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目次
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part791【TSトレ】
≫51二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 19:17:35
トントントン、とまな板のほうれん草をリズム良く刻んでいく。
タニノ家の末妹ウオシスは、まだ全く静かな朝から1人キッチンで野菜を刻んでいた。3口コンロは2つの鍋が火にかけられ、片方の鍋がくつくつ揺れており、もう一つは湯を沸かしている。
時刻は朝の6時半。厳寒の日曜日ながら毎日のように彼女は朝5時に起床し、掃除洗濯を静かに済ませ、こうして朝食を作っている。
「んぁ……」
階段から半覚醒気味な次女の親父が降りてきた。寝ぼけ眼を擦りながら冷蔵庫を開き、瓶牛乳を出す。
「おはようございます、親父姉さん」
「…おはよう…今日も早いな…。日曜ぐらいは…ゆっくりしても……」
「いえ。私はこれがいいんです。昔からの癖ですから」
「…そうか」
ウオシスは半年ほど前、タニノ家に養子として引き取られた。事情は一応義理の姉である親父たちも知らない。そのせいでどこか少し距離を感じてしまうのが、目下親父の悩みだった。
水仕事もいつのまにかやってしまっているせいで彼女の手は常に荒れている。これも親父は気にしていた。
それをくいっと牛乳で流し込んだ親父はふう、と一息をつく。
「つまみ食い、しちゃいますか?」
「…勿論だ」
鍋の中から煮込んでいる肉団子を取り出し、親父にあーんをする。
「親父姉さん、あーんです」
「…んあ…っつ!!」
口に熱々の肉団子が当たり、悶える親父。それに驚いたウオシスは急いで水を用意する。
「すいません姉さん!お水です!」
「んあ…ありがとな」
水を一気に飲み干して一息ついた親父は外に出て、新聞を取ってくる。まだ外は真っ暗で、息は白く凍っていた。
「こたつこたつ…」
もぞもぞとこたつに潜り込んだ親父は朝刊をひらく。ウオシスがそれを見計らって熱い緑茶を出した。
「お、ありがとな」
「いえ。このくらい大丈夫ですよ」
「…一緒にはいるか?」
「あ…すいません。まだ、朝食の準備が終わってませんので」
このたまに出てくる妙な敬語の、固くかしこまった感じもまた、親父は苦手だった。彼女側から距離を置かれているような気がしたから。
52二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 19:18:08
「ふあぁ〜〜…おはようっす…」
「あ、おはようございます202姉さん」
長髪を掻きながら、ジャージの三女、202が降りてくる。目元は少し暗い。どうやら隈を作ったようだ。
「ホットミルク、ありますよ?」
「あ、おねがいっす…」
さむさむさむ、と言いながらもキッチンで律儀にホットミルクが出来上がるのを待つ202。これも彼なりの気遣いなのだろう。
レンジでチンしたマグカップ入りの牛乳に、少しの砂糖、スプーン一杯の蜂蜜を入れてゆっくりかき混ぜる。そこにシナモンシュガーを軽くかけて完成だ。202はこれを徹夜した日曜の朝に飲むのがルーチンと化している。
「できましたよ」
「お、ありがとうっす。毎度助かるっすよ」
「いえいえ。これくらいなんともありません。何かあれば、遠慮なく言ってくださいね」
にこりと微笑んで、また朝ご飯の仕込みに戻るウオシス。冷蔵庫から大ぶりの鮭の切り身を4つ、小さな端の切り身を1つグリルに投入し、スイッチを入れる。
ぐつぐつ煮ていた鍋の火を止め、味噌を溶かし入れる。出汁に溶けた味噌と煮込まれた野菜のなんとも甘いようないい匂いがふわりと、キッチンからリビングへと通り抜けた。
「ん゛ぁあぁ……」
その芳しい匂い釣られるように長女であるギムレットがきた。ボサボサの髪を無造作に跳ねさせ、目はしぱしぱでふらふらしている。
「ギムレット姉さん、お早うございます。今日もやりますか?」
「ん……」
こたつの後ろのソファに横になり、再び寝ようとするギムレットを正座した脚に乗せたウオシスは、ゆっくりと櫛でその髪をといていく。
「むすめ…よ………」
「私は娘じゃありませんよ、ギムレット姉さん」
寝ぼけた彼は毎度彼女を娘と呼ぶ。その度々に彼女は少し、悲しそうな顔をする。
「やはり…我が妹の…櫛…は、最高だな…」
「そう言っていただけると幸いです。…さ、終わりましたよ」
背中をぽんぽんとすると、ギムレットはソ
53二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 19:21:27
ファに横になって再び寝息をたててしまう。
それを見て微笑んだウオシスは、キッチンに戻りブロッコリーを調理し終えたお湯で再びほうれん草を茹でる。
その時、バタバタと階段から焦った様子のVが降りてくる。時刻は7時50分を回ったところ。つまりニチアサの特撮が半分終わったことを示す。
「あ……戦隊終わった…」
「V姉さん、おはようございます。録画はきちんと取ってあるので大丈夫ですよ」
それを聞いて「ほんとか!?」と目を輝かせるV。顔もニッコニコしておる。
「ええ。もうすぐ朝ご飯なので、準備をしておいてくださいね」
ほうれん草をザルにあげ、水で締めるウオシスは、真冬だというのにその寒さを気にもかけないし、眉ひとつピクリとも動かさない。どこかで慣れてきたみたいだ。
「V姉さん、コーヒー飲みますか?」
「飲む!」
それを聞いたウオシスはコーヒーメーカーの電源を入れ、コップをセットする。親父がプレゼントしてくれたこれは、ウオシスにとっては一番の宝だと前にいっていた。
「V姉さんできましたよ」
「もちろんブラック…だろ?」
「ええ、もちろんです。何か必要になったら言ってくださいね」
それを受け取ったVはあちあちと言いながらコーヒーを飲む。
「美味いな…流石だ」
「いえいえ。あ、親父姉さん。今日はタマモクロスさん一家がいらっしゃるんですよね?」
「ああ。あっこの末妹も来るそうだ。夕方らしいぞ」
「了解です。夜はみぞれ鍋にしましょうか」
「肉たっぷりで頼むぞ」
「にんじん…も…」
「もちろんです。買い出しにも行かないとですね」
54二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 19:22:28
冷蔵庫のホワイトボードに買い物に行く予定を書く。
「姉さん方、ご飯ができましたよ」
「鮭か」
「はい。あとは賞味期限の近い肉団子を入れたお味噌汁もです。ほうれん草のおひたしもありますよ」
「肉は多めがいいな」と親父。
「よそうの手伝うっすよ」と202。
「にんじん…」とまだ寝ぼけたギムレット。
「テーブル拭いとくぜ」とV。
一家揃っての温かな団欒。寒い朝の中の、少しだけぬくい雰囲気。
そんな、ごくどこにでもありふれたわけではない、ちょっと不思議な、些細な日常。それはこうして回るのだった。
おしまい
頭空っぽにして書きました。いいですよね家族概念。疲れた心に染み渡ります。
長々とすいません。親父さん、ギムレットさんに202さん、それからVさんをお借りしました。エミュ等不備があればセルフ流罪で対馬へ行って参ります。
以また家族概念は書きたいですね。以上で終わります。
≫74二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 21:10:26
「ありがとうキタサン、助かったよ」
「いえいえ、会長さんの助けになれたなら嬉しいです!」
…仲良さそうに歩く二人、その姿を遠くから見守りつつ話すのは有数の恵体を持つキタトレと獅ルドトレ。
「ルドルフ…彼女もああいう後輩は好きなんじゃないかしら。」
「ええ、そうですね」
相変わらず胡散臭い女らしい振る舞いのキタトレと、それを気にも留めずいつものように振る舞う獅ルドトレ。
そんな彼女の近くで、キタトレはふとルドルフの事を呟く。前に話した時の事を思い返しての一言だった。
「『全てのウマ娘に幸福を』。…それが無理難題だと分かってて言ってる当たり、彼女もまたそういう娘よね。」
「…(ピクン)」
「あら、そうじゃないかしら。人の心も価値観も、全て同一でも定量化出来るものではないわ。そしてそれを全て満たすことは不可能だと歴史が証明してるもの。…だからこそ、そのような理想を掲げるのは何も知らない愚者か、私と同じような大莫迦野郎ね。」
「私と同じ?」
「うふふ…私、これでも彼女と同じような理想家よ?普段の行動はそのためでもある訳だし、例え無理難題だとしても最大限出来る事をするのよ。ま、他人があれこれ指図するものじゃないわ、それが思想の自由だし、何よりうるさい人は嫌われちゃうわね」
「…キタトレさんはそういう人でしたか」
魔性の女にして、胡散臭い美女のそれを最大限魅せるキタトレ。そんな彼女に獅ルドトレはふっと息を吐いた。
さて、奥からやってくる担当二人。キタトレはそこに近づいていくとキタサンと話しつつ、ルドルフの耳元で囁く。
「────────────────」
「!」
「さ、行きましょうキタ。この後追加トレーニングもあるわよ」
「?、分かったよトレーナー!」
一方で、歩き去るキタトレらを視界の隅にルドルフへと駆け寄った獅ルドトレは、ふと彼女に問いかけた。
「…何を彼から聞いたんだ?」
「ふふ、それはね…」
───その後、暫くルドルフに抱き締められた獅ルドトレが居たとか、居なかったとか。
短文失礼しました
獅ルドトレを借りて一本。普段見せない美女感をマシマシに、獅ルドトレは多分ルドルフ絡みだと結構いい反応しそう。
若干焚き付けてますが、ルドルフに言った内容はチームメイトが言っていた、ハグすると心地よいということだけです。
≫88二次元好きの匿名さん22/06/30(木) 22:33:20
みなさん見てください。小柄なハチマキ芦毛のタマモクロスさんが入店してきました。
「お〜かわええな〜。どれどれ〜?」
どうやら早速猫にメロメロのようです。あのレース時の剣幕はどこへやら。今はまるでひとりの可愛い幼気な少女です。
おや、どうやらパチネコを撫でているようですね。お腹を晒してゴロゴロいっていまえう。まったく、けしからんですね。
「せや、ボールボール…」
おや。ボールを取り出しました。パチネコはそれに興味津々です。
「ほーれ取ってこーい!」
投げ出されたボールを追っかけています。まるで犬です。
おや、黒い招き猫に当たりました。青い模様の入ったそれも、おそらくネコでしょう。
「店長さんは猫4匹おるっちゅーとったけど、後の2匹はどこや?」
部屋を見回していると、タマモクロスの膝に1匹の猫が乗ってきました。何もかもを理解してそうな顔の、ふわふわな猫です。
「お、撫でてほしいんか?ほれほれ〜」
顎のところを撫でると笑顔でこれまたゴロゴロ、ゴロゴロと喉を鳴らします。完全に信頼しきっていますね。
「んなぁ〜かわええなぁ〜。なぁ、もう1匹の猫は知らんか〜?」
ついには頬をすりすりしだしました。実際には猫の毛についたホコリやハウスダストなどを吸い込みかねないので推奨はされません。だからといって止めることのほうが無理というものです。
「お、あの裏におるんか?」
すくっと立ち上がって棚の裏を覗きます。そこにはコードに隠れて埃が付いた、小さな子猫がいました。
「そんなとこおったら体崩すで〜。ほれ、こっちおいでや〜」
しかしなかなか出てきません。
「しゃあないな…」
店長さんに許可を取って棚を少し動かし、埃を被ったその猫を救出しました。ぷるぷる怖がるように震えています。脚もじたばたと、どこかへ逃げたそうです。
「大丈夫やからな。よしよし」
それでも膝の上でゆっくり、ゆっくり撫でると段々と落ち着いてきたようです。今日のタマモクロスの私服のオーバーオールのポケットの中に入り込んでしまいました。
「ありゃも〜困ったな〜」
そんなこと言いつつも顔はでろでろです。
その後、十分堪能したところをオグリキャップに発見されたタマモクロスがいたそうですよ。
≫107二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 00:29:29
歩かせてやる リウトレ
「ねぇ、シリウス」
「なんだ?」
