第7回 田中れいな
「んーっ!」
久し振りのオフの日。昼前にようやく目を覚ました私はベッドから降りて大きく伸びをした。
もうすっかり見慣れた亀井さんの部屋。人が住める状態まで片付けるのが大変だった。
それにしても、と先ほどまで見ていた夢を思い出す。最近よく見る夢。
久し振りのオフの日。昼前にようやく目を覚ました私はベッドから降りて大きく伸びをした。
もうすっかり見慣れた亀井さんの部屋。人が住める状態まで片付けるのが大変だった。
それにしても、と先ほどまで見ていた夢を思い出す。最近よく見る夢。
見た記憶のない建物の裏口。夜の屋外。街灯に照らされた道。それもクリアではなく淡く靄のかかったような、夢というよりイメージに近いかもしれない。
繰り返し見るのは何か意味があるのだろうか。見るたびに少しずつイメージがクリアになっていくのも気になる。
そこまで考えて私は首を振った。これ以上考えても答えは出てきそうにない。
気を取り直して携帯のメールをチェックすると田中さんからメールが来ていた。
繰り返し見るのは何か意味があるのだろうか。見るたびに少しずつイメージがクリアになっていくのも気になる。
そこまで考えて私は首を振った。これ以上考えても答えは出てきそうにない。
気を取り直して携帯のメールをチェックすると田中さんからメールが来ていた。
"11時に渋谷のモヤイ像前に来て。FROMれいな"
慌てて時間を確認する。11時50分。
「やばい!」
それから大急ぎで準備して渋谷に向かった。
息を切らしてモヤイ像の前まで行くと、サングラスをかけたいつものスタイルの田中さんがこちらに歩いてきた。
「やばい!」
それから大急ぎで準備して渋谷に向かった。
息を切らしてモヤイ像の前まで行くと、サングラスをかけたいつものスタイルの田中さんがこちらに歩いてきた。
「田中さんすみません!」
「おっそーい!絵里。何、田中さんって…あ」
不機嫌そうな声を上げた田中さんが何かを思い出したようにぽかんと口を開けて固まる。
「ごめん!絵里と生田が入れ替わってるのうっかり忘れてた」
周囲に聞こえないように小声で田中さんが謝る。
「えーっ!田中さんは入れ替わりのこと知ってるから私に用があるんだと思って…。どうします?」
「どうしよう?でも呼び出したのはれいなやし。うーん…」
難しい顔をしてしばし考え込む田中さん。
「おっそーい!絵里。何、田中さんって…あ」
不機嫌そうな声を上げた田中さんが何かを思い出したようにぽかんと口を開けて固まる。
「ごめん!絵里と生田が入れ替わってるのうっかり忘れてた」
周囲に聞こえないように小声で田中さんが謝る。
「えーっ!田中さんは入れ替わりのこと知ってるから私に用があるんだと思って…。どうします?」
「どうしよう?でも呼び出したのはれいなやし。うーん…」
難しい顔をしてしばし考え込む田中さん。
「よし!このまま遊びに行こ!せっかく出てきてもらったんだし、それに生田とはプライベートで遊んだことないけんね」
「え、いいんですか?」
思いがけない展開に心が躍った。
「うん。行こ!」
「はい!」
「え、いいんですか?」
思いがけない展開に心が躍った。
「うん。行こ!」
「はい!」
それから二人で食事をしたり、109でショッピングをしたり、カラオケに行ったり。
同郷ということで福岡の話で盛り上がった。
楽しくて、時々自分が亀井さんと心が入れ替わっていることを忘れそうになるほどだった。
同郷ということで福岡の話で盛り上がった。
楽しくて、時々自分が亀井さんと心が入れ替わっていることを忘れそうになるほどだった。
あっという間に夕方になり、田中さんと私は少し歩いて公園に行きベンチに並んで座った。
オレンジ色に染まる夕方の空を見ながら、私は田中さんに聞いた。
「…私でよかったんですか?」
「え?」
「だって、亀井さんとデートするつもりだったんですよね?」
