第1章alpha:ウマ娘化・マックイーン視点
10月末。
わたくしは菊花賞でライアンに敗北。最後少し、ほんの少しだけ追いつくことが出来ず、2着となりました。
後悔はありません。全力でぶつかり合い、そして敗れた。ライアンのクラシックへの思い、そして鍛錬にわたくしは届かなかった。ならば、これから追い越すだけのことと決めたのです。
負けた直後は、わたくしもトレーナーさんも少しだけ後ろ向きになってしまかけましたが、色々お話して、共にしっかりと前を向くことが出来ました。これから春、そしてその後の秋まで、二人三脚で天皇賞の勝利を目指す。意志を堅固にして邁進いたしましょうと。
わたくしは菊花賞でライアンに敗北。最後少し、ほんの少しだけ追いつくことが出来ず、2着となりました。
後悔はありません。全力でぶつかり合い、そして敗れた。ライアンのクラシックへの思い、そして鍛錬にわたくしは届かなかった。ならば、これから追い越すだけのことと決めたのです。
負けた直後は、わたくしもトレーナーさんも少しだけ後ろ向きになってしまかけましたが、色々お話して、共にしっかりと前を向くことが出来ました。これから春、そしてその後の秋まで、二人三脚で天皇賞の勝利を目指す。意志を堅固にして邁進いたしましょうと。
それにしても最近、トレセンで妙な事が起きているとのこと。なんでも、ヒトがウマ娘になってしまうと。実際、ナリタタイシンさんやシンボリルドルフ会長のトレーナーがウマ娘になっているのをわたくしも目にしました。既に数人にその現象が起きており、問題の解明もできていないとのこと。一刻も早くこの問題が解決し、皆が本気でレースに挑めるようになると良いのですが。
さて。
いつも通りトレーニングを終え、寮に帰ろうとしたとき。
女神像の前で、険しい顔をしているトレーナーさんが居ました。
女神像の前で、険しい顔をしているトレーナーさんが居ました。
「どうしました?」
「......おっと、マックイーンか。いや何、少し考え事をしていただけだよ」
「一体どんな?」
「あー......そうだな、菊花賞についてな」
「......そんなわけないでしょうに...」
「えっ」
「......おっと、マックイーンか。いや何、少し考え事をしていただけだよ」
「一体どんな?」
「あー......そうだな、菊花賞についてな」
「......そんなわけないでしょうに...」
「えっ」
どうやら思ったことが口に出てしまったようで、トレーナーさんは少し面食らった顔。ならば、このままわたくしの思いを伝えましょう。
「ええ、そんな訳が無いでしょう。あなたはわたくしのトレーナー、天皇賞を制するまで二人三脚で走り抜ける、あの後にそう決めたではありませんか。だから、あなたが菊花賞について気にしている筈はありません。きっとなにかほかの事で悩んでいたのではなくて?」
と。
勢いで、思っていたより多く言ってしまいました。
すこしきつい言い方をしてしま──
勢いで、思っていたより多く言ってしまいました。
すこしきつい言い方をしてしま──
「そうだ。すまんマックイーン。嘘をついた」
「ええっ!?」
「ええっ!?」
想定外の返答に、今度はわたくしが面食らった顔をしてしまいました。
「少しな、不安になったんだ。俺はお前の速さについていけるかどうか。俺に何が起きても、俺はお前を支え続けられるのか。お前の背中を見続ける木偶の坊のようになったりしないかって。だけど、そうならないように努力して、お前を支え続けるのが俺の仕事だ、そんな弱音を吐いていられるか、そう噛み締めていたところだったんだ」
「そ、そうでしたか...」
「そ、そうでしたか...」
トレーナーさんはそう、険しい、いや、凛々しい笑顔で言いました。それなら心配する必要はありませんでしょう。ならばわたくしも、同じように覚悟を示すのみ。
「ええ、そうですね。わたくしも決して諦めることはありません。何があろうと、共に天皇賞まで駆け抜けましょう!」
「──ああ!」
「──ああ!」
「ところで。先程わたくしに嘘をつきましたわね?」