特になんも変哲もない、あたしがウマ娘になってからの日常。あたしがいつものようにシリウスに横抱きにされて通勤して、午前の業務をして昼休みを迎えて、彼女がトレーナー室まで迎えに来てあたしを横抱きにしてカフェテリアへ、そこでそのまま昼食を済ませ、また彼女にトレーナー室まで運ばれる。放課後はトレーニングがあればそれに付き添い、帰りは彼女に家まで運ばれる。確かに、あたしはこの身体になった直後はまったく歩くこともままならない状態だった。彼女なりに気遣ってくれたうえでの行動だろう。だが、今のあたしは普通に歩けるのだ。いつまでも、彼女に抱えられたままで良いのだろうか。歩けるようになったあの日、あたしは彼女に抱えられたままの生活を受け入れることにしたが、このままでは良くないのではと思った。それに人前で普通に歩くことができないと言うのはなかなかに不便なのだ。
「あたし、ずっと抱えられたままはダメだと思ったわ……」
別に彼女のことをきらいになったわけでもない。このままではあたし自身の為にならないのだ。彼女が学園を卒業したらどうするのかという問題もある。
「それなら歩かせてやるよ」
「本当に?」
意外だ。こんなに簡単に歩かせてくれるのか。毎朝大変と言うのもあるだろう。同室の子のこともある。あたしは感謝の言葉を紡ごうと口を開くと彼女はニッとシニカルな笑みを浮かべたので、あたしはのどまで来ていたその言葉を飲み込むことにした。
108二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 00:29:41
「いいぜ。ただし、普通に歩いていいのは私とバージンロード歩いてからな」
「……え」
バージンロード、あのバージンロード。実は和製英語なので英語ではウエディングアイルのあのバージンロードだろうか。ジューンブライド、6月も近いせいか変な意識を持ってしまっているかもしれない。あたしが今持っている長い耳を疑っていると、シリウスの腕が首に回ってくる。
「知らないのか?」
「知ってるわよ。あたしだって女なんだから」
ウエディングドレスに憧れを抱かないわけがない。純白のドレスに身を包み、将来を誓った相手とその道を歩きたい。そう夢を見ても何も不思議ではない、と思いたい。
「ならわかるだろう」
「少なくともあたしはあんたが在学中は普通に歩けないわね」
「そういうことだ」
それならそうと言って欲しい。こんなほぼプロポーズじみた言い方をしなくてもいい、そう思う。この身体だと合うドレスもないだろう、彼女が卒業するまでに、元の人間の身体に戻りたい。彼女とバージンロードを歩くなら彼女と同じ目線で、歩きたい。
「素直にお礼言ってあげようと思ったけどやめたわ」
「それでいいぜ。それに私がしたくてしてることだからな」
「……まったく」
無意識に身体が彼女へと預け、手が彼女の制服を握る。長い耳が彼女の耳に触れると小さく肩が震え、握る手が強くなってしまう。ふわりと、彼女の手があたしの髪を撫でる。
「…本当に一生使って責任取ってもらうわ」
「私はアンタを手放したり、ましてや誰かに渡す気はサラサラねぇよ」
初夏を感じさせる日差しがさし、風がカーテンを揺らすトレーナー室でじっとりとブラウスを濡らした。
≫109二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 00:30:09
Una ciliegia tira l'altra リウトレ
昨晩、イタリア在住のお父さまから大量のさくらんぼが届いた。イタリアから産地直送、あまり日はもちそうにないので飽きないように様々な料理にする必要がある。ケーキにジェラート、そのまま食べ切れるはずが無いのでアマレーナ、いわゆるシロップ漬けにしてヨーグルトと合わせたりも美味しい。デザート系にしても肉料理のソースにも使えるのがさくらんぼだ。オフの日なので色々と下拵えもできる。
「まさか…アンタ今日3食とも私にさくらんぼ食わす気か?」
「そうよ、飽きさせないように工夫するから安心しなさい」
いつものようにモーニングコールしに来たシリウスには当然食べてもらう。普通に美味しいので食べて欲しいのもある。朝はパンを主食にバランスと胃に優しいメニュー構成にし、デザート代わりに水洗いだけしたさくらんぼだ。さくらんぼについている柄や種は面倒臭くそのまま皿に盛り、ソファーに座っているシリウスの前に種や柄を入れる皿と併せて置き、隣りに座る。
「まずはそのまま食べてもらうけど」
「まぁ、基本だな」
シリウスは柄を手に取り、そのままさくらんぼを口にする。柄を取らずにそれも口に入れるのであたしは疑問に思いながらも赤黒く実を成したさくらんぼを食べる。やはり美味しい。
「美味いな」
「そうでしょ!……って、なんで柄まで食べているのよ」
「……ん?」
あたしが聞くと、シリウスは舌を出した。彼女の舌の上には結ばれた柄がある。さくらんぼの柄を舌で結べるとキスが上手いというやつだろう。
「本当にやるやつっているのね、初めて見たわ…」
「なんだ、アンタはできないのか?」
「できる云々じゃなくて、やったことないわね」
「やってみろよ、簡単だぜ?」
彼女に乗せられるがまま、あたしはさくらんぼを取り、さくらんぼを柄ごと口にする。実を食べ、種を取り出して本題へと取り掛かる。舌を動かし、柄を曲げていく。柄を結ぶことに悪戦苦闘し、口をもごもごとしているあたしをシリウスはニヤニヤしながら、結んだ柄を見せびらかす。
110二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 00:30:23
「器用なクセにお口は不器用なんだな」
「……うるさい」
「手伝ってやろうか?」
あたしの首にシリウスの片腕がまわり、空いた手があたしの顎へと添えられる。
「べ、別にできるわよ…」
手伝うと言うことは、そういうことである。ロマンティックの欠片も無い。まだしたこともないのに。
「そう言ってもその柄に付いていた実を食べ終えてそれなりに経ったな」
「…結べ―――」
ようやく結べた、と柄を見せ付けようとするとそのままシリウスの顔が近付く。ぬるりと舌に触れたそれに驚いたあたしはさくらんぼの柄を膝の上に落とした。それにされるがまま、唇が重ねられる。共有されるさくらんぼの甘酸っぱさが思考を蕩かす。それが舌や口の中をゆっくりと触れる。蕩けた思考の中で彼女の服の裾を握り、それに応えるように動かす。漏れる吐息も、垂れる涎。何もかもだらしがない。唇が離れ、紡がれていく糸。
「…っはぁ……」
こんな感覚、あたしは知らない。ぼやけた視界に映るシリウスがあたしを抱き寄せ、そのままソファーに倒れる。
「やっぱり手先程、器用じゃねぇな」
どこか嬉しそうに言いながら、シリウスはあたしの頭を撫でる。蕩けた思考とぬくもりはあたしの喉から出そうになる言葉もとかす。
「キスひとつでそんな顔して、もっとしてやろうか?」
「…シリウ、ス」
「ああ、わかってるぜ。キスまでだ」
あたしの長い尾に彼女の尾が絡められる。皿に盛り付けられたさくらんぼが無くなるまで放してはくれないだろう。好きなものはやめられない、まるで媚薬のようだとあたしは彼女と唇を重ねながらそう思った。
≫125二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 08:05:04
「トレーナーさん。おやすみにき……」
「……ん、ぁ……スカイ?……おはよ」
「ええと。……おはようございまーす。それでどうして床に?」
「床が、ね……。冷たくて、気持ちぃ……」クァア・・・
唸るような猛暑が初夏を襲い、この先暑くなる事を忘れたくなる頃。
昼にしか寝れない人間が取る手段は、当然冷房を勢いよく効かせる事だ。不摂生だの不健康だの言われてる以上責める相手も居ないだろう、多分。
「あぁ、ソファ空いてるから寝るなら使っていいぞ。今日休みの予定だったし」
「熱中症の事思うと仕方ないですよねー。ただ、その傘はどうしたんです?」
「休みの日に杖代わりにしてる日傘。足危ないから机に縛ってるし他の机の脚に日傘縛れば直射日光は遮れるから」
「言いたい事はわかるけど、部屋で日傘さして机の足にしがみついてるのは不気味だと思いますよ」
「言われてみると確かに?……ソファ、冷えてるからそこで寝てね」
はいはーい、という声を尻目に足と机を結んだロープを外す。
強く結びすぎると血流が何とかって話を聞いた事があるので緩めにしてあるが外れて何処かぶつけないか不安になる。
幸い何処か強くぶつけた様な痛みはないから大丈夫だろう、多分。今更痣を気にするのは手遅れだと思うが簡単に触って確かめる。
概ね寝る前と変わらない、と思ったが一つ気になる事があった。足の次は日傘を留めたロープを外しながら声をかける。
「日差し辛いかもしれないから日傘いる?ソファに結ぶ事になるけど」
「それはカーテン閉めれば良いんじゃないです?」
「俺日光ないと寝れないから。じゃあいらない?」
「そうですねー、どちらかと言うとお腹温めるものが欲しいような。いつものブランケットありますー?」
「あるけど、膝掛けに使うつもりだったんだよな。設定温度上げるか?」
「えぇー、止めましょうよ!この猛暑の中設定温度上げたりしたらじわじわ~っと暑さの侵入許しちゃうって、断固反対!です!」
「わ、わかった……。それなら、そうだな……よし」
ロープも解き終わって日傘とブランケットを手に取りソファへ歩く。
日傘を開いてソファの背もたれに結び、座って自分の右足にもソファの足を結ぶ。
準備が出来たらなんだなんだとコチラを見るスカイに声をかける。
126二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 08:05:14
「スカイ、おいで」
「えっ?」
「ほら、膝枕。思ったよりまだ眠いから俺も座ったまま寝るし。ブランケットお腹にかけていいから」
「そ、それじゃ失礼しまーす…?」
何を緊張してるか知らないけどどうぞどうぞと招き入れる。
元々猫っぽい部分がある担当が膝に頭を置くと広告で見たスーツの怖そうな偉い人みたいだ。
髪を崩したら悪いし、額を軽く擦る程度に右手を置いてみる。うん、広告っぽいかもしれない。誰か居たら写真撮ってもらったら面白いかも。
「……。」
「……どうした?」
「いえいえ、何でもないですよー」
何となく視線を感じていたのは置いた手と、寝る前に脱いだ靴の厚底。
随分と小さくなったらしい体の誤魔化してる部分と、触れる以上誤魔化しが効かない部分。
普段は互いに気にしていないが、此処まで距離が近いといろいろ気になるのかもしれない。
……この件を気にしているのはむしろ俺のほうかも知れない、と思いながら額に置いた右手に添える様に左手も置く。
わかりやすい様にポンポンと額を軽く叩いてみた。
「トレーナーさん?」
「出来る事は何でもするから、気になるなら何でも言っていいよ」
「……頑張りすぎないでくださいねー?」
反論しづらい心配をされてしまった。
敏い子だから、コチラの心配は全部気づいて言ってるのだろうかと様子を見ると口元の笑みが残っていた。
「じゃあもう少し頑張ってもらおうか」
「この暑さが過ぎてからにしません?」
「それは閃きと施設の混み具合次第」
「えぇー、しばらくまったりお昼寝が良いなー」
127二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 08:05:28
おまけ
「ところでスカイ、今時計ちゃんと見れたんだけど」
「……Zzz」
「……まだ授業時間だよな?」
「……スヤスヤ」
「起きてるだろ?後で授業範囲聞いてくるから補修な」
「えぇー!?見逃してくれてもいいじゃん!」
「俺も立場上は教育者だからね?暑さがマシになる夕方頃にするから今はおやすみ」
「……はーい」
暑い!筆が進まない!まだ書きますよみたいな事言った後なのに全然かけないじゃないですかどうなってるんだ!
遊びに行きたいネタとか幾つかあるけど暑さに完全にやられて全然手が進みません。申し訳ないぃ。
やってみたい試みとか夏までに書きたいものはあるので頻度落ちるかもですけどやりたい事ちゃんとやってみたいところです。何処まで出来るかなぁ。
最初は暑いから冷房効かせて寝よう、位だったのですがちょっと触発されてある種原点回帰。
元々変化に対する影響が大きかったのですが、今出来る事を出来るだけやろうとするのが大本でした。
あれから色々と変わった面もありますがその部分は変えずに続けられてたら良いなと思ったりしてます。
≫150二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 21:01:47
ブオオオン!!!
