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目次
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part556【TSトレ】
≫175二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 22:15:30
某日
「…ここ、東京大賞典のコースだよね!」
「そうよ、地方のレースも行っているわ。」
───キタトレはキタを連れて、大井競バ場に来ていた。そのダートコースにウマ娘はおらず、がらんとしている。
「…それで、トレーナーさんは何でここに来たの?」
「一言で言えば、下見かしら。アイネスワールドちゃんの出場するレースはここで行うからよ。」
「ワールドちゃんの初めての重賞レースだもんね。確か…」
「東京スプリントよ、ダート1200mのレース…彼女にとっては大舞台ね。」
「…勝てるかな、トレーナーさん?」
キタからの問いかけに、目を細めながらキタトレは語る。
「…はっきり言うなら、分からないわ。ワールドちゃんはオープンでの勝利は上がってるけど、どうなるのか読めないわね。」
「そうだよね…」
「この世界に絶対はないわ。負ける時は負ける、そういうものよ。…とはいえ、0.1%でも勝率を上げることは出来るわね。」
そこまで言い切ったキタトレは、もう一度考えたあとにキタに向かって優しく言った。
「…まあ、ここらへんにしておきましょうか。所で、個人的に地方で面白いと思うのはナイターレースね。」
「ナイターレース?」
「中央ではやらないのだけど、地方では午後の遅くからすることがあるのよ。当然暗いのだけど、ライトアップと合わせて綺麗なのよね。」
そう言ったキタトレは持っていたウマホで映像を見せる。キタは興味津々な顔で眺めていた。
「…!」
「まあ、こういうのもアリよね。地方の娘だとナイターレースに合わせて髪飾りとかを変える娘もいるとは聞くわ。」
「本当だ、輝いてるね…」
「面白いでしょう?…よく中央の方が目立つけれど、私は地方も中々良いものだと思うわ。どんな石でも、磨いたら綺麗なものよ。」
キタトレは相変わらず笑みを浮かべ、それにキタは頷いた。
───その日は、品川区で色々としてから二人は帰ったのだった。
短文失礼しました
地方競バ場ということで、近い大井に真剣な理由でいくキタトレです。勝つために少しでも可能性を上げるのが彼女のスタイル。
地方の娘が中央に殴り込む浪漫も、或いは分からせられる無常も良いです。勝負服は多分ないけど細かい部分でこだわってそうだよね。
≫176二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 22:18:04
説明しよう!かくかくしかじかとは!
グラストレ(以下略)「あの…最中、お好きなんですか?」
サブグラストレ(以下略)「えっ…?ああ、そこまで好きなわけでは…いつも食べてるだけでして」
「なるほど…突然で申し訳ありませんが、どなたの担当トレーナーさんでしょうか?」
「ああ…すいません。この前の選抜レースで3回連続でスカウトの機会を逃してしまいまして」
「なるほど…突然ですが、私、登山が趣味なんです」
「はぁ…」
「それで、今度また登ろうと思うんです。確か…ぢょもらんまぁ…でしたっけ?」
「なるほどなるほど」
「それで…少々の間トレーナー業の委託を考えておりまして」
「ははぁ?」
「そこでひとつ提案なのですが、経験を積む、という名目でどうでしょうか?」
「いいんですか?こんな初対面のどこのウマの骨とも分からぬ輩に」
「ええ。とても優しく、誠実な方とお見受けします。こちらこそ、お願い致します」
こんな感じです。フリーダムに動かしすぎたかもですが許して
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part557【TSトレ】
≫171うおおタイトレの下着21/12/14(火) 00:20:42
ビコーペガサス担当トレーナーは自らを『スポットライトのようなもの』と定義していた。
誰かを照らすことは出来るだろう。しかしそれは人工的で、局所的だ。満たされた放射、万人に降り注がれる陽光には遠く及ばない。
ビコトレが培ってきた魅力の多くは、醜い容姿を補うための努力で構築されている。天然のものではない。根っこの部分が限りなく『陰』なビコトレの『陽』な振る舞いは、そのすべてが意図的で、人為的なものだ。
だから、という訳ではないが。
自然とした魅力。意図と思惑で加工されたものではない、天然の太陽を目の当たりにすると、ビコトレはちょっと気後れしてしまう。
「───ビコトレさん? ビコトレさんじゃないですか! どうしたんです、そんなに項垂れて」
例えば、そう。笑顔の眩しい豊満ウマ娘、ナリタタイシン担当トレーナーと不意に遭遇して、ビコトレは一瞬、平時のにっこりを忘れてしまったのだ。
タイトレの言う通り、今のビコトレは項垂れていた。思い悩んでいた、と言ってもいい。しかし、誰かの視線を感じたなら、ビコトレはすぐに『誰かのための顔』をする。そうでなければ、相手を不快にさせてしまうからだ。醜悪な容姿を、魅力的に見える笑顔で上書きできなければ、ビコトレは自分が素面を晒して外出することを許せない。彼女の笑顔は『努力の証』で『前提条件』なのだ。
たとえ、ウマ娘のカラダとなり、容姿の問題が改善されようとも、それはけして変わらない。
それはそうとして、タイトレは思い悩む知己をほうっておく人間ではない。ビコトレからしても、彼女が彼だった頃から、容姿に臆することなく接してきた数少ない後輩である。どうされたんですか、という問いに、ビコトレは正直に悩みを打ち明けたのだ。
「このカラダになって、流石に一度帰省したのさ! ワタシが健在であることを家族に示し、心労を癒すために。しばらく会っていなかったから、うん、ほんのちょっぴりだけ信じてもらえるか不安だったけれど……定期的にビデオ通話していたのが功を奏したのかな、ともかく、家族はすんなり信じてくれた。だから問題はそこじゃなくって……」
そこでビコトレは言葉を切った。僅かに、沈黙が流れる。
172うおおタイトレの下着21/12/14(火) 00:21:14
怪訝な顔をするタイトレの前で、しばらく懊悩してみせてから、「……あまり言いふらさないでくれたまえよ?」「もちろんです!」「ほんとかなぁ~~~……?」などと気の抜けたやり取りを挟んで、45歳元男性、現ロリロリしい金髪ウマ娘は、そっと薄い胸に手を添えた。
「下着……」
「……」
「一番下の、今年で7歳になる娘がね。……自分のものを薦めてくれて」
「……」
「プリファイの……」
「プリファイ」
「うん、プリファイの……ジュニアブラ」
「……」
「……外すと、悲しむものだから……父親としては、断る訳には……ね」
「……いや、でも、ずっとつけていなくても、その、バレないんじゃないか……?」
「郵送……」
「……」
「下着セット。送られてきて。ワタシのコーディネイトは、娘達に支配されている」
「……達?」
「うん」
「「……」」
うまぴょいうまぴょい
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part558【TSトレ】
≫9二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 00:41:45
「カ、カレン、恥ずかしいから下ろしてくれると嬉しいな!」
「ううっ……なんで私までっ! 下ろしてくださいっ!」
「…………」ニコッ
「お願い、せめて何か言って♡ あ、でも笑顔カワイイ……わぁ笑顔が深くなってるぅ!」
「……え、なにこの状況……」
事の発端は、いつも通りカレトレ(姉)が炎上投稿をしたことだった。
ヘリサブトレと2人で料理をする趣旨の投稿。しかし角度の問題で見ようによっては……いや、普通に見ただけでは、裸エプロン姿にしか見えないその画像を一目みた瞬間、カレンチャンは飛び出していった。
そこでお兄ちゃんはとりあえずエプロン姿で自撮りをしてウマスタに投稿、カレンチャンの写真も合わせることで話題をそっちに呼び込みつつ、カレンチャンの目撃情報を集ってこのトレセン学園校舎裏に来たのだが……
結果、吊るされてるカレトレ(姉)とヘリサブトレ、そしてその前で笑顔のままに重圧をかけているカレンチャンを見つけたのである。
「いやーん恥ずかし……おう何見てんだセクハラだぞ手前らおら。ガバァゴッバァッガルァ!」
「……えっと、うん。ヘリトレお姉ちゃんも同罪ってことじゃないかな……。あと止めてお姉ちゃん、威嚇しないで恥ずかしい」
「カレンも今のはちょっと……どうかなって」
「そんなぁ……! でもヘリサブトレちゃんはそやつの魔の手から守らないと! 今こんな格好だし!」
こんな格好って。
お兄ちゃんが注意深く観察すると、確かになんか無駄に薄い恰好をしている。ウマスタの写真よりも更に薄着だ。
もしやと思ってヘリサブトレの方をちらりと見るも、すぐに目を逸らす。
決して不味い恰好ではなかったが……意外とスタイルいいなと一瞬思った罪悪感の方が上回ったからだ。
10二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 00:41:58
「守りたい、ねぇ……じゃあ、なーんであんな投稿をしたのかなぁ。お姉ちゃーん?」
「…………私も、別の路線をいくべきかなって。その上で、カレンと競い合う。『今』は、それが必要なんじゃないかって、私思ったの」
「お姉ちゃん……。でもこの路線はやめよ? あとわざわざ投稿時間ずらしまでやってたけど、これ怒られるってわかってたからだよね」
「……そもそもなんでこんなに早くここがわかったの!」
「光の加減で時間帯なんて簡単にわかっちゃうんだよ? あと加工も雑だし反射もそのまま。だからいつ撮られた時間が逆算して、今頃なにしてるかなーって考えたら……ほら」
「わあ……。わあい…………」
「あ、お兄ちゃん。お姉ちゃんのスマホ取って?」
「え、待って! 止めていやーんどこをまさぐ……あああああああああ!」
なにやら騒がしいカレトレ(姉)を無視して、お兄ちゃんはポケットをまさぐる。
ほどなく、お兄ちゃんはカレトレ(姉)のスマホを奪い取った。
「はいとりあえず没収っと。じゃあウマスタの投稿は削除しとくからね?」
「ふふふ、バカめ! スマホには当然ロックがかかっているのだ! そして私は既に投稿を予約している……! お前にはどうすることもできないのだー!」
「お姉ちゃん……この前カレンお姉ちゃんが悪の幹部してたの、羨ましかった?」
「……ちょっぴり。でも今のは事実よ! ふはは例えカレンにすら私のスマホを開くこともできまい! ましてやお前になど!」
「とりあえずパターンロックはCで……うわ通った。パスワードは0、3、3、1っと。はいOK。あ、ウマスタ自動ログインじゃない……えーっとメールアドレスと、パスワードは……KAWAIIcurrenchan051……ダメ、054くらいだっけ今? ……あ、開けた。じゃあ投稿を削除っと」
「……わっふう」
お兄ちゃんはウマスタを開くと、即座に投稿を削除、ついでに予約投稿を確認すると、今まさにカレトレ(姉)とヘリサブトレの写真(とてもせんしてぃぶ)が投稿されようとしている所であった。料理中にうっかり失敗したからか、生クリーム塗れになった2人、申し訳程度に添えられた※この後スタッフが美味しく頂きましたという一文がかかれた一切センシティブなことは無い写真である。薄い恰好の原因が分かった。すぐさま端末と脳内から削除し、ついでに保存された写真も纏めて消去する。
11二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 00:42:55
「あああああああああああ!? なんてことを!?」
「はいはい……。あ、ちゃんと復元できないようにしとかないと」
「ほわあああああああ!?」
カレトレ(姉)の絶叫を極めてどうでもよさげに聞き流しながらも、お兄ちゃんは思う。
これ、ヘリサブトレさんは止めなかったのだろうか?