「うっ」
「そう言えば近くのレストランで今、期間限定でダイエットスイーツのキャンペーンをやっているそうなのですが......」
「わかったわかった、一緒に行こう」
「うっ」
「そう言えば近くのレストランで今、期間限定でダイエットスイーツのキャンペーンをやっているそうなのですが......」
「わかったわかった、一緒に行こう」
そんな話をしながら、わたくしとトレーナーさんは学園を後にしました。
次の日。
「マックイーンさん!」
凛々しいイクノさんの声でわたくしは起こされました。
「んん......なんでしょう......」
「ちょっと、起きて玄関まで行ってください!すぐ!」
「ちょっと、起きて玄関まで行ってください!すぐ!」
すべすべしたその手に引かれ、寮の入口まで連れていかれたところに、見知らぬウマ娘が1人立っていました。身の丈にしては少し大きな気がするジャージのウマ娘が。
「あの、どちら様で」
「俺だマックイーン。お前のトレーナーだ」
「はい?」
「俺だマックイーン。お前のトレーナーだ」
「はい?」
寝ぼけ眼に映った彼女は続けました。
「最近トレセンのトレーナーがウマ娘になったりしているだろ?その話で、トウカイテイオーのトレーナーがウマ娘化する前に会長とオグリキャップの後ろ姿を見たと聞いた。そして昨日、俺が三女神像の前を通った時、頭の中に電撃が走った。お前と、見たことの無いウマ娘が走っていくのを見たんだ」
「ちょっ」
「それを見て、俺に何があってもお前を支えられるか、お前に置いて行かれないか心配になった。だが、それはその迷いを捨て、お前も何があろうと二人三脚で駆け抜けようと言ってくれた。俺は俺がウマ娘になってしまったとしてもその気持ちが変わることは無いと朝一で伝えに来たんだ。あとまあ、トレーニング直前に見せるより動揺が少なくて済むと思ってな。ちなみにこのジャージは昨日急いで用意しておいた。いつ何が起きても、お前のトレーニングに支障が出てはまた嘘をついたことになってしまうからな。お前の心にも芦毛にも迷惑をかける訳には行かないだろ」
わたくしはあまりの情報量にへたりと座り込んでしまいました。
第1章beta:ウマ娘化・マクトレ視点
10月末。
マックイーンは菊花賞でライアンに敗北。最後少し、ほんの少しだけ追いつくことが出来ず、2着となった。
後悔はない。俺は全力でマックイーンを支え、マックイーンは全力でぶつかり合い、そして敗れた。ライアンのクラシックへの思い、そして鍛錬に俺たちは届かなかった。ならば、これから追い越すだけのことと2人で決めた。
負けた直後は、俺もマックイーンも少しだけ後ろ向きになりかけたが、色々話して、共にしっかりと前を向くことが出来た。これから春、そしてその後の秋まで、二人三脚で天皇賞の勝利を目指す。意志を堅固にして邁進しようと。
マックイーンは菊花賞でライアンに敗北。最後少し、ほんの少しだけ追いつくことが出来ず、2着となった。
後悔はない。俺は全力でマックイーンを支え、マックイーンは全力でぶつかり合い、そして敗れた。ライアンのクラシックへの思い、そして鍛錬に俺たちは届かなかった。ならば、これから追い越すだけのことと2人で決めた。
負けた直後は、俺もマックイーンも少しだけ後ろ向きになりかけたが、色々話して、共にしっかりと前を向くことが出来た。これから春、そしてその後の秋まで、二人三脚で天皇賞の勝利を目指す。意志を堅固にして邁進しようと。
それにしても最近、トレセンで妙な事が起きている。ヒトがウマ娘になってしまう現象だ。実際、ナリタタイシンさんやトウカイテイオーのトレーナーがウマ娘になっている。既に数人にその現象が起きており、問題の解明もできていないとのことだ。一刻も早くこの問題が解決し、皆が本気でレースに挑めるようになると良いのだが。
ついでに、俺が様子を見に行った時、テイオーのトレーナーは不思議な話をしていた。
ついでに、俺が様子を見に行った時、テイオーのトレーナーは不思議な話をしていた。
