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目次
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part826【TSトレ】
≫23二次元好きの匿名さん22/09/04(日) 02:51:28
「こんなに月が青い夜は〜♫」
「おーマクトレ上手いな」
「お嬢様っぽい」
「お嬢様(のトレーナー)なんですわぁ…」
「マフィアの人になってるぞ。で、モブトレは満足…してそうだな」
「ひっぐ…んぐぅ…最高…尊い…」
「バラティエを出た時よりも泣いてる…」
「急に足掴みながらこれ歌って!!って言われた時は泣いてましたわね…テイトレが」
「うっせぇ!怖かったんだもん!」
「どうどう。んじゃこれで用は終わりか?」
「ンヒィグ…後ブラトレとテイトレとフクトレこれ歌って…」
「欲望が深い」
「しかもこいつ俺達の荷物掴んでるからお願いじゃなくて命令だぞ」
「…まぁ別にいいけどさぁ」
「一番近くにいる君に、一番隠してた〜♫」
「どんどん高くもっと高く〜♫」
「夢にまで見たような世界は〜♫」
「三人とも上手ですわね…モブトレ?」
「ピーンときた!みんなアイドルにならないか!?」
「「「「!?」」」」
「マクトレは気丈でありながら高嶺の花を思わせる気品溢れる歌声で!ブラトレは初心だからこそ出せる純粋さで!テイトレはあえて痛みを見せる事で健気さを!フクトレは普段とは逆に明るくノリの良さを見せてギャップを!イケる!イケるわ!!私がみんなをシンデレラにしてみせる!!」
「コイツ頭が終わっておる!」
「お前はプロデューサーじゃなくてトレーナー!目を覚ませ!」
「大丈夫!大丈夫!!そうと決まれば蒼ファルトレやウラトレさん、理事長達に伝えないと!!」
「やめろそれはマジでやばい」
「止めろ!誰か当て身しろ!」
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part827【TSトレ】
≫10ちびハヤウマソウル概念22/09/04(日) 22:35:17
『鮮やかなソラ』
「名前か……」
最近は毎日夢の中であの子と話すのが日課となっている。そして、昨日こんな事を言われた。
「僕ね、名前が欲しい!」
確かにいつまでもあの子とかこの子とかウマソウルの子とかじゃ分かりづらいのも事実だ。でも名前となると難しい。そんな事をトレーナー室で考えているとハヤヒデが話しかけてきた。
「うんうん唸ってどうした、悩み事か?」
「いや、あの子が名前欲しいって言い出してな。ちょっと考えてた」
「名前か……確かに難しいな」
「だろ?そもそもどっから考えたら良いやら。せめて向いてる走り方とかがあれば参考になるんだがなあ」
しばらく試してはいるのだが、自分の適性は全く不明だった。分かるのは身体が出来てからだろう。
「ふむ……ならば、逆に未来を感じさせる名前にすれば良いのではないか?」
「というと?」
「つまり、能力が分からないのならば、未知なる可能性を示唆する名前ならどうか、という事だ」
「なるほどな、それはありだ。とすると、可能性を表す物……ソラとかどうだ。広がりがあるし、自由そうだし、空を駆けるとかの表現もあって良いと思うんだ。髪も薄い空色だしな」
「良いじゃないか。ソラは良しとして、あとは……」
「ハヤヒデはなんかいいアイデアあるか?」
「そうだな……もしトレーナー君が嫌じゃなければ、ソラハヤヒデ、なんてどうだろうか」
11ちびハヤウマソウル概念22/09/04(日) 22:35:30
「えっ?」
確かに俺と一番近いウマ娘はハヤヒデだ。だが、その名前を一部でも貰うというのは……
「……駄目、だろうか」
「いや、駄目って訳じゃないんだが……いくら別人格とはいえ俺の一部だぞ?良いのか?」
その問いに、ハヤヒデは少し恥ずかしそうに、しかしはっきりと答えた。
「私は、トレーナー君に名前を使ってもらっても全く構わない。……大切な人に自分の名前を使ってもらえたら嬉しいだろう?」
予想外の言葉が出てきた。ハヤヒデの大切な人、か……
「なあハヤヒデ。俺は、ハヤヒデの大切な人に値するだろうか」
「私は、大切ではない人をトレーナーに選んだりはしない。……後は答えなくても分かるだろう?」
そうか。俺はハヤヒデに大切だと思ってもらえるのか。……嬉しくて、少し舞い上がりそうになる。
「ハヤヒデ、顔が少し赤いぞ?」
「トレーナー君も少し赤くなっているぞ」
二人で軽く笑いあう。
「それじゃ、名前は決まりだな。大切な人へ愛を込めて!」
「随分とロマンティックな言い方をするじゃないか」
「たまには良いだろ?こういうのも」
ソラハヤヒデ。それが、俺の半身に新たに与えられた名前だった。
「あの子が気に入ってくれると良いな」
「それはもう完全に親の心境じゃないのか?」
「ならハヤヒデも親だな」
──この日、少しだけハヤヒデとの日常が鮮やかな空色に染まった気がした。
「よし、起きろ!」
『んー、どうしたの?』
「名前が決まったぞ。ハヤヒデと一緒に考えた、とっておきのプレゼントだ」
『ほんと!?やった!』
「君の名前は──ソラハヤヒデだ!」
≫102二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 21:58:18
おばあちゃんとまごむすめ
「こ、っこここんにちわ!!」
「まあまあ、こんな山奥によく来たのじゃ。他の子たちはどこなのじゃ?」
「い、いまはえっと……車で買い出しです!!」
「ワシが行くからいいと言ったのじゃがな……仕方ない、ほれ。早く上がるのじゃ。暑かろう?」
「お、おじゃましましゅ!」
蝉がまだまだ鳴く8月。山の中にあるギムトレの家に、ウオトレやウオッカが訪ねてきました。
ウオシスは真っ白なワンピースに身を包み、大きな麦わら帽子をかぶっています。この前、ギムトレが編んであげたものです。
一方のギムトレは空色の着物に8部丈の黒柿色の袴です。琥珀の波打つ髪はポニーテイルにまとめられていまして、乳白色のうなじが露出していました。お人形さんみたいにちょこんとしていて、とても愛くるしいです。
「わあ…!!」
扉をくぐり抜けると、そこにはウオシスにとって目を見張る光景が広がっていました。それは、ギムトレの家の中です。
丁寧に、丁寧に長年の手入れを欠かさないお陰で、梁の一つでさえ飴色に艶めいています。壁に立てかけられた農機具や、ガスに置き換わってもなお健在のかまどに羽釜、隣に置かれた薪やステンレスの流し台一つ一つに、長い時間を共にした安心感のような、そんなものが感じられます。
ここまで綺麗で、帰りたいと思える家はそうそうない、そう思えてしまうほどに美しかったのです。
「丁度昼ごはんの準備をと思ったところなのじゃ。何が食べたいのじゃ?」
「親父さんやウオッカさんはガッツリしたものが食べたいと言っていましたが……」
「ガッツリ…了解じゃ。なら唐揚げにするかの」
そこでくつろいでおくのじゃと囲炉裏のそばにい草で編まれた座布団を置き、雪駄を履いて冷蔵庫からいくつかの材料を取り出すギムトレを見て、ウオシスも土間へと降りてきました。
103二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 21:58:54
「おや、ゆっくりしておいてよかろうに」
「私も手伝います!」
「それは助かるのじゃ。畑から三つ葉と大葉、それから軒下のところに干してある玉ねぎを多めに持ってきて欲しいのじゃ。10人分ほどじゃな」
「了解です!」
ザルを渡してもらったウオシスは、教えてもらったように庭へ向かうと、綺麗な畑がありました。青々と伸びるきゅうりや、真っ赤に輝くトマト、ツルを伸ばすズッキーニが元気すぎるくらいです。
「えっと、これと、これ」
言われたように大葉と三つ葉をハサミで切り取り、ザルに入れます。そのまま縁側の玉ねぎを取り、土間へと戻ると、既にギムトレは鶏肉を切りながら、鍋で出汁をひいていました。
「ただいま戻りました」
「おかえりなのじゃ。…うむ、いい選別眼じゃな。後でお駄賃じゃの」
「いえ…そんな」
「それじゃあ、そこの流しで野菜たちを洗って欲しいのじゃ。…あ、オクラ、とってくるのじゃ」
とてとてとて、出ていくのを見送った後に蛇口をひねると、きいんと冷たい水がよく流れ出てきました。夏なのに手がかじかみそうです。
入り口の扉にはホースがかけてあったので、これで打ち水をするのかもしれません。
「よいしょ、よいしょ」
手にいっぱいのオクラととうもろこしを抱えてギムトレが戻ってきました。
「わあ…こんなに」
「皆に食べてもらうために作っとるのじゃからな。遠慮はなしじゃよ」
たちまち色とりどりの野菜が流し台に登場しました。それをギムトレはすらすらと調理していきます。
きゅうりは半分をトマトと一緒に氷水につけ、もう半分を斜めに切って浅漬けに。冷蔵庫から取り出したネギはみじん切りにしてネギ塩ダレに。オクラの板摺りをすますとさっと湯がいて醤油と鰹節で和え、残った湯にとうもろこしを入れて蓋をしました。
104二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 21:59:42
野菜を洗っていたウオシスが見惚れるほどに流麗なその手際は、一朝一夕では手に入らない、長い長い年月の積み重ねで、それをまるで子供のウマ娘がするのですから、不釣り合いで、しかし様になっていました。
「レモンレモン…あったのじゃ」
今度は冷蔵庫からレモンを4、5つ取り出したギムトレは、プラスチックの緑色のボウルに果汁を絞り入れますと、塩胡椒、味の素、ちょびっとお砂糖を入れて、そこに大きめの一口大に切った鶏肉を入れました。
「こうすれば、レモンの苦手な子でもパクパク食べるのじゃよ。おばばの知恵なのじゃ」
「なるほど…でも、初めから漬けるなんて知りませんでした」
「ちなみに、今は唐揚げにレモンをかけると怒る時代らしいのじゃ」
おどろおどろしやとばかりに笑う彼女を見ると、何だかとても安心できます。
「とうもろこしも上がるまでにもう少しかかるし、茶でも飲むのじゃ」
ウオシスに縁側で涼んでいるよう言うと、やかんでたちまちお湯を沸かし、やかんごと別のタライの氷水に置いて冷やして、水出しの緑茶を出してくれました。
「茶菓子がなくて申し訳ないのじゃ」
「いえ、大丈夫ですよ」
冷たい緑茶はほんのり甘くて、緑の香りが鼻を抜けていきました。どこかで飲んだ、懐かしい味です。
「美味しい…すごく美味しいです」
「うむ……少し失敗じゃな」
「そうですか…でも、とっても美味しいですよ!」
「ならばこちらも嬉しいものじゃ」
足元には同じく、水を張ったタライが。高い高い空には、もくもくと入道雲がこちらを見守るように昇っています。
「なんだか…とっても懐かしくなります」
「ふふ。誰も皆、そういうのじゃよ。誰かの家にはなれずとも、誰かの安息の地にはなりたいと、ずっとそう思ってきたからの。お盆には、家に帰るのじゃ?」
「…………いえ」
きっ、と目が氷点下まで下がりました。しかしそれを感じ取ったギムトレは、湯呑みを置いた彼女の肩をくいっと引くと、頭を優しく撫でました。
「話したくないのなら、それでいいのじゃ。おばばも、悪いことをしたのじゃ。……じゃが、寂しくなったら、いつでも帰っておいで。なあんにも無くても、ここは皆の家じゃからな」
彼女からは、微かに甘い香りと、お線香と、木と土の香りがして、つい胸を締め付けられて、彼女へ抱きついてしまいました。
「よしよし。満足するまでこうしているといいのじゃ」
105二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 22:00:05
それからしばらく経って、丁度買い物を終えた親父や202、Vにウオッカ、ギムレットが帰ってきました。ぽんぽんと彼女の背を叩いて起こしてやると、おでこが少し赤くなっていました。
「こんにちは、ギムトレさん。私の方のギムレットもそう言ってますよ」
「こんにちはっす……です」
「ウ、ウオッカです!ギムレットさんにはいつもお世話になってますっ!」
「俺はV。ハードボイルドなサブトレで痛っ!?」
「バカヤロウ!お前そんなのが許されるわけないだろ!?」
「元気そうで何よりじゃ。そんなに硬くならんでもいいのじゃ。せっかくの休みも楽しめないじゃろう?」
「な…ならお言葉に甘えて」
「今はこんなちんちくりんなのじゃ。そう緊張するとくつろぐのも難しくなるじゃろうし、早く上がるのじゃ」
タライから足を戻して雪駄を履き、「ウオッカ、俺についてこれるか!?」「望むところっす!!」と裏山へ走りに行ったのを見て、多めに作っておいて正解と思いつつキッチンへ戻ります。
「アイスと、お菓子たちです」
「うむ、ありがとうなのじゃ、親父さん。……で、いいかの?」
「あ、はい。大丈夫です」
珍しく緊張した様子の親父に、ギムトレは言います。
「これから変に気を使うたびににんじんソテーじゃ。もちろん、別のギムちゃんに変わるのもナシじゃからな」
「う……わかりました。わた……俺らは何すればいいですか?」
「んー。特にないのう……あ、そこのすり鉢の中の山椒をすり潰して欲しいのじゃ」
了解しました、と土間の上がり框に座ってゴリゴリとけずる親父を見て、揚げ物の準備をしていきます。片栗粉を出し、ボウルの中に入れてもちょもちょし、衣をつけ終えると皮を肉に巻いて
ジュワッと油で揚げていくと、ぱちぱちぱちと脂の跳ねる音と、揚げ物特有のいい匂いが家に満ち、後ろでは囲炉裏のそばで花札をする202とV、それをまじまじと興味深そうに見つめるウオシス、こちらを美味そうなものを感じ取って見つめる親父がいました。
肉を揚げながら、奮発してかまどに火をつけ、今日は羽釜ご飯です。
106二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 22:00:38
「ふふ。親父さん」
「な、なんですか?」
「…つまみ食い、付き合ってくれんかのう?」
「喜んで!」
揚げたてじゅわじゅわの唐揚げを、2人でこっそり頬張ります。ガリっといい食感の衣の中からは、熱々の肉汁が溢れ出し、噛めば噛むほど旨いです。最後に少し抜ける、レモンの香りがさっぱりさせて、何個でも食べられそうです。
「美味い……」
「あふっあふっ。……ふう。猫舌も厄介じゃな。米が炊けるまでに、他を済ますのじゃ」
そう言って腕をまくるギムトレに、若干もう一個食べたそうな親父。
結局、その晩は熱々の羽釜ご飯、きゅうりとちりめんじゃことちくわににんじんの酢の物、山芋の味噌汁、薬味たっぷりの冷奴、そしてたっぷりの唐揚げが出たそうな。
五右衛門風呂や蚊取り線香を入れる豚に皆大興奮したのは、また別のおはなし。
おしまい
綺麗な文章って、書くのが本当に難しいですね。
人数が多くなると自分のキャパを超えてしまうのはやはり反省。稚拙さを実感して胸がキュッと苦しくなります。
今回親父さん、202さん、Vさん、ウオシスさんをお借りしました(けれども202さんとVさんを上手く活かしきれなかったのは申し訳ありません)。エミュレートの方の自信が皆無ですので、畑の肥料となってお詫びします。
≫128二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 23:23:38
「さて、どうするか…」
「あの、どうしましたかファイトレさん?」
珍しく悩み事をしているように見えるファイトレ(女)に、通りかかったウオトレ(女)はふと声を掛ける。
ファイトレ(女)の視線の先には厳重に梱包されたナニカが鎮座しており、ウオトレ(女)には読めない外国語で字が書かれていた。
「全く…面倒なものを送ってくれたな…ドベトレに必要な物は持ってくるよう頼んだから、今の内に箱は開けるか。」
「えぇっと、これは?」
「ん?ああ、これはシュールストレミングだ。分かりやすく言うなら、外国のくさやだと思えばいい。」
「くさや…でも、何故袋と酒が要るんでしょう?」
そうこう言ってる内に、箱を開き中から缶詰を取り出すファイトレ(女)。それは僅かに蓋が膨らんでいるようにも見える。
「それと、いいかウオトレ(女)。触っても構わないが…間違えてもフタを開けるなよ。絶対にだ。」
「も、もし開けたら…」
「その時は…そうだな、毒ガスをばら撒くのと同じような事になると思え。これは本物の危険物だ。」
半ば脅しのように念を押す彼女からの忠告に、コクコクと頷きながらウオトレ(女)は缶詰をじっくり観察する。
重みのある缶を丁寧に触れて持ち上げてる所に聞こえるドベトレの声。どうやら用意出来たらしい。
「よし、なら…二人とも離れておけ。匂いを嗅ぎたいなら別だが…最悪失神しかねないぞ。」
「いつ聞いてもやばいな…」
「失神…!?」
ドン引きする二人を尻目に、袋の中に缶と缶切りを入れた彼女は缶の端に刃先をセットする。
「まずは袋の中で缶を傾けて、ガスを溜めてから突き立てれば…臭いガスが出てるだろう?これで飛び散らなくて済む。」
────いよいよ缶と袋を開ける。
130二次元好きの匿名さん22/09/05(月) 23:24:16
…開けた瞬間に漂ってくる臭いは、余りにも強烈過ぎて離れたはずなのにくっきりと二人は感じた。
ドベトレとウオトレが臭いに苦しむ最中、発生源の近くで作業するファイトレは顔色一つ変えずに中身を取り出す。
更に隣に置いた酒…曰く、友人が同封してきたアクアビットを使って洗うファイトレ(女)。匂いを半分近くに抑えてくれるそう。
「後はパンに玉ねぎとトマトと合わせて挟めば…む、久しぶりに食べたが悪くはないな。二人も食べるか?」
「持ってきてくれて助かるファイトレ(女)。…うおっ…塩辛くねぇか?!」
