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目次
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part821【TSトレ】
≫52二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 06:36:44
おんぶとグラトレ(独)
「きゃっ……!」
夏の夕暮れ、グラスと共に浴衣姿でのんびりと散歩をしていた。
そんな中、不意に小さな悲鳴と共にグラスの姿が横目から消え繋いでいた右手が強く引っ張られた。
そして引っ張られた腕に導かれる様に隣を見てみると大事な愛バが地面へとへたり込んでいる姿が見えるではないか。
へたり込んだグラスの足元を見れば鼻緒が切れた下駄の姿、どうやら急に鼻緒が切れたらしい。
「! 大丈夫かグラス!?」
「だ、大丈夫です怪我はしていません」
思わず普段の言葉使いも捨てて安否の確認を行えば、大丈夫だと言う返答が返ってくる。
その言葉に一応の安堵はすれど此方に心配は掛けまいと虚勢を張っている可能性も無きにしも有らず。
一応大事を取る方が良いだろう。
「取り敢えず家まで戻ろうか」
「……はい、そうしましょうか」
鼻緒が切れてしまってはこれ以上散歩を続けるのは無理だろう。
その事はグラスも分かっているのだろう少し躊躇したが素直に提案に乗ってくれた。
「では……はいどうぞグラス」
「えっと……トレーナーさん?」
「その下駄の状態じゃまともに歩けないでしょ?」
「だ、だからっておんぶというのは……」
取り合えず帰路に着く事で話が纏まったのでグラスにしゃがんで背を向けた。
鼻緒が切れた下駄では歩き辛いだろうし、今は平気そうだが軽く捻っていたら歩いて悪化するかもしれない。
その事を考えれば私がグラスを背負って帰る方が良いだろう。
背負われるグラスは恥ずかしそうにしているがこればかりはトレーナーとして引く事は出来ない。
なので有無を言わせず背に乗る様グラスに促す。
53二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 06:36:57
「…………あの、トレーナーさん?」
「はいはい、どうしましたでしょうか~」
「その……重くはないでしょうか……?」
「おやおや、グラスは軽過ぎるくらいですよ~」
グラスを背負い来た道をのんびりと帰って行く。
そんな中でグラスがポツリと呟いたのは私への負担を考慮したものだろう。
グラスは体格も小さい方なのだからあまり気にしなくても良いと思うが……
「あまり気にせずとも、登山道具に比べれば軽いですよ~」
「えっと……そういう事では無くてですね……?」
「それにグラスはお尻が大きいので持ち易…クフッ!?」
「ちょっと女性に対して失礼ではないですかトレーナーさん?」
グラスに気に病まなくとも背負い易いと力説していた所、首から前に回っていたグラスの腕が見事に私の鳩胸へ当てられた。
そして首の後ろから聞こえる少し怒った様なグラスの声色。
……どうやら何か虎の尾を踏んでしまったらしい。
「トレーナーさんはもう少し乙女心を理解しましょうね~」
「痛い痛いグラス、頬を抓らないで……」
「もう……」
「ご、ごめん」
軽い制裁を受けグラスに謝罪する。
少々呆れた様な声と共にグラスは許してくれたのか軽く私の頬を抓っていた指を離してくれた。
グラス曰くもう少し私は乙女心を理解した方が良いとの事。
とは言え幾ら大和撫子の皮を被っていても元は男。
なのでこうやって偶に乙女心を理解せずにグラスに怒られる事もまま有るのだ。
54二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 06:37:12
「ううっ、機嫌を直してグラス……」
「さて、どうしましょうかね~」
再び歩き始めたトレーナーさんに背負われ沈みかける日の中帰路への道を進んで行きます。
そんな中トレーナーさんは私の機嫌を取ろうと言葉を掛けてきています。
私はとうに許しているのですがトレーナーさんは気付く様子が見られませんね……
普段は目聡いくらいなのですが、どうしてこういう時は鈍くなるのでしょうか。
「トレーナーさん良いですか?」
「うん、何かな?」
では、そんな鈍いトレーナーさんにちょっとした悪戯でもしましょうか。
そうほくそ笑みながらトレーナーさんに言葉を掛けます。
そんな私の顏が見えないトレーナーさんは私の機嫌を直せると思ってか、少々期待した声で私の言葉に返事しました。
「では失礼して~」チュー
「ヒァッ!?」
鈍いトレーナーさんへの私の悪戯。
それは先程から私の目の前に有ったトレーナーさんの首に唇の跡を残す事でした。
そんな私のと突然の悪戯にトレーナーさんは何とも可愛らしい声で驚きの声を上げます。
悪戯は成功ですね♪
55二次元好きの匿名さん22/08/25(木) 06:37:25
「グ~ラ~ス~」
「ふふっ、可愛らしい声でしたねトレーナーさん」
「ううっ、私はグラスと違って髪で首が隠れ無いのですよ?」
「それなら明日は別の髪型にしましょうかトレーナーさん」
トレーナーさんの首筋に着いた私の唇の跡。
見えなくとも私が何をしたのかは分かったのでしょう、抗議の声をトレーナーさんは私へ掛けてきます。
でもトレーナーさんが気にしているのは跡を着けた事ではなく跡が残った事そのもの。
それならばと私は髪型を変えてみようかと提案します。
「……仕方有りませんね~」
「それでは帰ったらどんな髪型にするか色々試しましょうか♪」
そんな私からの提案をトレーナーさんは渋々といった感じですが受け入れてくれました。
そして帰宅したら色々な髪型を試すという約束を取り付ける事も出来たので、今から少し楽しみです。
「お手柔らかにお願いしますね~」
「は~い♪」
そしてトレーナーさんからの言葉に私は楽しそうに返事をするのでした……
「ところでトレーナーさん?」
「どうかしましたでしょうか~」
「ウオシスさんに沢山髪を触らせていたみたいですね?」
「……へ?」
「ふふっ……」
「…………お手柔らかにお願いします」
うまぴょいうまぴょい
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part822【TSトレ】
≫15二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:56:00
花に嵐の喩えもあるぞ
さよならだけが人生だ
━━━井伏鱒二訳 勧酒
────────────────────
思えば、ここまで長い人生でした。
思い出すのは、最初に担当した、あの大きな体躯のウマ娘の子。大柄なウマ娘は走らない。そんな当時の評判を、二人で吹き飛ばし、無敗の連勝の後、地元へと手を振って、汽車に乗って帰って行きました。豆粒みたいになっても、窓から手を振り続けてくれました。
藤の花と、秋の栗ご飯が好物だったあの子。今はもう、会うことのできない子。
次に思い出したのは、流星の綺麗な、とっても賢かった子です。牛乳や豆乳が好きで、学生故財布の紐を絞めざるを得ない彼女へと、よく瓶で買ってあげていました。同期の子たちと、華々しいまでに時代を作り上げていったあの子は、どこかで今頃、輝いているのでしょうか。
その子と同じ頃、とても怖がりで小さい子もいました。最初は見つけることも叶わず、しかいいつの日か、どこでも後ろにくっついて来てくれたような子で、勇ましい走り……とは言えないが、清々しい逃げでした。どこまでも人に臆病で、他人のことばかり考える、優しい怖がりさん。
向こう……海の向こう側でも、面白い子に出会えました。誰も見向きせず、忌避されていた彼女を受け入れてしまったのです。彼女は走る。本能がそう告げていたからです。
唯一のライバルと鎬を削り、荒々しいったらありゃしない性格をなんとか宥め、それはもう激動としか言いようがありませんでした。
最後は隣で、日曜日に、静かに旅に出て行きました。もう立てなくなってしまって、ベッドの中から。お世辞にも綺麗といえないアワダチソウを、彼女の最期の願いで花瓶に挿したのを、はっきりぼえています。
決して、全員に輝かしい栄光を掴ませてやることはできませんでした。数えきれないほど失敗もしてしまったし、意見の相違から衝突なんてきりがありません。覚えきれないほどに出会いと、別れに満ちた人生でした。喜びの何十倍、何百倍と、苦渋と、辛酸と、涙に濡れていました。
しかし思えば、まあ、悪くない人生だった。
そう思えるくらいには、いろんなものを後世や、彼女達へと残せたと思います。
どこか遠くに、波の音がします。
16二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:56:21
「……」
目を開く。真っ白な病室はホコリ1つなく、飴色の振り子時計が退屈そうに時を刻んでいます。
スロウに時が過ぎていく、死化粧とも思える白具合のベッドに、一人の老婆は、横たわっていました。
「……走マ灯ねぇ……もう長くはないかね……」
手も随分細くなってしまいました。ゴツゴツした、皺だらけの。どこか歪んだ手。いつかの子が『おばさまの手、とっても大好き。』とさすってくれたのが、もう今は懐かしく思えます。
レース越しに柔く透ける陽光に手を翳して見ると、白魚のようなんて程遠い、はじめてトレーナーとなった時よりも、何十倍も多くの皺に、シミに、くすみが重なった、年季の入った手があります。
ここ数日で、一気に体が弱って来ました。鼻から伸びたチューブが、今や文字通りの生命線です。
そんな真っ白な布の中でも、あの子が塗ってくれた爪紅がつやつやと、真珠みたいに透き通ってて、これが最後なんて、あの子はきっと悲しむだろうなんて、思ってしまいました。
ふと、入り口が開く音がしました。自分を呼ぶ声も、遠く聞こえます。
「トレーナー……」
「ああ、来てくれたのかい……わざわざ、ありがとうねえ」
「これくらいしか、俺にできることないからな……って、無理すんなって!」
もう、体も満足に起こせません。今や彼女や看護師の補助あって、やっと背を起こせるにまでなってしまいました。
ぼやける視界に映るのは、眼帯をしたウマ娘、彼女の最期の担当、タニノギムレットです。窓からさす陽の光に、耳飾りが黄金色に輝きました。
年老いて、現役の椅子を退いて、若人達へとこれからの引導を託したのに。最後に一人だけ、担当を持とうと決めたのは自分だったのに。全く、最後まで本当に情けないといつも思います。
17二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:56:40
「急に倒れちゃって、ごめんねえ。こんなおばばで、ごめんねえ」
「ごめんって……トレーナーは、すごいじゃねえかよ。俺じゃできないことを、いくらでもやり遂げて……」
「そんな風に……自分を卑下しちゃ、だめだよ……それに、そんなことはないさね。わたしだって……うん。過ちの方が何十倍、何百倍だってあるよ。そんな……褒められた人間じゃないよ」
「そんな……そんなこと言うなよ……」
彼女は目尻に涙を蓄え、ぐわっと泣きついてきました。その体温はとても心地よくて、彼女へ本当に申し訳がなかったです。
「聞いておくれ。ほら……そう、泣かないで」
「嫌だ…トレーナーがいなくなるなんて……俺……」
ぐしぐし。目を擦る彼女の手首に手を添えると、眼帯をずらし、優しく自身の親指でそれを拭ってやります。
「泣き腫らしたら、別嬪さんが台無しだよ……ギムちゃん……」
少しずつ、眠気が渚を寄せてきました。遠い遠いあの日に、チームで休養に向かった浜に打ち付ける漣が聞こえてきます。
「そこの下の引き出しに、お手紙と……少しばかりの餞別があるから……もっていってね。あとは……失敗に取り憑かれないこと。あなたはまだ若く、未来がはっきりしてるから、いつも前を向いて歩みなさい」
皺枯れた細腕の中で、ぐりぐりぐり、と泣きついてきます。その、遺言とも取れる言葉を拒絶するかのように。
「それから、しっかりと……ご飯を食べること。食べないと何もできないからね。バランスよく、よくかんで食べるんだよ……」
18二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:56:52
だんだん、言葉や意識が起伏を失っていきます。心臓の鼓動が、とくん……とくん……と、薄くなっていきます。
「柵は……うん。もう……私は修理、できないからねぇ……。きちんと壊したら……お手伝いするんだよ……」
何度も撫でた、サラサラなのに少し巻く髪。もう最後と思うと、ギムレットの胸がきゅうっと締め付けられました。
「最期……に……あんたに、こんな……傷を残してしまうこと……謝らせておくれ……」
「……!ダメだ……ダメだトレーナー!行くな……行くんじゃねえ!!」
まるで奪われないように、だんだん軽くなっていく細い体を抱きしめますが、やはり、残酷にもお別れが歩いてきます。
「懐かしいねぇ……初めて会った日から……こおんなに立派になって……」
「俺はもっとやれる!何だって勝ってやる!だから隣で見ててくれよ!!なあ!!」
「ドリームトロフィー、リーグ……見届けられなくて……ごめんねぇ……ほら……顔をおあげ」
ポケットから取り出した、手編みの花のモチーフを耳につけてやると、ふわりと花弁が開くように笑いました。
その花は、ライムでした。
「笑って……どうか……うん……」
強い眠気に、綿に包まれるようにして、まどろみました。
19二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:57:35
ざざーん。ざざーん。
寄る波がくるぶしを通り過ぎていきます。冷たい、蒼い水。
「まあ……あんたたち、居たのかい」
向こうには、今まで担当してきた、しかしもう会えないはずの何十人ものウマ娘達が、手を振っていました。皆、どこか寂しく笑っています。
「ごめんね……ごめんねえ……」
そっちに走っていって、転けるように飛び込むと、皆から抱き締められます。
「怪我をさせて……無理をさせて……失敗ばかりの……こんなトレーナーで……本当にごめんね」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。大粒の雫が砂に染み込んでいきます。こんな、幸せな最期であっていい資格なんてどこにも無いのに。だのに、彼女らは、そんなことあずかり知らぬとばかりに、強く抱きしめてくれます。
彼女は、それはもうわんわん泣きました。それでもウマ娘達は、笑顔で彼女を抱き締めました。
「……もう、行かなくちゃ、なんだねえ」
そんな、涙交じりの言葉を吐くと、皆笑って、ちがうちがう、あっち、と指を指します。彼女らが居たのとは反対側。そこから、3つの、灯籠みたいな光が、ぽわんぽわんと近寄ってきます。
「まあ……あれがお迎え?」
すると皆は、ぽん、とトレーナーの肩を叩きました。何人かには、軽く噛みつかれました。背中をぐりぐりされましたし、また、ぎゅうっとハグ、されました。
まだ終わっちゃないだろう、そう伝えているように見えます。
「……まだ、なのかねえ」
光が近づいてくるにつれ、皆は、トレーナーから離れました。遠くで、まだこっちくんなとばかりに、しっしと手を振る子もいました。
「ありがとうね、皆」
彼女らに手を振り、光へとかしずきました。
その姿は、まるで祈りを捧げるかのようでした。
光が視界を優しく包みました。
20二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:57:55
光が視界を優しく包みました。
気がつけば、暗い、暗い通路を歩いています。
無機質な、しかしどこかで見覚えのある通路です。
出口が近づいてくるにつれ、強い痛みに襲われました。
どんどん脚を進めるにつれて、誰かの声が聞こえてきます。
それに手を伸ばすように、負けじとばかりに光へとむかいます。
彼女は再び光に包まれました。
21二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:58:23
「……なんじゃ?」
目を開けると、同じ、幾度と見た天井がありました。体の輪郭ははっきりと感じ取れます。
「ぬ……随分着物が大きいの」
少し軽い体を上げると、白磁みたいな、艶めいた肌がありました。
「……なんなんじゃ?」
手も小さく、枯れ枝みたいでなく、それは初雪みたいに優しそうです。ベッドには、担当のあの子が眠っていました。
「ほれ、ほれ起きるのじゃ。ワシ、こんなんになってしまったんじゃぞ?」
んう、と、彼女は目を擦りながら、赤い瞼を持ち上げました。しかし、目に眼前のウマ娘を捉えた途端、ぴしぃ、と固まりました。
「……ぇ?」
「あー……ワシ、生き返ってしまったのじゃ」
もちもちぷにぷに、かすかにミルクの香りのする生肌。細やかで鞠に似た体躯に、すべすべもちもちのお腹。琥珀の髪は水面のように波打っています。
瞳は真っ赤な牡丹みたい。少し猫目の、ぱっきりしたまつ毛が伸びています。
ちんまり。そこに居たのは、そんな擬音が似合う、美女でも、美少女でもない。幼女です。
「な……は………ぇ…………まじか?」
「本当の本当なのじゃ。何から話そうか。ううむ……URAに優勝した日の控室うぁっっ!?!?」
ぼすん、と体がスプリングに沈んだかと思えば、彼女の体が自分を覆いました。
「ひでえ……ひでえよトレーナー……こんな……こんなぁ!!」
「ちょっときついのじゃ。ほれ、離れるのじゃ」
ぽんぽんと、宥めるかのように彼女の頭を撫でてやります。随分と大きくなったように感じました。
しかし彼女は嫌だと言わんばかりに、腕の力を強めてきます。たまらず、トレーナーは彼女の腋に手を入れ、ちょっとくすぐりました。
少し落ち着いたのか、鼻をかむと、
「……お返しだ。俺を置いて行こうとした」
「おふっ」
22二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:58:48
再び泣きながらトレーナーの胸へと飛び込んでいきました。
多かれ少なかれ違いはありますが、あの懐かしい、ほされたふとんと、かすかな薔薇のような、何度も抱きしめてくれた匂いがします。
「まあ……女神様じゃろうな。このような真似をなさるのは」
「全部……台無しじゃねえか……トレーナーの為にも、頑張ろうって思ったのによ……」
「うん。お陰で台無しじゃよ。ほれ見るのじゃ。こんな体になってしまったのじゃ」
「でも……でも、これからも……走れるんだろ?」
「そうじゃの……うむ。チームに所属してドリームトロフィーリーグをそこで走り切る、という件じゃのじゃが……一緒に走るかの?」
「もちろんだ!!」
「うむ。その願い、聞きとげたのじゃ。しかし……」
「何事ですか!?!?」
「まずは健診じゃの。コレステロールと血圧が上がってないといいのじゃが」
それを聞いたギムレットは、もう少しだけ、彼女の胸の中で泣きました。
かくして、89年を生き、71年間を競争ウマ娘へと捧げ、一度空の向こうから迎えられたトレーナーことギムトレは、老婆から老婆のようなウマ娘へと本当に生まれ変わったのでした。
23二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:59:10
「困惑ッッ!!本当に……本当なのか?」
「本当の本当じゃ。ワシもこのような姿望まなかったんじゃが」
目を白黒させながら困惑する理事長に、
「書類の方は……継続、ということでよろしいでしょうか?」
「うむ、助かるのじゃ。しかし……この話し方も難儀なのじゃ。威圧感みたいなのを与えずに済むかの……」
未だ困惑をしっかり隠し切れていないたづなさん。
あれから数日後のことです。無事病院での健診を終わらせ、コレステロールの値が正常だったことに、無い胸を撫で下ろした元おばあさん。
学園に出勤した後、最初に訪ねた理事長室で手続きを終え、談笑をひとしきり済ませた後、元お婆さんことギムトレは、立派なロリウマ娘としてトレーナー雇用契約を更新しました。
部屋を出、一時凌ぎの雪駄で歩きながら廊下を歩いていますと、踊り場で、見覚えのある長髪がふわりと踊りました。
「おや、じじさん。お久しぶりなのじゃ」
「その呼び方をするのは一人だけじゃが……今は入院中じゃないかの?」
声の主は振り向くと、眼前の小さなウマ娘を見ます。
彼女もまた、紛れもない大御所。元おばあさんの一年後輩である、豊満なバストに逆さ雫の流星、流し髪を持つ、若かりし頃の彼の奥方そっくりな、今となってはウマ娘となった、ヘリトレです。
「一回お迎えが来たんじゃがな。三女神様のおかげで今ではこんなちんちくりんなのじゃ」
「ホッホッホ。それはそれは、失礼失礼。担当の子とは大丈夫なのかや?」
「無問題じゃ。若いチームトレーナーに頼んだんじゃが、結局ワシのところに戻ってきたのじゃ」
するとヘリトレさんは、しかしまあ…と、ギムトレの体を見ます。
「小さいのう。ワシは婆さんと瓜二つになってしまったんじゃが……」
「小皺もシミもない餅肌じゃ。今更胸があろうとどうせ老いればシワだらけなのじゃ。それは分かっておろう?」
「痛いところを突くの……それで、お別れした矢先の再会はどうじゃったかな?やはり少し気まずかろう?」
「そうじゃな……一晩中泣きつかれたのじゃ。最後の方は泣き疲れて眠ったのじゃ。狭いベッドの中に二人一晩はきつかったのじゃ」
「それは重畳。上手くいって何よりじゃ。どれ、積もる話もあるじゃろ。せっかくの退院じゃ。久しぶりに茶しばきぱーりぃ、するかの?」
「うむ……何を言ってるか分からないのじゃが……ありがたくもらうのじゃ。……おと、電話じゃの」
24二次元好きの匿名さん22/08/26(金) 20:59:32
カパ、とポッケからガラケーを開くと、しばらくの会話の後、むう…と彼女は頭を抱えます。耳も元気なさげに少し倒れました。
「すまんがの、じじさん。上の方々からの招集なのじゃ。ワシが死んだと思いきや生き返ったでてんやわんやらしいのじゃ。……なのでお茶はまた誘ってほしいのじゃ」
「おけまる水産加工株式会社じゃよ。コレステロールは大丈夫かの?」
「若くなって代謝も上がったおかげで大丈夫なのじゃ。じじさんこそ、煎餅で歯を折らぬように気をつけるのじゃ」
「ホッホッホ。耳と歯が痛いのう」
パタリ。通話の切れたガラケーを閉じ、ヘリトレに向き直ります。
「ウム、それなら仕方ない。足はあるかの?」
膝をポンポン、叩きながらヘリトレは言います。
「もう若くなったんじゃから、膝も腰も痛くないのじゃ。まあ、一応湿布は買っておくのじゃ。では、行ってくるのじゃ」
バイバイと手を振ると、翠の袴を翻して、夏風の涼やかに吹く廊下を歩いていくのでした。
めでたしめでたし
≫61二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:59:14
グランドライブの終わりに
ワァァァ……!