「三女神像を掃除していたら、シンボリルドルフとオグリキャップが走っていくのが見えた」
と。他のウマ娘化したトレーナーからそんな話は聞いていないが、一応気をつけておこうと思う。
思っていた。
思っていた。
それは菊花賞が終わった数日後のこと。トレーニングを終え、トレセンから退勤しようとしていた時。
俺はマックイーンの走りを思い出していた。菊花賞のことはもう引きずらないように決めたとは言え、マックイーンの走りのデータとしては活用すべきである。どのような曲線、どのようなペース、どのような作戦でレースを制するか。映像を見ればもっと鮮明だが、それがなくとも頭の中で考えることは可能だ。
そして最後の直線について、マックイーンの走りを思い出していた時。知らないウマ娘が並走していた。そして2人は、ゴールのさらにその先を目指して走っていった。
俺はマックイーンの走りを思い出していた。菊花賞のことはもう引きずらないように決めたとは言え、マックイーンの走りのデータとしては活用すべきである。どのような曲線、どのようなペース、どのような作戦でレースを制するか。映像を見ればもっと鮮明だが、それがなくとも頭の中で考えることは可能だ。
そして最後の直線について、マックイーンの走りを思い出していた時。知らないウマ娘が並走していた。そして2人は、ゴールのさらにその先を目指して走っていった。
「何だ?」
不思議なことを考えてしまったな、と思ったところで何かにぶつかった。見上げてみると三女神像だった。
数秒考えて全てを理解した。
数秒考えて全てを理解した。
「……ああ、来たのか。俺の番」
自分がウマ娘になる番が回ってきた。そう思った途端、頭の中に様々な記憶が飛び交う。
変なところで歩みを止め、空を見つめるナリタタイシン。血の跡が残るトウカイテイオーのトレーナールーム。獣のような目つきをしたシンボリルドルフ。
変化とは残酷なもので、トレセンからこの現象は色々なものを奪っていった。そして今度は、俺が、俺とマックイーンの今が奪われる可能性が発生した。
俺はあいつを走らせなければ。マックイーンの、メジロ家の悲願である天皇賞、そして初の春秋連覇、そこまで2人で走り抜ける、そう決めたのに。
だが、何にも負けるわけにはいかない。心がどれだけ擦り切れようと、俺はマックイーンを支える。そうすべきだ。すべきなのだが、まるであと一歩を踏み出せないかのように、心が固まってくれない。
変なところで歩みを止め、空を見つめるナリタタイシン。血の跡が残るトウカイテイオーのトレーナールーム。獣のような目つきをしたシンボリルドルフ。
変化とは残酷なもので、トレセンからこの現象は色々なものを奪っていった。そして今度は、俺が、俺とマックイーンの今が奪われる可能性が発生した。
俺はあいつを走らせなければ。マックイーンの、メジロ家の悲願である天皇賞、そして初の春秋連覇、そこまで2人で走り抜ける、そう決めたのに。
だが、何にも負けるわけにはいかない。心がどれだけ擦り切れようと、俺はマックイーンを支える。そうすべきだ。すべきなのだが、まるであと一歩を踏み出せないかのように、心が固まってくれない。
「どうしました?」
その声で我に帰った。マックイーンがそこにいた。
「......おっと、マックイーンか。いや何、少し考え事をしていただけだよ」
「一体どんな?」
「あー......」
「一体どんな?」
「あー......」
不安だった。今何が起きたのか話すのを躊躇った。
「そうだな、菊花賞についてな」
「......そんなわけないでしょうに...」
「えっ」
「......そんなわけないでしょうに...」
「えっ」
一瞬でその嘘は否定された。
「ええ、そんな訳が無いでしょう。あなたはわたくしのトレーナー、天皇賞を制するまで二人三脚で走り抜ける、あの後にそう決めたではありませんか。だから、あなたが菊花賞について気にしている筈はありません。きっとなにかほかの事で悩んでいたのではなくて?」
まず、マックイーンにしては強気だ、と思った。いつもが弱いわけじゃないが、ここまで直球に否定されるとは思わなかった。
