タグ一覧
このページは「おれバカだから言うっちまうけどよぉ…」スレに投稿されたSSをまとめるページ(スレpart336~340)です。
SSまとめ各ページ案内
SSまとめスレはこちら
SSまとめスレはこちら
+ | part1~100 |
+ | part101~200 |
+ | part201~300 |
+ | part301~400 |
+ | part401~500 |
+ | part501~600 |
+ | part601~700 |
+ | part701~800 |
+ | part801~900 |
+ | part901~1000 |
+ | part1001~1100 |
アダルトコンテンツは乗っけると最悪wiki削除なのでやばそうだなとおもったらリンクかスレ位置を置いておいてください(主にルドトレ)
リンク例は編集画面にてコメントアウトしています。
リンク例は編集画面にてコメントアウトしています。
目次
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part336【TSトレ】
≫129IFキスブレイズ/マルトレ21/10/29(金) 11:20:02
サマードリームトロフィーリーグマイル部門東京芝1600m。今日は私が奇跡を願うレース。
トレーナーちゃんはキスブレイズちゃんになったまま元に戻ることはなく、私はドリームトロフィーリーグに移動した後、キスブレイズちゃんはトゥインクルシリーズに参戦。私の再来と呼ばれる程活躍した。足に不安を抱えるキスブレイズちゃんの、最初で最後になるかもしれないドリームトロフィーリーグ。
『さあ出走回避が相次ぎつながらも本日を迎えることができたサマードリームトロフィー芝マイル部門! 一番人気は当然この娘、"三冠ウマ娘にして怪物"マルゼンスキー。二番人気には"マルゼンスキーの再来"と呼ばれ本人との対決となりましたキスブレイズ、三番人気には"曲線王"サタデーフィバー、高速展開と予想されるレースに目を離さないようにしましょう』
「キスブレイズちゃん」
「あ、マルゼンスキー先輩。今日は楽しく走りましょうね!」
「……ええ、今日はよろぴくね!」
『さあ各ウマ娘ゲートインが完了して、今スタートしました! 早くも争いを制し先頭に躍り出たのはキスブレイズ! その後ろマルゼンスキーが追走! 後続との差をぐんぐん離していきます二人のエンジンは桁違いか? スーパーカー同士のマッチレースとなるのでしょうか!』
トレーナーちゃん、いえ、キスブレイズちゃんは私の鏡写し、でもそれはあくまでも昔の私。トレーナーちゃんが鍛え上げた今の私は昔の私にも負けはしない!
130IFキスブレイズ/マルトレ21/10/29(金) 11:20:41
『さあ遠く二人旅の様相!レースも半ばを超えてカーブに入る!』
「ははっ」
走ることが楽しい。後ろからマルゼンスキー先輩が追いかけてくる。その圧を感じながら正面から受ける風は心地がいい。ああ、でも前にいる誰かに追いつきたい。どんな顔で走っているのか、見てみたい!
[蒼焔シフト/Nitro-BB]
『おっと最終直線キスブレイズ加速! マルゼンスキーを引き離しにかかる!』
息をいっぱいに吸い込めば、それが肺から心臓に火をつけて、足が軽くなる。壊れないように気をつけても逸る足。まだ誰かは先にいる。あそこへ向かって走るのが、楽しい。
ドスン
ドスン
ドスン
音が聞こえる。耳ではなく、走る足を通して振動が音として頭に届いていた。まるで火を纏う流星のように、マルゼンスキー先輩が私の横に並んだ。
[紅焔ギア/LP1211-M]
「見せてあげる。これが私の───フルスロットルよ!!」
紅蓮の炎を散らすように力強く大地を踏み締め、マルゼンスキー先輩がそのまま私を追い抜いた。私もついて行こうとするけれど、足からピキリと嫌な音がした。それでもついていきたかった。先へと離れていくマルゼンスキー先輩の背が、私の見ていた誰かと重なる。
────ああ、本当に楽しそうに走るなぁ。マルゼンスキーの楽しそうに走る姿を、ずっとみていたいなぁ。だから"俺"はマルゼンスキーのトレーナーになったんだったなぁ。
「……マルゼ……ンスキー?」
『マルゼンスキー三バ身ほどキスブレイズを離して今ゴールイン! 自身の再来と呼ばれたキスブレイズをくだしドリームトロフィーマイル最強を証明しました!』
131IFキスブレイズ/マルトレ21/10/29(金) 11:20:54
大歓声が巻き起こる中、私はマルゼンスキーの元に向かう。
「おめでとうマルゼンスキー」
「……トレーナーちゃん?」
「私は……なんだろう。今の私は〇〇だけどちゃんとキスブレイズでもあるんだ」
マルゼンスキーの瞳から大粒の涙が溢れる。
「忘れるなんて酷いトレーナーもいたものだからさ、マルゼンスキーが呼びたいように呼んでくれよ」
「トレーナーちゃん……! トレーナーちゃんはずっとずっと、私のトレーナーちゃんよ!」
マルゼンスキーが私を抱きしめる。心配させてしまった。キスブレイズとしてはよくわからないマルゼンスキーの行動は、俺を想ってのことだった。
「マルゼンスキー。キスブレイズとして、トレーナーとして言いたいことがあるんだ」
マルゼンスキーが抱きしめるのをやめてこちらを見つめてくれる。
「マルゼンスキー、今日のレース、私とっても楽しかったよ! マルゼンスキーはどうだった?」
マルゼンスキーは涙を流しながらも太陽のような笑顔を見せた。
「ええ! 今日のレースはチョベリグ楽しかったわよ!」
もう一度私たちは抱きしめあった。レース場の拍手と歓声はまるで私たちを祝福しているかのようにいつまでも続いていた。
終わり
≫158二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 12:08:14
ドベトレ放浪記、グラトレ(独占力)編
「……ドベトレさん着きましたよ起きてください、家に上がっても良いのですから車の中で寝なくても大丈夫ですよ?」
「…………キュウ……」
完
159二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 12:08:24
「…………あ、ああ……着いたのか……無事……」
グラトレに起されて漸く、今日泊まらせて貰うグラトレの家に着いた事に気が付いた……スペトレ、お前の言っていた事ちゃんと聴いてたら良かったよ……
「やはり家々を転々と周られているのでお疲れなのでしょうか、疲れが取れるか分かりませんがゆっくりくつろいでくださいね」
「いや、疲れてた訳じゃ無くて……うん、まあ、お邪魔します」
「はい、どうぞお上がりください」
「…………」
改めてグラトレの家を見てみるが……普通の平屋だな……
「……ドベトレさん、どうかされましたか?」
「いや、思ってたより普通だなって」
「思っていたより?」
「料亭みたいなのを想像してたんだが」
「あらあら、それならお出迎えをしないといけませんでしたね」
「いや! 要らねーよ!?」
「ようこそお越し下さいました、ドベトレ様〜」
「だから、要らねぇって!?」
そんなこんなでグラトレの家に上がらせて貰い居間へと通された。
「では、夕食を作って来ますのでくつろいでお待ちくださいね~」
「泊めて貰うんだから俺も手伝うぜ?」
「いえ、頼まれたとはいえ客人は客人……寒くなって来ましたし、炬燵でゆっくりしていてください」
「グラトレは寒く無いのか?」
「雪山に比べたら全然ですよ~」
「比較が可怪しくないか!?」
「あっ、炬燵ですがコンセントを挿してくださいね? 私はたまに忘れるので~」
「お前なら、する気はしてたよ……」
160二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 12:08:48
きちんとコンセントを挿してから炬燵に入らせて貰い、部屋を見回す。
「……思ってたより和風で固まっている訳では無いんだな」
普段の言動とは違う、普通に和洋折衷な部屋にそんな感想を零す。
「まぁ、私の和風好きはグラスの影響も多分に有りますからね~」
「なるほど、そういう事か」
グラスワンダーの影響だという事に納得する。
「小物が妙に新しいなって思ったんだよ、グラスワンダーとコンビ組んでから買った奴ばかりか」
「ええ、そうですね〜……この部屋は殺風景過ぎますってグラスに言われまして……それからグラスと一緒に色々買ってるんですよ」
「だろうな、新しそうな小物が無かったら写真しか残らねぇ……その写真もグラスワンダーと……グラトレか?」
「飾っていた写真でしたら……私ですね、ウマ娘になる前の」
どうやらグラスワンダーと有馬記念の優勝レイを持つ、この男がウマ娘になる以前のグラトレらしいが……
「…………1つ聞いて良いか?」
「なんでしょう?」
「グラトレって泣くの!?」
写真に写るウマ娘化前のグラトレは、勝利に感極まったのか俯いて泣いておりグラスワンダーに頭を撫でられて慰められている……
「俺だって泣くよ!?」
「いや! グラトレが泣く姿が全然想像出来ないんだが!?」
「人前では泣かないけどさぁ!」
「なら、この写真は?」
「トレーナー室でグラスと二人で記念撮影した時に気が緩んで……」
「…………なんで変に可愛いのお前……」
「はい、この話はこれで終わりですよ〜」
「うわ、無理矢理話を切っ「ドベトレさん、主菜のお刺身は無しですか〜?」
「なんでも無いです……」
「宜しい、では夕食までもう少しお待ちくださいね~」
161二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 12:09:09
「お待たせしました、ご飯が出来ましたよ〜」
炬燵でテレビを見ながらくつろいでいると声が掛けられた。
「運ぶのくらいは手伝わせてくれ」
「そうですか、それならお願いしますね〜」
「……しかし、しっかりした食事だな? 毎日用意するのは大変じゃ無いか?」
「今日はお客様が居られるので腕によりをかけたんですよ〜?」
「そりゃすまねぇ……なら、いつもは?」
「保存が効く物を1度に多めに作って小分けに使用していますね〜、後はレトルトも使いますよ〜」
「レトルトも使うのか? 意外だな」
「便利ですからね〜、使えるモノは使うの精神ですよ~」
「なるほどなぁ」
「では、今日の献立はコチラです」
今晩の献立──旬の根菜と魚尽くし──
筑前煮(牛蒡、里芋、蓮根、蒟蒻、鶏肉)
お味噌汁(大根、蕪、薩摩芋)
梭魚(カマス)の山椒焼
魬(ハマチ)のお刺身
漬物(野沢菜、白菜)
玄米入りご飯
柿と林檎
「……やたら健康に良さそうなラインナップだな?」
「この季節は旬の根菜が豊富ですからね〜、自ずとこの様な献立となりました……それより温かい内に食べましょう」
「おう!」
「それでは~……」
「「いただきます」」
162二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 12:09:31
「は〜、食った食った!」
「お粗末様でした」
「食器を運んで、洗おうか?」
「いえ、流しの方まで運んで頂いたら、お風呂が沸いていますので入ってください」
「いや、家主より先に入るのは……」
「気遣うのでしたら、私が食事の片付けや客間の布団の準備をしている内にお風呂に入って貰えると助かりますよ?」
「……分かったよ」
「では、ごゆっくり〜」
「……まあ、普通の風呂だよな……」
露天風呂や檜風呂だったらどうするかと思いながら入ったが……普通だったな。
そんな事を考えながら風呂から上がったが……
「おーい、グラトレ上がったぞぉ?」
グラトレの姿が見えない。
「客間で布団を敷いてくれているのか?」
そう思い、先程教えられた客間へと向かう。
「グラトレここかぁ? 風呂空いたぞぉ?」
そう言いながら客間へと入ると、何故かグラトレは布団の上で正座していた。
「……不束者ですがどうぞ宜しくお願いします」
「止めい!!」
「ふふっ、冗談ですよ~」
「当ったり前だ! 言われた瞬間とんでもない量のデバフが掛かった気がするぞ!?」
「……デバフですか? トレーナーサーンメールデスヨ− ……おや、グラスからメールですね……」
グラス『明日、今晩のお話を詳しく聴かないといけない気がしましたが……トレーナーさん、何をなされてますか?』
「………………」
「……俺は知らねぇぞ?」
そう言って俺は冷や汗を流すグラトレを突き放すのだった……
163二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 12:09:49
居間で反省文を書いているグラトレに俺が感じた疑問を聞いてみた。
「なあ、グラトレに聞きたい事が有るんだが?」
「グラスへの謝罪と反省の言葉は今考えてるので待って貰えますか?」
「それは身から出た錆だろ……そんな事より、よく俺が泊めてくれって頼んで速攻OK出したなって」
「泊めてくれって求められたから応えただけですよ?」
「なんつーか、もっと詮索とかするのかなって……」
「されたいなら言ってくださいな、詮索してあげますから」
「いや、大丈夫だ! しなくて良い!」
「そうでしょう? 泊めてくれって言える方が理由を話したいなら話すでしょうし、話したく無い事を聞く程私は無遠慮ではないのですよ?」
「……そっか、すまないな」
「まあ、悩みで眠れないなら言って貰えますでしょうか? 添い寝して子守唄を歌ってあげますよ~」
「要らんわ!?」
「ふふっ……」
……本当に食えない奴は居る……そう思った夜だった……
……翌日、礼を言おうとグラトレのトレーナー室へ行くと、グラスワンダーに添い寝して子守唄を歌っているグラトレを見つけてしまったが……見なかった事にした……
了
≫170二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 12:21:44
────何かが欠けたような心持ちで、今日も浅い眠りから覚める。
夢に出るのは常に只一人で、その一人がこの世界から消えてかなり経つのを、その一人が失われた瞬間を今も鮮明に覚えている。
そうして身支度を整え、"同盟相手"と電話をする。
「シンボリルドルフ、今身支度を終えた。して、今日の予定は?」
「……シンボリルドルフ。睡眠時間が不足しているのでは?」
「……心配には及びません"樫本トレーナー"。私の体調に問題がないことは貴女も理解しているはずです」
「……それは、そうですが。私は貴方のトレーナーです」
「……トレーナー、ですか────
そろそろ朝食を取りたいので、それでは」
「まっ……」
ぶつり、とこちらから電話を切る。"同盟相手"が何か言おうとしたのを感じたが、それは気にするべきではないことだ。効率に関わる。
────何時から私は効率を気にしだした?