「…………あの、ヘリサブトレお姉ちゃん。なんで止めなかったの?」
「い、いやそのっ! 最初は止めようと思ったんですけどっ! 『別にこのくらい普通だし、そもそも全くセンシティブな画像でもなんでもないよ? それとも、この画像をそういう目で見る子だったり……なんてね?』と言われてっ! そのまま暫く会話していたらいつのまにかこんなことにっ!」
「……そのまま丸め込まれちゃった、と」
お兄ちゃんは嘆息した。ヘリサブトレが悪いというよりは、カレトレ(姉)の丸め込み力が上回ったのだろう。少なくとも今日は。要らないところで無駄な高スペックが発揮しおって。
「それで、あのっ! 私はもう帰ってもいいですかっ!」
「んー?」
お兄ちゃんは少し考え──
「ヘリトレお姉ちゃん……お姉ちゃんにも、目を付けてたんだよね。カワイイの素質があるなって。あ、ヘリオスお姉ちゃんに許可を……いや、ヘリオスお姉ちゃんも呼んでおこっか」
「……た、助けて下さいっ! 誰かっ!」
「おうおうヘリサブトレちゃんになんて目を向けてんだ手前おら……あ、カレン♡ 何か言って♡ 笑顔のまま迫ってこないで♡ あ、顔が近い! カワイイコワイカワイイ!」
そして終始笑顔のまま全く表情が動いてないカレンチャンと、ちょっと乗ったお兄ちゃんの手により、無事2人はカワイイに飾り付けられ。
お姉ちゃんの写真の中では一番のウマイネを記録したものの、なぜかお姉ちゃんはそのことを思い出したがらないのであった。
以上
書けたから書いてしまったのでここに供養
≫20二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:04:16
「常に客観視を怠らず、我が身の振舞い正すべし――さもなくば我が身ばかりでなく、周りの者への恥辱となること、努々忘れるでない」
「ううう……ご、ごめんなさいぃ……っ」
「うむうむ、反省したならば僥倖じゃ。然るに――なんじゃカレンチャン、カレトレ君、その服は」
「せっかくなので、ヘリトレお姉ちゃん……お姉ちゃん?もカワイイしよっかなーって!」
「儂にお姉ちゃんは無理があるじゃろ……着付けを手伝ってはくれんかのう。そのようなふりふりは着たことがない」
「せ、先生っ!?」
「ま、弟子の罰は師の罰じゃ。しかし、公的に撮るからには、アレじゃの」
「……か、カワイく撮ってね♡」
「「「先生お姉ちゃん!!!」」」
「いやそれはいくらなんでも無理があるじゃろ!?」
こんなやり取りがあったかもわからねえな!ということでご奉納です
うまぴょいうまぴょい
≫36二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:20:41
ついに来た!憧れの場所、中央トレセン学園!
家族や地方のみんなには驚かれたけど、私だってやればできるんだから!
いつか、みんなから尊敬されるような偉大なトレーナーに…
「ここが、中央…」
私のほかに一人、立ち止まって学園の方を見ているウマ娘がいる。
身長は私よりも少し高く、綺麗な芦毛で長髪の少女。
物静かそうな雰囲気ではあるが、でも新人の私でも分かるほど、その少女には「オーラ」があった。周りを惹きつけるような、確かな何かが。
「綺麗…」
気づけば無意識のうちにそんなことを呟いていて。
その少女が学園に入っていくまでずっと目で追っていた。目が、離せなかった。
幸か不幸か、少女は私の存在には気づいていないようだったが。
「…はっ。私も早く行かないと!」
こんな感じで、私の中央での生活は幕を開けた。
これからこの身に起きることをまだ、私は知らない。
37二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:21:14
「へぇーっ!オグリはカサマツから来たんだ!」
「探してる教室はこっちだよ、オグリ。ついてきて!」
「ほんとうにオグリはおいしそうに食べるなあ」
あれから、あの時見かけた芦毛のウマ娘、オグリキャップと再会(実際は初対面なのだが)したのはすぐのことだった。シンボリルドルフとのトレーニングのあと、迷子になっていた彼女を案内してあげたのが始まりで、それ以降もこうやって時々会っては軽く話をしたり、学園を案内したりしている。
彼女、オグリキャップはトレセン学園のトレーナーたちの間ではすでにすごい話題になっていたようで、選抜レースもまだだというのにぜひともスカウトしたいという声が常にかかっているような、それくらいの圧倒的な人気だった。肝心のオグリ本人は特に気にしている様子はないというかずっとマイペースなのだけれど。かくいう私も、オグリが私の担当になってくれたらそれはどんなに素晴らしいことだろう、と心の底では思いつつも、まだ中央での経験が浅い私にオグリほどの才能の相手が務まるかな…という不安もあったりで、特にそういった話題は口にはまだ出せずにいる。
38二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:21:38
「君にはよく世話になるな。ありがとう」
「いいのいいの気にしないで!あなたたちウマ娘のサポートをするのが私たちトレーナーの仕事なんだから!」
その日も、いつものようにそれでさよならのはずだった。でも、ふと気になってしまったことが一つだけあって。
「オグリ、そのシューズ大丈夫なの?だいぶボロボロみたいだけど…」
「ん、ああこれか。そろそろ買い替えにいこうと思っていたんだ。私はすぐにシューズをダメにしてしまうからな…」
「もっと気にしないとダメだよオグリ!選抜レースも近いって知ってるし、それにいくらあなたがすっっっごい才能を持ってたとしても、シューズがちゃんとしてないと力を十分に発揮できないんだから!…あっそうだ!私がオグリに合うシューズを用意してあげる!オグリの力に耐えられるくらい丈夫で、走りやすいやつ!」
「…本当にいいのか?私はまだ、君の担当でもなんでもないというのに…」
「そんなの関係ないよ!私はね、あなたには常に最高の走りをしてほしい、それだけなの。せっかく多くのトレーナーさんがスカウトに来てくれるっていう場所で、シューズのせいでうまく走れませんでした…なんてのはすごく悔しいでしょ?私は、あなたの走りが好き。だから応援したい。それだけで、私にとっては十分な理由になるの」
つい思いを語ってしまった。熱くなるあまり、後半なんてすごい早口になっていたようにも思う。でもオグリは少し恥ずかしそうにしながらも、しっかりと答えてくれた。
「ありがとう。では、お願いしてもいいだろうか?」
「うん、任せて!」
39二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:22:27
『オグリが追う!オグリが追う!クリーク逃げる!逃げ切れるか!オグリか!クリークか―』
新しいシューズをオグリに渡し、選抜レースをオグリは全力で走って見せた。結果はスーパークリークに次いで僅差の2着だったが、それでも、オグリの走りは「惹き込まれる」素晴らしいものだった。過去のカサマツでの映像を、学園での練習を、何回も見てきた私だったが、今日の走りもまた今までで一番と言っても差し支えないくらいいいものだった。
「…レース、見ていてくれたか?」
「うん、見てたよ!すごかった!」
向けられる多くのスカウトの声の中、オグリは人波を不器用にかき分けて私の近くまで来てくれて。それが、わたしにとっては何よりも嬉しくて。そして。
この日のことを、何があっても私は一生忘れない。
「うん、やっぱりそうだ。―1つ、頼みがある。私のトレーナーになってくれないか?」
それからの日々はあっという間に過ぎていって。
一緒に笑って。一緒に頑張って。一緒に喜んで。まだまだ未熟な私だけれど、精一杯オグリのためにできることをやって。
そうして迎えた、オグリの中央初戦の日の二週間前。
よしっ、今日も頑張るぞって、いつもと変わらない日を過ごすはずだった。
だけど、その時、決定的に変わってしまったものが。
「あれ、私って…こんな見た目だったっけ…?」
40二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:23:10
朝、自室で目覚めてからその異様さに気づく。
違う、顔だけじゃない。体型が、明らかに別人のそれになっている。
肩に届かないくらいの長さだった黒髪は、胸まで届くくらいのオグリに似た銀髪になっていて。多分161cmはあったはずの身長はきっと150cmに届かないくらいにまで縮んでいる。何より違和感を覚えるのはこの頭の上から聞こえてくる音と、腰の付近にあるやたらと落ち着かずに動き回るもの。「ウマ娘の耳と尻尾」だ。
「これが、私…?」
もう一度呟いてみるが何も変わらない。嘘、なんで、どうして?