だがその理由は明確だった。俺は菊花賞の直後、マックイーンと約束した。二人三脚、意思を堅固にと。マックイーンは、その約束を守っているのだ。一瞬守れないかもと思ってしまった俺と違って。
マックイーンを見て、マックイーンの言葉で、その約束は鮮明に思い出された。それを守らなければと言う、強い意志も思い出された。
ならば、すべきことは自ずと決まる。
だがその理由は明確だった。俺は菊花賞の直後、マックイーンと約束した。二人三脚、意思を堅固にと。マックイーンは、その約束を守っているのだ。一瞬守れないかもと思ってしまった俺と違って。
マックイーンを見て、マックイーンの言葉で、その約束は鮮明に思い出された。それを守らなければと言う、強い意志も思い出された。
ならば、すべきことは自ずと決まる。
「そうだ。すまんマックイーン。嘘をついた」
「ええっ!?」
「ええっ!?」
まずは嘘を謝る。
そして。
そして。
「少しな、不安になったんだ。俺はお前の速さについていけるかどうか。俺に何が起きても、俺はお前を支え続けられるのか。お前の背中を見続ける木偶の坊のようになったりしないかって。だけど、そうならないように努力して、お前を支え続けるのが俺の仕事だ、そんな弱音を吐いていられるか、そう噛み締めていたところだったんだ」
噛み締めていた。そして、マックイーンの言葉で噛み切れた。彼女のおかげで、俺の心が山の如く不動になっていくのを感じられた。彼女が強気なら俺も強気でいなければ。何かを奪うものがあるなら力ずくで跳ね返そう。何かの罠が仕掛けられているなら先を見通してそれを叩き潰そう。そう決意する。俺たちを邪魔するものは、神だろうと悪魔だろうと跳ね除ける。舐めるな、と。
「そ、そうでしたか…ええ、そうですね。わたくしも決して諦めることはありません。何があろうと、共に天皇賞まで駆け抜けましょう!」
「──ああ!」
「──ああ!」
マックイーンにもその覚悟がある。何があろうと決して諦めない意志がある。信じるか信じないかなんて考える必要なはい。とっくに信じる以外の選択肢はない。
「ところで。先程わたくしに嘘をつきましたわね?」
「うっ」
「そう言えば近くのレストランで今、期間限定でダイエットスイーツのキャンペーンをやっているそうなのですが......」
「わかったわかった、一緒に行こう」
「うっ」
「そう言えば近くのレストランで今、期間限定でダイエットスイーツのキャンペーンをやっているそうなのですが......」
「わかったわかった、一緒に行こう」
そうやって、俺たちはトレセンを後にした。
その後。マックイーンと別れて俺が向かったのはホームセンター。
すでに複数人のトレーナーのウマ娘化を俺は確認している。そのため、体格がガラッと変わる、それこそ50cmも縮むなんてことがあると知っている。
ならば先手を打つことができる。いつウマ娘になってもいいように、先んじて服を用意しておくのだ。多少サイズが合っていなくても、運動に大きな影響がなければいい。140cmから170cmまで考慮し、二着のウマ娘用ジャージを購入した。それより大きければ今使えるものを気をつけて使えばいい。万が一ウマ娘化が勘違いであったなら、新品のまま誰かにあげればいいだけの話だ。
下着はサラシをとりあえず買った。下は一日二日なら男物でも大丈夫だろう。大丈夫じゃなくても耐えればいい。
そして隣接のスーパーマーケットで明日朝用のパンを買い、ホームセンターを後にした。
すでに複数人のトレーナーのウマ娘化を俺は確認している。そのため、体格がガラッと変わる、それこそ50cmも縮むなんてことがあると知っている。
ならば先手を打つことができる。いつウマ娘になってもいいように、先んじて服を用意しておくのだ。多少サイズが合っていなくても、運動に大きな影響がなければいい。140cmから170cmまで考慮し、二着のウマ娘用ジャージを購入した。それより大きければ今使えるものを気をつけて使えばいい。万が一ウマ娘化が勘違いであったなら、新品のまま誰かにあげればいいだけの話だ。
