「亀井さん」
絵里とともにモニターでステージの様子を見ていた衣梨奈は、背後から声をかけられ振り向いた。
そこに立っていたのは、次に迫った出番に備えてスタンバイしていなければならないはずの譜久村聖だった。
「フクちゃん、どうしたの?もう出番次でしょ?」
衣梨奈が驚いて問い掛けたが、聖は強張った表情のまま黙って俯いている。
うーん。何か言った方がいいとかいな。時間もないし…。
衣梨奈が口を開こうとした時、伏し目がちだった聖がぱっと顔を上げた。
「亀井さん!聖に田中さんと戦う勇気を下さい!」
すがるような目で見つめてくる聖を見て、衣梨奈は頭を抱えた。助けを求めるように絵里の方を見ても、絵里はにやにやしながら"行け!行け!"と目で合図するばかり。
だめだ。亀井さんは頼りにならない。よし、こうなったら。
衣梨奈は向き直るなり聖をばっと抱きしめた。
「え?亀井さん?!」
パニックに陥りかける聖の耳元に衣梨奈は唇を寄せ、囁いた。
「フクちゃんならできる。ちちんぷいぷい魔法にかーかれ!ほらっ、かかっちゃったぁ!」
衣梨奈はぽんぽんと聖の背中をたたいてから体を離した。
絵里とともにモニターでステージの様子を見ていた衣梨奈は、背後から声をかけられ振り向いた。
そこに立っていたのは、次に迫った出番に備えてスタンバイしていなければならないはずの譜久村聖だった。
「フクちゃん、どうしたの?もう出番次でしょ?」
衣梨奈が驚いて問い掛けたが、聖は強張った表情のまま黙って俯いている。
うーん。何か言った方がいいとかいな。時間もないし…。
衣梨奈が口を開こうとした時、伏し目がちだった聖がぱっと顔を上げた。
「亀井さん!聖に田中さんと戦う勇気を下さい!」
すがるような目で見つめてくる聖を見て、衣梨奈は頭を抱えた。助けを求めるように絵里の方を見ても、絵里はにやにやしながら"行け!行け!"と目で合図するばかり。
だめだ。亀井さんは頼りにならない。よし、こうなったら。
衣梨奈は向き直るなり聖をばっと抱きしめた。
「え?亀井さん?!」
パニックに陥りかける聖の耳元に衣梨奈は唇を寄せ、囁いた。
「フクちゃんならできる。ちちんぷいぷい魔法にかーかれ!ほらっ、かかっちゃったぁ!」
衣梨奈はぽんぽんと聖の背中をたたいてから体を離した。
「勇気出た?フクちゃ…。えっ?ちょっ!」
聖はぽーっとした表情で固まっており、鼻からは鼻血が伝っていた。
「もう本番なのにどうすんの?!かめ…じゃない。えりぽん、ティッシュティッシュ!」
ドタバタしつつも聖の鼻血を止め、何とか出番ぎりぎりで聖をステージへ送り出した。
聖はぽーっとした表情で固まっており、鼻からは鼻血が伝っていた。
「もう本番なのにどうすんの?!かめ…じゃない。えりぽん、ティッシュティッシュ!」
ドタバタしつつも聖の鼻血を止め、何とか出番ぎりぎりで聖をステージへ送り出した。
「さあ、続いてはBブロック第一試合。譜久村聖からです。どうぞ!」
まことのアナウンスで聖がステージに登場した。
イントロが流れ、客席から歓声があがった。聖が1曲目に選曲したのはモーニング娘。の『愛しく苦しいこの夜に』。
聖が絵里を大好きなことはファンの間でも有名であり、この選曲には誰もが納得したようだった。
本番前の絵里(衣梨奈)の抱擁ですっかりリラックスした聖は、この曲を情感たっぷりに歌い上げた。
2曲目はBerryz工房の『ギャグ100回分愛してください』を選曲。嗣永桃子がメインに歌っている原曲のキーで歌うことは難易度が高いはずだが、聖はこれも高いレベルで歌いこなした。
そして最後のダンス課題曲。勝ち抜きバトルの緊張感が漂う会場に流れる能天気なメロディ。