盛況の中グランドライブは終わった。
このライブを成功させるべく切磋琢磨してきた16人のウマ娘達。
彼女達を称える拍手喝采の協奏は先の未だライブが続いているかの如く止む気配は見えない。
そして送り出す側だった私もまた拍手をもって彼女等の勇姿を称える。
……しかしこのままではどうもいけない。
そう思い私は愛バたるグラスよりも先に控室へと戻る事へとしたのだった。
コンコン……
「失礼します……ああ、やはり先に戻られていたのですね」
控え目なノックオンと共に扉を開け入って来たのは先のライブで歌い踊っていた愛バのグラスワンダー。
彼女には先に控室へ戻ると伝えて無かったが、どうやら先に戻っている事を予測していたらしい。
そんな彼女の勘の良さに驚きつつ彼女を労う言葉をかける。
「さて、グラス……グランドライブの成功おめでとうございます」
「はい、ありがとうございますトレーナーさん♪」
「グラスの勇姿……しかと目に焼き付けました」
「……あの、トレーナーさん? 少々よろしいでしょうか?」
「……はい、なんでしょうかグラス?」
私からの祝辞と労いの言葉に嬉しそうに言葉を返すグラス。
しかし、グラスはそんな会話を遮り私に聞きたい事が有ると伝えてきた。
……いや、何を聞かれるかはだいたい予想が付いてはいるのだが……
「……トレーナーさんはどうして後ろを向いたままなのでしょうか〜」
「うっ……」
グラスから聞かれたのは今の私の事。
実は先程グラスが控室へ戻って来てからもずっとグラスに背を向けたままだったのだ。
一応背を向けたままなのは理由が有るのだが……グラスはその理由に聞かずとも気付いているだろうに。
62二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 00:59:48
「ふふっ、トレーナーさん感極まっちゃいましたか?」
「…………ええ」
やはり気付いていたグラスの言葉に観念して改めてグラスの方へと向き直る。
「あらあら、お化粧も少し崩れてしまってますね~」
「ううっ……」
グラスに背を向けていた理由。
それは何て事は無い、ただグランドライブに感動して泣いてしまっていたのだ。
そして泣いてしまっているのが少し恥ずかしかった……それだけだ。
グラスより先に戻っていたのもそれが理由だ。
グラスに対しては今更でもあるのだが流石に大衆の中で泣き出す訳にはいかない。
「ふふっ、泣くほど感動されたなら私も嬉しいですよ~」
「うん、良いライブだったよ」
「あらあら、また涙が出てきましたね~」
「ううっ……」
「よしよし〜」
ライブを思い出して再び涙を零し始めた私の頭をグラスはよしよしと撫でてくれる。
大の大人が情けない姿ではあるが、グラスはそんな姿を見せてくれて嬉しいと言う。
「……改めてグランドライブ成功おめでとうグラス」
「はい、ありがとうございます♪」
再度伝えた感極まった祝辞の言葉に再度嬉しそうに返してくるグラス。
そんなグラスに甘える様に感動の涙が収まるまで頭をなでなでされ続けるのだった……
うまぴょいうまぴょい
≫72二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 10:56:03
「タバコさんタバコさん」
「黒……どうしたの?」
「これ、これ一緒に分けて食べませんか?」
「シロノワール……」
「僕一人じゃ無理そうなんで……どうですか?」
「………そうだね、私もたまにはこういうの食べたい……かも」
「やった!じゃあ注文しましょう!」
──この後ギーさんに泣きついた
≫74二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 11:43:42
『ぎむとれさんとばんとれさん』
「ご無沙汰しておりましたね、ギムトレさん」
「ぬ? おぉ、バントレさんではないか。……そなたもだいぶ変わってしまったのじゃの」
自身のトレーナー室で書類作業をしていたタニノギムレット担当トレーナーのところに、仮面をつけた金髪のウマ娘……バンブーメモリー担当トレーナーが訪れた。手には、紙袋が一つ。
「えぇ、貴女ほどではございませんが……」
「言うたのぉ。まあわからんでもないのじゃが」
「貴女が復帰した、と聞いてもしや……とは思いましたが。いやはや、これも女神様の導きでしょうか?」
「おそらくはそうじゃ。まあ、そんなこんなでじじさまみたいに、老骨を刷新してまた鞭打つ日々が始まるというわけなんじゃがね」
ほへー、と溜息をつくギムトレ。だがその表情には、また戻ってこれたという喜びも漂わせている。
「そう仰っても、随分と嬉しそうではありませんか。……えぇ、本当に良かった。離別というものは何時の日か来るものではありますが、あと少しというときに起きるのは酷ですから」
「……そうじゃな。ギムちゃんには随分と泣かれてしまったのじゃ」
「さぞ、こってりと怒られてしまったでしょうね。さて本題なのですが、こちらを持ってきましたので」
そう言うとバントレは、手に下げた紙袋から一つの箱を取り出した。
「覚えていますか? 随分と前になってしまった気もしますが、叶うことならもう一度……と言っていたあれでございます」
「おーおー、覚えておったんじゃのう。これは重畳重畳、開けてもよいのじゃ?」
「えぇ、そのために今日訪れましたからね」
ふんふんと鼻歌まじりに包み紙をびりびりと破くその姿は、正しく贈り物に喜ぶ幼子のそれである。箱から取り出したるは、老舗和菓子店の名物甘味。
「おぉ出てきた出てきた。久しく味わっていなかった甘味、心行くまで楽しめるのじゃ」
「喜んでいただけて何よりです。では私は……」
「待つのじゃ。折角バントレさんもおるんじゃから、一緒にいただくのも良いものじゃろう?」
「ギムトレさんがそう仰るのであれば、是非にでも」
「皆と一緒に食べるほうが、美味しいものももっと美味しくなるのじゃよ」
かくして、琥珀髪の幼女と金糸の美女は楽しく語らいながら甘味をつつく。
姿形は変わっても、変わらぬ関係性というものも確かに存在するのである。
≫84二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 18:21:38
「なんですのこの部屋」
「『スパッツを履かないと出られない部屋』らしいぞ」
「……なんでスパッツ?」
「そういう性癖なんだろ。まあしょうがない。あとブラトレは……ギリギリセーフ?」
「…………崖っぷちブラザーズ」
「そんな冗談が言えるならセーフですのね。……なんでこんなに種類がありますの?」
「普通に学園指定の、ビワハヤヒデ勝負服仕様、ロングスパッツ、(書くとアウトになるタイプのやつ)、沢山あるな」
「ちゃっちゃか履きますわよ。テイトレもブラトレもほら」
「「ウソダズンドコドーン!!」」
≫95二次元好きの匿名さん22/08/27(土) 19:34:14
「っていうかブラトレ、お前は普通にスカートのときはスパッツ履いてるだろう」
「それとこれとは話が別なんだよ。お前誰が用意したかもわからん服をホイホイ着れるか?」
「それを言えばしようがありませんわ」
「ご心配には及びませんよ皆さん」
「先生!」
「ウラトレ先生来た! これで勝つる!」
「古いぞテイトレ」
「全部私とベガトレさんで精査済みです。安心してきてもらって構いませんよ」
「「「「先生!?」」」」
「ムハハハ油断したわね、ウラトレはこういう人よ!」
「クソォ、そうだったのか……!」
「貴女も後で参加してきて構いませんよ、アドマイヤベガ担当トレーナー」
「ごめんちゃい!」
≫158二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 17:23:02
「トレーナー!…あれ、その写真は?」
「これはね、昔の蒸気機関よ。」
パソコンに映る写真、白黒の明らかに古いものを見て疑問をもらすプロキオンに所属するあるウマ娘。
キタトレは少し体を傾けて見やすいようにすると、その写真に映るマシンの正体を伝えた。
「隣に写ってる人と見比べると、凄く大きい…」「確か初期のだから今みたいに効率は良くないの。このサイズでウマ娘数十人分のパワーが謳い文句だったそうよ」
「はぇ~…」
「今や道路を走り回る車ですら数百馬力…ウマ娘数百人分のパワーなのだから、時代の違いを感じさせるわね。」
蒸気と歯車、どちらも今の文明を支える代物であり、周囲の機械は変わっても姿形も変わらずに残っていた。
(…というより、人類は水を沸かしてタービンを回すというやり方から脱却出来ないのでしょうね。核融合炉でもそうでしょうし…)
「蒸気機関…私、蒸気機関車なら乗ったことあるよ。」
「あら、そうなの?」
「凄い音と煙を出してたのが印象に残ってるくらいだけど…」
その娘曰く、なんでも旅行先で乗ったそうな。お父さんがとても興奮してたという言葉に、何か察したキタトレは微笑んだ。
「そういえば、蒸気機関車でヨーロッパをあちこち旅しながらレースしたウマ娘もいた、とはよく聞くわね。」
「結構有名な話だよね、そのウマ娘の話。」
「当時、お世辞にも乗り心地とか良くない蒸気機関車で何時間も乗ってたと考えると中々なのだけど…」
「うえぇ…凄いなぁ…」
今なら海を超えて海外へも数時間で行けるが、昔は隣の国へと行くのすら一苦労、当然疲れも溜まって大変だったろう。
…このトレセン、誰とは言わないが経験者(?)もいるのでそんな彼女からすれば隔世の世ではあるのかもしれない。
────その後、暫く蒸気と歯車が生み出したセカイについて話していた姿が見れたとか。
短文失礼しました
スチームパンク、いいネタが思いつかないので絡みのある話でお茶を濁すアレな奴です。ネタが出たら書きます。
人類が蒸気で羽根車を回す行為から抜け出すのはいつのことやら。蒸気機関車で旅行しまくったウマ娘はあの彼女の事です。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part823【TSトレ】
≫30二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:41:47
グランドライブ
「…………」
静かな資料室の中、俺はとあるチラシを見ていた
「入るぞトレーナー。……?何か見ているのか」
「ん?ああ、最近話題のやつだよ。ほら」
そう言ってチラシを渡す。
「これは……グランドライブか」
『グランドライブ』
最近とあるプロデューサーが学園所属のトレーナーやウマ娘と共に企画したライブ。
バックダンサーがおらず、全員がメインで踊ることが出来るらしい。
全てのウマ娘とファンの為のライブと言っても良いだろう。
「……マーチもやっぱり出るのか?」
「そうだな。トレーナーのお陰で中央でも少しは覚えてもらえるようになったし、応援してくれるファンも増えた。
そしてそれに応えられる場所が出来たのなら、私はファンに応えたい」
「……」
「ただ、まだダンスには少し慣れていないから、余り良い出来のものは見せられないかも知れない。それでも、全力で臨むつもりだよ」
「そうか、それは楽しみだな」
「……トレーナー」
「ん?」
「何か悩み事か?」
31二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:42:33
「……何故またそんな事を?」
「言ってるだろ、お前はすぐに顔に出る」
「はは、そうか……そんなに出てたか。
まぁ、大した事じゃないんだ。ただ、少しだけ……」
「少しだけ?」
「…………」
「……話したくないのなら、これ以上は聞かないぞ?」
「……いや、話すよ。ここで話さないと、また心配をかけそうだしな」
「そうか。ありがとう、トレーナー」
「礼を言うのは聞いてもらってるこっちなんだけど……まあいいか。少し考えてしまうんだよ」
「考える?」
「そう、もしもっと早くグランドライブがあったら……
俺が担当していたあの娘達は、ファンの前で……自分を応援してくれている人達の前で踊る事が一度ぐらいはできたのかなって」
「それは……」
「……いや、やっぱ駄目だな。もう迷わないって決めたんだ。
すまないマーチ、この話は聞かなかった事に──」
「駄目なものか」
「…………」
「誰しも自分が応援した相手には、少しでも報われて欲しいと願うものだ。
その思いは、間違いなんかじゃ無い」
32二次元好きの匿名さん22/08/28(日) 22:43:06
「でもな、俺はあの娘達に……」
「『何も出来なかった』か?そんな訳無いだろ。
何度負けても、折れそうになっても、諦めないで居てくれたお前が近くにいたんだ。
少なくとも中央で勝てなかった時の私はそんなお前に救われていた。
それに、そのウマ娘達がお前に恨み言の一つでも言ったのか?」
「……」
「そんな事なかったはずだ。
だからどうか、もう何も出来なかったなんて言わないでくれ。きっとトレーナーが担当したウマ娘達も悔しさはあれど、後悔はしてない筈だから」
「そんな事」
「分かるよ。だって私はそのウマ娘達と同じように、お前の担当ウマ娘だ」
「……ありがとう、マーチ」
「分かってくれたのなら良いさ。
そしてトレーナー。話は変わるが、私が出るライブは来てくれるのだろう?」
「……そうだな。行くよ。見に行く。君が輝く瞬間を」
≫67信じるということ1/1022/08/28(日) 23:40:36
[信じるということ]
──目を開けると、そこには“黒”が広がっていた。
照り返すことの無い闇ではなく、絵の具の様なただの黒でもなく。無限の色を重ね続けた末に形作られた玉虫色の極致の様な“黒”が、ギムレットの眼前に存在していた。
そして、その黒を構成している物が何であるかを自分は知っていた。混沌として居ながらも個々としては独立して彩を放つそれが何であるかを、自分は理解していた。
あれは魂だ。
一人の人間が許容できるように細分化こそされてはいるが、今目の前に広がっている混沌を形作っているのは、かつて名馬名ウマ娘と呼ばれていた者達の魂だった。無論全ての存在を知っているという訳でもなかったが、一部を見ただけでも全体的な質がどれだけ高いかについては一目瞭然だろう。
ヒシミラクル、ゴールドアリュール、デュランダル、そして──シンボリクリスエス。
軽く覗くだけでも一時代の頂点に立ち、そして自分と縁の深かった者達を発見することができる。自分は生前、彼らと鎬を削り頂点を目指して走り続けていた。記憶は今も色褪せず、思い出となって自分の中に刻み込まれている。その他にも、自分とはかかわりが薄い物のそれに引けを取らない、あるいは上回るであろう者達の姿も確認することができた。
しかし、無限にも近いであろうはずの混沌の中から、見知った相手ばかりはすぐに見つけられるのはどういうことなのだろうか。もしかしたらの話だが、自分の中でも彼らの存在は大きな物になっているのだろうか。
無数に存在する魂たちを一つずつ見定めながら、そんな益体もないことに自分の思考を埋没させていると──
「──そろそろ良いかしら?」
──意識外から女性の声が響く
意識が現実に引き戻される。先程まで広がっていた“黒”は消え、目の前には腕を組みながら呆れたような表情を浮かべている女性の姿があった。
68信じるということ2/1022/08/28(日) 23:41:01
「さっきからずっと黙り込んで何か考えていたようだけど、こっちからの質問にも反応を返さないし、流石に没頭しすぎよ。少し休憩を取った方がいいわ」
考え込んでいた自分に呆れながら、それと同時に心配をする女性──キタトレの声。その声に導かれるように不意に自分の左手を見てみると、熱中し続けていたせいか、汗ばんで湿気がまとわりつくように漂っていた。それは顔にも現れていて、そんな自分に見つめられ続けていた彼女が疑問を呈するのも当然の事であった。
「すまない、思ったよりも夢中になりすぎていた。こんな汗ばんだ顔に見つめられ続けてお前も気分が悪かっただろう?本当に申し訳ない」
「あら、別に不快じゃないわ。これは私が頼んだことでもあるし、それにあなたのそういう顔は珍しいしね。それで改めてだけど、私のウマソウルにはどのようなウマ娘が居るのかしら」
椅子に座り直し、ハンカチで汗を拭ってから目の前に居るキタトレに先程の事への謝罪の言葉を口にする。幸いながら彼も気にしてはいないようで、それよりも自分が頼んでいたことについて気になっているようだった。
キタトレのウマソウルはある種特異だ。
通常、ウマ娘となったトレーナーのウマソウルは2人から3人のウマソウルにより構成されている。これは既に人格を確立している人間に別の魂を入れたことによる影響を小さくするためであり、ウマソウルによる浸食を互いに相殺させ合うことによりトレーナー達はウマ娘化の影響を比較的軽微に抑えることを可能とするのだ。自分の相棒やアドマイヤベガのトレーナーの様に単一のウマソウルの者も幾人かは居るが、トレセン学園でウマ娘になったトレーナー達は概してこの法則に従ってウマソウルが構成されていた。
69信じるということ3/1022/08/28(日) 23:41:27
しかし、彼は違う。
その数にして少なくとも1000以上。平均の値からすればおよそ無限とすら思える数のウマソウルが、混沌のような様相を呈しながら彼の中に渦巻いている。数だけならば一番大きなウオッカのトレーナーも負けず劣らずだが、キタトレは構成する者達が彼とは違う。万夫不当の勇、自らの力で時代と生涯を切り開いてきた優駿たちが彼の中に存在している。キタトレという器にあわせて一人一人の規模は縮小されてはいるものの、マベトレの一件があった以上、どのような事態が発生してもおかしくはないのだ。
そう考えた彼は自分に改めてウマソウルの鑑定を依頼してきた。正体不明であるならばその部分を出来る限り減らす。正体が解らないのならば、せめてそれが邪悪な物であるかを判断する。理知を重んじ行動をする彼らしい判断と言えた。
「今回は全体を見渡してみたが、明確に異常が発生している奴は居なかった。全体の数が多いだけに詳細までは見ることができなかったが、それでもお前が懸念しているようなことはそうはないだろうな。で、誰が居るのかについてだが…残念だが6割ほどしかわからなかった」
「あら、貴方でも知らないことがあるのね。確実に当たると聞いていたけど、それは勘違いだったのかしら?」
「知らない物は知らないというだけの話さ。俺も別に全てのウマ娘を知っている訳じゃない。それこそ、俺の知らない別世界で俺の知らない活躍をしてきた奴だって居て当然だろうしな。ま、それはそれとして知っている相手は外さない自信はあるけどな」
鑑定した結果として全体的な所感と共に、全員の名称まで解らなかったことを伝えると、悪戯っぽそうな表情を浮かべたキタトレから冗談めいた口調で軽口が飛んで来た。それに対して自分もまた肩を軽くすくめながら返答をしつつ、頭の隅でふと思う。
70信じるということ3/1022/08/28(日) 23:41:43
果たしてどれだけの世界からウマソウルは来ているのだろうか。
ナリタトップロードのトレーナーの中に居たキンチェムと魂のままこの世界に単独で顕現したキンチェムが代表例だが、ウマソウルは何も単一の世界からのみ来ているという訳ではない。同じ存在であるならばたとえ別世界の存在であろうとも理解できるが、自分の世界に居なかったもの、あるいは活躍することの無かったものならば自分はその名を把握することは叶わない。ならば、果たしてウマソウルと呼称される物は一体どれだけの世界から集められるのだろうか。
そこまで考えたところで、自分の思考が埋没しそうなことに気付き気を取り直す。
恐らく、三女神であれば何かを知っているのだろうが、今はそれを考える場ではない。大事なのは鑑定した結果を相手にしっかりと伝えることだ。
「それで、お前のウマソウルだが一つ興味深いことが分かった」
「数が多いことは知っているけど……それ以外に何か気になることでもあったかしら?」
「ああ。お前のウマソウルは複数のウマソウルから成り立っているが、その構成が距離や馬場、脚質の適性が最終的に均一になるようにできている。つまり、お前のウマソウルは全ての性質を併せ持っているわけだ」
71信じるということ5/1022/08/28(日) 23:42:20
そう、キタトレのウマソウルは言うなれば『秩序だった混沌』だった。
多数の魂が無造作に詰め込まれたかのようになっている彼のウマソウルだが、よく観察してみると、適性が等しくなるように丁寧に作りこまれていることに気が付く。例えば、気性の荒い者と穏やかな者、長距離を得意とする者と短距離を得意とする者がほぼ同数であり、これらの結果として精緻なパズルのような構造が築き上げられているのだ。出力する側の素質などの条件はあれど、極めて高い水準での万能性を保有しているのがキタトレのウマソウルが保有する性質だった。
しかし、
「だけど、私は芝の中長距離が適性で、逃げと先行が得意よ?もし本当に私のウマソウルがそうなら、それこそ大きい方のウオトレみたいに全ての場所と距離と脚質で走ることが可能になるんじゃないかしら」
しかし、現実としてその通りにはなっていない。
