生田衣梨奈はすーっと息を吸い込み、はーっと吐いた。
その単純な呼吸行動をもうかれこれ10分以上も続けている。
しかも此処は、憧れの先輩である新垣里沙の自宅前だった。
人さまの家の前でこんな行動をしているなど、変質者として職務質問を受けても文句は言えなかった。
その単純な呼吸行動をもうかれこれ10分以上も続けている。
しかも此処は、憧れの先輩である新垣里沙の自宅前だった。
人さまの家の前でこんな行動をしているなど、変質者として職務質問を受けても文句は言えなかった。
しかも衣梨奈の現在の服装は、サングラスに目深に被った帽子、手首にはさり気なく黄緑色のリストバンドをつけている。
このリストバンドが、モーニング娘。新垣里沙のグッズであることは、見る人が見れば気付く。
本来ならば、えんじ色のパーカーにバースデーTシャツも着たかったが、さすがにそれは絵里に反対されたので辞めた。
なぜ反対されるのか、衣梨奈には分からなかったが、それでもほんのちょっとの反抗心から、リストバンドだけは装着していた。
このリストバンドが、モーニング娘。新垣里沙のグッズであることは、見る人が見れば気付く。
本来ならば、えんじ色のパーカーにバースデーTシャツも着たかったが、さすがにそれは絵里に反対されたので辞めた。
なぜ反対されるのか、衣梨奈には分からなかったが、それでもほんのちょっとの反抗心から、リストバンドだけは装着していた。
「う~………」
衣梨奈はともかく、一見すると不審者だった。
これが天下のモーニング娘。の9期メンバーというから驚きだった。
たとえ中学生といえども、アイドルとしてのオーラを自然と発するのがモーニング娘。のメンバーだった。
これが天下のモーニング娘。の9期メンバーというから驚きだった。
たとえ中学生といえども、アイドルとしてのオーラを自然と発するのがモーニング娘。のメンバーだった。
完全なる余談だが、作者が生まれて初めて参戦したモーニング娘。の現場は「Only you」の発売記念イベントだった。
作者は新参であり、緊張のあまりなにも分からぬままにイベントは終わってしまった。
握手会の記憶なんてほとんどないのだが、とかくメンバーが可愛いわオーラ半端ねぇわで帰りの電車内で震えていたことを記憶している。
自分より少しだけ年下の同性の子たちの活躍に呑まれた作者の魂はそのまま何処かに抜け出てしまった。
絵里や衣梨奈のように、だれかと入れ替わっていないことが不幸中の幸いだ。
作者は新参であり、緊張のあまりなにも分からぬままにイベントは終わってしまった。
握手会の記憶なんてほとんどないのだが、とかくメンバーが可愛いわオーラ半端ねぇわで帰りの電車内で震えていたことを記憶している。
自分より少しだけ年下の同性の子たちの活躍に呑まれた作者の魂はそのまま何処かに抜け出てしまった。
絵里や衣梨奈のように、だれかと入れ替わっていないことが不幸中の幸いだ。
とにかく彼女たちの「オーラ」は凄まじいのだ。
だが、いまの生田衣梨奈にはそのオーラは残念ながらない。
あるものは、ただのヲタクとしての気質だけだった。
自分が新垣里沙ヲタだと思ったことは衣梨奈はないらしい。
彼女の身分はあくまでも「新垣里沙を応援する会会長」だった。ちなみに会員は現在、10期メンバーの佐藤優樹だけであるが。
それでもこれから、新垣さんを全世界に発信していこうというのだから会長の欲は底知れない。
あるものは、ただのヲタクとしての気質だけだった。
自分が新垣里沙ヲタだと思ったことは衣梨奈はないらしい。
彼女の身分はあくまでも「新垣里沙を応援する会会長」だった。ちなみに会員は現在、10期メンバーの佐藤優樹だけであるが。
それでもこれから、新垣さんを全世界に発信していこうというのだから会長の欲は底知れない。
「えーっと、どうしよう……」
