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目次
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part671【TSトレ】
≫23刻み付けれたら1/222/02/08(火) 22:13:34
[刻み付けれたら]
「タキトレ先生は「トレ吸い」って知ってる?」
「? いえ、聞いたことありませんが…猫吸いの亜種か何かですか?」
今は12時を回ったトレセン学園の昼休み。今日は親しい子も遠征で不在だからと保健室で駄弁っていると午前中に同級生の間で話題になったことを思い出した。聞くところによると「トレ吸い」とはどうやらトレーナーの匂いを嗅ぐことらしく、何でも生徒会長であるシンボリルドルフもやっているらしいのだ。
「そうらしいよ?なんでも、疲れた時にトレーナーの匂いを嗅いだら癒されて凄いやる気が出るんだってさ」
「へぇ…そう聞いてみると本当に猫吸いみたいですね。猫吸いは健康に悪いですけど人の匂いを嗅ぐなら健康への問題もないでしょうし、本当に癒されるならリフレッシュには良いのかもしれませんね?」
「えっ、猫吸いって健康に悪いの……?」
「猫から移る感染症とかダニとかありますからね。保険医としてはあまりお勧めできるものではないですよ。それより、保健室は駄弁るところではありませんよ。わかってますか?」
「はーい、でもタキトレ先生と話したいから来たんだし、休み時間だから良いんじゃないかなぁと思うのです」
「話に来てくれるのは当然嬉しいですけど……でもちゃんと次の時間には間に合わせるんですよ?」
先生から窘められたことを了解するついでに、少し反論しながら揶揄ってみる。授業やトレーニングをサボろうとすると厳しいけれど、それ以外の目的でこうして話に行くと喜んでくれるし、精神的や身体的に辛い時に頼ったら予定を全て投げ出して自分に寄り添ってくれた。先生はそれを「当然のこと」というけれど、自分にとって見れば言い様がないぐらい嬉しいことだった。彼女の心遣いを想う度に喜びと暖かさに心が満たされていく。
だから
「ねえタキトレ先生」
「どうしましたか?」
「先生を吸って、良いかな……?」
「……あまり揶揄うものではありませんよ。それに、あなたのトレーナーさんならきっと嗅がせてくれると思いますよ?」
「先生を吸わせてほしい」という自分の頼みに少し慌てるようにして言葉を返す先生。違う、そうじゃないの。たしかに私のトレーナーは優しい人だ。頼めばきっと吸わせてくれるだろう。だけど、違うの。
「先生が良い。先生を吸わせてほしいの……いい、かな……?」
「……!」
24刻み付けれたら2/222/02/08(火) 22:14:08
自然と震えていた声で心の底にある感情を溢す。執事喫茶の時に先生が好きだということはきっとバレてる。先生がタキオンさんのことを好きだというのもなんとなくわかる。だけど、それでも吸うなら先生が良い。吸って嗅ぐのなら、好きな人の匂いにしたいとそう思うんだ。
「……わかりました。私でいいのなら遠慮なく吸ってもらって良いですよ」
「……ありがとう。やっぱり先生は優しいね」
──ああ、やっぱり先生は優しい人だ。
少しためらいながらも、それでも座ったまま嬉しそうに腕を広げて自分を招き入れてくれている彼女を見ながらそう思う。単なるわがままでしかないのに、それを少し苦笑しながら受け入れてくれるのだ。
いつの間にかほほを伝っていた涙を手で拭い、彼女の胸に飛び込む。1人分の椅子に2人は少し窮屈だけど、彼女が近くに居られるような、そんな気がした。
「……あの、私の匂いはどうですか?」
「凄い安心する……やっぱり癒されるというのは本当だったんだね……」
「そ、そうですか……」
彼女に抱きしめられるような体制になって、胸に頭を押し付けると、彼女が愛用しているであろうシャンプーの香りと少しの汗が入り混じった匂いがする。もしこれが他人ならきっと汗が気になって臭いとかそんな言葉を言っていたのかもしれない。けど、彼女に抱かれてその匂いを嗅いでいると、言いようのないぐらい心が落ち着く。それを言われて先生は少し戸惑っているような表情を浮かべているけど、今はそれさえも愛おしいと思えてくる。
「ねえ、先生。休み時間が終わるまでこうしていて良い……?」
「……仕方がないですね。今日だけですよ?」
自分の頼みを少し苦笑しながらも受け入れてくれる先生。こういう所はウマ娘になる前から変わらない、先生の好きな部分の1つだ。ウマ娘になって小さくなったけど、彼女の腕の暖かさは男の頃のままで、ずっと好きなところだ。
(──ああ、どうせなら)
どうせなら、このまま昼休みが終わらなければいいのに。そうしたら、ずっと彼女の腕の中を独占できるのに。彼女の腕に抱かれて匂いに包まれていると、そう頭のどこかで思わされるのだった。
≫35二次元好きの匿名さん22/02/08(火) 23:08:11
『マーベラ吸い』
「湯たんぽ……トレ吸い……手が開いていそうなトレがいない……もうダメ……」
「タイキトレおねえちゃん今日もマーベラス☆?」
「やぁ……マベトレ…………」
「なんか、今にも尽き果てそうになってるけどー、どうしたのー?」
「ちょっと湯たんぽニウムが不足しててね……。そういえばマベトレの髪って、すごいあたたかそう……」
「んー…………。クス、手当り次第誰でもいいの?湯たんぽに頼らなきゃ生きていけないよわよわさんには、しょうがないから私のマーベラスをあげてもいいよ★☆」
「ありがとう~。ではいただきます。まずは前菜の髪から、スゥゥゥーーー。ふぅ~あたたかい~、それとマーベラスとしか表現できないこの香り。いいわね~」
「そんなに顔をうずめてまるで変態だねー★(うぅー。される側はくすぐったいーよー)」
「罵倒されながら温まるのもまた新鮮。それではメインデッシュの湯たんぽを……。って冷たっ」
「残念ながら私の体温は低い方だよー。ご希望のマーベラスに出会えなくで残念だったねー★」
「これはこれで……髪の暖かさとヒンヤリした体逆に癖になりそう~。マベトレの冷たい体は夏場には良さそうかもね~。」
「うぅー☆」
こうしてランダムエンカウントメスガキに命を救われたタイキトレであった
マべトレ本体は逆湯たんぽ、周りの熱を吸ってひんやりしてる今後の保冷剤候補
≫53二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 00:35:56
イクノディクタスはトレセン学園に入学後、真っ先に訪れたい場所があった。
「……よかった、開いてる」
蹄鉄工房である。
トレセン学園専属の蹄鉄師が、生徒達の為に日夜蹄鉄を打っているという施設。
幼き頃から蹄鉄に救われてきたイクノにとって、その施設は、そしてそこに属する蹄鉄師への興味は薄れ難いものであった。
どんな素晴らしい蹄鉄を打っているのだろう。どんな素晴らしい腕が、技術が。トレセン学園に住まう少女達を支えているのだろう。
最近同室となったメジロ家の少女イチ押しの、怜悧なかんばせを林檎のように染めながら、イクノはそっと蹄鉄型のドア・ノッカーを叩く。
「どうぞ」
ひっきりなしに鳴っていた機械の動作音が止んで、静かな、しかしはっきりと聞こえる声が引き戸の奥から聞こえた。
声の後、また機械の音が響く。入ってこいということだろうと当たりをつけ、イクノは意を決して引き戸に手をかけた。
「失礼しま――は?」
そこには最新の3Dプリンタを使って蹄鉄を作る、作業着姿の男がいた。
イクノディクタスのひっそりとした幻想が壊れたこの瞬間こそ、後のトレーナーとの馴れ初めであった。
54二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 00:36:28
「成程……新入生への、オリエンテーションで」
「そうです。実際に色々、触って貰おうかな、と」
そのくたびれた作業着姿の中年男性こそ、トレセン学園に属する専属蹄鉄師であった。
指導級蹄鉄師の免許バッジをイクノがお目にかかったのは二度目だが、太いのは下腹だけでなく、二の腕の太さは職人としての確かな貫禄を感じさせる。
「先程の機械で作っていたのが……こちらですか?」
「そうですね。樹脂製の、リハビリ向け蹄鉄」
「リハビリ向け?」
「後で配るけど、読みますか」
そう言って手渡されたレジュメを読むと、丸眼鏡の奥底でイクノの目が光った。
『ウマ娘は怪我の回復後、成績が伸び悩むケースがあります。
これは怪我が尾を引くこともありますが、運動を控えたことで衰えた足と、鍛えた実感のギャップに心が混乱してしまうからです。
この樹脂製蹄鉄は従来の蹄鉄より軽く、レースには不向きですが、その心の混乱を落ち着ける効果があります。
トレーナーさんや教官さんと話し合った上で、リハビリテーションで装着し、無意識下の自信を回復しましょう』
治療用の蹄鉄。この概念を持ち出した蹄鉄師は、イクノの記憶の内、ふたり目。
「――蹄鉄を診てもらいたいんですが、よろしいでしょうか」
イクノディクタスの胸が、僅かに高鳴った。
55二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 00:37:06
「……これは、普段使いしてないですよね?」
「はい。手入れは欠かさずしていますが、幼少の砌に使ったものです」
「なら、よかった」
差し出した蹄鉄は、イクノディクタスが脚に患いを抱えていた幼少期に、ある蹄鉄師がイクノディクタスの為に打ったものであった。
思い出深いものだが、流石に子供向けの蹄鉄を今の脚には使えない。彼の安心するような顔も、イクノには残念ながらも納得がいった。
「いい蹄鉄ですね。スポーツメーカーの調整品じゃない。これは……」
きらきらと、宝石のように彫りを蛍光灯に透かす彼は、やがて老眼鏡の奥で目を見開かせる。
「……先生の、蹄鉄だ」
確信に満ちた顔でイクノディクタスの顔を見た彼は、次いでイクノの脚を見る。
引きずる様子も、痛ましい歪みもないその脚を見て、彼はようやく微笑んだ。
「よかった。先生も、喜んでくれるだろう」
「……はい。その節は、お世話になりました」
頭を下げたイクノに、こちらこそと彼も頭を下げる。
ふたりの馴れ初めは、おおよそこういった流れであった。
56二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 00:37:23
それからしばらく、イクノディクタスは何かあればこの蹄鉄工房の主に会いに行った。
「“ド軽量”の新作シューズが販売されたそうですね」
「うん。3足ほど、取り寄せてある」
「3足?」
「履いてもらう用、バラす用、蹄鉄の合わせ用」
「……では、僭越ながら。履いてみてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。サイズは、君に合わせてあるから」
このような具合に、打てば響くようなやり取りを交わせる蹄鉄師のことを、イクノはすっかり気に入ってしまっていた。
少々口数は少ないものの、歳を重ねた分の気遣いは気の逸りがちな年頃の少女にはありがたい。
何より大好きな蹄鉄のことを誰よりもわかっている人物であるから、これで気に入らぬ道理などあってなきが如しである。
「食べる? 石さかの栗蒸し羊羹」
「いえ。今日はマックイーンさんと間食を済ませていますので」
「じゃあ、お土産にどうぞ」
「ありがとうございます。マックイーンさんも喜ぶかと」
「うん」
ともあれ、品行方正かつ自己管理も完璧なイクノディクタスは、概ね順風満帆な学園生活を送っていた。
選抜レースの後までは。
57二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 00:37:49
「……私の脚なら、このローテーションは問題ないものと自負しています」
「いや……それは無茶だよ。いくらなんでも……」
イクノディクタスは選抜レースにおいて、見込み通りの勝利を収めていた。
それはトレーナー達も認めるところで、新人・中堅・ベテラン問わず彼女のレースに携わりたいと声を挙げた。
しかし、彼女が提示したレースプランには、10人が10人難色を示すこととなる。
「いくらなんでも、その……トゥインクルシリーズで通算51走というのは……」
「3年で51走です。1年17走。1ヶ月辺り1~2出走で済みますが?」
「普通は数ヶ月に1度のレースに向けて身体を仕上げるものなんですよ!