彼が言う通り、キタサンブラックのトレーナーは芝の中長距離を逃げ・先行脚質で走りきることを得意としている。もし本当にウマソウルが全ての性質を持ち合わせているのであれば、彼の適性は全ての馬場と距離を、全ての脚質で走ることが可能なはずなのだ。
では何故、彼はある特定の部分を得意としているのか。その答えを、自分は推測ではあるが理解していた。
「だろうな。ということはそれには必ず理由が存在する──俺が思うに、それはお前がキタサンブラックのトレーナーだからだ」
「私が、キタのトレーナーだから…?」
「言っては何だが、お前のウマソウルは控えめに言って万能だ。能力の問題は別として、その気になればあらゆる走り方と適性を実現させることすら可能だろう。つまり、お前がキタサンブラックと似たような脚質や適性を保有しているのは…」
「無意識のうちに私がキタの走りを理想だと思っているから、ということ?」
「ご明察。何でもできるのなら、お前の理想を実現させることだって可能なはずだ。そして、それは担当であるキタサンブラックの走りだった……どうだ?キタサンの、お前はどう思う?」
72信じるということ6/1022/08/28(日) 23:42:54
担当がトレーナーに多くを学ぶのと同様に、トレーナーも担当から多くの事を学ぶ。
彼らの関係性は決して一方通行ではない。トレーナーは担当が夢を叶えることができるように粉骨再審すると共に、担当の描く夢を走りという形で最も近くから見続ける。そして、時に担当達の走りに夢を魅せられるのだ。
それがどのような結果に終わるとしても、その関係に例外は無い。きっとキタサンブラックのトレーナーも、担当の人を勇気づけるような力強い走りに対して運命的な物を感じたのではないか。少なくとも自分はそう考える。
「フフフっ。ええ、そうね。私もキタの走りにはいつも夢を見せてもらっているもの。だから自分の適性がこうなったのもそういった理由からなんだと思うわ。だけど……」
「だけど?」
「キタの走りを理想だと思っているのは、何も無意識でのことではないわ。私はキタの走りが好きで、キタみたいな走り方が理想だと常々思っているもの」
自分の考察を聞いて、楽しそうな笑みを浮かべたキタトレ。
それが正しいのだろうと共感すると共に、自分は常に担当の走りを理想だと思っていることを伝えてきた。
そして、彼の言葉と共に自分も認識を改める。沈着冷静として知られる彼は、どうやら自分の想像以上に愛情深い人物だったらしい。そのことを理解すると共に不思議と心が温かくなり、思わず口端から笑い声が漏れでた。狂信でも騙されたというわけでもなく、ただ純粋な信頼という物は、見ているだけでどこか快いものなのだろう。
「……くくっ」
「あら、何がそんなにおかしいのかしら。場合によっては今後の友人関係を見直すことになるけど」
「いや、誰かを信頼する気持ちというのはいつの世でも良い物だなと思っただけさ。もし気分を害したのであればすまない、この通りだ」
「冗談よ。貴方が誰かの思いを嗤う人間ではないってことはよく知っているもの」
「そう思ってくれると助かるよ。…それと、お前も薄々わかっているだろうが気をつけろよ?もしこの仮定が正しかったとして、もしお前が何かロクでもないことを本気で考えて実行しようとしたら…」
「ウマソウルは力を貸してしまう、ということね」
73信じるということ7/1022/08/28(日) 23:43:17
彼女に対して非礼を詫びた上で、彼に1つ忠告をする。
トレーナー達のウマソウルが2つ以上の魂で構成されるのは、人格や記憶に対する侵食を弱めるためだ。そして、ウマソウルの人格や記憶が強固であればあるほど、その力は強まる以上、自分の様に単一のウマソウルが侵食を起こしていないのは本来あり得ないことなのだ。
ならば、無限にも思える数の魂で構成されるキタトレのウマソウルには総体としての自我は存在するか?
──存在しない。代表者としてその中の誰かが強い個を持って出てくることはあるだろうが、全体としての意思決定を左右するほどの力は持ちえない。
故に、彼は気を付けなければならない。
万能であるが故に、扱い方によって善にも悪にも転びうるのがこのウマソウルの最大の問題点だ。無垢でもあるこの魂は、宿主であるトレーナーが強く望めば望んだ通りの走りを実現させてしまうだろう。彼のことは信頼をしているが、それでも用心することには越したことがない。
「そういうことだ。ま、もし仮にお前が本気で考えて、どうにもならなくなったら──任せとけ。俺が何とかしてやる」
「? どうにかする方法があるの?」
「決まってるだろう?お前を倒す。思う存分八つ当たりをして、その上で負けりゃ鬱憤も晴れて多少は気が楽になるだろうよ」
「……貴方、勝てる自信はあるの? 多分だけど、その時の私は今の比じゃないぐらい強いわよ?」
もし仮に、本当にキタトレがロクでもないことを考え、それを実行に移した時にどうするか。その解答を自分なりに示すと、不思議そうな顔をした彼に「出来るのか」と返された。
彼の疑問は正しい。
現時点ですらキタサンブラックのトレーナーは強い。
無尽蔵にも近いスタミナと、それを十全に活かすことのできるスピードと脚質。トレーナー達の中ではまず上位に数えられるだけの競走能力を持つ彼が、もし想定される最悪の状況になった時に更に強化されるのは間違いないと言えるだろう。
74信じるということ8/1022/08/28(日) 23:43:45
マイルから中距離を得意とする自分では長距離ではまず勝ち目がなく、中距離ですら苦境に置かれることは必至であり、マイル戦ですら対応され確実に勝てるとは言い切ることができない。
それこそ、現状の自分が強化された彼に勝つ可能性は低いと言わざるをえないだろう。
「勝つさ。勝てる可能性がある以上、勝敗は最後まで決まらん。そして、俺はその可能性を掴み取れると信じている。それだけの話さ」
だが────それがどうした?
勝つ見込みが低い?
相性は最悪?
全くもってその通りだ。現状の自分では勝つ見込みは薄く、相性は最悪だ。勝つという言葉ですら虚勢に近いと言われても仕方がないだろう。
だがそれでも、戦えば勝つのは自分だ。
相性や戦力の良し悪し1つで勝負を諦められるなら、たとえそうであっても勝てるとすら言えないようであれば────自分はウマソウルなどにはなっていない。
敗北を踏み越え、8000以上の夢を踏み砕き、時代の頂点に立った者として。タニノギムレットはその功績を以って死後ウマソウルとなり、今でも存在し続けている。勝つことを諦めるのは自分が倒してきた相手、そして何よりもこれまでの自分に対する侮辱に他ならない以上、たとえ誰が敵であろうと自分の中に負けるという選択肢は最初からなかった。
「────」
自分の傲慢とも言える言葉を聞いて、少し呆気にとられたかのような表情を浮かべるキタトレ。常に冷静沈着な彼を知っている身からするとあまり見られない姿であり、流石に大言壮語が過ぎたかと少しばかり思う。だが、後悔はしていない。誰と戦おうが自分が勝つと考えているのは事実であり、それを捻じ曲げることはする気は全く持ってなかった。
75信じるということ9/1022/08/28(日) 23:44:23
「…っふ。ふふふっ。まさか「自分が勝てると思ってるから勝つ」、だなんて。まさか貴方からそんな言葉が飛んでくるとは思ってなかったわ。ごめんなさいね。少し意外でちょっと笑ってしまったわ」
「本当に思っているからな。笑った件については別に気にしちゃいないさ。さっき俺も似たようなことをしたんだからお互い様さ」
「ええ、貴方はこういう時に嘘は吐かないしね。きっと本気で言ってるんだってわかるわ。後、これはさっきの仕返しということにしておきましょう。」
キタトレがどのような反応をしても良いように身構えていると、彼からは微笑ましいような愉快なような笑い声と共に、自分が客観的な根拠がないままに勝てると断言したことを意外に思う声が返ってきた。
いきなり笑い出したことについては先程自分もやっていたことなので人の事は言えないが、自分がそんな堅物な人間だと思われていたことについては疑問が残る。控えめに言っていい加減であり、そのように思われる人間ではないと思うのだが。彼からするとそういう物なのだろうか
「だけど、2つ、貴方に言っておくことがあるわ」
「ん?どうした。何か間違っている部分でもあったか?」
「1つ目はその通りね。まず、仮にレースで戦ったとして、勝つのは私よ。貴方と同じように、たとえ誰が相手であろうと私は勝つつもりだもの。そして──もしそうなったとしても、貴方より先にキタがきっと解決してくれるわ。それが2つ目」
自他の評価の違いについて朧気に考えていた自分にキタトレの思いが告げられる。
全く思えばその通りだ。負ける気が無いのは自分も彼も同じこと。自分が「お前を倒す」と告げたのならば、相手だって同様のことを返して当然だ。
そして、もし仮に彼がロクでもないことを考え行動に移したのならば、キタサンブラックは必ず止めるだろう。他人が困っているところを見捨てない彼女ならば、それこそ彼が行動に移す前に止めることだって可能なのかもしれない。
「──これも信頼ってやつかね?何も根拠は無いのに、不思議とできそうな気がしてくるな」
76信じるということ10/1022/08/28(日) 23:45:17
彼と話して感じたことを正直に口にする。
キタサンブラックとそのトレーナー。彼女たちがもし仮に自分たちが想定する状況に置かれたとして、キタサンブラックは絶対に彼を救う。その勝敗がどうであれ、それだけは絶対だと不思議と確信できる。根拠は無いが、そう確かに思えるのだ。
「あら、根拠はあるわよ?」
「へぇ? 後学と言っては何だが、教えてもらっても良いか?」
「ええ、良いわよ──だって、キタは『お助けキタさん』だもの。この程度の事、絶対に解決してくれると信じてるもの」
『彼女への信頼』、それこそがキタトレのキタサンが自分を救うことができると断言する理由。まるであってもない理由だ。それこそ、自分がレースに勝つと思う理由とさして変わらない。
だが、それでいいのだろう。
傍から見れば客観的な物ではないけれども、当人にとっては信ずるに足る理由。彼にとって愛する担当との絆は確かに、明確な根拠となりえるものなのだろう。
自分の引き起こすことを「この程度の事」と言い切るのも彼女への信頼あってのものなのだ。
「ふふ…」
「くく…」
2人して同じことを考えていたのか、自然と朗らかな笑い声が漏れ出て、互いに顔を見合わせた時にはもう、これまでの憂慮は何処かへと消え去ってしまった。
確かに、ウマソウルへの懸念は消えていない。万能であるが故に、それは宿主の願いを叶えてしまえる。だが、もしそうだとしてもきっとどうにかなってしまうのだろう。
大丈夫だという根拠はない、解決するという確証もない。
ただ、どうにかしてみせるという絶対的な確信がそこにある。ならば今はそれで良いのだ。自分たちにとってはそれで十分すぎる。
これまでの考えを一笑の下に霧散させた彼らの朗らかな笑い声と、上機嫌な話し声はその後、話の話題でもあったキタサンブラックが彼のトレーナールームに入室するまで続いていた。
≫92二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 15:04:33
「(…………)」←目の前にオクラととろろ
「あれ、チーフはばくだん丼のオクラととろろ食べないのか?」
「食べるよ?食べるんだけど……ちょっと覚悟をさせてくれ」
「先輩は野菜とかねばねばとか嫌いなんすもんねぇ」
「へぇ~。でも親父さんは野菜好きだし変われば覚悟する必要はないんじゃないと思うけど…」
「ギムレットは歯応えの悪いものが嫌いだから食べたくないと断固拒否してる。後『頼んだのはお前なんだからお前が食べろ』だってさ」
「親父さんねばねばしたものはダメだったのか…」
「正論過ぎて何もかも言えないっすねぇ…」
「──あれ?トレーナーたちはここに居たのか?」
「おっ、ウオッカじゃん。午前中の授業お疲れ。どうした、飯食いに来たところか?」
「そんなところだぜ。…今日のランチはばくだん丼か!良いなぁ、買ってくるから待っててくれないか?」
「もちろん、急がなくて大丈夫っすよ~」
「わかった。行ってくる!」
「「「…………」」」
「先輩」「チーフ」
「頑張ります……」
流石に教え子が食べれるのに野菜嫌いで残す訳にはいかないでしょ──全員のそんな考えのもと、震える箸でオクラととろろを食べ始めるウオトレ(親父)。
ウオッカが自分の昼食を持って席に戻ってきた時、彼の顔はなかなかには見られないほどの達成感で彩られていた。
≫98二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 18:01:16
タイ「おっ、グラトレは料理か?」
グラ「おや、タイトレさんこんにちは〜、ええそうですよ~」
タイ「それで生徒が何人か厨房を覗いていたのか」
グラ「いつものカフェテリアとは違う料理……少々気になるのでしょう〜」
タイ「違う料理?」
グラ「今日はオクラと辛味噌の焼肉丼でも作ってみようかと思いまして〜」
タイ「それは美味そうだな!」
グラ「どうでしょうか~、タイトレさんも食べられませんか~」
タイ「良いのか?」
グラ「ええ〜、彼女等の分も作ろうと思っていたので一人増えても変わりませんよ~」
生徒「!!」
タイ「それならいただくぞ!」
グラ「……ですが完成まで少々時間が掛かりますので〜、オクラは沢山有りますから食べていても良いですよ〜」
タイ「生のオクラか?」
グラ「ええ、生でも食べられますからね~……貴女達も食べたいのでしたら食べて良いですよ~」
生徒「う〜ん」「食べてみようかな?」「私は……パスかな……」
タイ「ハハッ、皆悩んでいるみたいだな!……それじゃあ俺が先に貰うぞ」アーン
グラ「どうぞ〜……待て!それは違う!!」
タイ「?」パクッ
グラ「…………その、それは辛味噌用の青唐辛子……」
タイ「!!!!!」
オクラだと思って青唐辛子を思いっきり齧ってしまったタイトレは辛さのあまり跳ねた。
そして厨房を覗いていたが為に、跳ねるタイトレに合わせて跳ねる双丘をしっかり目撃してしまった生徒達の何かが破壊され。
タイシン「……まったく、探しに来たら何を騒いでるのよアンタは……」
タイ「タイヒーン……タイヒーン……ひゃらいー」
タイシン「……!?」
そんな中で後から来たタイシン
辛さのあまり舌をチロっとだした泣き顔のタイトレにタイシンの性癖は破壊された。
うまぴょいうまぴょい
≫124二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 21:53:08
「そらっ!」
パカーン。青々とした初秋の空に、柵の割れる音が高く響きました。
そこにいたのはギムレット。周りにも何人かのウマ娘がいます。かっこいいとばかりにギムレットを見ており、それにギムレットもご満悦の様子。
「どうだ!そう、もっと…もっとだあでっ」
「なあにしとんのじゃギムちゃん。また柵を折ったのじゃろう。工具を持って来てて正解だったのじゃ」
ぽこん、とギムレットの頭を跳躍してチョップ。見事に着地を決めたのは、琥珀の波打つ髪に牡丹の猫目、元ばあさんにして現ロリウマ娘、ギムレット担当トレーナーことギムトレです。
秋色のイチョウがの山茶花が刷られた着物に、深緑の袴。右手には大きな工具箱と、幾本かの予備柵をもっていました。
「何だよトレーナー。今きっちり柵を蹴り壊しただろ!?」
「もう柵の破壊については何も言わないのじゃ。それよりほれ、見てみるのじゃ」
ギムトレが指差した先には、今回は派手にいったようで、2本一気にパカーンと、きれいに柵が折られていました。
「これを今から治すのじゃ。手伝って欲しいのじゃが……皆も頼めるのじゃ?」
周りで見物していたウマ娘達数人は、素直に手伝いを承諾してくれました。
全員ジャージということで、今すぐにでも作業を開始できそうです。
「じゃあ始めるのじゃ。ギムちゃんも手伝うのじゃぞ?」
〜〜〜⏰〜〜〜
トンテンカーン。トンテンカーン。
柵を立て直し、横柵を釘で固定して、下にブルーシートを敷いてニスを塗る。
やはり人数が多いとそれだけ効率は上がるもので、あっという間に柵は元通りになりました。
「ふう。助かったのじゃ。皆、ありがとうなのじゃ」
めいめいにそのお礼に返事をして、帰ろうとしたウマ娘たちを呼び止めます。
125二次元好きの匿名さん22/08/29(月) 21:54:21
「これはお駄賃じゃ。…皆には内緒じゃぞ?」
真っ赤な紅葉と川の模様のがまぐちからぺかぺかした500円玉を3つ取り出すと、それぞれの手のひらに乗せてやりました。
最後にパチリとウインクをすると(とは言っても両目をつぶりました)、皆ぱあっと笑顔になって、ありがとうございます!とぺこりとお辞儀をして走っていきました。
「トレーナー、いいのかよアレ」
ぶすうっと、少し不機嫌なギムレットがトレーナーへと歩み寄って、頭にあごを乗せて来ます。うりうりとつむじの方で頬を擦らせてくるのがなんだかくすぐったくて、その体温に安心します。
「いいんじゃよ。いい仕事にはきちんとした報酬。ギブアンドテイクなのじゃ。仕事に責任を持ってもらうためにお金は払うものじゃからな」
「ふ〜ん……」
ひょいっとトレーナーを持ち上げたかと思うと、そのまま肩車をするギムレット。ギムトレは驚いたようで、ギムレットの頭をぎゅっと持っています。
「俺にはなんかないのか?」
そんな彼女をスキップで揺らしながら、ギムレットは頭上へと訪ねます。一応脚を持っているので、滑り落ちる心配は不要そうです。
「じゃあ…今日は休日じゃし、何かお昼でも奢るのじゃ。外食に行くかの。いいカキオコの店を見つけたのじゃ」
「いいな。じゃあこのまま行くか!」
涼しくなり始めた風が、二人の頬を撫でました。
その後、カキオコを頬張り口内を火傷した二人がいたとか。
おしまい
ギムトレちゃんとギムレットちゃんの柵の1幕です。
ギムトレちゃんが若くなって互いのやり取りも若々しくなっています。のじゃロリおばあちゃんいいよね……いい……
≫173二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 19:00:57
「…なるほどな。以前見たときから変わりなしだ。」
「ん、問題はなさそうね」
可愛らしい人形のように、キタトレの膝上ですやすやと眠るサトトレを詳しく観察した後、ギムレットはそう言った。
「ウマソウルの定期検診、とでも言えばいいかしら。極論、器たる私と違ってサトトレはちょっと、ね…」
「だが、まさかウマソウルから精神状態を推し量るなんて発想をするとはなキタサンの。」
「今のサトトレはウマソウルと融合してるのでしょう?なら、そこから推察することは出来るわ。丁度、視れる貴方がいるのだし」
「まあその通りだ、確かにその輝きからある程度は判別出来るからな。まして、浸食どころか融合してる彼なら尚更…な。」
──一度溶かして混ぜ合わせたのを固め、型に流して作り上げた硝子細工のような魂。精巧なパズルなキタトレとは対照的だった。
…だからこそ、サトトレは望まずとも自分の力であるが故に自由に出力できるのだ。『宿主』ではなく『自分』だから。
「…その代わりに、元の性格からは当然変わったし、最初は受け入れられなくて壊れかかってたのよね。」
「サトノのの元の性格か、聞かされてもイマイチしっくり来ないな。」
「当たり前よ、貴方はその頃の彼を知らないのだから、今の走るサトトレの方が馴染みのある性格でしょうね。」
恐らく、以前のサトトレより今のサトトレの方が周りへの認知度としては高いし、サトノジャッジとして認識されているだろう。
しかも本人は変化したことに対してあまり自覚がない。これらから導き出されるもしかしたらの可能性とは…
「今のサトノのが、最悪『サトノジャッジ』としてのみ存在しえたという訳だ。『サトトレ』としてではなく」
「ええ、そしてそうならなかったのは間違いなくダイヤちゃんのおかげね。信じられる人の存在の大きさの証、かしら。」
一番ヤバかった時期とその対応を知るキタトレからすれば、トレーナーと担当との信頼が繋ぎ止めてくれたと言えよう。
「これも、信頼なのでしょうね。…とりあえずありがとうギムレット、後で奢るか何か作ってくるわ。」
「む、それなら以前作ってくれたにんじんステーキ、あれを作ってくれるか?」
「ふふっ、お気に召したかしら?勿論いいわよ、多目に作ってくるから好きなだけ食べても構わないわ。」
「何故だ?」
174二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 19:01:21
ちらりとキタトレの視線が向かう先に眠る彼の姿を見たギムレットは、納得したと言わんばかりに微笑するのだった。
──その後、ギムレットは程よく噛みごたえのあるステーキに舌鼓を打ち、とても満足そうな表情をしていたとか。
短文失礼しました
ウマソウルの話から派生させたサトトレの話。本来昨日には書き終わって上げてたはずなのに…うぐぐぐ。(サボり癖)
宿主のキタトレと、自己のサトトレ。それぞれ違うカタチではあります。後、ギムレットへのステーキは噛みごたえヨシ!