「揺れる〜!」
「ははは、転落するんじゃないぞ!」
海上を爆走する二艘のモーターボート。何人かのウマ娘を乗せ、ゴルトレとファイトレ(女)が操るそれは、波しぶきを立てていた。
無論、互いの担当ウマ娘ことゴールドシップとファインモーションはノリノリで潮風を浴びており、それはもういい笑顔である。
…同乗者達からすれば、数十ノットで走りながら揺れる船の上でしがみついているのに必死ではあったが。
「ファイトレ(女)!大丈夫なのかこれ?」
「大丈夫だ、そうじゃなければやらん」
「ゴルトレさん!?僕吹っ飛んでいったりしないですよね?!」
「おうよ!だからかっ飛ばしていくぜゴル(サブ)トレ!」
それぞれの操縦者の近くにいた二人が声をかける。一方で、更にその後ろにいる人達は
「ねぇネイチャ、私達船から落ちないよね!?」
「あ、あたしもちょっとわかんないかも?!」
「トレーナーさん!この船、このまま水平線の向こうまで行ったりしませんか?!」
「多分行かないから大丈夫…なはず!」
まあ中々にカオスであった。そんな中、船首で派手に波しぶきを浴びるゴルシがゴルトレに近寄ると
「なあトレぴっぴ、もっといけるよな?こいつはこんなもんじゃねえはずだ。」
「勿論だぜゴルシ、このまま太平洋の果てまで行っちまおうじゃねえか!」
そういうと彼は船外機に掛かっているリミッターを外し、『WEP』と書かれた所まで吹かす。更に加速するボート。
「あっ、トレーナー!…勿論、私達もついてけるよね?」
「…それがお望みなら。5分間だけならこいつは問題ないとも。全員、振り落とされないように掴まってろよ!」
同じように速度を上げていくボート。その二艘の後ろからは、色とりどりな悲鳴やらなんやら聞こえてきたのだった。
──数分ほど走り回って二人は大変満足したらしい。他の人達は中々大変な事になってたそうな。
短文失礼しました
小型船舶免許を持ってそうな二人にモーターボートをかっ飛ばしてもらいました。何気にゴルシも持ってそう。
揺れながら爆走する船上で後ろに乗ってた人達は大変スリリングだったでしょう。緊急出力はホイホイ使うものじゃないです。
≫155二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:54:21
『夏氷』
うだるような暑さが少々和らいできた夕暮れ時、風の吹きこむ縁側にウマ娘が三人。
「はい」
「はいではない」
芦毛のウマ娘が段ボールに入った何者かをとん、とちゃぶ台の上においてどや顔をしたため、栗毛のウマ娘が疑問を呈した。
「なんだその怪しげな物品は」
「それにいきなり武道場の座敷部屋に来てほしいといわれたときは何事かと思いましたが~」
「いやね、たづなさんに頼まれて倉庫の整理手伝ってたらこんなもんが出てきて」
そういいながら芦毛のウマ娘、ブラトレが段ボールを開くとそこには手回し式のかき氷機が一つ。
「あー……まあ大方ファン感謝祭の時に使われた奴だろうな」
「なるほど~、それならばこの部屋をわざわざ使うのも納得ですね~」
中身を見てある程度の納得を得たフクトレとグラトレ。そこにもう一つ疑問が浮かんでくる。よく見渡せばこの和室、冷凍庫も何もないのである。
「おい、もしかしてこれだけしか用意してないとかいう話はないよな? 今見る限り何もないが」
「そこまで阿保じゃねえぞ俺は。もうちょいしたら届くから……お、来たようだな」
微かな音に気が付いたのか、ブラトレが入口のほうに向きなおる。すると、玄関には少々大きめのクーラーボックスを抱えたネイトレと、絶妙に重いものを持ち続けて若干顔が引き攣っている黒カフェトレがいた。
「お疲れ様です、頼まれたものを持ってきました」
「氷……氷重かった……台車とかないんですかブラトレさん」
「台車はあったけどキャスターぶっ壊れてたからなあ…」
「それは……仕方ないですね」
「あら~、黒カフェさんにネイトレさんではありませんか~」
グラトレとフクトレがクーラーボックスを受け取り開くと、そこには色とりどりのシロップや果物が入っていた。
「美味しそうだな……」
「ま、そういうわけでちょっとかき氷パーティしようぜという話なんだな」
「風流ですね~」
「あ、それなら僕これ持ってきてますよ」
そう言うと黒カフェはバッグの中から木の箱を取り出し、皆に見せるように開く。そこには薄い黄色の風鈴が収められていた。
「風鈴ですね……音だけでも涼しくなる気がします」
「なんかそういう効果あった気がするけど名前ど忘れしたわ……じゃあ氷も着いたし、準備するか」
こうして大人五人の、静かなお祭りが始まった。
156二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:54:33
ごりごり、ごりごりと鉄が氷を砕いていく。降り注ぐ氷の粉が硝子皿に、新雪を湛えた山を作り出す。
「既に涼しい……いや気温めっちゃ暑いんですけど」
「これでもマシになったんだからなぁ……」
一通りのサイズになった後は、それぞれ好みのトッピングで白い山を飾り立てる。
「フクトレはシンプルだな、マンゴー」
「今日のラッキーカラーはオレンジらしい」
「黒カフェさんは……レモンですか?」
「なんだか惹かれてしまいました」
「ブラトレさんは~……ぶどうですか~?」
「なんか珍しいのが入ってたから試してみたんだよな。そういうグラトレは宇治金時か」
「えぇ~。ネイトレさんが入れてくださっていたので~」
「見かけたときに何だかグラトレさんが喜んでくださるかと思って。喜んでいただいて何よりです」
「ネイトレさんのはイチゴですかね?」
「そうですね、なんだかんだでこれを選んでしまう気がします」
それぞれが銀色のさじを差し込み、彩りあふれる氷の山を口に運ぶ。冷たさと柔らかな甘さが口の中に広がり、夏の暑さが少しずつ和らぐような感覚を覚える。
「美味しい……」
「何年ぶりだろうな、こんな感じで食べるの」
風が吹き込み、風鈴が静かに音を奏でる。夕暮れのオレンジが縁側を包み、ノスタルジーな空気を生み出す。
「……風流ですね~」
「態々こんなところまで呼び出したブラトレの気持ちもまあわからんでもないな、良い空気だ」
「欲を言えばもう少し涼しかったらいいんですけどねえ」
「それはまあ夏だから仕方ないな……」
静かに味を楽しみ、耳で風と鈴の音を楽しむ。暑さの中で楽しむ涼しさ、静寂の中で楽しむ音。夏だからこそ楽しめる、そんな体験を五人は楽しんだ。
157二次元好きの匿名さん22/07/01(金) 22:54:58
「食べた食べた。今度は担当も呼んでのかき氷祭りもありだな」
「そうなってきたらもう一台欲しくなるな……5人でも割と大変だったろ」
「腕のトレーニングと考えればそうでもないぞ? 役に立つかってのは聞かんでくれ」
片づけ終わり、武道場に鍵をかける。時刻はもう19時前、十分に遅い時間となっている。
「この後どうします?」
「せっかくだからこの五人で飯食ってから帰るか」
「では~……最近行くことの多い茶屋で夕飯を頂きましょうか~」
「今日は和風攻めだな。……かき氷って和風でいいのか、これ?」
「どうなんでしょ、考えたこともなかった……」
「実は平安時代からあるらしいので~、和風でもよろしいかと~」
「知らんかった……」
夕暮れに五人の影が差し、語り合う影が楽しそうに揺れる。暑い夏の中の緩やかで涼しげなひと時。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part792【TSトレ】
≫8二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 09:32:15
「あづーい……」
そう、私より少し遅れて生徒会室に入ってきた彼女は言う。
「仕方がないことだ、先程まで換気をしていたのだから……尤も、先程ブライアンも同じことを言っていたよ」
「あ、やっぱり……」
「やっぱり、とは何だ」
「いや、よく気が利くよねって思って……まだ暑いしこうしよっと……」
二つの意味で眉をしかめるブライアン、ソファに座り胸元のボタンを外すトレーナー君……いくらなんでも無用心過ぎるが、この部屋にはブライアンと私のみであるし、多少は許すべきだろう。
「……ところで、だ」
「なぁに、ルドルフ?」
「一応、団扇を用意してあるのだが……」
「扇子じゃなくて?」
「ああ、団扇だが……」
「……そういうことか」
「待て、ブライアン。どういうことだ」
「……だからつまらないんじゃない?ルドルフのは」
「それとこれとはまた別の問題ではなかろうか……」
「そこはわからんが、冷房が効いてきたぞ」
「あ、ほんとだ……とりあえずなにか淹れるね?」
「であれば、アイスコーヒーを」
「私はなんでも構わんぞ」
「はーい」
こうして、結局有耶無耶のまま話は終わったが……
結局、エアグルーヴに扇子をちらつかせてもわかっていないようであったあたり、私は悪くないのだろう。
≫24夏のばかばなし22/07/02(土) 10:21:11
「あづいよぉ〜」
「あづいなぁ〜」
「ブラトレその髪の毛実は氷でできてたりしない? 見た目ひんやりしてそうだけど」
「暑さで頭やられてんのかマルトレ。ワイシャツまくるだけじゃなくてベストも脱げばいいだろ」
「着ないとダメよってマルゼンスキーに怒られたんだよぉ……スズトレも着ないと周りがヤバいわねって意味わからんこと言うし……」
「なんで夏に限っていつもより濃いめの赤い服着てるんだよ……俺みたいにジャージ着ればいいじゃん」
「ブラトレがジャージ着てもブラトレって認識されるからいいけど俺がジャージ着るとその辺の生徒Aと化して誤解を受けるんだよぉ」
「個性出していけマルトレ。ワックスでも塗ってスーパーウマムスメ人になれ」
「こちとら寝汗で夏は毎朝スーパーウマムスメ人2状態だぞ。ブラトレなんて既にスーパーウマムスメ人ブルーじゃん、そもそも濃い色の赤いワイシャツじゃなくて汗で色変わってるだけだし」
「マジか?やめろワイシャツをめくるんじゃないスズトレの言い分の意味わかったわ。それより昼飯だ昼飯。学食ならこれはもう冷やし中華にかき氷大盛り頼むしかないって」
「じゃあ俺は野菜盛りだくさんとろみ鍋で」
「このクソ暑い日になんでわざわざ暑いもん食べるんだよ」
「いいだろ冷房効いたところで熱いもん食べるのが夏バテ防止に一番いいんだよ多分」
「たしかに」
「鍋の熱で実質俺が太陽になるから涼しいんだよ」
「放射熱で俺が焼け死にそうだぜぇ」
「かき氷で冷却してけ」
「かき氷といえばハワイアンブルーって結局何味なんだろうな」
「そりゃもうハワイアンなブルーの味だろ」
「ハワイでブルーなところといえば海だから実質海かけて食ってるようなもんでは?」
「塩分補給にちょうどいいな」
「どうせ超でかいサイズのかき氷来るんだからちょっと分けてくれよ」
「いいぞ」
25夏のばかばなし22/07/02(土) 10:27:48
「待ってくれ、固形燃料使って鍋に追い討ちで加熱をしまくるタイプとは聞いてないぞ。煮えてるんだけど」
「南無阿弥陀仏」
「お経やめて❤︎ ちょ、ブラトレそのかき氷の端っこちょっとくれよ入れて冷ますから」
「真冬に行く源泉掛け流しの温泉じゃねえんだぞ頑張って食え。さっきの言い分はどうした」
「記憶にございません〜」
「ここは誰だ…‥私は誰だ……」
「お前はブラツー、ブラのクローンだ」
「語弊のある名前の使い方やめんかオラァ冷凍ビーム」
「うぉぁぁ煮えた鍋がいい感じに!助かる」
そんなこんなした二人は午後もクソ暑い中トレセン学園で頑張ったとさ
〜完〜
≫35二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 14:42:03
◇ジェネレーションギャップの威力は意外と高い
「ミュウツーってアレだよね。全部3Dで映画リメイクされたポケ●ンの……合ってる?トレーナーさん」
「そうそうそれそれ。……あぁ、なんか思い出しちゃったなぁ」
「ありゃま。それってネイチャさんが聞いても良さげな話?」
「うん、ぜんぜん問題ないよ。えーと、某アニメにCC(シーツー)ってキャラがいてね? 『あれって元々オリジナルに頭文字Cのキャラがいて、そいつのクローンなんだよ』ってネタバレを当時友達に吹き込まれてね」
「ほえー……」
「まあデマなんだけど」
「デマ!?」
「うん。しかもちょっと難しいアニメで子供の頃見たっきりだったから、そのネタがデマだって気づいたのが大人になってからっていうね……思い出話としてはそれだけなんだけど、ネイチャもあまりマヤノにウソ吹き込みすぎたらダメだよ?」
「ぐっ、シーツーは知らないけど、善処します……」
「うんうん。よろしい」
- ?
