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目次
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part406【TSトレ】
≫53二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 11:33:53
フクトレ『今日のゲームはぁラク◯キ王国〜俺も頑張って作っておいたから是非見てくれぇ』
スズトレ「バスター鳥居マシン三号って何……?」
マルトレ「そう言うスズトレもサイレンス太陽神って何……?」
オペトレ「そんなことを言うマルトレさんもカウンタックマンってなんでしょうね?」
フクトレ『さあ今日はオペトレがどんなラクガキを作るか、出来たら対戦していくぞ』
オペトレ『わかりました。しかし資料を置かせてもらう』
スズトレ「嘘でしょ……なんかすごい精巧なフィギュア出てきた」
マルトレ「すげぇペースで精巧にゲーム内にテイエムオペラオーが出来ていく……!」
オペトレ「これが必殺技で、上からガルニエ宮を降らせる」(上から降ってくる建物)
マルトレ「見た目の精巧さに対して技がトンチキ!! ぁぁぁカウンタックマンーー!?」
≫138二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 12:47:02
「……」
「……」
「……あー……」
微妙な空気が漂っていた。
ジャージ姿のウマ娘達が対峙する人物は、一目見て不審者か疑ってしまうような風体であった。
冬でもないのに肌の露出の一切を許さない厚手の外套に、目深に被せられたフード。かろうじて口許は見えているが、ぴんと一筋に結ばれた唇は緊張の程を示している。
さてどうするべきか。教官ちゃんは早々にして大いなる窮地に立たされたことを自覚した。
トレーナーに求められることとは何か。
担当との相性。適切なアドバイス。人脈、情報収集、ウマ娘を輝かせるのに必要なものをあるたけたっぷり搭載してこそ最高峰に相応しい。
それが教官になると、幾分とハードルが下がる。楽になる。
教官が見るのは最高峰に相応しいトレーナーのお目に叶わなかった『多数』である。個人への鋭い洞察はいらない。情報も不要。相性なんて考えるべくもなく、人脈があれば担当を持っている。
それを踏まえた上で、教官に必要なものがあるとすれば───
「……えー、この方はあのメイショウドトウの担当を務めるトレーナーであります。今日一日、君たちの教導をしてもらう方です。この機会を無駄にすることなくトレーニングに励み、ドトトレ殿の指導をぜひ、今後の糧にしてほしいであります」
そこまで口にして、教官ちゃんはちらりと横目に隣の人物を見やった。
メイショウドトウ担当。G1という大舞台でかの世紀末覇王と鍔迫り合い、果てに勝利をもぎ取った『名将』を導いたトレーナー。
中央トレセンでも上澄みに値する指導者を前にして、しかし生徒達の反応は芳しくなかった。
そう、教官に必要なものがあるとすれば。
139二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 12:48:12
(……『雑に信用を与えられる要素』。毅然とした態度、良好な容姿、発声、第一印象でこいつの教導なら受けてやってもいいと思わせる力。それは時に、単なる指導能力より優先されるであります)
ぶっちゃけてしまえば冬でもないのに厚手のコート+目深なフード姿で現れた優秀『らしい』トレーナーにどう反応すればいいかわからなくなっているのだ。未だトレーナーを得られていないとはいえトレセンに入学できる程度に優秀で、熱意のある競走バが、不審者感丸出しの人物からの指導を熱望するかというと、という話である。
タイトレ殿はその点優秀でありましたからねえ、とかつては暑苦しかったのだろうタイトレの笑顔を思い出して遠い目をする教官ちゃんであったがこのまま何もしないわけにはいかない。このまま変な空気が流れたままだと指導を受けられない生徒にも、その顛末のせいで評価を下げてしまうだろうドトトレにもよい結果はもたらさないだろう。
『彼は少しばかり、恥ずかしがり屋でね』───師匠からの忠告をもっと考慮すべきだったと反省する教官ちゃんが、木影から様子を窺っている名将にヘルプを求めようと口を開く前に。
彼は動いた。
白魚を思わせる細い指が、瞳の戒めを取り払う。
息を吞む音がよく響いた。雑音を失わせるに足る衝撃がそこにはあった。
露になる金の髪。湖面を思わせる碧眼は白皙の肌によく映えて、まるで物語の住人が飛び出してきたかのようだった。
教官ちゃんは一瞬、ドトトレの視線が目の前の生徒から外れたのを見た。視線の先に誰がいるのかも。
はたしてこの場から幾ばくかの時間を奪ったウマ娘は、緊張した面持ちを隠せずとも、生徒としっかり目を合わせて、笑った。