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part824【TSトレ】
≫21二次元好きの匿名さん22/08/30(火) 21:32:13
『つれづれ噺~わたしをみつめて的な衣装のおはなし~』
「これおなかのあたり凄い出るわね」
「出るなぁ……」
「出ますねぇ……」
「あと割と胸が強調される」
「無理はなさらないでいいですよブラトレさん」
「いや一応平気だから……」
「あんた結構恥ずかしがりのくせにそういうのは別にいいの?」
夏合宿に合わせて行われる特別ライブ、その衣装のサンプルが届いたため数人のトレーナーが確認を行っていた。確認ついでに一部のトレーナーはある程度合うサイズのものを着てみたりしていたのだが。
「まあ似合う似合わないはともかくとして、教え子が普通に着こなしてる都合俺たちが恥ずかしがるのもどうだろうよという感じだよ」
「あー、だから勝負服やステージ衣装に関しては特に何も言わないんだあんた」
「衆目に晒されてもいい、というデザインで作られてるからなあの衣装って。……一応全部そうだからなあれら」
若干怪訝そうな顔をするブラトレに、バントレも思うところがあるのか軽く苦笑する。
「……何を想定して言い直したのかは聞かないでおきましょう」
「たまにデザイナーの趣味が爆発してるのあるわよねえ」
「趣味を職に活かせる、と考えればある意味天職と言えましょうが……まあ、健全な範囲で頼みたいところではあります」
雑談しながら動きやすさも確認する。伸縮性のある生地は動きを阻害することなく、腕や脚のパフォーマンスをより際立たせた。
「元デザイン的な話でいうとブライアンのあれな、へそ出しロングコートというだいぶニッチなものだったんだよあれ」
「ニッチとか言わない」
「デザイン見たときいやすげえの送ってきたなと思ってな、まあブライアンが気に入ればいいなとは思ってたが……」
「……あぁ、裾」
「そう、裾。ズタボロになってた。デザイナーの人は『これもデザイン!』とか言って喜んで次のネタに活かそうとしてたけどな」
「強いわねデザイナー」
「何事も吸収力なんだなーって俺は納得したよ」
「学習出来る人のほうが大成する、というのは間違いないでしょう。我々も学びを疎かにしてはなりませんからね」
「……努力するわー」
練習にしろデザインにしろ、様々なインプットから成り立つものなのだろうな、と彼らは思うのである。
だからこそトレーナーもインプットを大事にするため、せっかく着た衣装と共にダンスのトレーニングとしゃれこむのであった。
≫57二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 18:16:24
「トレーナーさん……もしかしてこの濃い緑の羊羹の材料は……」
「流石にコレは私も少々堪えますからね~」
「なので寒天で?」
「ええ〜、名付けてロイヤルビター羊羹と言ったところでしょうか〜」
「固形化に意味は有りますかね?」
「小さく切ればどれ程苦くても食べ易いと思いますよ~」
「そうでしょうか……?」
「まあまあ、一見に如かず……では、いただきますね〜」
「大丈夫でしょうか……」
「アムッ……………グウッ!」
「トレーナーさん!?」
「こ、固形物だから飲み流せ無……い………………」パタッ
「トレーナーさぁぁぁん!!」
≫61二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 20:16:00
マルトレ「なんでわざわざロイヤルビタージュースそのまんま飲むんだよこういうのはとりあえずハチミツ入れたりして不味さを中和して飲むもんだろ」(蜂蜜を入れる)
マルゼンスキー「あっトレーナーちゃんそれはやめた方が」
マルトレ「まっッッッっず!!!ハチミツとロイヤルビタージュースの成分が固着したのか変な粘度が発生して口当たり最悪だし喉に引っかかる上ハチミツの甘さがむしろロイヤルビタージュースの苦さを引き立てて舌の上で暴力団が銃撃戦の抗争してるみたいな酷い味してる!!!」
マルゼンスキー「そういうことよトレーナーちゃん。アレンジしようとすると余計不味くなるのよ。だから飲んだ後に甘いものを食べるしか無いの」
≫63二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 20:22:56
ある日のこと。
とりあえずルドゴルと呼ぶべき二人はなんか話していた。
「ねぇゴルトレちゃん」
「……どうした魔ルド。今度は怪鳥と取っ組み合いでもしたか?」
「いや、なんか、こう……ロイヤルビタージュースって個人で作ったらどんな感じになるのかな、って」
「……やるのか?」
「やるよ?」
その返答を聞き、ゴルトレは満足そうに頷いてからスマホを手にして軽くなにかを送信する。
「よし!このゴルトレ様も付き合ってやる!とりあえずサブトレにゴルシのことについてアレコレ頼んで……ムントレとトプトレは……あいつら忙しいから今回は放置!魔ルド、そっちはどうだ!?」
「とりあえずチームの方は黒ルドちゃんに押し付…任せて……ルドルフは、まあ獅ルドさんいるし……」
「なら安心だな。つーことで、行くぞ!材料集めの時間だ!」
「おー!」
こうして、ノリと勢いそのままに二人は(仕事が突然増えた黒ルドを放置して)学園外へ駆ける。
なんとなく嫌な予感にまみれた黒ルドを放置して……
それから二人は、近所のスーパーとか諸々を駆け、材料調達に勤しむ。
そうして、なんかいい感じに材料を集めるのだった……
「集まったな……ここまでおおよそ6時間。まさかピクピクニンジンのためにサムスと交渉する羽目になるとは思わなかったぜ……」
「でも、これで自作ロイヤルビタージュースが出来るね!レシピとか成分表示見てないけど!」
「だな!」
そうして、地獄のクッキングタイムが幕を開ける。
64二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 20:23:32
「とりあえずこれはミキサーでジュースにしてから濾して……」
「魔ルド。ロイヤルミルクティーの方終わったぞ」
「はーい!それじゃあ、このエキスとか入れて……」
混ぜる、濾す、煮る、混ぜる。
それらを繰り返して製造開始から早六時間。合計半日の壮絶な過程の末にオリジナルロイヤルビタージュースは完成してしまった……
ゴルトレがグラスに完成品をそそぎ、魔ルドは誰かを呼んで……
「ということで、自宅に仕事を持ち帰って残業しようとしてた黒ルドちゃんも連れてきたよ!」
「待て!何が行われてるんだ!?」
「安心しろ黒ルド。死ぬときは……三人一緒だぜ」
「本当に何なんだ!?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと色々あったことののお礼だから」
「……信じるぞ、その言葉」
そうして、拉致されてきた黒ルドを含めた三人の目の前にロイヤルビタージュースと呼んでいいのかわからない緑のおぞましい液体が置かれる。
65二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 20:23:54
「……待て、これってロイヤルb」
「安心しろ。手製だ」
「なら、大丈夫……なのか?」
そう、黒ルドは不安たっぷりな顔でグラスを手に取ると、他の二人もグラスを持つ。
「それじゃあ……かんぱーい!」
「か、乾杯……」
「乾杯!」
乾杯、そして一気飲み。
喉を通り、胃に達しようとする劇物をよそに、三人の表情は、一瞬"無"に至る。
「……あれ、以外といける……?」
「確かにな…って、後から壮絶な雑味が襲ってきやがる!?」
「えっと、牛乳、牛乳……」
「魔ルド、バカお前直接口つけるな!黒ルドが間接キスになるだろ!?」
「……え?もう口つけちゃったけど……」
そうして、地獄のようなドタバタの後、三人は既製品のロイヤルビタージュースが如何にありがたいかを理解するのであった……
≫70二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 20:44:44
『或るトレーナーのレビュー』
購買部に燦然と輝く、ロイヤルなアレ。
アレと表現するのはいかがなものかと思われるが、口から摂取するものであるにも関わらず、その味を知ったほぼ全ての人がアレと呼ばざるを得なくなる独特のえぐみや苦みが特徴である。
だがこんなものにも一部好事家がいるらしい。嘘だと言ってほしい。
陳列棚には『これさえあれば激務にも勝てる!』といった具合のポップが乗っていたりするが、激務よりも先に味で撃沈する可能性もあるのはちゃんと広告に載せてほしいところである。
見た目だけで言えば、青汁だ。実際青汁も人によって好みの分かれる代物であり、癖の少ないものと称して売られるものすらある。ではこれはどうだろう。
青汁のそれを数段階ヤバくしたものに、何か別のものを取り込んで進化したものともいえるかもしれない。そしてえぐみもにがみも切なさもすべて、売られ始めた時から変わらない。ある意味ストロングスタイル。
うちにはこれがあるよといった具合に、強面の板前が自信をもって提供するような光景すら目に浮かぶ。
板前に謝ってほしい。
味ばかり言うのも何なので、効能についても触れておこう。
実際、体力と呼べそうなものは劇的に改善される。選手たちがどれだけ全力疾走や筋力トレーニングなどを積み重ね、へとへとを通り越してあと一歩運動すれば間違いなくケガを負うか意識を失うであろうレベルの体力でさえ、万全かその一歩手前ほどに回復する。それは間違いない。
そしてその効能はトレーナーたちにもいかんなく発揮される。日々の激務に追われ疲れ果てた体に染み渡る……少々染み渡りすぎて有り余るであろう程の体力を一気に回復させてくれるのだ。その点だけ見れば、非常に優秀である。
だが、効果が相応にある分、代償は大きい。
まず、間違いなく二日から三日ほどは舌に味が残る。ひりつくというべきか、刻み込まれているというべきか、そういった具合で感覚が鈍る。
本当にこれ健康に良い飲み物か?
次に、代償ともいえるレベルで気力が下がる。あくまでも行動するための体力が回復するだけであって、やる気が上がる事はない。むしろ下がる。ダダ下がりする。
つまり、飲んだ瞬間も大概なダメージを受ける上、その後数日間にわたって禁忌に手を出した代償を支払わされる優しさの欠片もない飲み物。
これがロイヤルなアレと呼ばれる一番の原因かもしれない。
71二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 20:44:57
ノブレスオブリージュといった具合の、高貴なるものはそれ相応の代償を払うものであるという具合の言葉もあるが……これの場合悪魔にろくでもない契約を結ばされたといったほうが正しい気がするのである。
本当に切羽詰まった時のみ摂取することをお勧め……したくはない。できるなら一般的な休息で整えてほしいし、人気故あまり見当たらないがバイタルシリーズの高級グレードを選んだほうがよっぽど心と体に優しいと思われる。
総評。追い詰められた人向けの最終兵器。
お供にカップケーキを用意して少しでもダメージを軽減するべきである。ただし同時に食べてはならない。数日間をおいて食べなければ、効果は半減どころか悪化するであろう。
~追記その1~
最近ブラックヴォルフのトレーナーと購買部に立ち寄った時、ロイヤルなアレを見かけてしまったのでつい二人して買ってしまった。
彼(彼女?)曰く「なんかあった時のために用意はしてるんだよな、まあほとんど出番は無いんだが……」とのこと。
チームトレーナーは大変なのかもしれない。
~追記その2~
某日購買部をぶらついていたところ、鬼気迫った眼でナイスネイチャ担当トレーナーがロイヤルアレを買い物籠の中に多量に叩き込んでいた。
早まるんじゃない。
≫79二次元好きの匿名さん22/08/31(水) 21:49:41
「…」
「ごめん、罪悪感が…」
座ったままにロイヤルビタージュースを手に持ち、無言でじっと見つめるサトトレに謝るモブトレとファイトレ(男)。
…偶々余らせたこの青汁を処理に悩んでいたモブトレがファイトレ(男)に相談し、更にサトトレと会ったのが理由だった。
──さて、体には凄く良いこのロイヤルビタージュース。身体を追い込む彼には丁度良いといえばいいのだが。問題は…
「む、無理に飲まなくていいからな…?」
「いや、期限が近いから持ってきたんだよね。飲めるし大丈夫だから…」
「本当に大丈夫ならそこまで固まらないと思うんだ」
「…」
この体になったせいで、子供舌には余りにもキツすぎる例の青汁。その不味さは大変苦痛な代物だった。
勿論、普段のトレーニングも追い込む分凄くキツいが、走るの大好きになったサトトレからすればそこまで辛くはないのだ。
「じゃあ…ん、んんっ………」
「…飲み干すのは早いのか…」
思い切ってぐっと飲み干すサトトレ。小さな体で頑張って飲み干す姿は中身を見なければ大変可愛らしいと言えよう。
「………うぇっ、不味い…」フルフル
「サトトレ、大丈夫か?」
必死で不味さを堪える彼。メカクレロリとはいえ、僅かに見える部分からも明らかに苦しそうな感じはしていた。
…その顔と震えた声は大変ソッチの性癖を持つ方にはぶっささりそうなそれだが、幸いにしてそんな人はここにはいなかった。
「カップケーキ持ってきたぞー、ついでに牛乳も」
「よし、じゃあ食べさせてあげよう」
余りの味に縮こまってるサトトレの口元へとカップケーキを運ぶファイトレ(男)。餌付けされたペットのように食べるその姿に、圧倒的小動物感を感じたファイトレ(男)とモブトレは思わずほっこりとするのだった。
短文失礼しました
サトトレとロイヤルビタージュース。頑張って飲んではいるだろうけど常用はしてない…というか辛いから流石にね。
メカクレロリの苦しむ姿です、多分刺さる人は凄い刺さりそう(ヤバかった頃はこんな苦しそうな表情結構してたけどね)
≫85ハヤヒデトレ概念22/08/31(水) 22:25:26
「ほう、これが例の映像か」
「ああ、偶然出てきてな」
トレーニングを終えた俺とハヤヒデはタブレットの動画をのぞき込む。
「中々良いフォームで走っているじゃないか」
「だろ?」
今見ているのは俺が大学生の頃の映像。当時の自分は走るのが好きだった。ウマ娘に敵わなくても、人間の中で最速を目指してやると意気込んでいた。
「しかし、この頃からトレーナー君が小さいんだな」
「うっせ。小さくて悪かったな」
すまないすまないとハヤヒデがクスリと笑う。
「……この頃のトレーナー君の走りを、この目で見てみたかった」
そう話すハヤヒデは、本当に残念そうな顔をしていた。
「ああ、そうだな……」
忘れもしない、あの日。交差点に突っ込んできた車に轢かれた俺は、奇跡的に日常生活を送れるレベルにまで回復したが、どれだけ走っても以前のように走る事は出来なくなっていた。
走れなくなった俺は、まるで空っぽになったように生きていた。そんな時、古い友人からこんな誘いがあった。
「なあ、ウマ娘のトレーナーをやってみないか?走っていた頃のお前の理論構築の能力が生かせると思うんだ」
何をするでもなく生きていた俺は、少しでも走りに関われるならと、半ば縋るような気持ちでトレーナーになった。
そして、担当のウマ娘であるビワハヤヒデに出会った。
例え怪我をしても諦めずに走る姿は俺にとって眩しく、そんな彼女の隣で支えてやりたいと思った。
「確かに俺は走れなくなっちまったが、お前に会えて良かったと思ってるよ、ありがとう」
「こちらこそ、トレーナー君が居なかったらここまで来れなかった」
映像の中の俺は心から楽しんで走っているのが分かる。それと同じくらい、ハヤヒデと一緒に進んでいくのは楽しい。改めて、俺は幸せ者だな、と思った。
「さて、そろそろ撤収するか」
「ああ」
「明日はトレーナー室に来てくれ。新しいメニューを考えたから、ハヤヒデの意見を聞きたい」
「ああ、分かった。また明日」
「おう、じゃあな」
別れを告げ学園の出口へ歩いていると、ふと強烈な気配を感じた。驚いて周りを見回すが、特に目立った物はない。
「気のせいか……」
俺はそのまま帰路につく事にした。今思えば、これが前兆だったんだろうと思う。
86ハヤヒデトレ概念22/08/31(水) 22:26:45
ピピピピ……ピピピピ……
「もう朝か……」
朝の目覚めはいつも悪い。最近は疲れが溜まっていたせいか、目覚ましの音がよりうるさく聞こえたような気がした。
「とりあえず、顔洗って目覚ますか」
顔を洗って目を覚ます、いつものルーティーン。だが、これほど効果があったのはこれが最初で最後だろうと思う。
「……は?」
そこには、白の髪とあどけない少年のような顔立ち、そしてなにより、頭の上に大きな存在感を放つウマ耳が付いていた。
「ははは、これがウマ娘化かあ。まいったな……はあ……」
俺はしばらく放心状態になった。
「さて、どうすっかな……」
いつまでも放心してるわけにもいかないので、この状況をどうするか考える。
ウマ娘化したトレーナーは大体担当を呼んでいるらしい。正直俺も混乱しているので、それが正しいと思った。ハヤヒデなら冷静に対応してくれるだろう。
そしてメールを送ろうとした所で、ある事に気づいた。
「……ハヤヒデ、俺が着られるような服持ってるのか?」
あくまで目測だが、視点はそこまで変わってないと感じるので、どう考えてもハヤヒデの服じゃぶかぶかだろう。
とはいえ、ハヤヒデの服が着られないからと言って他に当てもない。
『ハヤヒデ、俺の部屋に来てくれないか。朝早くに済まない』
結局、ハヤヒデを呼ぶことにした。
87ハヤヒデトレ概念22/08/31(水) 22:27:17
トレーナー君から朝早くにこちらへ来て欲しいというメールが来て、嫌な予感がした。ついにあの現象が来てしまったのかと。
ドアをノックして待っていると扉が開いた。そこに立っていたのは、少年のようなあどけなさを持った、ウマ娘の少女だった。そして、それがトレーナーであることも分かってしまった。
「済まないハヤヒデ、迷惑を掛ける」
「何か前兆のような物はあったのか?」
「昨日の帰り、学園を歩いてる時に強烈な気配を感じた。思えばあれが前兆だったんだろうな……」
そう語るウマ娘となったトレーナー君は、ウマ耳が付いていなければ小学生の男の子と言われても分からないかもしれないような顔になってしまっていた。
「とりあえず服をなんとかしないとな、そもそもどれくらいのサイズがちょうど良いんだ?ハヤヒデから見てどう思う」
「そうだな……とりあえず、今の服を着てみれば良いんじゃないか?元々が小さいから分かりやすいだろう」
「あ、それは思いつかなかったわ。ちょっと着てみるわ」
普段ならこんな考えは簡単に出てくるはずのトレーナー君が失念しているあたり、落ち着いているように見えても内心はとても混乱しているのだろう。落ち着くまでしばらくは一緒に居てあげた方が良いだろうと思った。
ハヤヒデに言われて、サイズを計るなら元々小さい自分の服を着てみればいいとようやく気づいた。どうやら思っているよりも混乱は深刻らしい。
しかし、服を着てみると、それよりも遥かに深刻な問題に気づいた。
「これは……」
「……俺の服ですらダボダボってどういう事だよ……145cmでピッタリの服なんだぞ……」
これより小さいとか冗談抜きで小学生レベルなんだが。流石に困惑を隠せない。
「とりあえずたずなさんに聞いてこよう。確か服の予備があったはずだ」
「すまない、頼む」
88ハヤヒデトレ概念22/08/31(水) 22:27:37
「持ってきたぞ、トレーナー君」
「すまん、助かる」
早速持ってきてくれたジャージを数種類のサイズで試してみる。
そして、ピッタリだったのが。
「130cm以下のサイズか……なあハヤヒデ、どう見える?」
「トレーナー君には申し訳ないが、正直小学生にしか見えない」
だよなあ……せめて身長が高くなってくれたらまだ救いがあったのに。
「とりあえず服を買いに行こう。歩けるか?」
ジャージだけでも困るので、おとなしく買いに行く事にした。
「大丈夫だ、行こう」
「はあ……疲れた……」
「まだ肝心の服が終わってないぞ」
「勘弁してくれよ……女性下着売り場に突入するだけでもめちゃくちゃ精神削られたぞ」
まさか人生で女性用下着を着る事になるとは思いもしなかった。恥ずかしくて死にたい。
「服はここで買えるだろ」
俺が入ったのは小学生男児の洋服コーナー。
「トレーナー君、それで良いのか……?」
「女の子用着せられるよりかは遥かにマシ。トレーニング中はジャージで良いしな」
適当な洋服を取ってレジへ向かって会計を済ませる。いつまでもジャージだと悪目立ちするので、試着室を借りて着替える。
89ハヤヒデトレ概念22/08/31(水) 22:27:49
「ちょっくら着替えてくるわ。ちょっと待っててくれ」
「分かった」
ウマ娘になって付いたパワーで服とズボンに付いたタグを力任せに引きちぎっていく。小さい頃にもワクワクが我慢出来なくて買った服をその場で着て帰る事があったっけな。最も今は微塵もワクワクしないが。
「ハヤヒデ、お待たせ」
「大丈夫だ、着替え終わっ……!?」
なんだろう、ハヤヒデの反応がおかしい。
「ど、どっか変か?」
「いや、変じゃない、変じゃないんだが……」
ハヤヒデは言いにくそうにしながら続けた。
「ものすごく可愛い、と思ってしまってな……?」
まさかの返答だった。さらに続ける。
「すまない。馬鹿にしている訳ではないんだ。ただ、本当に愛らしい子供だな、と思ってしまって」
可愛い?愛らしい?俺が?