本来は秋三冠だって無茶なローテーションだっていうのに……!」
ウマ娘は3回連続で出走させてはならない。
それはトレーナー間の暗黙のルール。出走登録自体は問題なくできるが、連続出走はウマ娘の調子を落とし、ともすれば身体を壊す要因となる。
余程の余裕があるのか、さもなければ打ち切りを回避を試みる苦肉の策か。ともあれ「クソローテ」とも呼ばれる愚行を犯すほど、トレーナー達は愚かでも悪人でも、天才でもなかった。
「……無理を言っているのは承知の上です。ですが、この試みをしてこそ私の脚の意義がありますので」
「脚を壊すことも厭わない、そんな意義なんてないのよ」
「いいえ。壊すつもりはありません」
なんとか諭そうとするトレーナー達に、イクノディクタスは鉄の意志で首を横に振る。
「一にも二にも管理です。徹底的に管理し、できる限り長く走り続ける――。
……鉄の脚を証明することこそ、私の命題です」
とうとう最後のトレーナーが諦めて尚、彼女は意思を曲げなかった。
58二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 00:38:10
「たづなちゃんから、君の話を聞いた」
「選抜レースの件ですね」
「うん。無茶なレースをする気だと」
蹄鉄工房の主たる蹄鉄師は、漬物を奥歯で噛み砕き、茶漬けを啜って話を切り出した。
老眼鏡の奥から、まっすぐに見つめる蹄鉄師を見て、彼からも叱られるのだろうかとイクノディクタスは耳を垂らす。
しかし、彼はそれ以上を告げることなく、小箱からあるものを取り出した。
「――トレーナーバッジ?」
「私の……トレセンの専属になった時に、取った」
「……すみません。話の展開が……」
「結論から言おう。君のローテーションは実現可能だ」
丸眼鏡に負けないほどに、イクノディクタスの目が見開かれた。
すかさず蹄鉄師はいくつかのレジュメと蹄鉄を渡す。それはイクノディクタスがレースプランに挙げたレース場、それらのデータを具に纏め、それに合わせた蹄鉄であった。
「これらのレースに相応しい蹄鉄とシューズを、毎回必ず用意する。
それなら3年間で51走――毎月最大2走、全力で走っても脚を壊さない」
「……しかしそれは、スポーツメーカーでは不可能です」
「だが此処に、蹄鉄師がいる」
それはイクノディクタスが、無意識下で求めていた言葉だった。
蹄鉄師は穏やかに、しかしはっきりと彼女に語りかけた。
「君の夢と脚を、私が支えよう。君の夢と脚を、私の夢の為に使わせてほしい」
頭を下げる蹄鉄師に、「こちらこそ」と思わず頭を下げそうになる気持ちをぐっと――なんとか堪えて、イクノディクタスは彼の夢に耳を傾けた。
59二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 00:38:30
「蹄鉄のコンビニエンス化、ですか」
「そう」
それはコンビニで出来るオーダーメイド蹄鉄という夢だ。
プロの、それも指導級認定蹄鉄師が行える診断と製造の技術を、コンビニに行って金を出すだけで得られる。そんな未来の夢。
その夢を追う過程で、多くのウマ娘を救う結果となるだろう。
いくつかの資料と共に示された蹄鉄師の夢を、イクノディクタスはしっかりと読み込む。
「……私の青春が終わり、走れなくなっても。
貴方の目が焦げて背骨が曲がっても、叶えるには足りないのではないですか」
「例えそうであっても、君は乗ると踏んで話した」
「勿論です。提示されたサービスも、計画も充分頷けるものでした」
イクノディクタスは奇跡のような蹄鉄によって回復した脚を十全に活かし、より長く走る為のサービスを得る。
蹄鉄師は膨大なレースデータと、連続出走に耐える強い脚を支えたという実績を得る。
理想的な、Win-Winの関係にして、見果てぬ夢の共謀者――何故、そのパートナーに自分を選んだのかと、イクノは聞かずにはいられなかった。
鷹揚に頷いた蹄鉄師は、はっきりとその理由を告げる。
「一度関わったものに、最後まで面倒を見るのが私の主義だ」
「それは……私が足繁く通ったからですか?」
「それもある。それ以上に、君は私の先生が打った蹄鉄から、鉄の脚を証明する夢を見た」
ならばそれを支えるのは、弟子の責務だ。
その言葉を聞いて尚、我慢をする理由はイクノにはなかった。
「よろしくおねがいします、トレーナーさん」
「うん」
握手と共に結ばれた絆は、決して離れることはなく。
風変わりなトレーナーとウマ娘は、こうして「無謀」に挑むこととなったのであった。
60二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 00:39:33
「💪」
「ありがとうございます、トレーナーさん」
それから、幾ばくかして。
すっかり縮んだ蹄鉄師――イクトレが、ちっちゃなちっちゃな両手で差し出したふたつの蹄鉄を、イクノディクタスは丁重に受け取る。
URAファイナルズで頂戴した出走権。それも適正距離の全てのレースに出走するにあたり、イクノ達もクソローテを超えるクソローテに備えに備えていた。
「――問題ないかと。次の蹄鉄を試しましょう」
「✌」
ごそごそと道具箱を漁るイクトレの小さな背に、イクノは思わず目を細める。
イクトレがウマ娘の幼児となってしまった時、イクノの心中は動揺と――密かな喜びがあった。
夢へ向けて走れなくなる、それはイクノだけの問題ではない。
老眼で手元が狂い、考えがまとまらなくなり、腕の筋肉が衰える――イクトレもまた、夢の半ばで倒れてしまう危険があった。
それはもしかすると、イクノより早くに。
だが、今はどうだ。幼いが故の問題こそあれど、イクトレの持つ時間はかなり伸びた。
それはつまり、より長くふたりで走れるということの証左に他ならない。
「……トレーナーさん」
「?」
「これからも、よろしくおねがいしますね」
「👍」
その旅は――決して悪くないものの筈だ。
イクノディクタスには、そんな確信があった。
うまぴょいうまぴょい
≫72◎かく語りき22/02/09(水) 07:47:11
夢を見ました。
少し前……ウララに会った頃か、それよりまだ前の思い出。それに似たなにか。
担当の歩き方の異常を短く、しかし的確に指摘してくれた子。
他者を支える仕事を求め、田舎から出てきた少し抜けた子。
知識量は十分ながら杓子定規に物事を捉えがちだった子。
筋肉を声高らかに謳いあげていた子たち。
いつまでも報連相を学ばず何度かカミナリを落とした子。
よくよくわたしに懐いては「母さん」と揶揄ってきた子。
何事も涼しい顔でそつなくこなしてみせる器用万能な子。
己を卑下してばかりでこちらから逃げる事に全力を傾けていた子。
……先生。
他にも多くの彼ら彼女らとの思い出が順不同で去来します。
しかし、そんな同僚たちの顔には一様に「靄」がかかっていました。
しかも人々の口は動いているのに声も聞こえなくて。
ああ。そんな。イヤだ。違う。覚えてる。わたしは、──てなんか…………
……涙が流れたところでわたしは目覚めます。
場所はいつもの病院のベッドの上。
とんだ悪夢です。寝覚めが大変良くない。……軽く顔洗ってスッキリしましょう。
フラフラと洗面所まで行ったならば、鏡に映ったのは予想通りのひどい顔……ではありませんでした。
鏡の向こうには「靄」がかかった顔があるだけでした。
73◎かく語りき22/02/09(水) 07:47:48
「……ああぁぁっっ!!!」
「ふえぇっっ!?」
「はっ……! はぁっ…………! あっ、んっ……うぅ。えほっ!えほっ!」
「どうしたのトレーナー!? ダイジョーブ!!? ……変な夢見た??」
夢の中同様、病院のベッドの上。違うところといえば、隣でお昼寝をしてたウララを起こしてしまったことでした。
「ウララ……ああ、よかった……」
「こ、コールナース押す?」
「ナースコールは、いりません……。ウララの言う通り変な夢を見ただけですから」
「本当にダイジョーブ?? 元気出して、トレーナー……! ……あ、歌歌おっか!?」
「……それじゃ一曲。お願いしましょうか」
「ホントに!? じゃあじゃあ、何を歌おっかな〜〜♪」
「……ウララは」
「なーに??」
……変わらないでほしい、などというのはひどいエゴです。
誰もが変わる。それが普遍的で、あるべき姿だと今なら分かるから。
「……いい大人になってくださいね」
「えーっとー? ……うん、分かった!!」
「ふふ、力強い返事で何より」
しばらくのち、病室に少し抑えつつも元気な歌声が響きました。
……本当にかわいい子。いい大人になってほしい。悪い大人でもこの際構わない。
願わくば、不変を渇望する真似だけはせぬように。
(終)
≫89二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 08:08:55
「失礼します」
そう伝え、生徒会室の中に入る。午前10時半。事務作業は昨夜終わらせ、ルドトレさんとの打ち合わせに来た。
「あ、シビトレちゃんいらっしゃい」
「いらっしゃい〜」
中に入ると高く積まれた書類と格闘するルドトレさんとグルトレさんがいた。
「それ、運営関係ですか」
「そうそう、ちょっと立て込んでてね」
「手伝いますよ。流石にスルーするのは気が引けます」
「シビトレ、ありがとね〜」
半分ほど書類を取り、部屋の隅にある椅子を置いて目を通し始める。
「ルドトレさん、ここの予算関係は上の確認に回した方がいいですか?」
「あ、それね。後でルドルフに聞いてみるわ」
「了解です。あとグルトレさん、ここの改修関係は業者発注です?」
「うん、そうだよ〜」
テキパキと片付け、たまに報連相をして書類を減らしていく。
もう一枚と取ろうとしたら、机の木を指が擦った。
90二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 08:10:49
「できました」
「ありがと〜。チョコ、いいの?」
「ええ。まだありますし」
「シビトレちゃん?お菓子じゃなくてちゃんとご飯食べてるの?」
チョコの包装を開けるグルトレさんの正面でジト目でこちらを見てくるルドトレさん。
「流石に沢山は無理ですけど、今朝はサンドイッチ食べました」
「そ。ならいいわ。うん、美味しい」
ニコリと満足そうに頷くとお茶を啜る。
「シビトレ、トレーナー吸いって知ってる?」
「ええ。トレーナーを猫みたいに吸う奴ですよね」
最近噂になっているものだ。
「提案だけど〜、ちょっと吸わせてもらえない?」
「…私をですか?」
「そ。……ダメ?」
私は知っている。ここで断ろうものなら部屋の非常食を没収されることを。左の視界の外から視線がすこしちくちく刺さることを。
「…お好きなように」
「わ〜い!じゃあ、ここにきて〜」
そう言うとグルトレさんは自分の脚の間をぽんぽんとする。そこに座ると腹回りに腕を回してきた。
「じゃあ、吸うよ〜?」
「ええ。どうぞ」
そう返すとすううう〜…と後ろで呼吸の音が聞こえる。
「甘い匂いだね〜。あと…油?」
「朝エンジンオイルの交換しましたからね」
「へ〜」
そう言いながらす〜…と再び吸う。
91二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 08:11:09
「あ、私もいい?」
「どこで吸うって言うんですか…」
ふといたずら心の宿った目でこちらを見てくる。
「ふふ…ここよ」
脚を回してくると、対面で抱き合う形で座ってきた。
「じゃ、吸っちゃうわね」
うなじに顔を持ってきて深く吸ってくる。
「いい匂い…ねえ、今度ブラトレちゃんも誘ってどこか行かない?」
顔を上げてこちらを見てくる。近い。
「とりあえず日にちを教えてください」
「グルーヴとの予定がなければ大丈夫だよ〜」
「じゃあ後でメール送っておくわね」
そう言いながらも吸い続ける。
結局その後15分ほど吸われ続けたのだった。
うまぴょいうまぴょい
≫119二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 10:56:46
肉の焼ける音、極上のワインの香り。焼肉、それはある意味人類のロマン……かもしれない。
そんなことをするウマ娘が二人、ルドトレとマクトレであった。
といっても、単にマクトレが焼肉のクーポンを使おうとしたところ、普段絡む他の面々が軒並み予定が合わず、たまたま近くにいたルドトレを誘って……という経緯なのだが。
「……でも、よかったの?担当と来なくて」
「いいのですわ。確かに、焼肉に誘ったところで調整すれば帳尻合わせは可能です。が……」
「あー、次のレース!」
「そう!故に管理が必要なタイミングなのもあって今回はテイトレやブラトレを誘おうと思ったのですが……」
「断られちゃった、と」
「そうですわ!やってられませんから赤ワインゴクゴクですわ!お肉とワインの無限ループでしてよ!」
「いいよねワインとお肉!あ、カルビ増やそっと」
「……食べきれますの?」
「ちゃんと一人前ずつ頼んでるし……いけると思うよ?」
「なら頼みましょうか。あ、やはりビールも飲みたく……」
「なら、頼もっか!」
「ええ頼みましょう、遠慮はいりませんわ!」
そうして、二人とも食べて飲んでを繰り返し酔いが回ってきた頃……
「えへへー……マクトレさんの髪さらさら~……」
「どうしたらそんな大きくなりますのその胸……けしからんので揉みますわ!天誅ですわ!」
気がつけばルドトレがマクトレの隣に移動、ルドトレはマクトレの髪を触って楽しむわ、マクトレはルドトレの胸に手を伸ばすわの大惨事となっていた……が、個室席であったため誰も来ない。
故に、この行為は誰か来るまで止まることはなく。
この混沌は、ルドルフがやってくるまで終わらなかった……
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part672【TSトレ】
≫72二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 19:52:33
爪とは、表皮の角膜が硬質化して形成される物質だ。
指を保護する天然の鎧であり……ウマ娘にとって、不安定さの象徴とも言える。
「……と、いうわけです。それで、イクトレさんの御助力をお願いしたいのですが……」
「👍」
私、トーセンジョーダン担当トレーナーが皐月賞を目前に相談を持ち掛けたのは、トレセン学園専属蹄鉄師、イクノディクタス担当トレーナーであった。
ひどく小さなウマ娘の子どもにしか見えない彼は、齢46を超える指導級の蹄鉄師。装蹄に関して新鋭の技術と古豪の経験を持ち合わせた人物だ。
私の頼みを快諾したイクトレさんは、診断書や私のまとめた資料を見つめて、フリップで回答する。
『接着装蹄を行いましょう』
「接着装蹄……アメリカ発祥の装蹄技術ですよね」
「⭕」
イクトレさんの詳しい解説によると、蹄鉄を留める鉄杭はより長く、安定してシューズに固定できるが、爪に負担がかかるのだそうだ。
通常なら目を瞑れるそれも、ジョーダンのような爪の弱い子は耐えられない。だから鉄杭を使わず、接着剤で専用の蹄鉄を固定するのが接着装蹄というらしい。
これも少しズレればウマ娘の健康を損なうので、誰でも出来る技術ではないのだが……目の前の人物に疑いは不要だろう。
「わかりました。それでお願いします」
「👍」
細かい仕様の追求は、実際にジョーダンの足を見てから、というお約束を取り付け、私は足早に次に会うべき人に会いに向かおうとした。
その寸前で、イクトレさんが私を引き留める。
「わたちは、あちをとめろとは、けっちていいまちぇん」
ひどく舌足らずで、ひどく落ち着いた言葉。
そのちぐはぐさへ、まず耳が反応したことに内心慣れない気持ちを感じながら振り向くと、イクトレさんは老いを受け容れはじめた男性のような、穏やかな笑みを浮かべていた。
74二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 19:53:28
次に私が通ったのは、スマートファルコンさんのところだった。
「POPの書き方を教えてほしい?」
「はい。実は、こういうものを書こうと考えていて……」
差し出した企画書を、スマートファルコンさんは彼女の担当トレーナーと見つめる。
すらりとした印象のファルトレさんは、私から見てもやり手のトレーナーでありプロデューサーだ。
芝より人気の乏しいダート路線。それを盛り立てるべく邁進したスマートファルコンさんと、共に実現までこぎ着けたファルトレさんはウマ娘ビジネスにおける良い見本のひとつだ。
そんなふたりに企画書を見て頂くのは少し緊張する……が、表情を見る限り、感触は悪くなさそう。
「すっごー! ねえねえ、教えるから、ファル子もこれ一冊ほしいなっ☆」
「勿論です。……ファルトレさんも、ファル子さんのお時間を割いて頂いてよろしいでしょうか?」
「いいですよ。ファル子の補習も回避できそうですし」
「むぅっ。それはいいっこなしだよっ!」
可愛らしく頬を膨らませたスマートファルコンさんと、その頬をつつくファルトレさんはとても仲が良さそう。
私もジョーダンとこういうやり取りができるだろうか。そんな気持ちで張り出した胸をつついて遊んでいると、何故かおふたりは揃って胸に手を当てていた。何かのハンドサインだろうか?