「紹介してもらった通り、俺がドトウのトレーナーです。今日一日、よろしくお願いします」
140二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 12:49:17
「なんとかなったであります……」
「なんとかなりましたね……」
なんとかなった。
参戦してきたメイショウドトウとの併走を軸とした、彼女の得意とする並んだ際の抜け出し方とコーナーの捌き方の教導はやや歪だった第一印象を完全に払拭した。最後の方には生徒からのスキンシップに頬を赤らめて愛バに抱きつくドトトレと爆発するドトウの姿があったり白熱した『抜け出し合い』が生徒同士で行われるほどだった。
一日教官はつつがなく終わりを迎え、二人は今教官ちゃんの「少しお時間いただけるでありますか?」という一言によって、ささやかな打ち上げを行っていた。
といってもお互い今回が初対面であり、ドトトレが酒精嫌いなこともあって学園内の休憩スペースで缶を握っての会話なのだが。
「今日は本当、すみませんでした。色々と迷惑をかけてしまって……」
「何をおっしゃるでありますか! 卓越した教官アイを用いずとも、今日受け持った生徒達の満足度は丸わかりでありましょう。みな瞳を輝かせて走っていたであります。彼女等にとって素晴らしい経験だったと思うでありますよ」
「それならよかったんですけど……俺、ドトウ以外の子に指導したことがなかったので」
「ジッサイいい指導だったと思うであります。というか、こう言っては失礼ですが教官が思っていたより優秀だったであります」
ちょっと語ってもいいでありますか、という言葉に、ドトトレは鷹揚に答えた。
「オペトレ殿の話と耳に入ってくる情報を纏めて、教官はドトトレ殿を『弱気で、それでいて頑なで、抱え込みがち』な方だと思っておりました。初めてコートうんぬんを聞いた時はまあその、そうはならんやろと思ったであります。それを受け入れる担当含めて。ですが今回、生徒たちに指導する姿を見て、教官は評価を改めたであります」
「そう、でしょうか」
「そうなのであります。メイショウドトウの予期しない参戦に上手く対応してみせたでありましょう」
「それだと、逆じゃないですか? ドトウに助けられてばかりで、俺は……」
そう言ってドトトレは卑屈に笑った。彼女は今回の一件を『また』ドトウに助けられてしまったと考えていた。しかし教官ちゃんの意見は違った。
141二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 12:50:02
「違うであります。事前に用意していたメニューを、メイショウドトウを活かしたものに、その場で改造したのであります。ドトトレ殿がご自身の能力に無自覚であるのは承知しております。その分入念に準備をして、一日教官に臨んだことも。だからこそ、この改造は評価できる。
『自分の担当ならこれが出来る』という精密な把握。長所を活かすための思考と実績。これらを兼ね備えるなら、ドトトレ殿の自信のなさは『武器』になる」
「自信のなさが、武器に?」
「己に自信のないやつが、担当である自分には絶対の信頼を捧げている。これはとんでもないことであります。脳を焼かれるであります。それで普通に優秀で結果まで付いてきたらもう止められねえのであります。ジッサイ、メイショウドトウの躍進は、彼女の精神面の向上が大きいのありましょう? ドトトレ殿はトレーナーの本分を立派に果たしているのであります」
「……」
「自信がないからこその『用意周到さ』と、それを投げ捨てられる程の『担当への確信』。担当との絆が重要視されるトレーナーにとって、『信じられる』のはそれ自体が才能なのです。大変素晴らしい長所かと」
「───そうですね。俺は、ドトウを信じている。それだけは、間違いないです」
「話が逸れてしまいましたが、聞きたい事とというのは、あれです、感想であります」
つまりはこの取り組みへの感想である。
チームを持ったことのない、優秀なトレーナーを対象とした体験会。
23歳という若手の中でも更に若手、かつ技術ではなく精神性を武器とするドトトレの感想は是非確保したい教官ちゃんであった。
ドトトレはフードの下で少し考えて、具体的にはよい経験になりましただとか無難なモノにするべきかどうかを少しだけ悩んでから、
「少し、不安になりました」
素直な気持ちを吐くことにした。
142二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 12:51:50
「ドトウとは上手くやれてますけど……その、仮定の話で、つまりはドトウが卒業した後……さっきの話でもありましたが、恥ずかしながら、俺っていうのはドトウが居てこそ、と言いますか。ドトウ以外の誰かを、ちゃんと観れるのかなって、不安になりました。それが複数人なら、尚更」
「えっ籍入れねえのでありますか?」
「え?」
「え?」
───せき? 席? 咳……。籍。……籍!?