衣梨奈は再び里沙の自宅前でウロウロ始めた。
どうしようどうしようと悩み始めてもう10分経っているのだが、未だにチャイムを押せないでいる。
どうしようどうしようと悩み始めてもう10分経っているのだが、未だにチャイムを押せないでいる。
そもそも彼女がこんなにも悩んでいる理由はかれこれ3時間前の出来事にさかのぼる。
亀井絵里から受けたひとつの「ワガママ」が事の発端だった。
それは、「本当の自分」で、話をしてきてほしいというものだった。
亀井絵里から受けたひとつの「ワガママ」が事の発端だった。
それは、「本当の自分」で、話をしてきてほしいというものだった。
「ガキさんに、ちゃんと言ってきてほしいんだ、自分のこと…」
「でも、それは」
「分かってる。なんのためにいまのいままで黙ってきたかってことも…」
「でも、それは」
「分かってる。なんのためにいまのいままで黙ってきたかってことも…」
そうして苦しそうに告げる絵里に、衣梨奈は心が揺れた。
会いたいという気持ちはずっとあった。憧れの先輩である里沙に、一日でも早く会いたかった。
しかも、もうあと数日で里沙は卒業してしまう。
その前に、なんとかして会いたかった。
会ったからといって、別にこの状況が変わるわけでもないのだろうけど。
会いたいという気持ちはずっとあった。憧れの先輩である里沙に、一日でも早く会いたかった。
しかも、もうあと数日で里沙は卒業してしまう。
その前に、なんとかして会いたかった。
会ったからといって、別にこの状況が変わるわけでもないのだろうけど。
「絵里はみっつぃーに会いたいんだ」
「え?」
「あの子、ああ見えて弱いからさ」
「え?」
「あの子、ああ見えて弱いからさ」
そうして絵里は優しく笑った。
その表情は確かに生田衣梨奈そのものなのだけれど、衣梨奈はその向こうに、確かに亀井絵里を見た。
いつでも優しく微笑んで、知らない内に人をシアワセにする力のある人、それが絵里だった。
モーニング娘。として、いっしょに過ごした時間はなかったけれど、それでも衣梨奈はなんとなく、絵里を理解する。
彼女はどうしようもなく、メンバーを想っているのだと―――
その表情は確かに生田衣梨奈そのものなのだけれど、衣梨奈はその向こうに、確かに亀井絵里を見た。
いつでも優しく微笑んで、知らない内に人をシアワセにする力のある人、それが絵里だった。
モーニング娘。として、いっしょに過ごした時間はなかったけれど、それでも衣梨奈はなんとなく、絵里を理解する。
彼女はどうしようもなく、メンバーを想っているのだと―――
「行ってきてよ、会長さん」
絵里の笑顔はやっぱり綺麗だった。
その表情を見ていると、この世の中のほとんどは、亀井さんのいうことで正解なんじゃないかと思ってしまう。
穢れを知らないような、それでいて世界のすべての穢れを背負っているような、痛みも哀しみも、その身に背負っているような存在。
実際絵里は、そんなに大きな人間じゃないのだろうけど、それでも衣梨奈はなんとなくそう感じた。
それはたぶん、彼女の笑顔があまりにも優しくて、眩しいからなんだろうなと、納得した。
その表情を見ていると、この世の中のほとんどは、亀井さんのいうことで正解なんじゃないかと思ってしまう。
穢れを知らないような、それでいて世界のすべての穢れを背負っているような、痛みも哀しみも、その身に背負っているような存在。
実際絵里は、そんなに大きな人間じゃないのだろうけど、それでも衣梨奈はなんとなくそう感じた。
それはたぶん、彼女の笑顔があまりにも優しくて、眩しいからなんだろうなと、納得した。
「えーーっと、とりあえず新垣さんに挨拶して……で、世間話して……隙を見て亀井さんと入れ替わったことを話す……」
衣梨奈はなんども頭の中でシュミレーションをしていた。