困惑はしていたが、でもその時に限って言えば、まだ私は自身に起きたこの現象を甘く見ていた。いや、この変化がもたらす影響を、正しく把握できていなかった。
悩んでいても解決しない。そもそも原因が分からない以上私一人ではどうしようもない。そう思って、私はいつもと同じように学園に向かうことにした。身体の変化に伴う勝手の違いに少し苦戦しながらも、なんとか普通に学園には辿り着いた。気づけばオグリとの約束の時間ギリギリになってしまっている。急いで彼女の姿を探し、そしてようやくその見慣れた姿が視界に入った。
その時だ。私が、どうしようもなく変わってしまったことに気が付いたのは。
「あ、オグリ!ごめん、おそくなっ―」
「ん、君は―。私に何か用か?だがすまない、今はトレーナーを探しているんだ。また後にしてくれ」
手が、届かない。
言葉が、届かない。
姿が、あんなに近くにいたのに、どんどんと、遠くなっていく。
「嘘、えっ、うそで、なん、どうして、あれ…」
おかしい。おかしいな。なにもかわらないはずだったのに。わたしなにかしちゃったのかな。
まって。おぐり。わたしだよ。きづいて。ねえ。いかないで。ここに、いるよ。
なみだが、とまらない。
41二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:23:42
「あれ、オグリキャップじゃないか。何か探し物か?というか今日はあいつと一緒じゃないのか?」
「…君は?」
「ああ、すまん。俺はお前さんのトレーナーのダチっていうか、同じトレーナー仲間だ」
「そうか…。私のトレーナーがどこにいるか、聞いてたりはしないか?」
「やっぱいねえのか。待ってろ、ちょっと連絡してみるから」
あれから、私は人目を気にすることなくしばらく涙を流し続けていた。オグリが見えなくなって、行ってしまって。それでも、何かしないといけないと、気を無理矢理持ち直して彼女をまた追いかけた。そこで見かけたのが、オグリと、私の友人のトレーナーだった。
彼とは幼馴染でかなり長い付き合いがある。私は高校卒業後地方のトレーナーとして進んだが、彼はすぐに中央のライセンスを取得してトレーナーになった。トレセン学園に来て再会した後は、よく情報交換をしたり連絡をとりあっている。
二人に気づかれないように様子をうかがっていたがやがてスマホが鳴る。もちろん相手は彼だ。私はその場から少し離れて電話を取った。
「もしもし、俺だけど」
「…もしもし」
「…なんかすごい鼻声だけど大丈夫か?今オグリキャップと一緒にいるんだが、お前のことを探してるって。今どこにいるんだ?」
「…もう私、トレーナーできないかも」
「…え?」
「オグリのこと、あなたにお願い。オグリにはごめんって、伝えておいて」
「おい、急すぎて話が見えてこないんだが。ちゃんと説明してくれないか」
「…ごめん、今は、無理。それに、言っても多分、信じてもらえない。ごめんね」
そう言って私は電話を切ってしまった。
42二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:24:07
「おい、どうした?…くそ、切れちった」
「トレーナーは?」
「分からん…。何かがあったっぽいのは間違いないが、何も話してくれなかった。何より解せないのは、あんなにお前さんのトレーナーになれたことを喜んでたやつが、急に俺に任せるなんて言ってきたことだ」
「! それは、本当なのか…?」
「俺だって嘘だと思いたい。電話先の様子からして何か事情があるのは間違いないはずだ。とりあえず時間を空けてまた確認の連絡をしてみるが…。ただ、お前さんをそれまで放っておくわけにもいかないよな…。レースも近いんだったっけか」
「ああ、確か二週間後のはずだ」
「それまでにあいつが戻ってきてくれるかどうか…。悪い、オグリキャップ。すぐには答えが出せなさそうだ。連絡先だけ教えてくれ。いろいろと分かったら、こっちから連絡する。それで、いいか?」
「…分かった。よろしく頼む。私も、トレーナーに会えないか頑張ってみる」
43二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:24:33
溜まっていく着信。メッセージ。
鳴りやまないスマホを横目に、私は、空を仰ぐ。
『今はトレーナーを探しているんだ。また後にしてくれ』
あの一言で私の心は完全に折れた。それが全く原因の分からないことであるとはいえ、取り返しのつかないことになっているというのが、いやでも分からされた。
あまりにも「変わりすぎている」。人間の姿の面影は欠片も残っていない。今の私が「私」だと、きっと誰も気づいてはくれない。これからどうすればいい。何も分からない。
またスマホが鳴り、ふとそっちに目を向ける。送り主は彼だった。
『事件とか、事故とか、あるいは命にかかわるようなこととか、そういうわけじゃないんだよな?』
私はゆっくりとメッセージを打つ。
『うん』
その返信に対して返ってきたのは着信だった。出ないわけには、いかなかった。
「やっと出たな。…生きてるか」
「うん。…『死んではいない。』ごめん」
「ひとつだけ、確認しなくちゃいけないことがある。オグリキャップは今お前とトレーナー契約を結んでいる形になる。だから、彼女がレースに出走するか否かの決定権はお前にしかない。お前が戻ってきてくれないと、彼女は『走れない』。それでもいいのか」
「それは、ダメ…」
「じゃあ教えてくれ。お前に何があった?どうしてあんなことを言った?どうして、戻ってこられないんだ?」
「…っ。言えない、言えるわけないっ!言ったとしても、絶対に誰も信じてくれないっ!私はもう前の『私』じゃない!トレーナーだった『私』じゃないの!」
彼は何も悪くないのに。こうして私の粗雑な気持ちをぶつけてしまう形になっている。彼は私と、オグリのことを、ちゃんと心配してくれているのに。
44二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:24:59
考えをまとめなければ。彼がこれだけ気を使ってくれている、その恩に応えられるだけの何かを、私も示さなければ。いつまでも、泣いてばかりは、いられないんだ。
「…移籍という形で、オグリをあなたのチームへ契約を移す」
「っ!本気で、言っているのか」
「うん、本気。私はもう、表には出てこれないけど、でもオグリが走れなくなるのは絶対に違う。書類だけなら、何とか準備できる。だから、信頼できるあなたに任せる。…もちろん、あなたと、オグリの了承が大前提にはなるけど」
「俺は…いや、なんでもない。もし、お前のその意志が本物なら、オグリキャップの了承は自分でとれ。…続きの話はそれからだ。ただ忘れんな。お前が戻ってくるのが、一番だってことだけは、絶対に」
「うん、分かってる。…ありがとう。迷惑をかけるね」
電話を切って、少しだけ画面を見つめたあと、違う相手に、オグリにかけなおす。
「もしもし。ごめんね、オグリ。言わなくちゃいけないことがあるんだ―」
45二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 01:25:29
今やるべきことは終えた。
そしてこれからやっていくべきこともまた、少し見えた。
だから、私は。
「いつか必ず戻ってくる…あいつはそう言ったんだな?」
「ああ。すぐには無理でも、いつか、必ず。と言っていた。私はそれを信じる。だから、それまではどうか、よろしく頼む。」
「…分かった。こうなっちまった以上俺も全力でやらせてもらう。あいつが戻ってくるまでの間、こっちこそよろしく頼むよ、オグリキャップ」
「…あの、すいません」
「「?」」
風になびくは銀色の髪。小柄で、どこか不安そうにしているその『ウマ娘』の少女は、確かに、意志のこもった声でこう言った。
「私を…オグリキャップさんのいるチームに入れてくれませんか?」
『私』ではない私が、ここから始まる。
続
46きっと続くはず21/12/14(火) 01:26:17
「すまない。見つけるのが遅くなった。…ここに、いつも一緒にいてくれていたんだな『トレーナー』」
「…うんっ。オグリってば気づくのが遅いって。ずっと、側にいたんだから」
Coming soon…
≫55二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 02:35:04
「よし、到着だ!」
「……そうだね」
今日、アタシとトレーナーは二人で服屋に来ていた。目当てはすぐ隣のコイツが着ける下着。
以前、体型の近いゼンノロブロイやそのトレーナーに下着をいくつか用意して貰ったのだが、
流石にもう少し替えがあった方がいいので買いに来たのだった。
「……で、何でアタシとアンタだけな訳? 他に付き添いはいないの?」
「あれ、さっきも言わなかったか? ロブトレたちは今日遠征でいないぞ。それに」
「それに、何?」
「タイシン、あんまり人が多いの好きじゃないだろ? ああいや、俺一人でも鬱陶しいだろうけどさ」
……なんかムカついたので軽く腿のあたりを蹴って、店に入る。アイツも、後ろからついて来た。
「で、さ。どんなの買うの。アタシ待ってるから、ちゃっちゃと選んで来なよ」
「あー、それがなタイシン。言いにくいんだがその、タイシンに選んで欲しくてな」
……は? 今コイツ何て言ったの? アタシが、選ぶって?
「今日ついて来て貰ったのもそういう理由なんだ。元男の俺より、タイシンの方がよく分かると思って」
頼む! この通り! なんて必死に頭を下げられて、結局アタシが選ぶことになったのだった。
……正直なところ、大きなサイズの下着自体はアタシにとって珍しいものじゃない。
同室のクリークさんやハヤヒデは結構大きいし、チケットもまあ、大きいし。だから問題はそこじゃない。
いつも喧しい癖に色々考えてくれるアイツが着けるモノを、アタシが選ぶ、ということ、そのものが問題。
手にした、自分のそれより遥かに大きい下着を見ながら、アイツが着けるところを想像する……頭がくらくらする。
もういいや。いくつか見繕って着けさせて、いいのを選ぼう。
その後。
「タ、タイシン……その、変じゃ、ないか?」
と普段からは考えられない程しおらしいタイトレを見て──タイシンの性癖は破壊された。
後日、自分が選んだ下着がトレーニング後にシャツから透けて見えたことで更に破壊された。
≫62二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 07:28:38
プラエトリアニ。それは、皇帝夫婦の親衛隊。
そんなチームであるが、思いの外門戸は広い。
……が、普通のウマ娘であればビッグネームを恐れ、避けるのだ。
────故に、私ロマンパープルも異常者の類なのかもしれないし、或いは単純に『皇帝の伴侶の力添えが貰える』という事実に熱に浮かされただけなのかもしれない。
あと、チームが未だ大きくならない点としては……
「ルドルフ、いい子見つけたんだけど……私、スカウトしてきていいかな?」
「……君の身体を考えるとダメだ」
「なんで!まだまだやれるよ?それにルド……んむっ!?」
等と二人で口論して最終的に"愛の証明"でキスしだすためだったり。まあ、五人も六人もあまり変化はないのだろうが実際、"皇帝"のトレーナー業にチームトレーナー、そこに生徒会業務(あとウマ娘化したトレーナーに関するアレコレ)はあまりにも多忙なので仕方ないのだろう。尤も、その隣のリーダーも同じくらいのオーバーワークが常なのだからこの二人はほっといたら過労死しかねないのではなかろうか?
まあ、そのあたりオフはオフとしてちゃんとしてるらしいからいいのだろう、うん。
そんな私は今、ピンチを迎えていた。
「先輩、お願いします!その……"推薦"して貰えないでしょうか!」
「……えっ?」
そう、チームに入りたい後輩のウマ娘が"ロマン先輩の口利きならいけるかもしれない"と一縷の望みをかけ、私に来たのだ。
「……ごめん、待っててね。明日、トレーナーに確認を取るから。そうしたら……」
「……はい、お願いします、本当に、本当にお願いします……」
胸が苦しい。どう、あの二人に説明したものか。
そう考えて歩む夕暮れのトレーニング場は、走った後だというのに酷く寒く感じた。
≫160二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 15:11:56
「私オグリ…さんに憧れてるんです。ファンなんです。あなたが、オグリさんのトレーナーさんですか?」
「えっ?まあ今はそういうことにはなるかな。厳密には違うんだが…」
「お願いします。迷惑はかけません。一生懸命頑張ります。だから、どうか」
「うーん、ちょっとだけ待ってくれないか?」
そう、これは賭け。私が唯一思いついた、トレーナーとしてオグリの側にいられなくても、彼女の行く末を見守るための、その不器用な方法。
『オグリを彼のいるチームに所属させ、私は学園の一般のウマ娘として同じ彼のチームに入り込む』
これには二つだけ、突破しなくてはいけない問題点がある。まずひとつが今直面していること。すなわち、『彼が私のチーム入りを容認するのか』という問題。これに関しては彼を信じるしかない。拒否された瞬間この計画の全ては破綻する。そして二つ目、もし仮に私がチームに所属できたとして。私は彼とオグリの二人を知っている、でも二人はこの私が『私』だとは分からない。その状況に『私の心が耐えられるのかどうか』。こればかりもまた、実際に感じてみないと分からない。でも私は、やらないといけない。
「…別に問題ないんじゃないか?私以外にもう一人くらい増えても」
悩む彼にオグリは尋ねる。オグリとしては、特に気にしているようなそぶりはなさそうだ。
「いや、まあそれはそうなんだが。俺にはすでに二人担当がいて、仮にオグリとこの娘を合わせると四人になる。今までに同時に担当したことがあるのが最大三人だから、俺にまとめきれるかどうか、少し不安なだけだ」