下着はサラシをとりあえず買った。下は一日二日なら男物でも大丈夫だろう。大丈夫じゃなくても耐えればいい。
そして隣接のスーパーマーケットで明日朝用のパンを買い、ホームセンターを後にした。
帰宅後、自分の身分証明証を全てわかりやすいところに移動する。ウマ娘化した場合しばらく無用の長物となるが、万が一できたら早めに更新したい。
そして、理事長と理事長代理に今日の三女神像前での出来事と懸念についてのメールを送信。これでトレセンに関しては安心のはず。
あらかた思いつく限りのすべきことを終えたので、最後に高いところの収納に入っていたボックスを下ろして廊下に置き、目覚ましを4時に設定。起き次第即トレセンの寮に向かえるように支度を完了させる。
これで準備は万端。明日朝でも一週間先でも、いつでもかかってきやがれと言う気持ちになる。何だか強大な敵に立ち向かうような気分になって高揚したが、気持ちを落ち着けつつ夕食をとり、9時過ぎに就寝した。
そして、理事長と理事長代理に今日の三女神像前での出来事と懸念についてのメールを送信。これでトレセンに関しては安心のはず。
あらかた思いつく限りのすべきことを終えたので、最後に高いところの収納に入っていたボックスを下ろして廊下に置き、目覚ましを4時に設定。起き次第即トレセンの寮に向かえるように支度を完了させる。
これで準備は万端。明日朝でも一週間先でも、いつでもかかってきやがれと言う気持ちになる。何だか強大な敵に立ち向かうような気分になって高揚したが、気持ちを落ち着けつつ夕食をとり、9時過ぎに就寝した。
次の日。頭の上からけたたましい音が聞こえて身を起こす。
薄紫の髪が肩からはらりと落ちる。いつもより高いところにある窓の外は暗いままだった。
薄紫の髪が肩からはらりと落ちる。いつもより高いところにある窓の外は暗いままだった。
「マジかよ、準備したからいいけど早いな」
ずり落ちた下の寝巻きは気にせず洗面台に向かう。鏡の前に立っていたのはマックイーンによく似たウマ娘。
『何があろうと、共に天皇賞まで駆け抜けましょう』
ここまで似るかと思いつつ、改めて昨日言われたこと、言ったことを思い出す。そしてそれを、今一度言葉に。
「────お前を支え続けるのが俺の仕事だマックイーン。弱音なんて吐くわけもない」
第2章:アウトプットとインサイド。
「最近トレーナーさん口調が変わってきてません?」
「へ?」
「へ?」
日課のティータイムでマックイーンは切り出した。
「結構な頻度で一人称わたくしになってますし、最近わたくしと同じような喋り方になっていますのよ?」
「そうなのですか?......確かにそうで......な...」
「そうなのですか?......確かにそうで......な...」
知らぬうちにマクトレは変化していた。甘いものを好み、令嬢の言葉遣いを嗜む、1人のお嬢様として完成されかけていた。
「なので少し心配なのですが......」
「あー、わかった。なにか思ったら伝えるよ。とにかく今日はトレーニングに行こうか」
「あー、わかった。なにか思ったら伝えるよ。とにかく今日はトレーニングに行こうか」
マクトレは決意していた。何があろうとマックイーンを全力で支えると。その決意にゆらぎはなく、それが揺らぐ気もしていない。
だが、マックイーンに心配をかけてしまうことも良くない。自分とマックイーンの両方が折れずとも、その間の距離が変化すれば二人三脚は瓦解する。
マクトレは自分の変化を心に留めておいた。
だが、マックイーンに心配をかけてしまうことも良くない。自分とマックイーンの両方が折れずとも、その間の距離が変化すれば二人三脚は瓦解する。
マクトレは自分の変化を心に留めておいた。
十数分後。
「さ、トレーニングに行きましょうか」
「え、ええ」
「え、ええ」
2人は共にグラウンドへ向かう。今日のトレーニングは芝の上での走り。慣れるべき環境に慣れつつスピードを上げる訓練だ。
マクトレの頭の中に複数のビジョンが浮かぶ。