「これは…凄く人を選びそうです…」
「まあ、珍味に近いからな。そういうものだろう。…それと、食べ終わったら着替えておくといい。匂いがついてるだろうからな。」
程よく味わった所で片付けとかを任せて着替えに行くウオトレ(女)とドベトレ。残りはファイトレ(女)が美味しく頂いたらしい。
───特にウオトレ(女)には強烈な体験となったのだった。
短文失礼しました
170組with例のアレ試食会。シュールストレミング、本場スウェーデンでは法律で屋内での開封禁止なレベルなのでまあ…。
実際こういう珍味に近いのを楽しめるトレーナーって誰だろうか。少なくともファイ女は大体イケるんだが。
≫141二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 06:29:41
『小さなおばあちゃんと小さな教え子』
「こんにちは」
「ハヤトレちゃん、よく来たねぇ。暑いじゃろ?早く上がるのじゃ」
「ええ、お邪魔します」
俺は、先日お誘いを頂いたギムトレさんのお家にお邪魔していた。今日はハヤヒデはおらず一人だ。
「それにしても、随分お若くなられましたね」
「それはお主もじゃろう?」
はははと笑い合う。昔からこの人は変わらない。
「あ、これ差し入れのわらび餅です。お茶に合うと思って」
「あらまあ、気を使わなくても良いのにすまないねえ。せっかくだからお茶を入れましょうか」
そういうとギムトレさんはささっとお茶を入れに行った。茶菓子の差し入れで正解。
「ほれ、緑茶じゃ」
「すみません、ありがとうございます」
縁側で二人緑茶を飲みながら話す。
「それにしても、二人してすっかり変わってしまったねえ」
「本当に。俺も毎日苦労していますよ」
「ふふ、ワシも随分変わってしまったのじゃ」
そう言って笑うギムトレさんに気になっていた事を聞いてみる。
「そういえば、今日はなんで俺を誘ったんです?他にも誘う人は居たでしょうに」
そうするとギムトレさんが答えた。
「ハヤトレちゃんは、最近少し辛いことがあるじゃろ。ワシに出来る事はこうやってお話することくらいじゃから」
「……貴方には昔から敵いませんね。でも、ここに来ると落ち着きます。ありがとうございます」
142二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 06:30:48
ギムトレさんには最近のPTSDの事をすっかり見抜かれていた。隠してるつもりだったんだけどな。
「……昔のハヤトレちゃんは不思議な子じゃった。全く情熱が無いように見えて、課題には熱心に取り組んで、掴みどころがないと思ったものじゃ。そして、あの諦めとも辛いとも取れる表情も印象に残ってるのじゃ」
「そうですね。あの頃の自分は壊れてましたから。走る事を諦める事の辛さで」
「それでも、段々と情熱を取り戻していく姿を見て安心したものじゃ」
「それはギムトレさんや、周りの人たちのお陰ですよ。自分は幸せ者です。とても優しく、暖かな人たちに恵まれました」
確かに辛いこともあった。でも、人には恵まれたと胸を張って言える。数少ない自慢の一つだった。
「それはね、ハヤトレちゃんが周りに助けたいと思われるような人間じゃからじゃよ。口で言うのは安しじゃが、実際にやろうと思うと難しいものよ」
「そうなん……ですかね。自分ではそう思わないですが」
「そう思わないからこそ助けたくなるんじゃよ。人は人に感謝の出来る人間を助けたくなるものじゃ」
そういうとギムトレさんはすっかり子供になった顔でニッコリと笑う。
「じゃから、辛い時はしっかり周りを頼るんじゃよ。ハヤトレちゃんの辛い顔を、ワシもみんなも見たくないと思ってるのじゃから」
「……そうですか。自分でも気をつけてみます」
やっぱり、この人は昔から変わらない。今日は来て良かった。
「さあ、もっとゆっくりして行くのじゃ。時間はあるのじゃろ?」
「ええ、今日は予定はないので。ゆっくりさせてもらいます」
そして、その日はギムトレさんとゆっくりと過ごした。
もう一つのSSが行き詰まったので朝ご飯代わりのギムトレさんとちびハヤトレの軽いSSです。おばあちゃんすき……
ちゃんとギムトレさんエミュれてるか不安なのでなんかあったら言ってください。昨日書き始めた奴は今日の夜には投下出来る…はずです。されるといいな(願望)。
≫164二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 18:22:00
3話 決戦準備
俺とマーチは、対オグリのためのミーティングを始めていた。
「それで、実際どうするんだって話だ。ただトレーニングをしてそれで戦った所でオグリには勝てない」
「そうだな。私だって自分の実力ぐらい分かっているつもりだ」
「そこでだ、幸運な事にこれまでいろんなトレーナー達に話を聞く機会があった。そこから手に入れた知識で俺は対オグリの作戦を考えていた。
それを今からマーチに共有する」
そうして俺はマーチにホワイトボードを使いながら説明をしていく。
165二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 18:23:03
「……っと以上が、対オグリキャップの作戦……もとい、これからのトレーニング方針だ。
ただ、とてつもなくハードなトレーニングになるし、それをやったところで、そもそも勝負できる実力には届かない可能性もある」
「……それでも、やるしか無い」
「オグリキャップに勝つ為にはな」
「わかった。やろう」
しかし、そう言った彼女の手は少し震えていた。
きっとマーチも怖いのだろう。
実質、オグリと中央で対戦できる最後のチャンス。
勝とうが負けようが、これが最後の一回かも知れない。
そこで負けたらなんて、考え無い方が無理だ。
そんな彼女に、俺ができる事……
「なぁ、マーチ」
「……どうしたトレーナー」
「確かにこれをやっても勝てる確率の方が少ない。でなもな」
「俺は君が勝つと思ってるよ」
「……」
「間違いなく君は勝てる。俺はそう確信している」
166二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 18:24:12
「……どうして?」
「だって、君はあのオグリキャップのライバルで、俺の担当。そして、俺に初めての勝利をくれたウマ娘だ」
「トレーナー……」
「これまで、何度も困難はあった。その度に心が折れそうになって、トレーナーを辞めようとまで思った。
だけどそんな俺に、君は光を、勝利を届けてくれた。何度負けても、それでも諦めずにいてくれた」
「それに間違いなく君は強い。中央でのマーチの走りをずっと見て来た俺が言うんだ。だから勝てる」
「……そうは言うが、お前だって不安なのだろう?顔に出ているぞ」
「え、あ。いや、これは……」
……正直、俺も怖い。でも理由は別だった。
だって、このレースが終わったら、きっとマーチは──
「だがそうだな、うん。そんなお前が、それでも勝てると言ってくれた。信じてくれたんだ。ならば、これほど心強いものはない。
……絶対に勝つ。だから頼む、トレーナー」
「ああ、やろう。マーチ」
オグリキャップというあまりにも高い壁を前に、俺達の心には不安と恐怖がよぎる。
……それでも前に進み続けなければいけない。
その先がどんな結果になろうとも、後悔だけはしたくなかったから。
手の震えを抑えながら進む。
頂の景色を共に見るために。
≫181二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 20:28:21
「ふと思ったのだけどスカイってフラワーちゃん大好きなわけじゃない?寮もレースの路線も違うのにどうやって仲良くなったの?」
「ちょっと待ってなんで周知の事実みたいに私がフラワーのこと大好きなことになってるんですかいや確かにフラワーのことは好きですし大切な人だと思ってるけどそれは別に一生を共にしたいとかチューしたいとかそういうのではなくてですねぇフラワーには幸せになって欲しいけど私が幸せにするなんて我の強い気持ちはなくてでもフラワーのこと大切にしないやつは二度とフラワーに近づけないようにするけどでもトレーナーさんなら安心してフラワーを任せられますし姉妹みたいにそっくりだしお似合いだと思いますよあっでもトレーナーにフラワーを取られちゃうフラワーにトレーナーを取られちゃう心がズキズキ痛い――」
「どうした急に」
「スゥーッ……ふぅ、どうってフラワーとはふつーに学園で仲良くなっただけですよ」
「――えっと、その『ふつーに』のところを詳しく知りたいんだけど」
「ふふ〜ん、どんな感じだと思います〜?」
「うーん……怠惰なスカイと真面目なフラワーちゃんだし、サボってお昼寝していたところでフラワーちゃんと出会って怒られちゃったとか、フラワーちゃんと言えばお花だから良さそうなお昼寝の場所を見つけたと思ったらそこはフラワーちゃんがお花の手入れしているところだった、とか」
「もしかしたらそうかもしれないし、そうじゃないかもねぇ〜」
「あーっ、はぐらかされた。……はぁ、わかったからこれ以上は聞かないでおくよ」
「いや別に大したことでもないんで〜」
「ほんと〜?」
「ほんとほんと」
182二次元好きの匿名さん22/09/06(火) 20:30:43
「――あの、どうして私がフラワーのことが好きだってわかったんです?」
「だってスカイってばバレンタインとかのイベントごとにそわそわしてるし、誰かさんからチョコ貰ったらものすごく浮かれてるじゃない」
「えっ、そんなに露骨に顔とかに出てました?」
「うん」
新年の選択肢で「フラワーのこと教えて」ってしても教えてくれないので想像膨らませました
セイちゃんとフラワーの馴れ初め教えろサイゲぇ!
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part828【TSトレ】
≫22ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:03:44
『初めての旅行』
「ハヤヒデ、今週の休みって暇か?」
「ああ、それがどうした?」
「もし良ければどっか出かけないか?ソラヒデをどっか連れてってやりたいんだが」
今名前が出てきたソラヒデは俺のウマソウルであり別人格。最近ソラハヤヒデという名前が付いた。そのソラヒデをどこかへ連れて行ってやりたいという提案だった。
『お出かけ!?』
「まあそう焦るな。ハヤヒデ、どうだ?」
「私は構わない。ソラヒデも一緒なら楽しそうだ」
『本当!?やったー!』
「決まりだな。さて、じゃあどこへ行くかだが……近くで日帰りで良い観光場所はあったかな」
記憶を頼りに考えていると、ハヤヒデがこんな提案をしてきた。
「温泉旅館に泊まりに行くのはどうだ?休みもあるから大丈夫だろう」
「温泉旅館か……確かに久しく行ってないな。けど、単に旅行で行くのって大丈夫なのか?前行ったときは療養って名目があったろ」
「何、黙っていればバレないし、万が一バレたとしてもウマ娘になってしまったトレーナー君が調子を崩したから、サポートも兼ねた私と一緒に療養へ行ったという事にすれば良い」
「……時々しれっととんでもない事言うよな、ハヤヒデ。まあそれで良いなら構わないけど。」
「決まりだな。良かったな、ソラヒデ」
『うん!』
という訳で、温泉旅行当日。俺たちは新幹線に揺られて旅館へ向かっている。俺は身体をソラヒデへ譲って中から様子を眺めている。
「外の景色がすごい速さで流れていく……」
「新幹線はとても早いだろう?」
「うん!でも中は静かで不思議……」
楽しそうなソラヒデを見ていると俺もハヤヒデも笑顔になってしまう。
『新幹線のアイスでも食べてみるか?』
「アイス?食べたい!」
『じゃあ買ってくるからちょっと身体代わってくれ』
「はーい!」
ソラヒデは椅子に座り意識を落とす。そして、その数秒後に俺の意識を身体に戻す。これが、俺とソラヒデの意識を切り替える方法だった。ちなみに、お互いに入れ替わってる間は通話係をしている。時たま忘れてる時もあるけど。
23ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:03:56
「うし、アイス買ってくるか。ハヤヒデも食べるか?」
「いや、私はいい」
「了解。買ってくるわ」
俺はアイスを買ってきてソラヒデと交代する。
『ほら、買ってきたぞ』
「わーい!いただきまーす!……って固い!全然スプーン刺さんないよ!?」
そりゃシンカンセンスゴイカタイアイスだからな、とハヤヒデと笑って見守る。新幹線ならこれを食べないと。そんなこんなをしているうちに旅館へ到着した。
「チェックインしてくる、ちょっとここで待っててくれ」
「分かった、待っておく」
俺は身分証明書を見せて自分が子供ではない事を説明したり背の届かないカウンターに悪戦苦闘しながらなんとかチェックインを済ませた。
「よし、なんとか終わらせたぞ。部屋へ向かおうか」
「トレーナー君も大変だな」
「うっせ。ほら行くぞ」
笑いながら話してくるハヤヒデを軽く流して部屋へ向かう。今回は奮発して部屋に露天風呂が併設してある中々良い部屋を取った。
「トレーナー君、この部屋は中々高かったんじゃないか?」
「ま、久々の温泉旅行だしな。俺は働いてた頃の貯金が沢山残ってるし心配すんな」
「それでは、遠慮はしないよ。それにしてもこの景色は絶景だな」
「ああ、ここを選んで正解だったな」
見渡す限り自然が広がり、空気も澄んでいてとても気持ちが良い。
『お兄ちゃん、僕にも見せてくれる?』
「もちろん。今代わる」
俺はそこらへんの椅子に腰掛け意識を落とし、ソラヒデと交代する。
『どうだ?綺麗だろ』
「うん、とっても。連れてきてくれてありがとう」
『そりゃ良かった。連れてきた甲斐がある』
「ふふ、楽しそうでなによりだ」
その後は色んな物に興味津々なソラヒデと一緒に旅館の廊下を練り歩き、ゲームなどをしているといい時間になってきた。
24ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:04:06
「さて、そろそろ風呂に入るか。ハヤヒデ、先に入るか?」
「一緒で構わない。どうせ今はどちらもウマ娘だし、ソラヒデ一人で入らせるのも危ないだろう?」
「まあ、ハヤヒデがそれで良いなら。じゃあ準備するか」
ハヤヒデと一緒に風呂か……ウマ娘になってすぐの時は半分介護みたいなもんだから入院中と同じで気にならなかったが、改めて一緒に入るとなると変な気がするな。
「さて、身体を洗おう。そういえば、トレーナー君はボディーソープやシャンプー、リンスは何を使っているんだ?」
「んー、適当なやつ使ってる。本当はもっとちゃんとしたやつ使わないとダメなんだろうけどな」
「まあ、ウマ娘になったからと言って習慣や趣向を変えるのは難しいだろうし、最低限が出来ているなら私はとやかく言わないよ。ちなみに、具体的に何を使っているんだ?」
「デ・◯ウだけど」
「それは流石に考えた方がいいぞ!?」
「えー、いいだろ。男の臭いは落ちにくいんだぞ。加齢臭スッキリだぞ」
「今のトレーナー君は男でもないしましてや加齢臭なんて微塵も気にする必要がないだろう!帰りに私が見繕うから今は私のを使え!」
「分かった分かった」
どうやらデ・◯ウはダメらしい。なんでだ。
「あと、私がいる時くらい丁寧にケアしてやろう。洗ってやろう」
「本当か?ありがとう、頼む」
もしこれがハヤヒデ以外におせっかいを焼かれたなら嫌だろなーとか考えながら、俺はハヤヒデに髪を洗ってもらう。
「それにしても前から思っていたがトレーナー君の髪は本当に綺麗だな」
「ハヤヒデの髪と違ってモコモコしてないからな」
ニヤッとして少し意地悪を言ってみる。
「ふむ、温泉に沈められたいのか?今のトレーナー君相手なら簡単だぞ」
やばい。口は笑ってるけど目がガチだ。
「すまん。勘弁してくれ」
「はは、冗談だよ」
いや、あの目はマジだった。おー怖……まあ今のは完全に俺が悪いが。そんなこんなをしているうちに髪を洗い終えた。
25ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:04:21
「せっかくだから身体も洗ってやろうか?」
「いや、身体は自分で洗うからいい。前みたいに尻尾触られて変な声出しても嫌だしな」
そして一度立とうとした瞬間、ハヤヒデが思いっきり尻尾の付け根を掴んできた。
「ひゃあっ!?あっ、まっ、あっあっ、ちょっと触るのやめっ……」
「ははは!ちょっとは反省したか?」
「反省した、反省したからくすぐらないで……ひゃっ!」
結局その後しばらく尻尾で遊ばれた。冗談なんて言う物じゃないな……
「さて、今度は私が洗おう。トレーナー君は先に入ってもらって構わない」
ハヤヒデはそう言って身体を洗い始めた。無警戒で。俺はバレないようにそっと後ろに近づき。
「……えいっ」
「ひゃっ!?トレーナー君!?」
ハヤヒデの尻尾の付け根を掴んだ。
「さっきの仕返し。これで恨みっこ無しな」
「全く子供らしい事を……」
身体を洗い終えたハヤヒデと笑いながら風呂へ向かう。
「はあああ……気持ちいい……」
「ああ。疲労回復に効くらしいと聞いた」
「ハヤヒデと一緒に入ってるから効果倍増だな」
「なんだそれは」
二人で笑いながらたわいもない会話を交わした。その後、ソラヒデにも入らせる。
「よし、ソラヒデも入るか?」
『うん!入る!』
「そうか、今代わるから待ってろ」
「代わるのか?それなら溺れると危ないから私が抱き抱えてやろう」
「サンキュ。それじゃ失礼して」