「わ、私は…、手伝いで大丈夫です。まだ本格化も迎えてなくて、選抜レースにも出られてなくて。今は、オグリさんの側にいたいなって、それだけなので。ダメ、でしょうか」
「す、すげえファンがウマ娘の中にいるんだな、オグリには…」
言えることは言ってみる。そう、別に競争ウマ娘になる必要性はない。ただ『同じチームにいることを認められる』、それだけでいい。そのためなら手伝いでも雑用でも何でもやる。その意思を、私は彼に示して見せる。
「…分かった。いいよ、俺が面倒を見る。君、名前は?」
「…『セレンダイン』、です」
161二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 15:12:46
「まあ…!オグリキャップさんが私たちのチームに来るとはほんとだったのね!」
「マジで本物じゃん、つーかオーラすご…」
案内された先にいたのは彼が担当する二人のウマ娘。赤みがかったポニーテールの少女と、銀色のサイドテールの少女。以前に何度か会ったこともある。確か名前は…。
「二人とも遅くなってすまない。この前話したことだが、今日からオグリキャップが俺たちのチームに参加する。急な決定で驚いたかもしれないが、よろしくお願いするよ」
「はじめましてオグリキャップさん!私『ハートリーレター』っていいます。レターって呼んでね!」
赤毛の少女が元気に挨拶をする。
「『グリームアトリウム』。よろしく。呼び方はグリームでもアトリウムでも、呼びやすい方でいいよ」
少し緊張しながら銀髪の少女も挨拶する。
「レターにグリームか…。よし覚えた。私はオグリキャップ。今日からよろしく頼む」
そう言ってオグリは深々と頭を下げた。
「ん?てか後ろにもう一人いるじゃん」
「あらほんとだわ。トレーナーさん、今日はオグリさんだけではなかったの?」
少し離れたところにいたのだが、やがて二人は私のことにも気づいた。私はゆっくりと歩みを進める。
「ああ、ここに来る途中でどうしてもチームに入りたいって譲らなくてな。俺たちの手伝いとしてこの娘もチームに参加することになった。仲良くしてやってくれ」
深呼吸する。そして、ゆっくりと。この偽りの名で自己紹介をする。
「セ、セレンダイン、です。よろしく、お願いします」
こうして私の新しい日々が幕を開けた。
162二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 15:13:30
意外なほど、それからの日々は何事もなく進んで行った。
オグリは無事中央での初戦を勝利でスタートして、早くも多くの人々の注目の的になっている。
彼も、レターも、グリームも、そしてオグリも。普通に私を受け入れてくれて。どうなるかと思ったチームのみんなとの関係もいたって良好だった。
『セレンダイン』としての生活は、順調そのものだった。
では、人間としての『私』がどうなったのかというと。
彼と私は頻繁に連絡を取り合うようになった。彼に全てを押し付けるわけにはいかない。そう思って、その日のオグリのトレーニングメニューやデータを彼に送ってもらっては、私が次のトレーニングの一部を考えて提案する。そんな形で『私』はまだ『生きている』。彼には「データしか知らせてないのに、まるで現場にいたかのような理解度だな」と時々驚かれたりはする。『私』が『セレン』であるということは、全く気付かれてはいない。
「次のオグリのレース、か」
「ああ、そろそろ目標を決めないといけないと思ってな。距離はマイルで行こうと思ってるんだが、10月のサウジアラビアRCかアルテミスSあたりのG3か。少し後のデイリー杯ジュニアSのG2か。まだ、決めかねてる」
「オグリは、何か言ってるの?」
「…正直俺としてはまだ早いとは思ってるんだが、『朝日杯FSに出たい』ってさ」
「…G1か」
「どう思う?」
「オグリの気持ちは尊重してあげたい。でも、いきなりG1っていうのはいくらオグリでもちょっと不安。あなたの言ったG3かG2のレースのどれかに一回出走して、その後に…っていうのなら、ありだとは思う」
「そうなるか…。あとはオグリの状態と相談だな。もう少し本人と話してみる」
「うん、お願い。ありがとね、ほんとうに」
「…礼を言うくらいなら早く戻ってこい。それが、何よりなんだから」
そう言って彼との電話は切れた。私は暗い自室で、一人呟く。
「いるんだよ、私。すぐ、側に」
≫173二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 16:01:33
ブラトレさんの場合
「フリッフリや攻めっ攻めの下着をつけて早くなるってんなら甘んじて受け入れるが別にそういうわけでもなかったしな、ならまあ別に見せつけるもんでもないし」
「誰から着せられたんだ」
「俺の実家の姉貴ィ……」
「あぁ……」
「タイトレ以下に関してはまあ、しゃあないわな。俺らはそこまで下着に頓着するたちじゃあねえし」
「まあ、そういうことだな」
ベガトレさんの場合
「まあ、うん。嗜み程度には持ってるわよ。流石に何枚も何枚もは無いけど」
「知ってたわ……」
「見せつける相手でもいれば変わるんだろうけどあいにく今探す様な暇もないしタイミングも縁談もないわねぇ……」
「色々事情もあるからそこは気にしないでいいと思うわ、まだ若いのだし」
「それよりもネイトレの下着が少しずつ派手になりつつある件について」
「やめなさい、はしたないわよトレーナー」
バントレさんの場合
「意外と選ぶのは楽しいですよ」
「まあ、毎回結構顔赤らめてるっスけどね」
「し、仕方ありませんよ。今まで生きてきてまじまじと下着を見る機会なんてありませんでしたもの」
「あったら色んな意味でヤバいっス」
「まあ、一般的なものと少々飾りがついたものを持っています。攻めたものは私も教育者なので……」
「風紀違反っスね」
≫177二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 16:15:56
遅ればせながらグラトレ(独)の下着事情 ※ウマ娘化直後くらい
「……俺の思った通り、この姿なら和服が似合うね」
「はい、大変お似合いですよトレーナーさん」
「グラスもそう思う?」
「ええ、その黒鹿毛の髪が少々羨ましいくらいです」
「……グラスも和服が似合うからさ、今度一緒に着てみようね?」
「はい、ぜひとも!」
「それでトレーナーさん? その、下着はどうしましょうか?」
「……下着?」
「はい、女性用の物を用意しないといけませんよね?」
「……要らないんじゃないかな?」
「…………はい?」
「下はこのまま男物で良いし、上は……着物は下着を着けないらしいしね」
「…………正座」
「グラス?」
「正座!」
「は、はい!」
「良いですか、まずトレーナーさんには恥じらいというものを知って貰います」
「い、いや、俺も恥じらいくらいなら……」
「女性的な恥じらいです!」
「は、はい!」
「説教が終わりましたらスポーツ下着でも良いので買いに行きますよ!」
「は〜い……」
1時間程説教を食らった後にグラスと下着を買いに行ったのでした。
「私の選んだ下着をトレーナーさんに着けさせるなんて……私は何かとんでもない事をしているのではないでしょうか……」
うまぴょいうまぴょい
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part559【TSトレ】
≫14二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 17:03:13
前スレ173より
ネイトレ「ダウト!」
ベガトレ「おおう、どしたのネイトレ」
ネイトレ「どしたのじゃないです! 私、トレセンにくる時の服装できわどいものを着てきたことありません!」
ベガトレ「……持っているのは否定しないんだ?」
ネイトレ「はうあっ!?」
ベガトレ「……無駄な足掻きもこれまで。続きはトレーナー室で聞こうか」
ネイトレ「はい……」
ベガトレ「まったく、悪いことはできないねぇへっへっへ」
アヤベ「いや悪いことなの……?」
ネイチャ「あたし見ながら聞かれても……というかナチュラルに連行されないでトレーナーさん!」ダッ!
アヤベ「本当!? 待ちなさいトレーナー! 顔がにやけてるわよ!」ダッ!
≫56二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 18:40:31
何やかやでムントレ邸に泊まったマチタンがちょっと早めに目が覚めちゃって
ヒマを持て余して来客者宿泊用の部屋を出ると寝起きのムントレと鉢合わせして
「ああ、おはようタンホイザ。よく眠れたかい? 私はバッチリ快眠だったとも」
とサムズアップしてみせるムントレにクスっと来るんだけど、よく見ると寝癖があちこちついてて、それを指摘すると
「おや、本当だ。いつもよりハネてしまっているね……恥ずかしい所を見せてしまったかな」
ってちょっと照れたように笑うムントレにドキッとさせられたのも束の間
「タンホイザはよく見ているね……そうだ、折角だからタンホイザ、私の髪を整えてくれないか」
なんて言われて呆気に取られているうち手を引かれてムントレの寝室に招かれちゃって
「一人では手が届かない部分や気付かない箇所もあるだろうからね。よろしく頼むよ」
ってにこやかに頼まれるもんだから覚悟を決めて櫛を入れ始めるんだけど
いつもスマートなムントレが寝起きの無防備な姿を晒して気分良さそうに鼻歌まで歌っていて
いつも見てるだけでサラッサラだと分かる綺麗な髪に触って、そのうえ自分が手を入れていて
そんないくつもの事実が重なった結果興奮で鼻血が出ちゃうんだけど
「うん? タ、タンホイザ、どうしたんだ!? 鼻血が出ているじゃないか、どうして」
と聞かれるんだけど正直に言ったら恥ずかしすぎるから誤魔化して、それより綺麗な髪を汚したことを謝ると
「私の髪なんてどうでもいいさ。タンホイザが無事ならそれで」
なんて言ってくれてまたドキッとするんだけど、それでもお詫びしなきゃって言ったら
「そこまで言うなら、そうだな……よし、まだ予定には時間があるし、これから二人で朝風呂と洒落込もうか」
って提案されて、思わずほえ? なんて気の抜けた声が出ちゃうんだけど、ムントレはお構いなしに
「汚れたのなら洗えばいい、だろう? それに、タンホイザに髪を洗って貰えばきっと今日はいい日になると思うんだ」
とまで言われてしまったらお詫びしたいと言い出した手前強く出られなくて
最終的にムントレの寝癖を直すよりもっと凄いことになっちゃったマチタンが見たいので誰かお願いします
≫102二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:50:42
「熟したトマトは美味しいです」
「どうしたネイトレ」
「これを5個使ってトマトソースを作ります」
「はあ……」
「……この中にはおおむね味の素10グラム程度のグルタミン酸ナトリウムが入ってます!」
「!!……味方、なのか?」
「そうですカフェトレさん!」
「ネイトレ!!」
「使いすぎるのだけはどうかと思いますけどね!」
「そこが大事なんだよ!」
「使いすぎで舌が鈍くなってるだけでは……?」
「美味しいんだけどな……」
「それは認めます」
≫107二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:54:34
───某日、トレセン学園にて
「…隊長か」
「ファイトレ、最近の殿下は…」
…警護担当の隊長と、ファイトレは密かに話していた。
「ああ、あの調子なら問題ないだろう。少なくとも私はそう判断する」
「…なら良かったです」
「…もう心配しなくても大丈夫だと私は思うよ、快活さも前みたくほぼ戻って来ているみたいだからね」
ファイトレからの言葉に安堵の雰囲気を見せた隊長は、ファイトレに問いかけた。
「…で、あれば国には」
「それは私が伝えよう、ついでに別で報告することもあるからな」
「分かりました…それでは」
「ああ」
互いに仕事人らしく会話を素早く済ませ、別れる二人。そして端末をいじっていたファイトレに掛けられる声。
「トレーナー、待たせたかな?」
「いや、丁度来た所だよファイン。…じゃあ早速行こうか。
───トレーナー室に向かう傍ら、ファインは何かを思い出したのか目を輝かせる。
「…そういえば、丁度一年前にトレーナーは私のことを四つ葉のクローバーだって言ってくれたよね」
「そうだね、そして今もそれは変わってないよ。」
「だから、私もトレーナーのこと、ワタリガラスさんって」
「…ファイン?」
「えへへ、だってトレーナーさんが自分から言ってたよね。私はワタリガラスみたいだって」
…何処かで聞かれたかとファイトレは思ったが、ファインに吐き出している時に言った覚えがあったなと閉口する
「それに、トレーナーはモリガンみたいな戦女神ってのが似合うよね、ずっと力で守り続けてくれてるもの。」
「…まあ、確かにそうだね。」
「だから、ワタリガラスなんだ」
「…ありがとうファイン、…なら、もう一つ私から送ろうかな」
109二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 19:55:04
「─────────────」
…ファイトレはファインの知らない言語で話す。首をかしげるファイン。
「…なんて言ったのトレーナー?」
「…言わないと駄目かい?」
「…ダメ?」
上目遣いで聞いてくるファインに、ファイトレは折れた
「…ぐっ!…今度、教えてあげるよ…」
「うん、楽しみだね!…じゃあ、早速ラーメンを食べに行こうよ!」
「…勿論だよ」
───二人の近くには、クローバーを咥えたカラスが首をかしげながら見ていた。
短文失礼しました
折角の時に用事が立て込んで殺意を覚えていますが私は元気です。ということで育成終了イベよりファイトレとファインです。
ここの隊長さんはそもそもファイトレがファイン家に所属しているので言い方は変わってそう。父親からもだね!