「なっななななっなな」
「あっその様子だと『まだ』そんな感じ……いや思ったよりずぶずぶでないでありますかねこれ。いや失敬、早合点しておりました、ささ、話の続きを」
「いや無理ですよ……? ちゃんと説明して……?」
「説明というかぶっちゃけますと、今回の取り組みの目的のひとつに『引き留めのための布石』がありましてですね、なんか今の有能トレーナー共早々に辞めそうじゃね的な空気がありましてですね……」
「なにそれ初耳……はつみ、はつ……あっ」
瞬間、ドトトレの脳裏に過るトレーナーのかんばせ。具体的には恋愛つよつよレジェンドラブラブウマ娘に抱かれる高身長美人の困りながらも嬉しそうな表情……
まさかアレと同類扱いされていたのかと思うと色んなモノが沸騰しそうなドトトレであったが、しかしこの場では興味が勝った。トレーナーではない第三者から『そういう関係』だと思われてるのは誰なのかと。
「まあ教官は彼女等について話しか聞いていないので実際のそれとの齟齬は覚悟しているであります。ただやっぱりその、優秀な人材を失いたくはなくてですね……結婚してもトレーナーなり教官なりで残ってほしいという切なる願いがですね……」
「その、具体的には誰がそうとか、教えてくれたりとかします?」
「……。ンー秘密でありますよ? 筆頭はナイスネイチャ担当と、エアグルーヴ担当、フジキセキ担当。このお三方は立場や実績からしても是非といったところ。あとはアグネスタキオン担当、ゼンノロブロイ担当……それにマルゼンスキー担当、辺りでありますね。いずれも担当との距離が近く、優秀で、辞めそうだと推挙された面子であります。しかしまあ、この枠に入れられていたドトトレ殿がこの様子だと意外とラブラブってる感じではなさそうでありますかね……?」
143二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 12:52:42
「あっなんかうやむやになる前にドトトレ殿の不安を晴らしておくであります。結論から言えば『観なくていい』であります」
「いやその、トレーナーは続けたいんですけど……」
「教官向きではないのであります。他者の長所を見出だし、不安に寄り添い、共に歩むのがドトトレ殿のトレーナー観でありますが、多人数に等しく関わらなければならない教官には合わないのであります。
その代わりに、是非スカウト活動に励んでいただきたいであります。ドトトレ殿はいわば専属特化、ただひとりを信じて支えるヒト。凹凸が噛み合えば名将を生み出せる名優であります。善く選び、善く見定め、善く輝かせることを望むであります」
教官以外にも仕事はあるんでまぁ斡旋してくれると思うでありますー、と言い残して教官ちゃんはその場を去った。
辺りを見やれば既に薄暗く、ターフを駆ける音も今は遠い。
ドトトレはふと、過去の言葉を思い出した。
『トレーナーさんはよく恥ずかしがってますけど…、私は今のウマ娘のトレーナーさんも、
い、いいと思いますよっ!可愛くて!』
違うそっちじゃない。ぶんぶんと頭を振る。
『───笑ってください、トレーナーさん。笑って、私を応援してください!』
『キラキラな光を、持ち帰ってきますから!』
それはいつかの言葉。どん底から這い上がり、キラキラを手にした優駿の決意。
彼女の走りを見て決めたのだ。逃げるのはやめにする。前を向いてドトウの信頼に応えられるように努力する。自分に自信を持てるように。
不安は多い。至らない自分、女性へと変わっていく自分、ドトウがいなくなった後の自分、けれど。
「俺はドトウを信じてる。ドトウも、俺を信じてくれてる。……俺は、その信頼に応えたい」
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part407【TSトレ】
≫81二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 15:49:40
ライアー・ルージュ リウトレ
あたしがシリウスの前で初めて泣いたのは海外遠征から戻った後だ。あたしは何であろうと誰の前であろうと、たとえ担当ウマ娘の彼女の前でも泣かない、弱みを見せないとそう生きてきた。海外遠征を終えて帰ってきたあたしに浴びせられた罵詈雑言。そんなこと言われなくてもわかっている。だからシリウスに契約を切ろうと話をしたんだ。それでも彼女はあたしの手を取った。それだけだ。わかっていても、胸が痛い。頭がグルグルとする。トレーナー室へ逃げるように駆け込んだ。食いしばり過ぎたせいか頭が痛い。ぽろぽろと頬を伝うそれを止められずにいる。悔しい、情けない。あたしのせいでシリウスがひどく見られているなんていやだ。あたしが全部悪いのに、あたしがもっと冷静でいられたら。あたしのせいだ、あたしのせいでシリウスの人生を時間を滅茶苦茶にしてしまったんだ。嗚咽が環境音に混ざっていく、ただただ情けなくて、悔しくて、自責と彼女への懺悔。もう戻せない。進み続ける時計を戻すことは誰にも許されない。
「来たぞ……どうした?」
「な、なんでもないわよ!」
慌ててそっぽを向いた。涙で濡れた顔を彼女に見せたくなかった。彼女が来ようと空気も読まずに流れ続ける涙を拭えずに、ただただ頬を伝っている。
「なんで泣いてるんだ?」