……考えるべきではない。これからのことに支障が出る。考えるべきではないのだ。きっと彼は今の私を嫌うだろうから。
"同盟相手"はこれでいいのかと考えてしまったのだろう。それも、正しいのだろう。私は人の道を外れすぎた。
────幸せな世界とは、私が求めていたものとは、何なのだろうか。答えてくれ、またあの声を聴かせてくれ。トレーナー君。
私の、今の私の全てを否定してくれ───
鉄仮面の裏で雷帝は嘆き、悲しむ。
雷帝の駒は体制の駒の一つとなり、反発する者は権威と力に伏す。
終わらぬ、全てを呑み込む悪夢は続く。維持する何かが欠けるまで。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part337【TSトレ】
≫16別概念ファルトレ第2話1/421/10/29(金) 12:55:37
“attacca.内音と外音。”
ファル子と走る。
そう提案した当の本人は、どこか複雑な面持ちで、それでもこちらを真っ直ぐ見つめていた。
その雰囲気に気圧されて、遅れて近づいてきたスズトレさんに意見をもらおうと目線を投げて。察したスズトレさんは少しの間考える仕草を見せて、ファル子の提案に賛同した。
曰く、トレーナーとして担当と走るのは様々なリスクを鑑みても大きなリターンがある。上手く行けば普段のトレーニングに活かせるかもしれないし、監督者がいる今のうちに1回走っておいた方が良いかもしれない、とのことだ。
確かに、ウマ娘化したトレーナーは殆どがその状況を強かに活用している。あまり走りが得意ではないしどこかそれに満足げなマルトレさんは例外として、今目の前にいるスズトレさんも、他に身近な例としてはブルトレさんも、担当との併走トレーニングを積極的に行っている。それに、ファル子の尽力によって活気が増したと言っても、トレセン学園でダートウマ娘の併せ相手を探すのが容易ではない、というのは残念ながら今でも否めない。現にこの時間にファルコがこのダートコースまるまるの使用許可を取れているという事実が物語っている。俺が一緒にファル子と併走できれば日々のトレーニングの質は確実に上がるだろう。
強く拒否する材料は、最早無かった。
17別概念ファルトレ第2話2/421/10/29(金) 12:55:56
スタート兼ゴール役のスズカさんが旗を上げる。
俺とファル子はそれぞれスタートに向けた姿勢をとる。隣の流れるような、洗練された所作に眩さを少し感じながら、それでも共に走れることに既に胸が躍っている。
はためきの音を立てながら、旗が振り下ろされる。
同時のスタート。自身でも出遅れもない絶好のスタートだという感覚はあった。しかしファル子は俺以上のスタートで走り出し、俺以上の加速でもって容易にハナに立つ。手加減はなし、というのが言葉以上に雄弁に走りで見せつけられる。競技者とトレーナー、埋められない差があることは巻き上がる砂からも歴然。けれど、なりふり構わずに追いかけたかった。今まで支えてきた背中が、捕まるまいと前を駆ける。不思議な高揚感があった。
向こう正面。おそらくファル子にとっては楽なペース。それでも俺にとっては気合を入れなければ追走も出来ないほど。俺は着実に消耗し、対してファル子は脚を溜めている。けれど、それでも追いつきたかった。時折後ろを確認するファル子の目線が俺を突き刺す度、味わったことのない感覚が身体を駆け巡る。どれだけ差があろうと、ここにいるのは2人のウマ娘。そして、俺は。
最終コーナーに差し掛かる。既に尽きかけている体力を振り絞り、懸命に追いすがる。それでも、差は広がっていく。バックストレッチでは散々浴びせられた砂も、今では被らなくなってしまっていた。またなのか?
最終直線。ファル子は、さらにスパートをかける。4バ身。5バ身。トレーナーとしての経験が、絶対的な差を認識させ、残酷な予測を叩きつけてくる。彼女は競技者、俺は被競技者。才能と、努力の差。輝きに向かって駆け抜けていく、彼女。
違う。
追いつきたい。追い抜きたい。逃げ切らせたくない。
またあの子に届かないなんて、いやだ。
私は。
18別概念ファルトレ第2話3/421/10/29(金) 12:56:23
スズトレは感知していた。スズカがホームストレッチでゴール位置に移動する間にバックストレッチで起きた兆候。ファルトレは少し無理なペースで走っている。試しのダート走りで感じた彼に宿る才は本物だ。けれど、彼はウマ娘に今日なったばかり。体の使い方も、レースでの立ち回りも、何度も見ていたトレーナーといえど自身に即座に反映させるのは困難だ。ウマ娘化したトレーナーの中には初めて走ったときに限界まで走ってしまって体に反動を受けた例もある。おそらく、彼のこれも。3・4角で止めに行こう。このままでは、何かが起こる。
しかし、走り出した足は止まってしまった。ホームストレッチに向けてスマートファルコンを追走するファルトレの顔。走り。その気迫に。何かに憑かれたようになってしまう、トレーナーが稀に襲われる侵蝕、そんな単純なものではない。もっと何か、いろいろと混濁したような。
そんな必死さをあざ笑うかのように差は残酷なまでに開いていく。スマートファルコンも、何かを感じ取っている。そうでなければたかだかトレーナーとの初めての併走で、ここまで。
スマートファルコンがスズカの前を通りすぎるその直前。スズトレは聞いた。奮起。慟哭。発露。それ以外にも様々な声。
到底総称できるものではない。ただ敢えて形容するならば。
“激情”と、呼ぶ他無かった。
19別概念ファルトレ第2話4/421/10/29(金) 12:57:00
「ファルトレ!大丈夫!?」
「ハァーッ、フーッ、……ヒューッ、ええ、大丈夫、です」
「(……?何か、違和感が)」
「トレーナーさん、水を持ってきます」
「あ、うんお願い」
「トレーナーさん!ごめんね!!ホントに本気で飛ばしちゃって!」
「ングッ……フー……。うん、もう大分落ち着いてきたから」
「よかったぁ……倒れちゃったりしたらどうしようって……」
「もう、本当に平気だって。でも、やっぱりすごかったわ」
「「───」」
「へ?どうしたの?二人とも」
「ト、トレーナーさん、その口調」
「口調?何かおかしいかしら?あれ?」
「……自分が誰かは、言えるよね?」
「え、ええ。私はファルトレで。あれ?私?いや、なんていうか……記憶もあるし、自己認識もしっかりしてますけど、喋り方が、うん?」
「……とりあえず、スズカが戻ってくるまで待とっか。その後は……念のため、保健室、かな」
≫31二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 13:17:04
ハレーション・リモーション リウトレ
───手加減はしてくれないんだ。
この姿になる前からシリウスはそうだった。
───あまり自分を追い詰めないようにね。
そんなつもりじゃなかった。
───大事なのはリウトレさん自身が考えて自分自身の答えを出すことです。
あたしはどうしたいのだろう。
───敢えて一部受け止めてやるのも手じゃないの?って話だ。
受け止めてしまったら歯止めが利かなくなるのがこわかった。
───しっかりと向き合った上でお前にとって最良の答えを出せ。
向き合うのがこわかった。
───たまには愚痴聞いてあげるから頑張って……。
あたし、頑張れているのかな……。
───だから私はアドバイスとかはできないかな。
聞いてもらえるだけでも楽になれた気がしてた。
───好きってコト!
最初からわかっていた。
───じゃあ受け入れちゃえばいいんじゃない?