≫117二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:15:57
1話『種族:ヒト→ 』
『ははっ、これが走るってことかぁ……!!そりゃみんな走りたがるわね……!』
『待って___!!』
『ああごめん、私としたことがついつい没頭しちゃった。』
──それは、今なお色褪せない、輝かしい思い出。
『もう走らなくていいの?せっかく__も治って走れるようになったのに……』
『いいのよ。走るのはさっきの一瞬で十分堪能したし、何より……』
『何より?』
『今は大事な_と一緒に、この果てしない世界を見ていたいからね!』
──俺と___が過ごした中で、最も幸せだった一時の記憶。
「んぁ……」
カーテンの隙間から零れる日の光で目を覚ます。
「……久々に見たな、あの夢。」
少なくともフウと契約してからは見てないから、2年くらいか。
まあ懐かしさにいつまでも浸ってる場合じゃない。さっさと時間を確認し、パパっとスケジュール決めなければ。と、身体を起こして──
「……んん??」
身体の違和感に気づく。視界がぼんやりして正面の時計がよく見えないのはまだいい、目が覚めきってないだけかもしれんし。
ただ胸の辺りがヤケに重いのと視野のズレ、これが謎だ。特に後者が顕著で、ぼやけてる今でさえもハッキリ分かるくらいにはいつもより高い。
……もしかして、30を過ぎたこの体に成長期が訪れるミラクル起こっていたりする?
「……いやないわ、流石にないわ。いくら成長期でも一夜でそんな伸ばしてきた奴見たことないし。」
もし仮に本当に寝て起きたらめちゃくちゃ身長伸びてましたなんて事が起こったなら、それはもう「超常現象」としか──
118二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:16:13
「────まさか。」
ベッドから降りて、洗面所へ。尋常じゃないくらいバランスが取りにくい上、今になって声が高くなってることに気づいたが、そんな場合ではない。
そして、たどり着いて鏡を見る。
タンポポを想起する黄色い目。腹近くまで伸びた茶髪。顔の横ではなく頭の上でぴょこぴょこと動く耳。
誰がどう見ようと、そこに映っているのはのは人間ではなくウマ娘。
「……ウマ娘化……」
トレセン学園のトレーナーを中心に発生している、人間がウマ娘になるという「超常現象」。
それがこの身に起きたことは、最早疑いようのない事実だった。
「あだぁっ!?」
タンスに頭を正面からぶつけ、昨日まで男性一人暮らしだった一軒家に女性の声が響き渡る。
鏡によって事を把握した時からきっかり5分。俺は最初の行動としてメジャーの捜索を選んだ。
理由はいたってシンプルで、新しい身体のアレコレを測るため。詳しい経緯は省くが十数年連れ添った寝着が上下揃って力尽きた以上、今の俺が着れる服はおそらくこの家に存在しない。何をするにしてもまず着れる服がないと。
「……いや違うな。ないとまでは言わないが。」
本当はもっと単純に……今の身長が知りたい。
142cm。こうなる前の、俺の身長の数値。ウマ娘となってしまったトレーナーを含めてなお、下から数えて両手で収まる範囲という超低身長をずっと気にしていた。
別にだからといって苦労をしたわけではない。なんなら後輩が肩肘張らずに接してくれるという利点さえあった。
それこそ生まれ持った病弱さに苦しめられ続けた同期に比べれば、全然可愛いコンプレックス。
だが、それでも……高い身長に、憧れていた。叶わないと分かっていても、いつか何かの間違いで伸びることがないかと、夢見ていたのだ。
119二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:16:30
「……あった!!」
大きく低下しただろう視力と手の感覚を頼りに、メジャーを引き出しから探し当てる。
「……」ゴクリ
近くの壁に背筋をピンとしながらくっつき、頭の頂点が当たる部分にセロハンを貼っておく。
そして、床からゆっくりメジャーを伸ばす。
140。本来の俺の身長とほぼ同じ数値、だが当然セロハンまでは余裕がある。
150。まだまだ空白は埋まらない。定規二つは入るか?
160。この時点でも俺としては十分すぎる。だが、セロハンまでは遠く、メジャーは止まらない。
170。担当であるフウを越す。メジャーとセロハンの距離はかなり縮まったが、まだ行ける。
180。セロハンまで、あとほんの少し。
182cm。メジャーがセロハンに重なる。
「……夢ではない。」
朝見たばかりだし念の為抓ったりもしてみた。間違いなく夢の中ということはない。
「測り間違いでも、ない。」
1人でやった以上正確に測れてるとは限らないが、それでも誤差は1cmくらいのはず。
つまるところ、これは紛れもない現実で。俺は33にもなってついに、180超えの長身を得たということになる。
「…………っしゃあ……!!!」
かろうじて漏れ出たその一言には、溢れんばかりの激情がこもっていた。
存分に身長を噛み締めたあと、ざっくりとスリーサイズの計測を済ませる。105-68-99、そりゃ身長と合わせてバランス感覚狂うわ、という値である。だがひとまず必要な情報は揃った。これで次に進める。
気を抜くと零れそうになる涙を抑えつつ、スマホを手に取り連絡先を開く。
そして、一番に連絡をかける。──アイネスフウジン、大切な俺の担当ウマ娘へと。
≫142二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:32:17
「セレン、ちょっといいか?」
その日のトレーニングは終わり解散した後、片づけをしている私のもとにオグリがやってきた。
「あれ、オグリさんどうしたの?何か忘れ物?」
「いや、そういうわけじゃないんだが…」
そう言ってオグリは私の足元を指さす。
「靴?」
「ああ。少し気になってな。…私のトレーナー、いや、今の私たちのトレーナーではないんだが、そのトレーナーが言ってくれたんだ。シューズの状態はもっと気にかけるべきだって」
確かに今の私のシューズはぼろぼろもいい所だった。そして、その言葉は。
「でも、私はみんなと違って走ってるわけじゃないし…」
「でも君も『ウマ娘』だろう?本格化がまだなのは知っているが、今すぐにではなくても、せっかく走れるのだから一回も走らずに諦めてしまうのはもったいないぞ」
シューズは万全の力を発揮するのに欠かせないものなんだ、トレーナーに教えてもらったんだ、と得意げに話してみせるオグリを見ていたら。
どうしてだろう。この、感情は、いったい。
「よかったら私が一緒に選んであげてもいいぞ。…急にどうしたんだセレン?どうして泣いているんだ?私、何か変なことを言っていただろうか…?」
「ううん、気にしないで。なんでも、なんでもないの、オグリさん。ありがとう、気にしてくれて」
覚えていてくれてるんだね、とは言えなかった。『私』の言葉は確かにまだ、オグリの中に残っていた。それが嬉しくて、嬉しくて。それと同時に私が『ウマ娘』なのだと、改めて突きつけられたような気もして。
相反する抑えきれないこの感情は、涙と言う形で溢れるしかなかった。
143二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:32:53
「レース見てたよ。オグリ、順調そうだね」
「ああ、俺も改めてそのすごさが分かったよ。これなら朝日杯FSも問題ないかもしれない」
話し合いの末、オグリは一度サウジアラビアRCで様子を見た後、朝日杯FSに挑戦することに決まった。私たちの不安なんて気にしてないかのように、オグリはその実力を十分に発揮し、初めてのG3を勝利で飾った。
「オグリが来てから、レターもグリームも調子がいい。いい刺激になっているんだと感じる。お前が戻ってきたら俺たち二人でチームの面倒を見れたら、そんなことを考えちまうくらいには、うまくやっていけてる」
「それができたら、素晴らしいことかもしれないね」
叶うはずのない未来だと分かってはいつつも、その光景を夢見ずには私もいられなかった。
「あとこれはあまり関係ないことなんだが…。『セレンダイン』。俺はあのウマ娘がどうにも最近不思議に思えて仕方がない」
「…それは、どうして?」
「気にし過ぎと言われちゃあそれまでなんだが、あの娘、チームの練習の時間にはきっちりと現れるのに、普段の座学とか授業とかで見たことあるっていう話を全然聞かないんだ。それにいくらなんでも『自分が走ることに興味を持たな過ぎている』。これはスタッフ志望とかじゃない学園生徒にしては異質だ」
「…気にし過ぎだよ、きっと」
「…そうか、そうかもな。すまない、変なことを言った。じゃあまたな。早く戻って来いよ」
今日の電話はこれで切れる。「早く戻ってこい」は、いつも通話の最後に彼が言うようになっていた。この状態が続いてしまうことは、きっと最善ではないから。
『頑張れ、オグリ』
ああ、私は弱いな。こうやって偽りだらけの中、文字でしか思いを伝えられない。
144二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:33:25
12月。ついに朝日杯FSの日がやってきた。
私はセレンとして、レターとグリームと一緒に観客席にいる。彼はオグリと最後の打ち合わせ中だ。
「流石オグリさん!初めてのG1なのに圧倒的一番人気だなんて!」
レターが興奮した様子で語る。
「ほんと、どんどん先に行くんだから。私もいつかオグリさんみたいに…」
グリームは冷静にコースを見つめている。
やがて彼もこの場に戻ってきた。
「オグリさんはどうでしたか?」
「ああ、問題ない。伝えることも全部伝えた。大丈夫だ、オグリなら勝てる」
そう、何も心配はいらない。そのはずだった。
レースに絶対はない。
どんなに仕上がったウマ娘でさえ、その言葉からは逃れられない。
145二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:33:57
出遅れた。それは誰の目からも明らかだった。
今回の作戦は「先行」。出遅れは致命的な痛手となる。
ただ少しの出遅れくらいならすぐに埋め合わせてしまうのもまたオグリの力だった。
でもそれが今回はうまくいっていない。
初G1という舞台故か。はたまた一緒に競う優駿たちのレベルの高さか。
最終コーナーに入りかかっているというのにオグリはまだ9番手だ。
このままではダメだ。オグリが、負けちゃう。
思ったのと同時に身体が動いていた。
私はその場を抜け出して、ターフに近い最前列を目指す。
間に合え。間に合えっ。間に合えッ!
人ごみの中、小さな体を。謝りながらかき分けていった先。
目の前に、ゴールを目指すウマ娘たちが近づいてくる。
あそこだ。あそこにオグリがいる。
身を乗り出すようにして、私は叫ぶ。
「オグリィィィィィィィ!負けるなぁぁぁぁぁぁ!」
叫ぶ。叫ぶ。一心不乱に。周りに驚かれていようが、今は関係ない。
『セレン』ではない、『私』の言葉。届け。届け!