いくら自他ともに認める桃子のファンでもこの場でまさか選曲はしないだろう、と思われたももちの『ももち!許してにゃん体操』だった。
会場全体が唖然とする中、聖は全開の笑顔で踊りきった。
まことのアナウンスで聖がステージに登場した。
イントロが流れ、客席から歓声があがった。聖が1曲目に選曲したのはモーニング娘。の『愛しく苦しいこの夜に』。
聖が絵里を大好きなことはファンの間でも有名であり、この選曲には誰もが納得したようだった。
本番前の絵里(衣梨奈)の抱擁ですっかりリラックスした聖は、この曲を情感たっぷりに歌い上げた。
2曲目はBerryz工房の『ギャグ100回分愛してください』を選曲。嗣永桃子がメインに歌っている原曲のキーで歌うことは難易度が高いはずだが、聖はこれも高いレベルで歌いこなした。
そして最後のダンス課題曲。勝ち抜きバトルの緊張感が漂う会場に流れる能天気なメロディ。
いくら自他ともに認める桃子のファンでもこの場でまさか選曲はしないだろう、と思われたももちの『ももち!許してにゃん体操』だった。
会場全体が唖然とする中、聖は全開の笑顔で踊りきった。
「譜久村さん、ありがとうございました。続いては田中れいな。よろしくお願いします!」
れいなが登場し、1曲目のモーニング娘。の『愛して愛してあと一分』を歌い始めた。
まずは田中れいならしい選曲。技術的な上手さだけでなく魅せるパフォーマンスに会場のボルテージも上がる。
ここまでは会場のファンも審査員も予想した通りの展開。だが、れいなもこの勝ち抜きバトルが正攻法だけで勝ち抜けるものではないと考えて準備はしていた。
そこで2曲目にれいなが持ってきたのはWの『Missラブ探偵』。この意外な選曲に会場全体に大きなどよめきが起こった。
本家Wを彷彿とさせるパフォーマンスに会場はさらにヒートアップ。
そして最後のダンス課題曲。れいなが選んだのはまさかの『ももち!許してにゃん体操』。普段のれいななら絶対にしないであろう選曲に誰もが唖然とした。
全力で踊りながら、会場のファンと審査員の反応にれいなは内心「行ける!」と手応えを感じていた。
れいなが登場し、1曲目のモーニング娘。の『愛して愛してあと一分』を歌い始めた。
まずは田中れいならしい選曲。技術的な上手さだけでなく魅せるパフォーマンスに会場のボルテージも上がる。
ここまでは会場のファンも審査員も予想した通りの展開。だが、れいなもこの勝ち抜きバトルが正攻法だけで勝ち抜けるものではないと考えて準備はしていた。
そこで2曲目にれいなが持ってきたのはWの『Missラブ探偵』。この意外な選曲に会場全体に大きなどよめきが起こった。
本家Wを彷彿とさせるパフォーマンスに会場はさらにヒートアップ。
そして最後のダンス課題曲。れいなが選んだのはまさかの『ももち!許してにゃん体操』。普段のれいななら絶対にしないであろう選曲に誰もが唖然とした。
全力で踊りながら、会場のファンと審査員の反応にれいなは内心「行ける!」と手応えを感じていた。
聖とれいなのパフォーマンスが全て終わり、審査に移った。
が、審査は今までと違い難航していた。MCのまことが何とか場をつないでいると、ようやくつんく♂がOKのサインを出した。
「おっ、審査の結果が出たようです。つんく♂さん、発表をよろしくお願いします!」
まことに振られ、つんく♂がマイクを握った。
「えー、お待たせしました。まずは譜久村聖の得点は、歌唱8ポイント、ダンス9ポイント、表現力10ポイント。合計27ポイント!」
ここまでの最高得点という高評価に会場は大きくどよめき、聖も口元を覆って驚きの表情を見せた。
「続いて田中れいなの得点は、歌唱9ポイント、ダンス8ポイント、表現力9ポイント。合計26ポイント!よって、勝者譜久村聖!」