「目にゴミが入っただけよ……」
「何があっても泣かなかったアンタが?」
「そうよ」
ひとりにして欲しい。そう思えなかった、言えなかった。
「こんなに目を腫らして顔をぐしゃぐしゃにして」
彼女があたしのそばに歩み寄り、涙を指で拭う。初めて彼女があたしの顔に手が触れた時だった。彼女はあたしに口説き文句のような言葉を言ったりはするが、パーソナルスペースに入ることはなかった。握手したりはあったが、こういうことは1回もなかった。彼女の手に自分の中の何かが崩されてしまうものを感じながらも、涙を拭う彼女の指のあたたかさに安心を覚えていた。
「うるさい……」
隠すように強い言葉を使う。そのまま居て欲しいと言えない。あたしらしからぬあたしが見え隠れする。あたしが誰かを求めるなんてあり得ない。あたしじゃない。言葉を染めて、あたしはそんなあたしを隠す。そうしてきたのに、彼女のアプローチも気にしないようにして振舞ってきたのに、また変えられてしまった。
82二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 15:49:54
あたしがウマ娘になってしまった。うまく歩けなかったあたしを彼女はパーソナルスペースに侵入して横抱きで送迎をするようになった。朝起こしに来てはあたしと朝食を、夜は寮に帰る前に夕食をとるようになっていた。苛烈になるアプローチも耐えようとしていた。あたしは彼女に相応しくないから。でも限界だった。嘘で隠せることも、染めた言葉で隠せることにも限界があった。隠している感情はいつもよりポーカーフェイスでいられないこの顔と尾や耳に出てしまっていた。
「これも『頼る』なの…?」
「そうだ。『頼る』だ」
あたしは彼女の膝の上でポッキーを食べさせられている。彼女の膝の上に跨り、差し出されるポッキーを食べるだけ。時々高めの位置にされて、上へと身体を反らすと胸と胸がぶつかる。
「絶対嘘よ」
「私がこれを『頼る』と言ったら『頼る』だ。アンタは素直に私を頼れ」
前の身体よりもずっと大きい胸のおかげで鼓動が聞こえずに済んでいることに少し悲しさを感じながら、ポッキーを口にしていく。わかっている、彼女はあたしに嘘をつかない。今の言葉も彼女の本音だろう。普通に歩けるようになった今も身体を理由に、『頼る』ことをしている。すこしだけ素直になれた気がした。もっと彼女の方へと、向き合えるだろうか。ずっとひとりでも平気だったのに、彼女がいないとダメになっている。もっと素直になれるだろうか。顔に熱を感じながら、ポッキーを食べるあたしを彼女は満足そうに見ていた。
≫110二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 17:13:04
ーーートレセン学園の中で走る車椅子。
その上に乗るサトトレこと僕は、今丁度終わった選抜レースを眺めていた。
走り終わった子の元にトレーナー達が寄り、特に勝った子の元には何人かのトレーナーが集まっていた。
(トレセンらしいなぁ…僕にはあまり関係なかったことだし。)
そんな光景を僕は気にすることなく、その場から離れようとして…
「あの!」
ふと呼び止められた。振り返ると先程走っていた一人のウマ娘が息を切らしながら僕を見てくる。
「どうしたのk…」
「私のトレーナーになってくれませんか!?」
いきなり押しかけくる。僕は少しタジタジになりながらも返した。
「…まずは落ち着いて、いきなりだと何かと問題だよ。」
「あっ…」
シュンとする彼女を慰めつつ、僕は彼女に答える。
「落ち込まないで。今度から気をつければいいからね、…それでトレーナー契約だけど、僕は結べないかな。」
彼女の顔が暗くなる。僕は理由を説明しようとして、彼女の言葉に動きを止めた。
「…それはダイヤさんのトレーナーだからですか?サトノジャッジさん。」
「…知ってるんだね」
「勿論です、私は貴方に憧れてここに来たんですから!」
僕に憧れてという言葉に反応する。そんなことはつゆ知らずに彼女は喋り続ける。
「…私は貴方に私の走りを見てほしくて、私は貴方みたいになりたくって!」
「…それは駄目だよ。僕になってはいけない。」
思わず僕は制止する。そこだけは聞き逃がせなかった。
「…なんでですか。私では届かないからですか…!?」
「ううん、そうじゃないよ。」
むしろ彼女は次にこの世界の高みに登れるだろう。そう実感するほどのレースを魅せた。だから…
「僕に憧れることはいい。でも、君は君で、僕は僕だから。僕にならないでほしいんだ。」
確かに僕が見れば僕の再来とでも呼ばれるだろう。そして彼女はそれがおそらく出来るはず。
でも、それはきっと茨の道。皆から再来としての期待を背負って歩かなければいけない。そんなことをさせたくはなかった。
「僕のように過ぎ去ったものに目を向けるより、君は君の道を歩むことがきっと良いから」
「…改めて言うなら、僕は君のトレーナーにはならない。でも、きっと君は未来に巡り会えるはずだよ。僕がはかった通りならね。」
111二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 17:13:41
「…はい」
涙目の彼女にそう優しく声をかけつつ、僕はポケットから取り出す。