「じゃ、じゃあ早速! あのね、POPはよそ見してても目に入るくらいインパクトがあることが大事で……」
早速教えてくださるとのことで、私もメモ帳を片手に拝聴する。
きっとこの贈り物は、ジョーダンにとって力になってくれる。
そう確信する度に、私の胸は僅かに高鳴った。
75二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 19:54:15
帰り道はいつも歩く。
軽い運動と、思索をまとめる為だ。机に向かっているばかりでは纏まるものも纏まらない。
けれども今日は、そうも言っていられないようで。
「お嬢様。どうぞお乗りください」
「……オペトレさん。貴方は祖父の執事さんじゃないと思っていたんですが」
テイエムオペラオー担当トレーナーさん。
私に色々と便宜をはかってくれる実業家の方だ。
お互いウマ娘になる前から知っているが、彼のスタイルは昔からずっと変わらない。
瀟洒で、洒脱で、クラシック。それでいて現代的な彼は、愛バの影響か雰囲気に刺激がついた気がする。
私の嫌味に対し、にっと口角を上げる様は以前はやらなかったものだ。
「好きでやっていることですよ。さあ、どうぞ」
オペトレさんはそう言って、自前の高級車に私を乗せた。
後部座席には、私とそっくり同じ顔。若かりし頃の祖母と同じ顔の祖父がいて。
「……何の御用ですか」
「うむ……作戦会議といかぬか」
祖父、ダイタクヘリオス担当チーフトレーナーは、ひどく困ったような顔でそう言った。
76二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 19:54:57
「父と母に、まだ言ってないんですか?」
「大事な時期に、横槍は入れられたくなかろう?」
「まぁ、そうですね」
私と祖父の会話は、酷く他人行儀なものだった。
私は敬語を崩さず、祖父は老人語を崩さず。お互いにずっと真正面を向いていて、時折バックミラーを確認するオペトレさんが困ったように微笑んでいる。
居心地の悪さにたまらず声を上げたのは、1番人の良い祖父だった。
「■■■」
「仕事としてはどのウマ娘の担当トレーナー、と呼び示すのが習わしでは」
「いや、うむ。そうじゃな……失敬致した」
「……お気になさらず」
雰囲気を悪くしてしまったことに、内心で頭を抱える。
下の名前で呼ばれるのを拒んだのは、ほぼ反射的な行動だった。
祖父が私を特別扱いしたようで、それがなんだかひどく気に障ったのだと、私はわけのわからない後付の言い訳で自分を誤魔化すしかできなかった。
「……おぬしの父じゃが、今の儂を見てひどく複雑そうにしておったよ」
「御祖母様の若い頃そっくりだから?」
「それもある。しかしそれ以上に、肩透かしを食らったような顔をしておった」
振り返った私に、祖父は寂しげに微笑んだ。
祖父は老いて心臓を病み、いつ死んでもおかしくない中でダイタクヘリオスさんとそのサブトレーナーさんの指導をしていた。
父は祖父との別れを想定し、覚悟を決めていた筈だ。
それがウマ娘化したことで生き長らえたと知った時、祖父にこのような顔をさせる反応を、果たして私はしないだろうか。
「奇跡とは、残酷じゃな」
それが何を意味する言葉か。少し考えに囚われた私は、ふと鞄を持っていた手が緩むのを感じた。
77二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 19:57:21
あ、という間にばさばさと書類が落ちる。
思わず手を伸ばすと、以前より膨らんだ胸がつかえて前屈が阻まれる。見かねた祖父が書類へ手を伸ばせば、祖父の豊満な胸が私へ押し付けられ、私は僅かに呻いた。
祖父と孫娘の筈なのだが、光景はどこぞの美人姉妹のよう。正直メチャクチャに邪魔だった。
困惑と辟易に苛まれる中、ついと祖父はひとつの書類……スマートファルコンさんに見せた企画書を手に取った。
「……ふむ。このような試みをしているのか」
「何点ですか」
「ふーむ……」
思わず聞いてしまい、内心でしまったと頭を抱える。私は孫でいたいのか、生徒でいたいのか、それともどちらでもいたくないのか、いったいどっちなの?
懊悩する私を知ってか知らずか、祖父は企画書の字を、図を一文字も残さず読み尽くし……。
「面白いのう」
「えっ」
「いや、面白い。うちのヘリオスにもあげたらよろこぶかのう」
ひどくあっさりと認められた。
虚を突かれた私を見て、祖父はふむと思案し、今度は慎重に口を開く。
「トーセンジョーダン担当トレーナー殿。頼みがあるのじゃが」
「な、なんでしょう」
「レースの用語を、この企画書の通りに纏めたものを頂けぬか」
この通り、と合わされた手を見て、私の頭は混乱から一周回って、冷静に算段を組み立て始めた。
「わかりました。お請けします」
「そうか、そうか。……ありがとうなぁ」
きっとそれは生徒が真っ先に関心を持つレースをピックアップするべきだという教育者の意見と、少しでも会話のきっかけを持ちたい祖父の心情がないまぜになったもの。
それが叶うと知った祖父の嬉しそうな顔に、ほんの少し崩れた言葉に、私はなんと言えばよかったのだろう。はにかむような笑顔を返せただろうか。車のガラスには、何も映らなかった。
78二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 19:58:19
一ヶ月後。完成したそれに対し一番喜ばなかったのは、やはりジョーダンだった。
「え。なにこれめっちゃ分厚いんですけど。ウケる」
「それがギャル辞苑“あ”ね。あと47冊あるよ」
「いや多っ! これ持ち帰んのアタシ!? 部屋埋まるわ!?」
どすん、と置かれた本の数々。
それはPOP調に書かれた1頁1単語の「ギャル向け辞書」であった。
広辞苑の全単語を丸々ヴィレッジヴァンガードで見かけるようなPOPにした為に、冊数こそ膨大だが、1単語1単語を理解しやすいように面白おかしく書いている。読み終える頃には国語の問題が理解できない、なんてこともないだろう。
「うっわマジで全部POPじゃん……エグ〜」
「読めそう?」
「いや……えーっと……わっかんねーけどー……」
ジョーダンのわかんないは、きっと読み切る自信がないことにかかっているのだろう。
できる限り興味を引く作りにはしたし、手が痛くならないよう小分けにしたが……最終的に手に取るのはジョーダン次第。
けど、無理強いはしない。したくないのだ。だって……。
「……つまんね~ってなったら言うから。そういう感じで、よろ」
「うん。感想聞かせて」
「っす〜……」
君が君の意思で手に取った本であってほしいから。
そう考えるのは、少しばかなことかな、ジョーダン?
(うまぴょいうまぴょい)
≫107二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 21:13:27
「…さて、ここなら大丈夫かしら」
「ああ、なら約束通り話すとするか」
…キタトレのトレーナー室にて、机を挟んで向かい合うキタトレとウオトレ…ではなくギムレット。
例の約束、つまりキタトレのウマソウルについて話すということで二人きりの状態を作ってあった。
「…そうだな、結論から先に言うならアンタのウマソウルは因子の闇鍋みたいなもんだ。それも結構なレベルの、な」
「闇鍋、ねぇ…」
「俺が知る見て分かりやすいのだけあげても、キングカメハメハ、ゴールドアリュール、ハーツクライ、ブラックタイド…」
…いくつか名前を上げていき最後にギムレットはとある名前を上げた。
「…シンボリクリスエス。こいつは俺には縁のある野郎だ。なんたって俺と一度競ったやつだからな…」
「…それは驚いたわ。出た名前を詳しく詮索する気はあまりないけれど、まさかそんな縁があるなんてね…」
珍しくキタトレも目を見開き、ギムレットもまた思い出したそれを懐かしむような反応を見せる。
「後は無断でサトノのウマソウルも見たな。…あれを一言で言うなら、白いキャンバスを単一の白色で染めたようなもんだ。」
「それはまた、ね…」
「それだけの因子って訳だ。キタサンのが色を塗り重ねて黒色になっているようなのと対照的な話だな」
そこまで聞いたギムレットはお茶を手に飲む。キタトレは満足したのか息を吐くとトレーナー室の奥に向かいながら
「ありがとうギムレット、上げてくれた名前は…まあ、また今度気が向いたら話してくれたらいいわ。それと…」
奥から皿を持ってくるキタトレ。その皿の上には美味しそうなにんじんステーキとローストビーフが乗っていた。
「今日のお礼よ、遠慮なく頂いてちょうだい。それと、ウオトレはそっちのローストビーフね。」
「おお…!素晴らしいぞキタサンの…!」
丸々一本を使ったにんじんステーキに目を輝かせがっつくギムレットに、キタトレは満悦そうな顔で見守っていた。
108二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 21:14:00
───その後、食べ終わったギムレットがウオトレにチェンジし、ローストビーフを食べている中でふと
「なあ、キタトレって…お母さんって感じがするんだよな」
「あら、ウオトレもそう思うのかしら?」
「ああ、ギムレットは親父だって自分から言ってるし、案外お似合いな二人かもな」
…そう、ウオトレがぽろりとこぼした言葉に
「ふふっ…それは面白いわね」
「───ボウズ、お前は何を言ってるんだ。確かにキタサンのはいい女だが…」
愉快げなキタトレと思わず声に出してしまうギムレット。
「あら、ギムレットは私のことをいい女って思ってるのね」
「ふ…そりゃ間違いなくいい女だろうよ、元男だつっても怪しいくらいにはな」
「…そりゃ今の私は女よ?元男だけど現ウマ娘だし、何より私、別に性別は気にしない人間なのよね」
「──え、そっちイケるのか…知らなかった…」
切り替わったウオトレが驚きの声をもらす。
「…まあそれは置いておくとして、そもそも仮に私とギムレットがそうだとして子供は誰になるのかしら。私のチーム…?」
「確かにそれなら娘は沢山…いることになるのか?」
そろそろ収拾がつかなくなり初めていた所で、ドアがノックされる。開いてみるとウオッカとキタサンが。
「おう、トレーナー…って何食べてるんだ…?」
「む?息子か、何か用か…?」
「あの、ギムレットさん。ウオッカ先輩は女性では…?」
「ギムレット?まさか貴方…」
…ギムレットの発言に更に収拾がつかなくなる空間。その後収まるのに暫くかかったらしい。
≫115怪物は何処?1/822/02/09(水) 21:52:51
怪物は何処?