そのシュミレーションが実行されるまでにもう20分も経過しているが、衣梨奈はなんども頭の中で繰り返す。
随分と荒っぽい形だが、衣梨奈はこれが完璧だと信じている。
そのシュミレーションが実行されるまでにもう20分も経過しているが、衣梨奈はなんども頭の中で繰り返す。
随分と荒っぽい形だが、衣梨奈はこれが完璧だと信じている。
「よーし……今度こそ」
衣梨奈は何度目かの息を吐き、チャイムに震える指を伸ばす。
此処でチャイムが鳴れば、否応なく里沙と対峙する。
1対1で話すのなど随分久しぶりなのだが、心臓は早鐘を打ってはやまない。
此処でこそシュミレーションが大事だと、衣梨奈はなんども頭の中で繰り返す。
此処でチャイムが鳴れば、否応なく里沙と対峙する。
1対1で話すのなど随分久しぶりなのだが、心臓は早鐘を打ってはやまない。
此処でこそシュミレーションが大事だと、衣梨奈はなんども頭の中で繰り返す。
「だいじょうぶだいじょうぶ。衣梨はできる…できる……やればできる、会長やもん、できんことはない」
実に無茶苦茶な理論を展開させながら衣梨奈はぶつぶつと呟く。
すると、カバンの中に入っていた携帯電話が震えた。
「うぉぉ!」と声に出し、衣梨奈はそれを取り出す。しかも、着信相手を確認し、再び声を上げることになる。
すると、カバンの中に入っていた携帯電話が震えた。
「うぉぉ!」と声に出し、衣梨奈はそれを取り出す。しかも、着信相手を確認し、再び声を上げることになる。
「ににににに、新垣さんっ!!」
「カァァァメェェェ!!!!」
「カァァァメェェェ!!!!」
瞬間、衣梨奈の言葉を無視した里沙の鬼のような声が飛び込んできた。
「あんた人の家の前でなにしてんの!!お母さんが心配してるでしょーが!!!」
その言葉を受けた衣梨奈は思わず上を見上げた。
新垣家の2階、恐らくは里沙の部屋の窓はガラリと開き、呆れ顔、というより怒り顔の里沙がこちらを睨みつけていた。
新垣家の2階、恐らくは里沙の部屋の窓はガラリと開き、呆れ顔、というより怒り顔の里沙がこちらを睨みつけていた。
「そこに突っ立ってたら不審者でしょーが!!警察呼ばれない内に早く入んなさい!!!」
「は、ははははっはい!!」
「は、ははははっはい!!」
衣梨奈が条件反射的にそう答えると、電話はそれきり切れた。
どうやら、衣梨奈は新垣家に入ることを許可されたようだった。
どうやら、衣梨奈は新垣家に入ることを許可されたようだった。
「あんたね、あそこで小一時間もウロウロしてたらそりゃ犯罪者だから」
「いや、一時間もしてませんけど……」
「口答えしない!」
「いや、一時間もしてませんけど……」
「口答えしない!」
そう言われてはぐうの音も出ない。
確かに10分だろうが20分だろうが、人さまの自宅前でウロウロしていたらそれは迷惑だ。
衣梨奈は素直に反省し、頭を下げた。
確かに10分だろうが20分だろうが、人さまの自宅前でウロウロしていたらそれは迷惑だ。
衣梨奈は素直に反省し、頭を下げた。
「で、今日はなにしに来たのよカメ」
里沙の言葉に思わず胸が締め付けられた。
そうだ、目の前にいる自分は「亀井絵里」であって、「生田衣梨奈」ではない。
里沙の目に映るのは、仲の良かった同い年の後輩なんだと認めざるを得ない。
だけど、今日はその事実を、根底から覆しに来たのだ。
そうだ、目の前にいる自分は「亀井絵里」であって、「生田衣梨奈」ではない。
里沙の目に映るのは、仲の良かった同い年の後輩なんだと認めざるを得ない。
だけど、今日はその事実を、根底から覆しに来たのだ。
「あの……新垣さん」
衣梨奈は神妙な面持ちで里沙を見る。
里沙は、「新垣さん」と呼ばれたことにいささかの不信感を抱いたが、黙っていた。
衣梨奈は大きく息を吸い、吐く。
決意は、揺るがない。
