連投すいません。23日以降は相棒祭りwになりそうなので、今のうちに
投下しておきます。
エロなしのクリスマスイブの話です。ただし二年前の。
2008/12/24 by77さん 投稿日2010/12/21(火)
洸至はサバの味噌煮定食を食べていた。
テーブル席2つ、カウンター5席の小さな定食屋だった。客はテーブル席を占める洸至以外いない。
白い三角巾をつけた定食屋の女房が退屈そうにテレビを見ていた。
奥では亭主が仕舞支度をしているのか、せっせと調理器具を洗う音のほかは、テレビから流れる空々しい笑い
声だけが店に響いていた。テレビではお笑い芸人がサンタの衣裳を着たアイドルをからかっている。
この店の中でクリスマスらしい雰囲気を醸し出すものがあるとすれば、この画面だけだった。
だから、洸至はこの店を選んだ。
今日も終日
張り込み予定だったのだが、その人物がいきなり監視対象から外された。
片山と洸至は明日から別の人物の張り込みをすることになるが、今晩の予定がいきなり空くこととなった。
予定外だった。
その予定外の出来事に片山は喜ぶと適当な女のところへ電話をして、今晩しけ込む先を決めたようだった。
洸至にすれば仕事でクリスマスのことなど忘れて一日が終われば良かったのだが。
洸至はクリスマスがあまり好きではなかった。
親のいた頃のクリスマスにいい思い出などなかった。
そもそも親からプレゼントなどもらったこともない。遼子が御馳走を頬張る横で、ぼそぼそと飯だけ食っていた。
家族のクリスマスパーティーに顔を出すことはあっても、そこの料理に手をつけることは許されなかった。
チキンも、ケーキも眺めるだけのものだった。
遼子が成長し、洸至に対する親の仕打ちに気付きそうになるまでは、洸至がクリスマスイブに食べるものは
白米だけだった。
だからこの時期、家族連れの多いファミレスに行くのは苦痛だった。
幸せそうに笑う家族を見ていると、子供たちに御馳走を腹いっぱい食べさせている親を見ると、胸に苦いもの
が広がるからだ。あの頃抱え続けた身を焦がすような憎悪を思い出すからだ。
遼子と二人暮らしが始まって、洸至は初めてこの行事も悪くないと思った。
洸至は生まれて初めてプレゼントをもらった。妹が編んでくれた手袋だった。
右手と左手の大きさが違う手袋。不器用だが、愛情がこもっていることは確かなプレゼントだった。
遼子と行う季節行事は全て楽しかった。親がいた時には遠巻きに眺めるだけのものだった。
正月、節分、桃の節句、端午の節句、七夕、月見、クリスマス…。
貧しかったし、大したことが出来た訳ではない。
だが、ささやかに兄妹二人で行うことの、共に祝うものがいる喜びをその頃の洸至は噛みしめていた。
それはお互いに一人暮らしを始めたあとも続いていた。
クリスマスも予定が合えばふたりで少し豪華な夕食を食べに行くか、部屋で遼子の手料理を食べ、お互いに
プレゼントを贈り合った。
だが今年はそうはいかなかった。
スケジュールが合わなかったわけではない。遼子が男と過ごすらしいのだ。
洸至は箸で漬物をつかむと、口に放り込みボリボリと音を立てながら食べた。
「お兄ちゃん今年はね、彼と過ごすことになりそうなの…」
電話口で遼子がはにかむように言った。相手は遠山とかいう、国民ジャーナルの記者らしい。
その電話を洸至が受けた時、洸至の表情を傍で見ていた片山の顔が恐怖で引き攣っていた。
まったく腹立たしい。
クリスマスが嫌いになった。
遼子が他の男と過ごしているかと思うと、他のカップルすら目にするのが厭になった。
カップル全てが遼子と遠山に見えた。
だから、カップルも家族連れも絶対に来そうにないこの店で遅めの夕食を取ることにした。
洸至にとって、クリスマスのクの字もないこの空間は居心地が良かった。
飯を食い終わり、年季の入ったレジの前で会計を済ませた時、定食屋の女房が洸至に飴をひとつかみ渡した。
「クリスマスだからね」
洸至は一瞬目をしばたかせたがそれを受け取り、礼を言うとポケットに入れた。
道行くカップルを目に入れないようにして歩く。
路上でも、地下道でも、駅のホームでも、電車でも、改札でも、コンビニでも、カフェでも立ち飲み屋でさえも
その全てにカップルがいた。
その全てが幸せそうに見えた。寒風が吹きすさぶ中でも、皆暖かそうに見えた。
きっと遼子もそんな夜を過ごしているのだろう。
ひどく寂しかった。そして妬ましかった。
まるで振られた男の心境だな、と、コートの襟元を合わせ自嘲気味に笑う。
まさしく自分はそうだからだ。
家でコーヒーをいれるのも億劫で、家の手前の自販機で缶コーヒーを買った。
洸至はかじかむ指に温もりを与えるように、コートのポケットの中で缶を弄びながらアパートの階段を昇った。
洸至の部屋の前に、しゃがみこむ妹の姿があった。
寒風で冷えたはずの洸至の躰が一気に熱をもった。
妹の片手にシャンパンの瓶。そこから中身が零れて、遼子の服と廊下を濡らしていた。
「遼子?お前どうしたんだよ」
洸至が駆け寄ると、妹が顔を上げた。
廊下の白色灯に照らされた遼子の顔は赤らみ、蕩けたように見える眼もとからは涙が零れ落ちていた。
「お兄ちゃん…しろうちゃんがね、わらしと過ごす気なんかないって、ふぇっ…ふぇぇぇえええええぇんっ」
遼子の言葉が途中から大泣きに変わる。
洸至は妹の肩を抱き、背中をさすってやる。
「わかった。落ち着けって。とりあえず入れ。な?」
クリスマスも悪くない、洸至はそう思った。
洸至は部屋に遼子を上げて、今晩の出来事を聞いた。
遼子がシャンパンを持って遠山の部屋に行った時、既に女の先客がいて遼子は追い出されたらしい。
話を聞くうちに、この恋もいつもの遼子の一方通行な恋だと合点がいき、洸至は親身に話を聞くふりをしなが
ら安堵に胸を撫で下ろしていた。
ひとしきり話を聞いて、遼子が落ち付いた頃を見計らって洸至は風呂を勧めた。
遼子の洋服がシャンパンで濡れてべたついていたし、ずっと屋外で洸至を待っていたせいで躰は冷え切っていた。
それに洸至は、風呂上がりの妹の濡れた髪を見るのが好きだった。
最終更新:2010年12月24日 07:05