ただの走りではなく、臨機応変にルートを選択する訓練もしたらどうか。芝の上にほかのウマ娘を想定した障害物を置きそれを避けるルートを予め考える、インカムで司令して中心からの距離を柔軟に変更する、など。ウマ娘になって何度か走ってみて、今までになかった案が浮かんでいた。
マクトレの頭の中に複数のビジョンが浮かぶ。
ただの走りではなく、臨機応変にルートを選択する訓練もしたらどうか。芝の上にほかのウマ娘を想定した障害物を置きそれを避けるルートを予め考える、インカムで司令して中心からの距離を柔軟に変更する、など。ウマ娘になって何度か走ってみて、今までになかった案が浮かんでいた。
「なあマックイーン、提案があるんだ」
無意識に口が開き、そして気がついた。自分の口調について。
「なんでしょう?」
「インカムを使った訓練だ。俺が目の前に何人並んでいるのを想定しろと言ったら、その抜き方をそっちが考えて走る。いいと思わないか」
「あら、面白そうですわ。一度やって見ましょう」
「インカムを使った訓練だ。俺が目の前に何人並んでいるのを想定しろと言ったら、その抜き方をそっちが考えて走る。いいと思わないか」
「あら、面白そうですわ。一度やって見ましょう」
とりあえず提案を先にして、続ける。今何に気がついたか。
「それともう1つ。さっき言いましたわね、わたくしの口調が不安だと」
「!え、はい。今も変わってますわよ」
「心配しないでくださいまし。気付きましたわ」
「!え、はい。今も変わってますわよ」
「心配しないでくださいまし。気付きましたわ」
なにを、という顔のマックイーンにニヤリと笑ってみせる。
「お前のトレーニングについて、お前の勇姿について考えていると、俺はトレーナーとしての気持ちが昂ってくる。すると前の通りの口調になってる気がするんだ。──そして。そうでないときは少しづつ、あなたに寄ってきている気がするのです」
「なんですのその漫画のキャラクターみたいな設定は!?」
「そうですわね」
「なんですのその漫画のキャラクターみたいな設定は!?」
「そうですわね」
確かに、と思う。だが自分の身に起きていることは実際そうだった。そして、それは幸せな事だった。
「けど、だからこそ安心できるんだ。俺がトレーニング中に俺である限り、お前のために尽くせることに変わりはない。俺は俺であり続けてるって証明になるんだ。だから言っておく」
立ち止まり、親指を立てる。そして真っ直ぐ彼女を見つめる。心の底から大丈夫と。
「心配するなら、トレーニング中にお嬢様になってからだ。それまでは俺の重要な部分は全く変わってないことになるからな」
それを見て、マックイーンもまた凛々しい笑顔で返した。
「......なるほど。ええ、あなたがそう言うなら私もそう考えましょう。それにもしあなたがどこかへ行ってしまったら、私が連れ戻して差し上げますわ。二人三脚、ですものね」
「どこにも行かないさ。さあ、さっき言ったトレーニング、やってみるか!」
「どこにも行かないさ。さあ、さっき言ったトレーニング、やってみるか!」
第3章:めじろ。
ジリリリリ、とアナログな目覚まし時計の音が鳴りました。安らかな眠りの時間が終わりました。
「んん…」
メジロ家の豪勢なベッド、起き上がるのは令嬢、メジロマックイーンです。
「お嬢様」
起きてすぐ、そこにはメイドたちが待っています。彼女の身の周りの世話をするのは彼女たちです。
「おはようございます」
「ええ、おはよう」
「ええ、おはよう」
メジロマックイーンの朝はジョギングから始まります。今日はメジロ家近くの河川敷を一周します。朝の鍛錬はメジロ家の令嬢として欠かせない日課です。
「おう、おはよーさん、マックイーン」
「あら、おはようございます」
「あら、おはようございます」
芦毛のウマ娘が声をかけてきました。ジョギング中によく会うウマ娘です。
「今日もなかなか気持ちの良い朝ですわね」
「そーだな、昨日はあんなにジメジメしてたのに今日は爽やかな気分だ。そんな時は」
「ええ、いつものように」
