誰かをこんな風に抱き締めたことなんて一度も無かったし、それは男の人がすることだと思っていた。
えりながいつか大人になったら、誰か素敵な人がぎゅって抱き締めてくれるんだって。
まさか自分の手でそれを遂げるとは。予想外の展開に、自らがしたことながら戸惑う。
えりながいつか大人になったら、誰か素敵な人がぎゅって抱き締めてくれるんだって。
まさか自分の手でそれを遂げるとは。予想外の展開に、自らがしたことながら戸惑う。
「・・・カメ」
耳元に里沙の声を感じる。囁くように名前を呼ばれ、心の奥が震えた。
自分の名前を呼ぶときとは明らかに違う、熱を含んだ声。
衣梨奈の知らない里沙を知っていくにつれ、衣梨奈の心はずきずきと音を立てる。
今までは違った。里沙の好きな食べ物、キャラクター、趣味。里沙のことを知れば知るほど嬉しかった。
美味しそうなじゃがりこを見つけたら里沙にあげた。一緒にディズニーランドに行く約束もした。
幸せだった。里沙の笑顔を見ることが、里沙に名前を呼ばれることが、里沙のそばにいることが。
自分の名前を呼ぶときとは明らかに違う、熱を含んだ声。
衣梨奈の知らない里沙を知っていくにつれ、衣梨奈の心はずきずきと音を立てる。
今までは違った。里沙の好きな食べ物、キャラクター、趣味。里沙のことを知れば知るほど嬉しかった。
美味しそうなじゃがりこを見つけたら里沙にあげた。一緒にディズニーランドに行く約束もした。
幸せだった。里沙の笑顔を見ることが、里沙に名前を呼ばれることが、里沙のそばにいることが。
すぐそばに彼女を感じることが何よりも嬉しいはずなのに、今は、全てが痛みに変わる。
この痛みも、自分の苛立ちも、苦しみも何もかも、それが何なのか、衣梨奈には分からなかった。
ただただ、勝手に騒ぎ立てる感情に振り回されるだけだった。
この痛みも、自分の苛立ちも、苦しみも何もかも、それが何なのか、衣梨奈には分からなかった。
ただただ、勝手に騒ぎ立てる感情に振り回されるだけだった。
「はい」
上擦った声で返事をしてしまい、焦りで鼓動が更に速まる。だが、里沙はそれを気にする風もなく、衣梨奈の肩に深く頭を埋める。
「逢いたかった・・・」
掠れた声を聴いた瞬間、心臓が、止まったかと思った。
呼吸の仕方を忘れたみたいに息が苦しい。
里沙の絵里への気持ちを、知ってしまったかもしれないという事実に。
呼吸の仕方を忘れたみたいに息が苦しい。
里沙の絵里への気持ちを、知ってしまったかもしれないという事実に。
そして、もう一つ気づいてしまった。
胸を騒がせていたのは、決して実ることのない、彼女への気持ちだと。
こんなに苦しいのも切ないのも、里沙が好きだから。アイドルとしてでも、先輩としてでもなく、里沙という人間を、好きになってしまったから。
胸を騒がせていたのは、決して実ることのない、彼女への気持ちだと。
こんなに苦しいのも切ないのも、里沙が好きだから。アイドルとしてでも、先輩としてでもなく、里沙という人間を、好きになってしまったから。
知りたく、なかったなあ。
「へへ・・・絵里も、ですよ」
軋む胸には気付かないフリをして、衣梨奈は里沙を強く抱き締める。
もう二度と感じることの無いであろうこの温もりを、この先もずっと忘れないように。
もう二度と感じることの無いであろうこの温もりを、この先もずっと忘れないように。