……そんな事、小学生以来言われた事が無かった。本当に何もかも変わってしまったんだな、俺は……
「……今日はとんでもない一日だな、頭がおかしくなりそうだ。もうさっさと帰ろう」
そう言って店を出ようとすると、ハヤヒデが手を掴んできた。
「どうした?」
「すまない。トレーナー君の震えた手を見て、今どれだけ不安かと思ったら、つい手を掴んでしまった」
え?と思い下を見ると、皺が無くきれいな手が確かに震えていた。視界に映る髪は白く、地面はいつもより近く見え。まるで自分の身体が自分では無いような気がして。
自分でも分かるくらい震え、しかし自分とは思えない声でハヤヒデに尋ねる。
「なあハヤヒデ、俺は、俺だよな?」
「トレーナー君……」
「急に怖くなったんだ。今の俺が本当の俺なのか分からない」
我慢できず涙がぽろぽろ流れ出す。
「まるで他人になったようで、自分を証明するものが何一つ無くなってしまって。怖い。怖い……」
もう涙が止まらない。
90ハヤヒデトレ概念22/08/31(水) 22:27:59
不意に、ハヤヒデに抱きしめられた。
「大丈夫。君は私のトレーナーだ。ずっと一緒に居るから分かるさ。証明すら必要ないくらいに」
ハヤヒデの温かい腕と心に抱かれる。
「……俺は、本当にハヤヒデのトレーナーで良かった」
「普段支えてもらっているのだから、困っている時に支えるのは当然だろう?」
そう言って支えてくれるハヤヒデが、とても眩しく見えた。
「すまん、心配かけるな」
「気にするな。さあ、今日はもう疲れただろう。帰ろう」
「そうだな」
俺は大きく変わってしまったが、変わらない物もある。
それは、ハヤヒデがいつも一緒に居るという事だ。
彼女と一緒なら俺はどこまででも行ける。そう思えた。
≫121二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 08:32:08
暑さがまだ残る合宿場近く、海辺の砂浜。
案の定すぐに疲れてしまったので俺、転セイトレは早々にビーチパラソルで涼んでいた。
そこに現れたのはペンギン。……府中周りでは野生で見た事がない、ペンギン?
……軽く頭をふって状況と知っている事を考える。
ここはトレセン管理の合宿場で、今はあくまで決められた休憩時間のビーチ。
つまり仮にも日本の海だ。一応ペンギンを模したパーカーを羽織っているが流石に見分けは、付くのだろうか。さっきからじっと見られている……。
対してペンギン。一応俺が見た限りではペンギンを街中で見かけた事はない。とは言えキチンとペンギンが居たかどうか覚えてないので考え直してみる。
トレセン周りでは確か居なかった、はず。スカイと一緒に猫の散歩に付いていく事や釣りに山までは行ったが居なかったはずだ。
県外を考慮するともう絞り込めない。"前の俺"が撮っていた写真から現地らしき場所を探す限りだとペンギンが街中を歩いた事はない。多分……。
さて、問題は異常事だ。ブルトレさんといると偶に急に遠くの場所に居る事や、気づいたら知らない場所にいる事もある。
……ペンギンが日本の海辺に居てもおかしくない気がしてきた。堤防釣りばかりで砂浜に行かなかったのが悪かったのだろう。
然しこのペンギンが何らかのアクションを起こしてきたら話は別だ。危険がある場合この距離だと俺は何もできな──
「──!──ッ!」
「えっ……ぁ、ヴェヴェヴェゥーヴェヴェ!?」
「~~~!?──!」
通じてるかどうかすごく不安になる、リスニングは苦手だ。
此方を見ていたペンギンは先導するかのように此方を何度か見ながら海へ歩き出す。
ここは合宿場の海辺で、先導するのはペンギン。
一抹の不安もないとは言えないが、人も多いだろうし大丈夫だろうと付いていく。
海水に足を入れる頃、キチンと前が閉まって居るか確認し、次いで前方にも視線を向ける。
見るとペンギンは既に体を横に倒してスイスイと泳ぎだしていて、距離がどんどん離れている。
「あ、ちょっと待っ」ドバシャーン
気持ちが早った足は思い切り体を水面に叩きつけた。
122二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 08:32:29
痛みに顔をしかめながらそっと目を開ける。遥か遠くにはペンギンと思われる影が動いている。
水中をスイスイ泳いでる様であんなに早く動けたら気持ちいいだろうと言う当たり前な羨望が浮かび、物は試しと向こうへ泳いで見る事にした。
「ブプァアアアアア!!?」
「えっ!?だ、大丈夫ですかー?」
泳ぎを試して十数秒。ゲホゲホと水を吐き出しながら海から顔を出す。周りを見渡すとギョッと驚いた顔をしたブルトレさんが見えた。
砂浜もまだ近くに見える。余り遠くには行ってない様で何処か安心した。
「大丈夫ですよー。ペンギン見つけたので追いかけてただけです」
「ああ、ペンギンを……???」
「はい、今あっちの方にー」
「え、ええ……セイトレさん。そこ深くないですかー?」
「えっ、あ……」ブクブクブク
右足を動かそうとしてみる、上手く動かない。仕方ないので左足を動かしてみる。足が地面に付かない。
トプン、と海中に頭が浸かる頃に一つの考えが頭をよぎる。
──そもそも片足まともに動かないのなら上手く泳げないのでは?──
「ブプァアアアアア!!?」
「セイトレさーん!?戻れますかー!?」
「頑張り、まーす」
123二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 08:32:41
強がりを砂浜に返してさてどうしようと自由の利かない体に問いかけてみる。
思ったより疲れていたらしく、足だけでなく手も動きが鈍く感じた。……ビーチパラソルの下に戻った理由を思い出す、そうだ俺疲れてた。
「浮き輪いりますかー!」
「お願いしまーす!」
此方の様子を見てすぐに浮き輪を投げ渡されそうだ。一先ず危機は去りそうで安心する。
ブルトレさんは普段から並走トレーニングしているだけあって此方の目の前目掛けて浮き輪が投げられた。
その時、トンッと後ろから何かに押される様に感じた。気の所為かと振り返り背に目を向ける。
口に魚を咥えたペンギンが一匹、背中を押していた。何をされているのかわからずポカンと動きが止まる。
もう一度トンッと背中を押され少し前に動く。その調子でトン、トンと押された後に浮き輪の事を思い出す。
「……浮き輪!浮き輪は何処、に……?」 スポッ
「あっ、今ハマったその浮き輪ですね……」
「──!」
目の前で受け取るはずだった浮き輪に輪投げの様にスッポリと入ってきた。
……移動中inビーチ……
「ありがとうございます、助かりました……」
「大丈夫ですよ。ただそのペンギンの事ですが……」
あれから浮き輪をして取り敢えず浮かぶ事が出来た後、ペンギンに押されながら足が付く深さまで戻ってこれた。
足が着いたと思ったらペンギンが居なくなり変な夢かと思ったが、ビーチに先に着いており現実だと再確認する。
ブルトレさんにもしっかり見えているらしく、怪異とは別の不思議現象なんだろう。……怪異とは別の不思議現象って何……?
124二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 08:32:54
「やけに人懐っこいですよね、俺野良ペンギンはじめて見たから知りませんでした」
「日本にペンギンは生息していませんよ。動物園から着たとか、でもペンギンが居なくなったなんてニュースなかったはずです」
「なら……えーと、リヴァイアサン?」
「それはキャラクター名です」
「──ッ!」
此方を見ていたペンギンは急に鳴いたと思うと此方に近づき咥えていた魚を落とす。
貰って良いものなのか、そもそも食べて大丈夫なものかと見てみる。以前確認した毒のある魚ではなさそうだ。
どうしたものかとブルトレさんの方に視線を向けようとすると嘴が頭にとんできた。
「──ッ!!!」 ゴツン
「痛ッ!わかった、わかりました!貰います!」
「あ、生は駄目ですよ。ちゃんと調理しないと」
「俺もそこまで飢えてる訳じゃ、痛ァ!?」
「──ッ!!」 ゴツン
すぐに食べて欲しかったのか、もう一度嘴がとんできた。
125二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 08:33:07
おまけ
「そろそろ釣れる魚も変わって来ますね、多く釣れたらまた貰ってくれますか?」
「ありがとうございます、楽しみにしてますね」
「ありがとうございます~、ただ転セイトレさんは釣りは好きだけど不得手と言ってませんでしたか?」
「最近は豊漁なんですよねぇ、俺は相変わらずなんですけども」
「セイウンスカイさんの調子ですか」
「まあ、半分そのようなものです。水辺に近寄るとペンギンが最近出てきて魚置いてきてくれるんですよ」
「ペン、ギン……?ああ、以前話に聞いた」
「淡水にですか……?」
「ああ、グラトレさんは見てなかったですっけ。まあ、そのペンギンにスカイが張り合ってたくさん釣ってくれるんですよね」
「あら~、それは頼もしいですね~」
「微笑ましいですねえ、それで豊漁と」
「俺も食べ切れないと言ってるけど人手が増える分沢山穫れるんですよ。貰ってくれて助かります」
ブルトレさんとグラトレさんお借りしました。気づいたら久しぶりに書く事になったのでエミュには自信有りません、何でこんなに空いた?
書いた後見返してなんだこのペンギンと思いました、獲物持ってくる猫じゃん。ペンギンの生態に詳しく有りません。鳴き声は衝撃的。
ペンギン出すのは頂いた絵からネタ頂きました。(https://bbs.animanch.com/board/859364/?res=95)
すごく可愛くて嬉しい。ネタの出力に時間かかってた上トンチキで申し訳ない。書き出したら思ったより長くなりましたが楽しかったです。
≫139二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 19:03:17
1話 手に入れた日常
「へっくしょん!!うぅ……学園内とはいえ、最近は流石に冷えて来たなぁ」
紅葉した木々達がその色づいた葉を落とし、空気が冷たく吐く息を白くする様になって来たここ最近。
俺はトレーナー業務を終えて、学園の廊下を歩いていた。
「あ、マーチトレさん!」
「本当だ。おーい!」
「ん?」
名前を呼ばれて振り返るとそこには、
「こんな所で奇遇ですね。」
「マーチトレさんも今帰り?」
ロブトレさんとヒシトレさんが居た。
「そうだな、今から家に帰るところだ。そう言う2人はどうしたんだ?」
「帰ろうとした時たまたまヒシトレさんと会いまして、意見交換とかをしながら歩いてたんです」
「そういう事か」
「んでさ!マーチトレさんも、学園出るまでは同じだろ?なら一緒に行こうぜ!あ、急ぎの用事とかあるならそっち優先でいいぞ!」
「そうだな……うん、この後は特に予定もない。一緒に行かせてもらうよ」
そうして雑談を交え、互いの近況を話しながら歩き始めた。
140二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 19:04:03
「そういえばマーチトレさんとフジマサマーチ、ちょっと前から調子良さそうだよな」
「そうですね。偶にトレーニングとかで見かけた時とか、とても充実している様に見えますし」
「そうか?」
「そうそう。トレーナーステークス辺りからか?あのあと重賞も取ってたし、波に乗ってるって感じ」
「ああ、確かにそうだな。他のレースでも上位に入れる事も多くなって来た」
「何か変わった事とかあったんですか?」
「変わった事か……やるべき事が、はっきりしたとか……か?」
「やるべき事……?」
「見えたんだよ。マーチの為にどうすべきで、俺が何をすべきなのか。そして俺が何をしたいのかが」
「マーチトレさん……」
「難しい事はよく分からないけど、分かったんなら良かったな!」
「そうだな。でも……」
「?でも?」
「いや、当たり前の事なんだが……やっぱり負けるのは悔しいなって」
「……」
「上位に入れてるとはいえ、負けは負けだ。確かにゆっくりだが進んでいる。だが、それでも悔しいものは悔しい」
「それは……」
141二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 19:04:47
「……?あっ。すまない、変な空気にしてしまったな。別に気にしている訳じゃないんだ。
て言うか俺の事はいいから今度は2人の話を──」
「飲みに行こ!」
「……いきなりどうしたんだヒシトレさん」
「マーチトレさんはいつも頑張ってるんだ。たまには楽しんだってバチ当たらないだろ!」
「バチが当たる当たらないの話じゃなくてだな……」
「そうですね……うん、そうですよ!飲みにいきましょう!マーチトレさん!」
「ロブトレさんまで……そもそも俺、ウマ娘になってから酒飲めないし……」
「私もそんなに飲めません!」
「俺も!」
「じゃあ行っても……」
「いいんです!こういうのは楽しんだもの勝ちです!」
「そうそう!だから今日は酒でタイマンだ!」
「……わかったよ。せっかくの誘いを断るのもアレだしな。一緒に行く」
「はい!今日は楽しみましょう!」
「よし!んじゃ、飲み屋に出発だ!」
142二次元好きの匿名さん22/09/01(木) 19:06:02
いろんな人と助け合って、少しずつ力をつけて
負けて、負けて、それでもゆっくりだけど前に進めて
そんな日々が、俺には勿体無いくらいの何気ない日常が、ずっと続くと少しだけ夢を見てしまった。
だけどそんな日々は、すぐに終わりを迎える事になる。
時は同じく学生寮 フジマサマーチの自室にて
「よし、明日のトレーニングは……」
コンコン
「ん?こんな時間に誰だ」
「マーチは居るか?」
「その声は……オグリか。どうしたんだ急に」
「少し、2人だけで話をしたいんだ。今空いているか?」
「?ああ、大丈夫だが……」
秋が終わりを告げ冬が空気を冷たくする頃、それは唐突に始まった。
≫153ハヤヒデトレ概念222/09/01(木) 20:35:35
「ハヤヒデ、お疲れ様」
トレーニングを終えたハヤヒデに声を掛ける。
ウマ娘になってからしばらくして、俺はトレーナー業に復帰した。小さい身体に苦労する事もあるが、なんとかやっていけている。そして。
「ありがとう。この後はトレーナー君の番、だろう?」
「ああ……」
昨日のウマ娘になった後の身体検査で、怪我をした俺の足が回復している事が分かった。そして今日、ウマ娘になってから初めて走る。
ハヤヒデが聞いて来る。
「楽しみか?」
「まあな。また全力で走れる時が来るとは思わなかった」
実のところ、俺は心が踊るようだった。ウマ娘になって初めて感謝した。一度は諦めた走り。ウマ娘になった人はウマソウルの影響で走りたくなる事があるらしいが、この気持ちは違う。間違いなく自分の気持ちが走りたいと叫んでいる。
「ウマ娘の走りは人間とは違う。流す程度にしておけよ」
「分かってるさ」
スタートの位置に着くと、ハヤヒデが苦笑しながら話してくる。
「トレーナー君、クラウチングスタートする気か?」
「あ、つい」
過去の癖が抜けていないようだった。だが、それが却って自分の身体が走りが離れていなかったと感じられるようで安心する。大丈夫だ。俺はまた走れる。
「さあ、スタートだ」
「おう!」
心を落ち着かせ、耳を澄ましスタートの合図を待つ。
「スタート!」
声と同時に足で地面を蹴る。俺の身体はウマ娘の力と軽い身体のお陰でまるで飛ぶように発射された。
2歩、3歩、俺はどんどん加速していく。
スピードこそウマ娘のお陰で早くなっているが、この感覚は間違いなく走っている時の、過去で止まっていた感覚だった。
心の中で、俺は思ったより走りを諦められていなかったんだなと苦笑する。
とはいえ、流石に慣れない身体で全力疾走は不味い。そろそろやめておくか、と思った時、声が聞こえた。
『もっと早く走ろうよ!』
聞こえるはずがない声だった。同時に、スピードを下げようとした身体が再び加速しだした。
『─レー──!───ナ─!』
風を切り、景色が凄まじいスピードで流れ、周りの雑音など聞こえなくなるくらい集中力が高まる。
更に声がする。
154ハヤヒデトレ概念222/09/01(木) 20:35:47
『僕と走ろう!』
自分から出ていると思えない力がみなぎり、更に加速した。
──違う。そうじゃない。俺は自分の力で走りたい。借り物の力で走ってなんの意味がある?心の底から叫ぶ。
「借り物の力で走るなんて、真っ平御免だ──!」
その瞬間足を取られ、バランスを崩して身体が吹っ飛び、意識が消えた。
「……きて、起きて!」
目を覚ます。俺はコケて、意識を失って……?
