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首都高速を見下ろす公園の展望台に男が二人立っていた。
二人がいる公園は見晴らしはいいが、山かげになるため日あたりのわるい陰気な場所で、日中でも人影は
まばらだ。
以前は自殺の名所として有名で、いまもその名残として飛び降り防止用の金網が展望台に張りめぐらせてある。
風に乗って展望台にまで排気ガス臭気と、耳障りな走行音が漂ってきていた。

『あの女は好きでもない男と結婚する羽目になって、結婚前、部屋でよく泣いていたよ。そのくせ、今は夜
になるとその男に散々啼かされてるんだ。楽しげにね。家じゅうに響くほどの声だ。うんざりだよ。
そんな姉にも、その姉が欲しくてたまらない僕にも』
ボイスレコーダーの停止ボタンを押すと、黒いスーツ姿の男が言った。

「これはあんたの姉さんには聞かせられないな」
「いつの間に録ったんだ」
緋山が端正な顔を歪める。
「遼子の鞄に盗聴器を仕掛けておいた。大事な妹だからな」
鳴海洸至が邪気のない顔で緋山を見た。
「この続きを選挙民が聞いたらどう思うかな。もっと…もっとか。女を打たないと興奮しないタイプなのか」
「その質問に答える必要が?」
洸至が緋山を振り返り、金網にもたれかかった。

「いや。それはどうでもいい。お前は友達の記者の力も借りて、遼子が汚い手で誘惑したと吹聴している
 みたいだな。それに反論しようとした遼子の記事を親と政党から圧力をかけて握りつぶして、それで逃げ
 切れると思っていたのか。これを聞けば俺をダシにあんたが遼子を部屋に連れ込んだって子供にもわかるぞ。
 俺は妹の名誉のためにもこれを公表しようと思うが。君はどう思う?」
「それは…困る」

「じゃあ交渉成立だ。この事実を伏せる代わりに、こちらの依頼を聞いて欲しい。手始めに遼子から手を
 引いてもらおう。犯罪者の妹としてただでさえ肩身が狭い思いをしてるんだ。お前を警察に訴えても
 本気にしてもらえなかったようだしな。誤解があったとお前からマスコミに公表して手打ちしろ。
 次の依頼はそのうち伝える。もちろん、ただで聞いてくれてとは言わないさ、礼はするよ。邪魔な人間を蹴落
 とす手助けをしてやろう。それだけじゃない、好みの女も捜してやる。もちろん、遼子以外でだが」
「…犯罪者と手を組めるわけがないだろう」

「お前の言葉じゃないが、受ける受けないはお前の自由だ。受けなかったら主要週刊誌と新聞、それとネットにこれ
 を流すだけだ。そうしたら、愛する姉さんから罵られ、華麗なお前の経歴も、地位も全て消え去り残るのは汚名だけだろうな」
洸至は柔和な笑顔を見せながら言った。
それがたまらなく不気味で、緋山は背筋がざわつくのを感じていた。

「僕には選択の余地などないってことか」
「腹の中に憎悪を抱えているお前のような人間は嫌いじゃない。前のパートナーはいろいろあっていなくなって
 しまったからな。君みたいな立場の人間がいると、仕事がしやすい」
「何をする気だ」

「政治家の仕事と一緒だよ。世の中を良く作り変えるのさ」
洸至が首都高を見降ろしながら微笑んだ。
緋山は首に冷たく湿った息を吹きかけられたような気がした。

緋山が声をあげて笑った。
逃れられない泥沼の中に居る自分の状況に笑うしかなかった。
笑いすぎて涙が出た。おかしかったからじゃない。純然たる恐怖と絶望からだった。
逃れるためには、金網を突き破りここから飛び降りることしか選択肢はなさそうだった。
緋山は笑いながら泣いた。罠にはまったのが誰か、今ようやくわかった緋山の笑いは止まらなかった。
いつまでもいつまでも。
その様子を、腕組みをした洸至が檻の中の動物を観察するように楽しげに見ていた。




部屋にバーンと入って遼子を助け、ついでに相手をボコボコにしちゃうお兄ちゃんもいいんですが、
遼子を撲った議員を陰湿に追い詰めて楽しむお兄ちゃんも「名無しの権兵衛」っぽくてまたいいかな、と。
エロもなくて長くて自己満足ですいません。


200
GJ!!です。
名無しの権兵衛の本領発揮なお兄ちゃん、素敵すぎてクラクラしました。

もう本気でこれらの素晴らしいエピソードをもとに、
パート2作って欲しいっす!


ところで、遼子の鞄の盗聴器はいつから…
青姦の時は鞄は車の中?それとも…(汗
壁に耳あり、障子に目あり、鞄に兄の監視あり、鷹藤くん気をつけて!w
最終更新:2011年02月10日 19:28