そしてオグリにどうか力を。伝われ私の思い。私の、鼓動。
瞬間、確かに目が合った。
『私』に気づいたオグリは驚いたような顔をしていて。
でも、すぐに視線を前に戻すと力強く、踏み抜いて。
ラスト200mの直線、圧倒的な加速と末脚で彼女は先団に立つ。そしてそのまま―
ゴールを、駆け抜けた。
146二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 20:34:26
オグリは、勝った。
私はただ、電光掲示板を。走り終えたオグリの様子を。交互に息を切らしながら見つめるだけ。
私の言葉が届いたのかどうかは、分からない。でも、結果としてオグリは負けなかった。
それが今はなによりも嬉しくて。ほっとしたのか、力が抜けたように私はその場に座り込んだ。
その時、こちらに手を伸ばしてくる影が目の前に現れた。
顔をあげると、それはさっきまで走っていたはずの芦毛のウマ娘。
私の担当、オグリキャップだ。
「やっと、確信した。ずっと君にはなにか引っかかるものを感じていたんだ。さっきの声を聞いて、その曇りが晴れた。すまない、気づくのが遅くなってしまった。私のダメなところだな。…ずっと、一緒にいてくれていたんだな、『トレーナー』」
言葉は、届いた。
『セレンダイン』。正確には英名で『Greater celandine』
和名でのその植物の名は『クサノオウ』。
花言葉は『私を 見つけて』
「…うんっ。オグリってば気づくのが遅いって。ずっと、側にいたんだから」
≫163フクトレ下着概念1/721/12/14(火) 20:52:23
「あー……フク」
トレーナーさんがウマ娘になった次の日。
結局初日は報告やら諸々の手続きやらで潰れてしまって解散。その翌日に様子見もかねていつも通りトレーナーさんの部屋にグッズの確認をしにいってました。
けれど二日連続というのは今までにないこと。トレーナーさんはどう思うのか、私が気にしすぎているだけなんじゃないか、そんなことをぐるぐる考えながら、あんまり頭に入ってこない開運グッズの景色の上で目を滑らせてうんうん唸っているポーズをしていると。
トレーナーさんが先程の、何かをとっても遠慮したような声を掛けてきたのです。
「…どうしました?やけに歯切れが悪いですが……」
「その、だな……いや……」
瞬間、頭を駆けまわるのは良くない考え。昔の事。今の事。迷惑をかけてないか。トレーナーさんの空間に不用意に入りすぎたのか。今日の運勢。悪いことは書いてなかったのに、全然頭に入らなくて。
そんな私の空気を察してか。きっとそうでしょう。トレーナーさんは意を決した様子で続けました。
「いや、そんな身構えなくたっていい。そんな大したことじゃないから……うん」
「…どういうことです?その割にかなり大仰そうですよ…?」
「…まー俺にとっては一大事というか…」
小首を傾げる私。困ったように頭を掻くトレーナーさん。ほんのちょっとの沈黙の後。
「……その、下着の事なんだが」
その一世一代の告白めいた呟きに対しての私の返答は、「あー」という何とも間の抜けた鳴き声でした。
165フクトレ下着概念2/721/12/14(火) 20:52:42
「…つまり、学園支給のものもあるけどずっとそれで過ごすわけにもいかないし。ちゃんと長年つけてて相談もしやすい私に聞きたかった、と」
「…まあそんなとこ、だな…」
赤裸々な、なぜかどこか言い訳めいた俺の陳述に対し、担当がまとめた概略を他にどうしようもないので肯定する。
相談しやすさなら先駆者となってしまった同僚たちも思い浮かんだ。ただテイトレはそんなことを聞ける状態じゃないだろうし、タイトレに聞くのは癪もとい多分体形的に参考にならない。即日慣れたブラトレに関してもおそらくスポーツブラかそこらで済ましているだろうという確信めいた予測があった。
こうして俺の釈明に「“ちゃんと長年つけてて”」というよくわからん条件が付与された。
では女性の同僚たちはどうか?残念ながら担当同士の縁で親交のあるスズトレ、タイキトレはどちらも男性。おそらく現状なら許されるとはいえ他の特段親しくもない女性トレーナーたちに聞くのも気がひけるし、なによりこの現象が起こってからというもの男女問わず周囲に渦巻いていた異様な───非常にウマ娘に失礼だが、ある種ウマ娘の“掛かり”にも似た───空気がすこし、いやかなり不気味だった。多分慣れるという予感があったのもなんかイヤだった。
結果苦肉の策として担当に聞かざるを得ない状況だけが残った。
いや、わかっていた。何の因果か背丈格好が似てしまった現状ではフクに聞くのが一番手っ取り早いし間違いが無い。ただ間違いがあるか無いかと問題があるのかどうかは別問題なのだ。というか間違いもある気がする。
しかし色んなものを天秤にかけて、極度の非常事態でもある現状を加味した結果、こうして最善かつ最後の手段に頼ったわけだ。
そんな俺の依頼に対し、フクは。
「お任せください!」
二つ返事で承諾した。
166フクトレ下着概念3/721/12/14(火) 20:52:58
先人たちの蹄跡として生み出された、「特例休暇期間」。著しく業務に影響の生じる事態にトレーナーが陥った場合───十中八九学園の想定は俺のようにウマ娘となってしまった場合だろうが───に、1週間の任意休暇が与えられるというもの。
その休暇を利用し、俺とフクはショッピングモールに来ていた。今日は開運グッズを漁りに来たわけではない。フクはそのつもりかも知れんが。
やがて目の前に現れたのは、いわゆるランジェリーショップ。あまり考えたくないが長期にわたってお世話になることも考えると、やはりきちんとした場所で見繕った方がいい。そしてこの見た目で店員に頼りっぱなしになるというのもいただけない。加えて多分一人だと流石に尻込みする可能性が大きかった。
そんなこんなで担当と二人で下着屋に入る図が展開された。せめてもの抵抗としてスーツと制服ではなく、双方ともにフクが見繕った服装だったが。一体どんなものを着させられるのかと思ったら、落ち着いた服装で安堵した。かといってこれからの不安が拭われたわけではないが。
「では!私が開運下着のレクチャーをしてあげます!!」
ほらやっぱり。
そして哀しいことにここで拒否する選択肢はもうない。
「…………頼む」
「ムムッ!信用していませんね!駄目です駄目です!下着は直接肌に触れるもの、その運気がモロに本人にも影響するんですよ!!」
さあさあと腕を引っ張られ、半ばヤケのような状態でついていったが───
167フクトレ下着概念4/721/12/14(火) 20:53:16
「大前提として上下をしっかり揃えることです!下手に混ぜると運気がねじ曲がってしまいますから。方向性をしっかり定めて着ければその他の運気も自ずと上がってきます!」
「あと身体に合うもの!これも大事です!小さなストレスも積み重ねで運気に影響しますからね!」
「あまり全ての替えの方向性を統一してしまうのもダメですね!気を溜め込まず新たな気を取り入れながら回していくのが鉄則です!」
「濃すぎる色もたまにはいいかもですが基本的にドギツい運気は人を選びますし……それに先程の着け心地にも影響してきますから、基本は落ち着いたものに差し色やチャームを活用するのがいいでしょう。まあ淡い色ばかり、というのも開運目線では考えものですが」
「何か……普通だな……」
てっきり原色まんまだったり光沢がまばゆかったりするものばかり選ばれると思っていたので拍子抜けしてしまった。
「何をおっしゃるんですか!!きちんとしたメソッドに則った結果こうなっているのですよ!自然な理論の元で自然な気の流れが生じているなら結果普通に見えてもバカには出来ないんですよ!!!」
「いや貶す意図は無かったんだが……」
そんな風にワーギャーわーぎゃーと約1名が騒いでいたからか。
「どうされました?」
「あっ、えっと。すみませんうちのバカが」
「バカとはなんですかー!!」
しまった、店員に捕捉された。こういう服飾関係の店員は正しく応対できれば心強い味方だが、距離感が近いことが多いのも確か。非常に特殊な身の上でかつそれに慣れていない俺に注目されればいつ何が起きるか…。
「何かお困りのことがあればお伺いしますが?」
「いえ、付き添いと一緒に選んでいるので大丈夫です」
無難な回答。これで手を引いてくれることもあるがどうだと待っていたら、返答が来た。
予想だにしなかった、けれど冷静に考えれば予測できたであろう、それでも予期したくなかった返答。
「失礼いたしました。……姉妹の方ですか?」
168フクトレ下着概念5/721/12/14(火) 20:53:35
マズい。
念のためと互いにキャップや眼鏡なんかで変装はしているから、フクに関する問題は起きないと思っていた。
ウマ娘の姉妹は髪色が異なる場合もあるとはいえ、同じ背格好で同じ毛色、耳の長さなども似ているとなれば、双子や姉妹の線が思い浮かぶのは当然。
どうする?何とかしなければ。そう思いながらも返しが思いつかずに、思わずフクの顔を見てしまった。
「実は私のトレーナーさんなんです」
笑顔を崩さず、いや、わずかに影を落としながら。それでも傍目からは分からないほどに明快に。フクは答えた。
「トレーナーさんが一新したいというのを聞いて、今日ちょっとした記念日というのもあってついてきちゃったんです。で、せっかくだし私が選んじゃおうって」
「成程……ではなにかありましたらお声がけください」
そう言って店員は離れていく。
「さ、早く選んでしまいましょう」
「…あ、ああ」
初日に採寸を行っていたのもあったのか手際よくフクは選んでいく。そんな中、俺はさっきのフクの顔が頭から離れなかった。
169フクトレ下着概念6/721/12/14(火) 20:53:54
帰り道。予想よりもシックなデザインのショッパーを提げながら、フクと夕焼けを背に歩く。
あの時のことには再び触れる気も機会も無かった。
そんな中、店を出てからも考え込んでいた成果か。一つだけ尋ねられそうなことを見つけた。
いつにない沈黙に耐え切れなかった俺は、半歩後ろを歩くフクにそれを投げかけてみた。
「…そういえば、ちょっとした記念日って言ってたよな。…俺が忘れてたら悪いが、本当に何かあったのか?」
実際忘れていたら申し訳ないし、何かの影響ともとられかねない。しかしこれだけは聞いておかないとダメな気がした。
フクは少しだけ黙って、それからたはは、と笑いながら話し始める。
「───トレーナーさんが、はじめて私を頼ってくれた記念日です」
振り向く。フクの目は、同じ高さになってしまった俺の目を見つめていた。
「トレーナーさんは、何があっても私のトレーナーさんです。慣れないこととか、引っかかっちゃうことが無いと言えば嘘になります」
前に下ろした両の手の中、親指を遊ばせながら。けれど目線は逃がさずに。
「でも。“運命の人”ですから。今までいっぱいトレーナーさんからご利益をもらった分、トレーナーさんが困っているならお返ししたいんです」
音を出さずに口を開く場面も多く。しきりに瞬きもする。けれど真っ直ぐに見据えて。
「だから、頼ってください。あなたと3年間過ごした私なら、頼りないことがあっても、解決できないことがあっても、一緒に悩んで、共に抱えることは、できます」
両の目が、俺を捕らえる。その眩さに、今の俺には無い輝きに、つい目を背けてしまう。それがあまりに情けなくて、申し訳なくて。
すまん。口から零れかけた言葉を飲み込む。違うだろ。確かにそうして担当に、教え子に、子どもに心配をかけるのは、指導員として、教師として、大人として失格かもしれない。けれどそれを隠すことをもうフクは望んじゃいない。
「───ありがとな」
そうさせてもらう、とは続けられなかった。今はまだ。
俺が歩き出すのに数瞬遅れてフクもついてくる。
