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隣の女 by204さん  投稿日 2012/03/13(火)


連投失礼します。
鷹藤がいい思いをしたので、今度はお兄ちゃんに良い思いをしてもらいました。
しかもひと月遅れのバレンタインネタです。遅くてすいません。
最後の部屋の後の話です。



遼子が改札を抜けると、改札の前に洋菓子店の露天が出ていた。
明日のバレンタインデーを前に最後の売り込みをしているのだろう。
美しく包装された宝石のようなチョコレートを、何人かの客が品定めしている。
昨年までは心を浮き立たせてバレンタインの準備していた遼子だったが、その無邪気さは自分の中になくなっていた。
たった一年で遼子が失ったものはあまりにも大きい。同僚、兄、そして――。
遼子は目を伏せると、足早にその場から立ち去った。

人通りの多い商店街を抜け、5分ほど歩くと遼子は足を止めた。
遼子の目の前には結構な築年数の古ぼけた10階建てのマンションが建っている。
ドアとドアの間隔が短いところからすると、単身者向けの賃貸マンションか。
遼子が手にしている携帯電話に地図表示画面が映されていた。
その地図上では遼子の目の前のビルにピンが立っている。

これが、遼子が出した謎解きの答えだ。

―――俺が消えたあと、お前の連絡はここにするよ。
ホテルで躰を交わした後、兄が遼子に示したのは大衆紙の求人広告欄だった。
主に日雇い労働者を求める求人広告欄だ。

そこに掲載された危険物取扱有資格者の求人広告が兄からの連絡だった。
掲載日時と、3行広告のわずかな文字と電話番号が暗号。
―――それが解けたら、また会えるさ。
洸至はそう言い残して消えた。

そう、これはあの日から始まったお兄ちゃんと私の謎かけ遊び。

あの日―――兄と永倉の野望が潰えた日。
兄妹であることをやめたあの日、躰を交わしたあと洸至は遼子を手錠で戒め、部屋に置いたまま出て行った。
周到な兄らしくなく、警察が張っているであろう湾岸のアジトに向かったところ警察に捕まった。
そして兄は護送するパトカーとともに東京湾に消えた。

東京湾に消える前に洸至が残した証言から遼子がいるホテルが割り出され、警察官が踏み込んできた。
躰のところどころに精液が付き、下着姿のまま手錠をはめられベッドに横たわる遼子を見て警察官たちは息をのんだ。
警察官の手により救出された遼子は加害者家族としてではなく、野望が潰え、自暴自棄になった兄による陵辱の被害者として扱われ事情聴取された。
編集部の皆も、鷹藤も事件の後遼子のことをいたわってくれた。
アンタッチャブル編集部員にとって、肉親や同僚を殺したのが遼子の兄とわかってもそれは変わらなかった。
そう扱われながらも遼子の心は沈んでいた。

最も深いところで自分は共犯者だった。それは自分が一番わかっていた。

兄を追いつめたあの家の一員として、そして越えてはならぬ一線を越えた女として。
兄との情欲に溺れたとき、遼子の頭の中から救うべき対象であった会場の子供達も、鷹藤のことも消え去っていた。
あの日から、遼子は法では裁けない罪を背負った。

遼子も今なら洸至の思いがわかる気がした。
兄は、名無しの権兵衛事件にちりばめた謎の中に真実への道しるべを残したのだ。
遼子に裁いてもらうために。
だけど私は裁けなかった。裁くのではなく、共に闇へ墜ちていくと決めた。
私もまた、裁かれる側にまわったのだ。
そんな私を裁けるのは―――。遼子の瞳の奥には、鷹藤の姿が浮かんでいた。


兄の出した数字から導き出された座標がこのビルだとすれば、座標以外の数字が示すのは部屋番号だろう。
エレベーターから降りると、遼子は774号室の前に行きインターホンを押した。
鍵を開ける音の後に、所々錆が浮き塗装が剥げたドアが軋む音を立てて開いた。

目の前に、公的には死者として扱われている男―――鳴海洸至がいた。


「流石だよ、遼子。すぐにわかったんだな」
ソファに座った遼子に洸至がホットコーヒーを差しだした。
洸至は白いシャツと、シンプルなパンツだけのラフなビジネスマンといった格好だった。

遼子はそれとなく部屋を見回した。
部屋の中央にあるソファとコーヒーテーブルの他には、ベランダに面した掃き出し窓の脇にノートパソコンが
上に置いてある簡素なデスクセット、そして壁際に置いてあるセミダブルのベッドだけの寂しい部屋だった。
ソファ正面にある壁掛け式の40型はあろうかという液晶テレビが妙に不釣り合いで、この質素な部屋の調和を乱していた。
「お兄ちゃん、あれからずっとここにいたの?」
「まさか。あの後しばらくは、日本中を気ままに動いていたよ。警察にいた頃は仕事に追われてそれどころじゃなかったからな」
洸至が遼子の隣に座った。

兄の温もりを感じて、遼子の躰の芯が疼いた。
兄の胴を遼子の内股が挟み、奥深くへ導いた時のことを躰は思い出していた。
あれ以来洸至の体温は家族の温もりではない、欲望をかき立てる男の温もりとなっていた。
忘れるべきなのだ。
躰を重ね合わせたあの日のことは―――。
爛れた二人の関係を終わりにするために、遼子は今日ここに来たのだ。

黙り込んだ遼子のことを兄がじっと見ていた。
「どうかしたか」
口元には笑み。優しい兄の笑みのはずだが、遼子をまた罪に満ちた臥所へ誘っているようにも見えた。

「お兄ちゃん、私と会って、どうするつもりなの?」
「家族の顔を見たいと思っちゃいけないのか?」
邪気のない笑顔を洸至が向けた。
「…そう。今日ここに来たのはね、これを渡したかったからよ。妹として」