俺はハヤヒデの上に座る。ウマ娘になったとはいえ担当の上に風呂で座るのは変な気分になる。そんな事を考えながら、俺は意識を落とした。
26ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:04:31
私の上に座ったトレーナー君が意識を落とす。以前なら絶対こんな状況はあり得なかったのだから世の中とは不思議な物だ。そんな事を考えていると、ソラヒデが目を覚ます。
「はああああー……あったかいね……」
「そうだろう。気持ちいいか?」
「うん!気持ちいい!」
上にちょこんと座ったままのソラヒデが答える。姿はトレーナー君のままなのに、天真爛漫さのお陰かとても明るくかわいらしい。
「ほら、温泉からの景色は最高だろう?」
「うん。連れてきてくれてありがとう」
ニカっと笑うソラヒデに釣られてつい私も笑ってしまう。そんなソラヒデにゆっくり浸かるように言う。
「ほら、降りてゆっくり浸かったらどうだ?」
「んー、もうちょっとお姉ちゃんの上に居る!抱きしめてほしい!」
……え、トレーナー君をお風呂で膝の上に乗せて抱きしめるのか?いや今はトレーナー君ではないが、流石にそれはまずい気がする。中にはトレーナー君が居るのだから後で気まずすぎるだろう。
「……だめ?」
「……分かった。しばらく抱きしめてやろう」
結局私はソラヒデの純粋な瞳に負けた。これは勝てない。後で気まずくなるかもしれないが、どうにかするしかない。
「気持ちいいね……」
「そうだろう。あー、ここの温泉の効能は……確か疲労に効くやつだ」
「そうなんだ!疲れが取れるんだね!」
駄目だ。トレーナー君を抱きしめていると思うと思考が上手くまとまらない。
「うん、そろそろ降りてもいい?」
「ああ、良いぞ」
ようやくソラヒデが降りてくれた。いや、ソラヒデは悪くないのだが、自分の理性が危うく壊れかけそうで怖い。
「だいぶ入ったな。そろそろ上がるか?」
「うん!そうする!お兄ちゃんと代わるね」
またソラヒデが身体を預けてきて、トレーナー君が目覚める。
「あー、まあ、うん……上がるか……」
「……ああ、そうだな……」
凄く気まずい。だがソラヒデが聞いている手前文句も言えず、風呂を上がってからしばらくは若干ぎこちない空気が流れた。
27ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:04:41
「ソラヒデが疲れて眠ったみたいだ」
ソラヒデは疲れると良く眠る。これは頭の中でも同じで、寝ている間は交代出来ない、つまり俺の会話を聞くことも出来ない。つまり、ソラヒデが気づかない内にさっさとハヤヒデと話さなければならない。この気まずい空気を早くなんとかしたい。
「あー、ハヤヒデ。まあその、なんだ。あんまり気にするなよ。というかむしろ俺を抱きしめるとか嫌だったろ?すまん」
「いや、そういう訳ではないのだが……こう、なんというか……」
まあそりゃそういう反応にもなる。トレーナーと一緒に風呂入って抱きしめるとか普通にヤバい案件だ。
「……まあ、そうだな。私は嫌ではなかったぞ。気を使っている訳ではなく」
「そうか、なら良かった……のか?」
また沈黙の時間が続き、お互いを見合わせる。しかし、ずっと相手を見ているうちに、なんだかバカらしくて笑ってしまった。
「……ははは、何やってんだろうな俺らは!」
「ふふ、全くだ!」
「不思議なもんだよな。ウマ娘になってなきゃ一緒に風呂に入ることも無かったし、俺のウマソウルが表に出てくるタイプじゃなかったらハヤヒデに抱きしめられる事も無かったんだから」
「なんならソラヒデが居なかったのなら旅館に来ていないからな。本当に不思議な物だ」
気まずかった空気はすっかり吹き飛んでしまった。そもそもハヤヒデ相手に遠慮するのが変だったと感じるくらいに。ひとしきり笑っていると夕飯が出てきた。せっかくだからソラヒデを起こす。
「おーいソラヒデ、夕飯だぞ。起きろー」
『んー、良く寝た。ご飯?』
「トレーナー君は食べなくて良いのか?」
「ん、入れ替わっててもちょっとくらいは感じられるし、ソラヒデに残しといてもらうから大丈夫。という訳でソラヒデ、俺の分も残しとけよ?」
『はーい!』
元気の良い返事が返ってきた所で俺は身体を入れ替える。
「わあ……!おいしそう」
『おう、美味いぞ。たくさん食べな』
ソラヒデが楽しそうにしているとこっちも笑顔になる。自分で見れないのがもどかしいなあ。今度ハヤヒデにビデオでも撮ってもらうか。
「うん、美味しいな。トレーナー君が選んだ旅館なだけある」
『つっても評判良いとこ選んだだけだけどな』
「うーん、これも美味しい!」
あ、ダメだこれ。ソラヒデが通話係放棄してる。まあこんな美味しそうに食べてるの邪魔するのも憚られるし少し黙るか。
28ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:04:51
「ソラヒデ、そろそろトレーナー君に代わってあげたらどうだ?」
「あ!そうだった!ごめんお兄ちゃん」
『気にすんな。ソラヒデが美味しそうで何よりだよ』
「今代わるね!」
「あいよー」
意識を入れ替えて食事に手をつける。
「うん、美味しい。やっぱ直接食べると違うな」
「意識だけの間はどういう風に感じているんだ?」
「うーん、どう表現したら良いかな……こう、フィルターが掛かった感じというか。匂いに味もちょっとだけ分かるみたいな感じかな」
「ふむ……すると、やはり直接食べるのとは違うのだろうな」
納得した表情を見せるハヤヒデ。ニュアンスが伝わったなら良かった。そんな話をしているうちに夕飯を食べ終わった。
「ふー、食った食った。美味かったなー」
「ああ。私も満足だ」
やっぱり旅行は楽しい。今は三人で行ってるような物だから尚更だ。
「ハヤヒデ、ソラヒデ、また旅行に行こうな」
「ああ」
『うん!』
いい返事が返ってきた。遊びに行ける所を探しておこう。
「あー、流石に疲れた。そろそろ寝るか?」
「私もそうしよう」
『ねえ、旅館で寝るのってどんな感じ?』
「そうだな……ま、実際に寝てみるのが早いだろ。という訳でハヤヒデ、後は頼んだ。俺は代わったら寝るわ。おやすみ、ハヤヒデ、ソラヒデ」
「分かった。おやすみ、トレーナー君」
『おやすみお兄ちゃん!』
さっさとソラヒデと交代した俺は疲れもありすぐに眠った。
29ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:05:02
「さて、私たちも寝ようか」
「はーい!」
ソラヒデを布団に入れ、私も布団に入る。
「今日は楽しかったか?」
「うん!また遊びに来たいなあ」
「そうだな。また来よう」
なんだか新鮮な旅行だった。こんなに楽しかったのは、ソラヒデが無邪気な反応をするのを見るとこちらも笑顔になるからだろうな。そんな事をしているうちにだんだん瞼が閉まり……閉まり切る前にソラヒデが不安そうな顔をしてこっちを向いてきた。
「ごめんお姉ちゃん。一人で寝るの、ちょっと怖い……一緒に寝てもいい?」
……今日は試練が続くな。
「ああ。良いぞ、こちらへ来い」
「うん」
ソラヒデがこちらの布団へ入ってきて、布団の中が暖かくなる。
「お姉ちゃん、大好き……」
「ああ、私もだ」
全く、これでは本当に親だ。だが……悪くはない。
「すぅー……すぅー……」
「……寝たか」
ソラヒデの寝顔が愛らしく、つい抱きしめてしまう。そのまま暖かさを感じながら、私も寝てしまった。
────
……これ、ハヤヒデ俺が起きてるのに気づいてないな。どうしよう。さっきからめっちゃ抱きしめられてる。いや、確かに今の姿なら問題ないかもしれない。けどトレーナーの身からすれば気が気じゃない、起きて止めるべきか。でもなあ、教えるのもそれはそれでまた気まずくなりそうでなあ……
結局、俺は教えない事を選択し、そのまま寝る事にした。ハヤヒデと寝るのは暖かくて気持ち良かった。流石に心臓が持たないからもう一度やりたいとは思わないが。
30ちびハヤ温泉旅行22/09/06(火) 22:05:16
「……よし、チェックアウト完了。それじゃ行くか」
『えー、もう帰るの?』
「ちゃんとやる事もやらないとな。きちんと出来たらまた来よう」
『うん!約束!』
「よし、偉いぞ」
自分で言っててどうかと思うが、もう完全に親だこれ。
「さて、帰るか。新幹線に間に合わなくなるぞ」
「おう。それじゃあ帰ろう」
『はーい!』
こうして初めての三人での旅行は終わった。やっぱり旅行は良いものだな。それに、ソラヒデが楽しんでる所を見るとこっちも楽しくなる。
「なあ、ハヤヒデ。また三人で来ような」
「ああ。三人で、だな」
お互いに笑いあい、俺たちは新幹線に乗って帰った。
なお、後日帰りの新幹線の中でハヤヒデとソラヒデが遊んでいる所を目撃されていた事が発覚し、またおもちゃにされかかった。良い加減にしてくれよマジで。
完
≫103二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 20:59:04
「えるしってるか」
「どううぃたんですのブタトレ、そんな急に」
「ぶひー、ってそんなわけあるか!俺はブラトレだ!」
「失礼、噛みましたわ」
「違う、わざとだ」
「きゃみそーる」
「わざとだろっ!?!?」
「まあ落ち着け2人とも。そんなガッハーラさんとらららら君みたいな真似しても何もならん」
「そうだよ…ほら、この部屋のプレート見て」
『4人で一緒に×××を〇〇して━━の後に◇◇しないと出られない部屋』
「そんな…××を〇〇なんて最低ですわ!そんな……ただでさえ(検閲)な◇◇を……そんなに使うなど…きっとあの頭うまぴょい女神どm……様の仕業に違いありませんわ!」
「そうだな…ブラトレ、大丈夫…じゃなさそうだ」
「俺は死ぬわ…私が殺すもの……」
「あばばっばばばばば坂東英二」
「お前はとりあえず野球の神様に謝れテイトレ。まあ、そんなんなら大丈夫か」
「えへへ…普段からテイオーに恋人繋ぎとかしてもらってるし」
「そんな惚気を簡単に言うテイトレとか設定崩壊ですわ」
「厄介オタクみたいになってるぞ。オラっ忘れろビーム」
「いたたたったたたた玉木宏」
「これでよし。ブラトレ、落ち着いたか?」
「ブタトレ、餅ついた」
「まだダメそうだな。とりあえず俺がおぶる」ヨッコラショ
「あら、鍵が開いてましたのね。出られそうですわよ」
「\(^o^)/ヤッター」
「テイトレ、おそらくそのネタもう古い」
「なん……だと……?」
「佐渡の霊圧が…消えましたの!?」
「勝手に佐渡島を消すな。消えるのはチャドだろ」
「まあまあ一旦外に出よう?」
「やはり出ますのね。私たちも同行しますわ」
104二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 20:59:51
外に出ますか?
▷はい
いいえ
「なんかめっちゃ人いるな」
「そうですわね。ほらブラトレ、起きてくださいまし!」
「いっだ!割と強めに叩かなかったか今!?」
「忘れなさいビーム!!」
「なんの!DXボンバー!!」
「……ねえ皆」
「何ですのテイトレ」
「………あれ」
「……何で外側にも同じ看板があるんですの?」
「どうして」
「つまりはその看板の部屋から出てきたと言うことは……」
「違う!俺はノーマルだ!百合の趣味はない!!」
「この場合薔薇で作られた百合の造花ですわね」
「冷静に解釈するなよ!!」
「なあ……ブラトレがおぶられてるのって腰砕けだよな…」
「その他3人がピンピンしてるのは……そういうコト!?」
「やだやだ!ブラトレ総受けなんて解釈違いだ!フクトレ総受けこそこの世の真理だるるぉ!?」
「いやじゃいやじゃ!ワシはテイトレ受け以外見とうない!」
「ちくわ大明神」
105二次元好きの匿名さん22/09/07(水) 21:00:16
「……え?トレーナー…なにしてるの?」
「ちが…テイオーこれは…‥違くて……」
「ほら見てくださいまし!テイトレがテイオーに見られて泣いちゃったんですのよ!?」
「ワ……ワア………」
「泣いちゃった!!」
「まあまあお前ら、一旦落ちつけ。深呼吸だ深呼吸。テイトレはちいかわになってるからまあ大丈夫」
「ウワアン……」
「ひっひっふー、ひっひっふー」
「ちげえ!!」
「チゲ!」
「レゲエ!」
「まあだがしかしけれども、とりあえずは……」
「「ああ」」
「エ…?」
その後、三女神様にドロップキックを入れようとしてシャングリラチャイナドレスを着せられたDK4がいた。
うまぴょいうまぴょい
≫158二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 18:03:29
「ロブトレさん、お願いがある。俺に色んな服を着せてくれないか」
「え、私は構いませんけど……急にどうしたんですか?前は女の子のような服は着たくないと言ってませんでしたっけ……?」
正直今でも着たくはない。でもこうしてわざわざお願いしにきて居るのには理由がある。
「まあ、正確にはソラヒデが、だな」
「ソラヒデ……確かハヤトレさんのウマソウルでしたよね。表に出てこれるという」
「ああ。あいつがこないだ色んな服を着たいっめ言い出してな。でも、俺は女の子の服のセンスとか分からないから、ロブトレさんなら色んな服持ってそうだからお願いしにきた」
「そうなんですね。でも良いんですか?ハヤトレさんはあまり乗り気ではないんですよね?」
「本当はそうなんだけど……ま、ソラヒデが言ってるならしょうがないと割り切ってる」
最近保護者度が加速的に上昇している気がするが、もう気にしない事にしている。
「ふふ、お好きなんですね」
「ああ。自分で言うのもなんだが、実際に会ったらめちゃくちゃ可愛いと思うぞ」
「分かりました。ロブロイと服の用意をするので、予定は後で連絡しますね」
「分かった。それじゃあよろしく」
そして後日、俺は覚悟を決めて着せ替え会場へ向かった。
「それじゃよろしく。俺はそこに座ってソラヒデと入れ替わるから、あとは頼む」
「ハヤトレさんはどうするんですか?」
「俺は多分見てられないから中で寝てる。終わった後、ソラヒデに俺を起こすように言ってくれ」
「分かりました。それでは……」
「すまん。もう一つ」
「なんでしょうか?」
「……写真とビデオ撮っておいてくれ。特にビデオ」
「ふふ、分かりました。それでは始めましょうか」
俺は意識を落とし、ソラヒデと代わる。起きた時どうなってるか恐ろしいが、覚悟を決めた。外で黄色い声が聞こえた気がするが気のせいだった事にして、俺は眠りについた。
159二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 18:03:42
『お兄ちゃん、起きて!終わったよ!』
「ん……分かった、起きるわ。楽しかったか?」
『うん!楽しかった!またやりたい!』
「それは良かった。それじゃ、また後で」
『はーい!』
俺は意識を戻し、身体を起こす。
「ロブトレさん、ありがと……うわ、なんだこの服!?」
「ワンピースドレスです。とってもお似合いですよ」
立ち上がって鏡を見ると活発な印象がありながら落ち着きも感じられる可愛い少女の姿があった。これが自分の姿だと思うと凄い複雑だ。
「まあ……ありがとう。似合ってるとは思うよ……」
「ふふ、ハヤトレさんも可愛い服を着る気になりました?」
「いや、俺はパス。ソラヒデがまた着たいって言ってたからまたやってあげてくれ」
「あ、写真とビデオも撮っておきましたよ」
ロブトレさんが俺のスマホの写真アプリを開いて見せてくれた。
「これが写真です」
うーん……やっぱり違和感が凄い。自分の姿だからだろうけど。
「渋い顔をしてますね」
「まあな……」
「こっちがビデオです」
『こっちの服はどうですか?』
『あっ、そっちの服も可愛いから着てみたい!』
『ふふ、順番ですよ。衣装はたくさんありますから』
うーん、可愛い。これはいつまでも見ていられる。永久保存版。
「ニヤニヤしてますね」
「まあな」
160二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 18:03:57
「ふふふ、とっても可愛かったですよ」
「だろ?これが見られるんなら可愛い服くらいいくらでも着せてやれる。俺は着ないけど」
「本当にソラヒデちゃんがお好きなんですね」
「いや、だってアレがずっと一緒に過ごしてるんだよ?あんな可愛いのが常に頭に居たら誰でもおかしくなるって」
「確かに、あの子がずっと一緒に居たら甘やかしたくもなりますね」
ロブトレさんが笑う。ソラヒデが可愛いと同意を得られて満足した。
「それにしても、本当にハヤトレさんとソラヒデちゃんは別人格に分かれてるんですね。影響も無いんですか?」
「ああ、影響は全く無いな。走りたいっていうのは元々だし。……まあ、別の意味で影響は出てる気はするけども……」
実際、ソラヒデが居なかったら女の子の服なんて絶対に着ていないので別の意味での影響はバリバリに出ている。概ね精神的にプラスになっているから良いが。
「ふふ、確かにそうですね。それでは、家まで送っていきますね」
「ああ……うん?今なんて?」
「だって、一人で家に帰したらまたジャージに着替えてしまうでしょう?せっかく可愛い服を着てるんですから、外に出ないと勿体ないですよ!」
「えっ、ちょっと待って」
しまった。手を掴まれて逃げられない。
「ふふ、大丈夫ですよ、荷物はちゃんとまとめておきましたから」
「そういう問題じゃないんだが!?」
やばい早く逃げないと!必死に逃げようとしていると突然身体が宙に浮いた。
「せっかくだからお姫様抱っこで運びましょうか。さあ行きましょう!」
「行きましょうじゃねええええええ!!!!!」
アア、オワッタ・・・・・・・・!