それは赤色の細い紐。勝負服の赤いチョーカーに使われているこの紐を彼女に渡す。
「僕からの贈り物だよ。縁が君を導いてくれる、そのためのお守り。」
「…ありがとうございます!」
駆けていく少女を眺めて、僕はふと笑う。そして誰ともしらず祈りを捧げた。
「…どうか彼女に祝福がありますように。」
短文失礼しました
魅せられた少女とサトノジャッジのお話です。ダイヤちゃんが辞めたらサトトレも辞めるつもりなので担当を取りはしません。
何かを背負えばきっと力強くなりますが、でも何かを背負わなければ早くなります。背負わせすぎてほしくないからとも。
お守りは彼女への福音かもしれません。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part408【TSトレ】
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part409【TSトレ】
≫51二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 19:06:16
「そう、チームトレーナーにはならないのね」
「ええ、勧めてくださったのはありがたいですが、デザイナーとしても目指す以上、他の方まで見る余裕がなくて、申し訳ありません」
「いいのよ、気にしないで。これはあなた自身の意思で決めることなんだから。それに、あなた自身の夢を追いかけるのは素敵なことよ、頑張ってね」
「ありがとうございます。キタトレさん」
今、私たちはトレーナー室の一室で話し合っている。
話題は私がチームトレーナーになることを辞退すること。
キタトレさんや他のトレーナーからチームトレーナーとしての実績も積んだ方がいい、と誘われていました。
チームプロキオンをまとめるキタトレさん、チームブラックヴォルフを率いるブラトレさん、チームプラトニエが集うルドトレさん
私の周りでもこれだけのチームを率いているトレーナーがいる
今後もトレーナーを続けていくのであれば、チームトレーナーになるべきなのは分かる。
だが、私はデザイナーも目指すことを決めた。そのため、こうして断りにきたのである。
「でも、少し惜しいわね。あなたの人柄なら色んなウマ娘とも上手くいくでしょうに」
「そのように評価してもらえるのは嬉しいですね」
「ウマ娘だけではなく、トレーナー達も評価しているのよ」
そういって、優しく頭を撫でてくれます。
彼女は多くのウマ娘に甘えられている、と聞いているが、確かにこれは甘えたくなるのもわかります。
「大丈夫よ。あなたならきっとトレーナーだけではなくデザイナーにもなれるわ」
「ええ、必ず、なりますよ。多くのウマ娘を輝かせられる勝負服デザイナーに……」
「応援しているわ、何かあったら何時でも相談にいらっしゃいね」
「ええ、その時はお願いします……その、キタトレさんはこれからもトレーナーを続けるのでしょうか?」
話し終えてからふと思い至り、尋ねてみる。
彼女はこれからも続けるのか、続けるのなら、是非……。
「そうね、これからも続けるでしょうね」
「なら、キタトレさんのチームの勝負服をいつか作ってみたいですね」
「あら、それは嬉しい申し出ね。楽しみに待っているわね」
そういって優しく抱き締めてくれます。
大きな胸に包まれて、安心する暖かさを感じる。
きっと、この人に恩を返したい、そう思うのでした。
≫100二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 19:26:36
「へえ、フクトレめちゃくちゃ細部がうまいですわね・・・この辺の技術とか教えて欲しいくらいですわ」
「そういうマクトレはなんかこう・・・うまいんだけど、なんだ?」
「雑でしょう?色々と。だから細部の教えを乞いたく」
「ああ、暇があったらな。ブラトレは?」
「ほい」
「なんでしょうその・・・経験はないけど絵心はあるって感じですわね」
「褒めでいいのか?」
「やれば確実にできそうってことだな。・・・おい」
「はい・・・」
「見せてくださいまし」
「はい・・・」
「・・・」
「なんとなくわかってはいるんだ。うん。なんとでも言って」
「いわゆる画伯だな」
「独創性は重要な芸術の要素ですわ」
「うう・・・」
≫152二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 20:06:14
◆踊れるの?ネイトレさん
「トレーナーさんは踊れないよ」
「せめて聞いて? 過去一短い駄弁りになっちゃう」
「じゃあ、踊れないよね?」
「念のための確認は悲しい……」
「……トレーナーさん。歌って踊れるトレーナーさんなんてそれはもう解釈違いだよ」
「『別にどんなトレーナーさんでもいいんだよ』って話はどこ!? 一応人並み、いや中央トレーナー並みにはうまく踊れるんだって!」
「……ここに、ダンスうまいの基準があります」
「……はい」
「名前をデジトレさんと言います」
「無理だあぁぁぁぁ!!?」
「安心しなよトレーナーさん。あたしも全然踊れないから」
「それ物差しがおかしいんだよ!あとネイチャはとってもかわいく踊れてるよ!」
「に゛ゃっ!? いきなり反撃された!」
