衣梨奈は悩んでいた。
すっかり馴染んだ亀井家のキッチンで、先ほどから首を傾げては行ったり来たりを繰り返していた。
「…よし。今日はカレーにしよう!」
何のことはない。ただ今夜の晩御飯のメニューを考えていただけだった。
しかし、このままでいいのだろうかと衣梨奈は時折考える。絵里と入れ替わってから半年以上が経過し、仕事から帰って来た絵里から教わるだけでは最早ブランクを埋めるのが困難な段階まできていた。
さらに問題なのが亀井家の居心地の良さだった。絵里の家族と過ごす時間があまりにも心地よくて、最近では「このままでもいいかも」と思い始めている自分が衣梨奈は怖かった。
すっかり馴染んだ亀井家のキッチンで、先ほどから首を傾げては行ったり来たりを繰り返していた。
「…よし。今日はカレーにしよう!」
何のことはない。ただ今夜の晩御飯のメニューを考えていただけだった。
しかし、このままでいいのだろうかと衣梨奈は時折考える。絵里と入れ替わってから半年以上が経過し、仕事から帰って来た絵里から教わるだけでは最早ブランクを埋めるのが困難な段階まできていた。
さらに問題なのが亀井家の居心地の良さだった。絵里の家族と過ごす時間があまりにも心地よくて、最近では「このままでもいいかも」と思い始めている自分が衣梨奈は怖かった。
もうひとつ、このところ衣梨奈が頭を悩ませているのは絵里のことだった。最近モーニング娘。としての仕事の後に何かしているらしく、亀井家に来る回数も減ってきている。
そのことを尋ねても絵里は笑ってごまかすだけだったが、一度「香音ちゃんが…」と口を滑らせたことがあった。
どうやら同期の鈴木香音が関係しているらしいが、その後は何を聞いても衣梨奈には「何でもないから」と言うばかりで、疑惑はますます深まっていた。
「何とかして調べてみなきゃ」
そうつぶやいた時、携帯が鳴った。
そのことを尋ねても絵里は笑ってごまかすだけだったが、一度「香音ちゃんが…」と口を滑らせたことがあった。
どうやら同期の鈴木香音が関係しているらしいが、その後は何を聞いても衣梨奈には「何でもないから」と言うばかりで、疑惑はますます深まっていた。
「何とかして調べてみなきゃ」
そうつぶやいた時、携帯が鳴った。
『もしもし絵里?』
「あ、さ、さゆ。どうしたの?」
電話は衣梨奈にとっては先輩の道重さゆみからだった。
こうして時折かかってくるさゆみからの電話。タメ口で話すのにもだいぶ慣れた。最初は先輩とタメ口で話すというだけでドキドキしていたが、最近ではさゆみとの会話を楽しめるまでになった。
今日も他愛もない話題で盛り上がっていたが、話が途切れた時にさゆみが『そういえば最近鈴木がさぁ』と言い出したので衣梨奈はどきりとした。
「か、香音ちゃんがどうかしたの?」
『うん。少し前からレッスンとか仕事が終わるとよく生田とどこかに消えてるんだよね』
「へ、へえ。そうなんだ」
『それに最近鈴木ぐんぐん成長していってる。やばいんじゃない?…生田』
え?今何て?道重さん、今確かに生田って呼んだ。
混乱して黙り込んだ衣梨奈に、さゆみはさらに続けた。
「あ、さ、さゆ。どうしたの?」
電話は衣梨奈にとっては先輩の道重さゆみからだった。
こうして時折かかってくるさゆみからの電話。タメ口で話すのにもだいぶ慣れた。最初は先輩とタメ口で話すというだけでドキドキしていたが、最近ではさゆみとの会話を楽しめるまでになった。
今日も他愛もない話題で盛り上がっていたが、話が途切れた時にさゆみが『そういえば最近鈴木がさぁ』と言い出したので衣梨奈はどきりとした。
「か、香音ちゃんがどうかしたの?」
『うん。少し前からレッスンとか仕事が終わるとよく生田とどこかに消えてるんだよね』
「へ、へえ。そうなんだ」
『それに最近鈴木ぐんぐん成長していってる。やばいんじゃない?…生田』
え?今何て?道重さん、今確かに生田って呼んだ。
混乱して黙り込んだ衣梨奈に、さゆみはさらに続けた。
『気付いてたよ、ずっと前から。生田と絵里、心が入れ替わっちゃったんでしょ?絵里とは長い付き合いだし、生田のことも加入してきた時からずっと見てきたんだもん。分かるよ』
「道重さん…」
『それよりもさゆみが言いたいのは、もうそろそろ生田が自分から動くべき時なんじゃない?ってこと。本当に本来の自分に戻りたいなら、ね』
さゆみの言葉が胸に刺さる。
入れ替わった当初は必死で元に戻る方法を探していたが、確かに最近はこの生活に慣れてしまい「悪くない」とさえ思ってしまっていたかもしれない。
だが、それではどうすればいいかと言えば、衣梨奈には見当もつかない。
「でも、どうしたら…」
『これは推測だけど、たぶん絵里は今鈴木に自分の想いを託そうとしてる。本当は生田にも託したかった想いを。二人がやってることを自分の目で見て、それから直接ぶつかってみれば何か糸口が見つかるかもしれない』
「道重さん!今香音ちゃんたちはどこにいますか?」
『今はいつも使ってるレッスンスタジオにいるはずだよ』
「ありがとうございます!」
礼を言って電話を切ろうとする衣梨奈を、さゆみが「生田」と呼び止めた。
「何ですか?」
『娘。に戻っておいで。待ってるからね』
さゆみの気持ちが伝わり、嬉しさがこみ上げる。衣梨奈は大きな声で「はい!」と返事し、電話を切った。
「道重さん…」
『それよりもさゆみが言いたいのは、もうそろそろ生田が自分から動くべき時なんじゃない?ってこと。本当に本来の自分に戻りたいなら、ね』
さゆみの言葉が胸に刺さる。
入れ替わった当初は必死で元に戻る方法を探していたが、確かに最近はこの生活に慣れてしまい「悪くない」とさえ思ってしまっていたかもしれない。
だが、それではどうすればいいかと言えば、衣梨奈には見当もつかない。
「でも、どうしたら…」
『これは推測だけど、たぶん絵里は今鈴木に自分の想いを託そうとしてる。本当は生田にも託したかった想いを。二人がやってることを自分の目で見て、それから直接ぶつかってみれば何か糸口が見つかるかもしれない』
「道重さん!今香音ちゃんたちはどこにいますか?」
『今はいつも使ってるレッスンスタジオにいるはずだよ』
「ありがとうございます!」
礼を言って電話を切ろうとする衣梨奈を、さゆみが「生田」と呼び止めた。
「何ですか?」
『娘。に戻っておいで。待ってるからね』
さゆみの気持ちが伝わり、嬉しさがこみ上げる。衣梨奈は大きな声で「はい!」と返事し、電話を切った。
さゆみとの電話を終えるとすぐに衣梨奈は出かける支度をした。別に今日でなくてもいいのかもしれないが、「今動き出さなきゃ」という衝動が衣梨奈を突き動かしていた。
絵里の母に晩御飯のことを頼むと、衣梨奈は亀井家を飛び出し、絵里と香音がいるレッスンスタジオへと向かった。
絵里の母に晩御飯のことを頼むと、衣梨奈は亀井家を飛び出し、絵里と香音がいるレッスンスタジオへと向かった。