電車に揺られて窓の外を流れる風景を眺めながら、衣梨奈は早くも勢いに任せて出てきたことを後悔し始めていた。
二人がやっていることを自分の目で見て、それから直接ぶつかってみれば。
さゆみの言葉が頭をよぎる。
しかし、娘。を離れてしまって久しい自分が今更行って何になるというのか。マイナスな考え方が我ながら嫌になるが、自分でもどうしようもない。
体は亀井絵里だが、この時に弱気で後ろ向きな心は紛れもなく生田衣梨奈だ。こんなところで自分が生田衣梨奈だと確認することが皮肉だった。
二人がやっていることを自分の目で見て、それから直接ぶつかってみれば。
さゆみの言葉が頭をよぎる。
しかし、娘。を離れてしまって久しい自分が今更行って何になるというのか。マイナスな考え方が我ながら嫌になるが、自分でもどうしようもない。
体は亀井絵里だが、この時に弱気で後ろ向きな心は紛れもなく生田衣梨奈だ。こんなところで自分が生田衣梨奈だと確認することが皮肉だった。
迷いながらも、衣梨奈は結局レッスンスタジオまでやってきた。
ステップを踏むたびに鳴る床の音と、かすかに聞こえる音楽。以前は何のためらいもなく飛び込んでいったスタジオ。
衣梨奈はスタジオのドアのノブを握ったまま動けなかった。まるで拒絶されているかのように感じて。
やがて衣梨奈はゆっくりとノブから手を離し、踵を返して出口に向かおうとした。
ステップを踏むたびに鳴る床の音と、かすかに聞こえる音楽。以前は何のためらいもなく飛び込んでいったスタジオ。
衣梨奈はスタジオのドアのノブを握ったまま動けなかった。まるで拒絶されているかのように感じて。
やがて衣梨奈はゆっくりとノブから手を離し、踵を返して出口に向かおうとした。
「逃げるの?」
ふいに背後からかけられた声にはっと振り向くと、そこには道重さゆみが立っていた。
レッスンの後そのまま残っていたのかジャージ姿のさゆみは厳しい表情で衣梨奈を見つめながら歩み寄り、衣梨奈の前で立ち止まった。
「逃げるなんて。ただ、やっぱりここに来るべきじゃなかったと思ったから帰るだけです」
否定しながらも、衣梨奈はさゆみの視線に耐え切れずに目をそらした。
「逃げてるじゃん。ここまで来てこのまま帰っちゃったら今までと何も変わらないよ?今の状況を変えるきっかけをつかみたいんでしょ?」
「でも…」
「も~。そうやってマイナスに考えるの、生田の悪い癖だよ。ガキさんにも言われたでしょ?さ、入ろ!」
さゆみはなおも躊躇う衣梨奈の肩を抱き、スタジオのドアを開き中に入るよう促した。
ふいに背後からかけられた声にはっと振り向くと、そこには道重さゆみが立っていた。
レッスンの後そのまま残っていたのかジャージ姿のさゆみは厳しい表情で衣梨奈を見つめながら歩み寄り、衣梨奈の前で立ち止まった。
「逃げるなんて。ただ、やっぱりここに来るべきじゃなかったと思ったから帰るだけです」
否定しながらも、衣梨奈はさゆみの視線に耐え切れずに目をそらした。
「逃げてるじゃん。ここまで来てこのまま帰っちゃったら今までと何も変わらないよ?今の状況を変えるきっかけをつかみたいんでしょ?」
「でも…」
「も~。そうやってマイナスに考えるの、生田の悪い癖だよ。ガキさんにも言われたでしょ?さ、入ろ!」
さゆみはなおも躊躇う衣梨奈の肩を抱き、スタジオのドアを開き中に入るよう促した。
少し緊張しながら先にスタジオに入っていった衣梨奈は、さゆみが背後でそっとほくそ笑んだことに気付かなかった。