「良かった!気づいた!」
「ここは……?」
周りを見渡すと、辺りいっぱいに草原が広がっていた。
「お兄ちゃんが中々起きないから心配したんだよ?」
話しかけてきたのは今の俺とそっくりなウマ娘だった。
「お前は?」
「僕は君のウマソウル?らしいよ」
「なんだ、らしいよって」
俺は苦笑する。この子がウマソウルだとしたら、ここは精神世界みたいな所なんだろうか。だとしたら。
「さっき話しかけてきたのはお前か?」
「うん!走りたさそうだったから。でも、力を貸してあげたら途中で転んじゃったからびっくりしちゃった」
なるほど。この子は中々にお節介な事をしてくれたらしい。
「あのな、よく聞いてくれ。俺は確かに走りたいと思うが、他人の力を借りてまで走ろうとは思わない」
「でも、僕は一緒に走りたいの!」
そう頼まれても困る。俺の身体を勝手に使って走ったりするんだろうか。
「お前は俺の心や身体を乗っ取ったりするのか?」
「そんなことしないよ!僕はお兄ちゃんに走っててほしい!」
より困惑する答えが返ってきた。俺の事が好き?
「それはどうしてだ?」
「……僕も、お兄ちゃんと一緒だから」
155ハヤヒデトレ概念222/09/01(木) 20:36:02
俯いて暗い表情をして続ける。
「お兄ちゃんが事故で走れなくなっちゃった辛さを、僕もよく知ってるから。僕ももっと、走りたかったから……」
その言葉で気付いてしまった。
俺と一緒という意味。
事故で走れなくなったという意味。
もっと走りたかったという意味。
そして──この子が、こんな小さな子供の姿をしている意味。
「だから 、一緒に楽しく走ろうって……早く走れたらきっと楽しいだろうなって思ったの」
やめてくれ。そんな目で俺を見ないでくれ。そんな顔をされたら、断れなくなる。
「ねえ、一緒に走ってよ!お兄ちゃんが楽しく走ってる所を見たい!」
……俺も、甘いな。だが。
「──分かった。一緒に走ろう」
「やったー!ありがとう!」
……走れなくなる辛さを知っている俺が、この子を放っておけるはずが無かった。
「ただし、約束だ。俺が走ってる時だけだ。守れるな?」
走る前にまずハヤヒデのトレーナーだ。ここを放り出す訳にはいかない。
「分かった!守れるよ!」
まるで保護者だな、と苦笑する。そもそもウマソウルのこの子と約束する事にどれだけの意味があるんだろうか。それでも、無視する事は出来なかった。
「それじゃ、またね!約束だよ!」
「ああ、またな」
挨拶をすると、眠りにつくように意識が微睡んで行った。
156ハヤヒデトレ概念222/09/01(木) 20:36:20
目が覚めると、保健室だった。
隣のハヤヒデが焦ったように声をかけてきた。
「トレーナー君!大丈夫か!?」
「すまん、大丈夫だ。心配かけたな」
どうやらすっ転んだ俺は意識を失って、数時間そのままだったらしい。奇跡的に外傷は無かった。
「ハヤヒデ、俺のウマソウルに会ったよ」
「ウマソウルと?」
「ああ。俺と同じくらいの子供だった。そして、俺と同じで事故で走れなくなったから一緒に走りたいそうだ」
「事故、か……」
ハヤヒデもすぐに意味を悟ったようだった。
「最初は他人からの借り物で走るなんて馬鹿げてるし嫌だと思った。だけど、あの子が抱えてる物は俺と同じ、好きな事の諦めだったんだ。それを放っておくことは出来なかった」
そして、ハヤヒデに謝る。
「すまん、勝手にあの子と走る約束をした。お前に迷惑はかけないと約束する。俺に走らせてくれ」
「構わない。それに、トレーナー君がそこで放っておくような人間ではなくて良かった」
「はは、そりゃどうも」
照れくさくて頭を掻く。
「さて、心配させたな。そろそろ帰ろうか」
帰る準備をしているとハヤヒデがこんな事を言った。
「それにしても、走ることが好きな子か。いつか話してみたいものだな」
「ははは、そりゃどうだろうな」
そんな他愛のない会話をしながら、俺たちは帰路についた。
まさか、この会話が事件を呼ぶとも知らずに。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part825【TSトレ】
≫39二次元好きの匿名さん22/09/02(金) 17:04:42
「了承!では任せるぞキタトレ」
「ええ、ありがとうございます理事長」
了承と書かれた扇をバッと広げ、いい笑顔で任せてくるは我らがロリ…理事長こと秋川やよい。そんな彼女からの任にニコニコと受けるのは胡散臭い女ことキタトレだった。…まあ、今の状況を簡単に言ってしまえばトレーナーと理事長との会議である。
「…ニャア」
「?」
さてそんな中、隣で参加者…だけど、大体キタトレが手際よく進めるせいでただの聞く係と化したサトトレは、ふと理事長の猫が近寄ってくるのを視界の端で捉えて見つめ合う。何がしたいか分からない(分かる訳ない)ので不思議そうな表情をせざるを得ない。
「…ぅわっ」
「ニャア〜」
置き物のように動いてなかったのが理由だろうか、ちょんちょんと机から肩、肩から頭上へ軽く飛びながら登られるサトトレ。
モフモフの髪に若干体を埋めつつ、時折舌で耳を舐められたりペチペチとされたりと割と好き勝手されていた。
「…疑問!この懐かれ具合、どう思うキタトレ?」
「あら、サトトレの頭上が丁度居心地良いのかしら」
「ニャ」
「あはは…」
暫く髪に潜り込まれてからようやく飽きたのか、ぬるりと抜け出してくるとそのまま端で落ち着く…かと思いきや。
──今度はキタトレの上に乗ろうとジャンプして…残念なことに届かず胸の連なるお山にぶつかって弾かれたのだった。
「随分やんちゃな子ね…」
両手で下に転がった猫を抱え上げると、何か気に触ったのかねこぱんちを連続で食らう。勿論、顔に届かず代わりに双丘を揺らすだけ…そうして一分も立たずに落ち着いた所で、キタトレは理事長の元に猫を置いた。それを見た理事長は一つうなずき
「再開!小休止もここまでに会議を続けよう」「そうですね、丁度良い息抜きにはなりましたわ。」
「…ここからですね」
「ニャ〜……」
短文失礼しました
キタサトトレと理事長with猫、実際理事長の猫がここまでアグレッシブかどうかは不明ですが、許して…
サトトレ(の髪)は小動物にも居心地の良い場所かもしれない。そして揺れるキタトレのπ、揺らしてなんぼだし仕方ないよね?
≫68ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:13:15
「おい、これから走るぞ」
『分かった!準備は出来てるよ!』
トラックのスタート地点に立った俺は心の中に語りかけた。変な気もするが、実際やり取り出来てるからなんとも言えない。
「スタート!」
ハヤヒデの声で俺は身体を撃ち出し、順調に走っていく。ウマ娘の力は凄まじく、昔走っていた頃とは比べ物にならないくらい早く走れる……しかし。
「はあ……はあ……」
息が切れ、ゴールが見える前にみるみるスピードが落ちていく。結局、ゴールに辿り着く前にへばってしまった。
「大丈夫か?水を持ってきたぞ」
「ああ、ありがとう」
水を飲み干し息を取り戻す。
「分かっちゃいたが、ひどいなこれは」
「その身体ではな。明らかに発展途上だ」
今の俺の身体はウマ娘とはいえ小学生レベル。走るコツだとか以前に基礎体力が足りなすぎた。
「ま、これはこれで最初から理想的な身体作りに専念出来る。これは大きなアドバンテージだぞ」
「確かに、そう考える事も出来るな」
まず体力を身に着ける。これが今の俺には重要な事だった。成長を考えれば理論立てながら身体を作る事も出来る。そして、走りに拘らなくてもコツコツ進める事も出来る。これはトレーナー業を兼任する上で大きなメリットだった。要は、今は本格的には走れないがデメリットばかりでもない、という事だ。
などと思っていると、心の声が聞こえてきた。
『ねえ、もう一回走りたい!さっきは中途半端になっちゃったから、今度は一周!』
ちゃんと走れなかったのがお気に召さなかったか。苦笑しながらハヤヒデにもう一回走ってくる事を伝える。
「すまん、あの子がもう一回走りたいって言ってるから、最後に走ってくるわ」
「無理はするなよ?」
「もちろん。軽く流してくる」
そしてトラックを軽く一周して、ハヤヒデの元へ戻った。
『はー、楽しかった!』
『そりゃ良かった』
どうやら満足してくれたらしい。そうしていると、ハヤヒデがこんな事を聞いてきた。
「なあ、トレーナー君は頭の中で会話しているんだろう?」
「ああ、あの子の事か?こないだの事件の後、走る前と走った後しばらくなら話せる感じだな」
こないだの事件とは、俺が走ってる時にぶっ倒れて頭の中のウマソウルと話した事。あれ以来、走る時は頭の中で会話出来るようになった。最近は話せる時間がどんどん伸びている。良い事なのか悪い事なのかは分からないが。
69ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:13:25
「もしかして、今なら私と話したり出来るのか?」
なるほど、ハヤヒデはあの子と話したがってるのか。確かに、ずっと話してるならどんな子なのか気になるのかは当然だ。
「起きてる時の俺の感覚は分かるらしいから、俺を介せば話せるぞ」
『えっ!?お姉ちゃんと話せるの!?』
今の会話を聞いてたのか、あの子が嬉しそうに聞いてきた。
「あの子もハヤヒデと話したがってるぞ」
苦笑しながら話す。
「そうか。少し変な気もするが、話そう」
「俺がそのまま読み上げるよ」
大雑把に伝える事も考えたが、そのまま喋った方が良いと判断して、仲介役に専念する事にした。
「君は本当に走るのが好きなんだな」
『うん!また走れるようになって嬉しい!』
「なるほど。また、か……」
複雑そうな顔を浮かべるハヤヒデ。小さい頃に怪我をしているから、思うところがあるのだろう。
『僕ね、お姉ちゃんが走ってる所を見てとってもかっこいいと思った!』
「それは嬉しいな」
これは初耳だった。まあ、ハヤヒデの走りに惚れるのは当たり前だが。
『それでね、思ったんだ。僕とお兄ちゃんとお姉ちゃんの3人で走って、いつかお姉ちゃんに勝ちたい!』
「おいおいおいちょっと待て」
突然の爆弾発言の投下だった。それは聞いてないぞ。
「トレーナー君、どうした?」
「いや、この子が俺とハヤヒデと3人で走って勝ちたいって言い出したから驚いて……」
ハヤヒデが一瞬きょとんとした表情をした後に笑顔を浮かべた。
「これは、中々強力なライバルの出現だな。いいぞ、いつか走ってあげよう。約束だ」
『ほんと!?約束だよ!』
俺を置いてきぼりにしてどんどん話が進んでいく。
「おい、良いのか?そんな約束して」
「だが最速を目指すなら、どちらにせよいずれトレーナー君も私と走る事になるだろう?」
軽い笑いを含みながら言われてしまった。確かにそれはその通りなんだが、いざ言われてしまうと超えられる気がしない。
70ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:13:38
「……中々、壁は高そうだな」
「それは、まだ実感が湧いてないという顔だな?」
「俺の心を見抜かないでくれ……」
だが、3人で走る。いつかそんな日が来れば、それはとても素晴らしい光景が見られるんだろうな、と思った。
『じゃあ、また今度ね!おやすみ!』
「おやすみ」
ハヤヒデと挨拶を済ませてあの子は意識からすっかり消えてしまった。
「中々元気でかわいいんだな」
「それ、俺のルックスの印象も含まれてないか?」
「それはどうだろうな」
そんな会話をした後、明日のトレーニングの時間を伝えて俺たちは家へ帰った。
71ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:13:55
─────────
「おかしいな……」
トレーニングの時間になっても一向にトレーナーが来ない。まだ身体に慣れていない事を計算に入れれば少しの遅れはするかもしれないが、1時間を超えるのは異常だ。流石に心配になり、電話をする事にした。
「もしもし、トレーナー君。何かトラブルでもあったのか?」
しかし、通話口から聞こえてきた声は、明らかに異常な物だった。
「うう……ぐすん……」
「トレーナー君!?」
弱々しいすすり泣きの声が聞こえる。
「今どこにいる!?」
「多分おうち……」
「分かった、今行く。待っていてくれ!」
急いでトレーナーの部屋へ向かい、ウマ娘化した際万が一の場合にと渡されていた合鍵を使って中に入った。そこには床にぺたんと女の子座りをしているトレーナー君だった。
「大丈夫か!?」
「うう……お姉ちゃん……!怖かった……!」
「お、お姉ちゃん……!?」
トレーナー君、いや、トレーナー君の姿でお姉ちゃんと呼んでくるという事は、私の推測が正しければ。
「もしかして君は、トレーナー君のウマソウルか?」
「うん……」
トレーニングに来なかった理由が分かった。しかし、もう一つ大きな問題がある。
「トレーナー君はどうしたんだ?」
なぜ突然ウマソウルの方が出てきたのか、それが分からなかった。
「分かんない……起きたらこうなってて……」
服を掴んで下から涙目で話してくる。中々破壊力が強く一瞬かわいいと思ってしまったが、今はそれどころではない。
「つまり、君は起きたら突然ここに放り込まれた、という事だな?」
「うん……」
ひどく混乱しているようで、また泣き出してしまった。だが、こんな小さい子が朝起きて知らない部屋に一人で放り出されれば怖くて当然だろう。
72ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:14:08
「心当たりはあるか?」
「分かんない、昨日も走った後は寝ちゃったから……」
どうやら昨日走った後に何かあった訳ではないらしい。理由に検討は付かないが、推測でトレーナー君を呼び出す方法を考える。
「君はいつも走る時に表に出てくるんだろう?なら、走ればトレーナー君と話せるんじゃないか?」
「確かに、それならお兄ちゃんと話せるかも!早く走りに行こう!」
「分かった、行くからそう急ぐな」
外を歩くと、こんな事を言ってきた。
「ねえお姉ちゃん、肩車してくれる?」
「え?別に良いが……」
すっかり軽くなったトレーナー君の身体を持ち上げ、肩に乗せる。
「わあ……!凄い……!」
頭の上からとても楽しそうな声が聞こえ、こっちも自然と笑顔になる。
「僕、こんな景色見たことなかったから、知らない物ばっかりでとっても楽しい!」
「そうか、喜んでもらえて何よりだ」
トレーナー君は走る時にしか話せないと言っていた。きっとこの景色も初めて見れたんだろう。しかし、この子はこんな見慣れた景色すら見た事が無かったのかと思うと、少し複雑な気分になる。
そうして歩いていると、目的地に向かうまでの間に出会った人からお菓子をもらったりした。……これはトレーナー君には内緒にしておこう。
「ほら、着いたぞ」
肩から降ろすと、早く早くと急かされる。
「そんなに急がなくても走るのは逃げないぞ」
そう言うと、こんな答えが返ってきた。
「でも、お兄ちゃんは逃げちゃうかもしれないもん!」
……ああ、本当にトレーナー君が好きなんだな。直接話すと分かる。この子はまだ純粋な夢を見る子供なんだ。そんな純粋さが、少し眩しく見えた。
73ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:14:22
「よし、準備が出来たぞ。ちゃんと走れるか?」
「もちろん!」
「気合十分だな。それでは……よーい、ドン!」
「ゴー!」
思いっきり走り出したのに合わせて後を追う。フォームもめちゃくちゃでスタミナ配分など微塵も考えていない。だが、その姿はとても楽しそうに見えた。
「はあ……はあ……」
だんだん疲れてスピードが落ちてきた。
「大丈夫か?」
「今、少し聞こえかけた気がする……少し……眠るね……」
そういうとすぐ眠ってしまった。だが、彼女ならきっとトレーナー君を連れ戻してくれるだろう。
直接喋ったのも少しなのに、無根拠で思ってしまうのは、彼女の純粋さに触れたからだろうか。そんな事を考えながら、抱きかかえてベンチへ向かった。
──────
朝起きると、見渡す限りの草原が広がっていた。つい最近も見た光景だった。
「なんで俺はここに……しかもあの子も居ないし」
何故かは分からなかった。だが、せっかくなので少し楽しむ事にした。
思えばこの間はしっかり見る事が出来なかった。改めて見ると、空気も空もとても綺麗で、どこまでも草原が続いていて、どれだけ居ても飽きない気がした。
「よし、走るか」
何故かは分からないが走る事にした。風が心地良い。こんな自由な場所で好きなように走るのは随分久しく、懐かしい感じがした。
そのうち疲れて地面へ転がりこんでしまったが、それすらもここでは気持ちが良い。走れる楽しさを噛み締めた。
「おーい!」
そうしているとふと自分を呼ぶ声が聞こえた。といっても、ここに来るのなんてあの子くらいだが。
「おう、どうした」
「どうした、じゃないよ!なんで居なくなっちゃったの!戻ってきてよ!」
「いや、俺はここに居るが」
「そうなんだけど、そうじゃなくって!」
話の要領が掴めない。大体戻ってくるってどこにだ?
「ここに引きこもってないで、現実に戻ってきてよ!」
「……現実?」
74ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:14:44
ああ、そうだ。思い出した。俺は昨日家で歩道に突っ込む交通事故のニュースを見て、それで……
「……嫌だ、戻りたくない」
「どうして!?」
信じられないという驚き方で聞いてくる。
「だって、ここに居ればずっと走れるし、怪我をする心配もないじゃないか。おまけにこんなに良い環境なのに、なんで現実へ……」
……おかしい。何かを忘れかけている気がする。大切な事を。
「もう、なんで分かってくれないの!」
この子がこれだけ怒ってるのは何か理由があるはずだ。でも。
「もう、走れなくなるのは嫌だ」
せっかく走れるようになったのにまた走れなくなったら、今度こそ自分は壊れてしまうかもしれない。
「……僕は、ずっとここに居たんだ」
この子が、ぽつぽつと話しだした。
「ここで生まれて育って、でも、他の場所を見ることは出来なかった。もっと色んな所を見たかった。色んな所で走りたかった。もっともっと、色んな人と話したかった!でもお兄ちゃんはここでずっと走ってれば満足するの!?」
……そうだ。俺はこんな所にずっと居ちゃダメだ。
「僕と約束したよね、いつか3人で走るって!」
……そうだ!俺は、また走れるようにしてくれたこの子と、世界一早い自慢のウマ娘のハヤヒデと、いつか3人で……!