結局そのままロブトレさんに抱っこされながら家まで運ばれ、後日トレセンでやたら俺の事を抱っこしたいという人が増えた。もう本当に……本当に……
でもソラヒデの楽しそうな所が見れたから良いや……そう考えよう。じゃないとやってられん。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part829【TSトレ】
≫19二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 21:30:24
「テイトレ、貴方の着替えは横の棚に置いてあるわ。もしサイズが合わなかったら言って頂戴」
「ありがとうキタトレ、でもさ…」
──狭い風呂場、二人で外の冷たい雨に濡れた体を流している中。テイトレはふと疑問を投げかけた。
「…なんで俺のサイズの……その、下着があるんだ?」
「それはね、いつこのトレセンでどんな体型になるか不明なのと、もしチームメイトを連れてきてもいいようにって所よ」
このトンチキトレセン学園、何度もロリにされる…体型変化させられる…となれば、否応無く備えなくてはいけないのだ。
ついでにチームメンバーを何らかの形で連れて来たり、或いは別のトレーナーに貸し出す事も想定した結果であった。
(横に置いてあったのは普通に特に変哲のない下着…というか、あれキタトレの…明らかに大きいよな…)
「…もしかして、私の下着事情でも気になるかしら?」
「ッ!?」
どう見ても図星な反応を返すテイトレにくすりと微笑むキタトレは、あまりからかう気はないと言いながら語る。
「私、基本的には普通のをつけてるわ。走るの大好きな人達ならスポブラでしょうけど、私は全力で走ることも少ないから」
「そもそも、下着と言っても明らかに影響するほどのなんてそうそうないわよ。何より皆の勝負服の下を考えれば、ね」
…よく考えれば、ウマ娘達の勝負服の構造的にスポブラなんて明らかにあり得ないのまで当然あるのだ。
無論勝負服だから、という点はあるにしろ有意な差が出るかといえば個人差こそあるが…といった塩梅だろう。
「…にしても、テイトレもまだかわいい反応をするわね。一部はそういう話振ると逆にノッてくるのよ」
「寧ろキタトレはなんで平気なんだよぉ…」
「私?『私』は『私』だもの。…それに、テイトレは別にそれでいいのよ。」
「…うん」
…その後二人で寛いだ。
短文失礼しました
朝出たネタよりキタトレの下着の話を聞くテイトレ。彼なら程良くかわいい反応をしてくれるでしょう。
ウマ娘の勝負服、どう見たって下着どうしてるんだこれ…なのもあったりと考えれば割と些細なな事ですよね下着周り。
≫48二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 07:31:36
何かと慌ただしく動くトレセン学園の夕暮れ頃。寮へ帰る生徒や、様々な自主練に励む生徒を横目に待ち人を待つ。
普段から頼りにしているから待たせない様早めに待つ。普段とは相談する内容も異なる故多少相談する内容を整理していた。
ブルトレ 「すみません、待ちましたか?」
転セイトレ 「待ってませんよ、丁度良いタイミングです。……多分」
ブルトレ 「多分?普段とは違う相談と聞いていましたど、何かありました?」
転セイトレ 「ええ、その相談なんですけど。グランドライブって、トレーナーがこっそり出たら不味いですよね」
ブルトレ 「それは、はい。、一大プロジェクトとして立ち上がってますから。……セイウンスカイさんですか?」
転セイトレ 「えぇ、頼まれまして。ニノトレなら踊る事もあるんじゃないかと思って相談を……」
……数刻前……
転セイトレ 「グランドライブ、思ってたより大規模になったけど大丈夫?」
スカイ 「大丈夫、ちゃんと席の予約取ってまーす」
転セイトレ 「予約?スカイも出るんじゃ」
スカイ 「少しだけ出ますよ、今回はお休みです」
転セイトレ 「……確かに出るライブ少ない、よなぁ。ドロワの時も次は観客で居たいって言ってたけど」
スカイ 「そうそう、あの時みたいに好きに動いてって訳にも行かないからねー。セイちゃんは今回観客です、にゃはっ」
転セイトレ 「……そう言えばその事でドロワの時も大変だったな」
スカイがエキシビションを踊ったドロワの件。元のダンスから自分好みにアレンジを加えてようやく納得出来る物になったのはよく覚えている。
元々アッと驚くような姿を魅せた歓声が原動力となっている彼女だ。演出に関しても多少思うところがあったのかもしれない。
転セイトレ 「つまり今回は大きくアレンジ出来ないからお休みって事か」
スカイ 「いやいや、セイちゃんもこんな一大プロジェクトでアドリブしたいだなんて思ってませんよ」
転セイトレ 「はいはい。俺ならこうするって言いたい時もあるよ」
スカイ 「ほほーぅ、ほんとにそう思ってる?」
転セイトレ 「……スカイ?」
スカイ 「ならトレーナーさん、また踊りませんか?絶対アドリブ必要じゃん」
転セイトレ 「大規模な一大プロジェクトでアドリブしたくないって今言ったよね!?」
49二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 07:31:49
……現在……
転セイトレ 「まあ、要するにスカイをその気にさせようとしたら一度掛け合ってと言われまして」
ブルトレ 「大変ですね。……でも私も何も聞いていませんよ。蒼ファルトレさんに相談してみましょう」
……移動中……
蒼ファルトレ「……なるほど、事情はわかりました。つまりウマドルになるんですね!」
転セイトレ 「……そうでしたっけ?」
ブルトレ 「しっかりして下さい。グランドライブでセイウンスカイさんと踊る話ですよね」
転セイトレ 「いや、力強く言い切られたから何か俺の知らない規約とかあるのかと」
蒼ファルトレ「ボーカルレッスンは任せて下さい。ダンスもデジトレさんに頼んであります」
転セイトレ 「ありがとうございます。ただ相談したいのはそもそもの参加についてで」
ウンウンと眼の前で頷くのは蒼ファルトレさん。アイ……ウマドルトレーナーグループのリーダーをしているトレーナーだ。
今回のグランドライブも大きなステージになる以上、何かしらのアプローチは既に行っているだろう。
彼女の担当スマートファルコンは表立ったグランドライブの顔だしここで可否が聞けるかもしれない。
蒼ファルトレ「ええ、その件については既にニノトレとしてライトハローさんへ相談済みです」
ブルトレ 「聞いてませんよ!?」
蒼ファルトレ「ですが、既にスケジュールもだいぶ埋まっていて、今からトレーナーの受付も許可するのは難しいそうです」
転セイトレ 「行動早いですね、じゃあ現状は難しい……」
蒼ファルトレ「なので新しい要望書を作成後改めて相談しようと」
ブルトレ 「何も聞いてませんよ!!?」
蒼ファルトレ「まだ話してなかったからね、でもブルトレにも勿論出てもらうわ」
転セイトレ 「何か大変そうですね」
ブルトレ 「え、ええ……一旦置いておきましょう。兎に角スケジュールが厳しくて許可されないという事ですよね」
蒼ファルトレ「ええ、グランドライブが再興されたこの機会に感謝や気持ちを伝えようって子も多いの。割って入れないわ」
転セイトレ 「……すみません、俺グランドライブの事今回が初耳なんですよね。昔からあったのならその事含めて教えてくれませんか」
50二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 07:33:12
数日後、トレセン学園内にある一室に失礼しますと蒼ファルトレさん、ブルトレさんに続いて入る。
中で待っているのはグランドライブのプロデューサーとして忙しく活動しているライトハローさん。
以前も相談していたというのは本当の様で蒼ファルトレさんの顔を見て資料を取り出しながら彼女は話し始めた。
ライトハロー「グランドライブのトレーナー参加でしたよね。ごめんなさい、スケジュールは再度確認してみたのですが……」
蒼ファルトレ「その事は承知しています。私達の提案はその件に加えてもう一つ」
ライトハロー「はい。……"グランドライブの恒常開催"ですか?」
……遡る事数日前……
転セイトレ 「んー、志もスゴイし一大プロジェクトになっててスゴイと思いますけど」
ブルトレ 「けど、どうしました?」
転セイトレ 「一大プロジェクトなら申し分ないけど、ファンに感謝や想いを伝える為のライブなら今後もマメに続けないといけませんよね」
蒼ファルトレ「ええ、精力的な活動は認知に繋がりますから」
転セイトレ 「……ならこのグランドライブもマメに続けなきゃいけないんじゃ?」
蒼ファルトレ「確かにグランドライブの元々の理念なら規模は小さくても続ける必要はありますね」
ブルトレ 「一回だけではなくライブ数が増えるならトレーナーにもステージが回ってくる、と。ただこのライブの規模を続けるのは難しいのでは?」
蒼ファルトレ「そうね、どうしても規模の縮小は避けられない。けれどこのグランドライブも遺す価値はあるはずよ」
ブルトレ 「ライブの練習自体は生徒の皆さん続けてますから、希望者を募って今宣伝で行っている程度の規模なら無理なく続けられます」
転セイトレ 「……つまり何とかなりそう、ですか?」
ライトハロー「確認しました。現行の宣伝ライブの規模なら問題ないでしょうし、ネット中継で伝える事も今なら可能でしょう」
蒼ファルトレ「ありがとうございます」
ライトハロー「ただ、トレーナー達のライブ参加はすぐに許可を出せるかわかりません。元々生徒が想いを伝える為のライブでしたから」
ブルトレ 「その事ですが、二の矢トレーナーズとは別にもう一つ」
転セイトレ 「はい、セイウンスカイ担当トレーナーから、セイウンスカイの要望書を提出します」
ライトハロー「生徒から?わかりました、今度はきっと良い返事が出来るかと!」
51二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 07:33:30
転セイトレ 「…っぁあー、緊張しました……」
蒼ファルトレ「お疲れさまです、やはり意見具申は緊張しますね」
転セイトレ 「それもありますけど、年が離れてたり、重役って人相手は苦手でして……」
ブルトレ 「最近は見た目で年齢がわかりにくい方も多いですからね、お疲れさまです」
転セイトレ 「でもスカイの希望通りに行きそうで一安心です」
蒼ファルトレ「ええ、これからウマドル頑張りましょうね」
転セイトレ 「……えっ」
ブルトレ 「はい……?」
蒼ファルトレ「折角ライブの機会も出来たし今回はライブの為に動いたんです。一度位私達のライブに出てみても良いのでは?」
転セイトレ 「いや、これはスカイから頼まれたのが理由で……」
蒼ファルトレ「あの時ウマドルの桃になりますって言ってくれたじゃないですか」
転セイトレ 「確かに、桃の妖怪が欲しいと思いましたけれど」
ブルトレ 「待って下さい、何の話をしていたんですか!?」
52二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 07:33:40
おまけ1
ウマドルとしてライブに出るかは兎も角、ボーカルレッスンとダンスレッスンは一度受けていた方が良いと思い練習に参加する事になった。
グランドライブ方式だとドロワの時と違い歌いながら踊る事になる、先に練習が必要とスカイにも伝えてある。
今までのダンスとは違うがペアダンスなら踊った事がある、そう思っていたが──
転セイトレ 「……ッゼェー、……ハァー」
ブルトレ 「セイトレさん、大丈夫ですか……?」
転セイトレ 「……ハイ……なん、とか……」
蒼ファルトレ「歌は踊りながらも概ね歌えてるから、最後まで歌う体力作りが必要ですね」
ブルトレ 「しっかりして下さい、始まる前は自信あったじゃないですか」
転セイトレ 「ゼェー、ゲホェホッ……それは、なんだかんだ生き残れてますから……」
デジトレ 「何その価値基準?ペアダンスも大体踊れてるね、途中バランス崩れてたのは件の足?」
転セイトレ 「えぇ、どうしても動いてる分ある程度過敏になるみたいで」
デジトレ 「じゃあ悪いけど少し一人で歩いてもらえる。状態見て指導しなきゃいけないから」
転セイトレ 「えっ」
蒼ファルトレ「噂だけ聞いてたから、実際に歩いてみて下さい。下マットですから安心していいですよ」
……確かにすぐに支えてくれる人が近くに居ないと踊れないのは要改善点なのだろう。
それにアドバイスを貰えて歩けるようになるのならそれ以上に良い事はない。お願いします、と声を出し一歩踏み出した。
「ふぎゃっ!」「ああやっぱり、大丈夫ですか?」「うぇっ、わぁああ!?」「ドンマイドンマイ、もう一回歩ける?」「ぶぇっふっ!?」「舌噛みました?」
「いたぁ!」「うぎゃっ!?」「ぶふぅぇえ!?」「とっ、ととととぉおお!?」「あーあーあーああああうわぁあああああ!!?」
転セイトレ 「……」
蒼ファルトレ「これは思ったより重症みたいですね」
デジトレ 「アドバイスは聞いて貰えるけど、踏ん張り聞かず勝手に動く事も。ペアダンスじゃないと無理かも」
ブルトレ 「出来ない事がちゃんとわかっただけでも前進ですから……セイトレさん?」
転セイトレ 「……俺、ウマドルの、お荷物ですッ!ブヒィ!一人で、歩けない……!」
──結局、踊るとしてもペアダンスという事になった。
53二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 07:33:50
おまけ2
転セイトレ 「失礼します。ロブトレさんいらっしゃいますか?」
ロブトレ 「どうぞ、お話にあったドレスの話ですよね」
転セイトレ 「はい。既に希望は書き出してあるので一度確認して貰えますか」
スカイからの提案や要望が書かれた資料を渡す。折角ライブに出るのだからドレスの新調を提案され、ドレス作りが趣味のロブトレさんを訪ねていた。
……一応スカイにドレスを着てもらおうと思っていたが、転びそうな相手を支える、抱えるならこっちの方が映えるらしい。解せぬ。
納得できない事でもあるが、その時に要望も聞けたので希望は叶えられているのだろう。……多分。
出来る、出来ない、少し変わるが出来ると要望書に対してロブトレさんが答えてくれている。希望だけで終わらず現実に出来そうで良かった。
ロブトレ 「はい、ではこの通りに作りますね。完成を待ってて下さい」
転セイトレ 「ありがとうございます」
ロブトレ 「ところで転セイトレさん、何かお姫様が出てくるお話が好きだったりしませんか?」
転セイトレ 「え、……読書は参考書や教本が主ですね。文学には疎いと思います」
ロブトレ 「あれ、そうなんですね。でしたらドレスが好きなんですか?」
転セイトレ 「……ん、んん?待って下さい。俺の印象どうなっているんですか?」
ロブトレ 「ダンスの機会の度にドレスで踊ってらっしゃるので、どんな物語に影響されたのか。ドレスが好きなのかと思いまして」
一瞬理解が追いつかず硬直してしまった。然しそんな印象になるのか、今までの機会を思い返してみる。