まだ、迷いがある。俺には勿論、フクにも。
どうすればいいのか、どうするのがいいのか。それも分からない。
そんな中でも。してもいいことが見つかったのは、僥倖だった。
170フクトレ下着概念7/721/12/14(火) 20:54:08
「ん?」
「ハえ?」
一つの違和感に立ち止まる。
「…そういえば、記念日に相手に下着を選ぶことって、女性同士と言えど果たして一般的なのか……?」
その至極当然な追求めいた呟きに対してのフクの返答は、「あー」という何かから逃げるような鳴き声だった。
夕暮れに、遅れてもう一つ鳴き声が響いた。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part560【TSトレ】
≫20二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 21:23:11
2話『関係:弟→ 』
まだ車通りの少ない朝の住宅街。そこに1台のタクシーが停車する。
中から出てくるのは黒鹿毛のウマ娘。名をアイネスフウジン、今年度のダービー覇者である。
アイネスが降りたのはトレセンから6kmほど離れた一軒家の前。本来ならギリギリ徒歩でも来れる距離だが、怪我による療養の真っ只中であるアイネスは激しい運動を禁じられており、事も急を要す。そのため金を惜しまずタクシーを利用していた。
何がアイネスをそこまで急がせるか。始まりはフウトレからかかって来た連絡であった。
『……もしもし、フウ?』
聞き覚えのない女性の声から出る、フウトレしか使わない呼称。その身に何が起きたのかはすぐに察すことができた。
同時に、電話越しに涙を堪えてる事を見抜くことも、長年妹たちを世話し続けてきたアイネスにとっては造作なかった。
『待っててトレーナー、すぐに行くの!』
それだけ言い残し、彼女は行動を開始した。大変な事になってるであろうフウトを少しでも早く救出するために。
アイネスフウジンのトレーナー、フウトレは非常に小柄な男性である。 ウマ娘化によって3歳児相当の身体となったイクトレという前例が起きたのも相まって、アイネスはずっとフウトレのウマ娘化を危惧していた。
ただでさえ小さい彼の身体がより縮み、生活に支障が生じるのではないかと。
「だから、こういう時こそ力になるの!ずっとずっと、助けてもらってばかりなんだから!!」
合鍵を使って扉を開き、中へと入る。
「トレーナー、来たよ!!無事!?」
「フウか!待ってろ、今行く。」
「あ、大丈夫!私がそっちに行くから……」
慣れない身体で動き回るのは危険だと、アイネスは続けようとして──眼前で展開された光景に言葉を失った。
今一度確認するが、アイネスはフウトレがウマ娘化により、142cmしかなかった身長がさらに低くなったと思っていた。しかし目の前に現れたフウトレはそうでなく、182cmもの長身。ついでにナイスバディ、トドメに裸。
あまりの情報の洪水を一気に受け、アイネスの思考はオーバーヒートを引き起こす。その結果──
「……デカくない!?色々とデカくない!?!?」
アイネスは叫んだ。切実な叫びだった。
21二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 21:23:32
「はい、これにて着付け完了なの!どう?違和感とかない?」
「ああ、ないどころか驚くくらい馴染む。めっちゃ上手いなフウ。」
「えへへー、妹たちの着替えは何度も手伝ってたからこれくらいは慣れっこなの♪」
たづなさんに届けてもらったトレーナー服(仮)を着るのを手伝い終えて、フウがやり切ったように息を吐く。妹たちと俺とじゃ背がだいぶ違うだろうに、それを一切感じさせないのは流石と言うべきか。
「それにあたしが早とちりしないできちんと聞いてれば、服着るのももうちょっと早くできたんだし、これくらいはしないとね。」
「あまり気にするなよ?俺はそれだけ心配してたって気持ちだけで十分だから。」
「分かってるの♪」
そう言ってフウが笑う。そこに最初に説明した時に見えた申し訳なさはもうない、これなら大丈夫だ。
「精神的な異常も今んとこはないはずだが……フウ、俺が変わったなーって感じるところ、何かあるか?見た目以外で。」
「うーん、視点がいつもより合ってないようなってくらい?
正直、そっちの方も心配してたからいつも通りでホッとしたの。」
「視点に関しては視力の問題だ。どうやらガッツリ落ちたっぽくてな。メガネはすぐに買えるわけじゃないからこの状態にも慣れとかないと。」
しばらく書類作業で苦労しそうだ、と少し苦笑い。
だがともあれ、これで無自覚の線も消えた。スズトレみたいなパターンもあるから油断しきるのは危険だが。
「あっ、そうだ。トレーナー、髪も結ぼっか?結構長くなってるし。」
「いいのか?なら頼む。こう……首の真後ろの辺りがムズムズしてて。」
「おっけー!お姉ちゃんにお任せあれ、なの!」
22二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 21:23:49
いくつかのパターンを試しながら髪を結んでいく。ポニテにしてみたり、上で団子にしてみたり。今のトレーナーの髪色は私とほぼ変わらない黒鹿毛だから、サイドテールはなしだけど。
「でもトレーナー、182かあ……」
「ん?どうかしたか?」
「いや、なでづらくなるなぁ……って。」
あー……と、トレーナーの目が少し泳ぐ。多分なんて言うべきか迷ってるんだと思う。
前の身長がなでやすかったとはいえ、事ある事に妹たちへやる感じで頭なでちゃってたし。
だからいつも頑張ってるあたしが頑張らなくてもいい相手でいたい、って考えてくれているトレーナーにとってこの事はきっと嬉しいはず。
……それでもトレーナーは絶対にそれを口には出さないで、やりたいようにさせてくれる。ホントに、あたしにはもったいないくらいのいい人。
「はいっ。髪型その5、おさげなの!でもこれはムズムズが横にズレるだけかも。」
「────」
「……トレーナー、どうしたの?目見開いて。」
「……あ、すまん。知人に1人同じ髪型がいてな。それで少し考えごとを。……なあ、フウ。」
「なになに?」
「……この身長に合わせて口調とかも変えたらみんなのイメージを小動物から頼れるお姉ちゃんに上書きできる可能性、ないか?」
「……根気強くやればありえるんじゃ……ない、かなあ……?」
思い出した知人さん、誰かのお姉さんだったのかな。じゃないとこんな斜め上の考え浮かばないだろうし。
……あと。頼れる「相手」じゃなくて「姉」だったの、きっとあたしの事を考えてたからだよね。
「トレーナー、なでてもいい?」
「……フウに任すよ。」
あたしに委ねてくれたトレーナーを見て、決意を固める。トレーナーの優しさに縋りっぱなしはこれで終わり。これからはもっと、真っ当に大人として接する。それがあたしにできるほんの僅かな恩返しだから。
23二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 21:24:20
────今にして思えば、髪型の試行錯誤の途中でやったのが。もっと言えば鏡が目の前にある状態でやったのが間違いだったと思う。
「やっぱり色々と変わってるね〜♪前のややくせ毛っぽかった感じもよかったけど、こっちも楽しいの。トレーナーは気持ちいい?」
「ん〜……♪」
目を閉じ、トレーナーの満足げな声に耳を傾けながら頭をなでる。この身体にやるのはこれが最初で最後。
トレーナーの甘やかしにとことん弱い癖も、元はと言えばあたしが色々とやりすぎた結果ついちゃったもの。あたしがやめて頻度が減ればなくなるはず。
もうそろそろかな、と目を開けて、手を止め……る前に、リラックスしきったトレーナーの顔が鏡に反射し、あたしの視界に映り込む。
前の童顔とはまた違う、大人の笑顔。その、はずなのに──なんて言うんだろうね。すごい甘やかしたくなる。どうしよう、なでる手が止まんない。
「……ごめんトレーナー、まだまだ迷惑かけることになりそうなの……」
「えへへ〜……♪」
さっき固めたばかりの覚悟をあっさり壊された1人のウマ娘の小さな謝罪が、少しずつ賑やかになり始めた空に消えていきましたとさ。
≫49二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 21:39:48
「フウトレさん、次のライブに向けてなんだけれど…」
「どうしたの?」
「いえ、スケジューリングを手伝ってもらおうかと。その直近は私も少し立て込んでいてね。貴方に決めてもらえれば私も捻じ込みやすいわ」
「他のメンバーの予定はある?」
「ええ。ここに並列リストアップした紙があるわ。私の欄はいつも通り気にしないで。貴方が作っている間に再組立ての案をいくつか出して勘案するから」
「よーし。お姉さんに任せて!」
「出来た!」
「ありがとうございます。……成程。では私はこの予定を一旦バラして……」
「…そういえば次のライブの曲目に大人~なバラードがあるわよね?」
「ええ。予定ではマルトレさんとブルトレさんに任せようと思っているけれど……」
「それより……ここに逸材がいると思わない?大人で頼れる存在が!」チラッチラッ
「……?うん、いつも通りとってもかわいいわ。じゃあ書いてあった通りアッパーテンポのダンスナンバーお願いね」
「何でー!?」
これでいいのか分からん
駄目だったらセップクしてからギロチンにかけられます
≫60二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 21:49:31
あの事件から、1週間が経った。
トレーナーは、トレセンと連携した医療機関で治療を受けている。今日はその見舞いに来た。
この一週間、心配でほとんど眠れなかった。そんな中何も言わずに隣にいてくれたクリークやオグリには本当に助けられた。改めて礼を言わないと。
「おぉ、主治医さん」
「ああ、タマモさん。こんにちわ。話は聞いてますよ」
「おぉそうか。そんで………どんなや?」
「控えめに言って…芳しくありません。未だに金切り声や自傷癖は落ち着きませんし、話も一向に…」
「おお、そうかそうか。あんがとな。ほいで、どこや?」
「208号室ですが…私としては絶対に行かせたくありません。なにせよ…」
「あーあー、そんなこと分かっとる。分かった上で言っとるんや。覚悟の上。ええか?」
「…………分かりました…。しかし、いざと言う時は…」
「おう。任しとき」
そう言って医局を出る。近くの壁の見取り図を見ると、この先に208号室があった。隔離病棟だ。さっき別れるついでにパスは貰っておいたから、それを見せて受付の人にボディチェックをされる。トレセンの鞄は丸々預け、体をポンポンとボディチェックされる。そうして病室前に案内されると、鍵を解錠される。
「いざと言う時があればベッド横のボタンを押してくださいね」
「おお。案内あんがとな」
ヒラヒラと手を振っ手見送った後、ひとつ深く深呼吸をする。
「よっしゃ…行くか」
61二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 21:50:18
ノックを優しく2回。音を立てないように扉を開ける。部屋の中に入り、扉を閉めて、再び鍵をかける。
途端、カーテンの方から金具の擦れる音、暴れてスプリングの軋む音がした。
向かうと、そこには彼女がいた。しかし、あの時の彼女ではなかった。
胴と四肢を拘束帯で固定され、動けないようにしてある。右手にはチューブが通されている。恐らくは栄養関係のものだろう。
「久しぶり…やな。元気しとった…」
「いや!!いやだ!!こないで!さわらないで!もういやだ!いや!!!」