怪物、と聞いた時果たして何を思い浮かべるだろうか。財宝を溜め込み洞窟に潜むドラゴン、広大な地下墓所(カタコンベ)を支配して一つの王国を築き上げるリッチ、あるいは、廃城を支配して自身の領域を拡大していく悪魔といった存在などが代表例として挙げられるのではないだろうか。
ともかく、怪物と聞いた時に人間が思い浮かべるのはそういった強大な力を見える形で有する者達のことが大多数を占める。逆にスライムといった弱小とされる存在はモンスターと呼ばれることが多い。言葉1つの問題ではあるが、そこに籠められた認識の差異というものは存外侮れないものだ。
つまり何を言いたいのか。それは──怪物が街の外だけに居るとは限らない、ということだ。
116怪物は何処?2/822/02/09(水) 21:53:10
「ヒッ! ヒィッ⁉ 助けてくれ!」
城塞都市の片隅で悲鳴が木霊する。恐怖で足が竦み、ほとんど這いずるように身を捩って助けを求める声を上げているのはこの街で衛士をしている男だった。
男は怠慢で退屈な人間だった。それなりに平和なこの街でそれなりに保障された生活を続けているこの男は、いつしか平凡な生活に飽きるようになり、犯罪に手を染めるようになっていった。公権力を利用した恐喝に始まり、賄賂を贈られれば犯罪を見逃し、見返りに女を贈られてはそれを楽しむ。退屈な衛士の仕事は表面上はほどほど真面目にやり、その裏で法外のことを行う悦楽に耽っていた。
「──────」
しかし、今日は違った。いつもの様に懇意にしているゴロツキから「上物の女が手に入った」と聞いていつもの様に町はずれのボロ屋敷に赴くと、そこに広がっていたのは見るも無残な惨状だった。以前訪れた時には数十人居た筈の構成員が、全て手足の骨を砕かれ、一部は壁に突き刺さるようにしてその体で壁を突き破らされていた。
それを行ったのはたった一人の女。黒い装束を身に纏い、夜となり灯の消えた屋内ではその身長と体型しか朧気に解らないために恐らくとは但し書きが付くが、この惨状を引き起こしたのは今まさに、自分の背後に足音を響かせる女ただ一人の手によるものだった。
「俺に、お前を助ける道理があるとは思えないが」
冷酷な宣言と共に足が持ち上げられる。竦んだ足では逃げることは叶わず、虚脱した手では武器を振るい反撃することなどできる筈もない。狙われるのは肩か、腰か、それとも首か。いずれにせよこのゴロツキ紛い衛士にロクな結末は訪れないということだけは間違いない。
118怪物は何処?3/822/02/09(水) 21:54:07
「やっほ~。今日は良い夜だねお二人さん?」
「ッ⁉」
しかし、明らかに場違な気楽な声と、明らかに場にあった銃声が同時に1つずつ。どうやら弾丸は先に部屋の中に居た女を狙って放たれた物らしく、銃弾は避けられたものの先程まで相手がいた場所を通り抜けて床を突き破っていた。
弾丸を避けたのが女ならば、弾丸を放ったのもまた女。鎧などの防具を身に纏わず、銃とロープを手に持つ彼女はこの場においては最も場違いな存在として浮いていた。
「た、助かったよアンタ!パトロールしていたらいきなりこの女に襲われて…」
「いやいやどうもこちらこそ。といっても実は、おにーさんを探していたから丁度良かったりするんだねコレが」
「? それは一体……⁉」
「ここら辺のゴロツキとつるんでる不良警吏っておにーさんのことでしょ?こういうの専門外だったんだけど、天狼さんに頼まれちゃあお姉さんとしては動かないわけにもいかないのです。宮仕えとは哀しき哉哀しき哉。ちょいさー!」
「ウッ!」
「お前を探しに来た」その言葉に疑問を感じた瞬間に女の持っていたロープにより胴を縛り上げられる。せめて口に出すが、自分の行っていた悪事を暴露されるとともにいきなり何やら意味不明なことを言われながら共に首に手刀を叩きこまれ、意識が暗闇に叩き落される。この都市をにわかに騒がせる犯罪組織、その中心メンバーは今ここに壊滅の憂き目を迎えることになった。
残されたのは2人。共に女、しかし共に常人ならざる気配を漂わせる者。人ならざる者の時間が今まさにこの空間を支配していた。
119怪物は何処?4/822/02/09(水) 21:54:25
「や、お昼ぶりだけど元気にしてた?」
「……誰かと勘違いしていないか?ここは暗いからな。多分別人と間違えていると思うぞ」
「いやいやいやいや、だって他所とはあんまり関わらないワーウルフが珍しく街に居るんだし?あとご飯奢ってもらったしで流石に憶えていますって」
「折角の人の厚意を無下にしやがって。……昼ぶりだな。やっぱりダンピールというだけあって夜の方が調子が良いのか?」
「あのときはご飯食べてなかった上に財布を忘れたのに気づいたの食べた後で……てへ」
「てへ、じゃないわ。お前なぁ……」
昔からの知り合いかのように遠慮なしに話している2人だが、彼女たちが出会ったのは今日の昼のことだ。黒い装束を身に纏った彼女──便宜上ワーウルフと仮称する──が昼食でも食べるかと思い入った飲食店で偶然相席になったのが目の前にいるダンピールの彼女だった。
自分と同じく旅人の身で話も合い、気前よく高い料理を幾つか頼むなど良い食いっぷりをしていたので自然と気が合うようになっていたのだが、いざ飯を食い終わったというタイミングで何やら汗をかいて顔を青くするようになった。何か悪いものでも食べたのかと思い声をかけたのだが、そこが運の尽き。震えている声を何とかして聞いてみると、なんと宿に財布を忘れてきたというのだ。取りに帰れば良いではないかと言ってみたものの、自分と同じく社会的信用なんてものはハナからない旅人の身にはそれは不可能だということに言った直後に気付かされた。流石に見捨てるのも夢見が悪いのでそこは自分が立て替えて後で支払ってもらったが、何があるのかわからないのが世の常。彼女の手から金を手渡されて確認するその時まで食い逃げさせられないか気が気で仕方が無かったのは記憶に新しい。
120怪物は何処?5/822/02/09(水) 21:54:47
「まあ支払った金は返ってきたからそれは良いか。……しかし、世界ってのは広いように見えてその実狭いもんだな。まさかお前が天狼と仲が良いとは思いもしなかったぞ」
「雇い主と雇用者と言いますか、情報屋と顧客と言いますか、まあ色んな関係ですよはい。というか、天狼というだけで誰かわかるもんなんです?」
「姿形はワーウルフだが、その実精霊と同種の天を照らす星の化身が天狼だからな。よっぽどの変わり者でもなければまず人間とは関わらないし、俺の知っている内で情報屋なんてやっている奇特な奴だともう1柱しか思いつかん」
「ほえー、今度からもう少し敬ったりお供え物の量増やした方が良いのかな?」
「奴もそんなことを一々気にはしないだろうし、今更お前に敬われても背筋が寒くなるだけだろうよ。……ところでだな」
「ん?どうしたのワーウルフさん。気なら抜かないよー?」
「……バレてたか」
初めて出会った昼間のことや、共通の話題である天狼──白い毛並みをした彼女のことである──で和気藹々と会話を交わす彼女たちだったが、その間に張り詰めている空気は最初から欠片も緩んではいない。冷え切り、熱を持たぬ空気が空間を満たし続けている。
ワーウルフはだらりと両手を下し自然体で構え、それと同じようにダンピールも自身が携えている銃の引き金から指を離さない。互いが互いの1手に気を払いながら即座に対応できるように気を一切抜いていない状況だった。
「さて、モンスターを狩ってるお前に何か狙われるようなことをしたっけかな……?」
「んー、どうだろ?これは天狼さんからの依頼でね、「金か空色の目をした短い黒髪で女のワーウルフと出逢ったら最悪半殺しで良いから連れてこい」って言われているのよ」
「なんだお前、もしかしてそれも「専門外の頼み事」というやつか。モンスター専門の退治屋というのも存外大変なんだな」
「これに関しては後払いだけど報酬は言い値で良いと言ってもらえているから、むしろ乗り気の部類なのよねぇ……それに「王都の怪」の正体、あれワーウルフさんでしょ?天狼さんから教えてもらったよ。匂いとかの証拠は一切残さずに無手で王家の護衛団を犠牲者無しに完封する。そんなことができるのは自分の知ってる限りではソイツだけだって」
121怪物は何処?6/822/02/09(水) 21:55:12
「王都の怪」──それは最近まことしやかに囁かれた噂。
この城塞都市のある国の王都において、突如として人間が消える。それだけならば人さらいが起こったのだと噂話として囁かれるほどではない。しかし、これが噂話として語られるに至ったのはその特異性。消えた筈の人間が見つかるのだ。無傷や半死半生など見つかる状態はまちまちだが、消えていた間のことを話せないし、書いて言葉を伝えることもできない状態になって見つかるのだ。
王家はその原因を王都に蔓延る犯罪組織によるものだと推定、武勇に優れるとされる第2王子主導での撲滅作戦が行われたと公表されたのだが──
「天狼の奴も色々と言うもんだな。アイツ、そこまで太っ腹だったっけ?」
「いやぁ、人の良い雇い主でこっちも大助かりよ。……それで、実際の所はどうなんです?「王都の怪」の正体はワーウルフさんだったりするの?」
「半分当たり、と言ったところだな。元々は遭遇した人さらいだとかを叩きのめして、ちょっと細工をして被害者を元の場所に帰したりしていただけなんだけどな?気付いたら噂に便乗して堂々と人攫いをするようになった奴らが居てな。その2つが複合して出来上がったのが「王都の怪」だ。」
「へー、ということは、ワーウルフさんはどっちかと言えば被害者側なんだ?」
「ま、自分が原因で人攫いが横行する温床を作り上げてしまった時点で加害者の1人といっても差し支えないからな。責任とって地下に潜った奴も含めて一軒一軒丁寧に潰して回っていたら、時を同じくして撲滅作戦を行っていた王家の本体に遭遇して勘違いされたというのが事の顛末だ」
「なるほど……それにしても随分と素直に答えてくれるんだね。もう少しはぐらかされるものだと思ってたから、少し以外だったというか」
「ん?ああ、昼に色々と面白い話をしてくれたしな。これはそのお礼みたいなもんだ。それに──」
噂になり、自分の耳にも入ってきていた「王都の怪」。その真実を語られて感心させられていると、眼前の相手から放たれる威圧感が消失する。本来なら警戒の体勢を解いたと見なしても良い筈だというのに、本能は警鐘を鳴らしてやまない。
直感に従ってその場を飛びのくように避けると、その部分の床が弾けて老朽化した木が飛び散る。その方向に再び銃を発砲すると硬質的な高い音と共に弾かれて横の壁を貫いて行った。
122怪物は何処?7/822/02/09(水) 21:55:35
「どちらにしろ今日のことは忘れてもらうつもりだったからな。どうせ忘れるなら多少は関係ないだろう?」
「──ッ!」
瞑目し見開かれた彼の眼は、澄んだ青空を思わせる蒼から万年を経た後でも変わらぬ金の色に変わっていた。さっきは銃弾を避けていたというのに、今は高速で迫りくる銃弾を横から殴りつけて弾き飛ばしたというそれまでは考えられないほどの身体能力を発揮していた。
『──アイツはな、俺とはまた違った形でワーウルフとは別種の存在だ。修行の果てに仙人の位階に到達した仙狼。それが俺の探している相手だ』
以前この依頼を頼まれた時に言われたことを思い出す。
あの時は「目の色は金か空色」と言っていた彼女に探すのは1人の癖に瞳の色が違うなんてそんなことあるのかと思っていたが、今こうして対峙すれば理解できる。
「仙術による身体強化と気配の遮断……!」
「ご明察。お前の活躍はお前の口から直接教えてもらったからな。油断はする気は無い。……それで、大人しくしているなら手荒な真似はしなくて済むんだが」
「ははっ、でも縛りとかは掛けるんでしょ?どうせならそういうのはナシで信じてほしいなぁと思ったりするんだけど…」
「身勝手な話だとは思うんだが、その手の話を信じるわけにもいかなくてな。恨み言なら後でいくらでも聞くから勘弁してくれ」
「じゃあお断り。流されるのは良いけど、何かつっかえたり忘れたまま生きるのはイヤだし。自分は自分らしく居なきゃね」
「だろうな。お前ならそう返すに決まってる。……サヨナラだ、ダンピール。お詫びと言っては何だが、次に会ったら何でも頼みを聞いてやるよ」
「おっ、いいね。じゃあ自分が勝っても何でも1つ言うことを聞いてもらうってことでヨロシクね!」
「お前はこの時でも変わらないなぁ……まあいいさ。どうせなら幾つでも聞いてやるよ」
123怪物は何処?8/822/02/09(水) 21:56:19
苦笑するような声と共に再び姿と気配が消失する。それと同時に、今度は部屋の内外問わず大小様々な気配の数そのものが増加していった。これでは生体感知や魔力の探知と言ったものは最早役に立たず、自身の感と五感のみで戦わなければならない。
気配を移したダミーか、それとも天狼から聞いた仙人が使うとされる分身の術か。冷汗が背筋を伝う感覚を感じると共に、狩人は自らの笑みを野性的なものに深めてく。この程度の危機はいくらでも乗り越えてきた。ならば今回もそうするだけだ。手に馴染んだ銃を構え直し、彼女は待ち受ける敵を迎撃する作戦を練り始めた──。
──怪物は何も都市に居ないとは限らない。そして、その数は何も1体とは限らない。
そして今この場には怪物が2人居る。1人は修行の果てにワーウルフとしての壁を越えた仙狼。そしてもう1人は半血の身でありながら幾多もの手数を用いて数々の怪物を退治してみせたダンピール。2人とも理外の領域に踏み込んだ怪物であり、互いに互いの実力は既に理解している。
今から始まる戦いは間違いなく、竜に比肩し凌駕する怪物同士の激突に他ならない
互いに死力を尽くした戦いの果てに待つものは────
124怪物は何処?8/8+122/02/09(水) 22:01:11
これにて終了です。
ワーウルフさんのヒミツ①
実は、溺愛している娘(血は繋がっていない)がいる。
初めてタイキトレさんを書くのがこの概念で良いのか迷いつつもタイキトレさんが飄々としてカッコイイなと思いながら筆が進みました。こういう性格の人大好き。
ウオトレ(親父)はワーウルフのつもりでしたが、レースSSで書いた気配の操作などを取り入れたいなぁと考えた結果仙人に。仙法を使って撹乱して相手の攻撃を相殺しながら相手をぶん殴るゴリラスタイルで戦う感じです。
ブラトレさんとタイキトレさんをお借りいたしました。設定やエミュなどで何か気になりましたら遠慮なくお申し付けください。
長文になりましたが、読んでくださると幸いです。
≫137二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 22:42:41
6話『フウトレ→フウジン: 』
────頭によぎるのはかつての記憶。
たまたまバイトをする彼女に会って、次のバイトへ向かう道中話すことになった。
数日前の選抜レースの際に顔は合わせてたから互いに知ってはいたし、互いに積極的に話題を振るタイプだったから話は弾みに弾んだ。
だからこそ。
『……どうしてそうまでしてバイト続けるんだ?』
そう、彼女に問いかけた。
別に悪いこととは思わない。バイトを通じて経験できることは数知れず、さらに聞く限り彼女の家はそこまで贅沢ができない環境らしかったから。
だが、他の娘よりトレーニングの時間が減るのは避けられない。何個も兼任するなら尚更だ。
それを承知の上で、彼女は茨の道を進むことを選んだ。その覚悟の理由を知るべきだと、俺のトレーナーとしての勘が告げていた。
「フウッ!!!!!」
「……トレーナー?」
長時間の捜索の果て、フウを見つけたのは近場の公園。先日の雪が僅かに残り、いつもとは微かに姿を変えている。
そんな公園で、俺の声を聞いてベンチに座るフウが顔を上げる。
「……嘘、ホントにトレーナーだ。もう動いて平気なの?」
「おう、大丈夫だ。おかげで助かったよ、ありがとな。」
「ううん、たまたま居合わせただけだから。」
無意識に力が入ったのか、膝に乗せられたカバンの上で、紙とペンを持ったフウの腕が微かに震える。
……いったい今、どれだけの激情を抱えてるんだ。自然とこっちの拳も固くなる。
「……その紙は、やっぱり。」
「あれ、なんで知って……いやそっか。授業サボっちゃってたんだった。なら聞き込みしてて当然なの。」
そして一呼吸おいてから。
「……うん。多分トレーナーの想像通り、契約解除の書類。ホントは自分のとこ書ききってから渡そうと思ってたんだけど……バレちゃった。」
そう言って笑った。空元気という言葉が似合う、ぎこちない笑顔で。
138二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 22:42:58
「……せめて。」
沈黙を破ったのはトレーナーだった。
「せめて理由を教えて欲しい。なんでそう思い至ったのかを。」
「もちろん、元々話すつもりだったし。……って言ってもシンプルで、もう満足したから、なの。」
「……満足……」
「才能もない、家柄もない、自由もない。そんなあたしにとって、トレセンでの生活はすっごい楽しい事ばかりでさ。思い出たくさん友達もたくさん、しかもレースなんてGI2勝!正に奇跡としか言いようがないの!!