遼子が鞄からリボンのついた小さな箱を取り出した。
「バレンタインか。忘れてたよ」
「去年は…二人で鯛焼き食べたよね…」
「ああ、うまかったな」
洸至が目を落とす。
「遼子…戻りたいのか。あの頃に」

「まさか。わかってるのよ。後戻りできないところに来てることぐらい。もう兄妹でいられないことも…」
遼子はほほえんでいるように唇を形作った。
兄と罪を分け合うと決めたのだ。もう、振り向いても仕方がない。
愛する人と翳りのない思いを通わせ、喜びを分け合う未来はもうこの手から離れてしまった。

「遼子…」
兄が遼子の肩に手を回し抱き寄せる。
「だけど…。男と女でいてもいけないのよ。これ以上罪を重ねちゃいけないのよ」
洸至の腕の中で遼子が二人の間に隙間を作ろうと、洸至の胸を押した。

「俺たち罪を、誰が裁ける?裁けるものがいない罪は―――罪なんかじゃない」
遼子の痛みを分け合うように、洸至が額を合わせた。
「罪は罪よ。私の心が許さない」

「忘れろよ。罪なんて…」
ひとつに結わえられた遼子の黒髪を解き、洸至が口づけた。

何ヶ月かぶりの兄の唇が、遼子の唇をゆっくりと味わっていた。
洸至の唇がついばみながら遼子の唇の形をなぞる。
「駄目…」
そう言いながらも遼子は、兄の口づけだけで自分の茂みの奥がとろみのある蜜で満ちていくのを感じていた。
遼子の躰の熱が上がるのに呼応するように、洸至の手がスカートの下に潜り込み太股を撫でる。
膝から太股の付け根を目指し動き始めた洸至の手が、太股の中程で止まった。
「遼子…これは?」
唇を離し、洸至が遼子の顔をのぞき込んだ。
「…ただの…ストッキングよ…」
耳まで赤く染め、遼子が顔を背ける。
「ただの…ね。男と女でいられない、なんて言ってこんな下着を着けるのか?」
洸至がスカートをめくり上げる。
太股の中程まである艶のあるストッキングを留めているのは、黒のガーターベルトだ。
ストッキングの足入れ口を縁取る黒のレースが、雪のように白い肌を一層引き立てていた。

兄と躰を重ねる前には、こんなにもセクシーなランジェリーを身につけたことなどなかった。
躰を重ねたあの日、洸至が言ったのだ。
―――遼子にはもっと似合う下着があるはずだ。自分で探すと良い…。

下着売場で偶然目にして、遼子は吸い寄せられるようにこのランジェリーを手に取った。
試着したとき、遼子は男の目で鏡の中の自分を見ていた。
白く輝く肌、贅肉のないボディーラインをさらに美しく見せられるランジェリーを身につけた時、
兄だったら―――鷹藤だったら自分をどんな眼で自分を見るか、そう考えながら見ていた。
遼子は兄に抱かれ、後戻りできない泥沼にはまりこんでから、皮肉なことに女としての自分を見出した。
鷹藤の為だけの下着だったら、純粋な喜びの眼で自分を見つめられたはずだ。
この時、鏡の向こうから見つめ返した自分の顔はどこか苦しげだった。


「チョコもいいが、これこそ最高の贈り物だよ。遼子」
兄の言葉が遼子をまた悦楽に引き戻す。
「違う…違うの。ただ…素敵な下着を身につけたくて」
兄の熱い吐息が遼子の耳朶を打つ。洸至の掌が、ガーターベルトをたどりながら遼子の素肌を撫でた。
掌が内ももに滑りこんだ瞬間、待ちかねた感触に遼子は思わず太股を開いていた。

「どうした?遼子。脚なんか開いて」
遼子の耳たぶを唇に含み、洸至が意地悪く聞く。
洸至の掌はまるで羽のように、遼子の内ももを触れるか触れないかの微かさで撫で回していた。
遼子の欲望をかき立てながら、洸至はそれ以上の行為は仕掛けてこない。
先ほどの口づけでも、洸至は唇の愛撫に終始し、遼子が兄の舌を望み顎を上げると、洸至は唇を解いていた。

ささやかな口づけと、決して奥には至らない太股への愛撫にじれた遼子の腰が揺れていた。
「抱いて欲しいんだろ…。だからこんな下着で来たんだ」
洸至の指が、遼子のショーツのクロッチ部分を撫でた。
「あんっ…」
兄の指が滑ったあとはおしなべて濡れていた。
ショーツは言うまでもなく、脇から溢れた蜜がスカートの布地に到達しそうなほど溢れている。
「どこが良いんだ。はっきり言えたら、いくらでも気持ち良くしてやるよ…この間よりもっと」
洸至の低い声に、遼子の躰の芯の熱が上がる。
―――もっと…欲しい…でも。
「駄目…あんなこと…もう言えない…」
あのとき狂ったように乱れたけど、あれはあの時だけ―――。
私はそんな女じゃない…。
瞳の中に遼子の逡巡を読みとった洸至の中指が、クロッチの上から遼子の秘裂を押した。
ぐちゅっ、と音を立てて布に染み込んだ愛液が溢れる。
「この間はあんなにハッキリと言ったじゃないか」
洸至は布の上から押す指に力を込め布ごと遼子の内奥に指を入れた。

「んっ…」
「布越しじゃいやだろ?素直に言ったらどうだ」

最終更新:2012年03月29日 21:41