声をかけようとするも、金切り声で拒絶をされる。
「なぁ…ウチのこと…おぼえ…」
「ちかよらないで!!!もういやなの!はなして!いや!!!!」
聞く耳も持ってくれない。それどころかまるで突き放して、拒絶しているようだ。
「大丈夫。大丈夫や」
「いや…いやだ…こないで…こない…で…くるな!!ちかよるな!!!!」
彼女をの頬を優しく撫でる。しかし彼女が犬歯を突き立てた。鈍い痛みと、血の流れる感触。
「大丈夫。大丈夫や。ウチはあんたから離れん。あんたの味方や」
いくらそうしていただろう。手に滲む痛みが和らぐ。
「………ま…」
「ん、どした?」
「……………」
その問いに、彼女は沈黙で答えた。その代わりに、目から涙を流した。顔をくしゃくしゃにして、罪悪感で潰れそうな様子で。
「ウチは大丈夫や。何があったんや?言ってみ?」
「…………」
「…そっか。言えんならまだええ。ゆっくり、ゆっくりでええんや。ウチはどれだけでもアンタに歩幅合わせて隣歩いたるさかい」
その髪を優しく撫で、互いのおでこを擦り合わせる。
その時間はたとえ歪だとしても、彼女たちにとってはかけがえの無い欠片の1つだった。
そして主治医には注意された。
≫84二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 22:14:50
───とあるトレーナー室で
「…手伝ってくれてありがとねフウトレ」
「私は皆のお姉さんですから!」
…書類整理を行うキタトレは、たまたま手伝ってくれているフウトレに感謝を伝えていた。少しキリッとした顔で言い切るフウトレ。
「ふふ…、所でフウトレ、時間とかは大丈夫かしら?貴方のことだから問題ないだろうけど、確認がてら聞いておくわね。」
「勿論、スケジュールなら問題ないよ。このくらいならすぐに変更できるもの。」
「なら良かったわ。」
相変わらず微笑みを浮かべたまま、キタトレは手を動かす。フウトレはそんな彼女を見ながら考えた。
(キタトレはモノクルを外したらこの胡散臭い笑みじゃなくなるだろうな…そしたら俺が目指す姉に近くなるのか?…ってそれよりも、折角の機会だし)
「…キタトレ、ちょっと良いかな?」
「どうしたのかしらフウトレ、私は一段落したから構わないけど。」
寄ってくるキタトレに、手招きして机の近くに座ってもらうフウトレ。手元でメモ帳に手早く書き込むとそれを見せた。
「…ふむ、私のスケジュールかしら?」
「そうだよ、キタトレはいつも忙しそうにしてるから参考にしてほしいんだ!」
思わずドヤ顔を見せるフウトレ、一方でキタトレはモノクルを片手で調節しつつ、ウマホと見比べながら言った。
「…凄く有り難いし嬉しいのだけど、私はここまで細かいのはあまり使わないわね。」
「え?」
「私、予定変更はよくするタイプなのよ。だから予定は結構ざっくりと立てて、その場で調節しながら過ごすのよね。」
「…」
「まあ格好良く言えば高度な柔軟性を持って臨機応変に対応するって所かしら。だからその詰めた予定表は使えないわね。」
「…でも、私のことを考えて作ってくれたのでしょう?だからそれは凄く嬉しいわ。ありがとうねフウトレ。」
そう言ったキタトレは、フウトレを引き寄せるとポンポンと優しく叩いた後、緩く胸元で抱き締めて擦られる。
「…えへへ〜」
…案の定、一発でとけたフウトレはべったりと甘える。それを当然のように甘やかすキタトレ。
色々とでかい二人がその豊満な体で甘えて甘やかされるなんともアレな絵面が展開されたのだった。
───結局、その後正気に戻ったフウトレは恥ずかしさで黙ってしまい、キタトレは彼女に優しく微笑みながら話をしていたそうな。
≫119二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 23:16:33
『先生たちの放送風景』
「はい、これよりトレセン学園とれぇなぁ……げっふんげふん、トレーナー技能試験を始めましょう。司会進行は私、バントレが務めさせていただきます」
「解説のウラトレです。……これ、解説は必要なのですかね?」
「まあ一応ということでおひとつ。ええ、今回は指導資格の更新も兼ねているという噂ですが……別にそんなことはありません」
「ないんですか」
「でなければ私たちが司会進行して面白おかしく校内放送する必要ありませんもの」
「というとだれか仕掛け人が?」
「ええ、大爺様がそのように、と。まあ単純に今どれだけ知識があるのかという把握も兼ねているようですが」
「走ったりというのも基本ナシと」
「一部面子があまりにも有利すぎますからね。では、最初にちょっとした問題を私たちだけでやってみましょう」
「これは放送用なのであちらには伝わらないと、そういうことですね」
「ですね。では三問選んでまいりましたのでこちらをどうぞ」
Q1:差し、追い込みの違いを説明せよ
Q2:チャンピオンズカップ、エリザベス女王杯、日本ダービー、安田記念、有馬記念を距離の短い順から並べよ
Q3:ホープフルステークス、大阪杯、秋華賞それぞれの最終直線の長さを長い順から並べよ
120二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 23:16:44
「地味に面倒なものを選んできましたねバントレさん」
「まあそういった趣旨の試験ですからね」
「まず1問目、どちらも基本的にはバ群後方に控え、最終コーナーや最終直線の区間で一気に前を狙う作戦ですね。しかし追い込みはレース序盤を抑えて終盤勝負にかけることが多く、差しはタイミングによっては一気に中盤から攻め入ることもあります」
「ええ、大まかには大丈夫です。ほかには、追い込みはスタートが苦手であったり、バ群が苦手な子が選択することもありますね。そちらの要素をとらえて表現できれば正解となっています」
「では2問目……数字を書いていないのはまあそういう趣旨ですから仕方ないですが、意外とマイル距離は面倒ですね。安田、チャンピオンズC、エリザベス、ダービー、有馬の順でしょう」
「正解です。それぞれ1600、1800、2200、2400、2500となっていますね。有馬は得に有名ですが、基本の400刻みとは別のものを非根幹距離とも呼びます。こちらが得意なウマ娘もいるようですね」
「最後に3問目、中山の直線は短いぞ、ですね。問題はどれが中山かというものですが」
「意外と競争と競技場の一致はぱっと出てきませんね」
「しかしこれは大阪灰がわかりやすいでしょう。こちらは阪神、秋華賞は京都なのでホープフルSが中山です。故にホープフルS……おっと、逆でしたね。大阪杯、秋華賞、ホープフルSの順です」
「正解です!長い短い、大きい小さいの順を間違えるとそれだけで点が一気に減りますからね、注意が必要です。しかしウラトレさん、流石の全問正解ですね」
「伊達に先生役はしていませんから……もっとも、教卓に立ち熱弁をふるったというわけではありませんが」
≫141バクトレフウトレの一コマ1/221/12/15(水) 01:02:51
ある何でもない、冬の昼下がり。俺はとあるトレーナーを訪ねていた。
『……ん、はい。どうぞお入りください』
「失礼するわね」
ノックしてすぐに回答がある。口調と同じく、彼がウマ娘になる前から変わらない点の一つだ。
「おや、フウトレさん。何か御用ですか」
「ううん、大した用事じゃないんだけど。ただ少し時間が出来たから、お話ししたいと思って」
ドアを開き、部屋の主と顔を合わせる。理由も手土産もなく尋ねた俺を、彼はどこか嬉しそうに迎え入れてくれた。
「そうですか。僕はと言えば暇を持て余していた所でしたので、むしろ来ていただいただけでも嬉しいのです」
「そう言ってくれると助かるわ。それじゃお邪魔するね、バクトレ」
──彼はバクトレ。いま俺の目の前でニコニコしているウマ娘であり、このトレーナー室の主である。
「そうそう、お伺いしたいことが。フウトレさん、眼鏡の調子は如何ですか」
「ええ、お陰様でバッチリ! どうもありがとうね、お店の情報、参考にさせて貰っちゃった」
「情報は活用してこそです。ウマ娘は耳もいいですが、目から入る情報も大事ですから」
「……そう、ね。うん。間違いない……わね」
「"いつも目を閉じているヤツの台詞かソレ"……といったところでしょうか」
「えっ、いや……もしかして、わたしの心が読めたりする……?」
「いいえ? 何となくです。というより、そのような感想、反応になるだろう言葉を選んだだけです」
「え、じゃあ何、ひょっとして俺、からかわれたの……? あ、ちょっと横向くな、笑うなってのー!」
「……失礼。目の他、つまり体の他部位は如何です? 例えば、身長とか」
「あ、うん、現状問題なし! いやー、背が高いっていいね! 遠くまでよくよく見える!」
「そうですね、随分高くなられて。今の僕より頭一つ低かったのが、今や僕より頭一つ高くなったご様子」
「今までは見上げるばっかりだったけど、これからは見上げられるばっかりになるね!」
「僕はこの姿になって、10cmも変わりませんでしたからね。40cmも変われば、世界が変わって見えるでしょう」
「ホントホント! ……あーでも。これだとちょっと威圧感とか出ちゃうかな」
「ふむ、僕としては問題ないと推測します。貴女の雰囲気ならば、今まで通り皆から接されるかと」
「そうかな、うーん、そうだといいな! うん、ありがとうバクトレ」
142バクトレフウトレの一コマ2/221/12/15(水) 01:06:29
「……変わったこと、ではないんだけど。バクトレの耳飾りも、わたしと同じ雪の結晶モチーフなんだよね」
「ええ、仰る通りです。僕と貴女の耳飾りの相違点は、色と、それから着ける耳の左右ですね」
「わたしのが白縹色で、右耳。バクトレのが桜色で、左耳。落としたら届け先、間違えちゃうかもね」
「ふふ、注意書きでも用意しましょうか……それとも裏に名前でも書いておきますか?」
「お、いいかも。サインペンある? 水性じゃなくて油性のやつ」
「……ええと、冗談ですので。そう真剣になられずとも……」
「ふふん、さっきからかわれたお返しだよ。とりあえず真に受けるところ、やっぱり変わらないねぇ」
「む、ぐぅ」
「……あ、やば。そろそろ時間……ごめんねバクトレ、急に来ちゃって」
「お構いなく。いつでもいらしてください。お待ちしていますよ」
「そう? ならまた、お喋りしに来ても?」
「勿論。相談でも構いませんよ。トレーナーとしては僕が後輩ですが、"眼鏡のウマ娘"としては僕が先輩ですから」
「言うね……ま、それなら遠慮なくこき使ってやるから覚悟してよ! それじゃ、またね!」
「はい。また」
……トレーナー室を慌ただしく出ていく彼女、フウトレを送り出しながら考える。
(外見は大きく変化、しかし内面に大きな変化はなし、ですかね……良かった、というべきかは現状不明ですが)
本棚から資料の一つを手に取り開く。後輩たちに囲まれた、ウマ娘になる前の彼、フウトレの姿が写真に残っていた。
(本人が表立って言うか、或いは相談されない限り、外部の僕がアレコレ口を出すのは悪手でしょう)
閉じた資料を戻し、デスクへ。脳裏に浮かぶのは様々なトレーナーたち。
(意識して変えている、だけならまあ問題はないでしょう……そう、うん。それにしても)
ころころ変わる彼女の表情、その賑やかさの一因だった、あの瞳を思い出す。
雪解け水をたっぷり吸い上げ、春空へ一斉に笑顔を向ける、優しいタンポポのような瞳。
後輩たちに慕われる彼女らしい花を、瞳に頂いたのだと素直に思う。
(「どんな花より たんぽぽの花を あなたに送りましょう」……か)
願わくば彼女らの道行が、タンポポの咲く暖かな春のように麗らかでありますよう。
椿を両目に眠らせるウマ娘は一人、冬のように静かな部屋で祈るのだった。
(了)