「それにね……ネイチャは知らないかもだけど、私だって完璧に踊れる楽曲一個はあるんだから!」
「……ほーう? 言ってみなさいよ」
「……うまぴょい伝説」
「なんでその選曲」
「ネイチャがクラシックの頃、モールで桐生院さんと踊って……付焼き刃で披露したのが悔しくて、すごく練習した。今なら1位から3位のポジションなら踊れる」
「掲示板取る気満々じゃん……」
「ちなみに桐生院さんはオールポジションいけるよ」
「……あれ。そういえばあたしそれ見たことあるかも」
「え、ウソ!?」
「『URAファイナルズ』宣伝のやつでしょ? 超恥ずかしがってるトレーナーさんと桐生院さんで……うん、見た見た覚えてる!」
「見られてた……あれを見られてたぁ……」
「……かわいく踊れてたよ。トレーナーさん」
「言わないでぇ…………」
───後日、カラオケルームにて大勢の前で歌って踊る羽目になったネイトレさんがおりましたとさ。うまぴょいうまぴょい
≫169二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 20:15:49
「絵画……ですか……?」
「はい! 今トレーナーの方々に描いて貰っていまして、グラトレさんにもと!」
「なるほど……なるほど……申し訳ありませんが、芸術には疎いものでして……」
「大丈夫ですよ! 他のトレーナーさん達も上手い下手関係なく描いてくださってますから!」
「…………それでしたら承りましょう」
「やった!! あっ、すみません……えっと、ありがとうございます!!」
「いえ、いえ……」
(凄い……墨と筆だ……)
「……では一筆」
「因みに、何を描かれるか聞いても良いですか?」
「今回は、龍を描こうかと思っております」
「龍……」(うっ……頭が……何故か考えてはいけない様な……)
「やはりこの様な絵画の題材としては龍が多いですからね」
「そうですね」(龍ってこんなに頭丸かったっけ?)
「私もあまり絵心は無いですが……描くとしたらやはり龍を描きたいと思いまして」
「そうなんですね」(ひげ……かな? ……ウナギっぽくなった……)
「最近では龍に蟷螂と獅子を組み合わせたモノが人気とか……」
「あ~、グラトレさん的にはアウトなんでしょうか?」(角? ゴボウ?)
「いえ、いえ、元より龍は様々な生き物の要素を足した存在……今から追加した所で咎める方も少ないでしょう」
「なるほど、そうなんですね」(だからって手を鎌にしなくても……)
「……画竜点睛……これで完成です」
「…………立派なカマライゴンですね!! ……ええ!!」
「カマライゴン? いえ、普通の龍ですよ?」
「えっ!? それじゃあこの鎌は?」
「……少々下手ですが……普通の手のつもり……ですよ?」
「……そうですか~」(思っていた以上に……!)
「芸術は分からないと先に伝えた通りですよ……」
「そっ、そうでしたね……」
──何とも言えない空気が暫く場を満たしましたとさ。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part410【TSトレ】
≫43二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 20:42:04
じゃあ、ちょっと拙いかもしれませんが
たとえ姿が変わろうとも
もし、自分が自分でなくなってしまったら人はどのような行動をとるのだろうか──
あるものは取り乱し、あるものは絶望し、あるものはそれでも前へと進もうとするだろう。
じゃあ、自分はどうだろうか──
その日の夕方、俺とチケットはトレーニングも終わり、過去の思い出に花を咲かせながら敷地内を歩いていた
チケットと出会ったこと、初めての重賞勝利のこと、ビワハヤヒデやナリタタイシンとの賑やかで楽しいやり取り
──そして、ダービーを制覇したときのこと
途中、チケットの声が鼻声になっていたので嗜めながら歩いていると、ふと三女神の像と目があった…というよりは合ってしまったと言う方が正しいかもしれない
まさかな…
浮かんだ懸念や不安が頭の中を駆け巡り、暫く立ち止まっていると、
「トレーナーさん?どうしたの?」
チケットが、心配そうに俺の顔を覗き込む。ハッとしつつもどこか上の空な状態で咄嗟に「なんでもないよ」と答えると、ふうと息をつく。
「チケット、今から飯でも食いに行こうか」
もしかしたら、"この姿の俺"と一緒にいられるのは今日で最後かもしれない──なら、最後の晩餐でチケットと一緒に夕飯を食いたい
そんな俺の自分勝手なワガママだ
「えっ!?いいの!?やったー!!!」
「ああ、どこでもいいよ」
「だったら、ラーメンが良い!!最近美味しいところ見つけたんだーっ!!」
「そうなんだ。そりゃあ楽しみだなぁ」
動揺と不安を悟られないように答え、外出許可証を提出し、俺とチケットは目的地のラーメン屋へと向かう。
「早く行こうよトレーナーさんっ!!」
チケットのうきうきとした足取りを後ろからにこりと微笑みながら見守りつつ
──嗚呼、三女神様。あともう少しだけウマ娘にするのを待っていては下さいませんか
祈りを心の中で唱える。それは届く筈もない空しい願いだと自分も知っていた筈だろうに
47二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 20:42:44