「そーだな、昨日はあんなにジメジメしてたのに今日は爽やかな気分だ。そんな時は」
「ええ、いつものように」
芦毛のウマ娘とメジロマックイーンは笑いました。
「「あそこの橋まで競争!」」
そして芦毛のウマ娘とメジロマックイーンは走りました。そこそこ広い河川敷ではデッドヒートが繰り広げられ、結局同着となり、二人はそこで別れました。
メジロマックイーンは折り返し地点のベンチで一休みします。休息もまた鍛錬に必要なものです。
「お、今日もいるな、マックイーン」
そこに、栗毛のウマ娘が訪ねてきました。彼女もまた、メジロマックイーンと親密なウマ娘です。どうやら同じようにジョギング中です。
「ええもちろん」
「良いな、毎日変わらなくて。サボりは滑落の一歩目だ、そのまんま行けよ」
「ええ、あなたこそ」
「良いな、毎日変わらなくて。サボりは滑落の一歩目だ、そのまんま行けよ」
「ええ、あなたこそ」
そう長い時間休んでいるわけにもいきません。メジロマックイーンはベンチを後にしました。
メジロマックイーンは帰宅しました。
そこには3人のメイドが待っています。
そこには3人のメイドが待っています。
「お帰りなさいませ、マックイーンお嬢様。毎日の鍛錬お疲れ様でございます。こちらタオルです」
「ありがとう」
「ありがとう」
廊下を歩きながら、洗い立てのふわふわのタオルでメジロマックイーンは汗を拭きます。ふと右を見ると、朝のメジロが鳴いていました。そして、窓にはメジロマックイーンが映っていました。
メジロマックイーンはタオルをメイドに返しました。
「今日もいい乾き加減でしたわ」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「お褒めに預かり光栄でございます」
メイドたちはタオルを受け取り、整列しました。
「我らメイド一同、あなたさまの天皇賞への走り、今日も応援させていただきます」
「ええ。メジロマックイーンは、メジロ家の悲願たる天皇賞、制して見せますわ」
「ええ。メジロマックイーンは、メジロ家の悲願たる天皇賞、制して見せますわ」
メジロマックイーンはにこやかに笑いました。
そして。
そして。
「…けど」
手を振りかざして。
「これは些か悪趣味だな」
右手の窓を、叩き割りました。ガラスは音もなくどこかへ散って行きました。風が "その" 髪をはためかせました。
「ああ。メジロマックイーンは天皇賞を獲る。俺が保証してやる。だから黙ってみてろよ誰かさん」
"それ" は不敵な笑いを浮かべます。令嬢に似合わない野蛮で、何かを嘲笑する憎たらしい笑顔です。
「その程度で何かできると思ったか?俺がどうなろうと変わらず接してくるやつ、俺がどう見えようと俺を知ってくれてるやつ。そして、俺がどう変わろうと引き戻してくれるあいつと、絶対に変わらないと決めた俺。少し役不足だったな、俺の幸運と意志にとっては」
それはあまりにも硬い意志と信用の顕れ。ああ、なんと憎たらしいことでしょう。わたしはこれを幸福に導いてやろうと言うのに。なんと愚かなことでしょう、それを頑なに拒絶するなんて。
「ええ、そう。なら、楽しみにしていてくださいな。それらが力不足になるその時を」
「トレーナーさん?」
「んあ」
「んあ」
マクトレは起きた。トレセンの一角にあるベンチで寝ていたようだった。
「あら、おはようございますマックイーンさん。少し寝ていましたわ」
「あの、これは…」
「あの、これは…」
マックイーンの指差す方向を見ると、壁に少しヒビが入っていた。まるで、マクトレの右腕がそこに思い切り叩きつけられたかのように。
「…気にしないでくださいまし。少なくともわたくしは壁を殴った記憶などございません」
「この状況でそんなこと言うんですの!?」
「この状況でそんなこと言うんですの!?」
マクトレは笑ってごまかした。
二人はティータイムへ、そしてトレーニングへと向かう。変わることのない、熱く硬い意志をその胸に宿しながら。
二人はティータイムへ、そしてトレーニングへと向かう。変わることのない、熱く硬い意志をその胸に宿しながら。