里沙は、「新垣さん」と呼ばれたことにいささかの不信感を抱いたが、黙っていた。
衣梨奈は大きく息を吸い、吐く。
決意は、揺るがない。
「私、衣梨奈なんです。生田、衣梨奈なんです」
伝えた瞬間、世界が止まった気がした。
好きですとか、愛してますとか、そういった告白よりも、なぜだか緊張した。
好きですとか、愛してますとか、そういった告白よりも、なぜだか緊張した。
「はぁ?!」
たっぷり10秒の沈黙のあと、里沙は眉を顰めそう返した。
たぶん、世界中のだれに聞いても、同じような反応が返ってくるだろう。
里沙は昭和な古臭いリアクションだと言われるが、今回に関して言えば、間違っていない。
たぶん、世界中のだれに聞いても、同じような反応が返ってくるだろう。
里沙は昭和な古臭いリアクションだと言われるが、今回に関して言えば、間違っていない。
「あの、信じて、もらえない、と、思うんですけど」
「そういうドッキリとかいらないから。しかもネタはイマイチだし」
「でも、衣梨奈は本当に衣梨奈で、あの、衣梨奈が亀井さんなんです。うん、そう、それで」
「アンタなに言ってんの?」
「そういうドッキリとかいらないから。しかもネタはイマイチだし」
「でも、衣梨奈は本当に衣梨奈で、あの、衣梨奈が亀井さんなんです。うん、そう、それで」
「アンタなに言ってんの?」
里沙はほとほと呆れ、大袈裟に溜め息をついた。
信じろという方が無理な話だということは分かっていた。
もし仮に、「同期の譜久村聖と鈴木香音が入れ替わっています」なんて言われても、衣梨奈は俄かには信じられない。
信じろという方が無理な話だということは分かっていた。
もし仮に、「同期の譜久村聖と鈴木香音が入れ替わっています」なんて言われても、衣梨奈は俄かには信じられない。
「で、でもっ、新垣さん」
「ねぇ、そんなくだらないこと言いに、わざわざうち来たの?」
「ねぇ、そんなくだらないこと言いに、わざわざうち来たの?」
ウケるねー、カメなんて言葉を紡ぎながら里沙は言う。
―違う、違うのに。本当に衣梨奈は……
しかし言葉が続かない。
なんて言えば、信じてもらえるだろう?
なんて言えば、信じてもらえるだろう?
「うぅ~……」
言葉にならないもどかしさに衣梨奈は頭をぐしゃりとかく。
こんな無茶苦茶で非現実的な話、確かに信じろなんて無理なんだろうけど。
だけど、もう時間がなかった。
あと数日で大好きな里沙は卒業してしまうのに、同じ舞台に立つことができないかもしれない。
こんな無茶苦茶で非現実的な話、確かに信じろなんて無理なんだろうけど。
だけど、もう時間がなかった。
あと数日で大好きな里沙は卒業してしまうのに、同じ舞台に立つことができないかもしれない。
頭だけでなく、心の中もぐちゃぐちゃになっていた。
伝えたい言葉、伝えたい想い、どうにもならない理不尽な怒り。
感情が昂り、それが自然と涙となって溢れ出していた。
伝えたい言葉、伝えたい想い、どうにもならない理不尽な怒り。
感情が昂り、それが自然と涙となって溢れ出していた。
「え、は?なに?!」
突然泣きだした後輩に里沙は慌てた。
ドッキリを仕掛けられたか、またはからかわれたと感じていたのに、仕掛け人の後輩が急に涙を流す。
そこまで凝ったドッキリをする理由などあるのだろうか。しかも誕生日でもない、ましてテレビ収録などでもないのに。
里沙は混乱しながらも、手近にあったティッシュを引き寄せ、彼女に渡した。
後輩はそれ素直に受け取り、涙を拭う。
ドッキリを仕掛けられたか、またはからかわれたと感じていたのに、仕掛け人の後輩が急に涙を流す。
そこまで凝ったドッキリをする理由などあるのだろうか。しかも誕生日でもない、ましてテレビ収録などでもないのに。
里沙は混乱しながらも、手近にあったティッシュを引き寄せ、彼女に渡した。
