に戻り、香音は今夜二回目の食事をとっていた。
食事を再開しながら、今まで何度となく考えてきた自分の現状と今後について思いを巡らせる。
9期メンバーのお披露目の2011年正月の中野サンプラザのステージで、香音は「なるべく早いタイミングでセンターポジションを取りたい」と意気込みを表明した。
あれから1年半。いまだセンターどころかサブポジションへの足掛かりさえ掴めないでいる。
ダンスレッスンを終えて一人会社に戻り、香音は今夜二回目の食事をとっていた。
食事を再開しながら、今まで何度となく考えてきた自分の現状と今後について思いを巡らせる。
9期メンバーのお披露目の2011年正月の中野サンプラザのステージで、香音は「なるべく早いタイミングでセンターポジションを取りたい」と意気込みを表明した。
あれから1年半。いまだセンターどころかサブポジションへの足掛かりさえ掴めないでいる。
香音とて、モーニング娘。のセンターにそう簡単に手が届くものではないことは分かっている。
しかし、加入直後から次期エースと期待され、通算50枚目となる新曲でついにはセンターポジションを任された同期の鞘師里保の存在が香音を焦らせていた。
自分なりに努力もしているし、加入当時と比較して成長もした。それでも里保との差は縮まらない。
ではどうすればいいのか。このことを考えるといつも、ここで思考は堂々巡りに陥る。出口の見えない現状に苛立つばかりだった。
しかし、加入直後から次期エースと期待され、通算50枚目となる新曲でついにはセンターポジションを任された同期の鞘師里保の存在が香音を焦らせていた。
自分なりに努力もしているし、加入当時と比較して成長もした。それでも里保との差は縮まらない。
ではどうすればいいのか。このことを考えるといつも、ここで思考は堂々巡りに陥る。出口の見えない現状に苛立つばかりだった。
「さ、おかわりしよ」
悩んでいる時ほど食事が進むという性質にも我がことながら困ってしまう。最近ちょっと太ってきたし、控えなきゃまずいんだけどな…。
そう思いながらもメニューを眺めていると、ふいに後ろから声を掛けられた。
「香音ちゃん、まだ食べると?」
振り返るとそこにいたのは同期の生田衣梨奈。
そう。コイツもイライラの種のひとつだ。
衣梨奈の問いかけをガン無視して席に戻ろうとすると、肩を掴まれ無理矢理振り向かされた。
「何でシカトすると?最近仕事以外で話してくれないし、衣梨奈が何かした?悪いところがあるんだったら直すから」
ここまで言われて無視するわけにもいかない。香音はひとつ息をついて「人目もあるし、場所変えよ」と衣梨奈を促し食堂を出た。
悩んでいる時ほど食事が進むという性質にも我がことながら困ってしまう。最近ちょっと太ってきたし、控えなきゃまずいんだけどな…。
そう思いながらもメニューを眺めていると、ふいに後ろから声を掛けられた。
「香音ちゃん、まだ食べると?」
振り返るとそこにいたのは同期の生田衣梨奈。
そう。コイツもイライラの種のひとつだ。
衣梨奈の問いかけをガン無視して席に戻ろうとすると、肩を掴まれ無理矢理振り向かされた。
「何でシカトすると?最近仕事以外で話してくれないし、衣梨奈が何かした?悪いところがあるんだったら直すから」
ここまで言われて無視するわけにもいかない。香音はひとつ息をついて「人目もあるし、場所変えよ」と衣梨奈を促し食堂を出た。
空いている会議室を見つけて二人で中に入り、向かい合って座る。どう切り出したものか束の間迷い、香音は口を開いた。
「えりぽんさぁ、何か大事なことをみんなに隠してるでしょ?」
ずはり言い放つと、衣梨奈の目に一瞬動揺の色が見えた。
「ある時から急にダンスのキレが良くなったし、表現の仕方もガラッと変わった。かと思えばいきなり加入した頃みたいなしゃべり方になるし。
なんか人が変わったみたいで一貫してないんだよ。それに気付かれてないと思ってるかもしれないけど、時々会社の屋上でぼんやりため息ついてるでしょ
一体何があったのさ?えりぽんに何が起こってるの?そんなになってるのに同期にも何も言わない。水臭いよ。えりぽんが何も言わないから、こっちも口きいてやんないんだ!」
「えりぽんさぁ、何か大事なことをみんなに隠してるでしょ?」
ずはり言い放つと、衣梨奈の目に一瞬動揺の色が見えた。
「ある時から急にダンスのキレが良くなったし、表現の仕方もガラッと変わった。かと思えばいきなり加入した頃みたいなしゃべり方になるし。
なんか人が変わったみたいで一貫してないんだよ。それに気付かれてないと思ってるかもしれないけど、時々会社の屋上でぼんやりため息ついてるでしょ
一体何があったのさ?えりぽんに何が起こってるの?そんなになってるのに同期にも何も言わない。水臭いよ。えりぽんが何も言わないから、こっちも口きいてやんないんだ!」
一気にまくし立て荒い息をつく香音を衣梨奈はびっくりした表情で見ていたが、やがて静かに話し始めた。
「そこまで心配されてるなんて思ってなかった。これから話すことは信じられないようなことだけど、香音ちゃんなら信頼できるし信じてもくれるかもしれない。落ち着いて聞いてね」
急に大人の女性のような口調になった衣梨奈に戸惑いながらも、香音は無言で頷いた。
「実は私ね、一昨年卒業した亀井絵里なの。生田衣梨奈と心が入れ替わっちゃったの」
「そこまで心配されてるなんて思ってなかった。これから話すことは信じられないようなことだけど、香音ちゃんなら信頼できるし信じてもくれるかもしれない。落ち着いて聞いてね」
急に大人の女性のような口調になった衣梨奈に戸惑いながらも、香音は無言で頷いた。
「実は私ね、一昨年卒業した亀井絵里なの。生田衣梨奈と心が入れ替わっちゃったの」
想像をはるかに超えた告白に香音は絶句した。