「まって。まってまってまって? ウソ!?? ネイチャコードギア●分かんない!!?」
「あああ圧がすごい!? し、CMでなんか作品の名前だけは聞いたことあるかもだけどぉ……! ごめん、話の筋とかキャラとか分かんない、と思う」
「ウソ……日曜夕方にやってたのに……」
「…………あの、調べたら一期2006年二期2007年って出たんですけど……」
「……」
「15年前だとさすがにアタシもおさえてないっていうか記憶にございませんというか……」
──……燃え尽きちゃったよ。真っ白にさぁ…… ←憔悴
「元が白いから分かりづらいよ! トレーナーさん!? トレーナーさぁん!!」
(終)
以上。流れ弾がすごいかもしれませんが当局は一切関知しない
なんならすでに自爆済み。自傷ダメージで致命傷
≫46二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 18:08:24
フジトレ「ポケモンは昔からやってるよ。ミュウツーの逆襲直撃世代だったし」
フジ「そういえばトレーナーさん世代だったんだ」
フジトレ「そうそう。昔のだけじゃなくてサンムーンとかブラックホワイトも、もちろん剣盾も買って遊んだよ」
フジ「……ブラックホワイト?サンムーンは小学生のころに聞いたことあるけれど……」
ジェネギャを食らって硬直するフジトレ「……エ?ソンナムカシノナノ?」
フジ「と、トレーナーさんしっかり!しっかり!!」
ダイパは流石に昔だよねーくらいに思ってたフジトレ「嘘だあ……」
≫52エメラルド20年前ってマジ?22/07/02(土) 19:33:00
パチ「ポケモンかぁ……昔遊んでたな。通信ケーブルやポケモンスタジアム持ってる友人の家に遊びに行って……」
タマ「トレーナー、通信ケーブルって何や?」
パチ「(そういえば、FRRG以降はワイヤレスアダプターだったか?)おーい黒!猫!小ちょっといいか?カクカクシカジカシカクイムーヴ」
猫「ポケスタ?」
黒「通信ケーブル??」
小「ワイヤレスアダプター???」
パチ「ウ…ウソやろ!?確かにエメラルドは10年ぐらい前の作品だけど……本当に知らない?ウゾダ...ウゾダドンドコドーン!」
タマ「ちょ!?トレーナーどこいくねーん!?」
≫76二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 23:43:38
緩やかなひととき 🐰🦁🐭
お昼休みが終わり、トレーナー室で私とお昼を食べていた担当ウマ娘さんのシンボリクリスエスさんは教室へ戻って行きました。今日も作ったお弁当を美味しいと言ってくれて私はとても嬉しかったです。
―――ピコン
スマートフォンからメッセージアプリの通知音が響きました。内容を確認するとシンボリルドルフさんのトレーナーさんからでした。今日の午後に少しまた3人で集まってお茶をする予定なのですが、その確認でした。3人と言うのは、シンボリルドルフさんのトレーナーさんことルドトレさんとシリウスシンボリさんのトレーナーちゃんことリウトレちゃんと私、同じシンボリの名を持つウマ娘さんの繋がりもあってよくお茶をしています。今日はその為にお菓子も作って来ています。もちろん放課後のトレーニングを終えた後にクリスさんが食べる分も用意しました。クリスさんは私の作った料理やお菓子が好きみたいで自分の分も作って欲しいと言ってくれたのです。
「今日は……」
―――コンコン
ノック音と共にゆっくりと長い耳と尾を揺らしてひとりの白毛のウマ娘さんが入って来ました。前述したリウトレちゃんです。彼女はウマ娘化したあと上手く歩けない為に普段の移動はシリウスさんに抱えられてしています。
「こんにちは、リウトレちゃん」
「こんにちは、クリストレ先輩」
私は基本的に丁寧語とさん付けをどんな人にも心掛けているのですが、リウトレちゃんはむず痒いからやめて欲しいと言ったのでちゃん付けです。
「先輩?」
「えと、なんでもないです」
「ルドトレ先輩待っているんで行きましょ」
リウトレちゃんのペースに合わせながら、ルドトレさんのいる生徒会室へと向かいます。
「先輩の年下みたいな雰囲気増しましたよね」
「えっ……うーん……」
元々、色んな方にお菓子を貰っていました。孫や娘、妹みたいと。特にそう振舞っているつもりはないのですが、ウマ娘化してからそれは加速していきました。背が更に小さくなり、クリスさんを見上げる時少し首が痛くなってしまうこともありました。クリスさんが以前よりも屈んで私に目線を合わせてくれるので改善しましたが、クリスさんに負担を掛けてしまっています。
77二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 23:44:00
「やっぱりそうなのかな……私もう23なのに」
「今の身体に関しては実年齢と同等に考えない方が楽ですけどね」
「それでもだよー変わるならルドトレさんみたいに背が高くなりたかったなぁ」
ウマ娘になり変わったこと、変わらないことをリウトレちゃんと話しながら歩いていると生徒会室へと辿り着きます。ノックをしてゆっくり扉を開くと長いポニーテールを揺らした長身のウマ娘がいました。ルドトレさんです。
「お疲れ様です。クリストレくん、リウトレくん」
テーブルの上にはある程度のお茶の準備がされていました。
「クリストレくん、それは?」
「せっかくなのでカップケーキを焼いてきました」
もともと用意されていたお皿の上にカップケーキを並べます。シンプルなカップケーキはマカロンのパステルカラーを更に際立たせ、なんだか素敵な雑貨屋みたいな雰囲気です。リウトレちゃんはゆっくりとした足取りでティーポットとカップの、紅茶を淹れる準備をしていました。お菓子の甘い香りと紅茶の香りが生徒会室を包んでいきます。このあと生徒会のウマ娘さんたち来るとは思うのですが、大丈夫なのでしょうか。
「カップケーキとマカロンね……アッサムあたりがいいわ」
「アッサムならこの前、良いものが届いたので……これを使ってください」
紅茶の準備ができ、お茶会のはじまりです。このお茶で話すことは基本的にはいわゆる惚気話です。最初はリウトレちゃんがシリウスさんのアプローチに悩んでいたのを相談したことから始まったのですが、素直になれたようでそれからは気兼ねなく、互いの担当ウマ娘さんとのことを話し合うようになりました。
78二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 23:44:12
「き、キス……は、その……」
「したんですね!わぁーよかった」
「言ってないわよ!」
「その反応はしたのと同じですよ、リウトレくん」
「う……」
少しだけ頬を染めて、目を細めるリウトレちゃんは完全に恋する乙女のそれです。人間だった時の彼女はポーカーフェイスで一部の男性トレーナーから高嶺の花と言われていましたが、今の彼女にはそれはなく、表情がころころと変わって可愛らしい年相応の女の子です。
「キスってとっても素敵ですよね、ね!」
「シリウスも嬉しかったでしょうね」
「……あ、えと」
「ふふふ…可愛いです」
「いつしたんですか?」
「た、誕生日の時に……っていつでもいいじゃない!」
長い耳とぴこぴこと動かしながらツッコミをする姿はとても可愛らしいです。
「そうですよ、いつでもいいのです」
「私たちでも流石に場所は選びますけど、目立ちますから……」
「こ、紅茶冷めますよ!」
リウトレちゃんが照れ隠しにお菓子と紅茶に手を出し始めると、ルドトレさんと目を合わせて思わず頬が緩みました。私たちの中では最年少の彼女ですが、担当ウマ娘さんとの付き合いの長さは私たちのなかで最長です。そんな彼女とシリウスさんの関係は私には計り知れないものです。それでも私は、悩んでいた彼女がこうして照れたりしながら私たちに今の関係を話してくれるのがとっても嬉しくて、一緒に飲む紅茶に食べるお菓子がどれも本来の美味しさよりもずっと美味しく感じられるのです。
≫79二次元好きの匿名さん22/07/02(土) 23:45:12
モブから見るクリストレ
とある居酒屋。
「よく集まってくれた」
「とんでもない、これは大事なことだ」
「そうだとも」
並べられたつまみに、酒。三者三様の男たち。彼らはトレセン学園にてトレーナーをしている。
「まず、俺からいいか?」
「もちろんだ。今回は君が中心だろう」
先導する男はこほんと咳払いをし、酒をひとくち飲むと口を開いた。
「【「いい子のクリストレ」のために俺は客観的な観点を以て誠実に、俺が見た彼女のトレセン学園での行いをここに記す。】
彼女は毎朝エアグルーヴ担当トレーナーらと共に花壇の水やりをし、担当であるシンボリクリスエスの朝トレに取り掛かる。ウマ娘になってからも変わらず、更に幼くなった見た目とは不釣り合いの大きさの胸は彼女の純粋さとも合わず、だがそれがまた俺のこころをゆるがしてしまう。日中すれ違う生徒や教職員、事務員やトレーナー、カフェテリアのスタッフに丁寧にあいさつをする姿は彼女が成人女性とも思えない清らかさに溢れており、己がいかに汚れ切ってしまったのかと罪悪感に苛まれそうになるがそんな彼女が可愛らしい。こんな汚れ切った俺にも丁寧なあいさつをしてくれるのだ。なんていい子なのだろうか。以前あまりにも可愛らしくてお菓子を渡してしまったのだが、笑顔で受け取ってくれて、後日すれ違った際にお礼までしてくれたのだ。放課後のトレーニングを終えたのか、担当を寮の前まで送った彼女は小さいながらに母性的な雰囲気もあり、彼女も成人女性なのだとかんじてしまったのだ。担当が寮に入ったあとの彼女の横顔はとても寂しそうだった。どうか忘れないで欲しいクリストレは我らの光であり──」
「相変わらずだな」
「まだつづきがあるんだが」
「ええとまた次に聞くよ。次はおれが」
「くっ…時間も限られているから仕方ないか」
「いいぞ」
うまぴょいうまぴょい
≫118二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 11:21:36
『誰にとっての正しいこと?』
「あのぉブラトレさん、どうしたんですかぁ?」
「あー、スイトレさんですか。……何でしょうねコレ」
「コレ扱いとは酷い気がするねぇ。仮にも後輩なんじゃないのぉ?」
「その仮にもっていう言い方もだいぶアレな気がしますがね。いやなんか……来た時にはこうなってたというか」
ブラトレとスイトレの目線の先には、灰になったようにベンチに座り込み燃え尽き果てた白毛のウマ娘、ドベトレがいた。
「見たところこれはどういう感じでしょうか、スイトレさん」
「そうだねぇ、自己肯定感の崩壊と自己嫌悪と正しさと愛の狭間でがんじがらめになった感じに見えるねぇ」
「流石その手の造詣に深いですね」
「伊達にぐだついた人生送ってなかったからねぇ。それはそうとあのまま放置してたら干からびちゃうんじゃなあい?」
「じゃあ回収しときますか。おーいドベ助、目は見えてるかー? 指何本に見えるかー?」
「ああ誰だろうな、俺の目の前にいるのは……死神かな……いや、死神はもっとこうバーッて黒いもんな……」
「いかん熱中症気味になっとる。レスキュータイムだ」
意識が朦朧としているドベトレをファイヤーマンズキャリーで食堂に運ぶと、スポドリを摂取させたうえでかつ丼を用意して尋問が開始された。
「いや尋問って何!?」
「いや、どーせドベ助のことだしなんかやっちゃったんじゃねって思ったから……」
「人生失敗は付き物だからねぇ……言って楽になるとは言わないけどぉ」
「追い打ち! ……笑わんでくれよ本当に」
ドベトレはしばらくすると、ぽつりぽつりと話し始めた。最近ドーベルとの距離が近すぎるのではないか、あくまで自分とドーベルはトレーナーとその担当ウマ娘の関係であり、それ以上の関係を求めるのは不適切ではないか、と。