- 何時かのダンスパーティー、ブルトレさんが男役で俺はドレスを着ての参加
- リーニュ・ドロワッド、生徒主体のイベントに正体隠してドレスで参加
そして今、生徒主体のライブに要望書を出してドレスのデザインに要望を出している。
──自分の事ながら、ドレスを着るのが好きな人と思われても仕方ない気がしてきた。
54二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 07:34:05
転セイトレ 「……すみません、俺はドレスが好きって言う訳では……」
ロブトレ 「そうなんですか?」
転セイトレ 「ええ、これはスカイの希望です。皆さんと同じで担当のちょっとしたお願いを聞いてるだけですよ」
ロブトレ 「なるほど、でしたら張り切らないといけませんね!似たドレスの試着もしてみませんか」
転セイトレ 「試着?あの、ドレスですよね?時間すごくかかる……」
ロブトレ 「はい、着て貰ってわかる事もあるので。お化粧もあまりされてませんから合うもの探してみましょう」
転セイトレ 「流石に恥ずかしいと言うか、試着や化粧試すのって必要なんで」
ロブトレ 「はい!」
転セイトレ 「なら、お願いします……?」
──帰るのは日が暮れる頃になり、化粧や服装にかける女性の力の入れ方はスゴイと思った。
蒼ファルトレさん、ブルトレさん、デジトレさん、ロブトレさんお借りしました。
初めてエミュする人多くてだいぶ自信がありません。どうしてこんな一気にやった。
元々はグランドライブの話ちょっととブヒィ!パロをやりたい位しか考えてなかったのですが、
グランドライブシナリオの気になった点を個人的につついたらこんな感じになりました。シナリオ超良かった。
気が抜くと最近文章が増えたり、おまけ生やしたくなります。筆が遅いのに量ばかり増える……。
しれっと最後にロブトレさんを元々女性と勘違いしてますが転セイトレは記憶喪失の影響で元の性別を良く話す相手意外わかっていません。
後書きも此方で以上です。
≫62二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 11:58:16
───トレセン地下帝国
私はトレセン地下帝国…要するに世間一般には出せないようなムフフなトレーナー本や健全な妄想本、少し独特なトレーニング本まで何でも揃うトレセンの闇市に参加…それも作者として参加しているトレーナーだ。
ちらり、と机に積まれた扇情的な表紙を見る。
我ながらかなりの出来だと思うソレは、マンハッタンカフェのトレーナーの一人、タバコが無数の半透明な手にカラダを撫ぜられているイラストだった。
厚いパーカーはとっくに手首の辺まで下ろされ、黒いヒートテックは手によってアバラ付近まで持ち上げられてその不健康的なカラダを晒している。
ショートパンツにも手を掛けられ、下着の端がチラリと見えるくらいに引きずり下ろされていて、その虚のような瞳には屈辱からのほんの少しの涙と、僅かに朱の指した頬が愛らしい。
そしてその素肌を、半透明の手に塗られたヌトリとした液体が舐め尽くしているのだからたまらない。
…うん、おかしいだろう。
ナマモノ…それも同僚のRで18な同人誌を出してしまうのはおかしいに違いない。
だが…これは非常に危険な発言なのだが………
だ゙っ゙でじょ゙ゔが゙な゙い゙じ゙ゃ゙な゙い゙が
ダバ゙ゴざん゙が゙ど゙エ゙ッ゙ヂな゙ん゙だ゙がら゙
63二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 11:59:01
正直、男性の頃から知っている身としては初めは違和感が隠せなかった…
その頃は彼/彼女も擦り切れて今以上に目が鋭かったし、あまり良い印象を受けなかったから…
しかし、担当との三年間で彼/彼女に変化───性別だけではなく───があったらしい。
それ以降、マンハッタンカフェだけではなく…様々な人と関係を持ち始めた。
性別が変わったこともあって、イメージが一新したのもあったのかもしれない。
………私のきっかけは執事喫茶という何故かトレーナーがメインの出し物だったが…
そこで私の性癖はグチャグチャにされた。
最も、私と同じく彼女に狂わされた者が多いのはこの同人誌の売れ行きが示している。
わかるよ………えっちだもんな……………
さて、残り数冊…となったところで
「失礼、席を貰えるかな…?
ずっと立っているのは辛くてね」
と穏やかな…ハスキーで、少し嗄れた…ここで聞くはずのない…むしろ聞こえてはいけない声がした。
目線を上げ、ガタガタガタッと席ごと後ろに後ずさる。
溢れ出る冷や汗。
先程まで自分が座っていた椅子を慌てて差し出す。
そこに居たのは───
「ありがとう…我儘を言ってすまない」
我らが同人誌の主人公、タバコさんその人だった。
64二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 11:59:44
彼女はゆっくりと私の同人誌に手を伸ばし…
1ページ1ページ、吟味するようにゆっくりと捲っていった。
なるほど、これだけの時間立っているのは彼女には辛いだろう………
そう頭のどこかで考えながら、バクバクの鳴る心臓を押さえつけようとする。
「………うん、」
「わぁぁぁあっ!!!ごめんなさい!!」
謝罪、それしかあるまい───
そう考えた刹那。
「よく出来てるよ。一冊もらおうかな?」
「はぇ………?」
「ふふ、流石にこんな魅力のない…私の……その、えっちな漫画が出るとは思っていなかったけれど。
キミなりの拘りをこの漫画からは感じた。
………素人の意見だけどね?」
「アッえっと………あ、ありがとうございます!」
うん、とだけ頷き彼女は私の手のひらにお金をピッタリ渡してくる。
夢でも見ている気分だ………
「あ、それとこれは差し入れだよ」
「ワ…ァ…あ、ありがとうございます!!」
渡されたのはinゼリーとカロリーメイト。
彼女らしいな…と思いつつ、差し出された物を受け取ろうとして───ぐい、と引き寄せられた。
65二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 12:00:14
完全に不意をつかれたその耳元に───
「これは、ちょっとしたアドバイスだけど───
私の胸は、もう少しだけ大きいよ?」
染み入るようなハスキーボイス。
目を向けると、私の漫画より…更にほんの少し赤い、麗しい彼女の恥ずかしげな笑顔があって…
パッと手を離され椅子に戻されたとき、私の魂は体から抜け出ていた。
(踵を返す時にはもう頬の赤みが引くんだ…)と、どこかふんわりとした思考をしながら。
地下帝国に一人の、灰になったトレーナーが生まれた───
≫74二次元好きの匿名さん22/09/09(金) 12:22:48
「ん?あれは…」
「よし、それじゃハヤヒデ、今からソラヒデと交代するから撮影頼む」
「分かった」
ちびハヤトレか、ソラヒデの走りのビデオを撮ってるみたいだな。
なんとなく一部始終を見ていると、撮影を終えたハヤトレが話しかけてきた。
「おうブラトレ、お疲れ。どうしたんだ?」
「いや、なんとなく見てただけだ」
「そうか。あ、後で用あるからトレーナー室に来てくれないか?」
「分かった」
俺は書類を適当に片付けてからハヤトレの元へ向かった。
「おう、来たぞ」
「お疲れ。今度のこのイベントの件なんだが…」
打ち合わせを終えた後、少し休ませてもらう事にしてソファーに座ると、テレビに先程撮ったビデオが映し出されている事に気づいた。
「これさっきの奴だよな?」
「ああ。お前が来るまではこれ見てたんだよ」
走りには妥協しないハヤトレだ。ビデオを見て分析している辺りは流石。
「そうか。分析してみてどうだった?」
「ん?これ分析の為に撮った訳じゃないけど」
「え、じゃあなんの為に撮ったんだよ」
「ソラヒデが一生懸命走ってるのを見るのが楽しいからだけど。かわいいだろ?フォームはめちゃくちゃだけど頑張りが伝わってくるから100点」
前言撤回。こいつただかわいいと思ってるだけだ!
「いや、わざわざ撮ってまで見るか?」
「だって俺はソラヒデが走ってる所直接見られないし。仕方なかったって奴だ」
分かんねえよ。いやかわいいのは分かるけどそこまで入れ込むのが分かんねえ。
「お前、ウマソウルの侵食こそ受けてないけど影響はむしろめちゃくちゃ受けてる側じゃねえ?」
「…確かに。でもソラヒデが楽しければ俺は幸せだよ」
「完全に親目線!」
ただの保護者と化したハヤトレに突っ込みきれなくなった俺は休むのを早々に切り上げて帰った。
≫115二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 00:54:11
どこまでも朱い空が広がっている、金色の野原。
周りの芒だと思ったものは、よく見ると穂が水晶のようになっており、夕風に揺らめき暮照に煌めいている。
逢魔が時とはよく言ったもので、
地平の彼方に融けていきそうな夕陽が放つ光を受けて、果てなく伸びていく自分の影を見れば、
幽世と現世をこの影が繋いでしまいそうで。思わず目を反らす。
夢だということは分かっていた。
何故だかは分からないが、確信していた。おそらくそれこそ夢の証明なのだろう。
草と晶粒が擦れる音がして、見れば栗毛長髪の少女が佇んでいた。
どこか、面影を感じる。
こちらと目が合ったのに気が付いた少女は、徐に藪をかき分け進み始めた。
彼女が歩む度に結晶芒が鳴らす音が、どこか鈴の音のように聞こえる。そう思えば、風の音も、洞の中でも無いのに笛の音のように思えてくる。
やがて緩やかな坂を下り辿り着いたのは、近づくまでまるで気が付かなかった絶壁。
なんてことのない岸壁のはずなのに、前に立つのも憚られるような畏れを抱かされる。
バリケードテープにも、仰々しい札にも見えるものが、何かを塞ぐように聳える巨岩を覆っていて、
その直上に、大きな大きな注連縄が巻かれている。違和感。
左右には、見たことのあるような物品の数々が、堆く積まれている。
崩してはいけないような。あきらかにそんな価値もないような物たちが、妙に愛おしく見えた。
目を遣れば、くすりと笑った少女が岩に透けて消えていく。
そして。地響きとともに目の前の岩がまるで道を開けるかのように動き始めた───
≫124二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 08:57:28
『ゆめにりくつをもとめてはいけない』
「おう聞いてくれマルトレ、今朝めっちゃ変な夢見た」
「どうしたブラトレ、大体走ってる夢ばっかり見てるんじゃないの?」
「いやそんなわけないぞ、たまに寝ても覚めても走るばかりのスピードジャンキーみたいに人は言うが」
「じゃあその変な夢とやらを教えてもらおうかな」
「まず変な生物が干からびてる」
「のっけから意味不明!」
「それをなんか知らん人が水の中に投入する」
「ふむふむ、俺の頭にヘドロの中から生まれたなんかとタイムワープしてきた変な卵が思い浮かんだんだけど」
「安心しろ、その傾向で合ってる。水に浸かった干からびたなんかは見る見るうちに成長して、その知らん人とかなんやらを手当たり次第に貪り食ったと思う」
「ヴァアアアアやめろグロホラー系の夢じゃねえか! 叫ぶぞ!」
「もう叫んでる! まあそのシーン自体は見てないから憶測だけど。で、なんやかんやででっかくなっていろいろ遺伝子も吸収してよくわからん塊になって地球が滅ぶ」
「今日日打ち切り漫画でももうちょっと段階踏まない?」
「そして地球を追い出された人類が反撃のために、一隻の宇宙戦闘機を地球に差し向けた!」
「……昔懐かしシューティングゲームの冒頭かな?」
「うんたぶんそんな感じ。おかしいなあグラ〇ィウスR-TY〇Eとか最近遊んでないんだけど」
「じゃあ最近発売されたアレが原因なんじゃないの?」
「いやそれ遊んだのは確かだけど寝た時にはその情報知らなかったし」
「……予知夢かぁ」
「やめろ気軽に地球を滅ぼすんじゃない」
「いやほら急に変な光がカッとなってテーレッテーとか可能性あるじゃん」
「……俺の後ろから迫ってきてるこの青緑色の光みたいに?」
「あ──」
「いや私の顔光で世界が滅んだらいろいろと困るんだけれど」
「そりゃそうだわ」
「タキオンが作った薬によってタキトレが地球滅亡のトリガーになってしまったことには、この時はまだ誰も気が付いていなかったのだ……」
「余計なフラグを立てるんじゃあない、マルトレを宇宙戦闘機で謎の肉塊に差し向けてやろうか」
「マジで勘弁、恐怖で何もできなくなりそう」
そのあと3人でシューティングゲームを遊んだとか何とか。うまぴょいうまぴょい。
≫174二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 18:50:48
『ちびハヤトレ執事喫茶』
「お帰りなさいませ、お嬢様。こちらの席へどうぞ。ご注文はよろしいでしょうか?」
「え、えっと……それじゃあ、砂糖多めの紅茶とアップルパイをお願い出来るかしら」
「わかりました、紅茶とアップルパイですね。すぐお食事をご用意するので、シェフにお伝えしておきます。何かあれば、テーブルのベルでお呼びください。すぐに参ります」
「あ、ありがとう……」
俺は裏のキッチンへ周りマヤトレに注文を伝える。
「紅茶とアップルパイ頼む。紅茶は砂糖多めな」
「分かった。それにしても、お前こんな特技あったのな。所作も完璧だし」
「前職営業だしな。それなりに良いとこだったしマナーは必須よ」
「なるほどなあ。ギャップ萌えか知らんけど客が黄色い声上げまくってるぞ」
「いやー、正直これなら悪い気はしないな。優越感あるし」
「うわあ、悪い笑顔してる……」
「何か文句がおありでしょうか、御主人様?」
「それやめろ。一瞬で表情を完璧に戻すんじゃない」
「仮面を顔に付けるのは慣れてるしな」
「ついでのように闇を話すのもやめろ。はいこれ、紅茶とアップルパイ」
「サンキュ、届けてくるわ」
俺は適当にマヤトレをおちょくってから席に注文の品を届ける。
「紅茶とアップルパイです。ごゆっくりお過ごしください」
「あ、ありがとう……」
顔がちょっと赤くなっているのを見てちょっとテンションが上がる。自分でも現金だなーと思いつつ、そんな事はおくびにも出さずに仮面を張り付けて接客を続けていくと、ドアが開いた音がしたので急いで向かう。
175二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 18:51:26
「いらっしゃいませ、お嬢……さ……ま……?」
「ああ、トレーナー君……いや、今は執事か。案内を頼むよ」
待て待て待て、なんで居るんだ。ハヤヒデこういうの来ないだろ。あ、ニヤニヤしてる、これ分かってやってるわ。
「……こちらのお席へどうぞ」
「ありがとう」
冷静を装うが正直内心焦りまくっている。なんかこう、ハヤヒデの前でこういうことやってると凄く落ち着かない!
「えー、お嬢様。ご注文はよろしいでしょうか?」
「それでは、このラブラブきゅんきゅんパンケーキをお願いしようかな」
よりによって一番復唱しづらい奴!よく素面でこんなもん頼めるなお前!