優勝候補の一角と目されていたれいなの敗退に会場からは驚きの声があがり、そして二人の健闘を称える歓声が湧きあがった。
れいなは悔しそうに唇をかんでいたが、やがて喜びの涙を流している聖に歩み寄り笑顔で握手を交わした。
が、審査は今までと違い難航していた。MCのまことが何とか場をつないでいると、ようやくつんく♂がOKのサインを出した。
「おっ、審査の結果が出たようです。つんく♂さん、発表をよろしくお願いします!」
まことに振られ、つんく♂がマイクを握った。
「えー、お待たせしました。まずは譜久村聖の得点は、歌唱8ポイント、ダンス9ポイント、表現力10ポイント。合計27ポイント!」
ここまでの最高得点という高評価に会場は大きくどよめき、聖も口元を覆って驚きの表情を見せた。
「続いて田中れいなの得点は、歌唱9ポイント、ダンス8ポイント、表現力9ポイント。合計26ポイント!よって、勝者譜久村聖!」
優勝候補の一角と目されていたれいなの敗退に会場からは驚きの声があがり、そして二人の健闘を称える歓声が湧きあがった。
れいなは悔しそうに唇をかんでいたが、やがて喜びの涙を流している聖に歩み寄り笑顔で握手を交わした。
つんく♂は会場の歓声が収まったのを見て、対戦の総評に移った。
「正直、この譜久村と田中の対戦の審査には審査員一同悩みました。甲乙つけがたかった。譜久村はこの1ヶ月で驚くほどの伸びを感じさせてくれたし、
田中もここにきて一皮むけたパフォーマンスを見せてくれました。ただ、譜久村に感じた伸びしろの部分がほんの少し田中を上回ったということでこの審査結果になりました」
「正直、この譜久村と田中の対戦の審査には審査員一同悩みました。甲乙つけがたかった。譜久村はこの1ヶ月で驚くほどの伸びを感じさせてくれたし、
田中もここにきて一皮むけたパフォーマンスを見せてくれました。ただ、譜久村に感じた伸びしろの部分がほんの少し田中を上回ったということでこの審査結果になりました」
聖はステージからはけるとすぐに亀井絵里の姿を見つけて駆け寄った。
「亀井さん、やりました!」
「み…、じゃなかった。フクちゃん、れいなに勝つなんてすごいじゃん!」
衣梨奈は興奮で思わず素が出そうになったのを何とかごまかしながら、聖の手を取り健闘を称えた。
「本番前に亀井さんがぎゅってしてくれたおかげです。あれで勇気が出ました。セリフがえりぽんみたいでちょっとキモかったけど、亀井さんならOKです!ほんとにありがとうございました!」
「亀井さん、やりました!」
「み…、じゃなかった。フクちゃん、れいなに勝つなんてすごいじゃん!」
衣梨奈は興奮で思わず素が出そうになったのを何とかごまかしながら、聖の手を取り健闘を称えた。
「本番前に亀井さんがぎゅってしてくれたおかげです。あれで勇気が出ました。セリフがえりぽんみたいでちょっとキモかったけど、亀井さんならOKです!ほんとにありがとうございました!」
「…"えりぽんみたいで"って聖はいつも衣梨奈のことどんな風に見てんのよ」
鼻歌を歌いながら控室へと戻っていく聖の背中を見送りながら、衣梨奈はむくれて呟いた。
「まあまあ。次はいよいよえりぽんの番だよ。絵里もその次だし。お互い頑張ろ!」
「はい!」
絵里の言葉に力強く頷き、衣梨奈は直後に迫った最初の試合に向けて集中を高めた。
鼻歌を歌いながら控室へと戻っていく聖の背中を見送りながら、衣梨奈はむくれて呟いた。
「まあまあ。次はいよいよえりぽんの番だよ。絵里もその次だし。お互い頑張ろ!」
「はい!」
絵里の言葉に力強く頷き、衣梨奈は直後に迫った最初の試合に向けて集中を高めた。