後輩はそれ素直に受け取り、涙を拭う。
「だっ、てぇ……信じ、て、くれんちゃもん。ホント、なのに…」
嗚咽と涙が混ざり、彼女がなにを言っているのか里沙にはよく分からなかった。
確かに絵里は感情を表に出して泣く子ではあった。人前ではあまり泣かないけれど、いちど感情のスイッチが入ると急に泣き出してしまう。
卒業間際、自分をすべてさらけ出すと決めた瞬間から、彼女は里沙やメンバー、ファンの前でもよく泣いていた。
確かに絵里は感情を表に出して泣く子ではあった。人前ではあまり泣かないけれど、いちど感情のスイッチが入ると急に泣き出してしまう。
卒業間際、自分をすべてさらけ出すと決めた瞬間から、彼女は里沙やメンバー、ファンの前でもよく泣いていた。
だけど、と里沙は思う。
この泣き方は絵里のあのときの涙とは少し違う気がした。
絵里はあのとき、卒業を決め、自分を大切に、向き合っていくと決心して泣いた。
自分の中にあるすべてを出し切り、横浜アリーナで完全燃焼したあの日、絵里は真っ直ぐに綺麗な涙を流した。
この泣き方は絵里のあのときの涙とは少し違う気がした。
絵里はあのとき、卒業を決め、自分を大切に、向き合っていくと決心して泣いた。
自分の中にあるすべてを出し切り、横浜アリーナで完全燃焼したあの日、絵里は真っ直ぐに綺麗な涙を流した。
それなのに、いまの彼女の涙は、あまりにも痛みを伴っていた。
なにがそこまで、彼女に哀しくて痛みのある涙を流させるのか、里沙には分からない。
彼女が泣いている理由すらも分からないのに、理解するなんてできない。
なにがそこまで、彼女に哀しくて痛みのある涙を流させるのか、里沙には分からない。
彼女が泣いている理由すらも分からないのに、理解するなんてできない。
「うぅ~……にいがきさ~ん……」
ただ、里沙にも分かることがある。
彼女は、泣いている。
里沙の名前を、その名字を呼んで泣いている。
「ガキさん」という愛称ではなく、名字をさん付けで呼ぶ人間は限られている。
彼女は、泣いている。
里沙の名前を、その名字を呼んで泣いている。
「ガキさん」という愛称ではなく、名字をさん付けで呼ぶ人間は限られている。
―――「私、衣梨奈なんです。生田、衣梨奈なんです」
彼女は確かにそう言った。
その言葉の主は、確かに亀井絵里なんだろうけど、亀井絵里ではない、気がした。
なんとなく、確信はないけど。
でも、なぜそう思うのかが分からない。
目の前にいるのはカメのはずなのに、それなのに、こうやって泣く姿は、カメじゃない。と思う。
その言葉の主は、確かに亀井絵里なんだろうけど、亀井絵里ではない、気がした。
なんとなく、確信はないけど。
でも、なぜそう思うのかが分からない。
目の前にいるのはカメのはずなのに、それなのに、こうやって泣く姿は、カメじゃない。と思う。
「……ねぇ…」
分かることは少なすぎる。分からないことは多すぎる。
正解の箱へと通じる紐は何本も複雑に絡み合って解けそうにない。
どれかを引けば箱は開くのだろうけど、その正解の1本を手に取ることは難しい。
絡みあった紐を解かせるほどの知識なんてない。
ないけれど、ないけれどさぁ!
正解の箱へと通じる紐は何本も複雑に絡み合って解けそうにない。
どれかを引けば箱は開くのだろうけど、その正解の1本を手に取ることは難しい。
絡みあった紐を解かせるほどの知識なんてない。
ないけれど、ないけれどさぁ!
「新垣さんが、大好きなんですっ」
里沙が顔を上げたとき、彼女は急に告白をした。
どういう意図があったのかは分からないけれど、彼女は真っ直ぐに想いを告げていた。
それは、メンバーとして?それともひとりの人間として?
どういう意図があったのかは分からないけれど、彼女は真っ直ぐに想いを告げていた。
それは、メンバーとして?それともひとりの人間として?