だから……もう十分。まずトレーナーを解放して、それからゆっくり挨拶回りながら退学の用意して。あたしは元の生活に戻るの。」
みんなからもらったものがあれば大丈夫。この先何があったってきっと乗り越えれる。
「……本当に?」
「ホントに。」
トレーナーを安心してほしいから、声はなるべく優しくおだやかに。あとは微笑んで……
「……ならどうして、そんな辛そうな顔をしてるんだよ。」
「……あ。」
言われて始めて、まともに笑えなくなってることに気づいた。
「……フウが言いたくないなら、無理に言えとは言えない。だが、それでも一つだけ答えてくれ。俺が……俺が倒れたのが原因か?」
……言いたくなかった。だってそこを認めたらトレーナーが悪いって言ってるみたくなるから。
そしてそれを否定するためには……だけど。
「……そう、だよ。」
「やっ「でもっ!!」」
「トレーナーは悪くない……悪いのは、あたしなの。」
トレーナーにだけは、これ以上不誠実でいたくなかった。
「あたしが気づかなきゃダメだった!やることだらけでいっぱいいっぱいだったトレーナーじゃなくて、余裕のあったあたしが!これまでもそう。もらったものはなんにも返せないのに、バイトとかリハビリとかで負担ばっかかけて!……トレーナーが倒れて気づいたの。もらってるんじゃなくて……奪ってるんだ、って……」
「……。」
「ホントは満足なんかしてない、もっと走ってたい……でも、大切な人たちから何かを奪いながら走るくらいなら……あたしは……!!!!」
「それは違う。」
「……ぇ……?」
驚きで、言葉を失う。
「フウは奪ってなんかいない。それだけは、絶対に違う。」
それはトレーナーが口にした、初めての明確な否定の言葉だった。
139二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 22:43:16
「……実は俺も1人だけ、年の離れたウマ娘の姉がいたんだ。俺が11の頃、突っ込んできたトラックから庇って亡くなった姉が。
病気を患ってたせいで事故の直前まで病院暮らしだったが、前向きで優しい人だった。」
フウは静かに、だが少し困惑した表情で聞いている。当然だ、あまりに脈絡がない。だがどうしても今、話さなきゃいけない。大切なことを伝えるためにも。
「トラックの突っ込みも飛び出してきた子供を避けようとしたのが原因の、どうしようもない類のやつ。だから比較的早く割り切れた。
ただ、『どうして姉さんが俺を庇ったのか』、それだけは心残りだった。10年近く待ち望んだ自由だったのに、それよりも俺を選んだ理由がどうしても分かんなくて。ずっとその答えを考えながら生きてきた。
……それを教えてくれたのが、フウだ。」
「……あたし……?」
思い出す。フウを初めて見た、選抜レースの事を。
「ああ。……覚えてるか?フウとの契約を結ぶ少し前、俺がフウにした問いかけと、その返答。」
「……うん……」
思い出す。フウが担当になった日の、交わした数々の会話を。
『確かに、両立の難しさを考えたらバイトを削るかやめるのが1番だと思うの。お母さんもあたしに走りに集中してもらいたくて、トレセンに送り出してくれたんだし。
……でも、あたしは走ることとおんなじくらい、家族も大好きだから。家のことをないがしろにはしたくなかったの!例えそれがどれだけ大変でも、厳しくても、ね♪』
思い出す。フウのあの言葉を。
「フウの想いと、言葉通り心から楽しんでバイトをこなす姿を見て、やっと分かった。きっと姉さんも、自由と同じくらい俺のことが大好きだったんだろうな、って。」
あの時の感覚は今でもハッキリと覚えてる。風が霧を晴らすような、そんな感覚。
ホントはこんなになるよりも早く言えればよかったんだろう。だがフウの妹達の話になった時、変に気使わせたくなくて、今までは心の内に留めていた。ただ。
「……さっきのフウの本音を聞いて、話すべきだと思ったんだ。この答えは、俺がフウからもらった最初のものだったから。」
140二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 22:43:37
「……そんなこと……」
「ある。」
今にも消えそうなフウの声に重ねる形で言葉を紡ぐ。
「ネットバイトもそう。確かに作業量は増えたが書類の練習になったし、これで財布に余裕を持ててたからこそウマ娘化後の買い替えとかも後先考えずにやれた。」
あとは時代の進展も感じたりもした。フウがいなければ確実に得られなかったものだ。
「あとは料理も入ってくるな。買ってきたものだけじゃ栄養まで合わせるのは難しいから、ときどき作ってくれてどれだけ助かったか。」
少なくとも体調管理の一助になってたことは確実だ。ウマ娘化するまでは倒れるどころか過度な疲労を感じることさえなかったんだから。
「他にもたくさん、それこそ一つ一つあげてたら日が変わってしまうくらい、フウから俺は多くのものをもらってたよ。多分、他の娘も。
もらったものを心の底から大事に思える、そして他の人の手伝いを自分の事のように頑張れるフウだから、自分では気づかなかっただけで。」
片膝をつき、座るフウに目線を合わせる。
目はひたすら真っ直ぐに、柔く、優しく。
「……だから自分を責めなくていいんだ。フウは幸せを奪っても、もらったものを返せてないわけでもない。
多くの人に幸福を分け与えられる、心優しい娘なんだから。」
一言一句全てに想いを込めて、そう伝える。それは二人で歩んだ2年を経ての俺の本心。
俺から見た、アイネスフウジンというウマ娘の在り方。
その姿を見て、かつての俺は力になりたいと思った。
「……俺に、フウのトレーナーを続けさせてほしい。」
そして、今その気持ちは、より強くなった。
「走ることや家のために努力することを、フウが好きでいられるように。
周りのために頑張りすぎて、フウが疲れて辛くなってしまわないように。」
俺が不甲斐ないせいで随分と悩ませて、追い詰めてしまった。だが、それでも。
「これからもすぐそばで、君のことを支えさせてほしい。……いや。支える権利を俺にくれ、フウ。」
141二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 22:43:53
……ホントに、いいのかな。
トレーナーに甘えても、トレーナーを頼っても、いいのかな。
……走ること、諦めなくていいのかな。
「っ……」
あたしには分かんない。だって頭の中、ごっちゃだもん。
そもそも、すぐ割り切れるくらい要領よくないし。
「…………」
……だけど、トレーナーの事は。
あたしを見捨てないで、ずっと向き合い続けてくれたトレーナーの事なら、無条件で信じれる。
だから……
「……ん……」
いいんだ。頼っても、甘えても。
心のままに走って、いいんだ。
……トレーナーと一緒にいても、いいんだ。
「……ぅん……!もちろんっ、なのっ……!!!」
限界まで溜まった涙をポロポロ零しながら、トレーナーに返事をする。
言葉はしどろもどろ、顔もぐちゃぐちゃ。でもできる限り元気いっぱいに、笑顔で。
それを受けて、トレーナーは柔く、和やかに微笑んで。
「……ありがとう。」
一言だけ、慈しみように言った。
そっからは、よく覚えてない。
ただあたしは貯めてたもの全部吐き出すくらい泣いて、トレーナーはそんなあたしを優しく抱きしめてくれてた。
傍から見ればその姿は──正しく、姉妹のようだった。
142二次元好きの匿名さん22/02/09(水) 22:44:26
「どう?落ち着いた?」
「うん!もうへーきなのっ♪」
残った涙を拭き取り万全を示すアイネスを見て、フウトレはホッと息をつく。
何せ失神から目覚めてすぐアイネスの失踪を聞かされ捜索、からの一連のこれである。
その安心感は想像しがたいものだろう。
「……さて、なら急いで帰りましょう。みんな絶対心配してるもの。」
「そうだね、いっぱい謝らなきゃ。」
とはいえフウトレが倒れたら大変。だからあくまで急ぐのは気持ちだけということにして、二人は自分たちのペースでトレセンへの歩みを進める。
「……そういえばトレーナー。」
「ん?何?」
「トレーナーのお姉さん、ウマ娘だったんでしょ?……ならウマ娘化した人にウマソウルとして入ってたりするのかな。」
「あー……どうなのかしら、姉さんみたいな銀色の芦毛はまだ見てない気がするけど……
……でも、そうだったらいいな。姉さん、学校の話とか好きだったからきっとトレセンで頑張るウマ娘達とか気に入るだろうし。
それに、入った相手の事も助けてくれるはず。」
「……優しいお姉さんだったんだ。」
「うん、大好きだった。」
「……そう聞いてたら俄然気になってきたの。道中聞いてみてもいい?」
「ええ、もちろん!まずは────」
心から懐かしむように語るフウトレを、アイネスが楽しそうに聞く。
その最中、フウトレの一筋の銀髪が人知れず揺れた。
それが風の起こした偶然なのか、はたまた別の何かが起こした必然なのか。それは、当人達すら知らない。
≫171二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 00:33:31
……開いてますよ、入ってください。
ごめんなさい、傍まで来てくれませんか。
……すみません。思ったより動けそうにないです。
何故こうなるまで食事を抜いたか、ですか……。
……何を話したら良いんでしょうか。
そうですね、何が正しいのかわからないからやってみたんです。
貴方に好意はあるんですけど、恋も愛もわかりませんから。
……口に出すと恥ずかしいですね。
食事?栄養を?……もう良いんですよ。
直に限界ですから、最期まで一緒に居てくれませんか。
何でこんな事をって……俺の体に未来も有りませんから。
……だから、一年に一回だけ。
貴方の、この先の人生を俺にください。
年に一度だけ、最期まで一緒に居た事を思い出してください。
熱が消える感覚を……覚えててください。
最期まで、貴方の熱を……感じさせてください……。
……ごめんなさい。もう眠い、です……。
手、握って、良いですか……。
……ん……ありがとう、ございます。
……おやすみ……また、来年。
DEAD END『Can't swim the Milkyway』
≫183二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 08:06:44
「うおおおお!ルドトレ、ムントレ!エビフライ合戦やるぞ!」
「「おー!」」
「俺は勿論キングエビフライマークIIを使うぞ!」
「なら私は小回りのきくシュリンプカノン!」
「ならば、やはり僕はツインテールかな」
そうしてゴルトレは大きいエビフライ、ルドトレは小さいエビフライ沢山、ムントレは中くらいのエビフライ二本を取る。
そうして……
「ピャアアアア!?」
「!!!??」
何時も通り驚いたマルトレに驚くシントレを合図にして戦いが始まる……のを眺めていたケツ上は、木星から木の机を投げた。
こうですかわかりません
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part673【TSトレ】
≫120二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 19:15:55
「次のレースは…鳴尾記念やな」
「うん……初めての…重賞…」
昼休憩のトレーナー室では作戦会議が開かれていた。午前中で終わりということもあり、今日はオフなのでゆっくりと話せる。
先日の藤森記念で3連勝を決め、次の初重賞に向けて練習メニューなどの打ち合わせをしていた。
「ん〜…もうちょいスタミナ増やすべきか?」
「芝…で…パワーつける…のも…」
「ん。了解や」
「予約…しとく…ここで…いい?」
そう言ってスケジュールアプリを見せてくる。
「おう、オッケーや。ほんなら飯食うか!」
「ん…」
曜日の確認を終え、メモ帳に書き込んでいると横から袋を渡される。
「トレーナー、これなんや?」
「タマ…勝ったから……その…お弁当…」
「ほう、ご褒美っちゅうわけやな?ほな遠慮なく…」
袋を覗くとそこにはラップで巻かれたおにぎりと茹でた鶏肉と野菜のサラダ、それからチョコがあった。
「おお…これ、トレーナーが?」
「うん…その…買い物…まだ怖い…から…あぶみ本舗さん…頼んで……」
「ほぇー。じゃ、いただきます」
二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 19:16:36
おにぎりはタマに合わせて小さく作られている。一口齧ると中には生姜焼きの豚が入っていた。
それを一つ平らげると小ぶりなタッパーを開ける。
色々な野菜の入ったサラダだが、バランスよく作られている。
袋の中にあった塩ドレッシングをかけて食べ、空にすると手を合わせる。
「ふぅ〜…美味かったわ!トレーナー料理できたんやな!」
「うん……でも買い物は…まだ……」
「それはおいおい慣れればええんや。ほら、トレーナーも食わんのか?」
「もう…食べた……から…」
そう言ってソファを立ち上がり、本棚の方に向かうのをみてスマホを取り出すと家族へのメールを返す。
ふとガタンという音がした。
「トレーナー、どうしたんや?」
声をかけるも、返答がない。後ろを向くとそこには腰を抜かすトレーナーと50cmほどあろうムカデがいた。
「トレーナー!大丈夫か!?」
急いで彼女を抱きかかえ、ソファに座らせる。背もたれから後ろを見ると前足を上げて何かアピールしていた。
「カムちゃんか。どないしたんや?」シャー
「ウチのトレーナーと遊びたいんか?」シャー!