「すまん、俺は大事な事を忘れかけてた。こんな小さい子に怒られてるようじゃ、俺もまだまだだな」
つい苦笑してしまう。
「走れなくなるのが怖いのは分かるよ。でも、せっかく走れるんだから、走らないと!」
「そうだな、お前の言う通りだ」
戻らないと。俺の居るべき場所へ。
75ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:14:55
「もう大丈夫だ。ありがとう」
「それなら良かった!」
そして、こんな提案をしてみる。
「なあ、またこうやってお前が身体を使う事って出来るか?」
「え?まあ、やろうと思えば出来ると思うけど……」
この子はきっと、世界を知らない。なら、せめてもの恩返しをしないと。
「俺が暇な時だけになるけど、身体を貸してやるよ。それで、色んな所を見てきな」
「え、良いの……?」
「もちろん。俺がしてやれる事なんて限られるしな」
「わぁ……!ありがとう!」
この子が色んな景色を見て育って行ったら、きっと楽しいはずだ。そして、どこまでも走っていてほしいと願った。
「よし、それじゃあ俺は戻らないとな」
「お姉ちゃん、心配してたよ?」
「はは、そりゃそうだろうな。しっかり謝らないと」
「じゃあまたね、また走ろう!約束だよ!」
「ああ!それじゃ!」
そして、俺は現実へ戻った。
─────
「ん……おはよう、ハヤヒデ」
トレーナー君が目を覚ました。
「大丈夫か?」
「すまん、心配かけた」
「全く、大遅刻だぞ」
軽く冗談を言って頭を撫でた。
「撫でるなよ、くすぐったいだろ」
そう言いつつも笑いながら答えてくれた。
「それで、どうしてこんな事になったんだ?」
原因によっては今後の事も考えなくてはならない。これは聞いておく必要がある。
76ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:15:07
「まあ、簡単に言えば昨日の夜テレビで交通事故の映像見て、トラウマ刺激されたって感じだ。全く情けない」
「……情けなくなんてないさ。それに、こうして戻ってきてくれただろう?トラウマを乗り越えられたのは、流石私のトレーナーだな」
「……へへ、ありがとな」
少し照れくさそうにしながら答えた。
「そういえば、あの子と話したんだろ?どうだった?」
「そうだな。端的に言えば、とてもかわいかった。見た目相応、と言った感じだな。なんなら、あれを見た後だと今の姿でも少しかわいく見える」
実際、上目遣いの泣き顔はかなり破壊力が高く危なかった。
「あー……まあ複雑だけど、あの子見たらまあそういう感想になるよな……」
「ふふ、中々に楽しかったよ。また会えないのが残念だ」
「あ、それなんだけどさ。今後休みの日とかにあの子に身体貸してやる事にしたわ。色んな所見せてやりたいしな。まあ、もし良ければ面倒見てやってくれ」
そうか、あの子とまた会えるのか。
「分かった。遠慮なく言ってくれ」
……あの子を見続けたら、私の理性は大丈夫だろうか。
「今日はもうトレーニングという時間でも無いし、家に帰るか。疲れただろうし送っていくぞ」
「うっわ、もうこんな時間か、ほんとすまん。家までは大丈夫……うわっ!?」
強制的に肩車をする。
「いや、降ろしてくれよ!これかなり恥ずかしいぞ!」
「疲れてるだろう?これなら歩かなくていいから楽だぞ」
「これだったら疲れても自分で歩いた方がマシだよ!」
トレーニングを出来なかったちょっとしたお仕置きだ。結局このまま家へ送った。上でワーワー騒いでるのは中々にかわいかった。少し意地悪な気もしたが、これくらいは良いだろう。何にせよ、トレーナー君が戻ってきてくれて良かった。
私のトレーナーは、どうなったとしても走りを追求する彼以外考えられないのだから。
77ちびハヤトレ概念322/09/02(金) 20:15:20
「あー、ひどい目に会った。半分羞恥プレイだぞアレ」
「騒ぐから余計に目立ったんだぞ。その見た目なら黙ってれば見られなかっただろう」
「そういう問題じゃねえんだよ……」
とはいえ、心配かけた手前強く文句も言えなかった。
「でも、今日はありがとな」
「気にするな。助け合いだろう?」
「そうだな。ありがとう」
そんな事を言っていると、ハヤヒデがテーブルの上に飴やキャラメルを置いた。……嫌な予感がする。
「ハヤヒデ、これどこで貰ってきた?」
おいハヤヒデ、目を逸らすな。
「……すまないトレーナー君。私にも助けられない事はある。明日の準備もあるから失礼する!」
「あっ、ちょっと待て!」
その後、あの子に聞いてみた所「色んな人に飴貰ったり撫でてもらえて嬉しかった!」という証言を得られた。そして、俺は歩いていると色んな人に飴を渡されたり撫でられるようになってしまった。
しかしあの子が喜んでるので文句も言えず、どんどんおもちゃ化が進んでいくのであった……
≫84ハヤトレ概念おまけだったもの22/09/02(金) 21:06:13
飲み物でも飲もうと休憩所の自販機へ向かうと、見たことのない芦毛の小さなウマ娘が居た。とすると、もしかして。
「おう、こんにちはテイトレ……ってこの姿だと初めてか。ハヤトレだ」
「やっぱり。話には聞いてたけど随分と可愛くなったな」
「まあな……」
そんな他愛のない会話をしていてふと思い出した。
「そういえば、また走れるようになったんだってな」
「ああ、また走れる時が来るとは思わなかった。おかげで最近は結構楽しくやってるよ」
周りからの可愛がりは困るけどなと苦笑しながら話す。だが、走れるようになった事は心底楽しそうだった。
ハヤトレは俺と違って元々走っていたが交通事故で挫折したと聞いていた。また走れるようになって良かったと素直に思った。
そんな事を考えているとテレビからニュースが流れてきた。
『今日未明5時、トラックが交差点に突っ込み3人の重症者が……』
「トラックの事故か。何故か減らないよな、こういう事……」
そこまで言いかけてハヤトレの様子がおかしい事に気づいた。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
「おい、大丈夫か!?」
凄まじい過呼吸。肩を貸してベンチまで連れていき横にする。すると呼吸が落ち着いてきた。
「大丈夫か?」
「……すまん、大丈夫だ」
とりあえずは落ち着いたようで安心する。
「しかし突然どうしたんだ?」
「いや、ウマ娘になってからPTSDが酷くてな……しばらく大丈夫だったんだが」
交通事故の件を思い出す。なるほど、さっきのニュースでフラッシュバックしたのか……
「病院の先生によれば、走れるようになった事でまた走れなくなってしまう恐怖で再発したんじゃないかという事だった」
「なるほどな……」
一度失ってしまった事への恐怖は良く分かるからこそ、放っておけなかった。
「もし話して楽になるなら相談に乗るぞ?」
「じゃあ、事故の事について聞いてもらおうかな……実はあまり話した事が無くて、今は聞いてもらった方が楽になる気がするからさ。自分で言うのもなんだが中々重いぞ?」
「大丈夫だ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
そうして、ハヤトレはぽつぽつと語りだした。
85ハヤトレ概念おまけだったもの22/09/02(金) 21:06:24
─────
当時の俺は走る事に全てを懸けていた。人生全てを使っても惜しくないとすら思っていた。そんな時に身に降ってきた不幸。
言ってみればありふれた話だ。歩道で待っていた俺にトラックが突っ込んできて、吹き飛ばされた。
病院に運び込まれた俺は、全身のあちこちを骨折していた。医者からは最悪一生身体が動かないかもしれないとすら言われた。
でも俺は走る事を諦められなかった。3ヶ月は寝たきり、1年は車椅子生活、更に半年杖の生活をして、必死のリハビリの末普通の生活を出来るくらいまでに回復した。
─────
「……壮絶だな」
こんな言葉しか出てこなかった。一度足を折った俺でも想像を絶する程のリハビリだろう。
「ああ。医者にもここまで回復したのは奇跡と言われた。それでも……結局、過去のような走りをする事は叶わなかった」
「そうか……」
ハヤトレは続ける。
「周りからは"普通に生活出来るようになって良かった"と言われた。確かに、あの時の事を思えばここまで回復したのは幸運としか言いようがない。だけど、俺は走りたくてリハビリをした。だからいくら普通の生活が出来るようになっても何の意味も無かった」
「それからは、どうしてたんだ?」
「一言で言えば空っぽ、だな……適当に就職して、仕事に行って、趣味も作らずに惰性で生活してた」
掛ける言葉が見つからない中で、浮かんだ疑問を問いかける。
「それから、どうしてトレーナーに?」
「昔一緒に走ってた仲間からウマ娘のトレーナーをやらないか?と声を掛けられた。それで、まだ少し残っていた走りへの気持ちへの火が着いた。正直、縋ったと言う方が正しいけどな。幸い趣味も何も無かったからお金は余りまくってた。それを元手にトレーナーの勉強をして、今に至ったって訳だ」
正直、ここまでとは思っていなかった。
「……思ったより重かったな」
俺は苦笑する。
「だから言ったろ?」
ハヤトレも笑いかけてくる。
86ハヤトレ概念おまけだったもの22/09/02(金) 21:06:36
「でも、俺は幸せ物だ。一度諦めたのにもう一度トレーナーとして走りに関われて、ハヤヒデという素晴らしいウマ娘に出会って、不思議な事にまた走れるようにすらなった」
笑顔で話した後、少し顔を曇らせて続ける。
「だからこそ、自分が情けない。せっかく走れるようになったのに失うのを恐れて逆戻りしてるなんてな」
「……情けなくなんてないさ。それだけの想いを取り戻したなら、失うのが怖くて当然だ」
走りたいという想いだけであの惨事からここまで戻ってこれる人間がどれだけ居るだろうか。そして、その努力が実らなかった時の気持ちなど想像がつかない。そんな物が偶然に手元に戻ってきて失いたくないと思わない人間はどこか壊れてるとすら思う。
「でもさ、俺は約束したんだ」
「約束?」
「ああ。俺とウマソウルとハヤヒデ、いつか3人で本気で走るってな」
「そうか、お前はウマソウルと話せるんだったな」
俺も、自分のウマソウルと話せていたらまた違ったんだろうか。今となってはどうにもならないが。
「あいつはハヤヒデを超えるって意気込んでるよ」
「はは、そりゃ頑張らないとな」
「生半可な努力で勝てる相手じゃないからな。だからこそ俺はトラウマを克服して向き合わないといけない」
思い詰めた顔をしたハヤトレの頭を思いっきり撫でた。
「なっ……!?おい!わしゃわしゃするな!」
「いや、あんまり思い詰めた顔をしてたから。気が紛れるかと思って」
「全くびっくりしたよ……」
「碌に相談に乗ってやれなくてごめんな。今の俺にはこれくらいしか出来ない」
「いや、聞いてもらえてだいぶ楽になったよ。ありがとう」
「また何かあったら聞くから気軽に相談してくれ」
そうさせてもらうと答えたハヤトレの顔からは曇りが消えていた。
≫91ハヤトレ概念本当のおまけ122/09/02(金) 21:49:34
本当のおまけ行きます!
『学園のマスコット』
「ブラトレお姉ちゃーん!」
「ん?」
聞いた事のある声だがこんな呼び方をされた事はない。つまり、この子が噂の。
「こんにちはー!」
「おう、こんにちは。元気にあいさつ出来て偉いぞ。もしかしてハヤトレの中の子か?」
「うん!ブラトレお姉ちゃんの事は中から見てたよ!」
予想通りだ。この子が最近ウマ娘になったハヤトレのウマソウルか。
ハヤトレ曰く『これからあの子に身体を貸すことがある。中身は完全に子供だから、もし遭遇したらよろしくな』との事。
「今日はどうしたんだ?」
「うん、今日はお兄ちゃんに身体を貸してもらってハヤヒデお姉ちゃんと一緒に走ってたんだけど、気づいたら迷子になっちゃってて……」
なるほど。これは思ったより子供だ。ハヤヒデは多分トレーニング中だろうから、練習場か。
「よし、俺が抱っこしてハヤヒデの所まで連れてってあげよう」
「ほんと!?ありがとう!」
しかし、こうしていると見た目も相まってただの子供にしか見えないな。ハヤトレが身体貸してる時間に出来る勘違いが凄そうだ。
そんな事を考えてるうちに練習場に着いた。予想通りハヤヒデはここに居たが、抱えているハヤトレの中の子はすっかり眠ってしまっていた。
仕方ないのでしばらく待っていると目を覚ました。
92ハヤトレ概念本当のおまけ122/09/02(金) 21:49:49
「ん……」
「おう、起きたか」
「……あれ、なんでブラトレが俺の事抱っこしてんだ!?」
起きたハヤトレが突然焦りだした。中身が戻ってきたらしい。一連の流れを話す。
「いやーすまん、助かった。起きた時抱かれてたのはちょっとビビったけどな」
「これくらい気にするな。それに今のお前の見た目なら抱っこされててもそこまで違和感ないぞ」
「嬉しくねえ……」
そんな話をしていると、通りかかったウマ娘から声を掛けられた。
「あ、見つかったんだねー!良かった!」
「あ……うん、そうなの」
「よしよし、かわいい君には飴ちゃんをあげちゃおう」
「あ、ありがとう……」
飴を渡したあと、そのウマ娘は帰っていった。どうやら俺より先に迷子の相談をしていたらしい。それより……
「もしかして、お前最近いつもそんな調子なのか?」
「うっ……まあな。善意でもらってるもんだし、事情知らない人にそっけない態度取ってあの子が心無い事言われても嫌だし。本当は勘弁してほしいんだが」
その顔には最近の苦労が伺える表情が浮かんでいた。
「この見た目であの中身はかわいがりたくもなるわ。多少は仕方ないだろ」
「本当は文句の一つでも言って噛みつきたいけどな」
「でも文句を我慢するくらいには甘いんだな」
「また走らせてくれた恩もあるしな……かわいいのもあるけど」
ハヤトレはなんだかんだで面倒見が良いと改めて思う。俺ならこんな扱いされたら文句の一つくらいは言ってるだろう。
「ま、でも今日は迷子を助けてくれてありがとな。お礼にさっきもらった飴やるよ」
「いらねえよ」
丁重にお断りして俺はハヤトレの元を去った。
後日、ハヤトレが抱っこさせて欲しいと追いかけまわされる事が増えたと愚痴っていた。ハヤトレのマスコット化が止まるのはいつになるんだか……
93ハヤトレ概念本当のおまけ222/09/02(金) 21:50:20
本当のおまけその2!
『初日の風呂』
ハヤヒデと部屋に戻った俺は汗びっしょりな事に気づいた。
「あー、汗がびっしょりだ……どうしよう。身体の洗い方分かるかな……」
するとハヤヒデが一緒に入って見てあげようと言い出した。
「もしトレーナー君が構わないなら私が洗ってあげよう」
「え、それは……」
「やはり異性と入るのは恥ずかしいか?」
「いや、俺は別に構わないんだけど。入院中とか散々洗ってもらったしな。それよりもハヤヒデが良いのかって話」
俺の事を気遣ってくれるのはありがたいが、無理してまでは入ってほしくない。
「いや、今のトレーナー君なら女の子だし別に構わない。大丈夫だぞ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
そんなこんなで特にイベントもなく初日の風呂は終えた。
……しっぽを洗った時にくすぐったくて「ひゃっ!?」と声を上げてしまった事以外は。
≫117二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 09:53:12
『勢いでやっちゃったことは後悔が付きまとうものである』
「最近ホットな噂があるじゃない? それに関してトレーナーちゃんに色々頼んだんだけどねー」
「またお前のところのトレーナーを困らせたのか……」
「トレーナーちゃんの家に泊まっちゃだめだって言われたの! ぶーぶー!」
「仕方ないだろう、お前はまだ子供でトレーナーが大人の男だぞ」
「むーむー! ブライアンさんはいいよねー、同性になったんだから泊まり放題じゃない」
「……別にそういうわけではない」
「なになにー? その含んだ感じの言い方! マヤ気になっちゃう!」
「何もない。そんなに聞きたければ私に勝ってから聞け」
「言ったねー、絶対勝って聞き出しちゃうからね!」
「元気だなーマヤノは」
「元気すぎて勢い有り余り過ぎてなあ……誰だよトレーナー宅にお泊りした子がいるだなんて根も葉もねえ噂流した奴は」
「……そうだな。根も葉もないな」
「おいブラトレ、なんか顔色悪いけどどうした」
「いや別に。いや、別に何も……うん、ない。なかった」
「……まあうん、気にしないでおくわ」
「お前のそういうところが本当に助かる……」
もうだいぶ前の話なので誰も知らない事実だが、当人には小さい棘のように残ることもある。
根がまじめなブラトレは、苦いコーヒーを飲むことで心を落ち着かせた。
うまぴょいうまぴょい。
≫122二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 12:21:21
トレーナー宅お泊り前の同室同士の会話
「ノォォォォォ……」
「もう……また手が止まっていますよエル? 」
「お、お泊りの道具を用意していると実感が湧いて来てしまうデース……」
「実感と言っても一晩エルトレさんのお宅にお世話になるだけなのでしょう?」
「そんな気軽な話では無いデース……」
「決まったものは仕方有りません、覚悟を決めなさいエルコンドルパサー」
「ううっ……グラスは厳しいデース……」
「キー」
「ほら、エルだけじゃなくマンボも一緒に行くのでしょう? 気をしっかり持ちなさい」
「マンボ~……エルはマンボだけが頼りデース」
「キー」バサッバサッ
「マンボ!?」
「あらあら逃げてしまいましたね」
「エ、エルはマンボを追いに「エル」
「グ、グラス?」
「唯でさえエルは準備が遅れているのですよ?」
「で、ですがマンボを放置しておく訳にはいかないデース」
「私が探しに行きますからエルは準備を進めなさい」
「い、良いのデスカ?」
「その代り戻って来ても準備が終わって無かったら正座ですよ?」
「Oh……」
「それではエルは準備を進めていてくださいね」
「……そういえばグラスの準備はどうしたんデース?」
「私はトレーナーさんのお宅に一式有るので身一つで行けますよ♪」
「Oh……」
うまぴょいうまぴょい
≫131二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 13:33:10
トレセン学園近くの映画館。そこで今日はとある長期漫画である某一繋ぎの大秘宝、その最新映画が公開された。
その作品は全世界でも知られているほどの超人気海賊漫画であり、物語をこよなく愛するロブロイも、そして多くの漫画を読み、当然この漫画もずっと読み続けている私も当然この映画を見に来ていた。
そして、その映画が終わった後、映画館から出てきた私たちは……
「……ウタ……ルフィ……」
「グスッ……ウタは……ウタは、確かにシャンクスの娘で、ルフィの幼なじみ、だったんですね……」
二人揃ってその瞳には大粒の涙の流れた跡を残していた。
「トレーナーさん……」
「ええ……これはどこかで腰を落ち着けてからにしましょう」
このまま語り合ったらその場で動けないままになってしまうのがお互いに分かっているため、いつもの喫茶店へと二人で素早く向かうことにしました。
すぐにでも語り合いたいこともあり、素早く、迅速に、二人で何度も通った道であり、洗練された動きで喫茶店へとたどり着きました。
そして、いつもどおりの注文を終えてから……
「トレーナーさん、最初にルフィの幼なじみでシャンクスの娘、ということでどうなるのかと思われていたウタが……」
「ええ、ええ、わかりますよ、ウタは……私たちに深く、深く刻み込んでいきましたね……」
その後、私たちは数時間ずっと二人で語り合った。
実際の映画のストーリー、キャラ同士の関係性、映画館という高性能な大音響を用いた歌、今回で明らかになった事実からの原作の考察……語りたいことは無限に思えるほどあり、二人でずっと熱中して語り合った。
ここのシーンが良かった、ここはこういうことなのではないか、こういう解釈もできますよ、もしかしたらこのキャラはこの作品をモチーフにしているのでは……
そのように語り合うのはいつもの光景になっており、喫茶店の店員さんも慣れたように何時間も語り合い、合間合間で再度注文を受付に来ている。
132二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 13:33:37
そんな風に何時間も語り合い、少し落ち着いてきたところでふと、思ってしまう。
「今回の物語の中ではこのような結末でしたが、もしも、違う未来だったら、どうなっていたのでしょうね……」
「もしも、ですか?そうですよね……もしも、もしも何かが違っていたら……」
IF……もしも、こうだったら、そういった考えがどうしても浮かんでしまう。
確かにこの物語は完結し、その舞台は幕を閉じた。読み終えた本は閉じ、次の本へと向かうのだろうが……
どうしても考えてしまう。作者が描いた物語とはまた別の物語があるのではないか、と……。
「すみません、ロブロイ、今は見ていた映画の話であるのに」
「ふふ、大丈夫ですよ、トレーナーさん。そうですね……素敵な物語から人々はさらにもしもこうだったらどうなるんだろう、という考えから新しい物語が生まれるものなんですよ。それを二次創作、と言われるものですから」
映画の話からもしもの話をしてしまったが、ロブロイは思いの外受け入れていた。
ただ、それは当然と言えば当然であった。ロブロイはどんな物語であっても愛する少女だ。それはすべてがプロが作ったものだけではなく、一つの物語からもしもの想像で無限に生まれる物語もまた、大切な物語のひとつなのだから……。
「ロブロイは、二次創作もまた一つの物語として愛するのですね」
「はい!二次創作だって一つの物語に強く影響されて生まれた物語ですから。私もいろんな物語に強く感動して、いろんな想像が湧き上がってくるんです。その想像を形にしたものも、また一つの物語なんですから!トレーナーさんはもしもの話は嫌いですか?」
「ふふ、いえ、私ももしもの話というのは考えますからね。物語の話でも想像しますし、今、この私たちの物語だってもしものことを想像することだってありますからね」
「そうですよね!一つの物語からもいろんな想像をかきたてられますから!ですが私たちのもしもの話ですか?あの、例えばどのようなことを想像するんですか?」
どうやらロブロイは私の想像する『IF』の話が気になるようだ。
自分自身の想像するものを自分の言葉で話すのは恥ずかしいものがあるが、一口紅茶で潤してから……
133二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 13:34:18
「そうですね……例えば、トレーナーと担当が反対だったら?」
「あ、立場を入れ替えたものですね。二次創作でもそういうものがありますよ!ですが、私とトレーナーさんが逆だったら、ですか……ふふ、トレーナーさんはとても優秀そうですよね」
「そうでしょうか?もしも才能があっても周りからの期待に押しつぶされて力が出ないかもしれませんよ。ですが、そんな私をロブロイトレーナーの声が支えてくれるのでしょうね」
「私が……トレーナーさんを……そうだったら、嬉しいですね」
「あ、それなら、次はお互いが違う道を進んでいたら、どうなっていたのでしょうか?」
「ふむ、違う道を、となると、私はトレーナーではなく勝負服デザイナーにそのまま進んでいたのかもしれませんね」
「そうですよね、やっぱりトレーナーさんはデザイナーの道を進むのですね。私は……小説家、かもしれませんね。物語で救われましたから、今度は私が書いた物語で他の人に感動を与えてみたいですね」
「それなら、ロブロイの書いた物語から新たな着想を得て勝負服を作っていたりもするかもしれませんね」
「それなら私も、トレーナーさんの作った勝負服、その勝負服を身にまとったウマ娘たちから新しい物語を紡ぎますよ」
「ふふ、もしかしたら一緒に暮らして、お互いに影響を与えながら私は勝負服を、ロブロイは物語を書いているかもしれませんね」
「はい、そうだったらとても素敵ですね。きっと穏やかで、それでいて幸せな日々を過ごしているのですね……」
134二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 13:35:03
二人でもしもの話を紡いでいく。紡がれると同時に私達にはそれぞれの世界で過ごす私たちの姿が、確かに見えてくる……。
初めてのレースで周りから強い期待を受け、その期待に押しつぶされそうになっているのを、その手を取って優しく導き、支えてくれるロブロイトレーナー……
一緒に森の奥の小さな家で、沢山の本に囲まれながら一緒に勝負服や小説を作っていく穏やかな日々を送るデザイナーである私と小説家のロブロイ……
他にももしも最初からお互いがウマ娘であったら?もしも私たちが日本ではなく海外だったら?もしも小さい頃から知り合いだったら?