「……で、その結果最低限中の最低限しか話さないようにしてる、と」
「あぁ……だって俺は今トレーナーだぞ? いくらドーベルの家族だからって、あまりに関わりすぎるのはダメなんじゃないかってさあ」
言い終わるや否や、また何かを思い出したように頭を机に突っ伏してしまう。
その光景を見るにスイトレはうぅんと唸り、ひとつ気になるといった面持ちでこう呟いた。
「その『不適切』ってぇ、どの目線からの不適切?」
「……え?」
119二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 11:21:46
「例えばねぇ、とってもわがままな子がいたりするじゃない?」
スイトレが静かに例え話をし始める。が、あまりにもわかりやすかったためについブラトレは口をはさんでしまった。
「……それスイ「ブラトレ君ストップねぇ」あっはい」
指摘をやんわりと止めると、また例え話を進める。
「おっほん。そんなわがままな子がとっても大切な大人は、わがままな子にああしなさいこうしなさいって言っちゃうわけです。でもわがままな子は知らんぷりして自分の思うように行動します」
「……それ、止めなくていいのか?」
「そう、普通はそう思っちゃうかもしれないよねぇ。でも、その子にとって何か大切なことがあったりするんじゃない?」
「……大切なこと」
「子供の自由にさせる、それって不適切? 子供だから何も知らない、子供だから導かないといけない……それって、本当に正しいこと? 子供だって、何か考えて行動したり、いろんなものを見て学んでるんだよねぇ。だってス……わがままな子だって、わ……大人よりもいろんなことを知っていたりすることもあるからねぇ」
少々ガワがはがれかけているが、その言葉は少しずつドベトレに沁みる。
「まあそもそも距離がどうのこうのとか言って調子崩させたら本末転倒もいいところだけどな」
「それもそうだねぇ」
「さ、さっきまでの優しげのある口調は何処へ……?」
「もう店仕舞いだよ」
「閉店ガラガラぁ」
シャッターを閉めるようなジェスチャーをする二人組。それはそれとして、アドバイスは続けるようだ。
「まずもって俺たちはトレーナーなのは間違いない。そういう面で、その……過度なスキンシップとかは避けるべきではある。ただ、本当に最低限しか接しないのが適切な距離感かどうかはどうとも言えないな」
「そもそもぉ、それちゃんとドーベルちゃんに相談してやったことなのぉ?」
「うぐ、そ、それは……」
「そういう互いのことはちゃんと話し合わないとぉ……抉れるよ」
静かに、そして淡々と釘を刺す。
「別にその行動自体がまずいってわけじゃあねえんだ、互いに少し距離をとって余計なことに気をそらさないっていうトレーナーとウマ娘もいないわけじゃあない」
だが、とブラトレは付け加える。
「それを突然相談も無しにやられたらたまったもんじゃあないと思うぞ、俺は」
「……そうだな……」
120二次元好きの匿名さん22/07/03(日) 11:22:00
「少なくとも……ドーベルちゃんは、きみとお話しすることをとっても楽しみにしてると思うんだよねぇ。きっとそれも調子の管理の一つなんだと思うよぉ」
「……」
そう言い終わるとスイトレはほにゃっとした表情に戻り、最後のアドバイスをドベトレへと送る。
「まぁ、若いんだから間違えることもあるよねぇ。早くごめんなさいして仲直りするといいよぉ」
「……その、あんがと、です」
「うん。頑張ってねぇ」
スイトレの静かな後押しを受け、ドベトレは立ち上がり走っていく。食堂の出口に差し掛かるとくるりと振り向き、二人のほうへぺこりと頭を下げて去っていった。
「……若いっていいねえ」
「まあウマになったんで俺たちもだいぶ若くなっちゃったんですけどね」
「肉体年齢的にはねぇ……ところで、さっきちょっと言い淀んでたことあったみたいだけどぉ?」
「んー、いや……トレーナーとウマ娘の関係って人それぞれなところが多分にあるからなあ、って」
そういいながらブラトレが振り向いた先には、クリークに膝枕をしてもらっている小さいのほうのクリトレがいた。少々異様な光景ながらも幸せそうな二人が同じ時を過ごしている。
「……そうだねぇ」
「結局のところ、ウマ娘たちの調子を維持できるのと節度を守れるのであれば極論どんな関係性でもアリなのでは? ……と、ちょっと最近思うところが」
「教育って難しいねぇ」
「永遠の課題ですよ本当に」
関係性は人其々、正しい答えなど見つからない暗中模索。
それでも最善を求めるのは、ただ愛ゆえに。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part793【TSトレ】
≫40もう深夜だし投げて寝ますね22/07/03(日) 23:19:06
「よく似合ってるよ、トレーナー!」
「…そっか」
革靴の音を立てながら近づいて、彼女の衣装を褒めるファイン。ファイトレ(女)は少しだけ目を細めながら呟く。
その格好は俗に言う白無垢…オーダーメイドで用意されたそれは彼女に大変よく似合う代物だった。
「執事喫茶の方はいいのかい?」
「今は休憩時間だからね、男装して王族らしく振る舞うだけだから、そこまで疲れないし。何より報酬は目の前にあるもの♪」
ファイトレがこの服装なのも、男装喫茶に参加する報酬…約束故に。しかしファインのそれはよく似合っていた。
整えられた綺麗なスーツ、気品ある振る舞い、これぞ現代の王子様と言わんばかりのファインは中々の人気があった。
(私の姿にそこまでの価値があるのか…?白無垢そのものは素晴らしいが、私には似合うまいに…)
薄緑味のあるその袖をつまみ上げて、考え込むファイトレ(女)にかかる声。
「我が妻よ、悩み事でもあるのか?」
「…いや、大丈夫だよ。でも、私の前で姉上か男装のそれをする必要はないけども…」
そう言うファイトレ(女)に手を差し伸べて、その手を取った途端にぐっと引き寄せて持ち上げる。…お姫様抱っこの形。
「いつもエスコートされてばかりだもの。たまには、私がエスコートしてあげたいの」
「ファイン、そういうことは……」
「駄目かな?」
「…せめてほどほどにしてくれ」
少しだけ目を逸らしながら言った彼女の顔は、少しだけ困ったような、でも嬉しそうな表情をしていた。
「じゃあ、戻る前にまずはキミの唇を頂いてからにしようか。」
「…ん」
求められるようなキス。ただ浅く触れるだけではなく、深く交わるように舌を絡めて優しく頂いていくように。
…その後、いつもなら見られない妻のようなファイトレ(女)と、イケメンな殿下の姿が見られたとか。
短文失礼しました
ネタを拾い集めて一つ。いつもはエスコートする夫のようなファイトレ(女)の、妻みたいな姿は破壊力高そう。
彼女からすれば違和感あるのはしゃーない。一日くらいそういう体験しとけこのギャルゲーの攻略対象みてえな奴がよぉ!
≫61二次元好きの匿名さん22/07/04(月) 08:49:18
「トレーナーさ…あれ、寝てる…」
…奥の椅子に座ったまま静かに寝ているトレーナーさん。あたしはトレーナーさんに近づくと、その整った顔をじっと見る。
(男性だった頃はカッコよくて威厳のある姿だったけど、こっちの姿だとかわいくて綺麗だよね…)
大分近寄って足音も聞こえているはずだけど、相変わらず起きる気配はない。それだけ疲れている、ということなのか。
ふと、机に置かれた白い手を好奇心を堪えられずに触ってしまう。手を合わせると分かる、その自分のよりも大きいサイズ。
「あたしの手より大きい…」
「…んん」
「!?」
「zzz…」
寝返り…というか首を反対に傾けただけだった。起こしてしまったかとひやひやしてしまう。
ついでに合わせていた手を握られ、指を指の間に通す握り方─ダイヤちゃん曰く恋人にぎり─をされる。
「ト、トレーナーさん…」
若干無防備な姿で、手を握ってくるトレーナーさんに胸の奥底から湧き立ってくるなにか。
(トレーナーさん、他の娘にはまだ見せたことないのかな…でもジャッジさんなら見たことありそうな気が…)
羨ましい、と思う。思ってしまう。同時に信頼されてるからこそトレーナーさんは私に色々許してくれてると考えると嬉しい。
そんなほんのりとしたものを抱えていると、丁度人一人分乗れるようなスペースがその膝上にあるのが分かった。
「いいかな…?」
返答はない。だからゆっくりと上へ乗ると、耳がその大きい谷間に入り込んで、とくり、とくりという心音が聞こえる。
(ゆっくり…大きいからかな)
その内自分の心音と意識に寄る波も同期していくように、外の雨音も徐々に消えて静かな空間を支配されていく。
──堪能した彼女はその後赤面した。
短文失礼しました
キタちゃん視点で一つ。じんわりとした嫉妬と歓喜を味わってもらいつつ、心音で安心してもらいました。
このプロキオンの中では数少ない男性の頃から知ってる(というか担当だし)というアド、昔と色々比較してそうです。
≫68二次元好きの匿名さん22/07/04(月) 13:19:04
「うぐぅ…この千円無くなったらテイトレ玉貸してくれ…」
「なんでATMの手数料は気にするのにお札を躊躇いなく入れれるの?」
「パチ屋に入ると金銭感覚おかしくなるもんなんだ…って先読み!レバブル!虹!これだからパチンコやめらんねぇんだ!」
パチタマのやる気が上がった
パチタマの財布が30k回復した
「博打うち」のヒントlvが3上がった
「あ、また7揃った…最近のパチンコは出るの早いなぁ」
「…オラァ!人がハマってる横でじゃんじゃん出しやがって!」
「きゃあぁっ!だ、だからなんで服の上からホック外すの!!」
テイトレのやる気が下がった
「ラッキーセブン」のヒントlvが3上がった
≫126二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 08:01:06
『〜本日の昼から明日にかけて、関東では激しい雨が〜』
「台風か…」
既に降り続いてる雨を窓越しに眺めながら、ファイトレ(男)は蒸し暑さにこらえつつテレビの予報を聞いていた。
ゆっくりと接近してくる台風の影響で、更に荒れる天気にトレーニングメニューを合わせてほっと息を吐く。
「屋外が使えないのは痛いなぁ…屋内は埋まるしこの雨の中でトレーニングさせるわけにはいかない訳で」
仮に風邪でもひけば、その分後のトレーニングに影響するので雨天下でのそれは差し控えるトレーナーも多い。
…無論、例外も存在するが基本は常識である。とはいえ多少はやっておきたいというのもあるのだ。
「重馬場の経験にはなるんだろうけど…そういえば、シニアのGⅡは重馬場で勝ちきったけど凄く汚れてたな」
重馬場となったレースにて、見事に差し切った代わりに勝負服のドレスが汚れていたのは記憶に新しい。
…それでも、失われないその高貴さと輝きはきっちりと頭に焼き付いている。ふと、思いついた事が一つ。
「…雨の中を走る気分はどういうものだろうか。」
ファインや他のウマ娘から話は聞いている。…が、人であるトレーナーには分からない事も多かった。
だが今の自分は(そっくりさんとはいえ)ウマ娘だ。折角の知る機会を逃すには勿体なかった。
「時間は…大丈夫、雨量もこれなら問題なさそうだ。後は用意だけして…」
着替えやら用意してジャージ姿で外へと駆け出していく。ひんやりした雨粒に濡らされる体。
「…!」
トレーニングしている訳ではないので、彼女らの走りを完璧に体験してるとは言い難いがそれでも分かる。
──途中で例外側のウマ娘にファインと勘違いされて面倒な事になったりしたのは、まあ笑える話ではあった。
ふと閃いた!この経験はトレーニングに使えるかもしれない!