「トレーナー…大丈夫か?」
彼女を見ると腕を腰に回して頭をくっつけてくる。
「や……こわい………」
「やっぱそうよな…ウチも最初は怖かったんや。でもフジトレさんがちゃーんとしつけとるし、ウチも噛まれたことないし、大丈夫やで?」
「や……いや……」
ふるふるとニット帽と一緒に否定するトレーナー。
「ほら、カマライゴンも大丈夫やったろ?一回だけでも試してみようや」
カマライゴンというワードにピクリと反応する。
「…ほんと……?」
「ウチが嘘ついたこと、あるか?」
「ない……」
悩む様子のトレーナー。その後決めたように腕を離す。
122二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 19:17:06
「…ちょっと…だけ………」
しばしの葛藤の後に、涙目を向けてそう言った。
「オッケーや。ほらカムちゃん、こっちゃ来い」
ソファの下を通ってローテーブルに登ると、怖くないよ、と言いたげに手をあげる。
「ほれ、ウチと一緒に触ってみい」
「……うん……」
カマライゴンの時のような拒絶は見せない。やはりあいつがもたらした影響は相当大きいのだろう。まさかここまでとは思わなかったが。
「……かまない?」シャー
「ほら、噛まん言うとる。頭撫でてみるんや」
「んう……」シャー
気持ちよさそうに触覚を動かす。
「な?怖くないやろ?」
「うん……」シャー
「あんたが思うとるよりな、皆優しいんや。そんな怖がることはないんやで」
そう言うとこく、こくと頷きながら涙を流す。
「そんな泣かんでもええんに…」
カムちゃんも撫でられてご満悦の様子だ。もちろん顔は無いが。
その後カムちゃんを迎えにきたフジトレさんとフジキセキにカムちゃんを返し、今度食事に行こうと誘われた。トレーナーも行くと答えたので個室の所をお願いし、その日は別れるのだった。
≫147二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:04:05
「ふわぁ……♥️ おはようカレトレ♥️」
「うわマヤトレお兄ちゃん……♥️ わかっててもキツイなって感想とよくやったね……って感想でおかしくなりそう♥️」
「その言葉そっくりそのまま返すぞ♥️」
「なにバカなことやってるのさ二人とも……」
「え♥️」
「噓だろボノトレ……♥️」
≫148二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:04:52
「……もう夜の9時になるのにそんなこと言われたの」
『……♡でも♪でも付けてください』(電話)
「待ってネイチャ!? ネイチャの頑張りで救われる語尾があるの!」
『だから寮抜け出してそっちに行けと?』
「……ダメ?」
『どうせ明日休日なんだからいいじゃないですか……下手に追加要望来る前に覚悟決めて寝てください!』
「ネイチャ? ネイチャ!? も〜〜! 薄情者〜〜!!」
明日が休日で本当によかったね。まあ明日普通にお出かけする予定なんだけどねこの二人
≫156二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:23:00
「シチュー、つまり煮込み料理♡
ならばカレーもシチューと言えるのではないだろうか♡
だめ?仕方ないか……♡
そうだヒシアマ♡
食べ終わったら……、タイマンしたいな♡」
(「一緒にゲームしよ」という意味)
≫157二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:23:32
「って聞きましたけど本当ですかトレーナーさぁん!!」
「そういうのは確かに聞こえたがな。ほれさっさと帰った帰った」
「な゛っ゛!!その口振りだとトレーナーさんはあしたハートをありとあらゆる異性同性問わずにまき散らしながら練り歩くおつもりですかぁ!?!?」
「変な言い方するんじゃねぇ!この感じならいつも通り考えれば大多数……いや何人かはハートつけっぱでいるだろ」
「ダメですよぉ!明日トレーナーさんは女難の相が出てるんですよぉ!?」
「ならもうこの状況がソレだよ。明日ハートつけろと言われたのとお前にこんな時間にうだうだ言われてるの」
「コレよりもっとひどい状況になりかねないんですよぉ!?」
「コレいうな。仮にも自分の事を。なんか追加でシチューライス食えって言われたけどそれも別にどうでもいいし」
「ダメです!!こうなったら実力行使です!!フンギャロッ!!」ボフッ
「おいこら!出てこい!ベッドの中で丸まってんじゃねぇ!!」
「今日だけ私は掛布団の付喪神です!!離れませんよ!!!!万が一床やソファで寝ようものなら覆いかぶさりますからねぇ!!!!!」
「…たしか寝袋がどっかにあったよな」
「ッヒィ!!駄目です駄目です!!そんなにシチューライスが食べたいなら明日紅白シチュー作りますからぁ!!!!」バサッ
「いやそれはさっきどうでもいいっつったろ!!!おい離せ!!!」
後日普通に喋るフクトレが発見されたそうな
≫158二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:24:01
「タイキはシチューライスって食べたことある?」
『ノーゥ!フツーはブレッドと食べるモノでは?……トレーナーさんは?』
「普通に家で提供されてた」
『クレイジー・ジャパーン……!』
「そうは言うけどね?そもそも日本で市販されてるドロっとしたシチューの素、あれは米と食うように作られてんだよ。なんかのバラエティ番組でやってた」
『そうなんデスカ?』
「うん。……だからかな、多分三女神様って日本人じゃないと思う」
『女神様にワフー感は最初からないデース!』
「それもそっか!んじゃ、明日もゆるゆるとねー。おやすーみー♪」
『ハーイ! グッナーイ♪』
語尾ハートになったらなったでハグしっぱなしになるタイキ
≫162二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:30:37
「あ、クリーク♡♡ おはよう♡♡」
「おはよう♥♥ 今日も元気そうだね♥♥」
「あらあら~! トレーナーさんたち、何だか口調がいつもと違うような~」
「ゆうべ、女神様たちからお達しがあったんだよ♥♥ 『担当と一緒に寝なきゃ、語尾を弄るゾ?』って♥♥」
「まあ~……それなら、喜んでお世話しに行ったのに~……」
「レースも近いし、夜中に呼ぶわけにはいかないよ♡♡ でも、心配してくれてありがとう♡♡」
「どういたしまして~! それで、結局おふたりはどうしたんですか~?」
「……ふたりで寝たよ♥♥ 一縷の望みにかけて♥♥」
「ほら、僕はクリークに似てるでしょ♡♡ だから、誤魔化せないかなって♡♡」
「でも……♥♥」「うん……♡♡」
「「ダメだったよ……♡♥」」
「まあ、折角おふたりが頑張ったのに~……よしよししてあげましょうね~」
「そういえば、どうしておふたりはハートマークがふたつ付いているんでしょう~?」
「多分だけど♥♥ トレーナーふたりで寝たからじゃないかな♥♥」
「僕も姉さんと同じ意見♡♡ ズルはダメ、っていうコトだろうね……♡♡」
≫169二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 21:42:29
「ウオッカ、今日のトレーニングだが❤️」
(息子よ…❤️)
「ウワーッ、語尾がなんか凄いことになってるーっ!!」
「三女神が担当と夜寝ないとこうするって言ってきてな❤️おかげでたまったもんじゃない❤️」
「待て…それってつまり…」
「ウオッカ❤️そんなくらい顔してどうしたんすか❤️?」
「全く…❤️こんなんハードボイルドじゃねえぜ…❤️」
「ウオッカさん❤️…助けてください…♠️」
「ウワーッ!!ウ…ウワ…ウワアーッッ!!」
(ボウズ❤️…それにシチューライスとよ❤️)
「シチューにはパンだろ❤️…」
(つまりにんじんが沢山だ❤️!!)
「…変わってくれよな❤️…」
「あの❤️…シチューライスってなんですか♠️…」
(親父さん❤️…お嬢あれじゃヒソk「それ以上はダメだ❤️」
「アッハイ❤️」
「皆さん❤️…どうなされましたか♠️…?」
「なんでもないっすよ❤️お嬢は今日も可愛いっすね❤️」
「だな❤️いつも可愛いがな❤️」
オチなどない
≫175二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 22:02:23
『スカイ、今から夜釣り行ける?』
「今からですか。うーん、ちょっと説得が大変そうですね。でも何で夜釣りを?」
『女神がなんとかって噂聞いてない?一夜を共にって言うなら夜釣りでもいいでしょ』
「それ判定大丈夫なんです?でも語尾気にするなんて可愛いとこあるんですね、このこのー」
『そっちはどうでも。シチューライスの量にもよるけど駄目だった時に備えて遺書に何書くか考えてる』
「行きますけどー……判定大丈夫なんです?」
『女神の基準は俺もわからないな……』
≫180二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 22:16:48
(どうも、愛担当の女神です! 布団の日ということで~)
「……ということがあったんだ」
「…理解できません。三女神さまは一体何故そのようなことを……?」
「きっと、三女神様にも三女神様たちなりの考え方があるんだと思うよ?……それより、フラッシュはどうしたい?」
「どうしたい、とはどういうことなのでしょうか。明日はオフの予定ですし、予定としては今日の夜は共に過ごすはずですが……」
「うん、でもこんなことがあったし、フラッシュに選んでもらおうかなって。予定通り今日一緒に寝るか、それともそれを明日に修正して一緒に一日過ごすか。フラッシュはどっちが良い?」
「……なるほど、言いたいことがようやくわかりました。つまり、そういうことですね?」
「そういうことだね。で、どうする?フラッシュの好きな方にしてくれていいよ?僕はそれに従うから」
「……わかりました。では予定通り今日一緒に寝ましょう。三女神さまの仕業とはいえ、こんなことで予定を急遽変えるというのもあまりよいことではありませんし。それに……」
「それに……?」
「明日一日の間そのような語尾で一緒に居たら、折角のオフの日が無くなってしまいます……ですので、今日はその分も含めて夜の時間を過ごしましょうね?」
「うん……」
≫181二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 22:22:22
「ねぇトレ「はいはい、マヤノがもう少し大人になったらな?」
「うぅ~~~~。トレーナーちゃんのバカバカ~~!」
「ねぇお兄ちゃん? こうなったら仕方がないんじゃないかな? それに一緒に寝るのも初めてじゃないよね☆」
「…………ダメ!」
「そんなに強く否定するの……。うるうる」
「うぐ……。で、でもダメ! アイム大人!」
「……しょうがないなぁお兄ちゃん。でも明日はその分楽しむから、ね♪」
「えっ」
「トレーナーさーん? もうおねむー?」
「子供みたいな扱いしないでよボーノ……」
「でもトレーナーさんほおっておいたらどこかに行っちゃいそうだし」
「いやいやいやいや流石に自室で迷子になった経験は無いよ……たぶん」
「トレーナーさーん……。えへへー……」
「ボーノ、ちょっとアケボノ? ……あ、寝ちゃった。まったくも……」
「…………う、動けない……!」
≫186二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 22:49:38
「今日が休みでなかったら大変な事になりそうでしたね、グラス❤」
「はい、トレーナーさん❤」
「さてさて、今日はどちらへ行きましょうか~❤」
「以前、トレーナーさんが仰られていた茶屋等は〜……あら?」
「おいす〜、グラトレさんでも駄目でしたか〜」
「ネイチャ〜❤ 良かったよ~❤ 仲間が居たよ〜❤」
「あらあら、ネイトレさんとナイスネイチャさん、こんにちは〜」
「…………あれ?❤」
「どうされましたでしょうか〜」
「あのー、グラトレさん……語尾のハートは?」
「付きませんよ〜」
「……サクバンハ、ステキナヨルダッタミタイデスネ❤」
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part674【TSトレ】
≫11二次元好きの匿名さん22/02/10(木) 23:11:54
「…タピオカチャレンジ?」
「はい!」
…自信気なその彼女からタピオカドリンクを渡され、やってほしいとせがまれているのはキタトレであった。
渡してきた彼女ははっきり分かる貧乳であり、出来ないのは明らかである。個人的な妬みなのかなんなのか。
「まあいいけど…っと、これでいいかしら?」「…」
…トレセンでもトップの胸囲、スーツの上からでありながらその谷間に差し込まれるドリンク。勿論両手も離されていた。
さて、そんなものを目の前で見せつけられる彼女だが、当然脳が破壊され心がへし折られた。ふるふると震えて
「…うわぁぁぁん!」
やや泣きながら目の前にある2つのエベレストを反射的に揉む。あらあらと優しげな目を向けてくるキタトレ。
「どうせ私は貧乳なのよー!」
「とりあえず落ち着きなさいな」
すぐさま反応してドリンクを落とさないよう片手に持ち、もう片方で落ち着かせるために軽く寄せて撫でるキタトレ。
「ううっ…」
「別に貧乳でも私はいいと思うわ。なくても貴方は十分かわいいし、なにより女の魅力ってそれだけじゃないでしょう?」
「ぐすっ、キタトレぇ…!」
流石キタトレというべきか、こういうメンタルケアはお手の物である。胸元が涙で濡れても気にしない優しさ。
「さて、そろそろ大丈夫かしら。」
「ありがとう〜!」
「ふふ、また辛くなったらいつでも来ていいわよ。」
彼女はキタトレから離れると先程まで話していた友人の元へ。満足そうに微笑むキタトレは踵を返して歩き出した。
「…で、どうだったのよ」
「うん、タピオカチャレンジなんて出来なくても全然いいわ!」
「あ、そう…」
「やっぱり胸のサイズなんて…」
言おうとした矢先に彼女の視界に飛び込んでくる光景。…フウトレやドトトレがタピオカチャレンジをしていた。
───当然、彼女の意思はものの見事に砕け散り
「おい?」
「…もうヤダ、私ふて寝する…おうちかえる…!」
…結局、後から確認がてら様子を見に来たキタトレに案の定泣きつく彼女であった。ちなみにまた揉ませてもらったらしい。
尚、キタトレの巨大なπを揉んだのがバレた後周りから一人だけ何しているんだと〆られたそうな。
≫61二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 11:13:50
『感覚麻痺』
「おいブラトレ、落下死無しなのは良いんだがなんでこう針の穴を通すような足場配置なんだよこれ」
「いやほら、慣れてるやつにさせるんだからこれくらいでちょうどいいかなって」
「しかもタイムがギリギリじゃねえか。よくお前これで通したな」
「切り詰めたからなー。一応スピーディーにいけば15秒そこらは残るような設計のはずだぞ」
「アホだろおい。今度のトレーナーTVの余興放送で遊べる範疇か、これが?」
「うーん、そう考えるとちょっと厳しすぎたな。ゲストの腕前がどれくらいかわからんからあんまり難しい奴だとひどい奴扱いされるな」
「まあそんな所だな。じゃあ次は俺のステージで」
「おう」
「おうフクトレ」
「なんだ」
「最後の二択酷いだろおい」
「努力の末に最後の運まで掴むのがトレーナーだろ?」
「道中難易度も結構厳しめなのにさらに運ゲー突き付けてくるのは極悪のそれだろ!」
「……やはりアレだな、慣れたやつが自分感覚で作るとひどいことになるということだな」