あたしは彼女に相応しい人間じゃない。
33二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 13:17:16
彼女なら取れたはずの皐月の冠も、海外遠征も全部あたしのせいだ。あたしのせいで貴重な、一度きりしかない彼女の人生をめちゃくちゃにしてしまったんだ。そんなあたしが彼女に応えて良い訳がない。あたしは───
「何ボーっとしてんだ?」
「あ、うん……なんでもないわよ…」
ソファーに座るあたしに彼女が隣りから声をかける。彼女を心配させてしまったようだ。本当にダメだな、あたし。ただでさえ、こんな身体になって彼女がいないと日常生活も危ういというのに。
「熱でもあんのか?」
彼女はあたしの前髪をあげ、額に額を重ねる。鼻と鼻も触れ、唇が重なりそうな近さに思考力を奪われる。言葉にならない声だけが口からこぼれていく。
「熱はなさそうだな…そんな顔して、別に無理矢理キスなんてしねぇよ」
「そんなこと、わかってるわよっ……」
いっそうのこと奪われたら楽になれたのだろうか。それは本当に向き合って出せた答え?悲しくなるくらいどうしようもない脳内会議。力のない声しか出ない。あたしらしくもない。どうしたらいいのだろうか。もう何も、わからなくなってきた。
「ねぇ、シリウス…」
「なんだ?」
「どうして、貴女の人生をめちゃくちゃにしたあたしのこと恨んでくれないの…?」
「何言ってんだ…」
「あたしのせいで、取れたものも───」
「そんな自惚れの仕方をするな!皐月賞も、海外のレースも私の判断だ」
「…あたしのせいだよ」
「いいか、アンタが自惚れて良いのはな。私のトレーナーであることと私に惚れられてることだけなんだ!」
また帰りに来る。そうぼそりと言い彼女は荒々しくトレーナー室を出た。ひとりになったトレーナー室の空気を感じ、あたしは目から零れ落ちるそれを止められずにいた。
「あたし、なんてことを言ってしまったの…」
ソファーの上で膝を抱える。本当に、最良の選択だったのだろうか。その場の勢いで言ってしまった言葉が最良の訳がない。彼女のあんな顔、海外のあの時ですらしていなかったのにあたし、彼女のこと傷つけたんだ。
「最低だ…うぁあっ……熱い…」
胸の奥が、長い尾が、耳が、焼けるように熱い。
「あつ、い……なにっ、これ……あぁっ」
脚が、手が、自由を利かない。罰があたったんだ。あたし、死ぬんだ。せめて謝りたかった。せめて、好きだったと伝えたかった。あたしは彼女の名前を言い、意識を手放した。
≫56二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 14:51:05
フクトレ「いいかお前ら?よく聞け?」
テイトレ「?」
ブラトレ「?」
マクトレ「?」
フクトレ「こ こ を キ ャ ン プ 地 と す る」
58二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 15:06:23
「さむ…寒いぃ…」
「きゃあっ!?テイトレ!手を服の中に入れないで下さいまし!」
「うるせえよ…駄目だ怒る気力もない…」
「もっとくっつけくっつけ…大凶だ…笑ってんだろなこれ見て…」
…あの!絵面が尊すぎてギャグにできないのですが!アホな番組を見にきた奴らの脳が破壊されちゃうよ…後方理解者面が増えちゃうよ…
59二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 15:08:03
翌朝、レポーター風に喋るオグトレ。
さあ、出発だとエンジンがかかった車に近づいて、運転席のノブをガチャガチャ。開かない。
後部座席、後ろのトランク、助手席とドアノブを動かすが、どれも開かない。
オグトレ「それではご紹介しましょう」
「イン・キーマンのタマトレさんです!」
(字幕)私が犯人です
そこには地面に膝をつけて額に土を付けんばかりに土下座するタマトレの姿が。
なんとタマトレはエンジンを掛けたまま鍵を閉めて車外に出てしまったのである。
誰も車に入れない……、つまり『イン・キー』をやらかしたのである。
クリトレ「おっさん、おっさん、何してんの?」
60二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 15:10:25
ブラトレ「スズカさん佐賀県入ったぞ」
テイトレ「えっ……う、嘘でしょ…… 佐賀は何が名物なんですか?佐賀は私より速い物はあるんですか?何とか言ってください!」
マクトレ「えっそうですわね有田焼が有名ですわ」
テイトレ「有田焼は私より速いですか?」
フクトレ「?」
マクトレ「?」
ブラトレ「?」
65二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 15:21:22
「島根って神在月なんでしょう」
「あーそうだな、俺も行ったことあるわ」
「へぇ〜、湯島さんってどんな感じなの?」
「めっちゃインテリ、けど時々怖い。ウラトレ先生みたいな」
「こえーな」
「罰当たりですわねこの話」
67二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 15:29:55
https://www.htb.co.jp/unite2013/doudemy/serif.html
水曜どうでしょう、名言で調べたら出てきたけどほとんど言いそうで笑っちゃった
テイトレ「いい宿泊めろ バカやろう」
フクトレ「なんとかインチキできんのか」
ブラトレ「風呂入っただけだぞ 四国でオイ」
マクトレ「有田焼きは燃やしますか?」
71二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 15:38:46
一人きりでは できない事も
タフな笑顔の 仲間となら乗りきれる
たどり着いたら そこがスタート
ゴールを決める 余裕なんて今はない
誰かを愛することが 何かを信じつづけることが
なにより今 この体を 支えてくれるんだ
DK4がこの歌詞バックにバカやるってマジ?エモすぎるだろ
≫78二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 15:54:12
「…テイトレ、今何を考えてる?」
「お前ら全員しねばいいって思ってる」
「せんせー!テイトレくんがしねって言いましたー!」
「そうですわ!私達は桃園の誓いを交わした兄弟じゃありませんでしたの!?」
「このメス落ち!」
「こっこの…!俺の感謝の気持ちを返せ!」
「はいみんな静かに、動かない…グラトレそちらはお願いしますね」
「はい先生…こちらは任せて下さいね」
「…なんでリャイトレとウオトレは抵抗しないんだ?」
「いいじゃないか着物!筋肉に映えるぞ!」
「いやー割と気になってたんすよね…グラトレお願いするっす」
「では向こうの部屋に行きましょうか…どんなのにします?」
「ああ待って…置いてかないで…」
「諦めろブラトレ…そもそも俺達が悪い…」
「俺関係ない…関係ないのにぃ…」
「テイトレはこちらを。淡いピンクに菱唐花文様があしらわれた小紋です…貴方の儚げさによく映えると思いますよ」
「わあい…ありがとうございます…」
「フクトレは…あまり女性的なのは嫌がるかと思ったので濃紺地に赤縞格子の紬を選びました。花と鳥の帯を合わせたらシックで落ち着いた雰囲気の貴方にピッタリです」
「…すいません先生、気を使わせてしまって」
「なんかあれだな…」
「ええ、普通ですわね…これならまぁなんとか」
「はいマクトレはこれです」
「…あの先生?肩がまろび出てますけど…というかこれ…」
「蒼い生地に色鮮やかなダリアや睡蓮が咲いて…真っ赤な帯が目を引く…花魁衣装です」
「あぁやっぱり…」
「嫌な予感がしてきたんすけど先生…」
「ブラトレは…ふふっ…こちら」
「丈短すぎじゃないですか!絶対コスプレ用ですよこれ!」
「まさかそんな…黒地に菊や牡丹や桜や椿…可愛いですよ?」
「生地が!テッカテカっすよ!」
80二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 15:54:42
「…はい、みんな着付けも化粧もヘアアレンジも終わりましたよ。お疲れ様でした」
「…フ、フクトレ格好いいな!旅館の人みたいで…髪の毛はそれ束ねて流してるのか?」
「「おい」」
「お…おう…テイトレも似合ってるな…あー…三つ編みも雰囲気変わって…その…」
「だ、だろ?…あの…えっと…」
「いいんだぞ笑っても」
「好きなだけ罵りなさいな」
「…いやその…似合ってるよ…」
「あー!あ゛ー!!慰められるのが一番辛い!」
「島田髷…だったか…凄いちゃんとした髪型だけど…その…服とニーソが…」
「コスプレ感増してるって言いたいんだろ!分かってるよ!うゔぅ…」
「私のは天神髷という名です。とくとご覧なさい」
「なんでマクトレはそんな堂々と…あっ!そのコンタクトレンズは…!」
「花魁…上弦…陸!分かりましたわね…私こそ最強ですわ!」
「ほら担当の子達が来ましたよ。行ってきなさい」
「トレーナー…凄く綺麗…あの、ボクと一緒にちょっと歩かない?」
「…うん、いいぞ…お茶でも飲みに行くか?」
「ほあぁ…トレーナーさん着物似合いますねぇ…」
「そうか?…でもまぁ縁起は良さそうだよなこの帯…お前何してんだ」
「え?開運幸運ステッカーを貼って…おごごごご!!」「これ先生の私物だアホ!」
「…おい」
「ブライアン頼む、何も言わないでくれ」
「…もう少し丈がある方がいいと思うぞ私は」
「ひぃん…」
「なんで、なんですのこのまろび出た乳!!」
「やめっ…やめて下さいまし…揉まないで…」
≫83二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 16:01:13
マクトレ「なんですのこのボロい車」
テイトレ「ボロくないよこれはトレセンの全てを結集して生み出されたタケインパクトユタカタケ号だよ」
マクトレ「どう言うことですのそれ。あ、フクトレ」
フクトレ「お、タケインパクトユタカタケ号じゃん完成度たけーなおい」
マクトレ「フクトレ?これなんだから知ってますの?」
フクトレ「知らないのかマクトレ、これは日本で最強の伝説のトレーナーの魂が宿った霊験のある車なんだ。お前の担当も乗せると強くなるぞ」
マクトレ「マックイーンを乗せると強くなるっておい本当か? あっブラトレ」
ブラトレ「タケインパクトユタカタケ号じゃないか完成度たけーなおい」
マクトレ「ブラトレもご存知で?」
ブラトレ「ああ、これは24000メートルをたった数十秒で駆け抜けるとされたモンスターマシンだ。ロケットブースターが内蔵されあまりの速度に車と一心同体にならなければ操作もおぼつかないらしい」
マクトレ「全員言ってることがちがいますわ!!!」
≫122二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 17:18:26
「闇堕ち衣装いいよね…」
「いい…でもレースの勝負服として縁起悪いのはなぁ…」
「そんなお前らに朗報だ。闇堕ち風の勝負応援服作って欲しいとさ」
「「え、なんで?」」
「知らん」
「まあいいや…よっしゃやるかー! 勿論闇堕ちといったら…」
「露出過多のエロいのだよな!」「露出控えめでカッコいいのだよな!」
「…………」
≫148二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 17:46:10
「…久しぶり、キタトレ。」
「最近どうにも会えてなかったから、ビデオメッセージだよ。まあ僕が海外に行ったからなんだけどさ。」
「前から言ってた様に今はフランスで長期滞在してるんだ。サトノ家の仕事の関係でね。」
「ダイヤなら僕といるよ。というか、僕が付いてきたって言った方がいいのかな?」
「僕が辞めてからサトノ家に入った後、現在は海外で出張というか旅行というかだからね。」
「これはこれで、トレーナーしてた頃とはまた違う忙しさがあるから大変だよ。」