たとえ姿が変わろうとも2
ガチャッ
アパートの鍵を開け、靴を脱ぎ部屋の電気をつける
「しかし結構量があったな…」
流石にチケットのやつより量が少ないとは言えウマ娘用のサイズを食うのは無理があったのか、息苦しそうに息を吐きポケットから赤ラークを取り出すと、煙草に火をつけてソファに座る
「………」
紫煙が部屋を包み赤ラークのビターな苦味が口の中に広がる
部屋の中だけ時が止まったように静寂が支配した。
しかし、煙草を持つ手はカタカタと震え目にはうっすらと涙が浮かぶ
「──怖ェなぁ。」
チケットに悟られまいと押さえていた感情が一気に吹き出した
ウマ娘化という今だ全容がつかめない現象への恐怖、自分が自分ではなくなるんじゃないかという恐怖
──そしてなにより、奇異の目に晒され嘲笑の的にされるのではないかという不安。
故郷で幼少よりアルビノによる白い髪と赤い目により忌み子と言われ奇異の目や嘲笑の的となった嫌な過去が、チケトレの中で鮮明に甦る──
「どれだけ試練を与えればすむんですか神様ってやつは」
天上にいる神に向かって唾を吐き捨てるかのように嗤い、煙草の火を消して
チケトレは辛い現実から目を背けるかのように布団へと潜り込んだ
「このままの姿で居られますように」
そう願わずにはいられない夜だった
49二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 20:43:39
たとえ姿が変わろうとも3
ジリリリリリ!!!!
毎朝6時にセットしているアラームで目を覚ます
体を起こし、寝ぼけ眼をこすりながら洗面所へと向かい、鏡を見る
「えっ…???」
頭がフリーズした──
そこに写っていたのは白髪の男ではなく、絹のような白く長い髪に赤瑪瑙のような深紅の瞳、真珠のような白い肌を備えたスレンダーなウマ娘だったからである
「まさか─」
ぞわっ
瞬間、鳥肌が全身を包み込み、強烈な吐き気と不快感がチケトレを襲いその場に踞る
なんで──なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!
受け入れきれない現実が洪水のごとく押し寄せる
呼吸は鐘をつくように早くなり、息づかいが荒くなっていく
気は動転し、じぶんの顔を信じられないと否定するかのようにかきむしる
受け止めきれない精神ダメージが涙となり、瀑布のごとく目から溢れだした
「う…うわぁああああぁああアァァああ!!!」
まだ薄暗い洗面所の中に慟哭だけが響いた
────
朝8時、教室にいるチケットにチケトレから1通のメールが届いた
「すまない。今日は行けそうにない」
たった1文の素っ気ないメールに、チケットは不安に駆られる
「トレーナーさん大丈夫かなぁ…」
学校が終わったらお見舞いにいってあげないと…
トレーナーさんを元気付けてあげよう─そんなことを決心しつつ今日もチケットの1日が始まる
50二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 20:44:39
たとえ姿が変わろうとも4
「チケット、ちょっと良いか?」
カフェテリアでご飯を食べ、片付けていると、チケットがタイトレに話しかけられた
「どうかしたの?タイトレさん」
「ここじゃなんだから場所を変えよう」
そう言われ、二人は校舎裏へ場所を移す
「あいつは…今日来てないんだろ?」
「そうだね。今日は行けないってアタシのケータイに…ってまだ連絡ないの!?」
思わずチケットが大声を張りそうになるも、タイトレに口を押さえられる
「しっ、声がでかい…まあそういうことだ」
「タイトレさんも人のこと言えないじゃん」
そう返すと「それもそうか」とタイトレは答えて続ける
「あいつが無断欠勤するなんざ普通はないからな」
「そもそも休むことも殆んど無いもんねトレーナーさん。」
「ああ。だから嫌な予感がしててな」
「いやなよかんってどんななの?」
首をかしげ、チケットはタイトレに尋ねた
「トレーナーのウマ娘化だよ」
タイトレは頬のあたりをかきながら答える。最初期にウマ娘となり色んなトレーナーのウマ娘化を見てきたからこそ働いた勘だった
「もしこのままほっといたら不味いことに─ってもういないか」
さっきまであったチケットの姿はなくあとにはタイトレが一人残っていた
「頼むぞチケット。あいつはオレのかわいい後輩でもあるんだ」
せめて最悪な自体は避けられるようにとタイトレは願わずにはいられなかった
51二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 20:47:39
──────
「トレーナーさんっ!!トレーナーさんっ!!」
ドアノブをガチャガチャと何回も回し扉を強くガンガンと何度も叩く
それでも中から反応はなかったため、アパートの大家さんに事情を説明し、扉を合鍵で開けてもらい、チケトレの部屋へと
「トレーナーさん…?どこにいるのー!?」
玄関に入り周囲を見渡すも電気もついておらず、日の光もカーテンで遮断されているためチケトレの姿が見えない
居ないの?と若干焦り、リビングへと立ち入ろうとしたチケットはその光景に言葉を失った
「……チケットか?