「……えー、ラブラブきゅんきゅんパンケーキですね。すぐにご用意します」
「……ああ」
いやちょっと顔赤らめてるんじゃねえよ!なんで自分で頼んどいて恥ずかしくなってんだよ!誰も幸せになってねえぞこれ!周りの視線が痛い!内心でのツッコミが止まらないが、とりあえずマヤトレの元へ向かう。
「あー……例のパンケーキ頼む」
「え、あのネタメニュー頼む奴居たの?あれちゃんと全部読み上げないと注文出来ない勇者向けの奴だろ。誰が頼んだんだ?」
「……ハヤヒデ」
「は?」
「ハヤヒデだよ!俺も何でかは知らん!」
「マジかよ、全然そんなイメージ無え……」
「俺が一番びっくりしてるわ。周りの目線が痛くてしょうがない。とりあえず出来たら声掛けてくれ」
「あいよ」
俺は戻って接客を再開するが、周りが明らかにザワついていてやりづらい。しかも肝心のハヤヒデは少し赤面して俯いてる。なんで頼んだんだよ!後で問い詰めなければ。
結局、その後は特に何も事件は起こらず執事喫茶は終了したが、執事喫茶の再開催要求が何件も届いてるらしい。絶対もうやんないけど。
後でハヤヒデに問い詰めてみたところ「たまにはトレーナー君をからかってみようと思ったのだが、自爆してしまった」とのこと。結局誰も幸せになってない……辛い……
ちなみにマヤトレに立場の扱いに苦しんでるのは同じだから分かるよ、と慰められたがそれは傷の舐め合いでは?と思ったが黙っておいた。……今度飲みにでも誘おうかな。かわいそうだし。
おれバカだから言うっちまうけどよぉ…part830【TSトレ】
≫11二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:11:54
───起きて、お兄ちゃん。
───ん…カレンか。どうしたんだ、そんな近くで。何か俺の顔に付いてたか?
───ううん、そうじゃないの。ただ…。
───ただ?
───今のお兄ちゃん、なんだかお姉ちゃんになったみたいだなぁって。
スマホの着信音で目が覚める。奇妙な夢の感覚はまだ残っていたが、ゆっくりと思い返している暇はなさそうだった。おぼつかない手をばたばたと動かしてなんとかスマホを掴むと、相手をしっかり見もせずに通話に応じる。
「もしもし」
「…お兄ちゃん?」
「ああ、カレン。どうしたんだ?」
「えっと、そろそろトレーニングの時間なのに見当たらないから連絡してみたんだけど…」
「………。あっマジだ!ちょっと寝すぎた!トレーナー室に居るから今すぐ準備して行く!すまない!」
「う、うん。お願いね。…あの、お兄ちゃん」
「どうした?」
「変なこと聞くかもしれないけど、お兄ちゃんだよね?」
「…?当たり前だろ、他に誰がいるんだ?」
「うん、そうだよね。そのはずなんだけど。なんか声が全然普段と違うから…」
「声?そういえばさっきから女の人の声が、俺の近くから…」
まるで俺自身が話してるかのように聞こえて───と、そう言おうとして。
「───切れちゃった」
突然にして通話は切れてしまった。かけなおしてみても出る気配はない。ということはお兄ちゃん自身が意図的に切ったということで。
「これは、事件の予感!」
色々と可能性はあるけれどまずは行って確認してみないと。幸いにもトレーナー室に居るという情報は得た。急げばきっとまだ間に合う!…何に間に合うのかは分からないけど!
「待っててね!お兄ちゃん!」
「…マジで、誰?」
窓に映った自分(と思われる)姿を見て俺は絶句していた。こんなウマ娘俺は知らない。そもそも俺以外にこの部屋には誰もいないはずで、だとするとこれは俺っていうことになって、ということは俺が男から女にってことで…。あんな夢見たからってこんなことになるか普通!?
カレンが心配していた声についてもすぐに分かった。他ならぬ俺自身の声が女性のものに変わっているのだ。寝ぼけていて今になるまで全然気づかなかったけれど!
しばらく自身の状況が呑み込み切れずに呆然としていると。
12二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:12:35
「お兄ちゃーん!助けに来たよー!!」
ドアの外から聞きなれた担当ウマ娘の声がした。いや助けにって何!?そんなこと俺頼んだっけ!?
何はともあれ今この姿を見られるのは非常にまずい!自分で何も冷静に把握できてないのに他人にどう説明すればいいかなんて分かるはずもない。すまないカレン、気持ちはありがたいけど今はとにかく一旦一人にさせてくれ!
「開けるよー…ってあれ?鍵かかってる?」
なんとかカレンに退いてもらわねば。
「お兄ちゃーん?いないのー?なんで電話切っちゃったのー?」
どうする?ここでまた変わってしまった声を出せばますます混乱が増してしまう。なんとか声を出さずに意思を伝える方法…。あれしかない!
思いつくや否や急ぎスマホを取り出して過去最高のスピードで文面を打つ。
『ごめん、急にスマホの電源が切れちゃって』
「今LINE送ってきてるのに!?」
『ととにかく!ちょっと事情を抱えてるんだ。今日のトレーニングは中止で。後で必ず説明するから、一旦ここは退いてくれないか』
「えぇー、そう言われると余計に気になるなー」
『頼む!あとで何でもするから!今だけは!』
「………うん、分かった。じゃあお兄ちゃんを信じてカレンは撤退します!約束守ってね!絶対だよ!じゃあまた明日ね!」
その言葉を最後に、部屋の外からカレンの気配は消えたようで、とりあえず凌ぎ切ることはできたらしい。
さて。これからしなければいけないことは…。
「着替え、か…」
ただの女性に変わるだけだったらまだしも(いやそれも十分おかしい)、ウマ娘の姿を取ってしまったせいで今の服が着れなくなってしまった。サイズもぶかぶかでこのままでは部屋の外に出歩けない。誰かに相談するにしてもまずはこの部屋の外に出なければ始まらない。とれる手段は何かないか…。
「………」
部屋を見渡し、とある一点に目が留まった。躊躇いながらも手を伸ばし、いやそれはどうなんだと葛藤し、でもこれ以外に方法は無いと再び手を伸ばし…。いやでも、これではまるで…。
「ああっもうっ!どうにでもなれ!」
13二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:13:18
しばらく身を潜めること数分。トレーナー室のドアがようやく開く。
詰めが甘いよお兄ちゃん。どうしても隠したい事情があるなら、ドアじゃなく窓から外に出るべきだったね。とそんなことを心の中でつぶやきつつ、出てくる人物の姿を凝視する。
「…わぁ、そういうことかぁー」
お兄ちゃんがいるはずのトレーナー室から出てきたのは、不安そうにしきりにあたりをきょろきょろ見ているウマ娘だった。学園指定のジャージを着てこそこそと恥ずかしそうにどこかへと歩いて行く。困った、今までのお兄ちゃんもカワイかったけど、あのお兄ちゃん(推定)もけっこうカワイイ。とお兄ちゃん(暫定)に気を取られていたら。
「…なにしてるの、あなた」
「わっ。もうっ、驚かさないでくださいよアヤベさーん」
「あなたが不審な動きをしているからでしょ。…見ない顔ね。あの子がどうかしたの」
「うーん、そうなんですよね。どうにかなっちゃってあんなことになってるっぽいんですけど」
「訳が分からないわ」
「カレンもそれを調べてるんです。失礼しまーすっ」
「ちょっと、勝手に入っていいの…?」
鍵を閉めていかなかったからドアは普通に開いた。予想通りだったけれど、さっきお兄ちゃん(多分)が出てきた部屋には誰もいない。もしかしたら、私も知らない担当している子がお兄ちゃんに実はいた説もないわけではなかったけれど違ったみたい。
「そういえば、アヤベさんのトレーナーさんも、でしたっけ」
「?」
「ウマ娘になっちゃうトレーナーさん。トレセン学園で増えてるみたいじゃないですか」
「…『も』って、まさかとは思うけれど」
「状況証拠だけですけどねー。よし、調査終わりっ。あとは直接話すだけかなっ!」
14二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:13:44
勢いで部屋に置いてあった予備の学園ジャージを着て飛び出してきたはいいものの、さて、そもそも俺は何処に行こうとしているんだったっけか。というかこの格好、本当にいけないことをしているみたいで胸の内がざわざわする。全く落ち着かない。同じトレセン学園のはずなのに、なんだか知らない場所に来たようなそんな気さえしてしまう。
たづなさんあたりを探してみるか。それとも知り合いのトレーナー仲間にあたってみるか。俺だと信じてもらえるかは微妙な所だが、前例がそれなりにある以上、そこまで疑われるようなことはないと信じたい。あとはカレンにどう説明するかも考えないと。
とぶつぶつ考えながらあてもなく彷徨っていたら。
「あのー、すみませーん」
「は、はい。なんでしょうか…って、えっ」
「? カレンの顔に何か付いてます?」
「い、いえ、べべべべ、別に…」
よりにもよって、カレンとエンカウントしてしまった。というかなんで見慣れたはずの相手にこんなに緊張してるんだ俺!
「えっとね、カレン、トレーナーさんを探してるの。この人なんだけど、見てないかな?」
そうして俺の顔写真(男だった頃)を見せてくる。もちろん知ってる、なんたって俺自身なんだから。でもこの場合どう答えるのが正解だ?カレンから今の俺は学園の一般生徒Aとして映っているはずで、それが急に「俺がそのトレーナーだ」などと言い出そうものなら頭おかしいと思われて終わりだ。でも安易に知ってますとも言えない。だってその顔のトレーナーは今どこにもいないし!
「し、知らない、です…」
「そっかー、残念。ごめんね、突然聞いちゃって。ありがとうございましたー」
そう言ってカレンは笑顔で手を振って去っていく。
15二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:14:22
かに思われたのだが。
「あっ、でもカレンさっき見たの。トレーナー室から出てくるあなたの姿。でも見間違いだったのかなー?」
そういじらしく、まるでこちらを試すかのようにカレンは続けた。
え、マジで?見られてた!?どこから、どこまで?
いや今はそれよりもどう切り抜けるかだ。やっぱり一か八かで本当のことを言ってみるか?いや、絶対に無理だ。言えるわけない。意地も少しだけあるけれど、もうこの状況が恥ずかし過ぎて言い出せない。でも、でも、どうする、どうする俺!
「…見間違えじゃないです。カレン…さん、が見たのは確かに俺だと、思います」
まともに思考の回らなくなった頭で、この窮地を脱するために言葉を絞り出す。
「…実は。お、おれが…。いや、私…?が…。カレンさんの」
カレンは表情を崩さない。いつものカワイイ表情で、こちらを見つめてくるだけ。
「トレーナー………
の妹なんですっ!」
「うんうん………んん?あれっ?」
「カレンさんのお話はいつもお兄ちゃんから聞いていて!今日はお兄ちゃんにも内緒で遊びに来てたんです!お兄ちゃんにウマ娘の妹がいたなんて意外でしたか!?あははよく言われます!勝手に電話とか出ちゃってごめんなさい!ジャージも借りちゃってごめんなさいトレセン学園のジャージ着てみたかったんです!お兄ちゃんなら今日はちょっとおなか痛いって言って帰りました治ったらすぐに戻るからカレンによろしくって言ってました!知らないって嘘ついちゃってごめんなさいそれでは!!会えてうれしかったです!!!」
困惑しているカレンをよそに訳の分からないことを言い続け、言い終わった瞬間に脱兎のごとく逃げ出した。少しだけ、こんなに早く走れるのってすげぇって感動していたりしていたら、勢い余って顔面からすっ転んだのは流石にカレンに見られていなかっただろうか…。
16二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:15:11
「トレーナーさんとは、話ができたのかしら」
「はい、もちろん!ちょっと思ってたのと違いましたけど、でも、これはこれで面白くてカワイイからしばらくは良いかなって!」
「…なんだか今日のあなたは本当に楽しそうだわ」
「そうですかね?そうかもしれないです!」
さて、明日はどんなお兄ちゃんが見れるかな!
「やべぇ、取り返しのつかないことになった…」
最後の最後で爆発した。思い出さなくても恥ずかしくなるくらい迫真だった。今は男ではないとはいえ、勢いだけであんな発言が飛び出る自分に恐ろしさを感じる。なんなんだ妹って。そもそも俺に兄弟はいない。
そしてそのおかげで状況がさらに混沌としてしまった。今日寝て起きたら男に戻ってました、とか、実はこれも少しリアルな夢でした、とかで終わればそれ以上のことは無いが、そうでない場合、俺はこの姿で、自称『カレンチャンのトレーナーの妹』として振舞わなければならない。幸か不幸か、思いつく限りの中ではそこそこ筋の通った嘘で、カレンには正体がばれなかったのだから。
課題は増す一方だ。トレーナー不在となったカレンのことも今まで通りに見ていかなければ…。
頑張れ、俺!いつか姿が元通りになるその日まで!多分きっとなんとかなるはず!
『正体がバレてないと思っているウマ娘になったお兄ちゃん(お姉ちゃん(妹))VS全部知ってるうえであえて黙って楽しんでるカレンチャン』概念
───多分続かない
≫27二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:53:14
ライスシャワーとお爺さま
のんびりとした午後の一幕
数冊ほど積まれた本から一番上の本を取り、パラパラっとページを捲り読み進めていく。
担当ウマ娘のライスシャワーが持って来た絵本なのだが、これがまた案外面白いものだ。
……さて、コーヒーでも淹れようか。
読書のお供に一杯のコーヒーでもと思い席を立った時、控えめなノックが扉から聞こえてきた。
「……どうぞ、開いているよ」
「し、失礼します」
そう言って静かに入って来たのは先程読んでいた本の持ち主であり大切な担当ウマ娘であるライスシャワー。
そしてそんな大事な娘の手には一冊の本が抱えられていた。
「あの、お爺さま……お時間は大丈夫?」
「うん、僕は大丈夫だよライス……今日はどんな本を持って来てくれたんだい?」
「えっとね、今日はロブロイちゃんにお勧めされたご本なの」
「ライスのお友達の娘がお勧めした本……という事は英雄譚かい?」
「ううん、この本だけど英雄譚じゃないみたいなの」
「ほう、どれどれ……『東からの黒い挑戦者』……か」
「ライスとどこか似ている主人公のお話だから、きっと気に入るからって渡してくれたの」
「なるほどね……それじゃあ、今日はこの本を読ませて貰おうかな」
「うん!」
「さて、ライスはいつも通り膝の上に座るのかな?」
「ライスが座っても良いの?」
「良いとも、寧ろ楽しみにしているくらいさ……孫は座ってくれなくなったからねぇ……」
「お、お爺さま、元気を出して!」
……まるで孫みたいなライスと僕。
一緒にトレーニングを頑張り、ライスを膝に乗せて一緒に本を読む。
そんな日々は、ライスが僕の手を離れるその時まで続くのだろう……そう思っていたんだ。
28二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:53:39
宝塚記念
年末の有馬に対する夏のグランプリレース
僕はこのレースにライスと出場する事に決めた。
それがこの大変な事態の切っ掛けとなったのは間違い無いだろう。
ライスは春の天皇賞を勝ち、体調も万全。
そして幸運な事に今年は例年開催される阪神レース場が工事で使えない為にライスが得意な淀のレース場での開催だ。
普段はあまり運が良いとは言えな僕達だが、どうやら幸運が巡って来たらしい。
この機会を逃す手は無いだろうと思ってのエントリーだったんだ。
そして宝塚記念当日。
「お爺さま……ライス、行ってくるね」
「頑張ってね、僕も応援しているよ……でも、無理はしない様にね?」
「うん!」
そうやってライスを送り出して、僕はライスのレースを見る為に観客席へと向かおうとした……その時だ。
「…………っ!」
謎の激痛が僕の左腕を襲ったんだ。
「くっ……!」
これは不味い……
あまりの激痛に意識さえも朦朧とするのを感じつつ、せめて控室まで向かおうと何とか足を進める。
さっきまで選手の見送りに来ていた人達は何処へいったのか……こんな非常事態に限って周りに人が居ないなんて……
そしてなんとか控室へと辿り着き部屋に入った直後、僕は激痛に飲まれ意識を失ってしまった……
29二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:53:54
……お……て……
……誰かが呼んでいる気がする。
……きて……きてくだ……
きて……来て?
何処に向かえば良いんだい? ……三途の川は見当たらないよ?
「お、起きてください!」
「ほわぁ!?」
「ひゃぁ!?」
「え? あっ……ごめんねライス、驚かせちゃったね」
どうやら起こそうと声を掛けていたのはライスだったらしい。
この歳だ、あの激痛で意識を失ったまま三途リバーを渡る事になるかと危惧したがそんな事は無かったらしい。
そういえば左腕の激痛も無くなっている、何だったのだろうか?