「流石に慣れたからもう大丈夫だけどね。」「この耳カバーが気になる?ほら、つけといた方がいいって最近言われてね。」
「折角だからダイヤとお揃いにしたんだ。後で写真は送るよ。」
「でもそろそろこうなってから十年が立つんだね。早いなぁ…」
「こうなってからサトノジャッジとして駆け抜けて、このフランスじゃ意外と有名なんだよ。」
「そのお陰かたまにファンの子が来たりもするんだ。僕に憧れてくるって少し擽ったい気分かな。」
「そういえば、キタトレの所の子が凱旋門賞に出走するんだよね。」
「もしかしたら、いつかの約束の通り勝ってくれるかな。その凱旋門賞を僕は直接見るよ。」
「ねぇキタトレ、今幸せ?僕は幸せだよ。」
「確かに僕の今までに、良いことなんて少なかったかもしれないけど、それはそれ、これはこれだよ。」
「それに決して苦しいだけではなかったから。だから僕は今、胸をはって幸せだと言い切れるんだ。」
「…こんな所かな、じゃあまた今度。出来ればあの門の下で。」
…私はつい先程届いたビデオメッセージを見終わると、端末を閉じて立ち上がる。
「…ええ、私もよ。さあ、今日の仕事を始めるとしましょう。」
駄文失礼しました
思わず先取りして書いた彼女に待つ未来です。
今がどれだけ苦しくても、最後は彼女は笑うことが出来るくらいに幸せですから。
日は沈み、昇る。これを繰り返すんです。いつまでもずっと。
≫158二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 18:02:06
ハレーション・リモーションⅡ リウトレ
───起きて。
だれ…?あたしを呼ぶ声。瞼を開けると、右耳に耳飾りをした今のあたしと似た風貌のウマ娘、隣りに右耳に耳飾りをした鹿毛色のウマ娘、その隣りにはっきりとは見えないウマ娘と思わしきシルエットがあった。
───私たちはあなたに謝らないといけないの。
───私たちはウマ娘になった際にあなたの中に宿られた魂とでも言いましょうか。
───本来であれば、そんなに多くの魂を抱えることもなかったはずでしょう、あなたの身体にかなりの負担をかけてしまった。
───あなたがうまく歩けないのもあなたに入ってしまった私たちのせいなの。
───あなたが元の姿に戻るまで今の身体と付き合ってもらう。
ふざけないで、この身体のせいであたしは……。
───ごめんなさい。あなたに話しかけるための準備に時間がかかてしまった。
───最悪のタイミングになったようだが。
───これは最初で最後だから。私たちはあなたが覚醒したら消えてなくなるでしょう。
消えたらどうなるのよ。
───あなたの一部になるとでも言えばいいのでしょうか。継承の方が伝わりが良いかもしれないですね。
───あなたが心配しているようなことにはならない。
───もしかしたら、あなたが『本格化』するかもしれないし、そうでないかもしれない。
───すべてあなた次第。あなたの身体だもの、あなたが選ぶ、当然だわ。
「おい!しっかりしろ!」
シリウスの声だ。
───さぁ、時間のようだ。あとはあなたが決めること。
───大丈夫、きっと。うまくいくわ。
───さよなら。
160二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 18:02:19
熱くて溶けるのではないか、そう思っていたくらいだったのに嘘みたいにいつもの体温へ戻っていた。瞼を開けると、今にも泣き出しそうな顔をしたシリウスがいた。
「驚かせ、やがって……」
時計を見る。ああ、そんな時間か。彼女が迎えに来たタイミングがさっきの声か。身体を起こす。痛みはないようだ。
「……ごめんなさい、シリウス…ごめん、なさい……」
大粒の涙を抑えられない。彼女に申し訳なくて、自分が情けなくて、こんな自分を見られたくなくて、彼女の身体へと腕を回すと彼女が優しく返してくれる。彼女のトレーナーになった時にこころの中で決めたこと。あたしはできていなかった。彼女のことを大事にすること、彼女に笑顔でいてもらうこと。自分のことでいっぱいになって、何もできていない。
「シリウス、わがまま言っていい…?」
「…なんだ?」
「こんなあたしでも、これからもトレーナーでいていい?」
「当然だ、私は何があってもアンタの隣りに居る。だからアンタも私の隣りに居るんだ」
「ありがとう、シリウス」
大丈夫。向き合っていこう。きっと最良の答えがわかるはずだから。
「試したいことがあるの」
あれが夢でないのであれば、あたしの身体は少しは自由が利くようになっているはずだ。歩くテストをしたいと、彼女に提案しトレーナー室のドアに居てもらう。今いるソファーからはそこまでの距離ではないにしろ、あたしがひとり歩くには気持ち長く感じるものだ。
「行くわよ」
「ああ」
一歩前へと踏み出す。軽かった。今まで重々しく、違和感があった脚にはそれがなく、この身体になる前のように、当たり前に歩ける。当たり前がこれほど嬉しいものなのだろうか。あたしは嬉しくてたまらなかった。彼女のもとへ着くと抱き締められる。
「歩けるようになったんだな」
「うん、なったみたい」
「アンタが普通に歩けるのを知っているのは私だけでいい」
「え?」
「今まで通り、アンタを抱える」
「普通に歩けるのに?」
「関係ない。アンタは私のだ」
「そ、そう…それなら好きにすれば」
歩けるようになったところで何も変わらない。どこか、安心を覚える自分が居た。すこしだけ、こころがすっと晴れたような、靄がなくなったような気がした。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part338【TSトレ】
≫19二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 18:31:20
『戦の後に宴あり』
「では僭越ながら最もこの会食に関係ない私が挨拶をさせてもらうよ!親父さんの勝利と、ブラトレの健闘を称えて、カンパーイ!」
「カンパーイ!」「イエーイ!」「ただ飯ィー!」
乾杯の大合唱が響く。グラスの打ち鳴らされる音が部屋を満たしていく。
親父殿、もといギムレットとブラトレの一騎打ち後、勝利者であるギムレットが提案した会食には、ブラトレと『ブラックヴォルフ』のメンバーの6人、ウオッカと彼女にかかわるトレーナーの4名(5名)、ついでになぜか御呼ばれしたベガとベガトレの2名(3名)の総計12人(14人)がトレセン内の多目的室に集っていた。
「酒はないけどジュースはいくらでもあるから遠慮なくのめー!」
「料理も大量に用意したから楽しめよー!」
「うおおおおおおおお!」
「メイフォ、うるさい!」
「あっぶどうジュースあります?あれならワインの気分で飲めるんで」
「おいこらタマシチ、まさか普段から酒飲んでんのか?」「冗談に決まってますってばぁ!」
「ふっ、俺はハードボイルドにこの白ワイン……に見せかけた白ぶどうジュースを飲むぜ」
「ブイトレ、あんた16の子供と同じこと言ってるけど何も気にしないのかい?」
「んがっ、い、良いだろ!憧れってのは子供も大人も大して変わんねえのよ!」
「そうだぜ、ブイトレ!このかっこいいエビフライでも食べて機嫌直してくれよ」
「ありがとうなウオッカ!」
「かっこいいエビフライって何なんだろうねえ?」
「おらおら次の料理だぞ!リボンカロルにも感謝しなさいよ!」
「「「カロルちゃんありがとー!」」」
「あわわ、ありがとうございますぅ!」
「照れてるぅー!」「可愛ぃー!」「み、みゃー!」「逃げた!」
騒ぎながら料理に手を伸ばし、舌鼓を打ち、周りと歓談しながら笑顔を浮かべる。
そんな中、少し静かなエリアで4人のウマ娘たちが食事を楽しんでいた。
「……ねえ、私これ本当に参加してよかったのかしら?トレーナーと違って完全に関わりないわよ」
「ベガか。気にするな、あいつとあいつを下したギムレットが言うことだ。問題ない」
隣り合って座るアドマイヤベガとナリタブライアンは静かにグラスを打ち合わせる。
「そうっすよ、何なら俺だって特に何かやったわけでもないのに食事に誘われたんすから」
「じゃあ、気にしないで良いわね。あ、この鴨肉おいしい……」
20二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 18:31:39
「しかしまぁ、2~3人程度手伝ってたみたいだけどよくもまあこの量の料理を用意したなブラトレは」
そう呟きながら料理に手を伸ばすのは本来のほうのウオトレ。今はギムレットは内面に引っ込んでいるようで、元気な少年のそれと同じような表情で眼前に用意された料理に期待の色を浮かばせている。
「まあ、あいつのことだ。いつの間にか料理のほうの弟子でも取っていたんだろう」
「だとするとオグトレさんの孫弟子ってことになるのか?料理の輪がどんどん広がるねぇ。このアジフライ美味いな…」
「私のトレーナーは、普通に料理できるくらいだから、ここまで宴会じみた料理の量を用意できるのは流石のブライアンのトレーナーと言ったところね……」
「ふっ」
「すごいドヤ顔っすね……」
そうしていると、いつの間にか調理の手伝いを終えたベガトレ……ではなく、アルがするりとベガの隣に座っていた。
「おねーちゃん!」
「あらアル。あっちはいいの?」
「うん、ブラトレさんがあっちで一緒に食べてていいってね」
「わかった。料理をよそってあげるわ」
「ありがと!」
普段は凛とした表情のベガも、妹がそばにいるときは優しい顔つきになる。
「しかし不思議なもんっすね、同じ体に二つの魂ってのも」
「明確に表に出るってのは俺が一番最初の実例なんだが。実際のところはフクトレも同じような感じだと思う」
「そうっすか?」
「あっちはかなり苦労してそうだが……俺といいベガトレといい、大した問題が発生してないのもなんだかなあ」
そう溜息をつくウオトレ。するとキィンと軽く音が鳴ったような音がして、目の色が金色に変わった。
「問題がないわけではないぞ、青いの。ただ、それが表面に出ないだけだ」
「おっと親父さん。もう休憩はいいっすか?」
「ああ、取り敢えずはブライアンのと食事をしてくる」
そう言って、ギムレットは立ち上がり去っていった。
21二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 18:31:53
「うーん……やっぱり、体を借りているというのが問題なんすかね……」
「わたしの場合は元からベガトレさんの中にいたので、また違うんですよねえ」
「そうなると、やっぱり完全に同じような境遇のウマになってしまったトレーナーはいないと考えるのもおかしくはないわね」
「難しいっすねー。難しいことは考えずに美味しいものを食べていたいっすよ」
「同感だ。どうしようもないものを考えることほど時間の無駄はない」
そういいながらブライアンは肉を中心に皿を盛り上げていく。もはや皿の9割が肉料理に溢れている。
「ちゃんと野菜も食べなさいよ、ブライアン……」
「むっ……まあ、あいつが調理した分だしな……」
そうつぶやくと、ちょこちょこっとニンジン以外の野菜をとって、残りはニンジンで胡麻化した。
「……まあ、以前よりは食べてるわよね」
ため息交じりに、成長自体は実感するベガであった。
「ブライアン先輩、となりいいですか!」
「ウオッカか。ああ」
そうこうしていると、ウオッカとブイトレの二人が入れ替わり気味にこちらの席にやってきた。
「どうした?」
「いや……こっちの鴨肉が気になって……」
「はっはっは。こいつそうやってごまかしてるだけでブライアンさんと一緒に食べたかっただけで……あだっ」
「言わんでいいだろ!だからハーフボイルドなんだよブイトレは!」
「おー言ってくれたなぁ!?じゃあこの真っ赤なフライドチキン、どっちが多く食えるか試してみようじゃねえか」
「ああいいぜ!やってやろうじゃんか!」
静かな空間はあっという間に騒がしい空間へと変わってしまった。
「一応言っておくけど、それかなり辛いから注意しなさいよ……」
「わたしあんまり辛いのにがてー」
「……まあ以前食べたヒリ辛よりはましだったな」