「どっちも難易度が高すぎるな……もしあれだぞ、ゲストまだ決まってないっぽいけどウオシスとか黒カフェとかの微妙に腕前不安なやつらがゲストだったら阿鼻叫喚の光景が広がるところだな」
「なら……テイトレを実験台にするか」
「そうするか。アイツならちょうどいいだろう」
しばらくの間、3人の悲鳴と笑い声が聞こえたとか何とか。うまぴょいうまぴょい。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part675【TSトレ】
≫30二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 17:33:15
「マヤトレ…流石にそれは無いよ…」
「違うんだボノトレ!俺は悪くねぇ!」
「中々いい時間だったわね、マヤトレ」
「あぁぁぁ周りの視線が痛い!!」
ピロピロピロピロ ゴーウィゴーウィヒカリッヘー
『やあマヤトレ君。少し話があるが、いいかね?』
「違うんですお義父さん聞いてください」
その後マヤトレは同僚から痛い目で見られた
ルドトレは監禁された
うまぴょいうまぴょい
≫
≫41チヨノオートレSS22/02/11(金) 17:47:09
「やああああああ!!」
「まだまだッ!!」
「負けません…!!」
夕日に照らされたコースの上を、3人のウマ娘が走っている。
ヤエノムテキ、サクラチヨノオー、メジロアルダン__
同期であるこの3人はクラシックやシニアで全力で競い合い、いつしかオグリキャップらと同様に『三強』と呼ばれるようになっていた。所謂ライバルというやつだ。
そんな彼女らを、少し離れた所から私達トレーナーは見守っている。担当達は仲が良好である為、打ち解けるのにそんなに時間はかからなかった。こうやって合同でトレーニングをすることも珍しくない。そして今日、いつものごとく始まった合同トレーニングの最中、私は他2人の担当__ヤエトレさんとアルトレさんに声をかけた。
「どうしたんですチヨトレさん。神妙な顔をして。」
「何か気になることでもあるのですか?」
「いえ…今回はお二人の見て頂きたいデータがありまして。」
頭に疑問符を浮かべる2人にあるデータを見せた。それはここ数年に渡って収集してきたチヨノオー達のタイムである。私は主要レースの前に前走や追切の情報を確認し当日に発揮できるであろうパフォーマンスを大まかではあるが推定している。その中で、データの誤差以上のズレが見られた。即ち、予想以上の好タイムが記録されたのだ。そしてそれは、ヤエノムテキ、サクラチヨノオー、メジロアルダンが3人とも出走しているレースで特に顕著であった。
有り体に言えば、彼女達は限界を超えている。一部のウマ娘が到達するとされる【領域(ゾーン)】と呼ばれるものが近い。限りなく研ぎ澄まされた集中力が、自分さえ知らない豪脚を実現させる状態だ。そして、レースの展開を見れば何が彼女達をそこに至らせたのかは明らかで__
「競い合う中で進化したと?」
「はい。互いに切磋琢磨することで、彼女達は更なる高みに入った。」
「それはそれは、喜ばしいことですね。」
「だから、お二人には改めてお礼を言いたいのです。」
42チヨノオートレSS22/02/11(金) 17:47:33
強敵との勝負の中で成長すること。これに関しては自分一人で何とかできる問題ではなかった。勝つために全霊を賭して励んだウマ娘達と、そこまで担当を育て導いたトレーナーがあってこその成果。即ち、2人のおかげでもあるのだと私は柄にもなく力説した。
それを聞き終えた2人は困ったような表情を浮かべている。
「えーっとチヨトレさん…別に畏まる必要はないと思います。」
「そうですよ、お礼を言いたいのはこちらも同じなのですから。」
「…そうなのですか?」
アルトレは、アルダンにとって私達がある種の精神的支えになっていると言った。
ヤエトレは、私達との研鑽を通して肉体的に成長できているのを実感すると言った。
少し考えれば分かることを見逃していた。私達が影響を受けるのなら、その逆も然り。
そして、それを成しえたのは担当を介して彼女達トレーナーに出会えたからで__
「…どうやら、良い友人に恵まれたのは私達も同様のようですね」
「えぇ、同意見です」
「でも、次のレースは俺達が勝ちますよ。存分に鍛えて臨ませてもらいます」
「うちのアルダンも万全の状態ですから、負けませんよ」
「私達もうかうかしてられないですね、これは」
自然と口角が上がっていた。この素晴らしい強敵達がいてくれるのを活かさない理由はない。
この合同トレーニングが終わったら、チヨノオーさんと今後について詰めていくとしよう。
≫51二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 18:21:27
◆サウナなう
スーパー銭湯デートって枯れてんのかなんなのか訳わかんないと思うだろうけど、最近出来たここが気になってたんですよねー。こういうのも誘えばついてきてくれるトレーナーさんに、ネイチャさん心から感謝です。
……ただ。その。
「あつぃぃ……♡」
どうしよう。語尾の影響がヤバい。
サウナ室に入ってからというもの、トレーナーさんの無駄な色気の放出が止まらない。マジで他に人が入ってなくてよかった。
「ネイチャ……♡ 私、さむいのはともかくあついのはダメなのぉ……♡」
わずかに揺れる黒い瞳。ゆっくりだけど少し荒い呼吸。じっとりと肌に残る汗の粒。媚びるような語調と相まって、タオルを巻いてる状態なのにだいぶスケ。
……いやそんなこと考えてる場合じゃないですね。個人的にはもう少し入ってたいんですけどしゃーない、一旦外出ましょ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……あっ♡ あぁっ♡ ……あああああぁぁぁぁ〜〜っ♡♡」
声出るのはわかる。あたしも思わず声が出ちゃうから。でも水風呂に入れるべきじゃなかったかもしれない。色々とすごい。
……さ、そろそろサウナ戻りますよ。まだまだキマるには早いですし。
「……もう少しここにいちゃ、ダメ?♡」
……トレーナーさんがそう言うならそうしましょっかね。風呂から上げかけた腰を下ろし直すと、トレーナーさんの力なく垂れていた耳が少し持ち直す。普段より2割増しにへにゃっとした笑顔で「ありがと♡♡」って言われて……。
どうしよう。色々とヤバい。
(終)
≫60二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 18:31:49
新人ちゃん「グスッ...グスッ...」
フクトレ「仕方なかったって奴だ、新人ちゃんは悪くない...」
新人ちゃん「でも...私のせいで...マクトレさんが...私が気をつけてさえいれば...」
────────────
朝
おはようございます!新人トレーナーです!
今朝、地元のお父さんから荷物が届きました!
中身は柿と手紙です!手紙は後で読むとして柿を先輩方に御裾分けに行ってきます!
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マクトレさんおはようございます!
柿有るんですけど少し如何ですか?そのままいけますよ!
パクパクデスワ
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手紙
新人へ元気にしていますか
中略
渋柿が出来たのでそちらに送ります。
干し柿じゃ無いので、そのまま食べないで教えた通りに干してください
父より
≫100二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 19:47:58
私が風呂場から出ると、パジャマ姿の彼女がそっと物思いに耽っていた。
「……トレーナー君?」
「あ、ルドルフ!その……ちょっと色々考えてて」
「と、いうと?」
「そうだね……例えばブラトレさんとマクトレさんがいるでしょ?」
「……ふむ」
そう言うと彼女は、メモ用紙とペンを手に取り、色々書き始める。
「この二人に限っても、視野が広くて良い意味で何も考えないブラトレさんと、一人に対し真摯というか、覚悟を決めてるマクトレさんとではタイプが違うし、何より担当の子もそれに合った子でしょ?」
「卵が先か鶏が先か、みたいなものだが認めよう」
「そして、チームを運営するのにも向き不向きがあるのはルドルフもわかるでしょ?
だからなんとなく、どの子がどのチームトレーナーに合ってるかをファイリング、それに応じて斡旋して……って考えてたけど。下手に他の人に負担かけたくないなー、って」
「確かに、それを行うのであれば率先垂範とは行きにくい、か」
「そうそう、私にだって見れる子はあと数人、って感じだし。
まあキタトレさんみたいに凄い数見れる人もいるけど、そこは個人差だし、先生達にお願いするのも身体を考えると……ってなると、答えは一つしかないでしょ?」
「後進の育成、か」
「そう!身勝手だけど、チームトレーナーを目指す子が増えてくれると嬉しいな~って思ってるの!それに」
「"そうすれば、一人でも多くのウマ娘が幸せに慣れるかもしれない"か」
「……なんで言っちゃうのさ」
若干むくれる彼女を見て、私はこう返す。
「その顔が見たくなってしまったから、だろうか」
「……んもう」
そう少し怒る彼女だが、尻尾は何故か嬉しげに揺れていた。
≫109二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 20:10:54
グラトレの登山4
~シビトレさん食生活改善計画~
グラトレ「……登山とは古来より修験の為に行われていた神聖な行い……だからこそ私も己を鍛える為にも登山に挑むのです……」
グラトレ「それはつまり、登山とは修験の為に行われていた程の過酷な行いだという事……身体を支える食事の有難みを知るのにも良いでしょう……」
グラトレ「シビトレさんはどう思われますでしょうか~」
シビトレ「……何で私は山を登ってるのかなぁ?」
グラトレ「それは~、ミスターシービーさんがシビトレさんの偏食に悩んでおられまして~、それで何か私もお力添えをと~」
シビトレ「そこは食事を作るとかじゃないんですか!?」
グラトレ「美味な食事を作り食べさせるのは他の方でも出来ますからね~、私にしか出来ない事はと思いまして~」
シビトレ「……それで何故、山に登るんですか」
グラトレ「この八ヶ岳……最終目標の赤岳までは約7時間強、雪の事も考えると8時間は見積もるべきでしょう~」
シビトレ「そんなに掛かるんですか……というか雪って……」
グラトレ「流石に1日での往復は無理が有りますので~、行者小屋で一泊となりますね~」
シビトレ「! なるほど、山小屋の美味しいご飯を食べる流れなんですね!」
グラトレ「……? この時期ですと~、山小屋自身は開いて無いのでテント泊ですよ~」
シビトレ「冬なのにテントなんですか!?」
グラトレ「1月の中頃迄は開いているのですが~、流石にこの季節は難しいのでしょう~」
シビトレ「それじゃあ、グラトレさんしか出来無い食事改善方法ってのは……」
グラトレ「重量物を運ぶ訳にもいきませんからね~、今日と明日は行動食だけですよ~」
シビトレ「噓でしょ……」
こうしてシビトレさんはグラトレの「食事改善計画~食事の有難みを知ろう~」によってちゃんとした食事の大切さを知ったかもしれないのでした。
うまぴょいうまぴょい
111二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 20:11:25
以下ダイジェスト
シビトレ「あの、行者小屋ってまだですか? それなりに歩いた様な……」
グラトレ「まだですよ~、行者小屋は標高2300mの所ですからね~」
シビトレ「2300!?」
グラトレ「テントの設営完了ですよ~」
シビトレ「…………(疲れました……)」
グラトレ「ではでは~、温かいカップラーメンを食べて眠りましょうか~」
シビトレ「おおっ!」
グラトレ「あっ、早く食べないと凍りますからね~」
シビトレ「ええっ……」(氷点下10度……朝方に向けてまだ下がる予定)
グラトレ「八ヶ岳は鎖や梯子等の設備が充実していて登り易いですね~」
シビトレ「……雪で覆われていたり、凍って無かったらですね」
グラトレ「突風には気を付けてくださいね~」
シビトレ「唯でさえ滑るんですが!?」
シビトレ「わぁ、山頂ですね!」
グラトレ「赤岳は見晴らしが良いですからね~、綺麗に晴れたのも幸運ですね~」
シビトレ「はい、とても良い見晴らしです!」
グラトレ「さて、そろそろ下山しましょうか~」
シビトレ「はい! …………はい?」
グラトレ「どうされましたでしょうか~」
シビトレ「あのー、もしかして来た道を?」
グラトレ「はい、そうですよ~」
シビトレ「雪で覆われた梯子や凍って滑る岩場を?」
グラトレ「はい、そうですよ~」
シビトレ「嘘でしょ……」
≫147二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 22:21:25
「ほぅ…」
「ふふ…」
───熱い空気の張り付くサウナ。その中でほっと息を吐くのはファイトレ女とパチタマトレの二人である。
「いやー、整うわ…」
「そうだなタマトレ、心臓には悪いとわかっているが、それでも水風呂とサウナの組み合わせはいいものだ…」
「そりゃこういう所じゃないと入れないからなぁ」
「ふ、サバイバルか行軍してるときに風呂なんて入ることは出来ないから当然だろう?」
…二人は元自衛官と元傭兵である。風呂どころか食事する、あるいは休憩する暇さえないような極限状態を知る身からすれば毎日風呂に入り、皆で食事をとり、規則正しく長時間睡眠できるということの気楽さもありがたみもよく分かっていた。
「……なあタマトレ、こうしてサウナにしろお湯にしろ入っているだけでふと昔のことを思い出したりしないか?」
「どうだろうな、俺はあんまり思い出さないかな」
「そうか…私は、ろくでもない事ばかり思い出すな。…温かければ温かいほどに、余計に」
視線を下に向け、その汗の滲んだ右手を見つめる。ここがサウナという密室で、彼女が温泉で緩くなるからでもあった。
「…私は、こんな温かい所にいていいのか。それはずっと、毎日のように考えていることさ。…すまない、変な事を言った。」
「…いや、別にいいんじゃないか。もっとも俺は元自衛官で、そういう事をしたことはないから分からないけどな」
近寄ったタマトレはファイトレの背中をポンと叩く。デリカシーのない行為ではあったが、だがこの場合間違いではなかった。
「…はは、どうやらサウナで茹だった頭ではまともな思考も自制も出来ないらしい。タマトレはのぼせてないか?」
「俺は大丈夫」
ぐっと親指を立てるタマトレにサムズアップで返すキタトレ。左腕から細い瓶を2つ取り出してその一本を渡し
「スポーツ飲料兼栄養剤みたいなものだ。脱水症になる前に飲んでおくといい」
「助かる、ファイトレさん」
二人して瓶の蓋を開け、一気に飲み干す。ふぅ…と揃って息を吐きながら、じっとりと熱い空間で過ごすのだった。
短文失礼しました
頭悪いサウナネタを書こうとしたらシリアスになった。パチタマトレでもこういうときは真面目に対応するよね。
ファイトレ(女)は平穏で体も心も温かくしようとするとろくでもない過去の事を思い出す割とアウトな人です。(でも誤魔化す人の図)
≫158二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 23:20:39
彷徨
「―ッ!」
声にならない叫びと共に目が覚めた。
あるのは見慣れた自室の景色と静けさ。雨の轟音も、不快に響く言葉と記憶ももうそこには無い。ただ頭に鈍い痛みだけが残っているだけ。
夢というのは幻のようなものだ。掴もうと思っても届かず、思い出そうとしても零れ落ちていく。そんな一度きり、その場限りの仮初の現実。
だというのに、この胸に残り続けるモノはなんだ?