短文失礼しました
台風…荒れた天気ということで、そういう条件でのレースを思い出してもらいました。アプリ世界線なので史実と違う体験してもよい。
汚れててもカッコ良かったり綺麗なウマ娘達。そしてこんな経験からでも閃くだろうというアプリトレへの信頼感。
≫153二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 18:28:05
「あらあら、こちらは何でしょうか〜」
少し資料を探しに出ていたグラトレ。
求めていた物を見付けトレーナー室へと帰って来ると見慣れぬ箱が机の上に鎮座していました。
「……おや、何か紙が置かれていますね~」
訝しつつも箱に近付いてみると何やら紙が箱の蓋に貼られています。
間違い無く箱に纏わる事が書かれていると思われるので読んでみましょうか。
そう思い紙を手に取り読んでみると
『薙刀を扱うゲームキャラの夏衣装です。 グラトレさんが暑い夏を乗り越えるのにぴったりなので是非着てください! 謎のモブトレ達より』
この様な事が書かれていました。
「ゲームのキャラですか~」
夏衣装というのは引っ掛かるが薙刀を扱うキャラというのは気になる。
それに、割とゲームが好きなグラスなら喜んでくれるかもしれない。
という事で箱を開けて中の衣装を着てみる事にしました。
154二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 18:28:25
「……それで、着終わってから水着だと気付いたんですかトレーナーさん」
「ううっ……一緒に入っていた和服で隠せるものとばかり」
トレーナー室へと来た私が目にしたのは此方に背を向けて蹲るトレーナーさん。
一房に束ねた黒いポニーテールと身体の影が透けて見える程薄い生地の黒い和服という珍しい格好です。
そんな珍しい格好をしたトレーナーさん、しかし不思議な事に後ろを向いて蹲ったまま此方を向こうとしません。
その事に疑問を抱きつつトレーナーさんに近付き前へと回った時、その疑問は解決しました。
黒い和服の下には水色の水着、それもビキニと言われる類の水着を着ていたのです。
「とても良くお似合いですよ♪」
「それは良かったのですが、あまり見ないでください……」
私からの似合っているという言葉に少し嬉しそうなトレーナーさん。
恥ずかしさからか少し赤い顔もあってとても可愛らしかったです。
「さてさて、グラスも来ましたのでトレーニングの前に元の浴衣に着替えさせて貰いますね〜」
そう言ってそそくさと元々着ていた浴衣に着替え直そうとするトレーナーさん。
……もう少し今の姿を見ていたいので引き止めさせて貰いましょう。
「せっかく貰った物ですし今日は着ていませんか?」
「いえ、やはり恥ずかしいので〜」
「それなら今日はトレーナー室での勉強にしましょうか?」
「その……誰かに見られるのもですが、別に恥ずかしい理由が有りまして……」
「他の理由ですか?」
「その、お尻に……お尻に直ぐ水着が食い込んでしまって……」
「!?」ピシッ
恥ずかしげに顔を真っ赤にしながらそう語ったグラトレにグラスの中の何かに盛大な罅が入ったとかなんとか。
うまぴょいうまぴょい
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part794【TSトレ】
≫22二次元好きの匿名さん22/07/05(火) 21:52:16
「トップさん、お待たせしました」
海。さんさんと太陽は砂浜を白く照らし、水平線はどこまでも続いている。時折ヤドカリがいそいそと水へ逃げていく、まさに南国。
…と言っても実際は日本の南方の地域。太平洋に面する、トレセン学園が毎年貸切にして行う夏合宿だ。
今日は日曜日。つまりはオフの日だ。その証拠にダストレとダイワスカーレットがラップタオルの取り合いを賑やかに繰り広げているし、向こうではファイトレによる豚骨ラーメンの出店もある。
そんな中にトップロードは1人、ぽつんと自身のトレーナーを待っていた。他の同期はもう海だ。
「着付けるのに時間がかかってしまいまして」
「あ……トレーナーさんですか?」
「ええ、水着になった私ですが?」
彼は大ぶりな麦わら帽子を手で押さえながら言う。大きなリボンの付いたそれは、彼のブロンドミルクティーの髪色とよくあっている。
纏う水着はオフショルダータイプのフリフリのもの。上はミルキーホワイトの水着で、肩やデコルテを眩しく露出している。
下は空色の、横のところが紐になったタイプだ。小さな蝶々結びがちょこんとくっつく。
大きな柔らかい胸に、細く締まったウエスト。それらを飾る派手すぎず、しかし彼を十二分に引き立てている、これ以上ない似合う水着だ。
「どうでしょうか?ウラトレさんに選んでもらったのですが、女性のものの着付けというのは難しいですね」
「あ…トレーナーさん、その……」
「どうされましたか?」
「とっても……すごいです!こう…水着も…わぁ…あの、その……とっても、綺麗です!」
「そうですか。ありがとうございます。トップさんもいつも以上に可愛いですよ」
そう言って麦わら帽子をパラソルの下に置き、「さあ、沢山遊びましょうか」と手を差し出してくるトプトレ。その手を取ったトップロードは、2人で砂を蹴って海へと駆けていくのだった。
後日、日焼け止めを塗り忘れたトプトレはくっきりと水着の跡を残したまま白ワンピースを着用し、オペトレに嗜められたそうな。
めでたしめでたし
≫60二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 00:01:27
前スレの200
水着SSです
「トレーナーさん?この前買った水着は着てないんですか?」
「えっと…一応持ってきてるんだけど、まだ着る勇気が出なくてね…。」
海に来る数日前、せっかくの海だからとニシノフラワーがニシトレの水着を選びたいと言ってきた日があった。そしてその時に選んでもらった水着をニシトレは持ってきていたのだが、なかなか着る勇気が出ずにいた。
「わざわざニシノに選んでもらったから着ないと申し訳ないけど…やっぱり勇気が中々…。」
「私はあの水着、トレーナーさんに合うと思いますよ?試しに一度だけでも着てみてはどうでしょうか?」
「うーん…じゃあ…勇気を出して一回着てみようかな…。」
ニシトレは水着に着替えに行くためにその場から一旦離れる。
しばらくすると水着を着たニシトレが戻ってくる。
「えっと…これ…変じゃないかな…?」
水着はスカートのような装飾や、少し長めのフリルが伸びており、花をイメージさせるような明るい色をしていた。
「全然変じゃないです!とっても可愛いです!」
「本当…?…でもやっぱり外とかで水着を着るのは…結構恥ずかしいね…」
流石に女性用の水着を初めて着たからか、ニシトレはかなり恥ずかしそうにしていた。
「とりあえず…水着、選んでくれてありがとうね。」
「私も選んだ水着を着てくれて嬉しいですよ。」
この後も、しばらくニシトレは水着でいたが、慣れないからかしばらくは落ち着きがなかったらしい。
≫95二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 10:14:21
青い空、白い砂浜、輝く海。
そして担当ウマ娘のトレーニング×5。
チームトレーナーであるルドトレにとって、ある意味慣れたそれ。
だが、唯一違うのは────
「よーし!みんな頑張ってこー!」
「「「はい!」」」
揺れる尻尾、周囲の音を聞き漏らさないウマミミ、メリハリの効いた身体。
サンバイザーと水着、あとメガホン。
若干際どいラインの下半身とフリルの上半身、勿論チョーカーも忘れずつけている。
因みに羽織ってたものは暑いから脱いだ。あと、日焼け止めはちゃんと塗ってる。
そんな彼女は今日も"親衛隊"のため頑張っていた。
「んー……タイヤ持ってきてー!」
「はい!」
「あと、こっちにこれをセットして……」
「ランニング大丈夫ですかー?」
「いいよー!ルドルフ、ウォーミングアップとしても並走よろしくー!」
「ああ、わかった。行ってこよう」
忙しなく、けれど楽しそうに。そんな彼女のそれは、あくまで日常の延長線上である、が……
「なぁブラトレ」
「どうした、ダストレ。俺も忙しいんだが……あ、タマシチ少し待っててくれ」
「……いや。感覚麻痺してるがあの水着で動き回られるとヤバいなって……」
「言うな。意識の外になんとか置いてたんだから……」
結局、夏合宿の雰囲気に調和こそすれど、その天然モノの空気は周囲に漏れるのであった……
≫100二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 11:38:13
タイトレ「海だぁぁぁ!」バシャーンバルン
テイトレ「ウミダー!」バシャーンポヨン
パチタマ「うみやぁぁぁ!」バシャーン
パチタマ「………」
パチタマ「うみだだだだぁぁぁぁぁ!!」ザバーン
パチタマ「………」
パチタマ「揺れない胸をもう一度揺らして!!(鼻血で)赤色に染まるブラトレ救護したなら!哀しい世界はもうここにあって!!乳揺れぬからポロリも起きぬ!!一筋の涙!!!」
≫120ビーチにて馬鹿話22/07/06(水) 17:00:19
「ねえブラトレ、よくさ、アイスが胸の谷間のところに垂れてイヤン冷たい❤️みたいなのあるけどさ」
「……あるのか?」
「意識飛ばそうとするの早くない?大丈夫馬鹿話だよ」
「マルトレが無駄に艶のある声出すのが良くないんだ。で、それがどうした?」
「アレってアイス溶けてるわけだし、そんな冷たくないんじゃね?」
「たしかに……試すか」
「は?ぐぁぁぁあうおおっひょう!!?」
「ワハハハwwww」
「アホォォ!!いきなり飲み物の氷胸の間に投げ込むやつがあるか!!」
「それだけリアクションするって事は例のシチュエーションは割と嘘が混ざってるって事じゃないのか」
「たしかに……オラァ!!」
「ハハハそんな俺に氷が保持できるほどの胸がぐぁぁぁぁだぁ!?氷がそのまま滑ってパーカーの内側にぃ!?ぐぁぁぁ!!」
「ブワハハハハwwww天誅!!」
この後通りかかったウラトレに怒られた
≫128二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 18:15:24
「…ん?どうしたのかしら」
「トレーナーさん!二人で出かけるって本当ですか!?」
…突如としてぞろぞろと押し掛けるプロキオンのチームメイト。奥で書類処理をしていたキタトレは、座ったまま出迎えた。
「…セラタプラタが怪しい男と話してるのを見た、というから…」
『──なら、今週の土曜日あたりかしら』
『そうですね、俺もそれなら大丈夫です。でも楽しみだなぁ…一緒に行けるなんて』
『ふふ、私もよ。』
「は、はわわ…」
──セラタから一部始終を聞いたというクリスタルスチルの発言に、何を言いたいのか把握したキタトレは
「ああ、彼ね。彼は…」
「すみません!ちょっといいですか…」
例の怪しい男、その本人が顔を出してきた。当然警戒態勢に移行するチムメンと、状況が掴めず呆気に取られる彼。
一部は耳を絞ったりキタトレの前に立ったりとセコムというかなんというかな行動を取り出す中、手を叩く音とともに掛かる声。
「はい、別に警戒する必要はないわよ。そうね…このままだと困るし自己紹介してもらってもいいかしら。」
「はい!俺は新人トレーナーの────と言います!最近はキタトレさん…先輩から色々教えてもらってたんです。」
「私よりベテランならいくらでもいるけど、教えてほしいという頼まれてわね。だからノウハウとか教えてるわ。」
「土曜日にはトレーニング器具の見積もりと、レース観戦に行くんですよ。…なんかトレーナー資格取る頃より勉強してる気が」
…まあ皆が想像したそういうのではなく、単なるビジネスライクな話だと理解した瞬間、メンバーは皆ぐったりした。
「まあ、そういうことね。というか、心配してくれるのは嬉しいけど、私はそうそうダメな人には引っ掛からないわよ…それよりも、皆メロンでも食べるかしら?一玉安く手に入ったから丁度良いのよ」
「…ありがとうございます、トレーナーさん。」
代表して声をあげたアグネスワールドに、あらあらとした顔で佇むキタトレと状況を飲み込めて苦笑いの彼(モブトレ)。
───この後皆で切り分けたメロンを食べた。暑い日に冷やしていたメロンは美味しかったと評判だったそうな。
短文失礼しました
性格的には悪いのを引っ掛けそうなキタトレと、セコムしたくなるチームと只の後輩モブトレです。
教えてほしいと頼めば持てるノウハウ全て教えるキタトレ。でもやってけるのは毎日学習して積み立ててるからとも
≫170二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 21:25:22
ドタドタドタ!!