「大好き大好き、大好きです、にいがきさぁぁぁん!!」
それは、想いの膨張、そして膨張からの暴走だった。
衣梨奈は胸に溢れたどうしようもない気持ちを真っ直ぐに言葉に出した。
結果、その言葉は意味を持ってふわりと宙に舞ったかと思うと里沙へと届く。
そしてついでに、里沙のその胸に衣梨奈は飛び込んでいこうとした。
衣梨奈は胸に溢れたどうしようもない気持ちを真っ直ぐに言葉に出した。
結果、その言葉は意味を持ってふわりと宙に舞ったかと思うと里沙へと届く。
そしてついでに、里沙のその胸に衣梨奈は飛び込んでいこうとした。
「わぁぁっ!!」
その突然の出来事に驚いた里沙は思わず彼女から距離を取った。
生命の危機を感じたような本能行動だったのだろうか、衣梨奈の腕をするりと躱わした。
生命の危機を感じたような本能行動だったのだろうか、衣梨奈の腕をするりと躱わした。
そしてそのとき、確信した。
妙な事でがあるが、里沙はその瞬間に確信したのだ。
絡みあった紐の中、ひときわ目立ったそれを見つけた。
妙な事でがあるが、里沙はその瞬間に確信したのだ。
絡みあった紐の中、ひときわ目立ったそれを見つけた。
それは確かな、紫色の紐だった。
「あ、あんた、ホントに生田なの?」
抱きつこうとして躱わされた結果、前のめりに倒れたが、その声にガバッと起き上がる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔は、言っちゃ悪いが綺麗ではない。
そうなのだけれど、その瞳は哀しみの色のなか、ひとつの光が射しこんでいた。
涙でぐしゃぐしゃになった顔は、言っちゃ悪いが綺麗ではない。
そうなのだけれど、その瞳は哀しみの色のなか、ひとつの光が射しこんでいた。
「にぃ……がきさん…」
鼻水まで出てだらしない姿は、世界一のアイドルからは程遠い。
だけど、本気で世界一のアイドルを目指している生田衣梨奈のがむしゃらな姿がそこにあった。
だけど、本気で世界一のアイドルを目指している生田衣梨奈のがむしゃらな姿がそこにあった。
「生田……生田ぁぁ?!」
「にぃがきさぁぁん!!」
「にぃがきさぁぁん!!」
そうして衣梨奈は久しぶりに呼ばれた自分の名前を噛みしめるように、再び里沙に飛び込んだ。
今度はもう、里沙も逃げることはしなかった。
ただひたすらに自分の名前を呼ぶ後輩の背中を、よしよしとさすってやった。
今度はもう、里沙も逃げることはしなかった。
ただひたすらに自分の名前を呼ぶ後輩の背中を、よしよしとさすってやった。
なぜ、姿は亀井絵里なのに、中身が生田衣梨奈なのかは分からない。
非現実的でバカバカしい話なのに、どうしても里沙には、彼女を信じる以外になかった。
そうしてぐしゃぐしゃに泣きじゃくる後輩、生田衣梨奈は、それでも優しい先輩の腕の中でシアワセそうに笑っていた。
そんな姿がどうしても、放っておけなくて可愛くて、それでいて「バカ……」と呟きたくなってしまった。
非現実的でバカバカしい話なのに、どうしても里沙には、彼女を信じる以外になかった。
そうしてぐしゃぐしゃに泣きじゃくる後輩、生田衣梨奈は、それでも優しい先輩の腕の中でシアワセそうに笑っていた。
そんな姿がどうしても、放っておけなくて可愛くて、それでいて「バカ……」と呟きたくなってしまった。
このあと衣梨奈は里沙に入れ替わったことを正直に話し、こっぴどく叱られた。
そうやって叱られるのも、懐かしくて好きだなと、衣梨奈はだらしなく笑った。
そしてやっぱり、里沙にもう一度叱られた。
そうやって叱られるのも、懐かしくて好きだなと、衣梨奈はだらしなく笑った。
そしてやっぱり、里沙にもう一度叱られた。