俺でない俺の記憶も光景も、無造作に投げつけられた当てつけの言葉も、全てが現実のように刻み込まれ、俺の中で今もなお傷を広げ続けている。
こんな体験は厳密には初めてではない。この身体がウマ娘になってしまったあの時も、確か似たような体験をした。これらを非現実的だと切り捨てるには、この身に起きた変容がそれを許さないだろう。俺にとって「現実」の問題として、あの夢での出来事は立ち塞がる。おそらくこれから先、「あれら」が納得する答えを俺が示さない限り、ずっと。
『何より、そのウマ娘とトレーナーの混ざりものとしての在り方は異様だ。トレーナーなら、競争ウマ娘の真似事などやめたほうがいい。それができないのなら、お前にあの娘の、ヤエノムテキの側に立つ資格はない』
いまさら迷うことはないと思っていた。
進むべき道を見つけ、覚悟も決意も抱いた。その、はずだった。
俺は本当にトレーナーなのか。俺は俺の役割を果たせているのか。
このウマ娘の身体で走りたいという思いは歪んでいるのか。
その全てが自分勝手に生み出した我儘な願いだったとしたら。
俺はいったいどうするべき?
自分ではない自分から投げつけられた問いは、晴れたはずの道に再び霧をかける。
時間はすでにヤエノムテキとの約束から大幅に遅れていた。
スマホには『何かありましたか』という一言だけが、おそらく俺がまだ夢の中にいたであろう時間に送られてきていた。もう遅いが『今から行く。すまない』と短く返信をして自室を出る。急がなくてはいけないはずなのに、見えない鎖がこの魂と足を縛る。
159二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 23:21:26
「あっ!やっと来た!ヤエトレさん、お邪魔してまーす!」
大幅に遅れ、ヤエと約束したトレーニング場所に来た俺に声をかけてきたのは、見知らぬ顔の小さなウマ娘だった。ヤエは先に自主練を始めているようだった。併走しているのはあの特徴的な芦毛からしてオグリキャップだろうか。
「ええっと、すいません、どこかで会ったことありましたっけ?」
しかし、この親しげに話しかけてきたウマ娘に関してはまったく心当たりがない。思わず聞き返す言葉もやや変なものになってしまった。
「あっそうか!この姿で会うのは初めてだっけ。お互い最後に会ったのはまだ人間だった頃かな?私、オグリキャップのトレーナーです!お久しぶりです、ヤエトレさん!」
オグリキャップのトレーナー。彼女と交流があったのは本当に短い期間だ。オグリキャップとヤエノムテキの繋がり、そして同時期にトレセン学園へと来たトレーナー同士ということもあって親しくはしていたのだが、彼女はオグリキャップのデビューを直前にして姿を消してしまったから。オグリキャップの所属が一時的に違うところへ移ったりしたことなどは簡単には知り合いから聞いていたりはしたが、まさか彼女もウマ娘化に巻き込まれていたとは一切予想していなかった。
「ヤエノちゃんが、ヤエトレさんが来るまで併走をお願いしてもよろしいですかって、オグリのところへ来たの。断る理由もなかったから一緒にいたんだ」
「助かったよ。あと、気づけなくてごめん」
「いいのいいの気にしないで。私こそ最初に名乗ればよかった」
少しの間、お互いに近況を語り合った。彼女は笑い話のように、姿を見せなくなってから自身に起こったことを話してくれた。その様子は以前交流のあった人間だった頃の彼女とほとんど変わらない。明るく快活で、年下なのに頼れる同期。そして。
160二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 23:22:06
「…勘違いだったらごめんね、ヤエトレさん、何かあった?」
他人の機微に異様に敏い。
「そう見えるかな?」
「ちょっとね。とはいっても根拠なんてないんだけど。私の印象ではヤエトレさんっていつもはもっと覇気があるっていうか、気合十分!って感じなんだ。でも今日はなんというか、ぼーっとしてるってというか、そんなふうに見えるから」
努めて表に出さないようにはしていたが、俺はまだまだ未熟のようだ。指摘されてしまったことに少しだけ恥ずかしさを覚える。ここで気のせいだといってしまうのは簡単だ。彼女もきっと深くは追及してこないだろう。でも。
「…少しだけ、聞いてもらえるかな」
「昔から走ることが好きでさ。ウマ娘っていう存在がいるのに人間のお前なんかが頑張ってどうなるって、よく家族や周りには言われたけど、それでも好きだったし諦められなかった。なんなら人間でもウマ娘に勝ってやるって、バカみたいな目標立てたりして。いろいろあってトレーナーになったけどその思いはほとんど変わってない。まさか自分がウマ娘になるなんて本気で想像しなかったけど、でも新しく目指す場所も見つけて、もう迷わないって自分自身にもヤエにも誓って、誰に否定されても突き進んでやるって、そう決めたはずだった。でも最近になって、誰でもない自分自身からそれを否定する声が聞こえるんだ。競争ウマ娘の真似事なんて辞めろ、トレーナーとしての責務だけを果たせって。それで、少しだけ分からなくなって。俺は何か間違ったところに進んでるのか、そもそもトレーナーってなんだ、ってそんな感じで。だからちょっと考え込んでて」
161二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 23:22:47
他人に自分のことを話したことはほとんどない。担当であるヤエにさえ、ちゃんと話したことはなかった。うまくまとまらない散り散りの言葉を、オグトレさんはただ静かに聞いていた。
「私は、ヤエトレさんとは違う人だから。ヤエトレさんのことが分かったとも、分かってあげられるとも思ってない。そうだね、みたいな共感とか、こうだよ、みたいな解答もできない。でも、これだけは言えるよ」
次にオグトレさんが発した言葉は。
「私たちは、普通じゃない」
あまりにも予期していないものだった。
「…えっ?」
「考えてもみてよ。人間がウマ娘になるだなんてありえない。だからそんな普通じゃないことに巻き込まれた時点で私たちはもう普通から逸脱してるんだよ。そもそも何を以て普通を定義するかはまた別の話にはなるんだけど…。とりあえず私が言いたいのは、普通じゃないから、誰にも何が正解で不正解だとか分からないってこと。私たちが試行錯誤して判断していくしかないの。不器用に足掻いてもがいて考えて進んで行くしかない。それがもしダメなときは…」
「その時は注意してくれる仲間はたくさんいる。担当の娘も、他のトレーナーさんたちも。無責任に聞こえるかもしれないけれど、まずは気にせず進んでいいんじゃないかな。失敗したらその時はその時で周りを頼って、ね」
オグトレさんはそう言って笑って見せる。
求めていた答えではなかった。手がかりを得られたわけでもなかった。
なぜならその幾重の失敗の果てを見せつけられたばかりなのだから。
俺もまた、その道へ進んでしまうのではないかという不安は拭えない。
でも『周りを頼る』というのは、確かに俺に欠けているものなのかもしれない。
何よりこうして話したことで重苦しかった気持ちはかなり軽くなっていた。
「…ありがとう。少し楽になった気がする」
「私もたくさん失敗したからね。ほらっ、そろそろ行かなくちゃ。オグリとヤエノちゃんが待ってる」
162二次元好きの匿名さん22/02/11(金) 23:23:20
「…そうでしたか。にわかには信じられませんが、あなたが嘘をつく理由もありません。そんなことがあったのですね」
オグトレさんたちと解散し、ヤエと二人になった俺は、思い切って今朝の夢のことをすべて話した。話したからといって何かが変わるとは限らない、状況が好転するどころかヤエに余計な混乱を与えてしまえば悪影響になる可能性すらある。それでも、話しておくべきだと判断した。トレーナーとしても、家族としても。隠し事はするべきではないと。
「こう言うのもあれなんだが…けっこう傷が深いんだ。いろいろと自分じゃない自分のことを見せられて言われたから。今もまだ、正直揺らいでるくらいに」
「…私の隣に立つべきではないと」
「?」
「『ヤエノムテキ』の側にはふさわしくないと、そう言われたと言いましたね。貴方自身はどう思っていますか。ふさわしくないと思いますか」
「…俺はヤエのことが一番大切だよ。師匠と同じくらい、いや、それに負けないくらいにそう思ってる。ふさわしいふさわしくないなんてよく分からないが、その思いの強さでなら、俺はヤエの隣を誰にも譲る気はない。何より、これからどんな道を進もうとも、俺はヤエと一緒にその景色を見たい。ヤエの見る景色も、俺は一緒に見たい」
「…」
「な、なんだよ。何か言ってくれよ…」
「い、いえ…あまりにも直球だったので少し驚いてしまって…。ですが、ふふっ。そこまでは弱気になっていないようで安心しました。それでは、私のやることは一つです」
ヤエはそう言って少しだけ離れると、こちらに向き直ってこう言った。
「トレーナー。全力で、私と勝負してください。霧を打ち払い、その迷いを共に断ち切るために」
続く
≫168二次元好きの匿名さん22/02/12(土) 00:51:14
某温泉、脱衣所前に一人のウマ娘がいた。名はドベトレ。
元やんちゃ坊主、現メジロドーベル担当トレーナーの彼は、4つの暖簾を眺めていた。
「(今のオレはウマ娘。前は入れたが、もう男湯には入れねぇ)」
視線を横へ。『男湯』の横には『女湯』、そして『ウマ娘化トレ湯』があった。
「(女湯とウマ娘化トレで別なのは、まあ道理だな。色んな意味で)」
視線を反対側に動かすと、暖簾にあるのは同僚の名前。
「(『ボノトレ』ぇ? 何で別になってんだ、ふつーに女湯……じゃねぇ、男湯か。紛らわしいな)」
……と、一通り眺め終え、彼は『ウマ娘化トレ湯』の暖簾を潜った。
「服脱いで、タオル持って、忘れ物ナシ。それじゃ……って、サウナあんじゃん。後で行ってみるか」
髪と体を洗い、流す。普段ならここから湯船に浸かるが、今回は違う。
幸か不幸か、サウナの存在をドベトレは忘れていなかった為である。
ドベトレはサウナ室の入り口で立ち竦んだ。歴戦の悪ガキにも、苦手なものはあるのだ。
「あー、ドベトレだぁ! やっほー、歓迎するよ。ほら、こっちおいで!」
「ああ、君も来たのかい。うん、普段話す機会も少ないし、いいタイミングかな」
「おうおうニューカマーかよ! よしテメェらもっと詰めな、ゴルトレ様がもっとアツくしてやらぁ!」
皇帝の伴侶、月毛の王子様、もう一つの不沈艦。見るものを惹きつけて止まない彼らが、そこにいた。
彼らは今、汗ばんだ身体をタオルで隠し、仄かに上気した顔でサウナを楽しんでいた。
「……お、お前ら……もっとデケェタオルとか、ねぇのか」
未だに"女性の体"というものに不慣れなドベトレにとって、この状況は半分くらい詰みであった。
しかし希望はある。今からでも、もう少し肌を隠してもらえれば……
「これより大きいのは脱衣所に置いてきちゃった。それより、もっと寄って! そこ蒸気が直に来るからアッツいよ?」
「サウナは健康増進の為のものだからね。尤も、こんな素敵な交流の機会にも、なるようだけれど」
「……よし、こんなもんか! おっし、混ぜろ混ぜろぃ! 先ずは乾杯からか!?」
希望は、ここに儚く砕け散った。
「(なぁ、ベル。オレ、無事に帰れるかな……)」
……暫くして、心此処に在らずといった調子で脱衣所を後にしたドベトレが目撃されたという。
(了)
≫173マルオとマルゼンスキエット22/02/12(土) 02:27:00
トレーナー室に行くと、授業を終えたマルゼンスキーがソファーで本を読んでいた。
「マルゼンスキー今日のトレーニングは……って何読んでるんだ?」
「あらトレーナーちゃん。これはね~。ロミオとジュリエット! トレーナーちゃんは詳しい?」
「ロミオとジュリエットか……なんとなく悲恋のイメージはあるけれど……最後は二人が心中するんだったかな」
ちょうど読み終えたようで、マルゼンスキーがパタリと本を閉じて微笑んだ。
「心中……と言われると半分グッドの半分ノンノンね。二人は行き違えてしまったの。どうしてもロミオと結婚したかったジュリエットは計画を立てて死を偽装して自由に、でもそれを知らなかったロミオは仮死のジュリエットの隣で自殺してしまった。目覚めたら幸せに一直線、ベリベリハッピーと思っていたジュリエットはとても驚いたでしょうね」
「なるほどそれでジュリエットも結局自殺をしてしまって、だから俺は心中したと思ってたのか」
マルトレが合点が行ったようにポンと手を叩いてトレーナー室の椅子に座るとマルゼンスキーがその背もたれ越しにマルトレの頬をつついた。
「そうそう。だから正確には心中じゃないわよね」
「悲しいのはわかるけど死ぬのはな」
「あら? トレーナーちゃんは私が死んでも後追いしてくれないの?」
「そうだな。しないかな」
言葉とは裏腹にとても軽い調子で言いながら上からのぞき込むマルゼンスキーにマルトレもまた軽い調子で上を向いて、マルゼンスキーと目線があった。頬をつついていた指はいつの間にか降りて、首のあたりを触っていた。優しくくすぐるような手つきはしかし。少し離れてみれば、まるで首を絞める寸前のようにも見えただろう。
「例えばマルゼンスキーが今死んだとしてさ。そりゃ悲しいよ多分泣きわめくだろうし醜態だって晒すさ。でもその後の予定も入るからな」
「予定って?」
「126歳まで生きてギネス達成ついでに死ぬ予定だよ」
174マルオとマルゼンスキエット22/02/12(土) 02:27:10
「どうして?」
「今から百年前の人たちはきっと今の暮らしなんて想像もしなかっただろ? だから百年生きてそれを見て、死んで、百年分のお土産話を持ってマルゼンスキーに会いに行くよ」
「ロマンチックね。でもそれだとアタシはハンドレット待ちぼうけになっちゃうわね」
「天国ならレース場だってあるだろうし、偉大な先ウマ娘達もいるだろうから、むしろ俺のこと忘れて走るの楽しんでそうだよ」
「確かに! そんなにホットな場所ならテンションアゲアゲに違いないわね! ……でも、忘れないわよ?」
「まあそうだろうね」
「もうトレーナーちゃん!」
「いだだだだ首がもげる! もげる! ってわひゃはくすぐらないでくれ!」
「これくらいじゃアタシのトレーナーちゃんの首はもげませーん☆」
そんな感じでくすぐり倒されて体力を消費したマルトレはマルゼンスキーがジャージに着替えてグラウンドに向かった後乱れた着衣を直しながらトレーナー室を後にした。
マルゼンスキーがルンルン気分で出て行ったあとマルトレが乱れた服装で息を少し荒くしながら出ていく様子を見たダストレはなにか悶々とした。
おしまい