階段からけたたましい音を立てて誰かが起きてくる。それと同時に押入れの奥でゴン!と何かぶつかる音がした。
「猫!黒!何で起こしてくれなかったんだよ!」
「だって、何回揺すってもおきんやん?ならしゃあないなあって」
「俺も何回も遅刻するって言ったのに、起きてくれなかったのはパチ姉だろ?」
次女パチは慌ただしくシャツを着ながら言う。時刻は7時半。バスの出る10分前だ。
「あっ姉ちゃんブラ!」
「いいんだよ!そんなもん付けたら人間強度が下がるし上に叱られる!」
「んな強度捨てたらええのにな」
「ゔっ……まあ俺は行くからな!今晩給料日だから空けとけよ!」
「「いってらっしゃーい」」
トーストを齧りながら家を出たパチ。昨夜パチンコで粘って大当たりを出したらしく、夜遅くまでアドレナリンのせいで眠れなかったのかもしれない。
役所勤めの、しかも割と言えない部署のお偉いさんらしいパチでも家ではこう……少し抜けている。
「黒〜、ベーコンどうや?」
「丁度いいぜ猫姉ちゃん。あ、小起こしてくる」
「ん〜」
171二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 21:25:47
三女黒は長女の猫にそう言って、さっき物音がした押入れを開ける。
「ヒイイィィイッ!!!」
「小、朝ご飯だぞ〜。さっきの音はパチ姉だから大丈夫」
押入れの上段に布団が敷かれ、無骨なパソコンが置かれている。しかし今は開けられた襖とは逆の方、暗い隅に毛布の塊が震えている。
「やだ……おそと……こわい……海底の貝になりたい……」
「小今日は出勤の日だろ?ほら早く出てってば」
彼女、末妹の小は昔から出不精で、しかも大きな音や光が大嫌い。その結果こうして押入れの中でエンジニアとして仕事をしている。半ば引きこもりなのは言うまでもない。
「ほら、朝ごはんだから!」
「ここで食べる…」
毎月二日ほどある会社に出勤する日はこうして押入れの中から出ることを拒むのだ。
「小〜、ちゃんと出勤できたら苺大福やで〜」
「……ほんとう?」
「うちはウソつかへんで〜」
もぞもぞと押入れから出てくる。身長も手も足も何もかも一番小さい。もちろん肝っ玉も。
「パン…」
「ヨーグルト、イチジクとブドウどっちのジャムがええ?」
「い、いちご…」
そう言って脱衣所の扉を閉めて着替える間に二人で朝食の準備をする。送り迎えは黒の運転だ。小のお気に入りの昔のフィアット500。
「できたで〜」
「ん……」
出てきた小と黒と猫が食卓に座る。
熱いトーストにカリカリベーコン、昨晩の残りのシチューとヨーグルト。今朝の献立だ。
「「「いただきます」」」
それを3人で食べながら今日の予定を確認する。猫はこの後9時半には家を出て、10時から塾講師の仕事。黒は今日は有休消化で休み。小の出勤自体は昼に終わるからそれを回収して、5時にはパチ、夜7時あたりに猫の回収。その後パチが何やらあるらしい。
しかしその後帰ってきたパチが「今日休みだった…給料日明日じゃん」とボヤいて倒れたのはまた別のお話。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part795【TSトレ】
≫44二次元好きの匿名さん22/07/06(水) 23:36:03
いつものようにトレーナー室へ向かうとトレ公は居なかった。
「いつもアタシより早く来ているのに珍しい」
ガチャリと扉が開く。
「ヒシアマおはよぅ……」
「おはようトレ公。今日はまたずいぶんと眠そうだね」
「ふわぁ……調べものしてたら遅くなっちゃって」
「なんだいトレ公、尻尾に寝ぐせがついたままだよ」
「ん……? ほんとだ。髪は直したんだけどね……」
「ほら、こっち来な。直してやるから」
「うん。直ったよトレ公」
「おぉ、ありがとね……ふわぁ」
「まだ時間あるんだし、少し寝たらどうだい? ほら、こっちおいで」
「うん……そうする」
トレ公は横になるとすぐに寝息を立て始める。
よっぽど遅くまで起きていたのだろう。アタシのために。
「いつもありがとね、トレ公」
ひざの上のトレ公の頭をそっと撫でた。
平和なヒシアマゾンペア
何気に距離感が近いって設定があったことを最近思い出しました。
≫91二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 19:24:18
「トップさん」
「はい?」
「今日のトレーニングなのですが、併走は可能でしょうか?」
「あ、はい。私は大丈夫です。オペラオーちゃんですか?」
「いえ。私です」
「え?」
唐突にそう言われたトップロードは、少し困惑した。なぜなら目の前のトレーナーは休日積極的に出かけると言うよりは、基本部屋で本を読むことが趣味の1つのインドア派だからだ。
そんな彼が急に自分と併走をしたいと申し出た。これには困惑せざるを得ない。
「わ、私は大丈夫ですけど、トレーナーさんは…その、お身体とか大丈夫ですか?」
「私は走りませんよ?走りたいのはチャムさんだそうで」
「なるほど。それなら安心で…ええ!?」
本日二度目の困惑。おでこにうすく張り付いた髪を整えながらトップロードは困惑をする。
「先程オスカーと戯れていたら、急にチェムさんが走りたいと言っていまして。そこで、どうかトップさんに頼めないかと」
「私は、とっても…あの、すっごく…すごく、こう…」
「ゆっくりでいいですよ。落ち着いて」
「はい。…えっと、とっても、キンチェムさんと走れることは…こう…あの…すごく嬉しいです!ただ…トレーナーさんの体が…こう…」
「ええ、私は大丈夫です。そうですね…チェムさんに代わった方が説明しやすいですよね」
そう言うポケットから造花のヒナギクを取り出し、左耳につける。たちまち髪はつむじの方から斜陽を浴びる秋の麦畑のような金髪に染まっていく。
感嘆の言葉も出ないほど、何度見ても美しくあるそれは、毛先を5センチほど、トプトレのブロンドミルクティーの色を残して変化を止めた。
「はろー!えっと、フィジィの方の説明でいいの?」
(はい、お願いします)
「了解!あのね、フィジィの方に私が入り込んで同化したことでね、体の方も私ととっても似た感じになったの。えっと…もういっこ誰かが入るはずの枠を私が全部食い潰しちゃったから。まさに一心同体!てことでフィジィの体はフィジィにあらず、ってやつ!さ!はしりましょ!」
(トップさんとは自然と気が合うことが多いんですよね。こう、トップさんみたいだなぁ…と思います)
「え…あ、その…ええ?」
92二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 19:25:24
困惑するトップロードを置いてけぼりにしてキンチェムはぴょんぴょんはねている。その度にそのウオデッカが跳ね回って…とってもすごい。
「さて、じゃあ私が負けたら負けたらなんでもしていいわよ!」
「え…ええ!?ちょっと待ってください!」
「ね、フィジイ?」
(もちろんです。ただ、絶対にトップさんが勝ちますよ)
「言ったわね〜?じゃあ勝っちゃうわね!」
────────────────────────
結果としてはハナ差でトップロードの勝ちだった。
中盤から一気に距離を詰めてきたキンチェムは抜きつ抜かれつの攻防を繰り返した後に、その一着をわずかにトップロードに持っていかれた。
いつもより少し大きく肩で息をするトップロードの隣で青草に寝転び、はあぁ…と空を見る。
「負けちゃうのは初めてね…あなた、とっても早かったわよ?」
(私の自慢の愛バですからね。世界で一番誇れる私のトップさんですから)
「本当に強かったわ…フランキーに見せたいわね!」
すくっと立ち上がり、息を整えたトップロードを見る。
「トップロードちゃん、ね。とっても早かったわ。またお願い出来る?」
「あ…キンチェムさんがよければ、私は…こう…とっても嬉しいです!」
「本当!?ありがとう!」
そう言ってトップロードに抱きつくキンチェム。とは言ってもボディはトプトレの暴力的なそれで。
(チェムさん、そろそろ戻れますか?振り返りとか、ストレッチとか、やることがあるので)
「分かったわ!」
そうって抱きついたままヒナギクを外す。その間トプトレは何かの抜け殻みたいに動くことができない。加えて、肉体の疲れからか変化のスピードがちょっと遅い。
結果、強く抱きしめられたままトップロードは動けないのだ。
93二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 19:26:33
『終わった…?』
「トレーナーさん…あの……その……」
『ああ。すいません……トップロード…さん』
「どうされました?」
一転して、自身の担当に確かめるように声をかける。
何かがおかしい。声が2つ聞こえるのだ。ベガトレの両目を露出させた時みたいに。
ペタペタと顔を触って、今まで見たこともない焦った顔を貼り付けて言う。
『まずいです……』
いつも彼は、まるで凪の瀬戸内海のように穏やかだ。そんな彼が時化を迎えている。
その強風はざわざわと、トップロードの心さえ揺らしてくる。
脂汗をにじませて、息を荒げて言う
『チェムさんと変われません…!』
続く─────
≫101二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 20:11:02
「今日は七夕ですね、トレーナーさん!」
「そうだね、ダイヤ」
トレーナー室へと出迎えにきたダイヤに、車椅子ごとくるりと回って返事するサトトレ。この生活も結構慣れてきた。
いつもより調子良さそうなダイヤ、七夕ということで浮かれてるのも、お嬢様とはいえ彼女も年頃の娘だからこそ。
「…それは?」
「短冊です♪トレーナーさんの分もありますよ」
そう言われては受け取るしかない。片手で紙を手に取ると、隣の机に置いてペンを取り出すと
ささっと書き入れた。
「…よし、これでいいかな。何を書いたかは飾り付けた時に教えてあげるよ。」
「それは楽しみです!」
「あ、でも身長が足りないか…座ったままだと満足に腕も伸ばしづらいし」
「…なら私が飾ればいいだけですね」
とはいえダイヤもそこまで高身長という訳でもない。男性の頃のサトトレなら170近くあったのでこういうのは大して問題なかったが…今や143cm。仮に車椅子でなくとも身長的には微妙な所で、こういう時に178cmのキタトレが羨ましく感じる。…男性の頃とそこまで身長変わってないのも。
(あんまりないものねだりしても仕方ないんだろうけどね…そういえば、この髪も梳いてもらわないとなぁ。)
…彼のメカクレたる所以の髪。なぜ切らないのかといえば、その特徴的な瞳をあんまり見られたくないのと、キタトレのような目から判断してくるような人に対するポーカーフェイスのためである。瞳の奥底からは感情も思考も読み取れてしまうのだ。
「…髪が気になるんですか?」
「あはは…そうなんだ。」
まあ大体分かる人にはバレてるので今更な気もしないでもないが、それでもという話である。
動き出す二人。
───あのとき彼の書いた短冊には『もうちょっと身長が欲しい』と今の彼には珍しく私欲が書かれてたとか。
短文失礼しました
七夕から短冊に願いを書く話。ついでにメカクレな理由も軽くセットで書きました。目立つよねあんな瞳…
短冊はなんか高くに飾りたくなる派。願い事は残念だけど叶わないんだサトトレ…君の成長する余地はもうないんだよ。
≫120二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 21:49:42
「七夕イベントねぇ……トレーナーも書くのだとか理事長直々に通達があったわけだけどこれ担当ウマ娘のこと書いちゃダメなんですよね」
「当たり前じゃろう、連絡事項にも『警告! 担当向けの願いは今回控えるように!』とキッチリ書かれておるからの」
「うーんしかしそうなると意外とパッと思いつきませんねぇ」
「そういうのはじじい共の台詞じゃろうて。趣味だろうが何だろうがこういう行事では書き表すということが大事じゃよ」
「……とは言いましてもねぇ、直近で願いが叶っちゃったんですよ俺」
「ほほー、言うてみいブラトレや」
「ふるーいゲームの移植が最新ゲーム機に出てほしい出てきたっていう……」
「……地に足ついた願いだったんじゃの」
「あー……じゃあうん、もう一回懸賞でスイーツバイキングのチケットでも当たって欲しいですねぇ。予算気にせず食べに行けるのはお得ってなもんで」
「……和風スイーツってそういうバイキングであるんじゃろうか」
「……場所によりけり?」
≫131二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:00:37
『ぜ~んぶちょうだい★』 マベトレ
『彦星様のような王子様』 ロレトレ
「マベトレ様なんですの? その強欲なお願い事は」
「だってー、担当や周囲のものはダメだって言われたらあれも欲しいこれも欲しいで、1つに決められないでしょー☆ できないなんてよわよわなことないよねー★」
「毒気抜けてませんのね」
「そういうロレトレおねえちゃんだってー、そのお願い事はなにー☆ 大人の男を自称しながらー★ クスクスーー★ かーわいいー★」
「これは何度書き直してもこうなってしまいますから、致し方がなくこのお願い事を飾ったまでですわ」
「ロレトレおねえちゃんのそれ文章にも影響するんだー」
≫136二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:20:21
七夕。
アジア圏における節供・節日の一つではあるが、日本では専ら短冊に願いをこめ、葉竹に飾るというのがポピュラーだ。
もちろんトレセン学園にもその文化は浸透していて、ウマ娘の両寮の庭にも大きな竹と様々な少女達の願いが吊り下げられている。
特別に寮の外出時間も延長され、トレーナーとウマ娘もちらほらとベンチに集まっていたようだった。
それを横目に、私は窓からの明かりに照らされる各々の想いを見て歩く。
「レースに勝てますように」
「G1に出られますように」
「皆が無事に怪我せず走り切れますように」
やはりレースについての願いが多いのはトレセン学園らしいと言えるだろう。
…偶にトレーナーと一緒に云々、があるのも恋愛に憧れる年頃が多いトレセン学園らしい…のかもしれない。
さて、そんな七夕に混じってちらほらとあるのはトレーナー達の短冊だ。
本来神頼みなどあまりしないタチだが…偶にはこういうのも良いだろう。
ベンチに座って、取り出したるは短冊とペン。
…だが、手元にあるのは未だにまっさらだ。
いや、私の書くべき願いは最初から決まっているのだ。
…だが、それとは別に………
この場の雰囲気に当てられたのか、チラリと余りにも欲深い願いが鎌首をもたげてくる。
137二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:20:59
「………先に、書いてくればよかったかな」
キュポンとペンの蓋を外す音。
サラサラと、しかし大切な願いを込めて短冊に思いを走らせる。
【カフェが、健康で怪我無く最後まで走り切れますように】
「………よし」
これで良い。
良いはず………なのだが。
ほんの少し、引っかかるものがあった。
理由は…分かっては、いるのだが。
「ぅ…」
そう呻きながらチラリと見るのは短冊の裏面。
未だにまっさらなそこに、ゆっくりと、ペンの舌先を付け───
【カフェの隣に居られま】
「──────」
ガリガリと、文字を塗りつぶした。
これは駄目だ。
自分が、こんな贅沢で、我儘な願いを書くなんて。
「………さっさと吊そう」
やはり七夕なんて、自分には似合わないイベントに参加するものでは───
ぷちり、と眼の前に千切れた短冊が落ちる。
「あ…」
咄嗟に手を伸ばしたソレは、余りにもよく見た筆跡で。
おずおずと書かれた、小さい鉛の筆跡が
【トレーナーさんと、来年も一緒にコーヒーを飲めますように】
「……………っ」
138二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:22:12
「いやー、手伝ってもらって助かるよ!」
「いえ…偶然通りかかったので」
ヒシアマゾンさんの声が夜闇に響く。
私が手伝っているのは竹から短冊を外す作業だ。
少々残酷だが流石にこの量を毎年保管はできないので、生竹と分けて廃棄するのだとか。
「でも…色んな人達の願いをこうやって見れるのは約得だと思うね〜」
「…そうですね」
少々悪趣味かもしれないが。
そう思い、手に取ったのは…
「あ………これ、私の…」
「お、運がいいね」
「いえ…誰かが結び直してくれてたみたいで」
一度千切れている短冊の糸を見る。
その根本の後ろには、見慣れた筆跡の短冊。
「これ…トレーナーさんの………」
【カフェが、健康で怪我無く最後まで走り切れますように】
「…あの人らしいですね………」
ふ、と笑うと同時に疑問が生まれる。
………いや、ここに結ばれているということは、私の短冊を───
かぁっと、カフェの頬が赤くなった。
「…?