ひどく弱々しい声でチケトレはチケットのいる方を向いた
リビングの中はひどく荒れており、机はひっくり返され物は辺りに散乱し所々に血が付いていた
まるで泥棒が立ち入ったかのようにボロボロになった部屋の隅では、チケトレが頭からシーツをかぶりひどく怯えた目でチケットの方をじっと見ている
手首からは血が滴り落ち、顔には強く引っ掻いたような傷跡が頬に三本刻まれ、絹のような白くて長い髪は肩口までざんばらにカットされていた
「…トレーナーさんだよね?」
チケットの問いに、白毛のウマ娘はパニックに陥り、呼吸が荒くなる
「みみみ見ないで…見ないでくれ」
ひどく憔悴した様子でチケトレは吃りか細い声で呟く
ハイライトの消えた深い絶望を抱えた目はまるで罰を受ける子供のようにチケットの方を見据える
──トレーナーさん…
困惑していたチケットの表情が覚悟に染まる
気が動転し、過呼吸に陥ったチケトレのもとへ歩みより片ヒザをつき、ぐいと抱き寄せる
「大丈夫だよ。トレーナーさん」
「アタシはちゃんとトレーナーさんだって分かってるから」
52二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 20:48:27
ポンポンとやさしく背中を叩き背中をさすってあげると、チケトレはチケットの背をぎゅうっと強く握る
「ッッ……」
ウマ娘の力で強く握ったためチケットの背中に爪がうっすらと血が制服に滲んでいく
「ッッ……」
背中が痛む。けれどトレーナーさんの心の痛みに比べれば屁でもないやいっ
ふと、トレーナーさんがポツリポツリと言葉を発し始めた
「俺、この姿になって怖くって─自分が自分じゃなくなった気がして─辛くって苦しくって…うあぁぁああぁああ」
堰をきったかのようにチケトレの目から涙が溢れる。
「うん、うん。辛いよね、苦しいよねアタシも力になれなくってごめんね…ごめんね」
チケットの目から涙が滲み、嗚咽が混じった声になる
ああ、この子は本当に、やさしい子なんだな
他人の幸せを自分のことのように喜び他人の不幸を自分のように悲しんでくれる。他人の気持ちに寄り添える感受性が高くやさしい性格に俺は何度も何度も何度も何度も救われてきたんだ
抱き合ったまま暫く二人で泣き腫らしたあと
チケットの胸を借りつつ、自分も荒くなっていた呼吸をゆっくりと整えていく
「ぐすっ。ちょっ、ちょっとくすぐったいよぉ」
俺の息が当たったのかチケットはこそばゆそうにして泣き痕が残った顔でクスクスと笑う
「ってうわぁっ!!もうこんな時間じゃん!!」
時計を確認すると、時刻はもう既に3時を回っていた。2時間以上抱き合ってたのかと思うとチケットに迷惑をかけたんじゃと思い申し訳なくなる
「ごめんっアタシそろそろ行かないと…」
この時間であればトレーニング開始までには間に合うだろう
俺は理事長に今日の無断欠勤を詫びた上で相談し、1週間の休暇をもらうことになった
「じゃあ、またね」
「ああ」
ばたんとドアがしまり、ふうと息をつく
リストカットしてしまった箇所を消毒し包帯を巻き、荒れた部屋を片付けたあと、赤ラークに火をつける
紫煙を燻らせ、煙を吐き出す。
カーテンを開けると橙の光が俺の部屋に差し込んだ
たとえ姿が変わろうとも俺は俺だ──いまはそれでいいだろう
吐き出した煙は夕日が差し込む部屋に消えていった