「ヒリ辛、アレはちょっとやばかったすね」
その後しばらく悶絶するかっこつけ二人が居た。
22二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 18:32:13
「あー疲れた……楽しいけどやっぱ疲れたぁ」
「お疲れ様です、トレーナーさん……私もちょっと大変でした」
「教えた分の道具の使い方とか調理の進め方は身についてるから、十分だよ」
ブラトレと調理を手伝っていたリボンカロルは、こちらも喧騒続く食事テーブルとはちょっと離れた位置でゆっくりと羽を伸ばしていた。
「私も料理できたほうがいろいろと便利かなーって思いましたし、ちょうどよかったです。まあ、10人分を超える料理を作る羽目になるとはとても思いませんでしたがね……!」
「俺だってここまで膨れ上がるとは思わなかった……」
「すまんな、ブライアンの、それにリボンカロルだったか。つい勢いで言ってしまったのを完璧に受け取った上、料理もきっちり用意してもらえるとは思わなかった」
そんな二人に近づいてきたギムレットが、若干申し訳なさそうに頭を掻きながら声をかけた。
レースで見せたようなあの威圧感あふれる金色の瞳は今はなく、父性ともいえるようなやさしさに満ち溢れた目つきとなっている。
「いえいえ、やっぱ大人数で食べる料理はいいもんですからね。カロルの料理レベルアップにもなりましたし」
「頑張りましたぁ」
「時にカロル、ニンジンはお前が調理したのか?」
「は、はい」
「美味かったぞ」
「あ、ありがとうございます!」
ギムレットの賞賛の言葉に、カロルは満面の笑みを浮かべる。
「ほんと親父さんニンジン好きですね…」
「魂に結び付いた好物とでも言っておこうか。ボウズはあんまり好きじゃないらしいがな」
そう言いながらブラトレの向かい側にギムレットは座り込む。手に持っていた皿には山のようにニンジンが乗っかっていた。
「さて、約束だったな。まあ、本来は俺に勝つことが条件だったが……美味い料理の返礼ということにしておこう」
「カッコいい男は、言い訳も一丁前ってことですか?」
「ハッ、かもしれんな」
そんな軽口をたたきあっていると、カロルがちょっと居心地悪そうにもぞもぞとしていた。
「あ、もしかしてお邪魔ですかね……?」
「いや、カロル。お前もここにいていい」
「あ、ありがとうございます」
「ふう。……さて、何から話そうか?」
その輝く金色の瞳には、彼の過去が映り始めていた。
23二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 18:32:37
タニノギムレット。
それは走るためにその生を願われ、そして産まれてきたもの。
ギムレットは何よりも勝利を求められていた。周囲やファンの期待は強く、出走したレースのほぼすべてで一番人気を獲得するほどであった。
ギムレットの特徴はその追込策における、驚異的な末脚。
走行中のぐらつきにより大きくコーナーをぶれてしまっても、その剛脚をもってして入着することもあったという。
その生涯において走ったレースはただの8回のみ、そしてG1レース唯一の勝利はあの日本ダービー。
皐月賞、NHKマイルカップを3着で終わり、そして迎えた東京優駿……日本ダービーにおいて、彼はついに栄光のダービーウマ娘としての冠を得た。
しかし、その後の調整段階で故障が発覚。これ以上競技者として走れないほどのダメージを負った左足を守るためにも、ギムレットは引退を余儀なくされた。
まさに光陰矢の如し。駆け抜けた1年間は、ほかのウマ娘たちのそれとは一線を画すほど劇的なものであった。
「……と、まあこんなもんだな。どうだ、大した話じゃあないだろう」
「ウソでしょ、この濃さで大した話じゃなかったらもう私たちなんか破片も同然じゃないですか」
「おいおいカロル、そんなこと言っちゃ駄目だぞ?下手すりゃ微塵どころじゃすまないウマ娘が量産されちまう」
ダービーウマ娘であるということだけはレース後にちらりと聞いていたが、ここまで閃光のような生き様を貫いたバ生であったというのは驚きであった。
「んなことはない。競技者としてレースに出場し、周囲のウマ娘たちと鍔迫り合いをやる。そしてその結果ただ一人のみが栄冠を手にする。そこに至るまでの経緯において、どのウマであれ、存在しないものとして扱われることはない」
ニンジンをかじりながら、ギムレットは戦ってきたライバルへと思いを馳せる。
「ま、そんな鍔迫り合いをやりあったやつらのほとんどは、こっちにはまだ来てないようだがな」
「うーん、ウマソウルねえ……正直よくわからないところが多すぎるから何ともかんとも」
力のある魂がどこからかこちらへと流れてくる、という通説。
もしかすれば、こちらの世界とはまた似たような経緯のあった別の世界もあるのだろう。そちらではまた別のウマ娘がいるだろうし、自身もまた違った歴史を歩んだことだろう。
24二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 18:32:54
「ま、気にしすぎるのもあれですね。今俺がここにいて、チームのみんながいて、友人のベガトレやウオトレ、ウオサブ、あと最近仲良くなったブイサブ、そしてベガやウオッカ、親父さん。そしてなによりブライアンがここにいる。それだけで十分ってことで……いやそれだけっていう量じゃないわこれ」
「多いな」
「羅列するだけでやたらとのどが渇いちゃいますね」
「いつの間にか交友関係も増えてしまったなあ……」
ふへぇと息を吐いていると、突然後ろから肩を叩かれる。
「おい、いつの間に面白そうな話を始めていたんだ」
「あっとブライアン。なんだ、結構楽しみにしてたのか?親父さんの過去話」
「まあな。強者の戦いの歴史は、心を震わせ闘志を燃やす力に満ちている」
「せっかくだから、皆聞きたそうにしてたわよ。二人して抜け駆けするなんて思わなかったけど」
「いやーほら、直接戦ったからさ。……カロル?たまたま隣にいただけだし……」
「言い訳はいい、俺も聞きてえ!話してくれよギムレット!」
「伝説のダービーウマ娘ってやつなんだろ?ハードボイルドを感じるぜ……」
「私も聞くー!」「私もー!」「カロルだけなんてずるいぞー!」「聞かせーい!」
「お、俺も聞きたいっすよ。こんな機会じゃなきゃ話してくれねえと思うっす」
「わたしも聞いてみたいです、ウオッカさんのお父さん!」
ゆったりとしていた空間は過去のものとなり、12人がぎちぎちになってギムレットとブラトレ、カロルを囲んでしまう。
「圧が……圧がすごいです……」
「おっとおっと……こういうバ群に囲まれた時はどうやればいいんだっけな、ブライアンの?」
「そりゃもう、あきらめてお酒の肴に……はできないんで、サイドメニューになるしかないでしょうなぁ」
「はっ、しょうがないな。何度も何度も話すような内容じゃあねえ、一回こっきり、しっかり聞いておけよお前ら」
金色の瞳の吟遊詩人が、己の経験、その生きざまを、言葉に乗せて綴り出す。
時に挫折を味わって、時に周囲に振り回されて、それでも彼は求められるだけの力を発揮した。
たった一年されど一年。剛脚でその須臾を生きてきた、刹那の勝負師ギムレット。
謎に満ち溢れた彼の話は、聞くものを驚かせ、興奮させ、そして感動を齎したのであった。
≫75二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 19:06:55
午後、カーテンを閉めきられた薄闇の中、トレーナー室はテレビのみによって照らされていた。
テレビの横には積まれたDVD。俺たちはソファーに並んで座り、ホラー映画を見ていた。
数刻前。
「ホラー映画を見なくちゃいけない?」
「量のみんなからハロウィンの衣装作りを頼まれたのさ。資料のためとはいえ……。トレ公もアタシがホラー苦手なの知ってるだろ」
「幽霊だけはダメだもんな。
じゃあ、一緒に観る?」
「い、いいのかい?助かるよ、トレ公!」
こんなわけで、トレーナー室を暗くしホラー映画鑑賞を始めたのである。
「な、なぁトレ公……。幽霊のやつ、いつになったら出てくるんだい?
ずっとびくびくさせられたまんまじゃ、アタシの更迭ハートだって保たないよ……!」
うおぉぉぉぉぉ!!
「出た!!」
「──うっひゃああぁぁっ!?」
ぐああぁぁっ……!!
「あぁ……、幽霊にやられちゃった……」
「だめだ……トレ公……!
幽霊が相手じゃあ、タイマンの張りようがないじゃないか!」
怖がっているヒシアマのためにできること……
「うわぁ、どうしたんだい!?トレ公!?」
俺はヒシアマの腕にくっついた。
「こうすれば、少しは怖くなくなるんじゃないか?」
76二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 19:07:10
ホラー映画を最後まで鑑賞したのだが──
「ふ、ふふふ……!トレ公……!!」
すって~ん!ヒシアマが転んだ。
「ヒシアマ!?うわあっ!?」
突如尻尾が引っ張られ、ヒシアマに向かって倒れる。
「大丈夫か!?怪我してないか!?今、上から退くから!」
立ち上がろうとすると、再び尻尾が引っ張られる。
「──お化け!?」
慌てて尻尾を見ると……、ヒシアマの尻尾と絡まっていた。
「……どうしよ、ヒシアマ。尻尾がほどけない……」
ヒシアマは腰が抜けて動けない……。
「フジトレさん、頼んだら助けてくれるかな……」
救援が来るまで、尻尾は離れなかった。
後日。
「そういえば、ヒシアマ。ハロウィンの衣装なら、何も苦手な幽霊が出てくるやつじゃなくても良かったんじゃないか?」
結局、ミイラ男などの『物理攻撃が効く』相手が出てくる映画を2人で鑑賞し、ヒシアマゾンは衣装を完璧に作り上げた。
≫90二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 19:11:28
決して切れぬその円環
決して終わらぬその旅路
其れは消せない罪のよう
其れは断てない過去のよう
幻視するは死の鎖
心を縛るは罪の枷
それでも歩みを止めぬ者
孤独を背負いて進む者
傷にまみれた彼は視る
其れは縛りしモノでなく
心を結ぶモノであると
永久に続く人の愛
繋いで結びし神の愛
罪過の枷を引きちぎり
過去の『○○』は開展し
『終の猟犬』へ開花する
『DOBEL』『LAMONE』
「鎖ではなく、結び、か」
『ALL END BEAM』『OO』
「『領域 』、解錠」
「結べ、『∞ MEVIUS』」
○○○○○○○○『領域』『∞ MEVIUS』
≫133二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 19:29:10
「でもさー、語尾になんかつけるってものすごく安直だよね」
「まあ、わかりやすさは上がるだろうがな……おい、マクトレにブラトレどうした」
「マーックックックック!これで完璧ですわ」
「ブラーッララララ!いやなんか違うな…」
「お前らだけ海賊船の上にでもいるのか?」
「テーイテイテイテイテイテイ!いや余計わかんないこれ!」
「……待て、俺もやれっていうのか?」
「やってみせなさいですわー!」
「フーックック……おいやめろ!悶絶しながら笑うんじゃないお前ら!」
「ふっ、まだまだテレがありますねフクトレさん!ローブロブロブ!」
「この程度で照れるとはDK4の名折れよ、ベーガベガベガ!」
「収集つかなくなるからやめろ!!!」
≫135別概念ファルトレ第3話1/421/10/29(金) 19:30:14
“indeciso. 「わらわれた」進行台本。”
ファル子と併走をした翌日。学園から発行された諸々の証明書と紹介状を手に、検査を受けるために指定の病院を訪れていた。自覚の無い急速な口調の変化、走行への一定条件下での異常ともいえる執着、そしてそれを実行できる変化直後とは思えない走力。学園側が私の容態に危惧の念を抱くには十分すぎる条件が揃っていた。
結果は、多分他の人にとっては拍子抜けするものだったんでしょう。記憶は完全。意識の混濁は現段階で認められず。ウマ娘化した身体への適応が異常に早かったのに対し、精神に重篤な影響は見られなかった。