田中さんが驚いて私を見た。
「いつから気付いてた?」
「いつの間にか、何となくですね」
「そっか…」
オレンジ色に染まる夕方の空を見ながら、私は田中さんに聞いた。
「…私でよかったんですか?」
「え?」
「だって、亀井さんとデートするつもりだったんですよね?」
田中さんが驚いて私を見た。
「いつから気付いてた?」
「いつの間にか、何となくですね」
「そっか…」
再び夕焼けを見ながら田中さんはぽつりぽつりと話し始めた。
「もちろん絵里の顔も声も好きっちゃけど、それだけじゃない。れいなは全部ひっくるめた亀井絵里っていう一人の人間を好きになったと。でも…」
田中さんはふっと寂しそうな表情になった。
「絵里と生田が入れ替わってることを聞いて、絵里が正式に復帰してまた絵里との距離が近くなったはずなのに、時々絵里が遠く感じることがある。
れいなには絵里がもうずっと生田衣梨奈として生きていく覚悟を決めたように見える。こんなに近くにいるのに遠い。手を伸ばせば届くのに触れられない。
そんな感じ」
田中さんは上を向いて、涙を必死にこらえていた。
二人が積み重ねてきた時間を私は知らない。でも、気が付くと私は涙を流していた。田中さんの痛みを感じてなのか、亀井さんの体が反応して流れた涙なのかは分からない。
「田中さん、そんな思いつめないで下さい!」
自分が口を挟むべきことではないのかもしれないけれど、言わずにはいられなかった。
「亀井さんは…、亀井さんは元に戻ることを諦めてません!もちろん私も。それに、入れ替わってからずっと近くで亀井さんを見てきたから分かります。亀井さん、田中さんを見る時すごくやさしい目をしてるんです。
口には出さないけど、きっと田中さんのこと大切に思ってます!」
田中さんは驚いて私を見ていた。
「すみません…」
「ううん。ありがと、生田。絵里と…話してみるよ。でも、見た目絵里やし、今絵里に怒られてるみたいで変な感じ」
田中さんはそう言って少し笑った。
「でも、今だけ。今だけ絵里の肩貸して…」
肩に田中さんが体を預けてくるのを感じながら、私は心の中で亀井さんに謝った。
「もちろん絵里の顔も声も好きっちゃけど、それだけじゃない。れいなは全部ひっくるめた亀井絵里っていう一人の人間を好きになったと。でも…」
田中さんはふっと寂しそうな表情になった。
「絵里と生田が入れ替わってることを聞いて、絵里が正式に復帰してまた絵里との距離が近くなったはずなのに、時々絵里が遠く感じることがある。
れいなには絵里がもうずっと生田衣梨奈として生きていく覚悟を決めたように見える。こんなに近くにいるのに遠い。手を伸ばせば届くのに触れられない。
そんな感じ」
田中さんは上を向いて、涙を必死にこらえていた。
二人が積み重ねてきた時間を私は知らない。でも、気が付くと私は涙を流していた。田中さんの痛みを感じてなのか、亀井さんの体が反応して流れた涙なのかは分からない。
「田中さん、そんな思いつめないで下さい!」
自分が口を挟むべきことではないのかもしれないけれど、言わずにはいられなかった。
「亀井さんは…、亀井さんは元に戻ることを諦めてません!もちろん私も。それに、入れ替わってからずっと近くで亀井さんを見てきたから分かります。亀井さん、田中さんを見る時すごくやさしい目をしてるんです。
口には出さないけど、きっと田中さんのこと大切に思ってます!」
田中さんは驚いて私を見ていた。
「すみません…」
「ううん。ありがと、生田。絵里と…話してみるよ。でも、見た目絵里やし、今絵里に怒られてるみたいで変な感じ」
田中さんはそう言って少し笑った。
「でも、今だけ。今だけ絵里の肩貸して…」
肩に田中さんが体を預けてくるのを感じながら、私は心の中で亀井さんに謝った。
亀井さんごめんなさい。今だけ、もう少しだけこのままでいさせて下さい。
私と田中さんは日が落ちるまでそのままでいた。