60 Miles an Hour 洸至編 投稿日 2010/12/10(金)
フロントの男から聞いた言葉に洸至は衝撃を受け、よろめきつつホテルを後にした。
コスプレ。
セーラー服、ナース服、ストッキングプレイ、セーラー服、ナース服、ストッキング…。
遼子がしたとおぼしきプレイが頭の中でこだまする。
悲しみで洸至の足元がふらつく。それなのに遼子のコスプレ姿が洸至の頭を占めていた。
手塩にかけて育てた、慈しみ守り育てた、あの華のように美しい遼子が鷹藤とそんなことをするようになるとは。
涙ぐみそうになった時、洸至は自分に向けられている視線を感じた。
公安ならこんなあからさまな視線は送らない。警察か。
素知らぬふりをして、よろめきながら道を歩く。
チラチラと向けられる視線は、警察官の張り付くような視線とも違う。洸至はぶらぶらと歩いて行った。
しばらく歩いたところで、その視線を感じなくなってから、洸至は視線の主を探して元の場所に戻った。
遼子のいるホテルの傍に、スモークを張ったワンボックス車―――ハイエースが停まっている。
少し離れた場所から、ニット帽をかぶった男と、スキンヘッドの男がホテルの出入り口を窺っていた。
全身黒ずくめ、いかつい背中からは暴力の匂いがした。裏社会の人間のようだ。
それが遼子のいるホテルに何の用だ…。
胸騒ぎがした。
洸至は携帯を取り出し、馴染みの情報屋に電話かけた。
「俺だ。少し教えて欲しいことがある…」
情報屋によると、シャブがらみのトラブルが起きているようだった。
そして血眼になってあるものを探しているらしい。
その為には手段を選ばない種類の人間達が群れとなり、この街を這いまわっている。
埠頭にある解体部屋―――拷問の為の部屋がフル回転だと情報屋は言った。
洸至が通話を終えると、ハイエースから、長身で細身の男が降りてきた。
3人でラブホテルの門をくぐる。
洸至の胸に滲むように厭な予感が拡がっていく。
しばらくすると、ぐったりした様子の遼子と鷹藤がスキンヘッドとニット帽の男に担がれ、ハイエースに乗せられた。
それから車が走り出した。
洸至は近くに停めていた自分の車―――ポルシェに乗り込むと、その後を追った。
眼が眩むほどまばゆい都心を抜けると、ハイエースは埠頭の倉庫街へ行く道へ入った。
ここでは街灯がまばらになり、まだ夜は夜らしく、闇の領域となる。
洸至は気付かれないように、間に車を2台挟みながら慎重に尾行していた。
車の中で始末することはないはずだ。ラブホテルから攫われた時、肩に担がれた遼子が微かに動いたのが見えた。
まだ生きている。
埠頭に着く前に、片を付ける。
だが洸至の神経が焦燥のあまり耳触りな音を立てていた。
倉庫街へ近づくと、車もまばらになり、走っているのはハイエースと洸至の乗るポルシェだけだ。
突然、ハイエースのスライドドアが開いた。
鷹藤が放り出される。アクセルを踏んで轢いてしまおうかと思ったが、瞬時に頭を切り替え急ブレーキを
踏みつつ、ハンドルを捌いて鷹藤を避ける。
洸至は車から飛び出すと、鷹藤の元へと駈けよった。
ガムテープで後ろ手に縛られ、口にもガムテープが張ってある鷹藤はまるで芋虫だ。
さっきのプレイの内容を思い出し、洸至はガムテープに手をかけると憎しみを籠めて一気にはがした。
「動けるか」
鷹藤に声をかける。
額が切れ、血がとめどなく流れているが動けるようだ。心配はないように見えた。
「俺の車に乗れ」
洸至は鷹藤の腕を取り自分の車へと促した。
「あいつが、俺の彼女が攫われたんだ…。助けないと」
彼女。違う俺の遼子だ…、という言葉が喉まで出かかるが、洸至はかろうじてこらえた。
「彼女か…。手伝おう。乗れ」
平静を装って鷹藤に声をかける。
グローブボックスからナイフを取り出すと、洸至はナイフを鷹藤の首筋に当てかけた。
洸至の脳裏に遼子の悲しげな顔が浮かぶ。
結局洸至は鷹藤を縛るガムテープを切った。
ポケットからハンカチを取り出し、額の傷にあてる。
「そこは切れただけのようだな。さあ、行くぞ鷹藤くん」
驚いた鷹藤が洸至を見た。
エンジンが唸り、洸至の車が疾走する。
倉庫街へ入る前の直線道路。
両脇にはガードレール。仕掛けるには最適の場所だ。
「まさか…。いや、やっぱり生きてたんですか。いままでどうしてたんですか」
鷹藤の問いかけを洸至は無視した。今は過去を語る時間などない。それに鷹藤に教えてやる義理もない。
「車に乗っている敵の数を教えてくれ。倉庫に入れば敵が増える。ここらへんで片をつける。
鷹藤君にも手伝ってもらうかもしれない。いいか」
額の血を洸至のハンカチで抑えながら鷹藤が肯く。
「中にいるのは運転手と、後部に3人います。全員素人じゃない。このままだとアイツが…」
そう言いながら左肩が痛むのか、鷹藤が顔をしかめた。
「わかった。だが、どうしてあんな男たちが遼子を拉致するんだ。また取材でヤバいことに首を突っ込んだのか」
「違いますよ。たまたま入ったラブホテルの部屋に、ヤバいものが隠してあってそれを取り返しに来たやつらが
いきなり部屋に入ってきて、それで」
「まったく…。事件を引き寄せる体質なのかな、遼子は。部屋で一体何をしていたんだ?君たちは」
「それより、あいつを助けないと」
「もしかしたら事件と関係しているかもしれない。教えてくれ、鷹藤くん」
関係している訳がない。ただの好奇心だった。
「いや、それはその…」
「取材で入ったのか」
「たまたまプライベートで」
「何か特別なことでもしたのか?そのせいかもしれない」
「別に…。コスプレしたくらいで…」
「コスプレ?だから遼子は看護婦の姿だったのか」
「す、すいません…それより、アイツ、まだ下着穿いてないんです。このままだとアイツあの車の中のやつらに」
「下着…」
洸至の眼の奥が赤くなる。躰中をアドレナリンが駈けめぐる。
これは怒りなのか。違う。身を焦がすような嫉妬と羨望だった。
ノーパンの遼子と看護婦プレイ…!
洸至は流れるようにシフトレバーとクラッチを操作し、アクセルを床につく程に、踏み込んだ。
「鷹藤くん、シートベルトをするんだ!」
鷹藤への嫉妬と羨望をすべて怒りへと変え、洸至はハイエースを追い詰める。
排気ガスをまき散らしながら300馬力のエンジンが咆哮する。洸至と同様に生贄を求めて猛り狂う。
洸至はポルシェの鼻づらをハイエースの右後部にめり込ませた。
激しい衝撃。
だがその衝撃を受けながら洸至は笑みを浮かべていた。
洸至は狂気に近い想いを全て暴力に変え、吐き出す快感に包まれていた。
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最終更新:2010年12月24日 00:44