ただし。“スマートファルコン担当トレーナー”としての認識ははっきりしているのに対し、性自認は曖昧そのもの。口調は指摘されなければ依然として気づかないし、元の口調に戻そうとすると尋常でない違和感がある。現に今は学園から支給されたスーツを着ているけれど、変化直後の発注の際にはレディーススーツにやや抵抗感があってメンズスーツに近いものを態々指定したのに、今ではそう固執した感覚も希薄。
結局。専門機関が出した結論としては、「主導権を握りながらも因子と非常に高度な同質化を果たしていると推測。ただし因子が表面化する可能性もあるかもしれない。また内面的な変化は薄いものの表面的変化によって外部との摩擦が生じるおそれもある」というもの。為された処置は、「要経過観察」。今一つ釈然としないものでもあるかもしれないが、むしろ未だ解決に至っていない「トレーナーのウマ娘化」という一大事件に、よくここまで研究が進んで仮の結論が出せるようになったものだと感心するばかり。
そんなこんなで、学園に提出するための検査結果をカバンに詰め、正門前のバス停に向かって歩いていると、シェルター下ベンチに座っていた小さい人影が私に気付いて手を振ってきた。
137別概念ファルトレ第3話2/421/10/29(金) 19:30:48
「良かったんです?呼び止めたのは私ですが、何も一緒に徒歩で帰らなくたってあそこでちょっとお話できればよかっただけなんですが……」
「ええ。折角お見舞いに来てくれたんですし。それにこうしていればゆっくり話せますから」
ミホノブルボン担当トレーナー。ファル子はよく彼の担当のミホノブルボンをウマドル活動に巻き込んでおり、そのままトレーナー同士と接する機会も多い。私の様子を心配して病院に来たのはいいものの中に入るわけにも行かないために外で待っていたらしい。
ブルトレさんもウマ娘化したトレーナーで、若干の髪型の違いはあれどブルボンをそのまま縮めたような姿になってしまった。厄介なことに機械を壊しやすいというブルボンの正直眉唾な性質さえ受け継いでしまったようで、そういう理由で私たちはバスを使わずに歩いて学園に戻っている。
「でも流石に病院にまで来てもらえるとは思いませんでした」
「スズトレさんから聞きまして。いつもブルボンがファル子さんとの活動の中で本当に楽しそうにしてますから」
「私としては少し振り回しすぎな気もして申し訳なさもあるんですけどね……」
「まあ、ちょっとくらい強引な方がブルボンも乗りやすいでしょうし」
「ありがとうございます。───それだけじゃ、ないですよね?」
少し歩く速度を緩める。学園からはまだ距離もあったけれど、リミットを気にして話せる内容でも無いだろう、という配慮。ブルトレさんも察して、歩幅を合わせてくれた。
「……口調が変わってしまう、というのは私も不安だったもので」
ブルトレさんは変化当初意識の侵蝕が激しく、日に日にブルボンに似た口調になっていっていた。やはり本人の意思ではどうしようも無かったらしく、いつか同一の存在になるのではないか、という不安も抱いていたらしい。ある日担当に説得され、そこからは落ち着いたそうで、今では振られればブルボンの真似もノリノリで行うぐらいには踏ん切りがついた。背丈の違いをいじられると機嫌を損ねてしまうけれど。
「聞いた限りでは内面にまでは及んでいないそうですが、それなら尚更じゃないですか?自分でもわかっているのにどうしようもない、というのは……。もしかしたら、見当違いかもしれませんが……」
139別概念ファルトレ第3話3/421/10/29(金) 19:31:14
「……実を言うと、恐怖はないんです」
「……そうなんですか?」
「はい。勿論、昨日のファル子との併走で無我夢中になって暴走してしまったのに気づいたときは少し困惑しました。けれど、あの時におそらく私の中の子が抱いた感情は、私も痛いほど共感できました」
「その時の、感情?」
「はい。“また負けたくない。”“また二着はいやだ。”切実で、諦めきれずに、悲願じみた、けれどもある種傲慢な。そんな、かつて私が抱いて、この場に至るまでに切り捨ててきた思い。」
ウマ娘たちの歌唱レッスンもできるトレーナー、という私の肩書は、私への経歴の好奇心を煽るには十分だった。学園側の人間やトレーナーの何人かには、私がかつて味わった挫折も話したことがある。……ファル子には、確か詳しく話したことがない。
「音楽と、レース。分野は違えど、私たちの根幹にあるのはきっと同じ感情だったんです。だからでしょうか。異質感、異物感は本当になくて。どこまでも心の奥底で溶けあえるような、そんな感覚がするんです」
「……けれど、今のファルトレさんは、トレーナーですよね?音楽に携わる場合でも、ウマ娘たちの歌唱指導教員としてですし」
「……そうですね。結局今悩んでいるのはそこなんです。この子とはそれこそウマが合うでしょう。けれど、その感情のやり場が今のままではないんです。この子が納得してくれているのか、ファル子を純粋に好きな気持ちというのも変わらずに持ち続けています。私はあの子のトレーナーでありたい。私の時間の全てをあの子の為に使いたい。あの子の夢を支えてあげたい。それでも、今は走りに、音楽に、焦がれているのも事実。……わからないんです。この後自分がどうすればいいのか」
「……そうですか……」
140別概念ファルトレ第3話4/421/10/29(金) 19:31:44
少し俯いた後、彼は口を開いた。
「それなら。やっぱり担当の子に。ファル子さんとちゃんと話をするのが一番だと思います。」
確信めいた声音の提案。私よりも一回りも二回りも小さな体躯には不釣り合いなほどの気丈さが溢れていた。黙って見つめることで彼に続きを促す。
「私は、私でなくなりそうだったときに、どうすればいいのか全然分かりませんでした。不安で、夜中に呼び起きて。……内緒ですけど、ちょっと泣いちゃった時もあるんですよ?」
思い起こされるのは、ブルトレさんの元気が無かった日々。隣のブルボンはいつものように顔にこそ出ないものの、心配の心情が見て取れた。
「けれど。ブルボンは“私を”信じてくれていました。私が見失いかけた私の道を、再び示し直してくれました。───担当というのは、私たちが思う以上に、私たちのことを見て、知ってくれています。私たちのように、個別で担当を持てる幸運なトレーナーなら尚更」
教え諭すように。小さな、けれど偉大な一人のウマ娘のトレーナーは続ける。
「前途に悩んだ彼女たちが私たちを頼るように。本当に困ったときには、彼女たちに私たちが頼る。きっと、それができるだけの年月を、ファルトレさんたちは既に一緒に歩んでいると、私は思います」
目を閉じる。彼女の困り事に共に悩み、解決しようとしたことは幾度とあれど、彼女に困り事を持ち出した経験は無かった。きっと、出会ったあの日に救われたから。遮二無二彼女の為に進むことができたから。けれど、おそらくもうそれだけではどうにもできない岐路に私は立っている。
目を開けて視線を下ろすと、どことなく満足げな顔のブルトレさんがいた。なんとなく撫でてあげた。怒られた。
「───わかりました。彼女に、思いの丈を告白してみようと思います」
きっと。ファン一号の特権を行使すべき時なのだろう。来るべき超豪華な人生相談に優越感と罪悪感を覚えながら、学園への帰路を再び元のペースでなぞり始めた。
141別概念ファルトレ第3話-/421/10/29(金) 19:32:11
おまけ
ファルトレさんと別れたのち。
「……そういえばなんか一大告白みたいな感じで言ってたけど、本人はそんなつもりないんだろうなぁ……」
あの人のことだ。純粋な、偶像への好意が溢れすぎてあんな言い回しになってしまっているだけでその気は一切ないのだろう。過去を話すとかそういう重みの解釈もできるが、それにしたってあの言いぐさは。
きっと彼女の問題は解決する。なんたってトップウマドルが相手なのだから。ただ、そのトップウマドルが別の意味で煩悶する羽目になるのかなぁと少々不安なブルトレなのであった。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part339【TSトレ】
≫99二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 20:43:41
『シュラウドレポート』
とある病院にて、海色をした短髪のウマ娘が診察を受けていた。
「じゃあ、そのレースのことについて聞かせてくれるかな。」
「わかりました。あれは先週の土曜日……」
――
――――
芝・2400M・左回り・天気は雲ひとつない快晴・最高の良バ場
私の調子もほぼ最高のコンディションに仕上がり 一番人気に押されました
後は油断せずに自分の走りをするかどうかでした
ゲートが開き私は鼻を切って進みましたその時逃げの作戦をするウマ娘は私しかいませんでした
レース中盤で息を整えレース後半に差し掛かるここまではいつもの私の走りでした。あの時までは、
1/2
100二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 20:44:17
レース終盤リードを保ったまま私の私だけのゾーンに入るそしてリードを保ったまま引き剥がすそれが黄金の勝ち筋でした
ですが、それと同時に辺り一面が薄暗くなりましたまるで薄雲がかかったように
それからです……おかしくなり始めたは……
集中力が途切れゾーンに入るのを失敗した私はふと後ろから威圧感を感じました
逃げウマなら誰もが感じる後ろから刺し迫る威圧感ですが、その時は違ってました
今まで感じたことのなかった威圧感、まるで私を喰べようとするものがそこにはありました
空が段々と暗くなっていく中、ふと、私は後ろを確認してしまいました
そこで見たのは漆黒で塗られた月、そう形容するものがあった
一瞬で悟りましたアレに追いつかれるとすべてを失う
私は本能的に悟りました、そして必死に逃げました
逃げて
逃げて
逃げて
必死に逃げました
逃げる内に辺りは深夜のように暗くなりました
昼だった明るさはどこにもなく
見上げると月に食べられた太陽と星空がありました
―ああ、なんてきれいだ……
そうして私は黒き狼に喰べられ
――全てが暗闇に閉ざされました
『――マベラスエクリプス1着!後続はいない!!』
『あなた達の輝き-マーベラス-は私のもの♪もうわたさないんだからー★』
――――――
――――
「先生、私は輝きはどうやったら戻りますか……」2/2
≫141二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 21:04:15
いやでも外部の目に触れるならみんなちゃんと厳格な感じでムーブしそう
「今日はとりあえずこんな感じで行こう。暴れるなよ」
「公衆の面前で無様を晒すような真似をわたくしがしたことがあって?」
「無いな!俺もいつも通りトレーニングを見ていればいいだろ!」
「そうだね。厳かにかっこよく、来場者にクールなトレセンを見せてあげよう」
あっかっこいい♡
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part340【TSトレ】
≫49二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 21:32:51
ごめんなさい、流れ関係ありませんが前スレ最後の方で頭に思い浮かんだのがあったので少しだけ上げさせてください…
小学生A「ねーねーお姉ちゃんなんでそんなコート来てるの?」
小学生B「暑くないのー?」
小学生C「動きにくいし目立つから脱いだほうがいいよー」
ドトトレ「え、あっ、ちょっと…みんなあまり引っ張らないで…」
(コートが脱げる音)
ABC「ウオデッカ…」
書いててなんか少しエロいと思いました。ヤバかったです。
≫82チヨトレマッサージ道(仮称)21/10/29(金) 21:45:26
ある時、カフェトレさんを追いかけていてふと気づいた
能動的に動いて逃げられるのであれば、受動的になれば良いのでは?