……いや、そんな事よりも言う事と聞く事が有る。
「お疲れ様ライス、それで……本当に申し訳ないのだけどレースの結果を教えて貰えないかい?」
「え? えっと……ええっと、ライスは勝った……よ?」
「……!」
良かった、勝てると踏んではいたが実際に勝てるかどうかは別の話だ。
自分の目でレースを見れなかったのは残念だが、ライスの口から勝利した事を聞くだけでも嬉しいものだ。
「わーい! わーい! ライスなら勝てると信じていたよ! ……ん? あれ?」
……ライスが勝てたのが嬉しくて『ライスなら勝てると信じていたよ』と、ライスを褒めようとしたんだ。
しかし、何故か口から出た言葉はかなりハイテンションな物。
「ふぇぇぇっ!? 何でこんなオーバーなリアクションを!? ……ふぇっ!?」
そして驚きながら口に出した言葉もオーバーリアクションなもの。
……明らかに何かがおかしい。
30二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:54:06
「あの……」
「ん? おっと、ごめんねライス」
そんな自身の口から出る言葉が想定よりも大きいリアクションな物になっているのに戸惑っていると、ライスがおずおずと話し掛けて来た。
「どうしたのかなライス?」
「えっと……ライスが間違っていたらごめんね? ……その…………お爺さま……だよね?」
「? うん、僕はライスのトレーナーだよ?」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
……いったいどうしたのだろう?
僕がライスのトレーナーかなんて確認を取る必要が有ったのだろうか?
……そういえばライスってあんなに身長は高かったっけ?
「お、お爺さま! この鏡を見て!」
そう言ってバックから取り出して来たであろう手鏡をライスは僕に向けてきた。
ちゃんと手鏡を持参しているなんてライスは偉いなぁ、何て事を考えながらライスの向ける手鏡を覗き込んでみると……
「おや、可愛らしいウマ娘の子だね」
鏡にはライスと同じくらいの小さなウマ娘の子の顏が映り込んで……
「…………これ、僕ぅ!?」
覗き込んでいる鏡に映れるのは当然だけど僕自身な訳で……つまり気が付いたら僕はウマ娘になっていたという訳だ。
遂に僕にも来たかぁ……
31二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:54:19
「えっと、お爺さま? お体は大丈夫?」
ちょっと……いや、結構がっくりきていた僕を見かねたのだろう。
ライスが話を先に進めようと聞いて来てくれた……強くなったねライス。
「身体か……」
実は先程からずっと気にはなっていた事が有る。
僕が気絶する原因となった左腕の激痛、それ自体は無くなっているのだが……
「左腕があまり動かないね」
「ええっ!?」
どうやらこの姿になってから左腕に麻痺が少し残っているらしい。
……きっとあの激痛と無関係では無いのだろう。
「お、お爺さま? そ、その左腕が動かないって……」
「どうやら少し麻痺しているみたいだね」
「…………」
「ライス?」
「ライスがお爺さまを不幸にしちゃったのかな……」
「ふぇっ!? ……んんっ……そ、そんな事は無いよライス、一体どうしたんだい!?」
「ライスね、レース中に足に違和感を覚えたの……」
「!? ちょっ、ライス! 足を見せなさい!」
「ま、待って違うの! ライスが違和感に気付いたら違和感が無くなっていたの!」
「無くなっていた?」
「うん、それがもしかしたらお爺さまの腕の原因なんじゃって……」
……はっきり言って突拍子も無い発想ではある。
しかし色々な怪奇現象が起こっているトレセンの内情を見るに否定も出来ないだろう。
それに不思議な事なのだが、この左手は何かを護った証……そんな気がするのだ。
32二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 21:54:34
「……ライスを護れたのなら僕はそれで良いよ」
「でも……!」
「子供の為に身を張れるなんて爺冥利に尽きるというものさ」
「お爺さま……」
孫の様に可愛がっていたライスの身代わりになれるなら左腕の麻痺など軽いものだ。
ライスの脚の違和感と僕の左腕の激痛と麻痺に関係性は証明出来ていないけど、大事な担当を護れたと思った方が何倍も良いに決まっている。
そう思いながらライスの頭を右手で撫でてあげる……こちらの手が麻痺しなくて良かった。
……どうやらライスも落ち着いたみたいだね、それじゃあ行動に移すとしようか。
「さて、ライス。 たづなさんに相談に行かなきゃね!」
「あっ、えっと……その前にね、お爺さま?」
「うん、どうしたんだい?」
「その……お爺さまは、とっても小っちゃくなっちゃったよね?」
「そうみたいだね……ライスと目線が同じくらいになったようだよ」
さっきまで170は有ったのに、今ではライスより一回り小さくなってしまった様だ。
周りが全て大きく見えるし、これからの生活は大変かもしれないな……
「それで、お爺さまが着ていたお洋服なんだけど……」
「僕の服?」
今日の僕の服と言えば、お気に入りの燕尾服だった筈だ。
僕の身長に合わせた紳士らしい燕尾…………身長に合わせた?
そうして一つの可能性に気が付いた僕は視線を下へと向け……
「ラ、ライスので良かったらお洋服着る?」
「ふぇぇぇっ!?」
一糸纏わぬ少女がそこには居たのだった……
それからトレセンに帰るまでライスの体操服を借りる事でどうにかしたが
左腕が麻痺した状態では上手く着替える事が出来ず、ライスに手伝って貰う羽目になったのは別の話
≫47二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 23:10:26
「綺麗な月だなぁ…」
「ほほ、雲で隠れることもなくて良かったのじゃ」
…十五夜、ここ最近荒れ気味だった天候の中で、今夜は隠れることなく綺麗な月が眺められるという機会に。
招いてきたギムトレとお邪魔したサトトレは、彼女の家で縁側に座り、二人揃って夜空を眺めていた。
「しかし、思ったよりよく食べるのじゃな」
「あはは…美味しいですから、このお団子」
「それは嬉しいのじゃ、十五夜に合わせてついた甲斐もあるのじゃよ」
「え、本当ですか?凄いなぁ…」
ギムトレ手作りの月見団子を美味しいとよく食べるサトトレに、ギムトレは柔らかな笑みを浮かべる。
もちもちとしたほっぺたを見せて、肝心の目を隠しているサトトレにギムトレは質問を投げかけた。
「ところで、目を前髪で隠して困らないのじゃ?」
「んー、大丈夫かな。それに、僕の瞳は…こんな感じで、あんまり周りに見せるのもアレなんで…」
サトトレのダイヤモンドの瞳、例えばマチカネフクキタルの俗に言うしいたけ目と同じような、目立つ特徴的な瞳は周りに余り見せたがるものじゃない。ちらりと見せられたその目を眺めたギムトレは、サトトレに核心を突く一言を掛ける
「…少し不安そうじゃな。でも安心するのじゃ、ワシは綺麗じゃと思うぞ」
「ううっ…やっぱりバレる…」
少し恥ずかしそうにする彼の姿にやんわりと触れる彼女。ふと、その手にかかる力が更に抜けたのに振り向くサトトレ。
…眠そうにしたギムトレを見て、サトトレは彼女が眠気で横になる前に片付けて出ることにした。
「ギムトレさん、空の皿と湯呑は台所に持っていきますね」
「助かるのじゃ。…後はワシがやっておくから、気をつけて早く帰るのじゃよ」
「ありがとうございます。では、おやすみなさい…」
「おやすみ、じゃ」
──月光の下に栗毛を輝かせて歩くサトトレの姿は、綺麗な天使のようでもあった。それと、警官には会わずに済んだそう。
短文失礼しました
サトトレとギムトレで月見。どうやって絡ませるかネタに困ってたので丁度良かったです。のじゃロリいいよね。
一応いくつか新トレネタがない訳でもないし、或いは以前スレに出てたリキトレ纏めれるかな…?と思考してる所ですね。
≫53二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 00:10:27
弓道の日とセイトレさん達
トレセン学園の一角。
其処は周囲の喧騒から外れた静かな空気を纏う小さな弓道場。
走る事を生業とするウマ娘からすれば係わりが少ない場所ではあるが今日は3人のウマ娘が彩りを飾っていた。
「…………」
射場に立つは1人の黒鹿毛のウマ娘。
纏う着物の袖が邪魔とならぬ様左側を着崩し内に巻いたサラシを露出させたそのウマ娘は静かに遠的を狙いを定める。
2人が固唾を飲む中で黒鹿毛のウマ娘は静かに頭上まで弓と矢を掲げる。
そして次に弓を押す様に弦を開きながら目の上まで弓ごと矢を下す。
そこから更に弦を引く形で弓を引き絞り目の下辺りまで弓が来た所で動きを止め一息入れ……
パシュッ………………ドッ……
一拍の間の後に放たれた矢は弓道場の静寂な空気を貫き……
そして60m先の的へと見事突き立てられたのだった。
転「お~、お見事ですね」
造「綺麗に命中しましたね」
独「ありがとうございます~」
口々に射手を褒め称える白毛と黒鹿毛のウマ娘と褒められ嬉しそうにする射手の黒鹿毛のウマ娘。
それぞれ「転セイトレ」と「造花セイトレ」そして「独占力グラトレ」の計3人。
そんな3人が弓道場へと赴いていたのは、グラトレが弓道の日に因んで弓道なんてどうだろうと2人を誘ったから。
片脚が不安定な転セイトレさんでも主に腕を使う弓術なら問題無く出来るだろうと思い誘ったのだ。
弓道場に入るに辺り転セイトレさんが厚底ブーツを脱がないといけなくなったのは反省点である……
そうして3人共に衣装を整え準備が出来たので、2人への手本として一矢放ったのが先程の一連の流れだったのだ。
……しかし、正鵠からやや上気味だが当てれて良かった、せっかくの手本なのに外したら居た堪れなかっただろう。
2人に見栄を張って遠的なんかするから……
そんな内心はひた隠しとして、2人にも射てみないかと促す事とする。
54二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 00:10:45
独「では、お二人共射ってみませんか~」
造「う、撃てますかね……」
転「まあ、見様見真似ですかね」
そう言って少し不安そうな2人もまた射場へと立ち弓を手に持つ。
……流石に近的の方だが、私みたいに無理に見栄を張る必要も無いだろう。
転「しかし、改めて見ると大きいですね」
造「はい、アーチェリーで見るのとは全然大きさも形も違いますね」
独「そうですね~、今おニ方が持たれている和弓は通常の弓では世界でも類を見ない大きさとなっているのですよ~」
転「そうなんですか?」
独「和弓は七尺三寸……221cm程有るのですが~、英国の長弓でも180cm程なのですよ~」
造「そんなに大きいんですね」
独「ちなみにここまで大きくなった理由や独特の持ち方をする理由等はよく分かってないのですよ~」
転「ええ……」
……そうは言っても分かっていないのは仕方無い。
平安中期には生まれたと言われる和弓。
その時代に同じく生まれたとされる武士達は威力を求めたのでしょう……重装騎馬弓兵と言われる人間戦車ですし。
……話が逸れましたね。
独「ではでは、先ずは持つ所からですね~」
転「あっ、その前にすみませんちょっと準備を……」
独「はて?」
造「……えっ!? て、転セイトレさん急に着物を着崩してどうしたんですか!?」
転「いえ、さっき言った通りにグラトレさんの見様見真似をしてみようと思いまして」
独「あらあら、危ないので胸当ては外さない様にしてくださいね~」
転「分かりました~」
造(えっ……グラトレさんも止めないなら着崩した方が撃ち易いのかな?)