そして果てにはファンタジー世界を想像して、英雄志望で旅立つロブロイとそんな冒険者に衣服を編む妖精《ハベトロット》な私、なんていうのも浮かんでくる。
今の私たちの世界から、無限にいろんな世界が見えてくる。それぞれで今とは異なる生活を送っていると同時に、きっとお互いが確かにその世界でそれぞれの人生を歩んでいるのだろう、と……
「ふふ、本当にいろんな世界が浮かんできますね。それぞれの世界で今とは異なる姿が浮かんできて、楽しいですね」
「ええ、そうですね。今とは異なる世界、違った選択肢というのはいろんな道が想像できますからね。無限に可能性がありますからね。それなら次は……」
だからだろうか、こんな『もしも』を想像してしまうのは……
「もしも、私がロブロイのトレーナーでなかったら……」
「え……」
135二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 13:35:23
ずっと昔に考えてしまったことだ。そう、なかなかあと一歩及ばず勝てなかったときに……
ロブロイはG1だって勝てる子だ。その走りに英雄の姿を見て、彼女とともに物語を、その英雄譚を紡ぎたいと思った。
だが現実は甘くはなく、勝てない日々が続いていた。
だからこそだろう、もしも、私がトレーナーでなかったら、と思うのは……
例えば、多くの有名なウマ娘を送り出してきたベテラントレーナー、私自身が憧れているウマ娘の影として支え続ける人、ロブロイが憧れよく一緒に練習をしてくれるシンボリクリスエス、そのトレーナーであるクリストレ……
そして、私よりも彼女の力を引き出せる誰も知らないような新人トレーナー……
もしも私ではなかったら、もっと彼女は輝いていたのではないか、あの有馬記念の後、圧倒的な差をつけられて敗れることもなかったのではないか……ロブロイが、強く、強く悲しむこともなかったのではないか……
そんな考えがずっと頭の中で浮かんでしまうのだ……
「トレーナーさん!」
「あ……ロブ、ロイ?」
いつの間にか、ロブロイは私のすぐ真横に座り、私の手を優しく、包み込んでいる。
一つの想像から深く、深く思い沈んでしまっていた私を救い上げるように、その優しさが暖かく感じられる。
そんなロブロイの瞳が、私の瞳をまっすぐと捉えている。まるで奥底まで見て、その思いを届けるように……。
「トレーナーさん、確かに今いるこの世界とはまた別の世界があるかもしれません。その世界ではまた違う道を歩んでいますし、もしかしたらこの世界もまた違う世界で読まれている物語の世界かもしれません。大元となる世界もあるかもしれません」
「ええ……もしもの話、ですからね……」
「ですが、トレーナーさん……」
136二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 13:35:52
その手の力をより強く込める。絶対にその手をはなさないと伝えるように……。
瞳には確かな覚悟と強い想いで強く、熱く輝いている。
これから紡ぐ言葉は確かな真実であると告げるように……
「どんな世界であっても、私のトレーナーさんはあなただけ……あなたが、いいんです」
ああ……本当に、この子は……
ここまでにたくさんの辛いこと、悔しさを乗り越えて、ずっと彼女が持っていた何者にも崩れることのない強い心が伝わってくる。
本当にこの子は、強い子だ。
そして、だからこそ、彼女の言葉は信じられるのだ。
どんな世界でも、どれだけの『もしも』であっても、私もまた……
「ええ……ええ……そうですね、ロブロイ……私も、あなたとともにいたい……あなたの英雄譚を一緒に……」
「はい、トレーナーさん……きっと、どんなIFの世界でも、私たちは巡り合うんですよ」
例えお互いの立ち位置が違っても、例えお互いに違う道を進んでいたとしても、たとえこの世界自体が全く異なるものであっても……
きっと私たちは一緒になる。いや、一緒になりたいのだ。
弱気になっていた心に温かいものが湧いてくる。
もしかしたら私がロブロイのトレーナーでなかったら違う未来もあったかもしれない、より輝かしい栄光をつかんでいたかもしれない。
それでも、私は彼女と英雄譚を紡いでいきたい。それはきっと、どんな世界であっても変わらないのだろう。
137二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 13:42:40
「ロブロイ、改めて言わせてください」
「はい、トレーナーさん」
だからこそ、改めてこの言葉を紡ごう。
彼女の思いに応えるように、堂々と……
「ロブロイ、これからも一緒に物語を紡いでいきましょう」
「はい、トレーナーさん。これまでも、これからも、どんな世界でも一緒に」
改めてお互いに誓い合う。
例えこの世界がまた上位の世界で紡がれた物語であっても……
例え全く異なる世界がいくつもあったとしても……
私たちはきっと一緒にあるのだ。
私たちの物語は、私たちだけのものなのだから……。
以上、もしものお話でした。
先日、ゼンノロブロイ号が旅立たれました。
ウマ娘から競馬に入った私ですが、本当にゼンノロブロイという馬が好きでした。あの有馬記念、前を走るタップ、あのハイペースの中を最後まで追い続け、そして差し切るその姿、あの姿に凄く引きこまれました。
本当にゼンノロブロイ号、感動をありがとう。その英雄譚は終わりを告げても、ずっと残っています。
そして、だからこそ、このゼンノロブロイとロブトレという、ゼンノロブロイ号とは違うもしもの物語を歩んでいます。そしてそれはこれから生まれるであろうアプリトレともまた違う物語を歩んでいます。
きっとアプリトレはより適した、ロブロイを支えていくことと思います。ロブトレにはできなかった偉業だってできるのでしょう。
それでも、ここのロブトレはどんな世界でも、ロブロイと共に物語を紡いでいきたい、その想いを、ゼンノロブロイ号に捧げたく思い、書かせていただきました。
改めて、ゼンノロブロイ号のご冥福をお祈りします。ありがとう、ゼンノロブロイ号……。
また、冒頭の映画のお話は私自身がフィルムレッド見てウタ沼に沈んだ結果です。本当に、本当にぜひフィルムレッドは見てほしいですよ……まさか映画のキャラにここまで思い入れが深くなるとは……
では、以上になります。長文を読んでくださり、ありがとうございました
≫145二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 16:06:27
デンハヤ「せっかくだからよぉ!記念に肉行こうぜ肉!!」
ちびハヤ「いいですね!!」
ブラトレ「いいな……どうせならあいつらも呼ぶか(ブライアンとブラサブに連絡)」
一方そのころ……
ブライアン「おい。姉貴のトレーナーがウマ娘になった記念らしい。焼肉だ」
ブラサブ「……はい?」(困惑を隠しきれない顔)
ブライアン「肉だ。記念日には肉だろう」
ブラサブ「はい」(クーポン券を取り出す)
ブライアン「おお、流石だ。じゃあ行くぞ」
ブラサブ「はい」(どうやって今回は野菜をこっそり仕込もうか、後で姉貴と連絡がとりたい図)
≫148二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 16:55:45
ちびハヤトレさんとロブトレさんのお話
『水泳トレーニングとスク水』
「うーん……」
「……ハヤトレさん?」
「うわっ!?」
突然声を掛けられ驚いて後ろを振り向くとロブトレさんが居た。
「ああ、ロブトレさんか……良かった」
「私で良かったというと……?」
「下手な奴が来ると茶化されて大変な事になる可能性があるからな……」
そう、俺が居るのは女子用スク水のコーナー。こんな所を下手な人間に見られた日には更にトレセンのおもちゃ化が加速してしまう。その点ロブトレさんなら黙っててくれと言えば守ってくれる安心感があった。洋服を着させられるのは勘弁だが。
「……水着を着るならもっとお洒落な物にした方が良いと思いますよ?」
「いや、お洒落の為に着るもんじゃないから」
ここ最近は基礎体力作りの為に走るよりもひたすらトレーニングをしている。そのお陰で最初は拒否感の強かった身体も自分の物という実感が湧いてきた。そして、これが今スク水を買うか悩んでいる原因の一つだ。
「実は水泳トレーニングがしたくてな。でも中々踏ん切りがつかない」
「別に普通に着れば良いんじゃないですか?」
「いや、普通はそこまで簡単に踏ん切りつかないから」
何故かウマ娘化したトレーナーの中には速攻で踏ん切りをつけた人が沢山存在する。だが俺は女子用の服を着るなんて真っ平御免だった。
「でも水泳トレーニングはしたいんだよな……一番好きなトレーニングの一つだし」
「ふふ、ハヤトレさんは恥ずかしさとトレーニングを天秤にかけられる程ストイックなんですね」
「まあ、ストイックと言えばそうなのかもな。俺は好きだからやってるだけだけど」
トレーニングはやればやる程自分の力が伸びていくのが実感出来る。特にこの年だと成長が著しいだろうから今からワクワクが止まらない。
149二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 16:56:06
「でも、トレセンでやっていたらどちらにしろバレるんじゃないですか?」
「いや、トレセンなんかでやった日にはどんな目に遭うか想像もしたくない。泳ぐなら近所の市民公園にあるプール。ランニングコースもあるしな」
「それなら大丈夫ですね。その見た目ならスクール水着でも違和感はないと思いますよ」
「うっ……いやまあそうなんだけど。しょうがない、買うか」
結局俺は水泳トレーニングの魅力に負けた。適当なのを手にとって会計を済ませる。
「ロブトレさん、今日は相談に乗ってくれてありがとう」
「いえいえ、お役に立てて何よりです。ついでにお洋服もどうですか?」
「勘弁、代わりに今度食事でも奢るよ。それじゃ」
別れを告げて家に帰る。それにしても今日会ったのがロブトレさんで本当に良かった。下手にバレたらトレセンでの扱いがどうなってたか……
なお後日市民プールで泳いでる姿を目撃されてしまい、結局バレてまたおもちゃにされた。いつになったら俺に安息の日が来るんだろうか……
以上、スク水を着るちびハヤトレさんのお話。ちびハヤトレさんストイックなのにおもちゃにされてかわいそう(小並感)
≫162二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 19:07:13
2話 終着点
2人と飲みに行ってから数日後。
いつものように資料室で調べ物をしていた時、
「───は?」
その出来事は急に訪れた。
「オグリキャップが……トゥインクルシリーズを……引退する?」
それはあまりにも唐突だった。
オグリキャップのトゥインクルシリーズ引退。
そしてドリームトロフィーリーグへの参加。
つまり、オグリキャップが中央で走る事はもう無くなると言う事。
だが、よく考えればわかる事だった。オグリキャップは他のウマ娘たちよりも長く走っており、その上数多くのレースに出走していた。
普通ならいつ引退してもおかしくない状況だ。それが今だったのだろう。
それでも、付けていたラジオから流れてきたその言葉は、俺にとってあまりにも現実味を帯びていなかった。
あのオグリに終わりがあるなんて、考えてもいなかったんだ。
そして彼女が引退すると言う事、それは、
「トレーナー」
オグリキャップという目標の喪失だった。
「マーチ……オグリが……」
163二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 19:08:00
「……私の話を聞いてくれるか?」
だが、そう言ったマーチの目は、まだ諦めていなかった。
「……わかった」
「私は……少し前からこの事をオグリから聞いていた」
「そうだったのか、通りで落ち着いていた訳だ」
「そこで私は……オグリと一つ約束をした」
「……それは」
「私と走ってくれと」
「!!」
「すまない。私情でこんな事を、相談もなく決めてしまって……だが私はどうしても──」
「なら……まだ……」
「……?」
「終わっていないんだな?」
「……そうだ」
「いきなりの事だ、他のレースとの兼ね合いもある。それに相手は格上、勝てる見込みも無いに等しい。それは分かっているな?」
「ああ、それでもオグリと走りたい。私は、あいつのライバルだ。中央まで来て一度も戦えずに終わるなんて嫌なんだ」
「……」
「トレーナー、いつも迷惑をかけてすまない。だがこれは、これだけはどうしても譲れないんだ!これを逃したら……もう二度と……挑む機会さえ無くなってしまうかも知れない……」
「私はまた……オグリに置いて行かれてしまう」
「だから頼む……トレーナー」
164二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 19:08:43
『ドリームトロフィーリーグ』
それはトゥインクルシリーズで好成績を残したウマ娘だけが行ける夢の舞台。
並大抵の実力じゃ決して辿り着けない。それこそG1で勝つようなウマ娘たちが行けるような場所だ。
そして、そこに辿り着く為の実力は、今の俺とマーチにはない。
つまりここを逃したら、オグリキャップと戦えるチャンスは極端に少なくなる。……もしかしたら、もう二度と無いかも知れない。
なら俺がやるべき事は、
「……やるからには勝つぞ。マーチ」
「!!トレーナー……本当に……ありがとう」
「これくらいどうって事ない。それに、君の夢は俺の夢だ、ならば俺だって諦めたくない。日程は決まっているのか?」
「そうだな。その日は──」
そうして俺たちの最終決戦が始まりを告げたのだった。
≫174二次元好きの匿名さん22/09/03(土) 20:59:56
「おはよう、ちびハヤトレ。」
「ああ、おはようサトトレ。」
ベンチで地面に届かない足を仕方なく垂れ下げる芦ハヤトレに近づくメカクレロリウマ娘ことサトトレ。
どちらも小さいちっとれに分類されるが、それでも125と143では明らかに後者が大きく、やはりデカい方が姉に見える。
「そういえば、グループとしてちっちゃいもの倶楽部というのがあるとは聞いたんだが…」
「あー、丁度良かった。ちびハヤトレをグループに誘おうと思ってたんだ。はいこれ、グループのコード。」
サトトレのウマホからコードを見せてもらい、既にメンバーが二桁へと達したちっちゃいもの倶楽部へと加入したハヤトレは、個性的な部員のトレーナー一人一人を思い出しつつ、サトトレに感謝を伝えた。
「ありがとうサトトレ、助かるよ」
「ううん、そんなに気にしなくていいよ。…それとハヤトレ、ちょっと走らない?」
────
リズミカルに体を動かして、いつもよりはゆっくりに走るサトトレと、足を早く回して彼に追走するちびハヤトレ。
抑え気味とはいえ、人間のランニングよりは普通に早い巡航速度で走る中、振り返らずにサトトレは聞く。
「どうかな、ついてけてる?」
「大丈夫、問題ないさ」
体が出来上がってはないハヤトレには余り負荷を掛ける訳にはいけない。サトトレもそれは分かっているので、控えめに。
「しかし、なんでわざわざ俺を誘ってくれたんだ?ペースも変えないといけないし、やりにくいんじゃ」
「んー、なんとなくだけど、走りたいって思ってる気がしたからかな。勿論、根拠もないただの勘だけどね。」
或いは走ることに惹かれたもの同士、シンパシーでもあったのかもしれない。とはいえ、それは特に気に掛ける事ではなかった。
「そうか…ありがとう、凄くスッキリするよ」
「それは良かった。何かあるなら、話は聞くよ?」
「…それじゃあ、最近凄くマスコットみたく扱われることについてでも…」
「あぁ…うん。正直、諦めた方がいい気がするよ…」
短文失礼しました
ちょっと遅くなったけどちびハヤトレと走るの大好き(になった)サトトレの話です。ハヤトレ作者さん、何かあったら言ってください。
どっちもちっとれだけど、サイズ差からして二人並ぶとちび化が加速しそうなハヤトレ。二人ともマスコット化は…うん…