我ながらナイス閃きだと思った
という訳で、得意のマッサージを活用するため出店を作る
勿論学園には許可をとってある
これで学園関係者の皆さんにより健康的になって頂けるという寸法だ
記念すべき一日目、お客は意外にも早くやってきた
「すいません、マッサージやってますか?」
やってきたのはスーツを着た栗毛のウマ娘
この方は確か、ナリタタイシンさんのトレーナーさんだ
トレセン学園で初めてウマ娘だと記憶している
来訪理由はシンプルで、ここの所激務で体の節々がこっているとのこと
気になる個所を聞き、施術ベットに横になってもらう
よくよく見れば、低身長の割に大きな胸を持っていらっしゃる
これだと肩こりもつらいだろう
さっそくタイトレさんの体を手のひらで圧迫し始めるも、ここで思いもよらない反応が出た
「ひゃん!?」
ん?と思い手を止める
どこか痛い所でもあったのか聞いてみたが
「いやその…気持ちよくて…」
83チヨトレマッサージ道(仮称)21/10/29(金) 21:45:56
試しに別の場所を刺激してみると
「んう…」
何か声が色っぽいというか、いけないことをしている感があるというか
男ではなくなったのに、妙にムラムラするというか(実はチヨトレはむっつりスケベである)
気が散ると思い、声を抑えられないか聞いてみるが
「その、自然に声が出ちゃうんだ」
その時、私の脳髄に電流走る
もしかして、マッサージの間ずっとタイトレさんの色っぽい声を聴き続けることになるのでは?
今更になって目の前の患者の難易度を悟る
これは中々に癖の強い方が来られたものだ
帰ってもらうか?否!断じて否!!
まだ、私の学園健やか計画は始まったばかりだ
ここまできてやめるなど言語道断
心頭滅却!!!煩悩退散!!!!
気合で耐えてみせると決意し、私はタイトレさんに手をかけた
84チヨトレマッサージ道(仮称)21/10/29(金) 21:46:34
ナリタタイシンは学園の片隅を歩いていた
どうやら今日、この近くでマッサージ店が始まるらしい
友人の前では見栄を張ってしまったが、興味がないわけではなかった
いまもこうして店の様子を見に来ている
しばらく歩くと、プレハブ小屋が見えてきた
壁にはマッサージ店営業中との文字
ここが件のマッサージ
誰かいないかとドアに手をかけた瞬間
「やぁ…!そこはぁ…」
聞き覚えのある声がした
それは間違いなく自分のトレーナーの声である筈で
R-18的な雰囲気を醸し出している
「そこ、駄目ぇ…!!」
「でもほぐれてきたでしょう?」
「そうだけどぉ…おかしくなるぅ…」
扉の向こう側で何かが起こっているのは確かだ
しかも声からしては自分のトレーナーがよからぬことをされている
一瞬あっけにとられるも、次の瞬間にはドアを力の限り開いていた
「何してんのアンタァ!!!!」
85チヨトレマッサージ道(仮称)21/10/29(金) 21:46:46
「「あっ」」
中にいる二人のウマ娘と目が合った
一方は想像通りトレーナーだったが、単に背中をマッサージされていただけであった
瞬時に自分の勘違いを悟る
「紛らわしい声出してんじゃないわよ!!!!」
その日、私の絶叫が学園に響いた
≫103ガンギマリ頭スズトレ21/10/29(金) 21:56:39
「…来ちゃった…」
執事カフェ、そう看板の付けられた体育館を前に呟く。
高身長執事カフェ、ウマ娘化現象に巻き込まれたトレーナーの中でも身長が高い人達を集め、執事カフェで生徒や外部の人達をもてなす、というもの。
私の…サイレンススズカのトレーナーであるトレーナーさんも、168cmの身長を持つことから抜擢され昨日から接客に励んでいる。
昨日行かなかったのは迷いがあったから。長蛇の列ができるほどの中で私まで行ったら余計な負担をかけてしまうのではないか、その疑問が頭から離れなかった。だけど…
『無理強いはしないけど、私はスズカが来てくれた方が嬉しいな。結構要領掴めてきたから。』
トレーナーさんの言葉を受けて、悩みに悩んだ上で、今日の朝、行くと決めた。
意を決して扉を開くと、カランカランと音が。来客が来たと分かりやすくするためだろうか?
そしてそれを聞いて、トレーナーさんがやってくる。
「おかえりなさいま…スズカ?来てくれたんだ。」
「はい、特に予定もなかったので。忙しい中すみません。」
「いや、大丈夫。来てほしいって言ったのは私だからね。…コホン、それじゃあ席にご案内します。スズカお嬢様。」
その言葉と共に柔らかな笑顔を作ったトレーナーさんは私を席へと先導する。他の人はお嬢様だけだけれど、特別サービスなのかな、と疑問が浮かび。
「あとこれはささやかな豆知識ですが、名前がわかるならば呼ぶように、と言いつけられています。」
口に出す前に解消される。流石トレーナーさんだ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「このケーキを1つお願いします。」
椅子に座り、問われたソレにすぐに返答する。予め決めておいてよかった。
「かしこまりました。少しだけお時間をいただきますね。」
穏やかに言い残し、トレーナーさんが厨房へ。
105ガンギマリ頭スズトレ21/10/29(金) 21:56:59
「おまたせしました。ご注文になられたケーキです。」
数分後、その言葉と共にトレーナーさんが机にケーキを置く。その所作はまるで本物の執事のようで、昨日の言葉を思い出す。
そんな風に回想に耽りながらも、とりあえず一口。
瞬間、口の中が濃厚な甘さで満たされる。
「…!美味しいです!」
「そうですか、それはよかった。」
飛び出た私の言葉に対し、トレーナーさんはそう嬉しそうに語る。
「何かあったら申し付けください。すぐさまに対応しますので。」
「あ、それなら1ついいですか?」
「はい、お好きに仰られてください。」
「…はむっ。世間話しませんか?敬語のトレーナーさんと話すの、滅多にない機会だと思うので。」
「…それなら喜んでお受けしますよ、スズカお嬢様。」
そこからはしばらく談笑が続いた。いつもするような話でも新鮮に感じる、とても楽しい時間。
ただそんな時間もケーキがなくなるまで。
最後に残ったイチゴを名残惜しく口に運ぶ。
「ご馳走様でした、とてもおいしかったです。」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると厨房で働くものたちも喜びますから。」
食べ終わった以上、ここにいる理由はもうない。お客さんも他にたくさんいる。大人しく退席しよう。
そう腰をあげようとした時だった。
「…ところでスズカお嬢様、まだお腹は空かれてますでしょうか?」
「…はい、一応…」
「なら、こちらも。」
その言葉と共にに出されるのは二色のクッキー。その色は…
「これ、私とトレーナーさんの毛色…」
「はい。スズカお嬢様のためだけに作った、特別サービスというものです。
…これでもう少し、話が続けられますね。」
「…そうですね、話しましょう!まだまだ、いっぱい!!」
──2人の逃亡者の、いつもと異なる会話はまだまだ終わらない。
≫114二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:07:22
2話 止まる足
「やっぱり…俺は…」
マーチが中央で掴んだ初めての一勝、その次のレースも無事勝利する事が出来た。
そして、その流れに乗り、初の重賞に挑んだのだが…
『2連勝中フジマサマーチ!少しずつバ群に飲まれて行く!流石に厳しいか!?』
ハイペースで進んだレースにスタミナが続かず、最後は7着。マーチの初の重賞は苦い結果で終わってしまった。
「…いや、大丈夫だ。俺は出来る。マーチを信じて、自分も信じる、そう決めたじゃないか。
解決法もわかっている、もう失敗はしない。
こんな所で終われないし、終わらせない。」
そう言いながら資料をしらみ潰しに漁って行く。
ウマ娘になってから経験した初めての敗北。
それは自分で思っている以上に、俺を焦らせていた。
「やっと前に進めたんだ…俺は諦めないぞ…」
そんな事をして数日が経過した。
115二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:08:08
「────!────!」
誰かの声が聞こえる。大切な人の…声。
「───おい!しっかりしろ!トレーナー!」
不意に意識が戻る。
「へっ?マーチ?」
「よ、よかった…トレーナー、いま何をやっていたかわかるか?」
「何ってそれは…見ればわかるだろ?いつも通り情報をかき集めて…」
そう言って周りを見ると、
ギリギリまでレースの情報が書き込まれたノートが山積みにされていた。
「は?何だこれ。」
「…貴様はさっきまで気絶しながらずっとこれを書き続けていた。
一体何日そんな事を…いや今は違うな。一旦保健室に連れて行くぞ。」
…ただの夢と思っていたがあいつが言ってたチカラってこれか?…いや、そんなことよりも、
「待てマーチ。俺は調べないといけない事が沢山ある。まだここを離れる訳には…」
「貴様…またそんな事を言って、」
「大丈夫だ、俺を信じてくれ。次は絶対に勝つ。だから…」
そう言って立とうとした瞬間…
「へ?」
ぐにゃり。視界が歪む。
「!?トレーナー!」
俺はそのまま意識を手放した。
117二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:08:57
…脚が重い、前に進まない。
目の前にマーチが居るのに、支える事が出来ない。
…マーチが暗闇に向かって歩き始める。
まってくれ…俺はまだ…君に何も、
「──何も、してやれていない!」
「お、起きたか。」
すると目の前にはオグトレさんが居た。
「あ、あれ?ここは?」
「保健室だ。お前さん、資料室で倒れたんだよ。
マーチが血相変えて助けを呼びに来たからびっくりしたぞ。
あんまり担当に迷惑はかけるもんじゃない。」
「も、申し訳ない…えっと、それでマーチは?」
「…先に帰ったよ。」
「そうか…それなら良かった。」
「…一つ伝えなくてはならない事があるんだが…大丈夫か?」
「…オグトレさん?改まってどうしたんだ?」
「少し、難しい話でな…」
「いや、それは僕から伝えますよ、オグトレさん。」
その声の方に目を向けると、
「話すのは初めましてだね。君なら知っていると思うが…自己紹介は必要かな?」
「…いや、あんたの言う通り、知ってるから大丈夫だ。シャカトレさん。」
『三冠に最も近いウマ娘』エアシャカール。
ロジックによる絶対的な勝利を追い求めるウマ娘。そんな彼女と三冠獲得への完璧な答えを探し続けるトレーナー、それが彼だ。
「それならさっさと本題に行くとしましょうか。
マーチトレさんの身体に一体何が起こったのか、それを説明します。」
118二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:09:34
シャカトレさんが言うには、俺のウマ娘としての能力が弱まっているらしい。
一つ例をあげるなら、身体能力の低下。
低下と言っても人の時よりは高いわけだが、確かに少しだけ力が入りにくい気がする。
原因は…多分だが、夢であいつが言っていたチカラ。それの使い過ぎだろう。
「…状況の理解はなんとか出来た。それで、俺はどうすればいい?」
「飲み込みが早くて助かります。
今後マーチトレさんは、出来る限り身体へ負荷をかけないようしていれば、問題ありません。」
「簡単に言えば、無理をするなって話だ。」
「無理をするな……すまない。それはできない。」
「…その理由は?」
「今は少しでも情報が欲しい。出来る事は何でもしておきたいんだ。次のレースを…絶対に勝つ為に。」
「…別に強制はしませんが。最悪、トレーナーを続けることすら出来なくなりますよ?」
「…トレーナーを?」
「ウマ娘の身体能力だけを全てを失う…それで済めばいいです。
ですが、基本生活に支障が出るレベルまで失ってしまう可能性だって十分にあります。
何が起こるかは確かにわかりません。ですからこれは最悪の可能性ってだけです。
ですがその可能性はロジカルに考えれば確かに存在します。
そして、今、無理をすると言う事はその最悪の可能性を自ら手繰り寄せているのと同意義です。」
「それは…」
119二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:10:05
「ですのでとりあえず、今日から数日ほど、休みを取ってはいかがでしょうか?