……当然だが射るのに邪魔でなかったら別に着崩す必要は無い。
偶にすっとぼけた事をする独グラトレと転セイトレのコンビに見事造花セイトレさんは巻き込まれてしまったのだった……
55二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 00:10:59
独「さてさて~、準備は整いましたでしょうか~」
転「俺は大丈夫ですよ」
造「私も大丈夫ですが……やっぱりちょっと恥ずかしいですね」
射場に立つ3人のウマ娘。
内2人は胸当てで胸部は隠れているが揃って着物の左を着崩し肩や脇腹を露出させている。
もしこの3人以外に人が来てしまったらその人物は性癖が粉砕されるかもしれない……そんな光景が弓道場に広がっていた。
転「それじゃあ見様見真似で一発撃ってみますね」
造「はい、頑張ってください」
セイトレさん達の先鋒は転セイトレさん。
私の真似をすると言った転セイトレさんは弓に矢を番え弦を胸元で大きく引き絞りました。
転「では」
造「最初から違いません!?」
思わずツッコミを入れてしまう造花セイトレさん。
それもその筈、手本としてグラトレが見せたのは頭上から下ろす様に弦を引くやり方。
明らかに転セイトレが行ったやり方と違ったのだ。
独「おやおや、洋弓式の引き絞り方ですね~」
造「よ、洋弓式……ですか?」
独「ええ~、力は要りますが素早く引けるやり方ですね~」
造「そ、そうなんですね」
転セイトレさんが行ったやり方はアーチェリー等で見られる弓の引き方。
西洋で扱われる弓はそこまで大きくないのでこの方法となったのだろう。
長大かつ上下で形状も違う和弓では少々扱い辛い射方だが……別に射れるのなら問題は無い。
そんな説明を受けた造花セイトレさんは、取り合えずの納得をしてくれた様だった。
……まあ、真似をすると言って全然違う引き方をされたら驚きもするだろう。
56二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 00:11:13
転「それじゃあ改めて…………えい」
パンッ…………ポテッ
転「……あれ?」
改めて弓を引き絞り狙いを定めた後に矢を放った転セイトレさん。
しかし放った矢は大きく右へと逸れ地面に落ちてしまった。
これには当たりはしないだろうと思っていた転セイトレさんも不可解な様子だ。
独「ふむ……矢が右に軌道が逸れてしまったみたいですね~」
転「どうしてですかね?」
独「それは弓の構造が関係していますね~」
造「弓のですか?」
独「ええ~、洋弓は矢が弓の真中に彫られた溝に来るのですが和弓にはそういったものが無いですからね~」
転「あ~……ちょっと矢が右を向いているんですね」
独「なので~、弓返りという手法が必要になりますね~」
造「弓返り……矢を撃った後に弓がクルンと手の甲側に回っている事ですか?」
独「ええ~、その通りですよ~」
転「……難しくないですか?」
独「こればかりは練習有るのみでして~」
弓返り……和弓において矢を射る際にそのまま射っていては弓に当たり右側へ軌道が逸れてしまう為に矢を真っ直ぐ飛ばす為には必要だ。
しかし、手の内で射る際の反作用を利用して回すと言う技法が要る為練習有るのみなのが問題である。
アーチェリーの方は溝により矢が弓の真中に来る為その様な技法は要らないのだが……強度で劣る和弓に溝を掘る程の強度は残されていないのだ。
独「上手く弓返りが出来れば矢はより威力が増しますが~、今は射って的を狙うに留めると致しましょうか~」
造「その方が良さそうですね……」
転「やっている内に上手くなるかもしれませんしね」
独「矢を番え放つまでの所作もまた弓道ですので~、そちらも練習致しましょうね~」
転「ほ、程々でお願いします」
そうして3人はそれから暫くの間弓道場に弓の音を響かせ続けているのでした。
57二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 00:11:25
それから数刻経ち……
セイ「トレーナーさーん?」
弓道場に現れたのはセイウンスカイさん。
どうやら彼女はセイトレさんを探しに弓道場まで来たようですね。
造花「スカイ? どうしたのかな?」
セイ「グラスちゃんにトレーナーさんは此処に…………っ!?」
弓道場へとやって来たスカイさんに対応したのは造花セイトレさん。
スカイさんの担当トレーナーなので当然と言えば当然ではあるのだが……
そんな声を掛けて来た造花セイトレさんに此処に来た理由を言おうとしていたスカイさんは途中で言葉を詰まらせてしまった。
先程まで弓を射っていた造花セイトレさん。
すっとぼけた二人の言葉を真面目に受けてしまった彼女は独グラトレや転セイトレと同様の恰好。
即ち胸部は胸当てで隠されているが着物の左側を着崩し肩や脇腹が露出した状態。
……更に弓を射る事に集中した事で身体が熱を持ったのか、ほんのりと肌は紅くなり汗も少々出ている。
そんな造花セイトレを目の当たりにしたスカイさんは絶大な衝撃を受けた様だったのだ。
セイ「……ちょっと」
造花「スカイ?」
セイ「ちょっとセイちゃん走ってきますね」
造花「スカイ!?」
独占「……追いかけるなら着替えてからが良いと思いますよ~」
転倒「走り辛いだろうしね」
耐えられなかったのか走って逃げだしたスカイさんを慌てて追いかけようとする造花セイトレさんを制止し着替える様に促す。
不慣れな着物姿ではきっと転んでしまう……そう思っての助言だった。
58二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 00:11:36
造花「そうですね、着替えてから追いかけます……グラトレさん今日はありがとうございました!」
そう言って造花セイトレさんは慌ただしく更衣室へと駆け込み。
そして直ぐに着替えてスカイさんを追い掛けに行ってしまいました。
そして残された独グラトレと転セイトレは
独占「……続けますでしょうか~?」
転倒「う~ん、休憩にしたいかな」
独占「それではお茶を淹れましょうか~」
転倒「お願いします」
今日はここまでとしてのんびりお茶を飲むのでした。
うまぴょいうまぴょい
≫123二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 16:06:53
「おばあちゃん、おはよう」
「おはよう、今日も元気じゃな」
「うん、若くなって元気いっぱいになったおばあちゃんにも負けてられないしね。朝ごはん持っていくから待ってて」
僕はいつものように手早く朝食を作る。最近は食べやすいような食事にしなくても自分と同じ物をまとめて作ればいいので楽になった。
おばあちゃんがウマ娘になってから一カ月。外出先から間に合わず看取る事が出来なかった僕は涙を我慢しながら自宅へ戻ると、なぜかウマ娘になっていた。それも若返って。最初は困惑したけど、何よりも大好きなおばあちゃんが生きていてくれて嬉しかった。
僕は出来た朝食を今へ運ぶ。二人で過ごすには少し広いけど、おばあちゃんがウマ娘やトレーナーを連れてくると途端に賑やかになる。
「今日の調子はどう?」
「健康そのものじゃ。迷惑を掛けなくて済むから気持ちも楽じゃ」
「迷惑だなんて思ってなかったよ。でも、元気になって気持ちは楽になったかな」
「そう言ってくれるだけでワシは嬉しいのじゃ」
おばあちゃんはウマ娘になっても変わらない笑顔。とても安心する。
「それじゃ、僕は介護の荷物まとめてくるね」
「ふふ、もうワシに介護は必要ないんじゃよ?」
「……そうだった」
ずっと介護で付き添いをしていたのでどうにも癖が抜けない。でも、元気なのはいい事だ。
「それにしても、ギリギリでトレーナーのなれて良かったのう」
「本当に。間に合わなかったらトレセンに入れなくなる所だった」
僕がトレーナーになったのは本当に最近だ。トレセンにはずっと介護の名目で出入りしていたので、間に合わなかったら入れなくなる所だった。
「でも、ワシはお前がトレーナーになってくれて嬉しいのじゃ」
小さい頃からトレーナーをしているおばあちゃんが好きだった。普段は優しく、時に厳しく。そんな姿に憧れていた。もっとも、その頃はこんなに凄い人だとは思っていなかったのだけれど。
「ありがとう。僕もまだまだおばあちゃんに教わらない事があるから頑張らないと」
そう言って自室へ戻り準備をして玄関へ向かう。
「さて、それじゃトレセンに向かうのじゃ」
「うん、行こうか」
124二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 16:07:05
いつものようにおばあちゃんの車に乗り込みトレセンへ向かう。ここしばらくは体調を崩したおばあちゃんの為に僕が運転していたけれど、最近はまたおばあちゃんが運転するようになった。この年でも元気に運転出来るのは凄い。いや、今は小さい女の子なのだけど。そんな事を考えながら車に揺られてトレセンへ向かった。
「さて、ワシは用があるから、先にトレーナー室で待っているのじゃ」
「分かった。また後でね」
僕はトレーナー室へ向かう。トレーナーになったばかりとはいえ、介護で何度も来ているので道はどこでも大抵分かる。部屋へ歩いていると、声を掛けられた。
「おっと、おはようチビ助。元気にしとるか?」
声を掛けてきたのはヘリトレさん。おばあちゃんと同じくトレーナー界の凄い人だ。そして、ウマ娘化してうちの一人でもある。
「おはようございます、ヘリトレさん。今日も元気そうで何よりです」
「はは、そんなにかしこまらなくても昔のようにおじいちゃんって呼んでもいいんじゃぞ?」
「いや、それは流石に無理です、特にトレセンでは」
確かに小さい頃は家へ来たヘリトレさんに良く遊んでもらっていたが、今そんな呼び方は出来ない。特に不特定多数の目があるトレセン内ではそんな話し方は出来ない。
「じゃあ今度家へ遊びに行った時に昔のように話してもらおうかのう」
「勘弁してください……」
困ったことにおじい……ヘリトレさんは冗談好きな所があった。これ以上ボロを出さないうちに逃げなければ。
「そろそろ失礼します。また遊びに来てください」
「ああ、近いうちに遊びに行かせてもらうとするかのう。それじゃあまた」
挨拶をしてトレーナー室へ向かう。中に入るとギムレットが待っていた。
「おはよう、ギムレット」
「おう!おはよう……サブトレ。……まだ慣れねえな、この呼び方」
「あはは、ゆっくり慣れていけばいいよ。僕もトレーナーにふさわしくなるように頑張るから」
「おう!一緒に頑張ろうぜ!」
おばあちゃんの担当ウマ娘であり、僕も一ヶ月前からサブトレーナーをしているタニノギムレット。もっとも、介護をしていた頃から知っているからそんなに短い付き合いという訳でもないのだけど。
「さて、おばあちゃんが来るまでにトレーニングの準備をしておこうか」
「あー、その前に……また柵を折っちまった……」
……また壊したのか、後で直さないと。
125二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 16:07:16
「了解。おばあちゃんには僕から言っておくから、後で一緒に直しに行こう」
「分かった!」
直す約束をして、注意もきちんとしておく。
「……あと、もうやらないように。あまり続けると僕も良い加減怒るよ?」
「……サブトレ、時々トレーナーみたいに笑ってるけど笑ってない顔するよな、流石孫だ……」
「……何か文句でも?」
「いえ!すいません!きちんと直します!」
「よろしい。それじゃ、トレーニングの準備をしようか」
きちんと怒りが伝わったようで何よりだ。
────
「んー、疲れた!それじゃトレーナー、サブトレ、お疲れ様!」
「はい、気をつけて帰りなー」
「うむ、気をつけるのじゃ」
トレーニングを終えギムレットと分かれ家へ帰った後、僕はおばあちゃんに明日のトレーニングメニューを見せる。
「明日は休みとして、週明けはこれで大丈夫かな?」
「ふむ、ここはもう少し軽めにした方が良いのじゃ。けれど、トレーニングのバランスはちょうどいい感じじゃ」
「分かった、ありがとう。それじゃ、負荷を軽くしたメニューにしておくね」
「ふふ、お前も順調に成長しているのじゃな」
「トレーナー界でも屈指のお手本が身近に居るのに成長しない方が困るよ」
「大丈夫、これは自分の努力で得た力じゃよ。自信を持って良いのじゃ」
「うん、ありがとう」
とはいえ、いくらトレーナーになったといえどまだまだひよっこ。もっと吸収していかないと。
「それじゃ、おやすみ」
「ああ、お前も早く寝るんじゃよ。おやすみ」
「うん、早く寝るよ」
実は無理をしない範囲で徹夜してるので、これは嘘である。僕は部屋へ戻った後勉強をしてから寝る。少しでも長く頑張って、いつかおばあちゃんみたいになれるように頑張らないと。
126二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 16:07:54
────
「……あれえ?」
朝起きると髪が伸び琥珀色になっていた。この色は見覚えがあるというか、毎日見ている。ついでに後ろを振り向くと尻尾も生えている。まだ鏡は見ていないけど、何が起こったのかはすぐに分かった。
「……確かにおばあちゃんみたいになりたいとは思ってたけど、こういう事じゃないんだよなあ」
とりあえずこのままではどうしようもないので、だぼだぼになってしまった服を引きずりながら居間へ向かったうと、既におばあちゃんが起きていた。
「あー……おはよう、おばあちゃん」
「あらまあ、かわいいお嬢さん、なんてね。おはよう。ウマ娘になってしまったのじゃな?」
「うん。朝起きたらこうなってた」
そう言いながら姿見へ向かって自分の姿を確認する。
「……うわあ」
髪だけではなく目の色とおばあちゃんと同じ牡丹色。身長は今のおばあちゃんより10cmくらい大きい感じだろうか。顔はどこかで見たような顔をしているが思い出せない。
「ふふ、ワシの若い頃そっくりの顔じゃ」
「あー、そうだ。昔アルバムで見たから見覚えがあったのか……」
なるほど確かに顔におばあちゃんの面影がある。でもおばあちゃんみたいになりたいってそういう意味じゃないんだよなあ、という二度目の突っ込みを入れる。
「いや、参ったな。というかトレーナーになったばっかりなのにウマ娘にしなくても……」
「一流のトレーナーとして認められたと考えるのはどうじゃ?」
「嬉しくない……あ、下着とか服とかも無いしどうしよう」
考える事が山積みで頭がパンクしそうだ。
「ふむ、とりあえずワシの服を着るといい。ついてくるのじゃ」
おばあちゃんの部屋に向かいながら疑問を口にする。
「おばあちゃん、今の身体だと多分サイズが合わないと思うんだけど……」
「まあ一緒に来なさい」
部屋に入ると押入れを開けた。
「ちょっと床の扉を開けるのを手伝っておくれ」
手を貸して床の扉を開けるといくつかの箱が出てきた。おばあちゃんはその中の一つを手にして出てくる。
「ほれ、昔着ていた服じゃ。多分サイズがぴったりじゃから着てみると良いのじゃ。」
そういって渡された服を着てみると、サイズはぴったりだった。
「ふふ、ワシの若い頃をそのまま見ているようじゃ」
確かに鏡を覗き込むと耳と尻尾以外のシルエットはそっくりだった。なんだか複雑だけど、とりあえず不自然ではない姿にはなった。
127二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 16:08:12
「うん、ぴったり。おばあちゃんありがとう」
これが一人だったらと思うと……一緒に住んでいる人が居ることに感謝する。
「とりあえず風呂に入れてやるからついて来るのじゃ」
「え、良いよ。とりあえず困らないし」
「ダメじゃ。乙女はキレイにしないと」
「えー……」
少し不服だったが、おばあちゃんが絶対に譲らない時の雰囲気を醸し出していたので諦めてお世話になる。
「それにしても見れば見るほどワシの若い頃そっくりじゃな。まるで生き写しじゃ」
「なんか、おばあちゃんと一緒って言われると嬉しいやら恥ずかしいやらだよ……」
全く、僕が風呂に入れられてるんじゃどっちが介護なんだか……風呂から出て髪の毛をきれいに乾かしてもらって鏡を見ると、さっきとは見栄えの違う美少女になっていた。
「自分を褒めているみたいになるのじゃが、とっても別嬪さんじゃな」
「これが僕か……」
この見た目ならどこに出しても恥ずかしくない程きれいだ。嬉しくないけど。
「さて、準備も出来たしトレセンへ向かうのじゃ」
「え!?行くの!?今日休みだし行かなくても……」
「何のためにきれいにしたと思っていたんじゃ?たづなさん達への報告もあるじゃろ」
「ああ、いやまあそうなんだけど……今の姿で行くのは恥ずかしいからまた今度じゃダメかな……?」
「ダメじゃ。それにいつかは行かないとダメじゃろ。さあ来るんじゃ」
「はい……」
正論を言われてしまい結局連れて行かれる事になった。その後トレセンでヘリトレさんを含めおばあちゃんの古い友人から驚かれたり、ギムレットにトレーナーが急に大きくなった!?と言われたりしたのはまた別の話。
≫139二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 17:57:53
4話 夢をのせて
……光が見える。
それはずっと追いかけてきたもの。
手を伸ばす。しかし、伸ばした俺の手は微かに震えていた。
「まだ、進むのか?」
後ろから声が聞こえた。
振り向くとそこは真っ黒な世界。
どこまでも暗闇が広がっている。
そんな中、1人の男が立っていた。
「もう、進まなくても良いんじゃないのか?」
その男は──人の頃の俺だった。
140二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 17:58:36
「それは出来ない」
「何故だ。お前には、もう何もない。今あるものは、全て人から貰ったものだ。そこにお前自身には無い。
進む為に、全て捨ててきてしまった」
「でも、まだあの光がある」
「とっくの昔に、何なのかさえ分からなくなったあの光が何になる」
「それを目標にして進む事ができる」
「いつまでも1人っきりでか?」
「今はマーチがいる」
「ずっと失敗してきた」
「だったら、それを糧にする」
「これまでもそうして来た。そして何度も失敗した」
「それでも、ほんの少しだけ前に進めた」
「……だから、進み続けると?」
「ああ、そうだ」
「……彼女が……マーチがこの先、居なくなってしまうとしてもか?」
……分かっていた事だった。
オグリが引退する。それは、オグリを追って中央に来たマーチの目標がなくなると言う事。
つまり、勝負の結果がどうあれ、マーチの中央で走る理由は無くなるという事だった。
「……勝負が終わった後の事は、確かに怖いさ」
少なくとも、マーチの走る理由は、オグリのライバルとして長くレースに立ち続ける事。なら、中央にいる意味が無くなれば、どうするかなんて考えなくてもわかる。
……もし、中央を去るのであれば、俺が支えられるのはそこまでだ。
「なら──」
「でも、俺と一緒なら分かるだろ?俺はそれでも、マーチの共に追いかけたいんだ。あの光を、夢を」
141二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 17:59:32
「…………」
「それに、俺はマーチのトレーナーだ」
「…………」
「結末が変わらなかったとしても、彼女が進み続けるのなら最後まで隣に立って支え続けるのが、俺の役目だ」
「だから、そこで見ててくれ。俺達の旅路を。その、結末を」
その言葉を聞いた男は、安心したような顔をした。
「……そうか。うん、そうだよね。それでも進むんだよね君達は。分かるよ。だって私も君と一緒だったもん」
男の声が、口調が、変わる。
「そして、君はもう大丈夫みたいだ」
そう言うと、男の身体が少しずつぼやけていく。
そして、もう一度はっきりと姿が見える頃、そこに立っていたのは……俺にそっくりなウマ娘だった。
「あんたは一体……」
「君がウマ娘になった原因、かな?まぁ、最初から力が弱かった私には、少しの手助けしか出来なかったんだけど」
「まあ、その話は置いといて、私と一つだけ約束してくれない?」
「……いいぞ」
「ありがと。それじゃ、約束。どんな結果だったとしても、後悔だけはしないで」
「…………」
「間違いなく君のこれまでに意味はあった。だって私は、何度も折れその度に諦めきれず進み続けた君だったからこそ夢をかけたんだ」
143二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 18:00:31
「だから進んで。目一杯進み続けて。君を、君達を証明して」
「……わかった」
「ありがと!私が伝えたかったのはこれだけ。
さっきは意地悪してごめんね。君の意志がどうなのか、確認しておきたかったんだ。
少しだけ、迷っていた様に見えたから。ま、杞憂だったみたいだけどね」
「それじゃ、後は君達次第。頼んだよ、フジマサマーチのトレーナーさん。
会うことはもう無いだろうけど、私は君達をずっと応援してるから!
あと最後に!私にまた、夢を見せてくれてありがとう!」
「……ん」
ふと目が覚める。夢を見て居たようだ。
何かとても大切な出来事があったような気がする。だが、あまり良く思い出せない。
顔も名前も知らない、だけど、とても身近な誰かと話して居たような、そんな気がする。
「いや、それより作戦に不備がないように詰めていかないと……?」
何かを感じる。まるで俺を後押ししてくれるような、そんな温かな感覚を。
「……よし、もう少し頑張るか」
オグリキャップとの対決は、もうすぐだ。
144二次元好きの匿名さん22/09/11(日) 18:01:38
設定 俺によく似たウマ娘
マーチトレの中に居た魂。
それはどこかの世界で、沢山の声援のために走り続け、そして最後まで叶うことのなかった夢の残滓。
それでも諦めきれなかった魂は、器になった男とその担当ウマ娘に夢を見た。
何度も挫折を味わい、それでも諦めなかった男が、走り続けた自分と似ているように見えたから。
魂は2人と共に、長く険しい道を進んでいく。時に助け、時に見守りながら。
もう二度と諦めない為に。
もう二度と後悔しない為に。
名も知らぬ魂は、夢を託した。