ソレ、裏面にもなんか書いてないかい?」
いつの間にか隣から覗いていたヒシアマゾンさんが短冊を指差す。
書き間違えたのか、黒く塗りつぶされた文字。
139二次元好きの匿名さん22/07/07(木) 23:22:44
それと、残った短冊の端っこに小さく書かれた
【来年はカフェを満足させることのできる珈琲を淹れられますように】
黒塗りに邪魔されながら、短冊の隅から隅まで使って書き切られた、その文字列。
「あの………ヒシアマゾンさん」
「なんだい?」
「これ…持ち帰ってもよろしいでしょうか?」
「…ふふ、手伝ってくれたお礼にね」
「………ありがとうございます」
そっと胸にその短冊を抱きしめながら、マンハッタンカフェはふわりと笑った。
≫146二次元好きの匿名さん22/07/08(金) 00:04:17
『琴座の独白』
織姫と彦星は年に一度だけ、七夕のその日に逢瀬を果たすことができる。
あの時までの私は、そんな彼らに思いを馳せながら見えもしない何かに縋ろうとしていた。
心のどこかに微かに残っていた星。今は見えなくても、いつか星空の何処かで見えると信じていた。
そんなことはないと、初めからわかっていたはずなのに。
だけれど運命は不思議なもので、あるはずのなかった魂は私のそばにあって、失ったはずの光を取り戻して戻ってきた。
今でも星を見上げるのは変わらない。星々の瞬きに、私の思いと体を溶かしていくその時間が好きだから。
ただ、縋るように、手繰るように、いつも見えなかった星に懺悔の思いを伝えることはなくなった。
私が私であるように、生きていけるとそう誓えるようになったのだから。
その星は、今でも私の傍にいる。
ふと、貴女の顔の向こうにある風景を考えることがある。
でもそのたびに、貴女はころころと表の顔を替えてくる。
そうして、今はどっちの顔でしょう? と、聞いてくるのだ。
ずるい人。そんなの目の色ですぐにわかるわよ。
でも願うことならば、夢の中でなら。貴女の心の中で、三人で過ごせるのだろうか。
そんなことを、たまに思う。
≫151僕(たち)の願い事(1/2)22/07/08(金) 04:14:15
さり、さり、さり、さり。
静かなトレーナー室で、一人、墨を磨る。聞こえるのは、呼吸、鼓動、そして墨と硯の擦れる音だけ。
ドタバタと走り回る音も、小さなメカ邪龍の駆動音も、今夜は聞こえてこない。
さり、さり、さり、さり。
生憎と里芋の葉の露ではない。しかしせめて、と神社から頂いてきた水だ。気休めにはなる、だろうか。
尤も、今のところ僕は手習い事をしていないが。
さり、さり、さり、さり。
硯に落とした水が、溶出した墨に染められていく。それはまるで、無垢な空へ広がる漆黒のオーロラのようで。
などともし口に出せば、きっとかつての同僚たちはこう言うだろう──姿変われど心変わらず、と。
さり、さり、さり、さり。
──本当に? 記者を辞し、トレセン学園へ至り、彼女の──サクラバクシンオーの担当トレーナーとなり。
そして、ある日ウマ娘の姿となって。それでも尚、僕の心は変わっていないのだろうか。
変わらずに、いられているだろうか。
「ええ、ええ。あなたは変わっていないわ。わたくしと出会うより前から、今のいままで」
──そうでしょうか。僕は彼女を導き、支え、送り出すに相応しいひとで、いられていますか。
「勿論、多少なりと変わった所はあるでしょう。けれど、本質は同じ。変われていないわ、ずっと」
──そうですか。内でじっと僕を見ている貴女が仰るなら、そうなのでしょう……ああ、良かった。
とん、とん、とん、とん。
墨の持ち方を変え、硯を叩くように水気を切る。いつの間にか必要分は磨れていた。
用意した筆に墨を吸わせ、雪色の短冊に向かう。ここからも、少し時間が必要だ。
僕の願い事を書いたら、団扇でパタパタと仰いで乾かして。乾いたのを確認して、裏返す。
次は、彼女の──僕と同じ体にいて、僕と魂を別つ、優しい正直者の願い事を代筆しなくては。
152僕(たち)の願い事(2/2)22/07/08(金) 04:14:46
翌日、トレーナー室。授業が終わり、生徒たちが各々トレーニングに向かう時間。
トレーナーである僕は、担当であるサクラバクシンオーを待ちながら、準備をしていた。
「失礼しますっ! トレーナーさん、今日もよろしくお願いしますッ!」
「こちらこそ宜しく、バクシンオー。今日もしっかり声が出せているね」
「勿論ですっ! バクシンロードの邁進は、日々の積み重ねですからね! ……ところで」
「うん?」
「飾ってあった短冊に、トレーナーさんのものを見つけたのですが……これがどうにも不思議でして」
「へえ、不思議……悪戯されてたか、それか結び方を間違えたりしたかな」
言いながら、考えてみる。わざわざ悪戯をする者はいないだろうし、結び方も特段おかしくはないはずだ。
「いえいえ、そういう訳じゃなくてですね。何故か両面に、同じ願い事が書かれていたのです」
「……ああ、そのことか」
「ハイッ! 是非その訳をお聞きしたく思いまして……ふつう、二つ書くなら同じ面に書きますよね?」
「そうだね。いや、大した訳じゃないんだ」
閉じた瞼の裏が、少し暗くなる。胸がチクリと痛む。ああ、これだから嘘は苦手なのだ。
「どちらの面にも書いておけば、空からよく見えるだろうし。それに、片方で字を間違えても、もう片方があるからね」
「……そうですか。フフフ、考えましたねトレーナーさん! 流石のバクシン的解決法ですッ!」
こちらが思うより、きっとバクシンオーは聡明だ。テストの点数には表れない彼女の賢さを、僕は知っている。
きっと彼女は、疑問を一つ呑み込んでくれた。"なぜ僕の名前が片面にだけ書かれているのか"という疑問を。
……今は、愛バの気遣いに甘えることにしよう。
「……さて、私の疑問もバクシン的解決をしたところで! 早速ミーティングを始めましょうッ!」
「……うん。これからのレースもあるし、いいトレーニングをしなくちゃね……ありがとう、バクシンオー」
(了)
≫157二次元好きの匿名さん22/07/08(金) 07:02:14
ちょっと七夕から遅れましたが七夕SS
七夕当日、シンコウウインディとシントレは短冊に願い事ちょっと七夕から数時間遅れましたが七夕SS
七夕当日、シンコウウインディとシントレは短冊に願い事を書いていた。
「トレーナーは何を書いたのだ?」
「僕は…そうですね…【今のままずっと過ごせますように】…ですかね…。」
「なんでその内容にしたのだ?」
「そうですね…苦労する事は多少はありますけど…今もこうして過ごしてるのが一番楽しくて幸せだと感じるので。」
そう言いながら手に持った短冊を見つめている。
「ウインディは書けましたか?」
「もちろん書けたのだ!」
そう言ってトレーナーにぎっしり文字が書いてある短冊を自慢気に見せつける。
「すごい数…。」
「思いついた事全部書いたぞ!【もっと速く走れるようになる】とか、【これからもトレーナーが驚くような事をしていけるように】とか!他にも色々書いたのだ!」
「…結構な数の願い事を書きましたね…。たくさん叶えたいことがあるんですね。」
「願い事が一つや二つなんて物足りないからな!」
「とにかく、お互い願いが叶うといいですね。」
「ウインディちゃんの願い事が叶わない訳がないのだ!」
そして、二人は笹に自分の願いを書いた短冊をかける。
≫166◆cRvsSr6LRA22/07/08(金) 16:30:16
担当に関わりのない七夕の短冊
たわけ「---------」
(黒く塗りつぶされているが【『私』がーーーれーーーように】と読めなくはない)
オグトレ「良い酒と出会えますように」
お兄さま「良い絵本と出会えますように」
リウ「お父さまのように人を感動させられるようなものが作れますように」
猫「良い感じの化粧品が欲しい」
黒メブ「カカオの木がしっかり育ちますように」
獅ルド「健康第一」
クリストレ「素敵な日々を送れますように」
加筆致しましたわ~!ブライトちゃんのためにもまだ七夕ですわ~
(ブライトちゃん七夕ボイス参照)
≫169二次元好きの匿名さん22/07/08(金) 18:52:35
七夕。元々は中華の古典の一部であったものだ。
といっても、彼女はそれ気にしないのだが。
「……んー……何書こう……」
「えらく悩んでいるようだが……何があった?」
「あ、ルドルフ。ちょっと七夕の短冊に、何書こうか悩んでて……」
「……成程。そういえば、ああいった通達も出ていたな。ということは……」
「うん、みんなのこと考えてた」
「……そうか、君らしいな」
「でも、いざ"担当以外"となると……」
「ふむ。であれば、日頃から率直に思っていることを書くというのはどうだろうか?」
「……それだと、なんか特別感がなくない?」
「……そもそも」
「うん」
「君の優しさこそが私にとって特別だ」
「……まあ、そう言うなら……」
尚、この後書いた「学園の皆が幸せになりますように」は審議となり、結局代替の「いいお酒が手に入りますように」となったのであった……