調べてみた結果、一時的なもののようですし。」
「だな。マーチトレ、お前さん最近働き詰めで碌に休んでいないだろ。
いい機会だ、しっかり休んでこい。」
「…わかったよ。そうする。マーチのトレーナーが出来なくなるんじゃ元も子もないからな…」
「はい、それが一番いい選択だと思います。
もう動けはすると思うので、今日は家でゆっくり休んでいただければ。」
「わかった。シャカトレさん、オグトレさん、迷惑をかけた。助けてくれてありがとう。それじゃ。」
「ああ、またな。」「お気をつけて。」
俺は焦る気持ちを抑え、急に出来た休暇をどう使うか、考えながら家に帰った。
120二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:11:05
「…にしても、シャカトレ。
お前さんがただのウマ娘化したトレーナーをみるなんて、一体どういう風の吹き回しだ?」
「ただ単に気になっただけですよ。
これまで勝つ事が無かった地方ウマ娘が、トレーナーがウマ娘化した途端、いきなり勝つようになったんですから。調査すれば新たな発見があるかもって思いませんか?」
「それで、お前さんの言うロジックで何かわかったのかい?」
「いや、全く。身体はウマ娘になっていましたが、それだけ。確かに思考への影響も少しあるみたいですが、あの程度でレースをどうこう出来るとは到底思えません。」
「まぁ、そうだろうな。彼が勝てたのは単純に努力の成果だ。」
「おかげで今回は完全に無駄足でしたよ…ま、それでも良しとしときますが。」
「それはなぜか聞いても?」
「…ああやって、何かを必死に追いかけている人は、嫌いじゃないってだけです。」
≫145二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:28:22
こんばんは!私、ナリタトリエステです。
私は今何をしているかというと…
「うう…暗いなぁ…」
ライトを片手に歩く私。寮の夜間巡回を手伝っているのです。
「そういえば幽霊騒ぎがあったとか…幽霊なんていないはず…多分…きっと…メイビィ…」
ドン!
「ヒィ!なんですか!」
物音が後ろからしたため、恐る恐る振り返る。
その先をライトで照らすと…
…積み上げられたダンボールが崩れていた。
「…幽霊なんかじゃない、風で倒れただけ…」
そう言い聞かせるようにして恐怖を和らげる。もう一度前を向いて歩き出した途端、
ガタン!ドン!
「ピィ!」
もう一度振り返る。ダンボールは更にグチャグチャになり、一部は開いていた。
「もうやだよ…!帰りたいよぉ…!」
涙目のままで身体を縮こませる。はっきり言って怖い。
「幽霊さん…何もしないで…」
何かが近づいて来てる気がする。私に向かってきている。
ほら、私の横に…
ペタッ
(今、何かに触られて…それって、ゆうれい?)
それを知覚した瞬間、私は
「きゅう…」
思わず気絶したのだった。
146二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:29:29
「…あれ、あの子なんで気絶してるんだ…?」
「…もしかして例の幽霊騒ぎか、ふむ…」
「とりあえず寮の管理室に連れていくか…」
ーーーその後、起きた時にはたまたま巡回担当のファイトレさんと何故かいるカフェ(ケツ)トレさんが横にいました。
駄文失礼しました
夜のナトリちゃんです。巡回の手伝いしてました。
例の騒ぎを起こしているのはつまりあの子…
≫157二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:36:34
『絶対に許さない』
血で書かれたような手紙がひとつ。
いちいち指を切って、
せっせせっせと書いたのだろうか。
「はぁ……物好きもいるもんだ」
そう言ってその紙を畳み、仕分けを再開する。
ウマ娘が人気になればなるほど
アンチというものは増えていく。
先日のエリザベス女王杯二連覇
という偉業のせいか、
今やドーベルの人気はうなぎ登りだ。
ファンレターもずいぶんと増え、
それを見たドーベルも嬉しそうに笑う。
まあ、言ってしまえば
トレーナーというのは担当を守るもので
悪質な手紙や贈り物などに対処しなくては
ならないのだ。
正直、面倒なことこの上ないが
人気にならなければ何もないのだ。
「嬉しい悲鳴だよ、全く……」
結局、今日も十分に寝られなさそうだ。
そう思いながら、苦笑する。
オレは笑顔を守るため、働くのだ。
これぐらい、どうって事はない。
158二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:37:03
「くぅ〜っ、やっっっっと終わったあああ……」
時刻は夜10時。さすがにもう帰らねば。
「あとは、このゴミどもを片付けてっと、
……ファンレターだから
無闇に捨てらんないんだよなあ……」
なんであろうとファンレターはファンレター。
捨てるとドーベルが怒るのだ。
「捨てるなんて信じらんない!!!」
あの時は、はちゃめちゃに怒られた。
半日も口を聞いてくれなかった。
「はぁ……、ありゃ」
カラカラと腕の中から滑り落ちる。
「メモリーカードだあ……?」
シールが剥がれたSDカード。
おそらく手紙の中に同封されていたのだろう。
題名のないカード。
その時、怖いもの見たさで
パソコンに差し込んだのが、
全ての始まりだった。
159二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:37:38
ピロン
ピロン
ピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロン
画面が一瞬で真っ赤に染まる。
「何だ!?」
気づいた時にはもう遅く、
自動的にファイルが展開されていく。
「ハッキングって、ウソだろ!?」
羅列する無数の数列。
何百行ものコードの数々。
「クソッ!!止まれ!!止まれって!!」
こちらも抵抗を試みるも、時既に遅し。
あっという間に乗っ取られていく。
「これで!!なんとか!!!」
思いきってLANコードを引き抜く。
もう、データの消失など頭になかった。
「……止まった……」
幸い、ハッキングツールは埋め込まれて
おらず、パソコンはシャットダウンした。
しかし、
『みつけた』
一瞬だけ、画面が光った。
血の気がスーッと引くのを感じる。
直感的に、分かってしまった。
「…………特定出来ましたよ、ってか…………」
160二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:38:10
すぐさまオレは屋敷から離れた。
できるだけ遠く、遠く、より遠く。
ヤツはオレを追ってくるハズ。
オレを、殺しにくるハズ。
もはや冷静な思考はできなくなっていた。
「あん時の復讐……このタイミングで!!」
あのままの場合、
メジロの者達に被害が出ると考えたオレは
とにかく逃げた。
確実にヤツはドーベルを知っている。
最悪の場合を想定し、吐きそうになる。
「クソックソッ!!これからって時なのに!!」
とにかく、
居場所を知られる訳にはいかなかった。
存在を知られる訳にはいかなかった。
そうしてオレは『嘘』を、ついた。
161二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:38:39
「離して……ください……」
「お前は、オレがここで殺す」
ギリギリと、万力のように首を締める。
オレはいい。罪に対する当然の罰だ。
だけど、
「ドーベルに手を出す前に、始末する」
罪のない彼女が狙われるのは違う。
またオレのせいで彼女が、曇ってしまうのは
最も耐え難いモノのように思えたから。
最も度し難い、悪だと感じたから。
「……よ、く………見て……ぁ……っ……」
震えた女の腕の先に
先程の画面が白く輝く。
「私……じゃ、な…………ぃ……」
乱雑に彼女のスマホを見る。
そこには、
知らないユーザーの投稿がひとつ。
『あのトレーナーの正体は殺人鬼だ』
『メジロドーベル トレーナー 殺人』
オレの昔の写真と共に投稿された
別人が書いた文章だった。
162二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:39:18
「ごめん……ごめんごめんごめん………!!」
「……ヒュ、ぐ、は……がっ、っ、はぁッ、はぁっ……はぁ……ぅ、」
すぐさま手を離す。
本気で締めたせいか、スペトレの口は
ぱくぱくと酸素を求めるように喘ぐ。
「スペトレ……ごめ…………んなさい……」
何をやっているんだオレは。
コイツが、誰よりも出来た人間のコイツが
そんな事する訳がないって、
どうして気づかなかった。
「はッ、ング……くはッ……謝らないで…………ッ
ドベトレさん……」
苦悶の表情を浮かべながらも、
彼女はオレに笑いかける。
「……あ、ああ……」
「……本人がいる前で、はぁっ……
こんなことした……私も、悪い……ですから」
またオレは、
大事なモノを壊してしまいそうになる。
もう、ここには居られない。
と、その時
ピロリン、ピロピロリン♪
「……一緒に、入りましょうか」
「そんな、オレは、もう……」
「入ってくれれば、全てを、話します」
スペトレの目がオレを射抜く。これは本気の目だ。
「……分かった。……ありがとう」
首を縦に振る。
そうして、オレ達二人は浴室へと、向かった。
163二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:39:48
「あなたと私は、同級生だったんですよ」
「………………」
スペトレの過去に耳を傾ける。
初めは、
オレにそっくりな誰かだと思っていた。
だが、話の最後にあった『無彩色の瞳の男』。
これが決め手となった。
「…………ああ、オレだ。オレが殺った」
今までの罪を白状する。
嘘をついてみんなの家に行ったこと。
一人暮らしは出来なくはないこと。
そして、
自身が過去を隠して生きてきたこと。
「…………軽蔑、しないんだな」
「……あなたのは冤罪だってこと、
その人柄を見れば分かりますよ」
「…………」
浴槽に、向かい合わせの形で入る。
ちょうどオレの視線の先に
首についた痛々しい痣が映る。
「この傷跡だと…………
明日は仕事休まなきゃなあ」
苦笑して、傷を撫でる。
その姿に、心が、痛む。
「…………本当に、なんて謝ったらいいか……」
罪悪感で押し潰されそうになる。
自己中心的な正義感が、
とてつもなく、恨めしくて。
164二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:40:34
「……………あああっ!!もう!!!!」
スペトレが突然浴槽から立ち上がる。
「いい加減……!!向き合えって!!!!」
怒号。いつもの姿からは想像もつかない
本気の怒り。
「5年もたって、
冤罪だって分かりきってるのに、
どうしてそんなにウジウジしてんだよ!?」
口調が途端に悪くなる。
おそらく、これが本来の『彼』なのだろう。
「あの時、突然居なくなって!!
町のみんなが『死んだんじゃないか』って
めちゃくちゃ心配してたんだぞ!!!」
「今更……合わせる顔なんて……」
「……ッ!相手は人質を殺そうとした!
それをお前は守った!相手は拳銃!お前は素手!
『無罪』なんだよ!!とっくのとうに!!」
「オレは!!殺意をもって殺した!!
6人もだぞ!!許される訳ねえだろ!!」
堪えきれず、自身も対抗する。
言われっぱなしで無性に腹がたったのだ。
「全部全部、オレのせいなんだ、オレが、何もかも……」
「お前がいなきゃ、その時あの娘は
死んでた!!なんで分からないんだよ!!
あの娘だって心配してたに決まってる!!」
スペトレは本気で怒ってくれている。
誰かのために泣いてまで叱ってくれる。
そんなコイツに、オレは───────